(平成27年6月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、所得税の青色申告の承認の取消処分をするとともに、飲食業についての所得税の事業所得の金額並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税と地方消費税を併せて「消費税等」という。)の課税売上げの額について、推計の方法による各更正処分をし、また、賃料収入等についての所得税の不動産所得の金額及び消費税等の課税売上げの額について各更正処分をし、さらに、所得税及び消費税等に係る過少申告加算税及び重加算税(以下、過少申告加算税と重加算税を併せて「重加算税等」という。)の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の5点である。

争点1 調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

争点2 青色申告の承認の取消事由があるか否か。

争点3 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の必要性が認められるか否か。

争点4 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の合理性が認められるか否か。

争点5 賃料収入等の帰属が適正か否か。

(2) 審査請求に至る経緯

審査請求(平成26年7月30日請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。
 なお、以下では、所得税に係る平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分、平成22年分、平成23年分及び平成24年分を併せて「本件各年分」といい、消費税等に係る平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで及び平成24年1月1日から平成24年12月31日までの各課税期間を、順次「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」及び「平成24年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。

(3) 関係法令等

別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、肩書住所地所在の3階建の建物(以下「本件建物」という。)の1階部分において、「H」との屋号で居酒屋(以下「本件居酒屋」という。)を、同建物の2階部分において、「J」との屋号でスナック(以下「本件スナック」といい、本件居酒屋と併せて「本件各店舗」という。)を営んでいた者である。なお、本件建物の3階部分は請求人の自宅(以下「請求人宅」という。)である。

ロ 請求人は、平成18年分以前の所得税について青色申告の承認を受けていた。

ハ 請求人は、本件各年分において、請求人の息子であるK及びL(以下併せて「息子ら」という。)を青色事業専従者として申告し、また、平成18年分ないし平成20年分においては、Kの妻であるMも青色事業専従者として申告した。

ニ 請求人は、平成25年3月14日、原処分庁に対し、平成24年8月31日をもって廃業した旨を記載した「個人事業の廃業届出書」及び「事業廃止届出書」を提出した。

ホ Lは、平成25年3月14日、原処分庁に対し、平成24年9月1日をもって請求人から事業の引継ぎを受けた旨を記載した「個人事業の開業届出書」を提出した。

ヘ N社は、食堂、喫茶店、スナック、レストラン、すし店の経営等を目的とする○○会社であり、代表取締役がL、取締役が請求人の姉であるP、監査役が請求人という役員構成であった。

ト 請求人の申告内容等

(イ) 所得税
 請求人は、原処分庁に対し、本件各年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、各法定申告期限までに提出した。

(ロ) 消費税等
 請求人は、原処分庁に対し、本件各課税期間の消費税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を、各法定申告期限までに提出した。
 なお、請求人は、原処分庁に対し、消費税法第37条第1項に規定する簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しており、同項の規定を適用して上記各申告をした。

チ 原処分
 原処分庁は、平成26年3月13日付で、請求人に対し、請求人につき所得税法第150条第1項第1号に該当する事実(帳簿書類の備付け、記録又は保存が所得税法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこと)があることを理由に、平成18年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)をするとともに、所得税及び消費税等について、それぞれ別表1及び別表2の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び重加算税等の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

