(平成27年3月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、建築設計業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原処分庁が、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)を受けた請求人から提出された所得税の修正申告書及び消費税等の期限後申告書に基づいて重加算税等の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、本件調査の手続(以下「本件調査手続」という。)には違法があるから当該各修正申告書及び当該各期限後申告書による修正申告及び期限後申告は無効であるなどとして、当該各賦課決定処分の全部の取消し等を求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

審査請求に至る経緯等は、次のとおりである。

イ 請求人は、平成18年分から平成24年分まで(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した各確定申告書を所轄税務署長に法定申告期限までにそれぞれ提出した。

ロ 請求人は、平成23年分の所得税について、別表1の「修正申告(1)」欄のとおり記載した修正申告書を所轄税務署長に平成24年11月13日に提出した。

ハ 原処分庁は、請求人の所得税及び消費税等につき、原処分庁所属の調査担当職員による本件調査を行い(以下、本件調査を行った調査担当職員を「本件調査担当職員」という。)、請求人は、平成25年11月22日に、本件各年分の所得税について、別表1の「修正申告(2)」欄のとおり記載した各修正申告書を、平成18年1月1日から同年12月31日まで、平成19年1月1日から同年12月31日まで、平成21年1月1日から同年12月31日まで、平成22年1月1日から同年12月31日まで及び平成23年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」及び「平成23年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、別表2の「期限後申告」欄のとおり記載した各期限後申告書を、それぞれ所轄税務署長に提出した(以下、所得税の当該各修正申告書及び消費税等の当該各期限後申告書を併せて「本件各修正申告書等」といい、本件各修正申告書等による修正申告及び期限後申告を併せて「本件各修正申告等」という。)。

ニ 原処分庁は、本件各修正申告書等の提出を受け、平成25年12月6日付で、別表1の「賦課決定処分(1)」欄のとおり、平成19年分、平成20年分及び平成23年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分並びに平成21年分及び平成24年分の所得税に係る重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、また、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、平成19年課税期間、平成21年課税期間及び平成23年課税期間の消費税等に係る重加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分並びに平成18年課税期間及び平成22年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分を行った。

ホ 請求人は、平成26年1月16日に、別表1の「異議申立て(1)」欄のとおり、平成19年分から平成21年分まで、平成23年分及び平成24年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の全部の取消しを求め、また、別表2の「異議申立て」欄のとおり、平成19年課税期間、平成21年課税期間及び平成23年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の全部の取消しを求めて異議申立てをした。

ヘ 原処分庁は、平成26年2月3日に、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成20年分から平成23年分までの所得税の各更正処分並びに平成20年分の所得税に係る重加算税の変更決定処分、平成21年分の所得税に係る重加算税及び過少申告加算税の各変更決定処分及び平成23年分の所得税に係る重加算税の取消処分を行い、また、別表2の「更正処分等」欄のとおり、平成21年課税期間及び平成23年課税期間の消費税等の各更正処分並びに平成21年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の変更決定処分及び平成23年課税期間の消費税等に係る重加算税の取消処分及び無申告加算税の変更決定処分を行った。
 また、平成19年課税期間の消費税等については、請求人が平成26年1月16日に、同課税期間は免税事業者であるとして消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を原処分庁に提出し、原処分庁は、請求人には当該課税期間の消費税等の申告義務はないとして、当該課税期間の消費税等に係る重加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分を取り消した。

ト 異議審理庁は、平成26年3月11日に、別表1の「異議決定」欄のとおり、平成19年分から平成21年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分についていずれも過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定、平成24年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分の一部について過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定とともに、平成23年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分に対する異議申立てを却下する異議決定をし、また、別表2の「異議決定」欄のとおり、平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分について無申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定とともに、平成19年課税期間及び平成23年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分に対する異議申立てをいずれも却下する異議決定をした。

チ 請求人は、平成25年11月22日にした平成18年分から平成21年分まで、平成23年分及び平成24年分の所得税の各修正申告、平成25年12月6日付でされた平成19年分から平成21年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(平成19年分については、平成26年3月11日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの、また、平成20年分及び平成21年分については、いずれも、平成26年2月3日付でされた各変更決定処分後、平成26年3月11日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)及び平成25年12月6日付でされた平成24年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定によりその一部について過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)並びに平成25年11月22日にした本件各課税期間の消費税等の各期限後申告及び平成25年12月6日付でされた平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定により無申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)について、平成26年4月2日に審査請求をした。

リ 原処分庁は、平成26年6月26日付で、別表1の「賦課決定処分(取消)」欄のとおり、平成25年12月6日付でされた平成19年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)及び別表2の「賦課決定処分(取消)」欄のとおり、平成25年12月6日付でされた平成18年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ取り消した。
 そして、原処分庁は、平成26年6月26日付で、別表1の「賦課決定処分(2)」欄のとおり平成19年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「平成19年分賦課決定処分」という。)をした。

ヌ 請求人が、上記リの平成19年分賦課決定処分の全部の取消しを求めて、平成26年7月28日に、別表1の「異議申立て(2)」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁が、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により当該異議申立てを審査請求として取り扱うことが適当であると認めて、請求人にその旨の同意を求めたのに対し、請求人が同年8月20日にこれに同意したため、同日に審査請求がなされたものとみなされた。
 そこで、上記審査請求について平成26年4月2日になされた審査請求と併合して審理する。

ル 請求人は、平成26年8月30日付の審査請求の取下書により、同年4月2日の審査請求のうち、平成19年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定により過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)及び平成19年課税期間の消費税等の期限後申告に係る審査請求を取り下げた。

