(平成26年12月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その締結した建物の各賃貸借契約は法人税法上売買があったものとされるリース取引に該当するため、そのリース資産の支払対価相当額がリース資産の引渡し時の属する課税期間における課税仕入れの額に当たるとして、消費税及び地方消費税の各確定申告をしたところ、原処分庁が、当該各賃貸借契約は当該リース取引には該当しないなどとして各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年9月1日から平成23年8月31日まで及び平成23年9月1日から平成24年8月31日までの各課税期間(以下、順次「平成23年8月課税期間」及び「平成24年8月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成25年7月5日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件第一次各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの各処分を不服として、平成25年8月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月21日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分及び本件第一次各賦課決定処分に不服があるとして、平成25年12月19日に審査請求をした。
ホ その後、原処分庁は、平成26年6月4日付で、別表1の「取消処分」欄のとおり本件第一次各賦課決定処分をいずれも取り消すとともに、同日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件第二次各賦課決定処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、本件第二次各賦課決定処分を不服として、国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第3号の規定により、平成26年6月13日に審査請求をしたので、本件各更正処分及び本件第一次各賦課決定処分に対する審査請求と併合審理をする。

(3) 関係法令等の要旨

イ 行政手続法関係
 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
ロ 消費税関係
(イ) 消費税法(平成23年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定し、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。
 また、消費税法第2条第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう旨規定している。
(ロ) 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨規定している。
(ハ) 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第一第7号イは、介護保険法の規定に基づく居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス、施設介護サービス費の支給に係る施設サービスその他これらに類するものとして政令で定めるものを掲げ、同表第13号は、住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)を掲げている。
(ニ) 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合又は保税地域から引き取る課税貨物につき所定の申告書を提出した場合には、当該課税仕入れを行った日又は当該申告に係る課税貨物を引き取った日等の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した金額をいう。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する旨規定している。
(ホ) 消費税法第30条第2項は、同条第1項の場合において、同項に規定する課税期間における同条第6項に規定する課税売上割合が100分の95に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額及び同項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額(以下「課税仕入れ等の税額」という。)の合計額は、同項の規定にかかわらず、同条第2項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨規定し、同項第1号において、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ及び当該課税期間における同条第1項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合には、次のAの金額にBの金額を加算する方法(以下「個別対応方式」という。)とする旨規定している。
A 課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額
B 課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額
(ヘ) 消費税法基本通達5−1−9《リース取引の実質判定》の(1)は、事業者が行うリース取引が、当該リース取引の目的となる資産の譲渡若しくは貸付け又は金銭の貸付けのいずれに該当するかは、法人税の課税所得の計算における取扱いの例により判定するものとし、法人税法第64条の2《リース取引に係る所得の金額の計算》第1項の規定により売買があったものとされるリース取引については、当該リース取引の目的となる資産の引渡しの時に資産の譲渡があったこととなることに留意する旨定めている。
(ト) 消費税法基本通達6−13−6《住宅の貸付けと役務の提供が混合した契約の取扱い》は、一の契約で非課税となる住宅の貸付けと課税となる役務の提供を約している場合には、この契約に係る対価の額を住宅の貸付けに係る対価の額と役務の提供に係る対価の額に合理的に区分するものとする旨定め、同通達の注書では、この契約に該当するものとして、例えば、有料老人ホーム、ケア付住宅、食事付の貸間、食事付の寄宿舎等がある旨定めている。
(チ) 消費税法基本通達11−2−15《課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものの意義》は、その他の資産の譲渡等にのみ要するものとは、消費税法第6条第1項の規定により非課税となる資産の譲渡等(以下「非課税売上げ」という。)を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、販売用の土地の造成に係る課税仕入れ、賃貸用住宅の建築に係る課税仕入れがこれに該当する旨定めている。
(リ) 消費税法基本通達11−2−20《課税仕入れ等の用途区分の判定時期》は、個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物を課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなるのであるが、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日において、当該区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によって消費税法第30条第2項第1号の規定を適用することとして差し支えない旨定めている。
ハ 法人税関係
(イ) 法人税法第64条の2第1項は、内国法人がリース取引を行った場合には、そのリース取引の目的となる資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該資産の売買があったものとして、当該賃貸人又は賃借人である内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨規定している。
(ロ) 法人税法第64条の2第3項は、同条第1項に規定するリース取引とは、資産の賃貸借(所有権が移転しない土地の賃貸借その他の政令で定めるものを除く。)で、次に掲げる要件に該当するものをいう旨規定している。
A 当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること。(第1号)
B 当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。(第2号)
(ハ) 法人税基本通達12の5−1−1《解除をすることができないものに準ずるものの意義》は、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「これに準ずるもの」とは、例えば、次に掲げるものをいう旨定めている。
A 資産の賃貸借に係る契約に解約禁止条項がない場合であって、賃借人が契約違反をした場合又は解約をする場合において、賃借人が、当該賃貸借に係る賃貸借期間のうちの未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部(原則として100分の90以上)を支払うこととされているもの(同通達(1))
B 資産の賃貸借に係る契約において、当該賃貸借期間中に解約をする場合の条項として次のような条件が付されているもの(同通達(2))
(A) 賃貸借資産(当該賃貸借の目的となる資産をいう。以下同じ。)を更新するための解約で、その解約に伴いより性能の高い機種又はおおむね同一の機種を同一の賃貸人から賃貸を受ける場合は解約金の支払を要しないこと。(同通達(2)のイ)
(B) 上記(A)以外の場合には、未経過期間に対応するリース料の額の合計額(賃貸借資産を処分することができたときは、その処分価額の全部又は一部を控除した額)を解約金とすること。(同通達(2)のロ)

