(平成27年5月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人J(以下「請求人J」という。)、同L(以下「請求人L」という。)及び同M(以下「請求人M」といい、3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した土地について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地に該当するとして相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該土地は広大地に該当しないなどとして相続税の更正処分等をしたのに対し、請求人らが、当該土地は広大地に該当し、また、調査手続にも違法があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

イ 国税通則法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項は、税務署長等は、国税庁等の当該職員に納税義務者に対する実地の調査において質問検査等を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び同項各号に規定する事項を通知するものとする旨規定している。

ロ 通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項は、国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、国税庁等の当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする旨規定し、同条第5項は、実地の調査により質問検査等を行った納税義務者について同法第74条の9第3項第2号に規定する税務代理人がある場合において、当該納税義務者の同意がある場合には、当該納税義務者への調査結果の説明に代えて、当該税務代理人への説明を行うことができる旨規定している。

ハ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。

ニ 評価通達7−2《評価単位》の(2)は、土地の価額は、評価単位ごとに評価する旨、田及び畑(以下「農地」という。)については、1枚の農地(耕作の単位となっている1区画の農地をいう。)を評価単位とする旨、ただし、同通達36−3《市街地周辺農地の範囲》に定める市街地周辺農地、同通達40《市街地農地の評価》の本文の定めにより評価する市街地農地、同通達40−2《広大な市街地農地等の評価》の本文の定めにより評価する市街地農地及び同通達40−3《生産緑地の評価》に定める生産緑地は、それぞれを利用の単位となっている一団の農地を評価単位とする旨定めている。

ホ 評価通達14−2《地区》は、路線価方式により評価する地域については、宅地の利用状況がおおむね同一と認められる一定の地域ごとに、国税局長が地区(ビル街地区、高度商業地区、繁華街地区、普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区、中小工場地区又は大工場地区)を定めるものとする旨定めている。

ヘ 評価通達24−4(以下「本件通達」という。)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(同通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいう。)を除く。以下「広大地」という。)の価額は、その広大地が路線価地域に所在する場合には、その広大地の面する路線の路線価に、同通達15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。

(算式)

広大地補正率=0.6−0.05×(広大地の地積/1,000平方メートル

なお、「公共公益的施設用地」とは、都市計画法第4条第14項に規定する道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び都市計画法施行令第27条に掲げる教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地(その他これらに準ずる施設で、開発行為の許可を受けるために必要とされる施設の用に供される土地を含む。)をいうものとされている。

ト 評価通達40−2は、同通達39《市街地周辺農地の評価》の市街地周辺農地及び同通達40の市街地農地が宅地であるとした場合において、同通達24−4に定める広大地に該当するときは、市街地周辺農地及び市街地農地の価額は、同通達39及び40の定めにかかわらず、同通達24−4の定めに準じて評価する旨定めている。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

次の事実については、請求人らと原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ N(以下「本件被相続人」という。)は、平成22年9月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した。
 本件被相続人の妻である請求人M、本件被相続人の子である請求人J、請求人L(なお、請求人Lは請求人Jの妻であり、本件被相続人と養子縁組をしたものである。)及びPの4名は、平成23年4月17日付で、本件被相続人の死亡により開始した相続(以下「本件相続」という。)に係る遺産分割協議を成立させ、Pを除く請求人らが、本件被相続人の遺産を取得することとなった。

ロ 本件被相続人の遺産のうち、別表2の順号1及び2の各土地(以下、これらを併せて「本件甲土地」という。)並びに本件甲土地に隣接する同別表の順号3の土地(以下「本件隣接地」という。)は、請求人Jが単独で取得した。また、別表2の順号4及び5の各土地(以下、これらを併せて「本件乙土地」という。)は、請求人J及び請求人Mがそれぞれ持分2分の1の割合で共有取得した。
 なお、本件甲土地、本件隣接地及び本件乙土地を併せて、以下「本件各土地」という。

ハ 請求人らは、本件相続に係る相続税につき、本件甲土地については広大地であるとして評価(評価額109,657,203円)し、本件隣接地及び本件乙土地については広大地でないとして評価(前者につき評価額1,976,726円、後者につき評価額241,911,102円)して、法定申告期限までに、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した申告書を共同して原処分庁へ提出した。
 なお、請求人Jは、租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項の規定による特例農地等についての相続税の納税猶予の適用を受けている。

ニ 請求人L及び請求人Mは、平成23年9月21日付で、原処分庁に対し、請求人Jが上記ハの納税猶予の適用を受ける特例農地等の計算に誤りがあったとして、請求人Lは別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を、請求人Mは別表1の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書をそれぞれ提出した。

ホ 原処分庁は、上記ニの特例農地等に係る請求人らの計算の誤りを認めて、平成23年10月5日付で、別表1の「第一次更正処分」欄のとおり、請求人Jに対しては通則法第24条《更正》の規定により減額の更正処分をし、請求人Mに対しては通則法第23条《更正の請求》第4項の規定により更正の請求に基づく減額の更正処分をした。

ヘ 本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成25年9月19日、請求人ら宅に臨場の上、請求人Jの税務代理人であるQ税理士(以下「本件関与税理士」という。)の立会いの下、請求人Jに対する質問検査等を行った。

ト 原処分庁は、平成26年2月19日付で、本件甲土地が広大地に該当しないこと及び一部の共済契約に係る権利が本件相続に係る相続税の課税価格に算入されていないことを理由に、別表1の「第二次更正処分等」欄のとおり、請求人J及び請求人Lに対しては増額の各更正処分(以下「本件各増額更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を、請求人Mに対しては減額の更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をした。