以下、平成25年12月6日付でされた平成20年分及び平成21年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(平成26年2月3日付でされた各変更決定処分後、平成26年3月11日付でされた異議決定によりいずれも過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)を併せて「平成20年分及び平成21年分賦課決定処分」といい、平成25年12月6日付でされた平成24年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定により一部につき過少申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)を「平成24年分賦課決定処分」といい、平成25年12月6日付でされた平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分(平成26年3月11日付でされた異議決定により無申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)を「平成21年課税期間賦課決定処分」という。
 また、平成19年分賦課決定処分、平成20年分及び平成21年分賦課決定処分、平成24年分賦課決定処分及び平成21年課税期間賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令の要旨

イ 通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第65条第4項は、同条第1項の納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として計算した金額を控除する旨規定している。

ロ 通則法第66条《無申告加算税》第1項は、期限後申告書の提出又は決定があった場合には、当該納税者に対し、その申告又は決定に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。

ハ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

ニ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項第3号は、課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定は、その納税義務の成立の日から5年を経過した日以後においてはすることができない旨規定している。
 また、通則法第70条第4項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての賦課決定は、同条第1項の規定にかかわらず、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる旨規定している。

ホ 民法第95条《錯誤》は、意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする旨規定し、同条ただし書は、表意者に重大な過失があったときは、表意者は自らその無効を主張することはできない旨規定している。

(4) 基礎事実

次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、「L」の屋号で、主に建築設計業務、他に管理業務及び簡単な施工の請負などの業務(以下「本件業務」という。)を営む個人事業者である。