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成○年○月○日に設立された法人で、介護保険法による事業に関する業務並びに有料老人ホームの施設の企画設計及び有料老人ホームの経営等を目的とするものである。
ロ 請求人は、別表2及び別表3の「賃貸人」欄記載の各賃貸人(以下「本件各賃貸人」という。)との間で、同各表の「契約年月日」欄記載の各日に、同各表の「建物所在地」欄記載の各所在地に請求人が指定する仕様により本件各賃貸人が建築又は改修する各建物(以下「本件各物件」という。)について、有料老人ホームとして利用する目的で建物賃貸借予約契約又は建物賃貸借契約を締結し(以下、これらの契約を併せて「本件各賃貸借契約」といい、本件各賃貸借契約に係る契約書を「本件各契約書」という。)、建物賃貸借予約契約については、建物の完成後にそれぞれ建物賃貸借契約が成立し、同各表の「引渡年月日」欄記載の各日に本件各物件が請求人に引き渡された。
ハ 本件各契約書に記載された契約条項は、要旨次のとおりである。
(イ) 賃貸借の期間に関する条項
 賃貸借の期間は、別表4の「賃貸借期間(年)」欄に記載のとおりとし、同期間を満了するまで、賃貸人及び請求人は共に、当該契約を継続することを相互に保証する。
(ロ) 賃料に関する条項
 請求人が賃貸人に支払う賃料は、1か月当たり別表4の「月額賃料(円)」欄記載の金額である。
(ハ) 敷金に関する条項
 請求人は、別表4の「敷金(円)」欄記載の金額を敷金として、賃貸借期間中、賃貸人に預託するものとし、当該敷金に利息は付さないものとする。
 ただし、請求人と賃貸人J社との間の契約については、当該条項がない。
(ニ) 建設協力金に関する条項
 請求人は、賃貸人に対し、別表4の「建設協力金(円)」欄記載の金額を建設協力金として差し入れるものとし、賃貸人は、請求人に対し、当該建設協力金を同表の「分割返済回数」欄記載の回数で分割し、分割した金額を、賃料発生日から毎月の賃料と相殺して返済するものとする。
 ただし、請求人と賃貸人Kとの間の契約(以下「L契約」という。)及び賃貸人M社との間の契約(以下「N契約」という。)については、当該条項がない。
(ホ) 解約に関する条項
 賃貸人及び請求人は共に、上記(イ)の賃貸借の期間を満了するまで、解約の申込みをすることができないものとする。また、当該条項にかかわらず、請求人の事由により解約する場合の条件等についても併せて定められており、その内容等については、別表4の「解約条件等」欄記載のとおりである。
 ただし、L契約については、請求人の事由により解約する場合の条件等の定めがない。
(ヘ) 違背に関する条項
 契約に違背し、賃貸人と請求人との間の信頼関係を著しく損なう行為があったときは、相手方は、賃貸借期間中といえども、直ちに本契約を解除することができるものとし、これにより損害が生じたときは、違背者はその賠償の責を免れないものとする。
ニ 上記ハの(ホ)の請求人の事由により解約する場合の条件等として、1 請求人と賃貸人Pとの間の契約(以下「Q契約」という。)の場合は、次の(イ)のような条項が、2N契約の場合は、次の(ロ)のような条項が、3Q契約、N契約及びL契約の3契約以外の本件各賃貸借契約の場合は、次の(ハ)のような条項がある。
(イ) 請求人は賃貸人に対し所定の違約金を支払う旨を定めた条項(以下「Q違約金支払条項」という。)
(ロ) 請求人は当該契約と同条件で新たな賃借人を紹介し、賃貸借契約が締結されない限り、請求人は賃貸人に対し所定の違約金を支払う旨を定めた条項(以下「N違約金支払条項」という。)
(ハ) 賃貸人が新たな賃借人と契約を締結して賃料を受領し始めるまで、請求人は賃貸人に対し賃料を支払う義務を負うべきものとする旨を定めた条項(以下「賃料残額支払条項」という。)
ホ 本件各賃貸借契約のうち、請求人と賃貸人Rとの間の契約については、賃貸借期間、建設協力金の分割返済回数等を変更する内容の平成21年12月14日付の覚書(以下「S覚書」という。)が存在しており、また、請求人と賃貸人T社との間の契約については、建設協力金の月々の返済額等を変更する内容の平成23年2月28日付の覚書(以下「U覚書」という。)が存在している。
ヘ 請求人は、本件各物件において有料老人ホームを経営している。
ト 請求人は、平成22年9月1日から平成23年8月31日まで及び平成23年9月1日から平成24年8月31日までの各事業年度の法人税の確定申告書において、別表2及び別表3記載の本件各物件(以下、順次「本件23年8月期各物件」及び「本件24年8月期各物件」という。)について、契約上の賃料総額を基礎として計算した金額を、それぞれ本件23年8月期各物件及び本件24年8月期各物件の取得価額として、リース資産に計上した。これらの取得価額の合計額は、次のとおりである。
(イ) 本件23年8月期各物件の取得価額の合計額 25,947,466,674円
(ロ) 本件24年8月期各物件の取得価額の合計額 22,612,800,006円
チ 請求人は、本件各課税期間の消費税につき、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れ等の税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を個別対応方式により計算しているところ、請求人が作成した本件各課税期間の消費税コード別集計表には、課税資産の譲渡等(以下「課税売上げ」という。)にのみ要する課税仕入れ及び課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れの金額として、次表の金額が記載されている。

課税期間

課税売上げにのみ要する課税仕入れ(税込金額)

課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ(税込金額)

平成23年8月課税期間

3,944,077,531円

31,926,571,905円

平成24年8月課税期間

4,605,358,427円

29,097,216,252円

 上記の表の「課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ(税込金額)」の「平成23年8月課税期間」欄の金額には、本件23年8月期各物件の取得価額に100分の105を乗じた各金額の合計額27,244,840,000円が、同様に「平成24年8月課税期間」欄の金額には、本件24年8月期各物件の取得価額に100分の105を乗じた各金額の合計額23,743,440,000円が、それぞれ含まれている。
リ 本件各更正処分に係る更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)には、それぞれ「処分の理由」として、「当該各賃貸借契約は、その約定内容において解約する場合等の条項が規定されていることからすれば、中途解約をすることができないものとは認められず、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する要件には該当しないことから、同条第1項に規定する売買とされるリース取引に該当しません。」と記載された上、表形式によりそれぞれ対象となる契約について、「契約年月日」、「賃貸人」、「建物所在地」、「解約条項」及び「賃借料の総額(円)」が記載されている。
ヌ 上記(2)のハの異議申立てにおいて、請求人は、本件各賃貸借契約が法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当することについて主張したところ、異議審理庁は、同ハの異議決定において、本件各賃貸借契約のうち平成23年8月課税期間のL契約が法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当するとしたが、L契約に係る建物(以下「V物件」という。)に係る課税仕入れを、個別対応方式により計算する場合の課税仕入れの用途区分は、非課税売上げにのみ要する課税仕入れであるとした。

(5) 争点

イ 本件各更正通知書の理由付記に不備があり、違法となるか否か。(争点1)
ロ L契約以外の本件各賃貸借契約(以下「本件その他賃貸借契約」という。)は、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの又はこれに準ずるもの」に該当するか否か。(争点2)
ハ 本件各賃貸借契約が、法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当する場合において、当該リース取引に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、非課税売上げにのみ要する課税仕入れに該当するか否か。(争点3)