チ 請求人らは、平成26年3月13日、本件各増額更正処分及び本件各賦課決定処分並びに本件減額更正処分を不服として、異議申立てをした。

リ 異議審理庁は、平成26年6月11日、別表1の「異議決定」欄のとおり、請求人J及び請求人Lに対する本件各増額更正処分並びに請求人Lに対する過少申告加算税の賦課決定処分に係る異議申立てについては、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されていた財産の一部に相続財産ではないものが含まれていたとして、それぞれ一部を取り消し、本件減額更正処分に係る異議申立てについては、不利益処分ではないため不適法であるとして却下する異議決定をした。

ヌ 原処分庁は、平成26年6月17日付で、請求人Mに対し、別表1の「第三次更正処分」欄のとおり、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されていた財産の一部に相続財産ではないものが含まれていたとして、減額の更正処分をした。

ル 請求人らは、上記リの異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成26年7月1日付で、当審判所に対し、別表1の「審査請求における請求人ら主張額」欄のとおりの裁決を求める審査請求をし、併せて、請求人Jを総代とする旨の選任届出書を提出した。

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2 請求人Mの審査請求について

更正処分が不利益処分に当たるかどうかは、更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、本件減額更正処分は、請求人Mの納付すべき税額(別表1の「第一次更正処分」の「差引納付すべき税額」欄の金額)を増加させる処分でないことが明らかである。したがって、本件減額更正処分は、請求人Mの権利又は利益を侵害するものとはいえないから、その取消しを求める利益はなく、請求人Mの審査請求は、不服申立ての利益を欠く不適法なものとして、却下すべきである。

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3 請求人J及び請求人Lの審査請求のうち、第一次更正処分(請求人J)及び修正申告(請求人L)における納付すべき税額を下回る部分について

請求人J及び請求人Lは、本件相続に係る相続税の納付すべき税額は、それぞれ別表1の「審査請求における請求人ら主張額」欄のとおりであるとして、請求人Jにあっては別表1の「第一次更正処分」における納付すべき税額○○○○円を下回る部分、請求人Lにあっては同別表の「修正申告」における納付すべき税額○○○○円を下回る部分についても、取消しを求めている。
 しかしながら、納税申告書を提出した者が、その申告税額が過大であるとしてその減額を求める場合は、通則法第23条第1項に規定する更正の請求によるべきであり、この手続によらずに申告税額を下回る部分の減額を求めることは許されないから、請求人J及び請求人Lの審査請求のうち、更正の請求の手続によらずに上記各下回る部分の取消しを求める主文2項、3項掲記の部分は、いずれも不適法なものとして、却下すべきである。
 以下では、上記各却下すべき部分を除く審査請求につき、本案の判断を示す。

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4 争点

(1) 争点1 本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

(2) 争点2 本件甲土地及び本件乙土地が本件通達に定める広大地に該当するか否か。

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5 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人ら
本件調査に当たっては、以下のとおり、調査の事前通知及び調査結果の説明を行っており、調査手続に違法はない。 本件調査に当たっては、以下のとおり、請求人らに対する調査の事前通知及び調査結果の説明を欠いており、調査手続に違法があることから、原処分の取消事由がある。
イ 事前通知について イ 事前通知について
平成25年9月9日に、本件調査担当職員は、請求人らの自宅に電話連絡し、応答した請求人Lから電話を代わった請求人Jに対して、本件調査を行う旨を伝え、また、本件関与税理士に対しても電話連絡しているから、通則法第74条の9の規定に基づく本件調査の事前通知を行っている。 平成25年9月9日に、請求人Jは病院に通院し、請求人Lも午前中は寺へ、午後からd市e町へ出掛け留守にしていたので、請求人Jは、本件調査担当職員から電話連絡を受けておらず、通則法第74条の9の規定に基づく本件調査の事前通知を受けていない。
ロ 調査結果の説明について ロ 調査結果の説明について
(イ) 本件調査担当職員は、請求人らに対し、平成25年9月19日の実地調査の際に、今後の連絡及び調査結果の説明については、本件関与税理士を通じて行ってよいかについて確認し、請求人らから同意を得た。 (イ) 請求人Jは、平成25年9月19日、本件調査担当職員から、本件関与税理士を通じて行ってよいかについては、今後の連絡についての確認は受けたが、調査結果の説明についての確認は受けておらず、同意もしていない。
(ロ) 本件調査担当職員は、本件関与税理士に対し、平成25年12月6日、本件甲土地の評価誤りと共済契約に係る権利の申告漏れの2点を指摘した上、更正処分となった場合の本件相続に係る相続税及び過少申告加算税の金額を説明し、同月17日、問題点は当該2点であることを説明した。 (ロ) 本件関与税理士は、平成25年12月6日、本件調査担当職員から、本件甲土地の評価誤りと共済契約に係る権利の申告漏れを理由に更正処分となった場合の増差税額の総額と過少申告加算税の2点について概算額を聞いたにすぎず、それをもって具体的に詳細な調査結果の説明をしたと評価できるものではない。平成25年12月17日の連絡についても、同様である。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成26年1月23日、本件関与税理士に対し、平成25年12月6日及び同月17日に説明したとおりの内容で更正をすべきと認められると説明し、さらに、詳細に説明をするため本件関与税理士に来署を依頼したが、本件関与税理士から断られた。 (ハ) 本件関与税理士は、平成26年1月23日、本件調査担当職員から、12月に説明をしたとおり更正することで決定したので、整理ができたらまた連絡するとの短い連絡を受けたのみであり、通則法第74条の11に定める調査結果の説明はなく、調査結果の説明のための来署の依頼も受けていない。
(ニ) したがって、本件関与税理士は、既に本件調査に係る調査結果の説明内容を十分認識している状況が認められ、また、本件調査担当職員は、請求人らから調査結果の説明を受けることを委任された本件関与税理士に対し、調査結果の説明を行おうとしたところ、これを断られた事実が認められるため、通則法第74条の11に規定する手続に瑕疵はなかったと評価されるべきである。 (ニ) したがって、請求人Jは、本件調査担当職員から、本件調査の結果の説明につき、本件関与税理士を通じて行うことの確認を受けておらず、同意もしていないのであるから、請求人Jに対する調査結果の説明が必要であったが、このような説明はなされていない。
 また、本件関与税理士は、本件調査担当職員から、調査結果の説明のための来署依頼を受けておらず、これを断ったこともないから、調査結果の説明を受けていない。

