(平成26年12月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、幼稚園を設置運営する学校法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の理事長兼幼稚園の園長である者に対して退職金として支払った金員について、原処分庁が、退職に当たる事実がないことから、当該金員に係る所得は給与所得(賞与)に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行ったのに対し、請求人が、当該金員は園長の退職という事実に基因して支払ったものであり、再雇用後の勤務関係は単なる従前の勤務関係の延長とみることはできないから、当該金員に係る所得は退職所得に該当するなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成25年6月28日付で、別表の「納税告知処分等」欄のとおり、平成24年5月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、上記イの各処分を不服として、平成25年8月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月11日付で、別表の「異議決定」欄のとおり、納税告知処分の一部を取り消し、また、本件賦課決定処分については棄却する異議決定をした(以下、当該異議決定により、その一部が取り消された後の納税告知処分を「本件納税告知処分」といい、本件賦課決定処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年12月9日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(下記ハにおいて「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第30条《退職所得》第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下「退職手当等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第199条《源泉徴収義務》は、居住者に対し国内において退職手当等の支払をする者は、その支払の際、その退職手当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ホ 所得税法第234条(平成23年法律第114号による改正前のもの)《当該職員の質問検査権》第1項は、税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、納税義務がある者、納税義務があると認められる者等に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。
ヘ 学校教育法第27条第1項は、幼稚園には園長を置かなければならない旨を、同条第2項は、幼稚園には副園長を置くことができる旨を、同条第4項は、園長は園務をつかさどり、所属職員を監督する旨を、それぞれ規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人の概要等
(イ) 請求人は、昭和60年4月○日に設立された学校法人であり、学校教育を行うことを目的としてM幼稚園(以下「本件幼稚園」という。)を設置している。
(ロ) 請求人の理事長兼本件幼稚園の園長であるK(以下「K園長」という。)は、昭和○年○月○日に出生し、K園長の父が開園した個人立のM幼稚園に、昭和52年4月、教職員として採用され、昭和60年4月○日に当該個人立の幼稚園が請求人の設置する本件幼稚園に変わった後も勤務を続け、平成元年4月に請求人の理事を兼務する本件幼稚園の園長に、また、平成15年4月に請求人の理事長に就いている。
(ハ) 本件幼稚園の副園長であるN(以下「N副園長」という。)は、平成元年4月に本件幼稚園の教職員として採用され、平成22年4月に主任教諭から副園長になり、同月以降同職に就いている。
(ニ) 本件幼稚園の事務長であるP(以下「P事務長」という。)は、K園長の長男であり、平成16年4月に本件幼稚園の事務職員として採用され、平成24年4月以降同職に就いている。
ロ 請求人の寄附行為等
(イ) 請求人の「○○寄附行為」(以下「本件寄附行為」という。)には、要旨次の定めがある。
A 請求人は、教育基本法及び学校教育法に従い、学校教育を行うという目的を達成するため、本件幼稚園を設置する。(第3条及び第4条)
B 請求人に、理事6人及び監事2人の役員を置く。理事のうち1人を理事長とし、理事会において選任する。(第5条)
C 理事は、1 本件幼稚園の園長、2評議員のうちから評議員会において選任した者1人、3学識経験者のうちから理事会において選任した者4人とし、上記1 及び2の理事は、園長又は評議員の職を退いたときは、理事の職を失うものとする。(第6条)
D 役員(本件幼稚園の園長である理事を除く。)の任期は4年とする。(第9条)
E 役員の報酬は、勤務実態に即して支給することとし、役員の地位にあることのみによっては、支給しない。(第12条)
F 請求人に理事をもって組織する理事会を置く。理事会は、学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する。理事会に議長を置き、理事長をもって充てる。(第13条)
G 理事長は、法令及びこの寄附行為に規定する職務を行い、請求人を代表し、その業務を総理する。(第14条)
H 議長は、理事会の開催の場所及び日時並びに議決事項及びその他の事項について、議事録を作成しなければならない。(第17条)
I 請求人の会計年度は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わるものとする。(第38条)
(ロ) 請求人の「○○教職員就業規則」(平成18年1月1日改訂版。以下「本件就業規則」という。)には、要旨次の定めがある。
A 教職員の採用、異動、解雇及びその他の人事は、理事長が行う。(第5条)
B 教職員が定年に達したときに該当する時は、退職とする。(第14条)
C 教職員の定年は60歳とし、定年に達した日の属する年度末をもって自然退職とする。ただし、定年に達した教職員であって継続勤務を希望する者は、定年退職日の翌日に再雇用し、1年ごとの雇用契約の更新により、満65歳に達する日の年度まで雇用する。(第17条)
D 教職員の勤務時間は、1か月を平均し、1週間の勤務時間を40時間とする。(第23条)
(ハ) 請求人の「○○教職員給与・退職金規程」(平成18年4月1日改訂版。以下「本件退職金支給規程」という。)には、要旨次の定めがある。
A この規程は、請求人及び本件幼稚園に勤務する教職員の給与に関する事項を定めることを目的とし、各項目の決定権限者は理事長とする。(第1条)
B 1年以上勤務した教職員が退職する場合は、S1財団(平成23年4月1日に名称をS2財団に変更している。以下「本件財団」という。)の規定に準じて退職金を支給する。(第28条)
ハ 本件財団の概要等
(イ) 本件財団は、i県内の私立学校等に勤務する教職員に対する退職金の支給に必要な資金を交付する退職資金事業などを行っている法人であり、当該事業として、学校等設置者である加入者からの負担金とi県から交付される補助金等を財源に、加入者が当該事業の対象として届け出た教職員(以下「届出教職員」という。)が退職等した場合、加入者の請求手続に基づき退職資金を加入者に交付している。
 なお、本件財団が交付する届出教職員の退職資金の額は、本件財団の退職資金事業規程に従い、本件財団が届出教職員の給与金額を基に定めた平均標準給与月額に、届出教職員として継続した期間(加入期間)に応じた所定の指数(交付指数)を乗じて得た額とされている。
(ロ) 請求人は、本件財団に対し、K園長の退職年月日を平成24年3月31日、退職事由を定年退職と記載した平成24年3月14日付「登録教職員退職届兼退職資金交付請求書」を提出し、その後、本件財団から、平成24年4月13日付「退職資金交付決定通知書」及びその別紙である「退職資金交付明細書」を受理した。
 なお、上記「退職資金交付明細書」には、K園長の退職資金に関する項目として、次の事項が記載されていた。
A 退職者氏名 K
B 届出年月日 昭和52年4月1日
C 退職年月日 平成24年3月31日
D 加入期間 35年零か月
E 平均標準給与月額 ○○○○円
F 交付指数 ○○○○
G 交付決定額 ○○○○円
(ハ) 請求人は、平成24年4月18日、本件財団から、請求人の預金口座にK園長の退職資金○○○○円と他の3名の退職資金12,089,346円(合計○○○○円)の振込みを受けた。
ニ K園長に対する金員の支払等
(イ) 請求人は、K園長に対し、要旨次のとおり記載した平成24年5月1日付「退職金支払通知書」を交付し、同日、K園長の預金口座に○○○○円の金員(以下「本件金員」という。)を振り込んだ。
A 勤務期間 昭和52年4月1日から平成24年3月31日まで
B 退職金額 ○○○○円
C 退職金支給日 平成24年5月1日
(ロ) K園長の基本給の額は、平成24年1月から同年3月までの間は月額○○○○円であったが、同年4月からは月額○○○○円となった。
(ハ) 請求人は、K園長に対し、要旨次のとおり記載した平成24年4月付「通知書」と題する書面を交付した。
A 平成24年度(請求人の会計年度である平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間をいい、以下、他の会計年度についても当該会計年度の始期を用いて同様に表記する。)の給与として、月額○○○○円(内訳:基本給○○○○円、教職手当○○○○円、主任手当○○○○円、通勤手当○○○○円)を支給すること。
B ただし、嘱託とすること。
C 週30時間勤務とすること。
 また、請求人は、K園長に対し、平成25年度の給与等に関して上記AないしCと同様の内容を記載した平成25年4月付「通知書」と題する書面を交付した。
(ニ) K園長が60歳となった年度末(平成22年3月31日)前に行われた理事会の平成22年2月28日付「理事会議事録」には、同年3月末までに退職する教職員及び同年4月1日から採用する教職員に関する決議内容の記載があるが、同議事録には、K園長の定年延長に関する記載はない。
 また、請求人が本件財団にK園長の退職資金交付請求書を提出した、平成24年3月14日の前に開催された理事会の平成24年2月26日付「理事会議事録」には、同年3月末までに退職する教職員及び同年4月1日から採用する教職員に関する決議内容の記載があるが、同議事録には、K園長の定年退職に関する記載はない。
(ホ) 請求人は、平成22年2月28日の理事会に出席していた当時の理事5名のうち平成25年6月30日現在で死亡した1名を除く4名の押印がある平成25年6月30日付「証」と題する書面を作成した。同書面には、K園長の定年延長につき、平成22年2月28日の理事会でK園長の定年を60歳から62歳まで(M幼稚園の創立40周年まで)延長する旨を審議し、承認した旨の記載がある。
(ヘ) 請求人は、平成24年2月26日の理事会に出席した理事4名を含む5名が参加する理事会を同年12月15日に開催し、K園長の定年退職に関する議事録を作成した。同議事録には、平成24年2月26日に行われた理事会でK園長から口頭で退職の意思を述べた事実があり、同理事会で異議がなかったことを確認し、理事一同が同年3月31日付でK園長の退職を認めた旨を再度確認した旨の記載がある。
(ト) 本件幼稚園の平成24年1月から同年5月までの職員出勤簿には、保育が行われる月曜日から金曜日のほぼ毎日、K園長の押印がされていた。また、請求人が平成24年5月1日現在として作成した平成24年度職員名簿には、本件幼稚園の園長としてK園長の氏名が記載されていた。
ホ 原処分庁による調査の状況等
(イ) 原処分庁所属の職員である国税調査官(以下「本件調査官」という。)は、平成24年10月29日、請求人に対する源泉所得税に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始した。そして、本件調査官及び原処分庁所属の職員である上席国税調査官(以下「本件上席調査官」という。)は、平成25年1月10日、請求人の応接室において、K園長に対し、本件金員に関する事項及びK園長の勤務状況等について質問し、その回答を録取した聴取書(以下「本件聴取書」という。)を作成した。なお、本件聴取書の末尾には、「この退職金について、退職所得と認識して支払っているのであり、税務上、給与所得であるとすれば、当初の認識が違うので退職金支払の決定を取り消し、この退職金について園に返還したいと考えています。」との記載がある。
(ロ) K園長は、平成25年1月18日、請求人の預金口座に本件金員と同額の○○○○円を入金した。
(ハ) 請求人は、平成25年3月22日、本件金員の支給がK園長に対する退職手当等の支払に該当するとして、所得税法第201条(平成24年法律第16号による改正前のもの)《徴収税額》第1項第1号の規定に基づき計算した退職手当等に係る源泉所得税の額○○○○円を納付した。
(ニ) 本件納税告知処分に係る源泉所得税の額○○○○円は、本件金員の支給をK園長に対する給与(賞与)の支払に該当するとして計算した源泉所得税の額○○○○円から、請求人が納付した上記(ハ)の源泉所得税の額○○○○円を控除した差額である。