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2 主張

(1) 争点1 調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

請求人 原処分庁
以下のとおり、原処分庁が請求人に対し行った税務調査は、違法である。 以下のとおり、原処分庁が請求人に対し行った税務調査は、違法ではない。
イ 請求人は、平成24年10月17日の調査において、同年8月末でスナックを廃業し、N社がスナックと居酒屋を経営していることを説明した。ところが、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、N社の代表者であるLに無断で本件居酒屋のカウンター内に入り、m票(以下「本件居酒屋伝票」という。)、月別の売上表(以下「本件売上表」という。)、小口納品表(以下「本件支払表」という。)、領収証等を押収した。また、本件スナックの店内に無断で侵入し、誰の立会いもない状態でレジの中を調べ、売上伝票(以下「本件スナック伝票」という。)を調査し、同年11月6日の調査においては、無断で営業中のカウンター内に土足で踏み込んでごみ箱を漁り、同月13日の調査においては、無断でカウンター内に侵入し、本件居酒屋伝票を持ち出した。
 所得税法第234条第1項第1号の規定によれば、質問検査の相手方は「納税義務がある者」、「納税義務があると認められる者」と規定されており、本件においては納税義務者である請求人がこれに該当する。請求人は平成24年8月末に廃業して事業から退き、その後はLが代表者を務めるN社が本件各店舗の経営をしているが、同社が「納税義務がある者」、「納税義務があると認められる者」に該当しないことは明らかであり、請求人は調査の冒頭で経営主体が代わっていることを説明したにもかかわらず、調査担当職員が行ったこれらの行為は、質問検査の範囲を逸脱した違法な調査である。
イ 請求人は、平成24年10月17日時点では、本件各店舗をN社へ引き継いだ旨申し立てておらず、本件各店舗の事業者として調査に応じていたことから、Lの承諾を得て、調査を実施する必要性が認められない。
 また、請求人からは廃業届出書等が提出される前である本件の調査時において、調査担当職員が、請求人が本件各店舗の事業者であると認識・判断したことは当然である。
 なお、質問検査権に基づいて行う税務調査は、申告の真実性、正確性を確認するために行い得るのであり、質問検査権の行使の時期、場所、範囲、程度、方法等については、これを行使する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解されていることから、本件の調査において、請求人に対し、平成24年9月以降の本件各店舗について調査したことは違法ではない。
ロ 質問検査に応じるかどうかは相手方の意思にかかっており、いわゆる任意調査にすぎないのであるから、税務職員の権限行使が一定の社会的制約の下におかれるのは当然である。質問検査の実行においては、質問検査の客観的な必要があること、これと相手方の私的利益との均衡を失せず社会常識から相当であること及びその判断が合理的であることが要求される。
 本件においては、1N社は質問検査の対象ではなく、質問検査を受ける客観的な必要性がなく、2質問検査自体は営業時間前に着手されたものの、既に営業時間となり客や酒店などの業者が出入りする中でも続行され、カウンターとテーブルの間の通路を塞ぐような態勢で陣取ったり、時に大声を出すなど傍若無人なものであったが、そのような質問検査をわざわざ営業中の本件居酒屋内で行う必要もないにもかかわらず、上記のような配慮を欠いた質問検査の結果、N社が税務調査を受けているような外観が作出され不利益を被ったことは、私的利益との均衡を著しく失し社会常識に反するものであり、3調査がされた時間においては、本件スナックは開店前であり、請求人の居住スペースも3階にあったのであり、調査担当職員はそれを知っていたにもかかわらず、本件居酒屋で調査を行うことは著しく合理性を欠いているし、4料理人にとって調理スペースは聖域であるところ、N社の代表者であるLに無断で、また、請求人を無視して調理スペースであるカウンター内に侵入し伝票を持ち出し、ゴミ箱を漁るなどの行為は、Lの調理人としてのプライドを踏みにじるものである。
ロ 調査担当職員は、臨場したいずれの日においても、請求人の承諾を得て、調査を実施しており、請求人が主張するような配慮を欠く質問検査を行った事実はない。調査担当職員が平成25年5月27日にLと面談した際にも、同人からそのような苦情や抗議等は受けていない。
 したがって、原処分庁が請求人に対し行った税務調査において、違法と評価される行為はない。
ハ 任意調査は、相手方の協力を前提に行われるものであるから、相手方に事前通知をするのは当たり前のことである。通則法の改正により、実地調査に際しては税務署側に事前通知の義務があることが明記され、その適用は平成25年1月1日以降に開始する調査からとされているものの、国税庁は平成24年10月1日以後に開始する調査についても事前通知に先行的に取り組むこととしている。したがって、本件においても事前通知がされるべきところ、事前通知なしに調査が行われており、不当である。 ハ 請求人の「事前通知なしに調査が行われており、不当である。」との主張の「不当」が、調査手続の違法を主張するのか、調査の実施方法が適切でないと主張するのか判然としないが、税務職員の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解され、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知についても、法律上一律の要件とされているものではないと解されており、調査担当職員が事前通知を行わずに調査を行ったことに違法はなく、不当もない。
 なお、平成23年12月2日法律第114号による改正後の通則法第74条の10は、税務署長が調査の相手方である納税者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、事前通知を要しない旨規定しているから、たとえ平成25年1月1日以後に行う調査であっても、事前通知をしないことが直ちに不当となるものではない。
ニ 平成24年10月17日からの調査は、ほとんどが本件居酒屋の営業時間中に行われ、請求人には関係のない平成24年9月以降の本件居酒屋伝票及び本件スナック伝票を無断で取り出し、既に廃業していた請求人に説明を求め、同年10月23日の調査の際には、N社の代表者であるLの許可なく本件スナックに不法侵入し、レジスター内にあった5,000円札を盗み、平成25年1月30日に書類の返還を受けた際には、平成17年分の本件居酒屋伝票及び本件スナック伝票が入っていたダンボール箱が返還されなかった。このことは、N社の代表者であるLに対する営業妨害、家宅不法侵入、窃盗罪に当たる。 ニ 調査担当職員は、平成24年10月17日からの調査についても、いずれも請求人の承諾を得て実施しており、請求人が本件各店舗の事業者ではない旨の申立てを受けていない。同月23日に本件各店舗に臨場していないが、平成24年10月24日には、請求人の承諾を得た上で本件スナックにおいて請求人を待っていたのであるから、本件スナックに不法侵入した事実はなく、現金監査をして現金に触れた事実もないし、そもそも調査担当職員が本件スナックに臨場した当時、本件スナックにはレジスターが設置されていなかったのであるから、レジスターのお金が盗難に遭ったという請求人の主張は失当である。
 また、調査担当職員は、同月24日に預かった書類の全部を平成25年2月18日に請求人に返還しているところ、その際、請求人は、平成24年10月24日に作成した預り証の写しに当該書類の返還を受けたとして署名及び押印をしているから、調査担当職員が平成17年分の売上伝票が入っていたダンボール箱を返還しなかったという事実もない。