ロ 本件調査担当職員は、平成25年9月19日、請求人の自宅に赴き、本件調査を開始した。

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2 争点

争点1 本件各修正申告等は、調査手続の違法又は錯誤により無効となるため、本件各賦課決定処分が取り消されることとなるか否か。
争点2 請求人の平成24年分の所得税の申告について、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装した」事実があったか否か。
争点3 請求人の平成19年分の所得税の申告について、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があったか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件各修正申告等は、調査手続の違法又は錯誤により無効となるため、本件各賦課決定処分が取り消されることとなるか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
本件各修正申告等は、次のとおり調査手続の違法又は錯誤により無効となるため、本件各賦課決定処分は取り消されるべきである。 本件調査手続は、次のとおり通則法の調査手続の規定に従った適法なものであり、また、請求人には錯誤はないから、本件各修正申告等は無効となることはなく、本件各賦課決定処分は適法である。
(イ) 調査手続の違法について
A 調査対象期間の説明
本件調査において、請求人は、本件調査担当職員から、調査対象期間は「所得税は過去3年間、消費税等は過去6年間の修正申告等が必要になる。」と聞いただけで、所得税及び消費税等の調査を過去7年間分行う旨の説明は受けていない。
 また、請求人は、原処分庁が当該説明を行った旨主張する平成25年10月17日には、本件調査担当職員から簡単な質問を受けただけであり、7年間分の収入に係る請求書の控えなどの資料を提示するよう要求されなかったのであって、このことは、調査対象期間を7年間分とする調査を行う旨の説明がなかったことを裏付けるものである。
(イ) 調査手続の違法について
A 調査対象期間の説明
本件調査担当職員は、平成25年10月17日に、請求人に対し、調査対象期間について、所得税及び消費税等の調査を過去7年間分について行う旨を説明した。
 また、その際に、本件調査担当職員は、請求人に対し、平成16年4月6日から平成25年8月30日までの間の本件業務に係るM銀行d支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「M銀行口座」という。)の入金明細を資料として提示し、請求人が所得税の確定申告時において、本件業務に係るM銀行口座への入金分を収入に計上していない理由を聴取した。
B 調査結果の内容の説明
調査の終了に際し、平成25年11月22日の午前9時過ぎにK税務署1階面接ブースにおいて、請求人は、本件調査担当職員から、請求人に無断で既に作成されていた本件各修正申告書等を含む20枚近い各書類に署名及び押印(既に氏名が印字されていた書類には押印することを含む。以下「署名押印」という。)を指示されており、このことは強制にほかならない。
 さらに、請求人が指示されて本件各修正申告書等に署名押印をした際には、本件調査担当職員から本件各修正申告書等に記載された申告金額の説明、計算根拠となる資料の提示、申告書に附属する明細書等の記載事項の説明など、調査結果の内容の説明がなかった上、請求人は、本件調査担当職員から税額の総額を記載した1枚の資料の提示を受けたが、その内訳を記載した資料のコピーの交付を依頼したところ本件調査担当職員に拒否された。
 その後、請求人は、指示されて消費税関係の書類に署名押印し、本件調査担当職員から、所得税法に規定する青色申告の勧奨(以下「青色申告の勧奨」という。)を受け、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第3項に規定する納税者が修正申告又は期限後申告の勧奨を受けて納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を記載した書面(以下「本件教示書面」という。)を読むように手渡された後、納付相談のため午前10時前に徴収部門に案内されたが、この案内されるまでの請求人と本件調査担当職員が面談した限られた時間内では、数多くの書類への署名押印のほかに、7年間分に及ぶ所得税と消費税等の調査の内容の説明を受けることは、到底不可能であった。
 また、請求人は、当該徴収部門において所得税及び消費税等の税額の総額を認識することとなったことから、本件調査担当職員から説明不足の謝罪を受けた。これらのことは、調査結果の内容の説明が無かったことを裏付けるものである。
 結果、請求人は、本件各修正申告書等も含め各書類について、内容を確認することもできず、本件調査担当職員に言われるがまま、どのような内容の書類かも分かっていない状態で、指示されて本件各修正申告書等に署名押印をさせられたことから、税目別、各年別の税額を当該徴収部門で手渡された申告書控えにより、自宅で初めて知ることとなった。
B 調査結果の内容の説明
調査の終了に際し、本件調査担当職員は、平成25年11月22日、請求人に対して、法定手続として調査結果の説明を行う旨の明示を行った後に、本件調査により判明した課税標準等、税額等及び加算税に関する事項を整理して記載した「調査結果の説明書(所得税)」及び「調査結果の説明書(消費税)」と題する書面を用い、また、エクセルデータで各年ごとに税額を計算して整理した税額計算(所得税及び消費税等)の資料を示して(以下、これらの書面及び資料を「本件説明資料」という。)、所得税及び消費税等ともに7年間分の調査結果の内容を説明した上で、本件各修正申告等の勧奨を行った。
 上記の説明後、請求人は、本件調査担当職員があらかじめ用意していた本件各修正申告書等に署名押印していることから、本件調査担当職員が、請求人に対し、本件各修正申告書等に署名押印を強制した事実は認められない。
 また、修正申告及び期限後申告の勧奨を行うに当たって、納税者に対し、資料を提示する旨の法令上の規定はない。
C 法的効果の教示及び本件教示書面の交付
請求人は、平成25年11月22日の本件各修正申告書等への署名押印後、本件調査担当職員から青色申告の勧奨を受けた後、本件教示書面を手渡されたが、本件調査担当職員からは、本件教示書面に関する説明もなく、加算税及び延滞税の説明もなかった。
C 法的効果の教示及び本件教示書面の交付
本件調査担当職員は、平成25年11月22日の本件各修正申告等の勧奨の際に、請求人に対し本件教示書面を交付の上、本件教示書面に記載の教示(以下「法的効果の教示」という。)を行っており、その上で請求人は本件各修正申告書等を所轄税務署長に提出している。
 仮に、本件各修正申告書等への署名押印後に、法的効果の教示及び本件教示書面の交付が行われていたとしても、請求人は、本件調査担当職員から法的効果の教示を受けた後、自己の判断で自己の意思において本件各修正申告書等を所轄税務署長に提出していることから何ら問題ない。
D 質問応答記録書の作成
平成25年10月18日付の同月17日の質問調査の際の質問応答の内容を本件調査担当職員が記録した書面(以下「本件質問応答記録書」という。)について、請求人は本件質問応答記録書を黙読したのみであり、本件調査担当職員から読み聞かせもされず、内容の訂正等の有無についての説明や質問もされなかった。
 また、白紙の用紙にも署名及び押印を求められ、完成した本件質問応答記録書の原本も見せられず、請求人が審査請求後に確認したところ、確認印を押印した記憶もなく見たこともない集計表が添付されていた。
D 質問応答記録書の作成
本件質問応答記録書の作成後、本件調査担当職員が請求人に本件質問応答記録書の内容について読み聞かせを行おうとしたところ、請求人が「自分で読む。」と言って黙読し、その後、質問者である本件調査担当職員及び記録者である本件調査担当職員と同じ個人課税部門に所属する原処分庁所属の職員(以下「同席職員」という。)の双方が請求人に対し、訂正等がないかその場で確認している。
 白紙の本件質問応答記録書への押印は、記録者である同席職員の氏名を記載するページが最終のページの1行目になったため、請求人の了解を得た上で、2行目以降は斜線し、確認印を求めたものであり、本件質問応答記録書の内容は、それまでの調査内容に基づき、平成25年10月17日の本件調査担当職員と請求人の質問応答の内容を、本人の了解を得て記載したものである。
  E したがって、本件各修正申告等は、調査手続の違法により、無効となる。   E したがって、本件調査手続は、通則法の調査手続の規定に従った適法なものであることから、本件各修正申告等は無効となることはない。
(ロ) 錯誤について
請求人は、所得税は過去3年間、消費税等は過去6年間の修正申告等を所轄税務署長に対し行うつもりであったのに、上記(イ)のとおり本件調査担当職員から、調査対象期間の説明及び調査結果の内容の説明がなかったため、請求人は、どのような内容の書類に署名押印したのかも分かっていない状態で本件各修正申告書等を提出したものであり、仮に、7年間分の修正申告等であると分かっていたら、本件各修正申告書等には署名押印をしなかった。
 したがって、本件各修正申告等は、錯誤により無効となる。
(ロ) 錯誤について
A 調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、その内容を説明する際に、原則として修正申告等を勧奨することとしており、当該修正申告等の勧奨に応じて修正申告書及び期限後申告書を提出するかどうかは、あくまでも納税者の任意の判断である。
B 請求人は、平成25年11月22日の調査の終了に際し、本件調査担当職員の本件各修正申告等の勧奨により、本件各修正申告書等に自ら署名押印したこと、法的効果の教示を受けた後に本件各修正申告書等を提出しないという意思表示を行うこともなく本件各修正申告書等を提出したことから、自己の判断で自己の意思において本件各修正申告等を行ったものと認められ、錯誤の事情は存しないというべきである。
 したがって、本件各修正申告等は、錯誤により無効となることはない。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
A 調査手続の違法について
 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出(調査による更正があるべきことを予知してされたものでないときを除く。)又は更正があったときに賦課され、同法第66条に規定する無申告加算税は、期限後申告書の提出又は決定があった場合に賦課されるものである。
 また、通則法第24条《更正》は、税務署長が、調査により、課税標準等又は税額等を更正する旨規定し、同法第25条《決定》は、税務署長が、調査により、課税標準等及び税額等を決定する旨規定している一方、同法第19条《修正申告》は、納税申告書を提出した者は、更正があるまでは修正申告書を税務署長に提出することができる旨規定し、同法第18条《期限後申告》は、期限内申告書を提出すべきであった者は、提出期限後においても、決定があるまでは、納税申告書を税務署長に提出することができる旨規定している。
 そうすると、更正に基づき過少申告加算税の賦課決定処分が行われた場合及び決定に基づき無申告加算税の賦課決定処分が行われた場合においては、当該更正及び決定は「調査により」行わなければならないことから、仮に、調査手続に重大な違法があり調査が無いに等しいと評価された場合には、更正及び決定の取消事由となり、それらに基づき行われた賦課決定処分も取り消されることとなる。
 他方、修正申告及び期限後申告は、税務署長の調査の有無にかかわらず、納税者が自己の意思により行うものであって、更正や決定と異なり、調査が要件になっているものではない。したがって、修正申告又は期限後申告が課税庁の調査を受けてなされた場合であっても、当該調査の手続上の違法があることのみを理由に、その申告が無効になることはなく、当該申告に基づき行われた過少申告加算税又は無申告加算税の賦課決定処分が取り消されることもないと解すべきである。
B 錯誤について
 所得税法及び消費税法は、申告納税制度を採用し、通則法が、申告書記載事項の過誤の是正について通則法第19条及び同法第23条《更正の請求》の規定を設けた趣旨は、所得税及び消費税の課税標準等の決定については、最もその事情に通じている納税者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務をできるだけ速やかに確定させるべき国家財政上の要請に応ずるものであり、納税者に対しても過度の不利益を強いるおそれがないと認めたからにほかならない。
 したがって、修正申告等の錯誤無効の主張は、単に納税者が錯誤に基づき申告したにとどまらず、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されると解するのが相当である。