(5) 争点

イ 本件金員に係る所得は、給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。(争点1)
ロ 仮に、本件金員に係る所得が給与所得であった場合、本件金員の支給は錯誤により無効であるとして、本件納税告知処分等が取り消されることとなるか否か。(争点2)
ハ 本件調査の調査手続に違法があったとして、本件納税告知処分等は違法となるか否か。(争点3)
ニ 本件納税告知処分等は信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反し、違法となるか否か。(争点4)

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2 主張

(1) 争点1(本件金員に係る所得は、給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。)について

イ 原処分庁
(イ) 次のA及びBの理由により、本件金員に係る所得は、退職所得に該当しない。
A K園長は、平成24年4月1日以降も本件幼稚園の園長として他の常勤職員と同様に出勤し、請求人から給与を受領していることからすれば、同日以降も請求人とK園長との勤務関係は終了していないものと認められる。したがって、本件金員は退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって給付されたものではない。
 なお、請求人は、K園長の定年を延長し、平成24年3月31日に定年退職した旨主張するが、本件就業規則には定年延長の定めはなく、同規則の変更事実も認められないこと、K園長の定年延長及び定年退職があったと主張する時期の前後に開催された理事会の議事録にはその旨の記載がないことなどから、請求人の主張する事実は認められない。
B 次の(A)及び(B)のことから、本件金員を退職により一時に受ける給与と同一に取り扱うことは相当でない。
(A) 本件幼稚園の園長は、本件寄附行為の定めからすると、園長職に就いている限り、必然的に理事に就任するものと認められるので、その職責として理事に就任するものといえる。そして、園長が理事であることを前提とする理事長に就任している場合は、当該園長が行う業務に理事長の業務が含まれると認められる。
 そうすると、K園長が平成24年4月1日以降においても理事会の議長理事を務め、請求人の経営に係る重要な事項を決議するなどの理事長の業務を行っているという事実は、園長が行う業務を同日以降も引き続き行っていることを意味するものにほかならない。また、K園長がP事務長及びN副園長に「引き継いだ」なる行為は、事務を代行させ(手伝わせ)たにすぎず、その後もP事務長やN副園長に対して指示、指導等を行うなど園長としての業務を行っていたと認められることから、K園長の勤務関係の性質及び内容について、平成24年4月1日以降、重大な変動があったと評価することはできない。
(B) 平成24年4月1日以降、請求人がK園長に対し、毎月残業見込み分として教職手当を支給していることは、K園長の勤務時間が週30時間を超えていたと推認されること、また、同日以降、K園長の基本給等は3分の2程度に減額されているが、減額された割合や金額は重大な変動であると認められるほどのものではないことから、K園長の労働条件に重大な変動があったとは認められない。
(ロ) 本件金員は、K園長の勤務実態に即して請求人からK園長へ支払われたものであり、その支払が毎月定額のものではないことから、所得税法第28条第1項に規定する賞与に該当する。
 したがって、本件金員に係る所得は、給与所得になる。
ロ 請求人
(イ) 次のA及びBの理由により、本件金員に係る所得は、退職所得に該当する。
A K園長は、本件就業規則によれば、60歳に達した平成22年3月31日をもって本件幼稚園の園長を定年退職することになるところ、平成22年2月28日の理事会でK園長の2年間の定年延長が承認されたため、平成24年3月31日に本件幼稚園の園長を定年退職した。したがって、本件金員は退職という事実によって給付されたものである。
 なお、本件就業規則には、定年に達した教職員で継続勤務を希望する者は65歳まで再雇用として勤務することができることとなっており、平成24年4月1日以降は、後任の園長の適任者が不在であったため、やむを得ず、K園長を再雇用し、園長職を継続させることになったものである。
B 次の(A)及び(B)のことから、実質的に単なる従前の勤務関係の延長とみることはできず、本件金員は退職により一時に受ける給与と同一に取り扱うことが相当である。
(A) 園長は、園児募集の計画等の幼稚園の運営に関する事項の検討、保育カリキュラムの立案及び実施、保護者の各種要望等への対応、近隣住民への配慮、地域の小学校や他の幼稚園との情報交換等といった教育的業務を行う立場である。K園長は、平成24年4月1日以降、常勤の園長から非常勤の嘱託園長となったため、これら園長として行うべき業務の大部分を副園長に委ねて、自身はサポート役に徹することとなった。したがって、平成24年4月1日以降、K園長の勤務関係の性質及び内容には、重大な変動があった。
 なお、請求人は、役員である理事長に対して退職金を支給しないこととなっており、K園長が本件幼稚園の園長を退職したことにより本件金員を支給したものであることから、その所得区分を判断するに当たっては、園長としてのK園長の職務を評価して判断すべきであって、理事長としての業務を評価の対象とすべきでない。
(B) K園長は、平成24年3月31日に定年退職した後、本件就業規則に基づき、請求人との間で再度雇用契約を締結し、当該契約により常勤の園長から非常勤の園長へとその雇用形態が変わったほか、勤務時間は週40時間から週30時間に、基本給は○○○○円から○○○○円となっているから、平成24年4月1日以降、K園長の労働条件に重大な変動があった。
(ロ) 本件金員は、教職員であるK園長の退職金の資金に充てる目的で35年間にわたって積み立てられ、退職金として交付された金員である。これを事後に賞与として課税するというのは、あまりに現実の事実関係から懸け離れた認定である。