(2) 判断

イ 法令解釈

通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
 もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
 他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される。

ロ 認定事実及び関係人の答述

(イ) 本件調査担当職員は、当審判所の調査に対し、平成23年の通則法改正を受けて、事前通知については、マニュアルに従い、まず納税義務者に対して行い、納税義務者から詳細は税理士と打ち合わせするように言われた場合には税理士に対し連絡することとしていた、調査経過については、その都度、少なくともその日のうちには入力していた、具体的な日付の記憶はないが、本件調査に係る事前通知をするために請求人Jの自宅に電話をかけ、請求人Jに対し事前通知を行ったことを覚えている、当該電話をかけた際、当初、電話に出た女性を請求人Mと勘違いし、本件調査につき、「ご主人の相続について」の調査であるとして話し始めたところ、その女性が、自分は請求人Jの妻であるという趣旨のことを述べて電話を請求人Jに代わった経緯があった旨答述した。

(ロ) 本件調査担当職員が作成した本件調査に係る調査経過の記録(以下「本件調査経過記録」という。)には、平成25年9月9日、請求人Jに架電し、本件調査に係る事前通知を行った旨の記載がある。

(ハ) 請求人Jは、当審判所の調査に対し、平成25年9月9日は、R病院での受診のため家を留守にしていた、当日は、午前9時頃に家を出て、病院での受診を終えるのは、長くかかる時だと午後3時や4時になるので、帰宅時刻は午後3時以降にはなっていたと思う、本件調査が行われることについては、同日午後1時頃、病院にいる時に、本件関与税理士から携帯電話に電話を受けて、初めて知らされた、同日から同月19日までの間に本件調査担当職員から電話があったかどうかについてははっきり覚えていない旨答述した。

(ニ) 請求人Jが当審判所に提出したR病院発行の診療費納付済証明書には、請求人Jが平成25年9月9日に同病院の○○科を受診した旨の記載がある。

(ホ) 本件関与税理士は、当審判所の調査に対し、平成25年9月9日に本件調査担当職員から本件調査について請求人Jと日程調整してほしい旨の電話連絡を受けたが、その際、本件調査担当職員は、請求人Jには電話連絡をしていないと言っていた旨答述した。

(ヘ) 本件調査担当職員は、平成25年9月19日、本件関与税理士の立会いの下、請求人Jに対する質問検査等を行ったが、請求人Lに対する質問検査等は行っていない。

ハ 判断

(イ) 請求人Jに対する事前通知について

A 本件調査において、請求人Jに対し、通則法第74条の9第1項所定の事前通知が行われたか否かについて、原処分庁は、本件調査担当職員は平成25年9月9日に請求人Jに対する事前通知を行った旨主張し、上記ロの(イ)のとおり、これに沿う本件調査担当職員の答述が存在するので検討すると、当該答述は、上記ロの(ロ)のとおり、本件調査経過記録という職務上機械的に作成されたものにより客観的に裏付けられている上に、その内容も、請求人ら宅に電話をした際、請求人Jの妻である請求人Lを請求人Mと間違えて話し始めたという具体的なエピソードを含むものであって、実際に体験した者でなければ語ることのできない迫真性を備えたものといえる。加えて、本件調査担当職員が、同じ日に、本件関与税理士に対しては事前通知の連絡をしたのに、請求人Jに対しては当該連絡をあえてせず、あるいは失念したことを疑わせるような特段の事情も見当たらない。
 これらによれば、本件調査担当職員の上記答述は信用することができ、同職員が平成25年9月9日に請求人Jに対する事前通知を行った事実を認めることができる。

B これに対し、請求人らは、平成25年9月9日、請求人Jは病院に行き、請求人Lも午前中は寺へ、午後からはe町へ出掛けて留守にしており、本件調査担当職員から電話を受けることはできなかったから、請求人Jに対する事前通知は行われていない旨主張し、上記ロの(ハ)のとおり、請求人Jはこれに沿う答述をする。
 しかしながら、確かに、請求人Jの上記答述及び上記ロの(ニ)の事実から、請求人Jが、平成25年9月9日、R病院への通院のため、相当時間外出していた事実自体は認められるものの、請求人Jの答述によっても当日の帰宅時刻は定かでない上に、請求人Lの外出状況を確認できるような証拠もなく、加えて、本件調査担当職員から本件調査に関する連絡を受けたことがあったか否かに関し、請求人Jの記憶は曖昧であることにも照らせば、事前通知を受けていない旨の請求人Jの答述は直ちに採用することができず、また、上記ロの(ホ)の本件関与税理士の答述も、客観的な裏付けを欠くものであって採用することはできず、これらによって本件調査担当者の上記答述の信用性は左右されないから、請求人らの上記主張は採用することができない。

C したがって、本件調査に係る請求人Jに対する事前通知は適法に行われたものと認めることができる。

(ロ) 請求人Lに対する事前通知について
 通則法第74条の9第1項が規定するとおり、事前通知は、実地の調査において質問検査等を行う場合に必要となるものであるところ、原処分庁は、請求人Lに対する実地の調査を予定しておらず、上記ロの(ヘ)のとおり、実際にも、請求人Lに対する質問検査等は行われていないのであるから、請求人Lに対する事前通知が行われなかったことをもって違法ということはできない。