(2) 争点2 青色申告の承認の取消事由があるか否か。

原処分庁 請求人
請求人は、平成6年頃から所得税法第148条に規定する帳簿書類の備付け及び取引の記録をしておらず、本件居酒屋伝票から転記した本件売上表を半年ごとに処分している旨を申述し、調査担当職員に対して、本件居酒屋伝票、本件売上表等を提示したのみで、平成18年分の同条に規定する帳簿書類を保存していないことから、青色申告者に義務付けられている法定帳簿及び書類の備付け及び保存が行われていないと認められる。
 このことは、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するので、同号に基づいてされた請求人に対する本件青色承認取消処分は適法である。
以下のとおり、請求人は、申告に必要な帳簿書類を作成しており、これを調査の際に調査担当職員に対し提示したから、所得税法第150条第1項第1号所定の事由はなく、本件青色承認取消処分は違法である。
イ 本件各店舗では帳簿書類を作成している。
(イ) 本件居酒屋では、毎日、息子らが客席で会計し、手提げ金庫に現金を入れ、本件居酒屋伝票と共に保管して、営業終了後その日の売上金額、小口仕入金額を本件売上表、本件支払表に記帳する。
(ロ) 本件スナックでは、毎日記帳することはできず、月初めに従業員の給料の金額を計算するに当たり、本件スナックの前月分の売上金額を計算する。従業員の出勤簿の中で、各自の給料を計算し、総合計の横に売上金額を記入して申告の資料とする。給料は、月の売上金額では足りず、Qの相続金から補填していた。
ロ 申告に必要な平成24年1月1日から同年8月31日までの請求人の所得計算書、同年9月1日から同年12月31日までのLの所得計算書、給料及び経費の集計表を、調査の際に提出した。
 原処分庁は、請求人が調査の際に申告に必要な帳簿書類を作成していない旨申述したと主張するが、虚偽の主張である。請求人は、原処分に係る調査の際、売上金額を記した本件売上表、出勤簿を提示し、申告の基となる毎日の本件居酒屋伝票分は、平成17年、平成18年、平成19年、平成20年、平成21年分、平成22年分及び平成23年分、本件スナック伝票分は、平成20年分、平成21年8月分までを保存し、残りの本件スナック伝票は、平成21年9月分、平成22年分、平成23年分及び平成24年7月6日までの分は、aに保管してあると言って、提出した。

(3) 争点3 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の必要性が認められるか否か。

原処分庁 請求人
請求人は法定帳簿を備え付けておらず、原処分に係る調査時に原処分庁に提示した書類も部分的なもので保存がないものがあること、また、保存があった書類によっても収入及び支出の状況を明らかにすることができないことから、調査担当職員は、取引実績額を基礎とした損益計算の方法によらず、やむを得ず、売上金額を基礎として、本件各店舗それぞれについて、請求人と業種、業態、事業内容、規模、事業所所在地等が類似し、かつ、青色申告書を提出している者の所得率を用いて、所得税法第156条に規定する推計課税の方法により、本件各店舗に係る各年分の事業所得の金額を算出する必要性があった。 原処分庁のいう「法定帳簿」とはどのような帳簿か分からないが、本件居酒屋においては、息子らが、毎日、本件売上表や本件支払表を記帳しているし、本件スナックにおいては、出勤簿で従業員の給料を計算する一方、売上金額を計算し、当該売上げによる金員を給料に充て、不足する金員は預貯金から補っている。これらの帳簿を作成していたのであるから、推計課税の必要性はない。
 なお、事業所得の総収入金額と給料賃金は、平成21年分が○○○○円と○○○○円、平成22年分が○○○○円と○○○○円、平成23年分が○○○○円と○○○○円である。