(ロ) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件調査について、次の事実が認められる。
A 本件各修正申告書等の氏名欄には請求人の氏名が記載され、氏名欄の末尾に請求人の印鑑による印影がある。
B 本件質問応答記録書には、平成16年4月6日から平成25年8月30日までの間の本件業務に係る収入の振込銀行であるM銀行口座の入金明細の資料が添付され、請求人の署名及び押印がされている。
C 本件調査に係る調査経過記録書及び調査手続チェックシート(以下、これらを併せて「本件調査経過記録書等」という。)には、要旨以下のとおり記述がある。
(A) 調査対象期間の説明
 平成25年10月17日AM9:58〜11:30。請求人の自宅に臨場。これまでは調査対象期間は3年間としていたが、所得税及び消費税等ともに7年間遡及し、事前通知事項以外の事項に係る質問検査等として、平成18年分から平成21年分までの所得税の調査及び平成18年課税期間から平成24年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成24年課税期間」という。)までの消費税等の調査を実施する旨伝えた。
(B) 調査結果の内容の説明
 平成25年11月22日AM9:05〜10:25。本人来署。K税務署1階3ブースにて、所得税及び消費税等ともに7年間分の調査結果の内容を説明し、各年分の修正申告等を勧奨した。
 その際、修正申告等に伴う法的効果の教示を行い、本件教示書面を交付して、修正申告等の勧奨を行った。
 本件各修正申告書等の提出を受けた。
D 本件調査担当職員及び本件調査担当職員が所属する個人課税部門の統括国税調査官(以下「本件統括官」といい、本件調査担当職員及び本件統括官を併せて「本件調査担当職員等」という。)は、当審判所に対し、本件調査の状況について、要旨以下のとおり答述した。
(A) 調査対象期間の説明
 本件調査担当職員は、平成25年10月17日に請求人の自宅に臨場して、請求人と面談した。そして、請求人に対し、これまでは調査対象期間は3年間としていたが、所得税及び消費税等ともに7年間遡及し事前通知事項以外の事項に係る質問検査等として平成18年分から平成21年分までの所得税の調査及び平成18年課税期間から平成24年課税期間までの消費税等の調査を実施する旨を伝えた。
 また、本件調査担当職員は、請求人に対し、平成16年4月6日から平成25年8月30日までの間の本件業務に係るM銀行口座の入金明細を資料として請求人に提示して、請求人が所得税の確定申告において、本件業務に係るM銀行口座への入金分を収入に計上していない理由や収入金額の集計方法について聴取した。
 本件調査担当職員は、帰署後、当日の聴取内容に基づき本件質問応答記録書を作成するとともに、調査の状況を本件調査経過記録書等に記載し、本件統括官は、その復命を受け、調査の状況の確認を行った。
(B) 調査結果の内容の説明
 本件調査担当職員は、平成25年11月22日の午前9時過ぎから、K税務署1階第3ブースにて、請求人と面談した。本件調査担当職員は、請求人に対し、本件説明資料により、所得税及び消費税等ともに7年間分の調査結果の内容を説明した上で、本件各修正申告等の勧奨を行った。
 上記の説明後、請求人は、本件調査担当職員があらかじめ用意していた本件各修正申告書等に署名押印した。
 そして、本件調査担当職員は、請求人との面談後、当日の調査の状況を本件調査経過記録書等に記載し、本件統括官は、その復命を受け、調査の状況の確認を行った。
(C) 調査経過記録書及び調査手続チェックシートの記載
 一般的に、調査に際しては、調査を担当する職員は、日々の調査の状況について、調査経過記録書及び調査手続チェックシートに記載し、統括国税調査官は、原則、その日に、当該職員から復命を受けて当該調査の状況の確認を行うこととされている。