(ハ) 調査結果の説明について
 請求人らは、本件調査において、請求人らに対する通則法第74条の11第2項所定の調査結果の説明が行われていないことは違法である旨主張するが、上記イのとおり、調査手続の違法が課税処分の取消事由となるのは、課税処分の基礎となる調査を全く欠く場合のほか、証拠収集手続に重大な違法があって調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合に限られ、他方、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続の違法は課税処分の取消事由とはならないものと解されるから、上記(イ)及び(ロ)のとおり、証拠収集手続に違法があるとは認められない本件においては、証拠収集手続に影響を及ぼさない手続である調査結果の説明に仮に瑕疵があったとしても、原処分の取消事由とはなり得ないものというべきである。

(ニ) 小括
 以上のとおりであるから、本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるということはできない。

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6 争点2(本件甲土地及び本件乙土地が本件通達に定める広大地に該当するか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人ら
本件甲土地及び本件乙土地は、次のとおり、本件通達に定める「その地域」における「標準的な宅地の地積」に比して著しく地積が広大であるとは認められず、広大地に該当しない。 本件甲土地及び本件乙土地は、次のとおり、本件通達に定める「その地域」における「標準的な宅地の地積」に比して著しく地積が広大であると認められ、開発をする場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるから、広大地に該当する。
イ 本件甲土地について イ 本件甲土地について
(イ) 本件通達に定める評価対象地の属する「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解される。
 したがって、本件甲土地の属する「その地域」とは、主に大規模店舗等の敷地に利用され、利用状況、環境等がおおむね同一であると認められるa市b町○丁目のうち、国道f号線(以下「本件国道」という。)の南側に接する地域である。
(イ) 原処分庁は、「その地域」について、まず数件の大型店舗が散在する部分的地域を「その地域」として都合よく恣意的に定めており、結論ありきで選定している。
 また、都市計画法に規定する用途地域及び評価通達14−2に定める地区は、本件国道の南北で区別せず同一であるにもかかわらず、原処分庁が恣意的に南側のみを特定して「その地域」とすることには合理的理由がない。
(ロ) 本件甲土地は、本件国道と間口1.25mしか接していないが、本件隣接地は本件国道と間口約7mで接しており、本件甲土地を利用する場合、本件国道からの進入路は十分確保できるものと認められるから、本件甲土地を本件国道沿いの土地と評価できる。
 なお、請求人らは、本件甲土地と本件隣接地との評価単位が異なり、一体利用できると評価することは誤りである旨主張するが、原処分庁は、本件甲土地と本件隣接地が一つの評価単位であると認定したものではなく、本件国道からの進入路が十分確保できると認めたものである。
(ロ) 本件甲土地は、本件国道沿いのほかの一般的な大型店舗敷地のように接道する間口の広い敷地とは異なり、本件国道に間口1.25mしか接していないから、建築要件としての接道義務も満たさず、無道路地扱いも許されるような地形の土地である。
 それにもかかわらず、原処分庁は、評価単位が異なる本件甲土地と本件隣接地とを一体利用できると認定した上、本件隣接地の間口約7mを基にして本件国道からの進入路を確保できるとして評価しているが、誤りである。
 したがって、本件甲土地は、本件国道に間口1.25mしか接していない地形の土地であって、本件国道の影響は極めて低いというべきであるから、本件国道沿いの土地と評価されるべきではない。
(ハ) 本件甲土地が広大地か否かは、本件甲土地の面積が開発許可を要する面積を超えるものか否かではなく、その地域における「標準的な宅地の地積」に比して著しく広大か否かにより判断すべきである。 (ハ) 都市計画法に規定する用途地域の観点でみると、本件国道の南北両端から奥行き25mまでを準住居地域とし、それより外側を第一種中高層住居専用地域としているところ、本件甲土地は、その両地域にまたがり、面積の56%(約665平方メートル)の部分は、第一種中高層住居専用地域に属している。
 また、評価通達14−2に定める地区の観点でみると、本件国道沿いが普通商業・併用住宅地区で、本件国道以外の道路に接する地域が普通住宅地区とされているところ、上記(ロ)のとおり本件甲土地は本件国道の影響が極めて低い状況にある。
 したがって、本件甲土地は、第一種中高層住居専用地域及び普通住宅地区に所在する土地となるところ、平成16年6月29日付資産評価企画官情報第2号(以下「16年情報」という。)が、「普通住宅地区等に所在する土地で、開発許可を要する面積以上のものは、広大地に該当しない例示を除き、原則として著しく地積が広大な宅地として差し支えない」と定めていることからすれば、本件甲土地は、広大地として評価すべきである。
(ニ) 上記(イ)の「その地域」の主な宅地の地積、利用状況等は別表3のとおりであり、「その地域」の「標準的な宅地の地積」は平均値である1,500.93平方メートルと認められる。 (ニ) 「その地域」の主な宅地の地積及び利用状況について、過去の裁決事例に照らせば、本件甲土地が所在する同一用途地域内における地価公示法の規定に基づき公示された標準地が、「標準的な宅地の地積」を有するものであると認められ、その地積は、別表4のとおりであって、平均すると200平方メートル程度である。
(ホ) 以上のとおり、合計地積1,186平方メートルの本件甲土地は、上記(イ)の「その地域」における「標準的な宅地の地積」1,500.93平方メートルに比して著しく広大とは認められない。 (ホ) 以上のとおり、合計地積1,186平方メートルの本件甲土地は、第一種中高層住居専用地域、普通住宅地区にあるので、標準的使用は郊外型の大規模店舗敷地ではなく、戸建住宅敷地であり、近傍の「標準的な宅地の地積」である200平方メートル程度に比して著しく広大と認められる。
ロ 本件乙土地について ロ 本件乙土地について
本件乙土地の「その地域」及び「標準的な宅地の地積」に関する判断基準は、上記イの(イ)及び(ニ)の本件甲土地の判断基準と同様である。
 したがって、合計地積1,641.99平方メートルの本件乙土地は、上記イの(イ)の「その地域」における「標準的な宅地の地積」1,500.93平方メートルに比して著しく広大とは認められない。
本件乙土地の「その地域」及び「標準的な宅地の地積」に関する判断基準については、上記イの(イ)及び(ニ)の本件甲土地の判断基準と同様である。
 また、本件乙土地は、大型店舗敷地として利用しているが、最有効使用は戸建住宅敷地である。
 したがって、合計地積1,641.99平方メートルの本件乙土地は、「標準的な宅地の地積」である別表4の「標準地番号」a○−○の中型店舗敷地454平方メートルの3倍超、「標準地番号」a○の戸建住宅敷地180平方メートル以下の9倍超の面積であり、著しく広大と認められる。

