(平成27年4月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、平成25年1月○日に死亡したD(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、審査請求人(以下「請求人」という。)が、法定申告期限の後に申告書を提出したことに伴い、原処分庁が、無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、本件相続に係る共同相続人は、法定申告期限内に共同で申告書を提出しており、当該申告書は、請求人の押印を欠くものの、請求人の申告の意思に基づいて提出された有効な申告書であるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実(請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実)

イ 本件相続に係る共同相続人(以下「本件共同相続人」という。)は、本件被相続人の妻であるE、長女であるF(以下「長女」という。)、長男であるG(以下「長男」という。)、次男である請求人及び次女であるJ(以下「次女」という。)の5名である。

ロ 本件被相続人の遺産に係る分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)は、平成25年10月27日に成立し、同日、遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)が作成された。

ハ 原処分庁は、本件相続に係る相続税の法定申告期限内である平成25年11月12日に、請求人の課税価格○○○○円及び納付すべき税額○○○○円と記載された本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件第一次申告書」という。)を収受した。
 なお、本件第一次申告書は、相続により財産を取得した者が共同で提出することができる形式の申告書であり、同申告書の「財産を取得した人」欄には、本件共同相続人の各氏名が記名され、各課税価格及び各納付すべき税額等がいずれも記載されているが、次女以外の本件共同相続人の押印はされていない。

ニ 請求人は、本件相続に係る相続税の法定申告期限後である平成26年2月24日に、原処分庁に対し、本件第一次申告書とは別に、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件第二次申告書」という。)を提出した。
 なお、本件第二次申告書には、「財産を取得した人」欄に、請求人の署名及び押印があり、本件第一次申告書と本件第二次申告書は、押印の有無について相違があるものの、課税価格及び納付すべき税額は同一である。

ホ 原処分庁は、本件第二次申告書が法定申告期限後に提出されたことを理由として、平成26年3月17日付で無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ヘ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成26年4月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月4日付で棄却する旨の異議決定をした。

ト 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成26年7月1日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙のとおりであり、別紙を含め、以下、国税通則法を「通則法」という。

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2 争点

本件第一次申告書は、請求人の期限内申告書に該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
本件第一次申告書は、請求人の押印がないため、通則法第124条第2項の規定を充足していない。
 加えて、申告書の効力は、申告の意思に基づいて提出されたものと認められるか否かによって判断すべきであるところ、本件第一次申告書は、その書面等から、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものと判断することはできず、請求人が主張する本件第一次申告書の提出時点で本件遺産分割協議が成立していた事実や請求人自身が相続税を納付した事実等を踏まえても、本件第一次申告書が、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものとは認められない。
 したがって、本件第一次申告書は、請求人の期限内申告書に該当しない。
本件第一次申告書は、請求人の押印がないが、このような場合、単なる押印漏れであることも考えられるから、押印がないことのみをもって申告書の効力がないとはいえず、申告書が申告の意思に基づいて提出されたと認められるか否かによりその効力を判断すべきである。
 そして、本件第一次申告書は、長女が本件共同相続人5人分の共同申告書として、B税務署に直接持参したものである上、本件第一次申告書の提出時点では既に本件遺産分割協議が成立し、申告に対する障害はなく、本件第一次申告書には、本件遺産分割協議書が添付されていた。また、請求人の相続税については、請求人自身が出捐し、金融機関に赴いて納期限内に納付を行った。これらの事実によれば、本件第一次申告書は、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものと認めることができる。
 したがって、本件第一次申告書は、請求人の期限内申告書に該当する。

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4 判断

(1) 法令解釈

別紙の4のとおり、通則法第124条は、納税申告書には氏名を記載し、押印しなければならない旨規定している。また、別紙の5及び6のとおり、相続税法第27条及び相続税法施行令第7条は、相続により財産を取得した二人以上の者が相続税の申告書を共同して提出する場合には、共同申告書(共同して提出する申告書。以下同じ。)に各申告者が連署すべきことを規定しているが、納税申告書である限り、この場合においても、各申告者は、申告書に押印する必要がある。
 しかし、共同申告書に署名した者又は記名された者に、通則法第124条第2項に規定する押印がない場合においても、単なる押印漏れであることも考えられるので、納税申告書としての他の要件を具備している限り、押印がないことのみをもって納税申告書としての効力がないものとはいえず、このような場合には、共同申告書が提出された時点において、当該共同申告書が署名した者又は記名された者の申告の意思に基づいて提出されたものと認められるか否かによって、申告書の効力を判断すべきである。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。

イ 本件共同相続人は、平成25年9月頃から週に1回程度の頻度で、長男宅に全員が集まって本件遺産分割協議を行っており、本件遺産分割協議の成立に至るまで特に大きな問題はなかった。

ロ 請求人は、相続税を納税するためには申告が必要であるという大まかな知識を有しており、本件遺産分割協議時において、本件相続の開始から10か月以内に納税しなければならないという認識を有していた。

ハ 本件相続に関する取りまとめをしていた長男は、本件遺産分割協議書及び本件第一次申告書の作成を本件被相続人の知人(以下「本件知人」という。)に依頼し、本件知人の指示に従って、本件相続に係る相続税の申告に必要となる書類等を収集した。
 なお、長男を除く本件共同相続人は、上記依頼について知っており、これに異議を述べることはなく上記依頼を承諾していた。

ニ 本件第一次申告書は、本件遺産分割協議の内容に基づいて原処分庁への提出用とその控用が作成されており、いずれも本件共同相続人の印鑑登録証明書が添付された本件遺産分割協議書が一緒に綴られていた(以下、印鑑登録証明書添付の本件遺産分割協議書が綴られた本件第一次申告書を「本件第一次申告書等」という。)。