(ハ) 判断
A 調査手続の違法について
 請求人は、本件調査手続は、通則法の調査手続の規定に従っていない違法な調査であるため、本件各修正申告等は無効であり、本件各賦課決定処分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAのとおり、そもそも調査手続の違法は、それのみを理由として修正申告及び期限後申告の有効性に影響を及ぼすものではないと解されることから、たとえ調査手続に違法があったとしても、そのことのみで修正申告及び期限後申告が無効となることはないのであるから、請求人の主張は採用できない。
B 錯誤について
(A) 調査対象期間の説明
 上記(ロ)のDの(C)のとおり、一般的に、調査を担当する職員は、日々の調査の状況について、調査経過記録書及び調査手続チェックシートに記載し、統括国税調査官は、原則、その日に、当該職員から復命を受けて当該調査の状況の確認を行うこととされている旨の答述は、税務行政において一般的に行われていることであって何ら不自然な点はなく、税務職員が調査経過記録書等に虚偽の内容の記載をする事情も通常考えられないことから、調査経過記録書等の記述の内容には信用性があると認められる。
 そして、上記(ロ)のCの(A)のとおり、本件調査経過記録書等には、本件調査担当職員が請求人に対し、平成25年10月17日に、これまでは調査対象期間は3年間としていたが、所得税及び消費税等ともに7年間遡及し、事前通知事項以外の事項に係る質問検査等として、平成18年分から平成21年分までの所得税の調査及び平成18年課税期間から平成24年課税期間までの消費税等の調査を実施することを伝えた旨の記述があること、上記(ロ)のDの(A)のとおり、本件調査担当職員等は、上記記述と同様の答述をするとともに、請求人に対し、同日、平成16年4月6日から平成25年8月30日までの間の本件業務に係るM銀行口座の入金明細を資料として請求人に提示し、請求人が所得税の確定申告において、本件業務に係るM銀行口座への入金分を収入に計上していない理由や収入金額の集計方法について聴取した旨答述していること、及び平成25年10月17日の聴取内容に基づき作成した本件質問応答記録書に、上記(ロ)のBのとおり、M銀行口座の入金明細の資料が添付され、請求人の署名及び押印があることは、本件調査担当職員が本件調査経過記録書等の作成時点である平成25年10月17日に、調査対象期間を7年間に拡大する旨請求人に伝えたという事実の存在を示すものと認められる。
 そうすると、本件調査において調査対象期間の説明は行われたと認めるのが相当である。
(B) 調査結果の内容の説明
 上記(ロ)のCの(B)のとおり、本件調査経過記録書等には、本件調査担当職員が請求人に、平成25年11月22日の調査の終了に際し、調査結果の内容の説明を行い本件各修正申告等の勧奨を行ったとの記述があり、上記(ロ)のDの(B)のとおり、本件調査担当職員等の上記記述に沿う内容の答述があるところ、上記(ロ)のDの(C)の答述内容は上記(A)のとおり何ら不自然な点はないことからすると、本件調査担当職員は、本件調査経過記録書等に本件調査の状況を日々記載し、本件統括官は、本件調査の状況の確認を日々行っていたものと認められ、本件調査担当職員が虚偽の内容を記述する事情も見当たらないことから、これらの記述の内容には信用性があり、したがって、本件調査担当職員は、本件説明資料を用いて調査結果の内容の説明を行い本件各修正申告等の勧奨を行ったと認められる。
 また、税務職員が調査の終了の際に修正申告等を勧奨するに当たり、修正申告等の申告金額の算出方法はおろか修正申告等の申告金額そのものすら説明しないということは通常考えられず、説明しない理由もない。
 そうすると、本件調査において、調査結果の内容の説明は行われたと認めるのが相当である。
(C) 上記(ロ)のAのとおり、本件各修正申告書等には、請求人の氏名が記載され、請求人の印鑑による印影があること、及び請求人は、本件各修正申告書等に署名押印をしたことについては争っていないことから、本件各修正申告等が請求人の意思に基づいて行われたとの推定ができるところ、1修正申告書及び期限後申告書は具体的な納税義務を発生させるものであるから、内容を確認しないで署名押印をすることは通常あり得ないこと、2上記(A)のとおり、本件調査担当職員は調査期間中に調査対象となる税目と年分を請求人に伝えており、また、上記(ロ)のDの(A)のとおり、本件調査担当職員は、平成16年以降のM銀行口座の入金明細を請求人に示した上、質問調査をしていることなどから、請求人は調査対象期間を認識していたと認められること、並びに3上記(A)及び(B)のとおり、本件調査担当職員は請求人に、7年間分の調査結果の内容の説明を行ったと認められるのであるから、請求人は調査結果の内容を知っていたと認められることを総合して判断すると、請求人は、税目、年分を認識した上で本件各修正申告書等に署名押印し、提出したと認められるのであって、請求人の主張するような錯誤があったとは認められない。
C まとめ
 本件各修正申告等が調査手続の違法又は錯誤により無効となるかについては、上記A及びBのとおり判断されることから、本件各修正申告等が無効となることはない。