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2 主張

(1) 争点1(本件各更正通知書の理由付記に不備があり、違法となるか否か。)について

イ 請求人
(イ) 更正の理由付記に関して、最高裁昭和38年5月31日判決は、理由付記制度の趣旨は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与えるものであるから、その記載を欠くときは、処分自体の取消しを免れないとし、また、最高裁昭和60年4月23日判決は、更正の理由付記の程度について、更正の根拠を処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨及び目的を充足する程度に具体的に明示するものであることを要求している。
(ロ) しかしながら、本件各更正通知書には、本件各更正処分の理由として、本件各賃貸借契約は、その約定内容において解約する場合等の条項があることからすれば中途解約をすることができないものとは認められず、売買とされるリース取引には該当しない旨記載されているが、1 本件各賃貸借契約には「中途解約禁止条項」などがあるにもかかわらず、どのような事実を捉えてなぜそれが「中途解約をすることができないものとは認められない」という判断をしたのかについて具体的な事実の摘示と判断過程が示されておらず、2「その約定内容において解約する場合等の条項」の「等」とは何を指すのか不明であり、請求人が何について主張及び立証すればよいのかが判然としない記載内容であり、3少なくともL契約については、解約に関する条項が存在しないのであるから「解約する場合等の条項が規定されていること」を理由とする点で理由付記に不備がある。
(ハ) したがって、本件各更正処分は理由付記制度の趣旨を逸脱した違法なものであり、取り消されるべきである。
ロ 原処分庁
 本件各更正通知書における更正の理由には、請求人が本件各課税期間の消費税の控除対象仕入税額とした本件各賃貸借契約において請求人から本件各賃貸人に対して支払われる各賃料(以下「本件各賃料」という。)について、本件各賃貸借契約を解約する場合の各条項等を摘示した上で、これらの各条項から本件各賃貸借契約が中途解約することができないものとは認められないため、法人税法第64条の2第3項第1号に規定するリース取引に該当せず、本件各賃料が非課税とされている住宅の貸付けに係る賃料と認められるという原処分庁の本件各賃貸借契約についての法的評価が記載されており、原処分庁の判断の基礎となる具体的事実及び控除対象仕入税額の計算の誤りと認められる具体的金額が示されており、請求人の不服申立ての便宜という目的から著しく逸脱したものとは認められない。

(2) 争点2(本件その他賃貸借契約は、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの又はこれに準ずるもの」に該当するか否か。)について

イ 原処分庁
 本件その他賃貸借契約については、次の理由から、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」及び「これに準ずるもの」のいずれにも該当しない。
(イ) 賃貸借契約が、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当するか否かは、その賃貸借契約における解約に係る約定内容に基づいて判断することとなる。
(ロ) 本件その他賃貸借契約には、請求人の事由により解約する場合の条件として、1 上記1の(4)のニの(イ)のように定めたQ違約金支払条項、2同ニの(ロ)のように定めたN違約金支払条項、3同ニの(ハ)のように定めた賃料残額支払条項がそれぞれあるところ、これらの各定めからすると、請求人は、それぞれの定めに従った違約金等や本件各賃貸借契約の解約時における未経過期間に対応する本件各賃料の残額を支払うことによって本件その他賃貸借契約を自己の都合で解約することができる。その場合であっても、上記2及び3については、賃貸人が新たな賃借人から賃料を受領することになれば、請求人は当該違約金等や当該各賃料の残額を支払うことなく解約することができるものと認められる。
 したがって、本件その他賃貸借契約は、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」には該当しない。
(ハ) さらに、本件その他賃貸借契約は、次の理由により、「事実上解約不能である」とは認められないため、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「これに準ずるもの」にも該当しない。
A 「解除をすることができないものに準ずるもの」とは、その契約により客観的かつ具体的な金銭的負担又は効果が認められるため事実上解約不能であるものが該当すると解される。
(A) Q契約について
 Q契約については、上記(ロ)の1 のQ違約金支払条項が定められ、解約に当たって支払う違約金の額は、賃貸借を開始してから24年6か月を経過して初めて未経過期間に対応する賃料の合計額の100分の90以上となり、それまでの期間に解約した場合の違約金として算出される金額は、これよりも相当低い金額であり、請求人は、未経過期間の賃料のおおむね全部を負担せずともQ契約を解約することができるものと認められる。
(B) Q契約以外の本件その他賃貸借契約について
 Q契約以外の本件その他賃貸借契約は、請求人が解約する場合の条件が上記(ロ)の2のN違約金支払条項又は同(ロ)の3の賃料残額支払条項として定められ、解約に当たっては、賃貸人が新たな賃借人と契約を締結して賃料を受領し始めれば、請求人が金銭的負担を負わない旨が定められており、請求人は、事実上未経過期間の賃料の全てを負担せずとも各契約を解約することができるものと認められる。
B 法人税基本通達12の5−1−1の(2)のロは、上記1の(3)のハの(ハ)のBの(B)のとおり、賃貸借契約の内容を前提としている以上、当該賃貸借契約が「解除をすることができないものに準ずるもの」に該当するか否かは、その賃貸借契約において当事者間で授受することとなっている金員を前提として判断するものである。同通達の(2)のロの括弧書は、売却などの処分を前提としていることが文理上明確であるところ、既存の賃貸借契約を解約して新たな賃貸借契約を別の者と締結するに等しいことを解約の条件とする賃貸借契約が「解除をすることができないものに準ずるもの」に該当する余地はない。
 したがって、賃貸人が新たな賃借人からの賃料を含め未経過期間に対応する賃料の全てを確保できる契約は、同通達の(2)のロの括弧書の定めるものには該当しない。
C 法人税法第64条の2第3項第1号の該当性については、上記(イ)のとおり、契約当事者が合意した内容である本件各契約書の記載内容に基づいて判断することとなるから、請求人が主張するような中途解約をすべき事情の有無で規定の適用が変わるものではない。
 入居者の契約等が保証されれば、有料老人ホームの経営者が他の事業者に営業の譲渡をすることも可能であり、有料老人ホームの運営は届出制であり、許可制ではなく、行政上の不利益が生じることはない。
 したがって、本件その他賃貸借契約は、その契約を継続することが余儀なくされるようなものではなく、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当しないことは明らかである。
ロ 請求人
 本件その他賃貸借契約については、次の理由から、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当する。
(イ) 賃貸借契約が、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当するか否かは、契約書の文理のみにとらわれることなく、契約当事者間の真の合意内容に基づいて判断することとなる。
(ロ) 本件その他賃貸借契約に係る契約書の記載上、中途解約禁止が明記されていること及び請求人の事由により中途解約する場合には厳しい条件を課すことによって中途解約禁止の実効が上がるよう措置されていることから、契約当事者の真の意思の内容が中途解約禁止であることは明らかである。
 また、請求人において、事業開始以来、中途解約事例が皆無であること、同業他社からの施設運用の引継ぎ依頼もないことから、本件その他賃貸借契約で解約について記載された条項は、非現実的なもので、請求人が賃貸人に対して賃料保証と損害賠償債務を強調した性質のものにすぎない。
 したがって、本件その他賃貸借契約は、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」に該当する。
(ハ) 上記(ロ)のとおり、本件その他賃貸借契約は、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」に該当するが、仮に、中途において解除できないものに該当しないと判断されたとしても、本件その他賃貸借契約は、次の理由により、「事実上解約不能である」と認められるため、少なくとも法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「これに準ずるもの」に該当する。
A 本件その他賃貸借契約には、1 契約当事者間で、契約の継続を相互に保証していること、2賃貸人が物件を譲渡する場合は、請求人に優先買取権等を認めること、3賃貸人において相続が発生した場合は、賃貸人の地位を相続人に承継等させること等の定めがあり、これらによれば、事実上、中途解約をすることができない。
 仮に、請求人から中途解約をする場合であっても、請求人の自己都合で解約されることがないよう、未経過期間に対応する賃料の残額又は違約金を支払う旨の請求人にとって厳しい条件を設けている。
 なお、本件その他賃貸借契約において、賃貸人が新たな賃借人と契約を締結した場合に、請求人が未経過期間に対応した賃料の残額又は違約金の支払義務を負わない旨定めているのは、新賃借人確保時の違約金条項が前賃借人に著しく不利益を与えるとして公序良俗違反を理由に一部無効とされた判決を考慮し、賃貸人側の賃料の二重取りを防ぐ趣旨で設けたものであり、請求人による中途解約を容易にするものではない。
 また、原処分庁は、請求人が結果的に金銭的負担を負わなくても中途解約できるとして、新たな賃借人との契約が締結されることを前提としているが、有料老人ホームを運営する新たな賃借人を探すことは極めて困難である。
B 法人税基本通達12の5−1−1の(2)のロによれば、中途解約をする場合において、賃貸借資産を処分することができたときには、その処分価額を控除した残額を解約金として計算することとされているものを「これに準ずるもの」に該当するものの例として掲げており、賃借人が必ずしも未経過期間に対応したリース料の額の合計額を負担せずとも法人税法上のリース取引と認めている。これは解約により未経過期間に対応するリース料の額の合計額以上に賃貸人に利益を与えるような不合理な契約である必要がないものとする趣旨であると解される。同通達の(2)のロについて、原処分庁は、文理上限定的に解されるべきと主張するが、本件その他賃貸借契約は、賃貸人が新たな賃借人からの賃料を含めて未経過期間に対応した賃料の全額を確保できるもので同通達の趣旨に沿う内容である。
 また、同通達にいう「処分価額」は最高裁昭和57年10月19日判決において「リース物件の返還によって取得した利益」の一例として示されているところ、本件における「新たな賃借人が支払う賃料」もこれに相当する。
C 次の理由から、本件その他賃貸借契約は継続する以外に選択の余地はなく、中途解約すべき事情は一切存在しない。
(A) 有料老人ホームの入居契約書において、請求人は、入居者に対して、入居施設の終身利用を保証しており、入居施設には生活の本拠地として生活する入居者が存在すること。
(B) 請求人は、行政当局の指導の下で、長期間にわたる事業の継続を約して、有料老人ホームの運営の分野に参入しており、建物についての賃貸借契約を中途解約した場合には、行政当局から指定を取り消されるリスクがあるばかりか、そのことによる社会的信用の失墜は請求人にとって致命的である。また、本件その他賃貸借契約に係る契約書に当事者たる地位を他者に譲渡することはできない旨の条項があり、営業譲渡は困難であること。
 (C) 有料老人ホームとする建物は、行政当局の指針に定める設置基準に沿って設計等される特殊な建物であることから、容易に転用が効かず、賃貸人は投下資金を回収するためには、家賃収入を継続的、安定的に確保しなければならず、賃貸人からの賃貸借契約の中途解約はあり得ないこと。