(2) 争点2(仮に、本件金員に係る所得が給与所得であった場合、本件金員の支給は錯誤により無効であるとして、本件納税告知処分等が取り消されることとなるか否か。)について

イ 請求人
 仮に、本件金員に係る所得が給与所得であった場合、請求人は、給与所得となるものを退職所得と認識して、K園長に本件金員を支給したのであるから、この支給は錯誤により無効となる。そして、請求人は、K園長に対し、本件金員の返還を求めるべきところ、K園長から既に本件金員の返還を受けているので、この支給は遡及して無かったことになる。
 したがって、本件納税告知処分等は違法であり、取り消されるべきである。
ロ 原処分庁
 本件金員の支給は、請求人がK園長に支給するという認識の下に行われているものであることは明らかであり、当該支給に錯誤があったとは認められない。
 なお、請求人は、K園長から本件金員の返還を受けたと主張するが、請求人が平成24年5月1日にK園長に対して本件金員を支給したという事実は変わらず、K園長が本件金員を受領後、その処分として請求人に返還したにすぎないのであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件調査の調査手続に違法があったとして、本件納税告知処分等は違法となるか否か。)について

イ 請求人
 本件調査は、本件金員に係る所得が退職所得に当たるか否かだけを判断するものであったにもかかわらず、平成24年10月29日から平成25年6月18日まで極めて長期間に及んでいる。
 また、本件調査において、本件上席調査官は、本件金員を賞与として源泉所得税の課税処分を受けたとしても、K園長が請求人に本件金員を返還し、K園長の所得税の確定申告において当該返還した旨を申告することによって、事実上、当該課税処分に係る税額が全額還付されるかのような指導をした上で、K園長に本件聴取書への署名押印をさせている。さらに、本件金員が給与(賞与)であるとすれば、K園長の退職金の決定を取り消したいということについて、原処分庁が明確に回答していないのは不作為に当たる。
 以上のとおり、本件調査の調査手続には違法があることから、本件納税告知処分等は違法である。
ロ 原処分庁
 税務調査については、調査手続が刑罰法令に触れ、あるいは公序良俗に反し、又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法性を帯び、何らの調査なしに処分をしたに等しいものと評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解されているところ、本件調査が9か月間にわたるものであったとしても、そのことのみをもって上記の評価を受けるものではない。
 また、本件調査の調査手続において、請求人が主張するような指導が行われた事実は確認できないから、本件調査の調査手続に本件納税告知処分等が取り消されるべき瑕疵は認められない。
 したがって、本件調査の調査手続に違法はない。

(4) 争点4(本件納税告知処分等は信義則に反し、違法となるか否か。)について

イ 請求人
 本件納税告知処分等は、1 上記(3)のイのとおり、本件上席調査官の指導は公的見解の表示に当たること、2請求人は、上記公的見解を信頼して、K園長から本件金員の返還を受けたこと、3その後、上記表示に反する本件納税告知処分等がなされたこと、4そのために請求人は納付すべき税額が増大し、経済的不利益を受けたこと、5請求人は、本件調査官の上司である本件上席調査官の指導なので信頼したものであり、上記表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて請求人の責めに帰すべき事由はないことから、信義則に反し、違法である。
ロ 原処分庁
 本件調査において、本件上席調査官が請求人の主張するような指導をした事実は認められないから、請求人の信義則に反して違法である旨の主張はその前提を欠くものであり、理由がない。