(2) 判断

イ 法令解釈等

(イ) 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しているが、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則として、評価通達に定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。このように、相続財産の評価に当たり、あらかじめ定められた評価方式によって画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点からみて合理的であって、当審判所も、著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価通達によって相続財産の評価をするのが相当であると解する。

(ロ) 本件通達は、「その地域」における「標準的な宅地の地積」に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものについて、広大地として減額の補正を行う旨を定めている。その趣旨は、その地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、宅地開発に当たり道路、公園等の公共公益的施設用地の開設が必要となるような宅地では、宅地開発に伴いいわゆる潰れ地が生ずるのを免れない場合があるところ、そうした潰れ地が生ずることによる不動産価値の低下を、評価通達15ないし20−5による減額の補正では十分反映し切れない場合があることから、そのような宅地の評価に当たっては、潰れ地が生ずることを、当該宅地の価額に影響を及ぼす客観的な個別事情として、価値が減少していると認められる範囲で価額に反映させるため、減額の補正を行うこととしたものであると解される。

(ハ) このような本件通達の趣旨に鑑みれば、本件通達にいう「その地域」とは、河川や山などの自然的状況、行政区域、都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、道路、鉄道、公園など土地の利用の状況の連続性及び地域としての一体性を分断することがあると一般に考えられる客観的な状況を総合勘案し、各土地の利用の状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりとみるのが相当な地域を指すものと解するのが相当である。

(ニ) また、本件通達における「標準的な宅地の地積」とは、本件通達の趣旨に鑑みれば、評価対象地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地の地積、評価対象地の付近の標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して求めた地積を指すものと解するのが相当である。

(ホ) なお、上記(ロ)ないし(ニ)については、評価通達40−2の定めるところにより、生産緑地を含む市街地農地にも当てはまるものとするのが相当である。

ロ 認定事実

請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日における本件各土地の状況等について、次の事実が認められる。

(イ) 本件各土地の位置関係等
 本件各土地の位置関係や大まかな形状は、別紙2のとおりである。

(ロ) 本件甲土地の状況等
 本件甲土地は、S鉄道g線b駅の南方約550mに位置する合計地積1,186平方メートルの農地である(生産緑地の指定を受けており、現況も農地である。)。
 本件甲土地の北方には、広域幹線道路である片側2車線、幅員約20mの本件国道が東西に通じており、本件甲土地の北側は、本件国道と間口約1.25mで接面している(なお、本件甲土地は、本件国道以外には、車両が通行可能な道路に接面していない。)。本件甲土地の東方約400mには、幹線道路である片側1車線、幅員約16mの主要地方道i線(以下「本件地方道」という。)が南北に通じている。
 本件甲土地の周辺は、本件国道沿いで本件国道南端から奥行き25m以内の地域が都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する準住居地域(道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域)に、当該準住居地域から南の地域が第一種中高層住居専用地域(中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域)に指定されており、いずれの地域においても建築基準法上の建ぺい率は60%、容積率は200%である。本件甲土地は、準住居地域と第一種中高層住居専用地域にまたがって所在している。
 評価通達に基づきT国税局長が定めた平成22年分財産評価基準書によれば、本件甲土地は、同通達14−2に定める路線価地域の普通商業・併用住宅地区に該当し、接面する部分の本件国道の平成22年分の路線価は、1平方メートル当たり180,000円である。

(ハ) 本件隣接地の状況
 本件隣接地は、本件甲土地の北西側に隣接する地積17平方メートルの農地である。
 本件隣接地は、その北西側が本件国道と間口約7.11mで接面しており、その南東側が本件甲土地と接面している。
 本件隣接地は、本件国道と本件甲土地とを行き来する通路として利用されている。

(ニ) 本件乙土地の状況
 本件乙土地は、本件甲土地の西側に隣接する合計地積1,641.99平方メートル(実測値。なお、登記記録上の地積は1,605.17平方メートルである。)の宅地である。
 本件乙土地は、その北側が本件国道と間口約54.18mで接面し、その東側が本件甲土地と接面し、その西側が市道j線に間口約23.25mで接面している。
 本件乙土地は、U社に賃貸され、同社が同土地上に所有する別表3の順号7の店舗(当該建物の賃借人であるV社が経営するスポーツ用品店)の敷地として利用されている。
 本件乙土地は、本件甲土地と同様、準住居地域と第一種中高層住居専用地域にまたがって所在している。
 評価通達に基づきT国税局長が定めた平成22年分財産評価基準書によれば、本件乙土地は、同通達14−2に定める路線価地域の普通商業・併用住宅地区に該当し、接面する各路線の路線価は、本件国道が1平方メートル当たり180,000円、市道j線が1平方メートル当たり140,000円である。