(3) 争点3(本件各賃貸借契約が、法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当する場合において、当該リース取引に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、非課税売上げにのみ要する課税仕入れに該当するか否か。)について

イ 原処分庁
(イ) V物件に係る課税仕入れの用途区分は、次の理由により、個別対応方式の計算上、非課税売上げにのみ要する課税仕入れに該当する。
A 消費税法において、非課税とされる住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、入居者が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分は全て住宅に含まれると解する。
 V物件には、Xクリニック部分が存在するが、V物件の引渡しに係る支払対価の額は、賃貸人に支払う賃料を基礎とするものであるところ、V物件に附属するXクリニック部分は、請求人が費用を負担して増設したものをXクリニックを運営するY社に貸し付けているものであること及びXクリニック部分の賃料を賃貸人は受け取っていないことからすると、請求人が支払ったL契約の賃料にはXクリニック部分が含まれていないものと認められる。そうすると、Xクリニック部分以外のV物件は、その全体が入居者にとって日常生活を送る上で必要不可欠な場所というべきであり、住宅に含まれると判断するのが相当である。
B 個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合の課税仕入れの用途区分は、課税仕入れを行った日の状況により行うところ、V物件については、平成22年5月25日に締結された建物賃貸借契約において、請求人が有料老人ホームとして利用する目的で賃借した建物であることが明らかになっていること、また、請求人とY社との転貸借契約を締結したのは平成23年11月8日であることから、課税仕入れを行った平成22年10月15日の状況により非課税売上げにのみ要する課税仕入れに区分される。
(ロ) 本件その他賃貸借契約は法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当しないが、仮に、当該各契約がリース取引に該当するとした場合には、本件各物件に係る課税仕入れの用途区分は、次の理由により、個別対応方式の計算上、非課税売上げにのみ要する課税仕入れに該当する。
 本件各賃貸借契約では、本件各物件を有料老人ホームとして利用することが明らかにされており、その全体が入居者にとって生活を営む場又は日常生活を送る上で必要なサービスを提供する場であり、住宅に該当する。そうすると、その全体を住宅として貸し付けるものであるから、V物件以外の本件各物件に係る支払対価の額は、非課税売上げにのみ要する課税仕入れとなる。
ロ 請求人
(イ) V物件に係る課税仕入れの用途区分は、次の理由により、個別対応方式の計算上、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れに該当する。
A V物件からは、入居者からの賃料以外に、食費、自動販売機設置手数料、理美容室利用料などの種々の課税売上げが発生し、V物件の建物の躯体を利用して増設された内部造作部分であるXクリニック部分の家賃という課税売上げが生じる。
B 個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合の課税仕入れの用途区分は、課税仕入れを行った日の状況により行うところ、課税仕入れを行った平成22年10月15日の時点で、V物件の内部造作であるXクリニック部分の増設は平成22年2月20日付設計図にあるとおり既に計画されており、請求人とY社との間のXクリニック部分についての転貸借契約が平成22年8月1日に締結されているのであるから、V物件の引渡し時点では、課税売上げが発生する状況であったことは明白であるからV物件に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れとなる。
(ロ) V物件以外の本件各物件については、入居者からの賃料以外に、食費、自動販売機設置手数料、理美容室利用料などの種々の課税売上げが生じるから、V物件以外の本件各物件に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れに該当する。