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3 判断

(1) 争点1(本件金員に係る所得は、給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。)について

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第30条第1項が、退職所得を「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得をいうものとし、これにつき所得税の課税上、他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは、一般に、退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報償及びその期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持つとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであって、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ、社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、このような結果を避ける趣旨に出たものと解されるのであって、従業員の退職に際し退職手当又は退職金その他種々の名称で支給される金員が、所得税法にいう退職所得に当たるかどうかについては、その名称に関わりなく、退職所得の意義について規定した同項の規定の文理及び退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。
(ロ) このような観点から、ある金員が、所得税法第30条第1項にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、1 退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であり、また、同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、それが、形式的には上記1 ないし3の各要件の全てを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、上記「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきであり、具体的には、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要する。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) K園長の定年退職について
A K園長の答述
 K園長は、当審判所に対し、平成26年4月25日に、定年退職に関して要旨次のとおり答述した。
(A) 本件幼稚園の教職員は、60歳で定年退職している。私自身も、60歳の誕生日(平成○年○月○日)には、当然、年度末である翌年3月末で定年退職するべきだと思っていた。
(B) 定年退職を前提に、平成22年3月の少し前頃から、当時主任教諭であったN副園長に園長を引き継いでほしい旨頼んだが、引き受けてくれなかった。
(C) 平成22年2月28日の理事会において、同年3月末の私の定年退職の話をしたところ、他の理事から、平成○年○月予定のM幼稚園40周年記念式典の前に園長が変わるのもどうかとの意見が出され、慰留された。私としても、当該式典を迎える状況で、後任の園長の引き受けもないまま退職したいという要望を押し通すこともできず、やむを得ず、平成22年3月末での定年退職は断念した。2年間の定年延長については、手続的には正式に議題に上げて議決したという形になっていないかもしれないが、この理事会の場で報告し、慰留されて、当面、定年退職を引き延ばしたことは間違いない。
(D) 平成22年2月28日の理事会議事録に記載がないのは、理事会の議事は定型的なもので、事実上、g市等へ報告が必要な事項のみを議事録に記録することが通例となっていたためであり、平成25年6月30日付「証」と題する書面は、税務調査で指摘を受けた後に、平成22年2月28日の理事会の状況を当時出席していた理事に確認して作成したものである。
(E) 平成22年3月末での定年退職は断念したが、当時主任教諭であったN副園長には、いずれは後任の園長になってもらうつもりで、平成22年4月から新しく設置した副園長の役職に就いてもらった。
(F) 平成○年○月にM幼稚園40周年記念式典が終了し、平成24年2月26日の理事会で、私の平成24年3月末における園長の退職について報告したところ、今回は各理事からも異論はなく認められた。
 この理事会の議事録には、平成22年2月28日の理事会議事録のときと同様に、私の退職について記載されていないが、やむを得ず、税務調査で指摘を受けた後の平成24年12月15日の理事会において、平成24年2月26日の理事会で話し合われた内容を各理事に確認して議事録に残した。
(G) 平成24年2月26日の理事会の少し前から、N副園長に対し、後任の園長を引き受けてくれないかと何度となく頼んだが、N副園長は以前と同様に園長を引き受けてくれなかった。同年2月頃から3月22日まで頼んだが、無理だったので、N副園長の役職は副園長としたまま、実質的には園長の仕事をしてもらうことをお願いし、了解してもらった。私は、平成24年3月31日をもって定年退職した上で、園長の役職に再雇用という形で就くこととなった。
(H) 一旦定年退職する以上、給料を下げる等、定年退職後に再雇用された他の教職員と同じ扱いになるようにして、けじめをつけた。その上で本件財団に対する退職資金交付請求等の定年退職に伴う事務手続をした。
B N副園長の答述
 N副園長は、当審判所に対し、平成26年10月10日に、K園長の定年退職の経緯に関して、要旨次のとおり答述した。
(A) 平成22年2月か3月頃、K園長から後任の園長になってほしいと言われたが、他の教諭の指導と園児の指導で精一杯で、園の顔として表に出る重責は務まらないと思い、お断りした。
(B) 私は、主任教諭となった平成20年4月以降、事務方として理事会に出席していたので、平成22年2月の理事会において、K園長から定年退職したいという話が出て、周りの理事から慰留されたことは覚えている。
(C) K園長は、平成22年3月には定年退職せず、引き続き園長を続けることになり、私は、K園長から言われて同年4月に副園長に就任した。
(D) 私が事務方として出席していた平成24年2月の理事会で、K園長の定年退職するとの発言には、今回は特に異論が出ず、認められた。
(E) 上記(D)の理事会の頃から3月にかけて、K園長から何度となく後任の園長になってほしいと頼まれたが、平成22年のときと同様に、園の顔としての役割は荷が重いのでお断りした。その後、K園長から「それなら、副園長のままでいいから、園全体をしっかり見て、園長に代われるところは代わってほしい。」と頼まれ、肩書は副園長のままで、退職するK園長に代わり、教務の責任者となることを引き受けることとなった。
C M幼稚園40周年記念式典の開催
 請求人は、平成○年○月○日、M幼稚園40周年記念式典を行った。
D K園長のスケジュール帳の記載状況
 K園長の平成23年度のスケジュール帳である「2011 M Diary」(以下「K園長スケジュール帳」という。)には、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間のK園長自身及び本件幼稚園のスケジュールのほか、その日の天候を含め日々の保育や運営において生じた様々な出来事や問題点、会議や講演等に参加して得た情報等が具体的かつ詳細に記載されており、当時の様子をつぶさに書き留めていたことがうかがえ、信ぴょう性があると認められるところ、平成24年3月22日の欄には、「6:30担任決め(N)」の記載とともに、その右側余白欄に「N先生に園長になってもらいたい旨相談 個人的にも色々あるのでやはり無理とのこと…… 先生たちの指導や幼保小の会議など実質的には園長のかわりをしても 名前は副園長のままとすることになった。」と記載されており、このような記載状況を踏まえれば、当該記載内容も信ぴょう性が高いと認められ、K園長がN副園長に対して、園長就任を要請したものの、断られていたことが認められる。
E 退職資金の積立状況等
 請求人(請求人が設立される前の個人立のM幼稚園も含む。)は、本件財団が実施する退職資金事業に加入し、K園長が教職員として採用された昭和52年4月から平成24年3月までの35年間にわたり、K園長の退職資金に係る負担金を本件財団に納入していたが、同年4月以降は、当該負担金を納入していない。
 また、請求人は、平成18年4月1日以後に採用した教職員については、本件財団に届出教職員として届出せず、請求人の会計において、当該教職員の退職資金を退職給与引当金勘定に繰り入れているが、請求人は、K園長を平成24年4月採用として当該退職給与引当金勘定の引当対象者にしていない。
F 再雇用された教職員の勤務関係
 請求人は、平成24年3月31日以前に定年に達した教職員で、同日時点で本件就業規則第17条に基づき再雇用されていたQ及びR(以下、QとRを併せて「Qら」という。)に対し、上記1の(4)のニの(ハ)と同様、1年ごとに雇用条件を記載した「通知書」を交付していた。
 なお、Qらの退職前の給与の支給状況と再雇用後の嘱託による基本給の額及び勤務時間の状況は、次表のとおりであった。