(ホ) 本件各土地の近隣地域の都市計画、利用状況等

A 用途地域の指定
 本件国道の、b町○丁目交差点から、本件地方道の西端から西に25mの地点までの区間(別紙2参照。以下「本件国道区間」という。)の用途地域は、上記(ロ)のとおり、本件国道の南側が、本件国道南端から奥行き25m以内の地域が準住居地域に、当該準住居地域から南の地域が第一種中高層住居専用地域に指定され、本件国道の北側も、本件国道北端から奥行き25m以内の地域が準住居地域に、当該準住居地域から北の地域が第一種中高層住居専用地域に指定されている。なお、本件地方道の西端から奥行き25m以内の地域は、近隣商業地域に指定されている。

B 都市計画の基本方針
 a市は、都市計画法第18条の2《市町村の都市計画に関する基本的な方針》に基づく「○○プラン」(以下「本件基本方針」という。)を平成○年○月に策定し、同市の都市計画に関する基本的な方針を定めている。
 本件基本方針は、a市の目指すべき街の在り方を示す中で、本件国道の沿道地区の利用構想を「広域沿道サービス地」(「自動車サービス関連施設等の自動車利用者による広域的な需要に対応した地区」と定義されている。)と位置付けた上、本件国道沿いは、現況、商業・業務系土地利用が多く見られるところ、今後は、広域商圏型商業・業務系施設の適正配置(魅力的な沿道環境の形成)を図ることが都市計画上の課題であるとしている。

C 本件各土地の近隣地域の利用状況、地積等

(A) 本件国道区間のうち、本件国道南側沿いの地域(以下「本件地域」という。)には、幹線道路沿いの広域沿道サービスを主眼に置き、広めの来客用駐車場と売場を備えた自動車販売店、物品販売店、飲食店等のいわゆるロードサイド店舗が立ち並んでおり(合計9店舗)、そのほかに、1階部分を店舗とする店舗併用集合住宅も2棟が存在するが、戸建住宅は2軒が存在するのみである。一方、本件地域から南の地域(本件国道沿いでない地域)は、ロードサイド店舗が立ち並ぶような状況にない。
 別表3のとおり、本件地域内で店舗(店舗併用集合住宅を含む。)の敷地として利用されている合計11区画の土地のうち、敷地面積が500平方メートル未満の区画は1区画(順号8)であり、同500平方メートル以上1,000平方メートル未満の区画は2区画(順号10,11)であり、同1,000平方メートル以上の区画は8区画(順号1〜7、9)であり、これらの平均地積は1区画当たり1,500.93平方メートルであり、11区画の過半数を占める6区画の地積が1,200〜1,800平方メートルの間に分布している。
 なお、本件地域の町名は「b町○丁目」であり、b町○丁目交差点から西側の町名は、「k町○丁目」である。

(B) 本件国道区間のうち、本件国道北側沿いの地域(以下「本件国道北側地域」という。)には、物品販売店、飲食店等の店舗も一定数存在するものの、これらは、本件地域に立ち並ぶロードサイド店舗等と比較すると小規模なものが多く、また、戸建住宅(小規模な店舗と併用される戸建住宅を含む。)も相当数が存在する。
 別表5のとおり、本件国道北側地域内で建物の敷地として利用されている区画のうち、敷地面積が500平方メートル以上1,000平方メートル未満の区画は2区画(順号13、15)であり、同1,000平方メートル以上の区画は2区画(順号12、14)である。
 なお、本件国道北側地域の町名は「b町○丁目」及び「m町○丁目」である。

D 開発行為の許可
 a市では、都市計画法第29条《開発行為の許可》の規定等により、市街化区域において開発行為を行う際、開発区域の面積が500平方メートル以上の場合は、開発行為の許可を受けなければならないものとされている(都市計画法第29条第1項第1号、都市計画法施行令第19条第2項第2号、近畿圏整備法第2条第4項)。もっとも、本件相続開始日の前10年間に、本件地域及び本件国道北側地域において、上記開発行為の許可を受けて宅地開発が行われた事例は存在しない。

ハ 本件甲土地の広大地該当性の有無

(イ) 本件甲土地が本件国道南側沿いの土地といえるかについて
 この点、上記ロの(ロ)のとおり、本件甲土地は、それ単体では、本件国道に間口約1.25mでしか接面していないが、上記ロの(ハ)のとおり、本件甲土地と所有者(請求人J)を一にし、本件甲土地の北西側に接面する本件隣接地は、本件国道と間口約7.11mで接面しており、両土地を一体的に利用することで、両土地は本件国道に間口約8.36mで接面することとなり、本件国道からの進入路を確保することが十分可能である。そして、現に本件隣接地が本件国道と本件甲土地とを行き来する通路として本件甲土地と一体的に利用されていることからすれば、本件甲土地は、本件国道南側沿いの土地であると認めるのが相当である(なお、財産評価上、道路に接していない土地(無道路地)を評価する場合において、当該無道路地に連接する自己所有の土地が存在し、当該土地を通路として利用することが可能な場合には、当該無道路地は、事実上無道路地としての利用上の制約が存在しないため、無道路地としての補正を行わない取扱いがされているところであり、同様の状況にある本件甲土地を上記のように評価することは、当該取扱いとも合致するといえる。)。
 これに対し、請求人らは、本件甲土地と本件隣接地は評価単位が異なるにもかかわらず、両土地を一体利用できるものとして本件国道からの進入路を確保できると評価するのは誤りである旨主張するが、上記説示は、本件甲土地と本件隣接地を一体評価すべきとしたものではなく、両土地が本件隣接地を進入路として一体的に利用することが可能であることを認定したにすぎない。評価単位が異なることと両土地に一体利用可能性が認められることとは別次元の問題であるから、請求人らの上記主張は採用することができない。