(2) 争点2(請求人の平成24年分の所得税の申告について、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装した」事実があったか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 請求人の平成24年分の所得税の申告については、次のとおり通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装した」事実があるため、平成24年分賦課決定処分は適法である。 請求人の平成24年分の所得税の申告については、次のとおり通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装した」事実はないことから、平成24年分賦課決定処分は取り消されるべきである。
(イ) 請求人は、1本件業務の収入に係る請求書(以下「本件請求書」という。)を全て作成していたこと、2本件業務の収入は、N銀行e支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「N銀行口座」という。)及びM銀行口座(以下、N銀行口座及びM銀行口座を併せて「本件口座」という。)に入金されていたことを認識しており、請求人自身が入金を確認していたこと及び3当該入金額は全て収入で間違いない旨申述していることからすれば、請求人は平成24年分の全ての収入金額を把握していたと認められる。 (イ) 請求人は、本件請求書控えを平成22年分以降、得意先からの問い合わせに答えるため振込銀行ごとに整理していたものであり、収入金額を過少に収支内訳書に記載する目的で区分整理していたものではない。また、振込銀行ごとに異なる様式を用いていた事実はない。
(ロ) 請求人は、日頃、日付順に保管していた本件請求書のコピー(以下「本件請求書控え」という。)をあえて確定申告前に振込先ごとに区分してつづり、妻に交付し、妻に収支内訳書を作成させていたことが認められ、そして、当該収支内訳書には、M銀行口座に入金された収入金額が計上されておらず、平成24年分の収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には真実の収入金額が記載されていなかった。 (ロ) 請求人の収入金額の計上漏れは、事務手続の不慣れに加え、処理の慎重さに欠けることに由来するものである。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)のことから、請求人は、全ての収入金額を把握できたにもかかわらず、あえて振込先がM銀行口座である本件請求書控えを別つづりにすることにより、収入金額を過少に収支内訳書に記載し、収入金額の一部を計上していなかったと認められ、このことは、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。 (ハ) 請求人は、本件調査の際に、本件調査担当職員に対し、振込先をN銀行口座とした本件請求書控えのみ提示したのは、N銀行がメインであったので、N銀行口座の預金通帳を見れば分かると思ったからであり、また、本件調査担当職員からM銀行口座に関する本件請求書控えを提示するようにも言われなかったからである。
 前回の調査において、M銀行口座への振込みの収入があることは確認済みであるとも思ったからであり、関係資料の隠ぺいを図ったものではない。
  (ニ) 平成23年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分については、更正処分により、仮装又は隠ぺいの事実はなかったとして既に取り消されていることから、この取消しの事実により、平成24年分においても、収入金額を過少に収支内訳書に記載する目的でM銀行口座に係る本件請求書控えをあえて別つづりにしたものではないことが証明される。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第68条第1項は、上記1の(3)のハのとおり規定するところ、重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税より重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告行為がされたことを要するものと解される。

(ロ) 認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 平成26年2月14日の請求人の申述によれば、請求人及びその妻は、本件業務の収入金額が10,000,000円を超えると、当該収入金額に含まれている消費税等を全額納めなければならないと認識していた。
B 請求人の本件各年分の所得税の確定申告書の事業所得に係る収入金額は、いずれも10,000,000円を下回っており、また、平成18年課税期間から平成23年課税期間までについて、消費税等の申告もなかった。
C 請求人は、日頃、本件業務の収入に関して本件請求書は作成しているものの帳簿は作成していなかった。
 また、請求人は、通常、取引先へ本件請求書を送付する前に当該本件請求書のコピーを取ってこれを控え(本件請求書控え)とし、請求日付順に請求人の事務所内で保管し、請求人が管理していた。
D 請求人は、本件口座への本件業務に係る入金を、その預金通帳で確認していた。
E 請求人は、特定の取引先の本件請求書に、請求金額の振込先としてM銀行口座を指定し、振り込ませていた。
F 請求人は、上記Cのとおり本件請求書控えを日付順にして保管していたが、平成22年以降の分は、確定申告前に、当該本件請求書控えをN銀行口座への振込みに係るものとM銀行口座への振込みに係るものとに区分してつづり、妻に渡していた。
G 請求人の確定申告に際し、請求人の妻は、請求人から渡された上記Fの本件請求書控えを集計して収支内訳書を作成の上、請求人の確定申告書を作成していた。
H 請求人の平成24年分の収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、真実の総収入金額約○○○○円のうち、M銀行口座に振り込まれた収入金額全額の約2,000,000円を含む約3,300,000円が計上されておらず、また、収支内訳書の「売上(収入)金額の明細」欄の主な取引先の欄にもM銀口座に入金のあった取引先及び当該入金額を記載していなかった。
I 請求人は、平成24年分の事業所得の収入金額に計上していなかったM銀行口座への振込に係る本件請求書控えを、自宅裏の倉庫内及び請求人の事務所内に保管していたが、本件調査に際し、当該本件請求書控え及び請求人の事務所内に保管していたM銀行口座の預金通帳のいずれも、本件調査担当職員に対し提示しなかった。