(4) 争点4 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の合理性が認められるか否か。

原処分庁 請求人
以下のとおり、原処分庁が請求人に対し行った推計計算は合理的である。 以下のとおり、原処分庁が請求人に対し行った推計計算に合理性はない。
イ 類似同業者として挙げられている同業者は、各店舗それぞれについて、請求人と業種、業態、事業内容、規模、事業所所在地等が類似し、かつ、青色申告書を提出している者である。 イ 類似同業者として挙げられている同業者は、本件各店舗の営業状態にそぐわないもので、実態のないものである。本件スナックは10名のホステスがいるにもかかわらず、年間の酒の仕入金額は○○○○円程度であり、このような本件スナックの類似同業者があるとは思えない。
ロ 請求人は、法定帳簿を備え付けておらず、本件スナックの所得金額に係る書類について、平成22年分以前の本件スナック伝票、平成19年から平成24年10月16日までの仕入れ及び経費に係る領収証等、平成23年11月から平成24年10月までの本件スナックの従業員の出勤簿などしか提示しておらず、その提示があった書類によっても本件スナックの所得金額が赤字であったことを確認することはできない。 ロ 本件スナックの1か月分の売上金額は、b国人女性従業員の給料にも満たない。
 また、b国人女性従業員を呼び寄せるため、○○のb国への運賃、滞在費用を負担したが、○○され、5,000,000円の負債を負った。本件スナックは、毎月○○○○円ないし○○○○円の損失であるのに、黒字申告をしていた。
ハ 請求人は、平成18年分、平成19年分、平成20年分及び平成24年分は、本件各店舗の売上げを申告した旨主張するが、請求人が平成25年1月31日に原処分庁に提出した本件居酒屋の各年分の月別の売上げを記載した書面の売上金額は、請求人が提出した各年分の青色申告決算書に記載された売上金額と一致するから、請求人は、本件各年分において、本件居酒屋の売上げのみを申告していたと認められる。 ハ 平成18年分、平成19年分、平成20年分及び平成24年分の所得税については、本件各店舗の売上げをまとめて、一つの売上げとして申告していた。
ニ 本件スナック伝票は、aの担当者が回答したとおり、区分した上、集計されていることから、平成23年1月3日から平成24年6月30日までの期間に係るものであり、原処分庁が認定した売上金額○○○○円は平成23年1月3日から平成24年6月30日までの期間に係る売上金額である。 ニ 原処分庁が平成23年分の売上金額であると主張する○○○○円は、1年間の売上金額ではない。このことは、伝票に書いてある文字、数字がb国人女性のものであることで証明できる。本件スナックの売上金額は、平成21年9月から平成24年6月までの34月分で○○○○円であり、月平均○○○○円である。
ホ 原処分庁が主張する酒類の仕入金額は、本件各店舗それぞれの名義により取引された酒類の仕入金額である。また、請求人、請求人の家族及び従業員等が当該酒類を個人的に消費しているのであれば、その消費については、家事消費等として収入金額に計上する必要がある。 ホ 原処分庁が主張する本件居酒屋の酒類の仕入金額約○○○○円は、本件各店舗共通の仕入金額であり、本件スナックの酒類の仕入金額約○○○○円は、従業員であるRが、その日の不足分を酒屋に直接電話し、本件スナックに納品させたものであり、さらに、請求人、請求人の家族及び従業員等が個人的に消費する酒代等(平成21年以後月額約270,000円)も含まれているから、原処分庁が推計の基礎とした本件各店舗それぞれの酒類の仕入金額は、妥当なものではない。
ヘ 支払ったレシートの裏面に記載された売上金額は、保管があった本件居酒屋伝票あるいは本件売上表に記載された売上金額と一致することから、でたらめに記載されたものではなく、本件居酒屋伝票から書き写した本件居酒屋の各営業日の売上金額であると認められる。
 そして、請求人は、法定帳簿を備え付けておらず、本件居酒屋伝票から転記した本件売上表を半年ごとに処分している旨申述していることから、法定帳簿により提示があった本件居酒屋伝票の年分が混在していたことを確認することもできないのであるから、請求人の主張には理由がない。
ヘ 支払ったレシートの裏面に記載した金額は、売上金額ではなく、でたらめに記載した金額である。また、平成22年分の本件居酒屋伝票には、平成19年分が混入している。
 したがって、これらを基に原処分庁が算出した売上金額は誤っている。