氏名

基本給の額

勤務時間

退職前

再雇用後

減額割合

退職前

再雇用後

減少割合

Q

○○○○円

○○○○円

約38%

40時間

30時間

25%

R

○○○○円

○○○○円

約37%

40時間

30時間

25%

G K園長の定年延長、退職及び再雇用について
 K園長の定年退職について、上記A及びBの各答述によれば、K園長は、平成22年3月末の定年が2年間延長され、平成24年3月末に教職員を退職し、平成24年4月1日以降は再雇用されて園長の職に就いていることとなる。このことは、上記1の(4)のニの(ニ)のとおり、平成22年3月の退職者に関する決議が行われた平成22年2月28日の理事会及び平成24年3月の退職者に関する決議が行われた平成24年2月26日の理事会の各議事録には、K園長の定年延長、退職及び再雇用に関する事項の記載がなく、これらの各議事録からは当該各答述の内容を裏付けることができない。
 しかしながら、上記1の(4)のロの(ロ)のCの本件就業規則によれば、教職員は定年(60歳)に達した日の属する年度末をもって自然退職する旨定められていることから、K園長においても定年に達した日の属する年度末(平成22年3月末)で定年退職となるところ、上記Aの(C)の答述にある、平成○年○月にM幼稚園40周年記念式典が予定されていたこと、後任の園長が決まっていない状況にあって、理事会において、各理事から定年退職を慰留されたことなどの理由から、引き続き理事長及び園長の職務に従事していたとしても不自然とはいえない。
 そして、上記AのK園長の定年延長及び退職に至る経緯並びにN副園長への後任の園長への打診に関する答述は、上記BのN副園長の答述と相互に一致していることに加え、上記Cのとおり、平成○年○月○日にM幼稚園40周年記念式典が行われていたこと、上記Dのとおり、K園長がN副園長に対する園長就任の要請を断念した事実が認められること、上記Eのとおり、請求人が本件財団に平成24年3月まで継続して負担金を納入し、上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、平成22年3月31日ではなく、平成24年3月31日をK園長の退職日として退職資金の交付請求を行っていたこと、同(4)のニの(ハ)のとおり、請求人がK園長に対して平成24年度及び平成25年度の雇用条件を通知していたこと、K園長の基本給の額及び勤務時間は、上記Fの再雇用されたQらと同様に変更されていることの各事実とも符合しており、また、本件調査の開始日以後ではあるが、上記1の(4)のニの(ホ)及び(ヘ)のとおり、K園長の定年延長及び退職が審議されたとする理事会の出席者によって作成された平成25年6月30日付「証」と題する書面及び平成24年12月15日の理事会の議事録の内容とも合致している。さらに、当審判所の調査の結果によっても、上記A及びBの各答述に反する証拠はないことから、当該各答述のとおり、K園長の平成22年3月末の定年が2年間延長され、その後、平成24年3月末に教職員としての退職が承認され、同年4月1日以降は再雇用の嘱託職員として園長の職に就いていたものと認められる。
(ロ) 園長としてのK園長の職務について
A K園長の答述
 K園長は、当審判所に対し、平成26年4月25日に、平成24年3月31日前後における園長としての職務について、要旨次のとおり答述した。
(A) 平成26年4月25日現在の本件幼稚園の園児数(未就園児数を含む。)は約400名であり、本件幼稚園の教職員数は、教諭が約30名、その他バスの運転手や事務職員等を含めると約50名である。
(B) 園長とは教務の責任者であり、主な職務は園児に対する保育内容の決定と教諭に対する保育指導である。具体的には、次のaないしfの職務であり、これらの職務は、次のとおり、平成24年3月以前は私がいずれも行っていたが、平成24年4月以降はN副園長に引き継いだ。
a 日々の保育計画の決定
 平成24年3月以前は、私が、月に1度行われる定例の職員会議において、各教諭と話し合いながら日々の保育計画の内容を決定し、それを踏まえて各学年主任の教諭が、プールや外部講師の授業等の学年内でのクラスごとの時間割や通常カリキュラムで各担任教諭がどのような保育を行うのか等を整理した「保育月案」(保育月案と題する書面をいい、年長組、年中組、年少組それぞれ一月の保育計画が記載されているもの。以下「保育月案」という。)を作成するので、その内容を確認し、承認の押印をしていた。また、カリキュラムに必要な教材の購入要望の判断も行っていた。
 平成24年4月以降は、保育計画の決定、保育月案の承認及び教材購入の判断をN副園長に引き継いだ。N副園長は事前にプールや外部講師の各学年への割り振りまで決めた指導日程表という書面を作成し、職員会議において配付しているが、私の場合は書面を作らず、職員会議の場で決定していた。
b 行事計画の決定
 行事計画の決定についても、私は職員会議の場で決定していた。そして、行事における各教諭の役割分担や段取り等の詳細を、直前に各教諭と打ち合わせながら指示を出し、その内容を備忘のためノートにメモしていた。
 平成24年4月以降は、行事計画の決定もN副園長に引き継いだ。N副園長は、事前に行事の段取りや各教諭の役割分担などをノートに整理しておいた上で、各教諭に指示を出しているようである。
c 教諭に対する指示や指導
 園長の職務で最も大事なのは、教諭に対する園児教育の指示や指導、すなわち、日々のクラスの状況を把握した上で、教諭に対して園児の保育について指示や指導をすることだと考えている。平成24年3月以前は、私が、朝礼や終礼で各教諭からの報告を受け、必要な指示をするほか、各教諭からの相談対応や各教室を巡回してクラスの様子を把握し、日々の出来事に応じた指示や指導を行っていた。このような指示や指導は、口頭で行うものであり、書面には残らないものだが、園長として一番重要な仕事である。
 平成24年4月以降は、これらの指示や指導は、いずれもN副園長に引き継いだ。N副園長も書面に残していないと思われる。また、担任教諭が作成する指導要録の作成指導及び内容の確認も、私はN副園長に引き継いだ。
d 園児の父兄に対する対応
 私は、父兄からの要望等に対応できるよう、担任教諭が家庭訪問等で把握した父兄からの要望等の報告を受け、その内容をノートに記録していた。また、本件幼稚園が父兄に向けて発行している「園だより」(本件幼稚園が毎月発行しているもの。以下「園だより」という。)の監修も園長の職務であり、父兄に伝える内容を検討し、承認の押印をしていた。
 平成24年4月以降は、園だよりの監修はN副園長に引き継いだので、園だよりの承認の押印もN副園長が行うようになった。ただし、園だより1ページ目の挨拶文については、園の顔である私が引き続き作成している。そのほか、病気等の園児のお見舞いも、平成24年3月以前は私が行っていたが、平成24年4月以降はN副園長に行ってもらっている。
e 教諭の研修の決定
 夏季に行われる研修の教諭への割り振りは、各教諭の要望を聞いた上で、教諭の能力や必要性を考慮して決定している。平成24年3月以前は、N副園長が各教諭の要望を反映した研修会の一覧表(「夏の研修会一覧」と題する書面をいい、他者主催の研修リストが掲載されたものをいう。)の原案を作成し、それに事務職員が金額欄を付け加えたものを、私が内容を確認して承認していた。また、音楽、英語等の外部講師には、園児への教育だけではなく教諭への研修をお願いすることもあり、このような研修実施の決定も私が行っていた。
 平成24年4月以降は、上記研修会の一覧表の承認及び外部講師による研修の決定もN副園長に引き継いだ。
f 各種会議への出席
 i県やg市等が主催する各種会議への出席も園長の職務の一つであり、平成24年3月以前は私が出席していた。
 平成24年4月以降は、N副園長が出席している。N副園長は出席した会議の報告書を作成しているようだが、私は、各教諭に伝達すべき事項を朝礼や終礼、職員会議の場等において口頭で伝えていた。
(C) 平成24年4月以降は、園長が行う教務の責任者としての職務のほとんどをN副園長に引き継いだので仕事量は減少した。