ホ 次女は、平成25年11月上旬頃、K郵便局において、定期貯金の相続に係る手続を行う際、郵便局の職員に本件第一次申告書等を提示したところ、当該職員から本件第一次申告書に押印するよう言われたため、本件第一次申告書に押印した。もっとも、次女は、上記職員に言われるまま押印したため、当該押印の意味を理解しておらず、押印したことを他の本件共同相続人に伝えなかった。

ヘ 長女は、長男との話合いに基づいて本件第一次申告書等を提出することとなり、平成25年11月12日に、本件第一次申告書等を原処分庁の受付窓口に持参して提出した。そして、長女は、本件第一次申告書等を提出したことを他の本件共同相続人に報告した。
 なお、本件第一次申告書は、次女以外の本件共同相続人に係る「財産を取得した人」欄の押印を欠いていた点を除き、通則法第124条第1項、相続税法第27条及び相続税法施行規則第13条第1項各号により要求される記載事項が全て記載されていた。

ト 請求人は、本件相続に係る相続税の納期限内である平成25年11月18日に、本件第一次申告書に記載された納付すべき税額を、自己資金により全額納付した。

チ 原処分庁所属の担当職員は、平成26年2月10日、長男に対し、本件第一次申告書には請求人の押印がされておらず、本件相続に係る相続税の申告書が提出されたことにはならない旨を説明して、本件相続に係る相続税の申告書を改めて提出するよう依頼した。そして、長男から上記依頼について聞いた請求人は、原処分庁に対し、本件第二次申告書を提出した。

(3) 請求人の答述及びその信用性

請求人は、当審判所に対し、本件相続に関する手続は、長男や長女がやってくれていると思っており、本件第一次申告書の提出については、長女に任せていた旨答述するところ、かかる答述は、上記(2)のハ及びヘのとおり、本件相続に関しては現に長男が取りまとめを行っていたこと、本件第一次申告書の提出者についても長男及び長女の話合いに基づいて決めていることと整合的であり、格別不自然な点もないことから信用することができる。

(4) 当てはめ

上記(1)のとおり、共同申告書に記名された者に押印がない場合、当該共同申告書が提出された時点において、記名された者の申告の意思に基づいて提出されたものと認められるか否かにより申告書の効力を判断すべきであるところ、前記1の(2)のロ及び上記(2)のニのとおり、本件第一次申告書は、有効に成立した本件遺産分割協議の内容に基づいて作成されたものであること、上記(2)のハのとおり、本件第一次申告書は、長男の依頼により本件知人が作成したもので、長男を除く本件共同相続人も当該依頼を認識しながら、これに異議を述べず承諾していたことからすると、本件第一次申告書は、本件遺産分割協議で成立した内容を基に本件共同相続人の総意により作成されたものと認められる。そして、このような申告書は、最終的に税務署長に提出するために作成されるのが通常であって、本件共同相続人についても本件相続に係る相続税の申告を予定して本件第一次申告書を作成したとみるのが相当である。また、上記(2)のヘのとおり、請求人は、本件第一次申告書の提出自体には関与していないものの、上記(3)の請求人の答述によれば、長女に本件第一次申告書の提出を任せていたものと認められる。これに加え、上記(2)のロ及びトのとおり、請求人は、納税するために申告が必要であるという程度の認識を有しており、請求人が本件相続に係る相続税を納期限内に全額納付したことなどの各事実を総合して考慮すれば、本件第一次申告書は、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものと認めるのが相当である。
 また、本件第一次申告書は、上記(2)のへのとおり、押印漏れを除いて、通則法で規定する納税申告書及び相続税法で規定する相続税の申告書に記載すべき必要な事項が全て記載されたものであり、本件共同相続人の納税申告書としての要件を具備している。
 なお、本件第一次申告書には、次女についてのみ押印がされているが、上記(2)のホのとおり、次女は、郵便局の職員に言われるまま押印したにすぎないのであるから、次女のみが押印していることをもって、本件第一次申告書が、次女のみの相続税の申告書であり、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものではないということはできない。そして、請求人が本件第二次申告書を提出した点についても、上記(2)のチのとおり、長男から原処分庁所属の担当職員の依頼を聞いたことにより提出したものにすぎないのであるから、これらの事実は、いずれも上記認定を妨げるものではない。
 以上のとおり、本件第一次申告書は、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものと認めるのが相当であり、また、本件第一次申告書は、押印箇所を除き、本件共同相続人の納税申告書としての要件を具備していることから、本件第一次申告書に請求人の押印がないことについては、単なる押印漏れにすぎず、本件第一次申告書の納税申告書としての効力には影響しないというべきである。
 したがって、本件第一次申告書は、通則法第17条に規定する請求人の期限内申告書に該当する。

(5) 原処分庁の主張の当否

これに対し、原処分庁は、本件第一次申告書は、その書面等から、請求人の申告の意思に基づいて提出されたものと判断することはできないと主張しており、結局のところ、同申告書に請求人の押印がなかったという形式面を重視して、請求人の申告の意思を否定する趣旨と思われる。しかしながら、本件第一次申告書に係る請求人の申告の意思の有無は、同申告書の記載内容に加え、その作成経緯や原処分庁への提出状況及び納税の状況等を総合的に考慮して、実質的に判断すべきであることから、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 本件賦課決定処分について

上記(4)のとおり、本件第一次申告書は請求人の期限内申告書に該当することから、本件第二次申告書が通則法第18条に規定する期限後申告書に当たることを前提に同法第66条第1項に基づいてなされた本件賦課決定処分については、その全部を取り消すべきである。

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