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3 判断

(1) 争点1(本件各更正通知書の理由付記に不備があり、違法となるか否か。)について

イ 法令解釈
 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決)。
ロ 当てはめ
 不利益処分である本件各更正通知書の記載をみると、上記1の(4)のリのとおり、本件各賃貸借契約における解約等に関する条項の記載内容から判断すると中途解約ができないとは認められないから、本件各賃貸借契約は、法人税法第64条の2第3項第1号の要件を満たさないため同条第1項に規定するリース取引に該当しないことが具体的に示されている。
 本件において重要な点は、本件各賃貸借契約が法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解約をすることができないもの又はこれに準ずるもの」に該当するか否かであり、本件各更正通知書の理由付記の記載内容は、根拠となる資料及びその判断過程を示しており、行政庁の恣意抑制の観点からも、不服申立ての便宜の観点からも十分な記載といえる。
 したがって、本件各更正処分については、理由付記の不備の違法はない。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、「その約定内容において解約する場合等の条項」の「等」とは何を指すのか不明であり、請求人が何について主張及び立証すればよいのかが判然としない記載内容である旨主張する。
 確かに、請求人の主張するとおり、原処分庁は「解約する場合等の条項」が本件各賃貸借契約に定められていることを根拠とし、本件各更正通知書には、本件各賃貸借契約のそれぞれの具体的な文言までは記載されていないが、表形式により、本件各賃貸借契約における解約する場合の条項等がそれぞれ第何条であるかが表示されており、どの部分が原処分庁が判断の根拠とした中途解約に関する条項であるかは本件各契約書を見れば特定できるのであるから、請求人の主張及び立証が困難になるほどに記載が不十分であるということにはならない。現に、請求人は、異議申立てにおいて、本件各賃貸借契約が中途解約不能な契約又はこれに準ずる契約であり、リース取引に該当することについて詳細に主張をしている。
 したがって、この点における請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、少なくともL契約については、解約に関する条項が存在しないのであるから「解約する場合等の条項が規定されていること」を理由とする点で理由付記に不備がある旨主張する。
 確かに、請求人の主張するとおり、L契約については、違背があった場合の中途解約に関する条項はあるものの、請求人の事由による解約に関する条項は存在しない。しかしながら、少なくとも、平成23年8月課税期間の更正通知書にL契約に係る契約書に解約に関する条項が存在することが更正の根拠として記載されていたため、請求人は、異議申立てにおいて、当該条項の不存在を主張することができ、審査請求においても、平成23年8月課税期間に係る更正通知書の記載から更正処分の判断が誤っていることを主張することができたのであって、行政処分に求められる不服申立ての便宜の観点からその記載の程度に不足があるとは認められない。
 したがって、この点における請求人の主張にも理由がない。