(ロ) 「その地域」について
 上記イの(ハ)の判断枠組みに照らし、本件甲土地の存する「その地域」の範囲を検討すると、次のようにいうことができる。

A 上記(イ)のとおり、本件甲土地は、本件国道南側沿いの土地であるところ、上記ロの(ロ)及び(ホ)のとおり、本件甲土地を含む本件地域は、その北側を、片側二車線、幅員約20mの本件国道に隔てられている上に、本件国道北側地域とは、町名も異なる。
 また、上記ロの(ホ)のとおり、本件地域には、1,000平方メートル以上の敷地を確保した比較的大規模なロードサイド店舗等が立ち並ぶ一方、戸建住宅はごく数軒しか見られないのに対し、本件国道北側地域には、本件国道に面した店舗も一定数存在するものの、本件地域に立ち並ぶロードサイド店舗等と比較すると小規模なものが多く、また、戸建住宅も相当数が存在するなど、本件国道の南北で、土地の利用状況ないし環境が明らかに異なっているということができる(なお、上記ロの(ホ)のBのとおり、本件基本方針は、本件国道の沿道地区の利用構想を、本件国道の南北いずれの側であるかを区別することなく、自動車利用者による広域的な需要に対応した地区(広域沿道サービス地区)と位置付けているが、上に見たように、本件国道区間においては、本件地域は上記利用構想に沿った利用状況にあるものの、本件国道北側地域は必ずしもそうではなく、本件国道の南北で利用状況等が明らかに異なるのが現状といえる。)。

B 上記ロの(ホ)のとおり、本件地域は、本件地方道の西端から西に25mの地点を境に、同地点以東とは、用途地域が異なる。

C 上記ロの(ホ)のとおり、本件地域は、b町○丁目交差点から西側とは、町名が異なる。

D 上記ロの(ホ)によれば、広域沿道サービス地区として利用される本件地域と、同地域から南の本件国道沿いでない地域とでは、利用状況ないし環境が明らかに異なるものと考えられる。

E 上記AないしDの事情を総合勘案すると、本件甲土地の近隣地域において、利用状況、環境等がおおむね同一と認められるひとまとまりの地域は、本件地域であると認めるのが相当である。

F これに対し、請求人らは、原処分庁は、数件の大型店舗の存する地域を恣意的に「その地域」に選定して、結論ありきで処分したものである旨主張する。
 しかしながら、「その地域」の判断に当たっては、上記イの(ハ)のような諸事情(近隣地域の土地の利用状況もこれに含まれる。)を考慮すべきところ、かかる諸事情を総合勘案した上で、利用状況、環境等がおおむね同一と認められるひとまとまりの地域を「その地域」と捉えることは、何ら恣意的な選定ではないから、請求人らの上記主張は採用することができない。
 また、請求人らは、本件地域と本件国道北側地域は、用途地域や評価通達14−2に定める地区が同じであるにもかかわらず、本件国道を境に本件地域を区切って「その地域」と捉えることは不合理である旨主張する。
 しかしながら、用途地域等は、「その地域」の判断に当たり一つの考慮要素となるものではあるけれども、用途地域等が同じ範囲が直ちに「その地域」と捉えられるものでないことはいうまでもなく、土地の利用状況の連続性及び地域としての一体性を分断することがあると一般に考えられる客観的な状況を総合勘案して判断されるべきものであるところ、上記Aのとおり、本件地域と本件国道北側地域とは、本件国道に隔てられ、町名も異なる上に、両地域の現況から、土地の利用状況等が明らかに異なっていると認められるのであるから、本件国道を境に本件甲土地の存する「その地域」の北側を区切ることには合理的理由があり、請求人らの上記主張は採用することができない。

G 以上のとおり、本件甲土地の存する「その地域」は、本件地域であるものと認められる。

(ハ) 「標準的な宅地の地積」について

A 上記イの(ニ)の判断枠組みに照らし、本件地域の「標準的な宅地の地積」を検討すると、本件甲土地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地として適当なものは見当たらないことから、本件地域における標準的使用に基づく宅地の平均的な地積を検討するのが相当である。
 そして、上記ロの(ホ)によれば、本件地域における宅地の標準的使用は、ロードサイド店舗ないし店舗併用集合住宅であると認められるところ、かかる標準的使用がされている11区画の平均的な地積は、単純平均で1,500.93平方メートルであり、その過半数を占める6区画が1,200平方メートル〜1,800平方メートルの間に分布しているのであるから、これらの地積(以下「本件地積」という。)をもって、本件地域の「標準的な宅地の地積」であるものと認めるのが相当である。

B これに対し、請求人らは、本件甲土地が所在する同一用途地域内における、地価公示法の規定に基づき公示された別表4の各地価公示標準地の地積(平均241平方メートル)が、「その地域における標準的な宅地の地積」である旨主張する。
 しかしながら、そもそも、請求人らが挙げる上記各地価公示標準地は、いずれも本件地域に属するものではない上に、別表4の順号2及び3の地価公示標準地は、本件国道に接面しておらず、同表の順号1の地価公示標準地は、本件国道に接面してはいるものの、本件甲土地から約1kmも離れているのであるから、いずれも「その地域における標準的な宅地の地積」の算定の基礎とするのに適切なものとはいい難く、請求人らの上記主張は採用することができない。
 また、請求人らは、本件甲土地の評価通達14−2に定める地区は、本件甲土地が本件国道の影響が極めて低いことから、普通住宅地区となるとした上で、16年情報を引用し、本件甲土地は、普通住宅地区等に所在する土地で開発許可を要する面積以上のものであるから、広大地として評価されるべきである旨主張する。
 しかしながら、16年情報は、広大地に該当する条件の例示として、「普通住宅地区等に所在する土地で、各自治体が定める開発許可を要する面積基準以上のもの」を掲げてはいるが、上記記載に続き、「ただし、下記の該当しない条件の例示に該当するものを除く」とした上で、当該例示として、「公共公益的施設用地の負担がほとんど生じないと認められる土地(道路に面しており、間口が広く、奥行きがそれほどではない土地)」等を掲げているのであって、開発許可を要する面積以上の土地であれば直ちに広大地に該当する旨を述べたものではなく、開発許可を要する面積基準以上の土地であっても、その存する地域内の他の土地の規模等によっては、広大地に該当しないことがあるのはいうまでもないから、請求人らの上記主張は採用することができない。