(ハ) 判断
A 上記の事実によれば、1上記(ロ)のAのとおり、請求人及びその妻は、収入金額が10,000,000円を超えると消費税等を納めなければならなくなるとの共通認識を有していたこと、2上記(ロ)のC及びDのとおり、請求人は、本件請求書控えを管理し、自身で本件口座への本件業務に係る入金を確認していたことから、請求人は、平成24年分の本件業務に係る真実の収入金額を把握していたこと、3上記(ロ)のEのとおり、請求人は、特定の取引先について、M銀行口座を指定し振込入金させていたこと、4上記(ロ)のFのとおり、請求人は、確定申告書を作成する際、N銀行口座への振込みに係る本件請求書控えとM銀行口座への振込みに係る本件請求書控えを別々につづり、請求人の妻に渡していたこと、5請求人の妻は、上記(ロ)のG及びHのとおり、収支内訳書の「売上(収入)金額」欄にM銀行口座に入金された本件業務に係る収入金額を除外した金額を記載し、また、「収支内訳書の売上(収入)金額の明細」欄の主な取引先の欄にも当該除外した取引先を記載せず、収支内訳書及び所得税の確定申告書を作成していたこと、6請求人は、請求人の妻の作成した事業所得の収入金額が10,000,000円を下回る収支内訳書及び所得税の確定申告書を、上記(ロ)のBのとおり提出していたこと、並びに7上記(ロ)のIのとおり、請求人は、収入金額に計上していなかったM銀行口座の預金通帳を請求人の事務所内に、また、本件請求書控えを自宅裏の倉庫内及び請求人の事務所内に保管していたが、本件調査担当職員に対しいずれも提示しなかったことが認められる。
 以上のことから、請求人及びその妻は、収入金額が10,000,000円を超えると消費税等を納めなければならなくなるとの共通認識の下で、それぞれが分担し、あらかじめ特定の取引先にM銀行口座への振込を依頼し、当該振込に係る本件請求書控えを別につづった上で、M銀行口座に振り込まれた収入金額を除外した収支内訳書を作成することにより収入金額の一部を隠ぺいし、当該収支内訳書に基づき作成した平成24年分の所得税の確定申告書を提出したと認められる。
 したがって、請求人には、平成24年分の所得税について隠ぺい、仮装した行為が存在し、これに基づいて過少申告をしたのであるから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているものと認められる。
B これに対し、請求人は、上記イの「請求人」欄の(イ)のとおり、本件請求書控えを区分整理していたのは、得意先からの問い合わせに答える目的のためであって、収入金額を過少に収支内訳書に記載する目的ではなかった旨主張するが、得意先からの問い合わせに答える目的と収入金額を過少に収支内訳書に記載する目的は両立し得ることに加え、日付順に保管していた本件請求書控えを確定申告前にあえて振込口座ごとにつづったことも不自然であり、M銀行口座に振り込まれた収入金額を収支内訳書の「売上(収入)金額」欄に計上していなかったことからすると、本件請求書控えを区分整理していたことは、得意先からの問い合わせに答える目的のみであったとは考えられず、上記Aの判断は妨げられない。
 また、請求人は、上記イの「請求人」欄の(ロ)のとおり、収入金額の計上漏れは、事務手続の不慣れ等に由来する旨主張するが、1上記(ロ)のA及びBのとおり請求人及びその妻は収入金額が10,000,000円を超えると消費税等を納めなければならなくなるとの共通認識を有していたこと、及び2上記(ロ)のC及びDのとおり、請求人は本件業務に係る収入金額を正確に把握していたと認められ、そうであれば、確定申告書に記載された収入金額が過少であることに気付くのが通常であることからすれば、収入金額の計上漏れの原因が事務手続の不慣れ等によるとは考えられず、したがって、請求人の主張には理由がない。
 さらに、請求人は、上記イの「請求人」欄の(ハ)のとおり、M銀行口座への振込みに係る本件請求書控えを本件調査担当職員に対し提示しなかったのは関係資料の隠ぺいを図ったものではない旨主張するが、請求人は本件業務に係る収入金額のうちM銀行口座への振込分を除外していることからすれば、M銀行口座への振込みに係る本件請求書控え及びM銀行口座の預金通帳を本件調査担当者に提示することにより、当該振込分の収入金額を除外している事実が発覚するのを避けるため、あえて提示しなかったと推認されるから、請求人の主張には理由がない。
 加えて、上記イの「請求人」欄の(ニ)のとおり、平成23年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分が平成26年2月3日付で取り消されたことをもって、平成24年分賦課決定処分も取り消されるべき旨主張するが、平成23年分と平成24年分とでは、収入金額に計上されなかった収入の範囲、その振込先の預金口座などこれらの賦課決定処分の基礎となる事実関係は異なるから、請求人の主張を採用することはできない。

(3) 争点3(請求人の平成19年分の所得税の申告について、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があったか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 請求人の平成19年分の所得税の申告については、次のとおり通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があるため、平成19年分賦課決定処分は適法である。
(イ) 請求人は、1本件請求書を全て作成していたこと、2本件業務の収入は本件口座に入金されていたことを認識しており、請求人自身が入金を確認していたこと、3本件請求書控えを保管していたこと、4確定申告の際に本件請求書控えを妻に交付し、妻に収支内訳書を作成させていたことから、請求人は、平成19年分の収入金額を、本件請求書控え及び本件口座の預金通帳から把握していたにもかかわらず、収支内訳書裏面の「売上(収入)金額の明細」欄の「上記以外の売上先の計」欄に真実の収入金額より、はるかに少ない金額を記載した収支内訳書を作成していたと認められる。
(ロ) このことは、真実の所得を隠匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得金額を過少にした虚偽の収支内訳書を作成し、当該虚偽の収支内訳書に基づいた確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為であるから、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に当たると認められる。
 請求人の平成19年分の所得税の申告については、次のとおり通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」はないことから、平成19年分賦課決定処分は取り消されるべきである。
(イ) 請求人の単なる集計誤りについて、偽計があったとする特段の行為の存在を立証することなく、偽りその他不正の行為であると断定することは、根拠の無い、合理性に欠ける判断である。
 請求人には、税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめる偽計等の不正な行為をした事実及び所得を過少に申告する意図の下に、その意図を外部からもうかがい得る特段の行為をした事実はない。
(ロ) 請求人の平成19年分の収支内訳書において、本来主な取引先であるP社の金額については、収支内訳書裏面の「売上(収入)金額の明細」欄の「上記以外の売上先の計」欄以外の「主な取引先ごとの収入金額」欄に個別に表示されるべきであるが、それが個別に表示されていなかったことは、税を免れる目的とした意図的なものではなく、事務手続の不慣れに加え、処理の慎重さに欠けることに由来するものであるとみるのが妥当であり、収支内訳書裏面の「売上(収入)金額の明細」欄の「上記以外の売上先の計」欄からP社の収入金額を除くと、当該「上記以外の売上先の計」欄の金額は、原処分庁がいう真実の収入金額よりはるかに少ない金額とはならない。
(ハ) 重加算税の賦課決定処分については、異議決定により、隠ぺい又は仮装の事実はなかったとして既に取り消されている。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第70条第4項は、納税者が「偽りその他不正の行為」により国税を免れた場合の更正決定等の除斥期間を7年と規定し、それ以外の場合よりも長い除斥期間を規定している。
 これは、納税者が「偽りその他不正の行為」によって国税の全部又は一部を免れた場合、納税者間の公平を確保する必要があることなどを考慮し、適正な課税を行うことができるように、通常の場合よりも長期間その国税の賦課を可能として、適正、公平な課税の実現を図ることとしたものである。
 このような通則法第70条第4項の趣旨からすれば、同項が規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図のもとに税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正行為を行うことをいうものと解するのが相当である。