(2) 争点2(本件その他賃貸借契約は、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの又はこれに準ずるもの」に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 法人税法第64条の2第1項は、上記1の(3)のハの(イ)のとおり規定しているところ、賃貸借という法形式をとりながら、実質的な物件購入と金融取引を併せ持つ取引形態であるいわゆるファイナンス・リース取引については、賃借人がリース取引の目的となる資産を売買したことと同一の経済的実態を有することに着目し、同一の資産を売買した納税者との間の課税上のアンバランスを解消するために設けられたものと解される。
(ロ) 法人税法第64条の2第3項第1号は「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」と規定するところ、通常の商取引において、相手方に信頼関係を破壊するに足る債務不履行があるにもかかわらず解除をすることができない賃貸借契約を締結することは想定されないことから、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」とは、債務不履行等の信頼関係を破壊するに足る事由による解除ではなく、賃貸借期間の中途で解約する権利(以下「中途解約権」という。)に基づき、相手方当事者の事情に関わりなく、一方的な意思表示により契約関係を終了させることができないものをいい、当該中途解約権の行使に当たって何らかの条件が付されているものであっても、当該条件を満たすことによって契約関係を終了することができるのであれば、当該条件付の解約条項が付されているものは、これに該当しないものと解するのが相当である。
 そして、民法第618条《期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保》によれば、賃貸借契約の期間を定めた契約であっても、契約当事者の一方又は双方が中途解約権を留保していれば、同法第617条《期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ》により、その一方からの解約の申入れによって、相手方の承諾を必要とせずに賃貸借契約が終了することとなる。
 したがって、本件各賃貸借契約は期間の定めのある賃貸借契約であるから、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」に該当するか否かは、解約に当たっての条件が付されているか否かにかかわらず、当事者の一方又は双方が、その期間内に契約関係を終了させることができるか否かによって判断すべきこととなる。
(ハ) 法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「これに準ずるもの」には、法的には解約可能な資産の賃貸借に係る契約であっても、当該契約の内容等を勘案し、事実上解約不能であると認められるものが該当すると解される。
 そして、法人税基本通達12の5−1−1は、法的には解約可能な資産の賃貸借に係る契約であっても、賃借人が、当該契約を解約する場合に、賃貸借期間のうち未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部(原則として100分の90以上)の解約金等を支払うこととされているものなどは、その契約条項の内容、商慣習等を勘案し契約の実態に応じ、事実上解約不能であると認められることから、そのような契約が「これに準ずるもの」に該当することを明らかにしたものであるところ、この取扱いは、法人税法第64条の2第3項第1号の趣旨に合致するものであって、当審判所においても相当と認められる。
(ニ) 消費税法基本通達5−1−9の(1)は、事業者が行うリース取引が、当該リース取引の目的となる資産の譲渡若しくは貸付け又は金銭の貸付けのいずれに該当するかは、法人税の課税所得の計算における取扱いの例により判定するものとし、法人税法第64条の2第1項の規定により売買があったものとされるリース取引については、当該リース取引の目的となる資産の引渡し時に資産の譲渡があったこととする旨定めているところ、実質主義の原則に基づき、リース取引の目的となる資産に関する消費税の取扱いについても、法人税における取扱いの例により判定することを明らかにしたものであり、当審判所においてもその取扱いは相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が経営する有料老人ホームでは、入居者に対して居住を目的とした居室及び共用施設の終身利用を保証している。
(ロ) 本件各契約書には、それぞれ契約当事者双方の署名又は押印があり、本件各契約書以外に請求人と本件各賃貸人との間で取り交わされた合意に関する文書は、S覚書及びU覚書が存在するのみで、これらの契約及び合意以外に本件各賃貸借契約に係る別の合意に関する文書等が取り交わされた事実は認められない。
(ハ) 請求人が当審判所に提出した平成26年4月10日付回答書によるとN契約の違約金等の計算方法は、次のとおりである。
A 違約金額は、次の計算方法で求められ、請求人は、違約金を支払った上、敷金額40,000,000円を放棄する。
 建築費総額(設計管理費を含む)÷300×契約残月数−敷金額40,000,000円
B 上記Aの計算方法により違約金が零円を下回った場合には、違約金は零円となり、請求人は、敷金額40,000,000円を放棄する。
(ニ) Q契約及びN契約において、請求人が中途解約をする場合には、Q違約金支払条項及びN違約金支払条項がそれぞれ定められているが、賃貸借期間に応じて、月額賃料等を基に、請求人が支払うこととなる違約金の額等をそれぞれ算出すると、別表5及び別表6のとおりとなる。
ハ 当てはめ
 L契約が、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当することについて当事者双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても同様の認定をすることができるから、本件その他賃貸借契約が、同号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」又は「これに準ずるもの」に該当するか否かについて、以下、順次検討する。
(イ) 本件その他賃貸借契約が「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」に該当するか否かについて
A 契約書等の処分証書については、その成立の真正が認められれば、特段の事情がない限り、その記載どおりの事実を認めるべきであるところ、上記ロの(ロ)のとおり、本件その他賃貸借契約において、本件その他賃貸借契約に係る契約書(以下「本件その他契約書」という。)、S覚書及びU覚書の記載内容と異なる合意が存在した事実は認められず、本件その他契約書、S覚書及びU覚書には契約当事者双方の署名又は押印があり真正に成立したものであることから、その記載内容どおりの契約が成立した事実が認められる。
B 次に、本件その他契約書に記載された内容から本件その他賃貸借契約が中途解約をすることができない賃貸借契約であるかについて検討してみると、本件その他賃貸借契約は、本件その他契約書の記載によれば、契約当事者双方が中途解約の申込みをすることができないものとする旨の条項と、請求人の事由による中途解約に関する条件等について定めた条項が併存するものである。すなわち、本件その他賃貸借契約は、原則として中途解約を禁じているものの、所定の条件の下では、中途解約を認める旨を約したものであり、別表4の「解約条件等」欄の条項のとおり、請求人にとっては、その解約条件を満たすことによって、契約関係を終了させることができる内容の契約であると認められる。
 したがって、本件その他賃貸借契約は、賃貸借期間の定めのある契約で、その賃貸借期間の中途において契約関係を終了させることができるものであるといえ、賃借人がリース取引の目的となる資産を売買したことと同一の経済的実態を有しているとはいえないから、上記イの(ロ)により、法人税法第64条の2第3項第1号に規定する「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」には該当しない。
(ロ) 本件その他賃貸借契約が、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものに準ずるもの」に該当するか否かについて
A 本件その他賃貸借契約は、上記(イ)のBのとおり、その賃貸借期間の中途において契約関係を終了させることができる賃貸借契約であるが、請求人が中途解約をする場合には、それぞれの契約で定められた所定の金員の支払義務を負うこととされていることから、上記イの(ハ)により、賃借人である請求人が、賃貸借期間のうちの未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部の解約金等を支払うこととされているものと認められるか否かにつき、以下検討する。
(A) Q契約及びN契約について
 上記ロの(ニ)のとおり、Q契約及びN契約において、請求人が中途解約をする場合に支払うこととなる違約金の額等は、別表5及び別表6のとおりとなるところ、各月末の未経過期間の賃料が逓減する中、同各表の「3違約金割合(12)」欄の割合によれば、賃貸借期間のほとんどの時点において、法人税基本通達12の5−1−1の(1)において「これに準ずるもの」の判断のための割合として示された「100分の90」に満たないことが明らかである。
 したがって、Q契約及びN契約は、請求人が中途解約をした場合において、賃借人である請求人が、賃貸借期間のうちの未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部を支払うこととされているものに該当するとはいえない。
(B) Q契約及びN契約以外の本件その他賃貸借契約について
 上記(A)のQ契約及びN契約以外の本件その他賃貸借契約において、請求人が中途解約をする場合には、別表4の当該契約の各賃貸人に係る「解約条件等」欄の2の記載のとおり、賃料残額支払条項が定められており、当該契約に係る各賃貸人が新たな賃借人と契約ができないときには、結果として、請求人が未経過期間に対応する賃料相当額の全額を支払わなければならない状況が発生する可能性は否定できないものの、当該各賃貸人が新たな賃借人から賃料を受領することになれば、請求人が未経過期間に対応する賃料相当額の全額を支払うことにはならない。
 したがって、請求人が中途解約をした場合において、当該賃料相当額の全額を支払うことにはならないことから、これらの契約は、賃借人である請求人が、賃貸借期間のうちの未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部を支払うこととされているものに該当するとはいえない。
B 以上のほかに、本件その他賃貸借契約には、いずれも請求人の中途解約権の行使を制約する条項が存在せず、中途解約権の行使の制約を根拠付ける証拠も認められないから、本件その他賃貸借契約は、事実上解約不能であると認められる契約とはいえず、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものに準ずるもの」には該当しない。
ニ 請求人の主張について
 本件その他賃貸借契約に関する請求人の主張については、以下のとおりである。
(イ) 中途解約することができない旨の主張について
 請求人は、上記2の(2)のロの(ロ)のとおり、事業開始以来、中途解約をした事例は皆無であることからも、本件その他賃貸借契約に定められた解約についての条項は非現実的な条項であり中途解約は実際には起こり得ない旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(イ)のAのとおり、真正に成立した本件その他契約書に解約に関する各条項が置かれ、中途解約の条件等が記載されている以上、当該各条項に基づいてその中途解約権の行使が可能であると解されることから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 中途解約ができないものに準ずる旨の主張について
 請求人は、上記2の(2)のロの(ハ)のAないしCの理由から、本件その他賃貸借契約は、事実上解約不能であると認められる旨主張するが、以下のとおり、いずれも請求人の主張には理由がない。
A 請求人は、本件その他賃貸借契約において、契約の継続を保証していること、賃貸人が物件を譲渡する際の請求人への優先買取権を認めていること、賃貸人の相続発生時には賃貸人の地位を相続人へ承継すること等の各定めとともに、仮にも、請求人の事由により中途解約されないよう請求人にとって厳しい条件を設けているので、事実上中途解約をすることはできない旨主張する。
 しかしながら、賃貸人からの中途解約の可否は、請求人の中途解約権の行使の可否についての判断に影響を与えるものではなく、また、未経過期間に対応する賃料相当額の支払又は違約金の支払に関する条項についてみても、上記ハの(ロ)のAの(A)及び(B)のとおり、未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部を支払わなければならない契約とは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
B また、請求人は、賃貸人が新たな賃借人と契約を締結した場合に、請求人が未経過期間に対応する賃料の残額又は違約金の支払義務を負わない旨を定めているのは、違約金条項が公序良俗違反を理由に一部無効とされた判決を考慮し、賃料の二重取りを防ぐ趣旨で設けられたものであり、中途解約を容易にするものではない旨主張する。
 しかしながら、「これに準ずるもの」に該当するか否かは、上記イの(ハ)のとおり判断するものであり、請求人が未経過期間に対応する賃料の残額又は違約金の支払義務を負わない旨の条項を設けた趣旨は、本件その他賃貸借契約がリース取引に該当するか否かの判断に影響を与えるものではないことから、請求人の主張には理由がない。
C さらに、請求人は、有料老人ホームを運営する新たな賃借人を探すことは、実際上ほとんど不可能である旨主張する。
 しかしながら、この点に関し、請求人からこのような事実を認めるに足る証拠の提出はなく、当審判所の調査の結果によってもこれを認定するに足る証拠はない。したがって、請求人の主張する事情を認めることはできない。
D 請求人は、本件その他賃貸借契約は、賃貸人が新たな賃借人からの賃料を含めて未経過期間に対応する賃料の全額を確保できる契約となっているのであるから、処分価額の控除を認めた法人税基本通達12の5−1−1の(2)のロに例示された契約の趣旨に沿う内容であり、「これに準ずるもの」に該当する旨主張する。
 しかしながら、法人税基本通達12の5−1−1は、賃借人側にとって解約不能といえるような契約を例示しているのであって、賃借人側にとって事実上、中途解約権を行使することができないような制約があるか否かによって判断する内容を示しているのであり、その判断に賃貸人側が未経過期間に対応する賃料の全額を確保できるか否かは影響しない。
 また、請求人の主張する「処分価額」については、法人税基本通達12の5−1−1の(2)のロの「処分」とは、賃貸借資産の売却を前提としたものと認められるところ、利益の確定する売買契約と順次利益が発生し最終的な利益が不確定である新たな賃借人との賃貸借契約とでは経済的効果が同じであるとは認められない。また、請求人が指摘する最高裁判決は、いわゆるファイナンス・リース契約において、リース期間の途中でリース物件が返還された場合に、リース業者が返還によって取得した利益を清算する義務があることを認めるとともに、当該清算の基準を明らかにしたもので、この清算の対象となる返還によって取得した利益とは、リース物件が返還時において有した価値と本来のリース期間の満了時において有すべき残存価値との差額(返還時とリース期間の満了時とにおけるリース物件の交換価値)とするのが相当であり、返還時からリース期間の満了時までのリース料額等を基礎にしてこれを算定することは相当ではない旨判断しているものであって、リース物件の返還によって取得した利益の清算の必要性を認めているものの、請求人が主張するように、新たな賃借人が支払う賃料や同通達の「処分価額」が、リース物件の返還によって取得した利益に該当する旨の判断がなされたものではないから、当該判決を引用する請求人の主張には理由がない。
E 加えて、請求人は、上記2の(2)のロの(ハ)のCの(A)ないし(C)の理由から、請求人にとって本件その他賃貸借契約は継続する以外に選択の余地はなく、中途解約をすべき事情は一切存在しない旨主張する。
 しかしながら、仮に、行政当局からの介護保険法上の指定の取消しの可能性など請求人が主張するような事情があるとしても、これらの事情をもって、本件その他賃貸借契約を継続する以外に選択の余地がないとまではいえず、この点についての請求人の主張にも理由がない。
ホ まとめ
 上記ハのとおり、L契約は、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」に該当し、その賃貸借期間に係る賃料総額については、当審判所の調査の結果によっても、法人税法第64条の2第3項第2号に規定する、いわゆるフルペイアウトの要件を満たしていると認められることから、L契約は、法人税法第64条の2第1項に規定する売買があったものとされるリース取引に該当するが、本件その他賃貸借契約は、「賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないもの」及び「これに準ずるもの」のいずれにも該当しない。したがって、本件その他賃貸借契約は、法人税法第64条の2第1項に規定する売買があったものとされるリース取引には該当しないものであるから、上記1の(3)のロの(ヘ)の消費税の取扱いについても、当該賃貸借の目的となる各建物の引渡日に各賃貸人から請求人への資産の譲渡があったものとは認められない。