 同月以降の私の主な仕事は、入園式等の行事の際の園長としての挨拶、園だよりの挨拶文の作成及びN副園長が多忙なときの教諭に対する指示や指導の補助等である。特にN副園長を補助する必要がないときは、犬を連れて園内を回り、園児に触れさせたりしている。また、人手が必要なときにN副園長の指示で、送迎バスの補助や園児のお迎えの対応等の役割に配置されていることもある。何もすることがないときは、自宅が近いので帰宅することもある一方、預かりの園児への対応など人手が必要なときには遅くまで園に残ることもある。このような状況なので、私の平成24年4月以降の勤務時間は週30時間と決められてはいるものの、これは目安のようなもので、実際に園にいる時間は一定ではない。
B N副園長の答述
 N副園長は、当審判所に対し、平成26年10月10日に、平成24年4月以降K園長から引き継いだという仕事等について、要旨次のとおり答述した。
(A) 平成24年4月以降、K園長から引き継いだのは教務の責任者としての仕事、園児教育に関わる仕事全般であり、具体的には、次のaないしfの職務である。
a 日々の保育計画の決定
 平成24年4月以降は、プールや外部講師の授業の割り振りを決めて各教諭に伝達し、それを踏まえて学年主任が作成する保育月案の内容を確認、承認するのは私の仕事である。具体的には、学年ごとの割り振りを記載した指導日程表を作成し、月に一度の職員会議で各教諭に配付する。各学年主任の教諭は、当該指導日程表を踏まえて保育月案を作成するので、私はその内容を確認し、手直しが必要な場合は手直しをした上で、保育月案の内容を承認して押印する。また、担任教諭が使用したい教材がある場合のその教材の購入判断も私が行っている。
b 行事計画の決定
 平成24年4月以降は、進級式や入園式等の行事の計画を立てるのも私の仕事である。具体的には、私が、各種行事のタイムスケジュールや各教諭の役割分担を決定し、職員会議で各教諭に指示、伝達している。私は、行事がある都度、ノートに行事計画を立てた上で、各教諭にこのノートを見ながら説明し、コピーを配付してそれぞれの役割を指示している。K園長にも、私が割り振った役割に従って、園児の送迎バスの補助等に入ってもらっている。
c 教諭に対する指示や指導
 平成24年4月以降は、教諭に対する園児教育の指示や指導も私が行っている。これらの指示や指導は、主に、朝礼や終礼、職員会議の場等において口頭で行っているものであり、例えば、朝礼時に休みの教諭がいればその旨を伝えて、替わりの担任を持たないフリーの教諭を配置したり、その日の天候に応じて注意事項を指示したりしている。また、終礼時には各クラスの担任教諭からその日の出来事の報告を受けて、必要に応じて指示を出している。例えば、担任教諭が園児のけがについて報告し、私がその対応を指示する、といったことである。幼稚園の仕事は、園児が登園している間に色々な出来事が起こり、すぐに対応しないといけないので、日々の出来事の報告、それに対する指示は全て口頭で行われ、書面では残していない。フリーの教諭の配置や担任教諭が作成した指導要録の内容確認及び手直しの指示等も私が行っている。
d 園児の父兄に対する対応
 父兄からの要望やクレームの対応は、基本的に担任教諭が行うが、担任教諭だけの対応では収まらない場合などに対応するのも、平成24年4月以降は、私の仕事となった。担任教諭が家庭訪問で父兄の要望を聴き取った内容を、当該担任教諭から報告を受け、ノートに記載している。また、園児のけがや病気の場合のお見舞い及び園だよりの監修も、平成24年4月以降は私が行っている。なお、園だよりの挨拶文は、引き続き園の顔であるK園長が作成している。
e 教諭の研修の決定
 教諭の研修の決定も、平成24年4月以降は、私が行っている。本件幼稚園では、夏季の各種研修に教諭を受講させているが、各教諭の受講希望の申出を基に、例えば、新人の教諭には特定の研修を勧めるなどして、各教諭が受講する研修を決定し、私が承認したという意味で「夏の研修会一覧」に押印している。また、本件幼稚園では、当該研修以外にも、外部講師による教諭への研修も実施しているが、その決定も私が行うようになった。
f 各種会議への出席
 i県やg市等が主催する各種会議は、通常は園長が出席するものだが、平成24年4月以降は、私がK園長に代わって出席している。私は、会議に出席した場合は報告文書を作成しているほか、教諭に伝達すべき事項があれば、朝礼や職員会議等で口頭伝達している。
(B) そのほか、悪天候などにより通常の園務が行えないようなアクシデントが発生した場合の判断も、K園長やP事務長と相談しながらではあるが、私が行っている。例えば、今年は、2度大雪が降ったが、1度目の大雪は土曜日で、園児の作品を展示する作品展が予定されていたところ、その日1日限りの予定だった作品展を、2日間に分けて行うことにして対応することとし、1日目と2日目の教諭の割り振りも私が決めた。2度目の大雪は未就園児の1日入園が予定されていたため、翌週に順延した。
 このように、平成24年4月以降引き受けた仕事は、私が教務の責任者となったので、改めてK園長に判断を求めることになっていない。K園長は、私の補助をする必要がないときには早く帰宅したり、自宅が近いことから、犬を連れて園内を回り、園児に触れさせたりしている。
C 保育月案、園だより及び「夏の研修会一覧」と題する書面の状況
 請求人が当審判所に提出した保育月案、園だより及び「夏の研修会一覧」と題する書面によれば、平成23年度の内容を記した書面は、いずれも各書面上部に「K」の印鑑が、一方、平成24年度の内容を記した書面は、従前「K」の印鑑が押印されていた箇所に、「N」の印鑑が押印されている。また、「N」の印鑑が押印されたものに「K」の印鑑が押印されていないことからすると、「N」の印鑑が押印された各書面の内容を基に、その後の園務等が行われたものと推認できることから、平成24年度の内容を記した書面の最終決定者は、平成24年4月以降、K園長からN副園長に引き継がれたものと認められる。
D K園長及びN副園長が各自使用していたノートの記載状況
 平成23年度にK園長が使用していたノートには、平成23年4月8日に行われた進級式の打合せ、入園式等のタイムスケジュールや役割分担などの事項が詳細に記載されているほか、担任教諭が家庭訪問で園児の父兄から聴き取ったと認められる内容が記載されている。
 また、平成24年度にN副園長が使用していたノートには、平成24年4月9日に行われた進級式の打合せや各種行事の内容が、上記K園長が使用していたノートと同様、詳細に記載されており、K園長も各教諭とともに役割が割り振られていたことが認められる。そして「家庭訪問の反省」と記載されたページには、担任教諭が園児の父兄から聴き取ったと認められる各園児の内容が詳細に記載されている。これらのことから、各種行事における教職員の役割指示や父兄からの要望等の把握は、平成24年4月以降、K園長からN副園長に引き継がれたものと認められる。
E 各種会議の出席状況
 請求人が当審判所に提出した○○宛の平成24年度の特別支援教育連絡協議会(第1回)の会議の参加票、その他N副園長が作成した数種の会議の会議報告書によれば、平成24年4月以降、N副園長が数種の会議に参加していたことが認められるところ、K園長スケジュール帳をみると、N副園長が参加した当該連絡協議会には、平成24年3月以前(平成23年5月6日)にK園長が出席していたことが認められる。
F K園長の住所
K園長は、本件幼稚園の所在地と同じg市h町○丁目に居住している。
G 園長としてのK園長の職務とN副園長への職務の引継ぎについて
 園長としてのK園長の職務について、上記Aの(B)のK園長の答述は、それぞれの職務の内容及びN副園長に引き継いだ状況を詳細かつ具体的になされており、上記BのN副園長の答述と相互に一致していることに加え、上記CないしFのとおり、K園長が行っていた各職務をN副園長が行っていることなどの各事実とも符合しており、不自然な点は認められない。また、平成24年4月以降、K園長が早く帰ることもあること等の上記Aの(C)の答述は、K園長の職務が軽減されたことをうかがわせるものといえる。そのほか、当審判所の調査の結果によっても、上記A及びBの各答述に反する証拠はないことから、当該各答述のとおり、園長としてのK園長の職務のほとんどが平成24年4月以降、N副園長へ引き継がれたものと認められる。
(ハ) 理事長としてのK園長の職務について
A K園長の答述
 K園長は、当審判所に対し、平成26年4月25日に、平成24年3月31日前後における理事長としての職務について、要旨次のとおり答述した。