(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の妻は、請求人の平成19年分の所得税の確定申告書及び収支内訳書を作成した。
B 請求人の平成19年分の収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、総収入金額約○○○○円のうち約1,900,000円が計上されておらず、真実の収入金額が記載されていなかった。
C 請求人は、平成21年分以前の本件請求書控えを自宅裏の倉庫内に保管していたが、本件調査に際し、本件請求書控えなどの資料を本件調査担当職員に対し提示しなかった。

(ハ) 判断
A 上記の事実によれば、1上記(2)のロの(ロ)のAのとおり、請求人及びその妻は、収入金額が10,000,000円を超えると消費税等を納めなければならなくなるとの共通認識を有していたこと、2上記(2)の(ロ)のC及びDのとおり、請求人は、本件請求書控えを管理し、自身で本件口座への本件業務に係る入金を確認していたことから、請求人は、平成19年分の本件業務に係る真実の収入金額を把握していたこと、3請求人の妻は、上記(ロ)のA及びBのとおり、収支内訳書の「売上(収入)金額」欄に本件業務に係る収入金額の一部を計上せず、平成19年分の収支内訳書及び所得税の確定申告書を作成したこと、4請求人は、請求人の妻の作成した事業所得の収入金額が10,000,000円を下回る収支内訳書及び所得税の確定申告書を、上記(2)の(ロ)のBのとおり提出していたこと、並びに5上記(ロ)のCのとおり、請求人は、本件請求書控えを自宅裏の倉庫内に保管していたが、本件調査に際し、当該本件請求書控えなどの資料を本件調査担当職員に対し提示しなかったことが認められることから、請求人は、故意に収支内訳書の「売上(収入)金額」欄に真実の収入金額を記載せず、収入金額を過少に計上した収支内訳書を作成することにより、収入金額の一部を脱漏し、また、脱漏した収入金額が発覚しないよう本件請求書控えを提示しなかったと認めるのが相当であり、請求人には税の賦課徴収を不能又は困難にするような不正の行為があったと認められる。
 したがって、以上のことを上記(イ)の法令解釈に当てはめると、請求人の平成19年分の所得税の確定申告について、税の賦課徴収を困難にする偽計その他の工作により平成19年分の所得税を過少申告し、所得税の一部を免れたということが認められ、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があったと認められる。
B これに対し、請求人は、上記イの「請求人」欄のとおり、請求人の平成19年分の所得税の申告について、事務手続の不慣れ等により収入金額が計上されなかったものであり、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」はない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)の(ロ)のC及びDのとおり、請求人は、本件業務に係る収入金額を正確に把握していたと認められ、そうであれば、確定申告書に記載された収入金額が過少であることに気付くのが通常であるから、過少申告の原因が事務の不慣れ等によるとは考えられず、したがって、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、平成19年分の所得税に係る重加算税については、隠ぺい又は仮装した事実がなかったものとして取り消されていることから、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」もなかった旨主張する。
 しかしながら、通則法第68条に規定する重加算税は、納税義務違反の発生を防止し、徴税の実を挙げる趣旨で設けられた行政機関による制裁であるのに対し、同法第70条第4項は税負担の執行面における公平さを確保するための制度であり、その趣旨及び目的を異にするものであり、また、具体的事案においては、その他の要件及び効果を異にするものであって、常に軌を一にして適用されなければならない理由はないと解されている。
 本件においては、上記Aのとおり請求人に「偽りその他不正の行為」があったと認められることから、請求人の主張は採用できない。

(4) 原処分等の適法性について

イ その他の審査請求の対象について

請求人は、平成25年11月22日にされた平成18年分から平成21年分まで、平成23年分及び平成24年分の所得税の各修正申告並びに平成18年課税期間及び平成21年課税期間から平成23年課税期間までの消費税等の各期限後申告(以下、これらを併せて「本件各申告」という。)が無効であると主張して、その全部の取消しを求めている。
 しかしながら、本件各申告は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらないから、本件審査請求のうち、これらの本件各申告の取消しを求める部分の審査請求は不適法である。

ロ 本件各賦課決定処分について

上記(1)のロの(ハ)のCのとおり、本件各修正申告等は無効となることはなく、これを理由にして、本件各賦課決定処分が取り消されることはないところ、以下、本件各賦課決定処分の適法性について判断する。

(イ) 平成19年分賦課決定処分
 平成19年分の所得税の確定申告については、上記(3)のロの(ハ)のAのとおり、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事由があることから、加算税の賦課決定の除斥期間を7年とする同項の規定が適用される。
 そして、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づきなされた平成19年分賦課決定処分は適法である。

(ロ) 平成20年分及び平成21年分賦課決定処分
 平成20年分及び平成21年分の所得税の修正申告については、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づきなされた平成20年分及び平成21年分賦課決定処分はいずれも適法である。

(ハ) 平成24年分賦課決定処分
 平成24年分の所得税の修正申告については、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、平成24年分の所得税の修正申告のうち、M銀行口座に振り込まれた本件業務に係る収入金額部分については、上記(2)のロの(ハ)のAのとおり、請求人は、当該収入金額を除外して収支内訳書を作成していたことが認められ、このような請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし又は仮装して確定申告書を提出しており、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしている。
 したがって、通則法第65条第1項及び同法第68条第1項の規定に基づきなされた平成24年分賦課決定処分は適法である。

(ニ) 平成21年課税期間賦課決定処分
 平成21年課税期間の消費税等の期限後申告については、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書にいう正当な理由があるとは認められないことから、同項の規定及び地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づきなされた平成21年課税期間賦課決定処分は適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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