(3) 争点3(本件各賃貸借契約が、法人税法第64条の2第1項に規定するリース取引に該当する場合において、当該リース取引に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、非課税売上げにのみ要する課税仕入れに該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 消費税法第30条第1項及び第2項は、上記1の(3)のロの(ニ)及び(ホ)のとおり規定しているところ、消費税法基本通達11−2−20は、同ロの(リ)のとおり、個別対応方式により課税仕入れ等の税額を計算する場合において、同ロの(ホ)の用途区分の判定は課税仕入れを行った日の状況により行うこととなるが、課税仕入れを行った日において、その区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、その区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分により消費税法第30条第2項第1号の規定を適用することとして差し支えない旨定めているところ、当該取扱いは当審判所においても相当と認められる。
 そして、この場合の課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れの目的及び当該課税仕入れに対応する課税売上げがある場合にはその課税売上げの内容を勘案して判断すべきものと解するのが相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) L契約に係る契約書によれば、V物件は、請求人が有料老人ホームの施設として利用することを目的に賃借することとされていた。
(ロ) V物件の施設内の設備について
 V物件の入居者用パンフレットによれば、V物件には、居室、食堂、ちゅう房、洗濯室、浴室、健康管理室などが設けられていた。
(ハ) V物件の入居者が支払う各種料金について
 V物件の入居契約書に記載された月額利用料表によれば、入居者は、月額利用料表に定められた賃料(非課税売上げ)とともに、業務委託費と食材費を合計した食費(課税売上げ)を支払うほか、要介護認定を受けていない入居者のうち希望者は、日用品の買物代行、居室清掃、洗濯等の生活サポート費(課税売上げ)を支払うことにより、これらの役務提供を受けることができる旨記載されており、これら費用の収受に対する消費税等の課税区分の取扱いは当審判所においても相当と認められる。したがって、V物件に係る入居契約は、それぞれの契約において、一の契約で消費税等が非課税となる住宅の貸付けと消費税等が課税となる役務の提供を約している契約であるといえる。
(ニ) 請求人の本件各課税期間におけるV物件に係る売上げの発生状況は、主に以下のとおりである。
A 課税売上げ
(A) 管理収入としての計上
 業務委託費及び食材費を合計した食費収入、生活サポート収入等
(B) 雑収入としての計上
 自動販売機設置手数料等
B 非課税売上げ
(A) 介護収入(消費税法第6条第1項による同法別表第一第7号イ、消費税法施行令第14条の2《居宅サービスの範囲等》第1項及び第3項第5号)としての計上
 入居者が介護サービスを受けたことによる介護保険収入
(B) 賃料収入(消費税法第6条第1項による同法別表第一第13号)としての計上
 入居者が毎月支払う賃料
(ホ) V物件の賃料総額
 請求人が支払うV物件の賃料は、1か月当たり3,850,000円であるところ、当該賃料の発生は、L契約に係る契約書によれば、平成23年1月分からであるので、賃貸借期間内の支払うべき賃料総額は897,050,000円(3,850,000円×233か月)である。
ハ 当てはめ
 本件各物件のうち、V物件の賃貸借については、上記(2)のホのとおり、法人税法第64条の2第1項に規定する売買があったものとされるリース取引に該当することから、V物件は、その引渡日に資産の譲渡があったと認められるところ、その引渡日である課税仕入れを行った日における建物としての用途は、上記ロの(イ)のとおり、請求人が有料老人ホームの施設として使用することが予定されていたものであったと認められる。
 一般に、有料老人ホームは、入居者が日常生活を送る場所として使用するほか、併せて日常生活を送る上で必要となる介護や生活サポート等のサービスの提供を受ける施設である。したがって、有料老人ホームとして使用されることが予定されていたV物件に係る課税仕入れは、単に、居住スペースの貸付け(非課税売上げ)及び介護サービスの提供(非課税売上げ)だけではなく、生活サポートの提供(課税売上げ)等の各種サービスの提供も予定されていたものであり、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れであるといえる。
 また、V物件の施設内の設備は、上記ロの(ロ)のとおり、非課税売上げに対応するために必要な居室等とともに、課税売上げに対応するために必要な食堂、ちゅう房等を備えており、請求人は、同ロの(ハ)のとおり、各入居者から、月額利用料表に定めた賃料(非課税売上げ)のほかに、課税売上げとして食費及び要介護認定を受けていない者のうち希望者から生活サポート費を収受することとしており、請求人においては、同ロの(ニ)のとおり、実際に本件各課税期間内に、V物件に係る課税仕入れに対応する売上げとして課税売上げと非課税売上げが生じている。
 以上のことから、V物件のリース取引に係る課税仕入れについての個別対応方式の適用に当たって、その課税仕入れの用途区分については、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れに区分するのが相当である。
ニ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、V物件のXクリニック部分を除いた部分は、全て入居者が生活を営む場又は入居者が日常生活を送る上で必要なサービスを提供するための場である住宅の貸付け、すなわち非課税売上げにのみ要する課税仕入れとするのが相当である旨主張する。
 しかしながら、請求人がV物件において自らが行う有料老人ホームの運営事業は、課税売上げと非課税売上げが生じる事業であるから、Xクリニック部分が請求人の支払うV物件の賃料総額に含まれているか否かにかかわらず、上記ハのとおり、V物件のリース取引に係る課税仕入れは、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れであり、非課税売上げにのみ要する課税仕入れとはいえない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分について