(A) 理事長の仕事は、学校法人を運営し、事務の仕事を統括することである。具体的には、年に数回開催される理事会を主催し、議長を務めることのほか、i県やg市等への報告文書の作成や、保育料の管理などである。
(B) 私が理事長となった平成15年当時は、事務の仕事も自分で全て行っていたが、平成16年以降は、事務職員として入社したP事務長に徐々に仕事を引き継いでいき、平成24年3月頃には、ほとんどの事務の仕事を任せた状態だった。平成24年4月に、P事務長が事務長に就任してからは、名実ともに事務の仕事の全てをP事務長に引き継いだ。
(C) 平成24年3月頃、私が理事長として実際に行っていた仕事は、本件幼稚園の園長として当時行っていた仕事に比べて僅かなものであった。また、平成24年4月以降、理事長としての仕事は、もともと僅かな量であったので大差はないが、P事務長が事務長という立場で責任をもって事務の仕事をしてくれるようになった分、私の負担はさらに軽くなった。
B P事務長の答述
 P事務長は、当審判所に対し、平成26年6月16日に、平成24年3月31日前後における理事長としてのK園長の職務について、要旨次のとおり答述した。
(A) 私は、平成16年4月に事務職員として採用されてから、それまで理事長であるK園長が行っていた事務の仕事を徐々に引き継いだ。例えば、理事会に事務方として出席し、理事会議事録の原案を作成してK園長に確認を受けることや、官公庁に対する提出書類の作成、理事長印の押印についても、K園長の了解を得た上で私が行うようになった。
(B) K園長が定年退職となったことに伴い、私は平成24年4月に事務職員の責任者である事務長に就任し、それまで徐々に引き継いだ事務処理全般を私の責任で行うようになった。官公庁に対する提出書類や定期的に発生する定型的な書類の作成、官公庁等からの問合せについても、私の責任で対処している。
C 理事会の開催状況
 請求人が当審判所に提出した理事会議事録によれば、請求人の理事会は、K園長を議長として、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間に4回開催され、また、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に6回開催されていた。
D K園長スケジュール帳の記載状況
 K園長スケジュール帳には、上記(イ)のDのとおり、K園長自身及び本件幼稚園のスケジュールのほか、その日の天候を含め日々の保育や運営において生じた様々な出来事や問題点等が具体的かつ詳細に記載されているが、それらの記載のうち平日の内容は専ら園長としての職務についてであり、理事長としての職務に関する記載はほとんどない。
E 理事長に対する報酬の有無
 請求人の役員の報酬は、上記1の(4)のロの(イ)のEの本件寄附行為第12条において「役員の報酬は、勤務実態に即して支給することとし、役員の地位にあることのみによっては、支給しない。」と定めているところ、請求人の財務計算書類の一つである人件費支出内訳表の平成21年度ないし平成24年度の同表には、「役員報酬支出」という科目はあるものの、金額は零円となっていることから、理事長に対する報酬として金銭が支払われていないものと認められる。
F 理事長としてのK園長の職務とP事務長への職務の引継ぎについて
 理事長としてのK園長の職務について、理事長が議長を務める理事会は、上記Cのとおり、年4回ないし6回程度開催されているところ、上記Dのとおり、K園長スケジュール帳には理事長の職務がほとんど記載されていないこと、また、上記Eのとおり、理事長としての職務に対する報酬が支払われていないことからすると、上記Aの(C)のK園長の理事長としての職務は僅かな量であったという答述は不自然とは認められない。さらに、上記AのK園長の答述は、上記BのP事務長の答述と相互に一致していることに加え、当審判所の調査の結果によっても、上記A及びBの各答述に反する証拠はないことから、当該各答述のとおり、K園長はP事務長に理事長としての職務を徐々に引き継いでいき、平成24年4月に、P事務長が事務長に就任してからは、理事長としての職務のうち事務の仕事の全てをP事務長に引き継いだと認められる。
ハ 当てはめ
(イ) 本件金員の退職所得の該当性について
 本件金員の退職所得の該当性については、上記イの(ロ)のとおりの法令解釈により判断すべきであるところ、K園長は、上記ロの(イ)のGのとおり、平成24年3月31日をもって、本件幼稚園の教職員としての退職の承認があったと認められるものの、同年4月1日に再雇用されて嘱託職員としての本件幼稚園の園長にとどまり、併せて請求人の理事長としての地位も有していることから、勤務関係の終了があったものと認めることはできない。そうすると、本件金員は継続的な勤務関係の中途において支給される退職金名義のものであることから、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱われる「これらの性質を有する給与」として実質的にみて上記イの(ロ)の1 ないし3の各要件の要求するところに適合するか、具体的には、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とみられないなどの特別の事実関係を有するものに該当するか否かを、以下検討する。
A K園長の勤務関係の性質、内容、労働条件等について
(A) K園長は、本件幼稚園の教職員の一員としての園長の地位にあり、園長としては、上記1の(3)のヘの学校教育法第27条第4項に規定するとおり、園務をつかさどり、所属職員を監督する職務を遂行する立場にあるとともに、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、請求人の理事長に就任し、その職にあることから、理事長としても、同(4)のロの(イ)のGの本件寄附行為に定めるとおり、請求人を代表してその業務を総理する職務を遂行する立場にあると認められる。
(B) しかしながら、理事長としてのK園長の職務については、上記ロの(ハ)のFのとおり、理事長としての職務のうち事務の仕事の全てをP事務長に引き継ぎ、同(ハ)のCのとおり、年4回ないし6回程度開催される理事会において議長を務め、請求人の運営に関する意思決定に参画することにあると認められる。一方、園長としての職務については、本件幼稚園における教務の責任者として、上記ロの(ロ)のAの(B)のaないしfのとおり、1 日々の保育計画の決定、2行事計画の決定、3教諭に対する指示や指導、4園児の父兄に対する対応、5教諭の研修の決定及び6各種会議への出席等の職務に従事することであったと認められる。このことからすると、少なくとも平成24年3月時点において、K園長の請求人における実際の職務としては、本件幼稚園の園長としての職務が大部分を占めていたと認められ、K園長が、理事長として請求人を代表し、最終的な責任を負っていたとしても、K園長の行う職務全体に占める理事長の職務の割合は、本件幼稚園の園長の職務に比べてごく僅かなものであったと認められる。
(C) ところで、K園長は、上記ロの(イ)のGのとおり、平成22年3月末の定年が2年間延長されたことにより、引き続き理事長兼園長の職務に従事していたものと認められる。その後、平成24年2月ないし3月頃に、K園長は、かねてより園長への就任を打診していたN副園長に対して、再び園長への就任を依頼したところ、N副園長は、同ロの(イ)のBの(E)のとおり、園の顔としての園長に就くことは重責であるとして固辞したものの、肩書は副園長のまま、園長に代わって教務の責任者となることを承諾した。そして、平成24年4月以降においては、K園長は、同ロの(ロ)のAの(C)のとおり、行事における園長としての挨拶、園だよりの挨拶文の作成及びN副園長が多忙なときの教諭に対する指示や指導の補助等を行っているものの、同(ロ)のAの(B)及びBの(A)のとおり、事実上、本件幼稚園の主要な職務のほとんどをN副園長が担っていたと認められる。そうすると、K園長は、対外的には園長としての地位を有していたままではあるものの、K園長の職務内容は大幅に軽減されたものと認められる。
 そして、学校教育法第27条第4項において「園長は、園務をつかさどり、所属職員を監督する。」と規定されているところ、K園長がN副園長に引き継いだ職務の内容は本件幼稚園の主要な園務であり、他の教職員への指示、指導なども引き継いでいるという職務の内容面からしても、K園長の勤務関係の性質及び内容は、平成24年3月31日の前後において、重大な変動があったものというべきである。