C ところで、請求人らは、本件甲土地は、準住居地域と第一種中高層住居専用地域にまたがっており、かつ、地積の56%(約665平方メートル)が第一種中高層住居専用地域に属しているから、本件甲土地は、第一種中高層住居専用地域に所在する土地である旨主張している。当該各用途地域別の区分面積は、測量された実測面積に基づくものではなく、請求人らが地図上の概算により求めたものであって、その正確性が担保されているとはいい難いが、仮に、請求人らの上記主張を前提とすれば、建築基準法第91条《建築物の敷地が区域、地域又は地区の内外にわたる場合の措置》の規定により、土地が複数の用途地域にまたがっている場合には、敷地の面積の過半を占める用途地域の規定が適用されることになり、本件甲土地には、第一種中高層住居専用地域の規定が適用されることになる。
 そうすると、集合住宅の建築に関しては何ら異なるところはないものの、店舗、飲食店等の建築に当たっては、準住居地域であれば、建築基準法第48条《用途地域等》第7項及び同法別表第二(と)項の規定により、床面積の合計が1万平方メートルまで建築可能とされているのに対し、第一種中高層住居専用地域では、同条第3項及び同法別表第二(は)項の規定により、床面積の合計が500平方メートル以内でかつ当該用途が2階部分までとする制限(以下「本件制限」という。)を受けることになる。
 そこで、仮に、本件甲土地が建築基準法上第一種中高層住居専用地域の規定の適用を受け、本件制限を受けるとした場合に、本件地域における標準的使用が可能といえるか否かを検討する。
 本件地域における標準的な宅地の地積を算出する基準となった別表3の各店舗敷地は、幹線道路沿いの広域沿道サービス施設として、自動車での集客が可能となるように、比較的広めの駐車場用地を備えている店舗が多く、当審判所の調査によれば、例えば、別表3の順号1の土地は、本件国道に接する間口が比較的狭く、この点において本件甲土地と類似しているが、敷地面積3,101.99平方メートルに対し、店舗建物の床面積は394.88平方メートルのみであり、広い駐車場用地を確保した飲食店として利用されている。また、別表3の順号10及び11の土地は、1階部分を店舗とし、その上階を集合住宅として利用されており、いずれも店舗部分の面積が500平方メートル以下の店舗併用集合住宅として利用されている。
 これらによれば、仮に、本件甲土地に第一種中高層住居専用地域の規定が適用され、本件制限を受ける場合であっても、別表3の順号1のように、広域沿道サービス施設として相応の駐車場用地を確保した上で、店舗、飲食店等の用に供する床面積500平方メートル以内の店舗、飲食店等の敷地として、あるいは、別表3の順号10及び11のように1階部分を500平方メートル以内の店舗、飲食店等としてその上階に集合住宅を建築するなどの店舗併用集合住宅の敷地として使用することが可能である。また、建築基準法第48条第3項ただし書において、特定行政庁が第一種中高層住居専用地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認めた場合は、例外的に同地域内で建築が禁止されている建物の建築を許可することができるとされており、現に住居系用途地域に指定されている幹線道路に面している地域において、自動車修理工場の建築を許可する場合の運用指針も発出されていることをも勘案すると、本件甲土地は、本件地域における標準的使用をすることが可能であると考えられる。
 したがって、仮に、本件甲土地の地積の過半が第一種中高層住居専用地域に属し、そのため本件甲土地に本件制限が適用されるとしても、上記Aの判断を左右するものではないというべきである。

D 以上のとおり、本件地域の「標準的な宅地の地積」は、本件地積であるものと認められる。

(ニ) 小括
 以上によれば、合計地積1,186平方メートルの本件甲土地は、「その地域における標準的な宅地の地積」である本件地積に比して著しく地積が広大であるとは認められないから、広大地に該当するということはできない。

ニ 本件乙土地の広大地該当性の有無

上記ロの(ニ)のとおり、本件乙土地は、本件地域内に存し、その北側が本件国道と間口約54.18mで接面し、その東側が本件甲土地と接面し、現に、本件地域における標準的使用であるロードサイド店舗として利用されているのであるから、「その地域における標準的な宅地の地積」は、本件甲土地と同様であると認めるのが相当である。
 そうすると、合計地積1,641.99平方メートルの本件乙土地は、「その地域における標準的な宅地の地積」である本件地積に比して著しく地積が広大であるとは認められないから、広大地に該当するということはできない。

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7 本件各増額更正処分について

上記5のとおり、本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法はない。また、上記6のとおり、本件甲土地及び本件乙土地は、いずれも本件通達に定める広大地に該当しないところ、これを踏まえてその評価額を評価通達に従って算定すると、それぞれ別表2の原処分庁主張額と同額となり、これを前提に本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、別表1の異議決定欄の金額と同額になるから、本件各増額更正処分は適法である。

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8 本件各賦課決定処分について

本件各増額更正処分は、上記7のとおり適法であり、本件各増額更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各増額更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

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9 その他

原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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