 本件各更正処分については、L契約は、上記(2)のホのとおり、売買があったものとされるリース取引に該当し、V物件のリース取引に係る課税仕入れの用途区分は、上記(3)のハのとおり、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れに区分されることから、本件各課税期間における納付すべき消費税等の額は、それぞれ次のとおりとなる。

イ 平成23年8月課税期間
(イ) 消費税
A 課税標準額 ○○○○円
B 課税標準額に対する消費税額 ○○○○円
 上記Aの金額に100分の4を乗じた金額である。
C 控除対象仕入税額 ○○○○円
 次の(A)の金額と(B)の金額の合計金額である。
 (A) 課税仕入れ等の税額の合計額のうち、課税売上げにのみ要するものの金額 ○○○○円
 (B) 課税仕入れ等の税額の合計額のうち、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものの金額に課税売上割合を乗じて計算した金額 ○○○○円
 上記1の(4)のチの平成23年8月課税期間の課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れの金額31,926,571,905円から本件23年8月期各物件に係る金額27,244,840,000円を控除し、上記(3)のロの(ホ)のV物件の賃料総額897,050,000円を加算した後の金額5,578,781,905円に105分の4を乗じた後の金額に、課税貨物に係る消費税額○○○○円を加算し、平成23年8月課税期間の課税売上割合(○○○○分の○○○○)を乗じた金額である。
D 納付すべき税額 ○○○○円
 上記Bの金額から上記Cの金額を控除した金額(国税通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第1項の規定により百円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。
(ロ) 地方消費税
A 地方消費税の課税標準となる消費税額 ○○○○円
 上記(イ)のDの金額である。
B 納付すべき譲渡割額 ○○○○円
 上記Aの金額に100分の25を乗じた金額(地方税法第20条の4の2《課税標準額、税額等の端数計算》第3項の規定により百円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。
ロ 平成24年8月課税期間
(イ) 消費税
A 課税標準額 ○○○○円
B 課税標準額に対する消費税額 ○○○○円
 上記Aの金額に100分の4を乗じた金額である。
C 控除対象仕入税額 ○○○○円
 次の(A)の金額と(B)の金額の合計金額である。
(A) 課税仕入れ等の税額の合計額のうち、課税売上げにのみ要するものの金額 ○○○○円
(B) 課税仕入れ等の税額の合計額のうち、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものの金額に課税売上割合を乗じて計算した金額 ○○○○円
 上記1の(4)のチの平成24年8月課税期間の課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れの金額29,097,216,252円から本件24年8月期各物件に係る金額23,743,440,000円を控除した後の金額5,353,776,252円に105分の4を乗じた額に、平成24年8月課税期間の課税売上割合(○○○○分の○○○○)を乗じた金額である。
D 納付すべき税額 ○○○○円
 上記Bの金額から上記Cの金額を控除した金額(国税通則法第119条第1項の規定により百円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。
(ロ) 地方消費税
A 地方消費税の課税標準となる消費税額 ○○○○円
 上記(イ)のDの金額である。
B 納付すべき譲渡割額 ○○○○円
 上記Aの金額に100分の25を乗じた金額(地方税法第20条の4の2第3項の規定により百円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。
ハ まとめ
(イ) 平成23年8月課税期間の更正処分について
 上記イのとおり、平成23年8月課税期間における納付すべき消費税額及び地方消費税額は、それぞれ、○○○○円及び○○○○円となり、原処分の額(消費税額○○○○円及び地方消費税額○○○○円)をいずれも下回るから、平成23年8月課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(ロ) 平成24年8月課税期間の更正処分について
 上記ロのとおり、平成24年8月課税期間における納付すべき消費税額及び地方消費税額は、それぞれ、○○○○円及び○○○○円となり、原処分の額(消費税額○○○○円及び地方消費税額○○○○円)をいずれも上回るから、平成24年8月課税期間の消費税等の更正処分は適法である。

(5) 本件第一次各賦課決定処分について

 上記1の(2)のホのとおり、本件第一次各賦課決定処分は平成26年6月4日付で取り消されていることから、本件第一次各賦課決定処分に係る審査請求はその対象を欠く不適法なものである。

(6) 本件第二次各賦課決定処分について

 平成23年8月課税期間の消費税等の更正処分は、上記(4)のハの(イ)のとおり、その一部が取り消されるべきであるところ、同(4)のイの税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成23年8月課税期間の過少申告加算税の額を、同(4)のハの(イ)により取り消した後の当該更正処分に係る納付すべき税額を基礎として同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて計算すると、別紙の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」のとおりとなり、その過少申告加算税の額(○○○○円)は、平成23年8月課税期間に係る本件第二次各賦課決定処分の過少申告加算税の額(○○○○円)を下回るから、平成23年8月課税期間に係る本件第二次各賦課決定処分については、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり、取り消すべきである。
 また、平成24年8月課税期間の消費税等の更正処分は、上記(4)のハの(ロ)のとおり適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9第1項の規定に基づいてされた平成24年8月課税期間に係る本件第二次各賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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