(D) また、K園長の本件幼稚園の園長としての労働条件については、上記ロの(イ)のGのとおり、K園長は、平成24年3月31日をもって、本件幼稚園の教職員としての退職が承認され、同年4月1日に再雇用されて嘱託職員となったことが認められるところ、再雇用後の雇用契約は、上記1の(4)のロの(ロ)のCのとおり、本件就業規則の定めにより、1年ごとの更新となるのであるから、K園長の教職員としての身分は、平成24年3月31日の退職により、大きく変動したと認められる。
 さらに、請求人は、上記1の(4)のロの(イ)のEのとおり、本件寄附行為に「役員の報酬は、勤務実態に即して支給することとし、役員の地位にあることのみによっては、支給しない。」と定め、上記ロの(ハ)のEのとおり、理事長としての職務に報酬を支払っていないことから、K園長に対する給与は、園長としての職務に対する対価であったと認められるところ、上記1の(4)のニの(ロ)及び(ハ)のとおり、K園長の再雇用の条件が、平成24年4月以降、基本給の額は月○○○○円から月○○○○円に減額され、勤務時間は週40時間から週30時間に減少されていることを踏まえると、K園長の労働条件は、上記ロの(イ)のFの他の再雇用された教職員と同様に変更されたと認められる。
(E) 以上のことからすると、K園長は、平成24年3月31日の前後において、依然として請求人の理事長及び本件幼稚園の園長としての地位にあるものの、実質的な園長としての職務のほとんどをN副園長に引き継ぐことにより、その職務内容は量的にも質的にも大幅に軽減され、その実態に即するように基本給の額を減額するなど労働条件も大きく変動したものと認められる。
B 「従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること」及び「一時金として支払われること」について
 請求人は、上記1の(4)のロの(ハ)のBのとおり、本件退職金支給規程において、1年以上勤務した教職員が退職する場合は、本件財団の規定に準じて退職金を支給する旨定めているところ、本件財団は、同(4)のハのとおり、本件財団の退職資金事業規程に従い、K園長の平均標準給与月額○○○○円に、加入期間35年間に対応する交付指数○○○○を乗じて算定した金額である○○○○円をK園長の退職資金として請求人に交付し、これを受けて、請求人は、同(4)のニの(イ)のとおり、本件財団から交付を受けた金額と同額の○○○○円を、本件金員としてK園長に対して平成24年5月1日に一括で支給している。また、請求人は、上記ロの(イ)のEのとおり、平成24年4月以降、K園長の退職資金の積立てをしていないという点からみても、本件金員は、本件退職金支給規程に従い、平成24年3月31日に退職するまでの35年間の勤務に対する報償ないしは労務の対価の後払の性質を有していると認められ、一時金として請求人からK園長に支払われたものと認められる。
C 結論
 上記Aのとおり、請求人とK園長との勤務関係は、平成24年3月31日を境にして、その性質、内容及び労働条件等に重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とみることができない特別の事実関係があると認められ、また、上記Bのとおり、本件金員が従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有しており、一時金として支払われていることからすると、本件金員は、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」の「これらの性質を有する給与」に該当すると認められることから、本件金員に係る所得は退職所得に該当することとなる。
(ロ) 原処分庁の主張について
A 原処分庁は、本件就業規則に定年延長の定めがないことや、K園長の定年延長及び定年退職は本件幼稚園にとって重要な事項であるにもかかわらず、当時開催された理事会の議事録に記載がないことは不自然であるなどとして、K園長の定年延長及び定年退職の事実はない旨主張する。
 しかしながら、K園長の定年延長及び退職については、上記ロの(イ)のGのとおり、その事実が認められ、本件就業規則の定め及び理事会議事録への記載がないことのみをもって、K園長の定年延長及び退職を否定することはできないのであり、原処分庁の主張には理由がない。
B また、原処分庁は、平成24年4月1日以降も、K園長が理事長として理事会の議長を務めるなど、理事長の職務を引き続き行っていることのほか、対外的な書面に理事長名でK園長の氏名が掲載されていること、K園長が○○会の広報副委員長であること、g市の「子ども・子育て会議」に参加していることを指摘した上、K園長が引き継いだという行為は、事務を代行させ(手伝わせ)たにすぎず、その後も理事長及び園長として、N副園長及びP事務長に指示、指導等を行っていることを理由に、K園長の勤務関係の性質及び内容に重大な変動があったと評価できない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAの(B)のとおり、K園長の行う職務全体に占める理事長の職務の割合は、本件幼稚園の園長の職務に比べてごく僅かなものであったと認められることから、K園長の勤務関係の性質及び内容に重大な変動があったか否かを判断するに当たっては、本件幼稚園の園長としての職務の内容で判断することが相当である。また、仮に、上記の広報副委員長としての活動及びg市の会議への参加が園長としての職務であったとしても、K園長の当該活動及び参加の事実を指摘するにとどまるものであり、それをもって、K園長の勤務関係の性質及び内容に重大な変動があったとする結論が覆るものではない。さらに、上記ロの(ロ)のAの(B)及び(C)の平成24年4月以降のK園長の職務の内容からは、K園長がN副園長に事務を代行させ(手伝わせ)、指示及び指導を行っていたという評価をすることはできない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。
C さらに、原処分庁は、平成24年4月1日以降、請求人がK園長に対し、毎月残業見込み分として教職手当を支給していることは、K園長の勤務時間が週30時間を超えていたと推認されること、また、同日以降、K園長の基本給等は3分の2程度に減額されているが、減額された割合や金額は重大な変動であると認められるほどのものではないことから、K園長の労働条件に重大な変動があったとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAの(D)のとおり、K園長の教職員としての身分は退職により大きく変動したと認められることに加え、K園長の雇用契約上の勤務時間及び基本給の額は、上記ロの(イ)のFの他の再雇用された教職員と同様に変更されていることから、労働条件に重大な変動がないとする原処分庁の主張には理由がない。

(2) 本件納税告知処分について

 上記(1)のハの(イ)のCのとおり、本件金員に係る所得は退職所得に該当するから、本件金員に係る所得は給与所得に該当するとしてされた本件納税告知処分は違法であり、争点2ないし争点4について判断するまでもなく、その全部を取り消すべきである。
 なお、K園長は、上記1の(4)のホの(ロ)のとおり、本件金員の額と同額の金員を請求人の預金口座に入金しているが、請求人は、同ホの(ハ)のとおり、K園長から当該入金を受けた後であっても、本件金員は退職手当等の支払に該当するとして源泉所得税の額を納付しており、また、当審判所の調査の結果によれば、請求人の平成25年3月26日及び同年5月26日の理事会議事録には、同年1月10日の原処分庁所属の職員の言質により、とりあえず退職金の支給を留保し、賞与とみなされた場合は本件財団に返還する旨が記載されていることが認められ、これらを踏まえると、当該入金は、本件金員の税務上の取扱いが確定するまでの間、予備的に本件金員と同額の金員を請求人に預けていたにすぎないものと認められる。そうすると、上記1の(4)のニの(イ)の支払事実までも否定するものではないから、上記結論は左右されない。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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