(5) 争点5 賃料収入等の帰属が適正か否か。

原処分庁 請求人
請求人の口座に、不動産の共有者であるS(Qの母)から、賃料が毎月振り込まれているが、請求人は、当該振込金をL等に渡しておらず、本件各年分において、その賃料収入を不動産所得の収入金額として申告している。また、請求人は、原処分時又は異議申立て時に、賃料収入を事業資金に充てた旨を申し立てている。これらによれば、賃料収入等の全てが請求人の不動産所得及び課税売上げに当たるというべきである。 請求人の賃料収入等は、Qの父親が所有していた貸店舗の賃料収入の相続分であり、昭和55年の父親の死亡により、Qに送金されていたものが、平成15年にQの死亡により請求人の預金口座に振り込まれるようになった。当該収入は、Qの相続人である請求人、L、K及び請求人の長女であるTに法定相続割合で帰属しており、請求人は代表者として預かっているにすぎないから、その全てが請求人の不動産所得及び課税売上げに当たるものではない。
 なお、平成24年9月1日分以降の本件賃料収入等は、N社に譲渡された。

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3 判断

(1) 争点1 調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

イ 法令解釈

本件における請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)は、平成23年法律第114号による改正後の通則法第7章の2の施行日である平成25年1月1日の前である平成24年10月17日に開始された調査で、上記施行日の前に納税義務者等に対する質問検査等を行っていたものであるから、上記改正附則第39条の規定により、改正前の所得税法第234条第1項及び消費税法第62条第1項の規定が適用される。
 所得税法第234条第1項及び消費税法第62条第1項は、調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、納税義務者等に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めたものであって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解するのが相当である。
 そして、所得税法第234条第1項第1号及び消費税法第62条第1項第1号に規定する「納税義務がある者」とは、既に法定の課税要件が満たされて客観的に所得税及び消費税の納税義務が成立し、いまだ納税を終了していない者のほか、当該課税年が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、これによって将来終局的に納税義務を負担するに至るべき者をもいい、「納税義務があると認められる者」とは、上記の権限ある税務職員の判断によって、上記の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいうものと解するのが相当である。

ロ 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 平成24年10月17日の調査

A 調査担当職員4名は、平成24年10月17日午後1時頃、事前に通知することなく、本件建物に臨場し、請求人に対し、請求人の平成23年分以前の所得税及び消費税等につき調査を行う旨などを説明して、調査への承諾を得た。

B 調査の冒頭で、請求人から、本件スナックが平成24年○月に○○を受け、○○された旨の説明があったため、調査担当職員は、ひとまずは本件居酒屋の調査を中心に行うこととした。

C 調査担当職員は、請求人の了解を得て、本件居酒屋のレジ周りで現物確認調査を行い、平成24年10月1日ないし同月16日分の本件居酒屋伝票を発見して、請求人からその提出を受けた。なお、調査担当職員は、以後の調査時を含め、請求人から物件の提出を受けた際には、物件の目録を記載した預り証を作成し、請求人に交付している。
 調査担当職員は、請求人に対し、本件居酒屋の平成24年分の帳簿書類の提示を求めたが、請求人は、来年の申告時には正しく申告するからよいだろうなどと述べて、これを拒否した。
 一方、請求人は、難色を示しながらも、本件居酒屋の平成20年分、平成22年分及び平成23年分の本件居酒屋伝票等の提出には応じた。

D 請求人から調査担当職員に対し、平成24年9月1日をもって本件各店舗の経営主体が代わった旨の説明はなかった。

E 調査担当職員は、午後3時を過ぎた頃、請求人から、本件居酒屋の開店準備を行うことを理由に調査の続行を拒否されたため、請求人との間で、次回10月24日午後2時に改めて臨場することを約した上、午後3時40分頃、本件建物を辞去した。

(ロ) 平成24年10月24日の調査

A 調査担当職員3名は、平成24年10月24日午後2時頃、本件建物に臨場した。調査担当職員は、前回調査時に提出を受けた書類に基づき算出した売上額を請求人に示したが、請求人は、そのような売上額はない旨述べた。

B 調査担当職員は、請求人に対し、本件居酒屋の平成17年分ないし平成19年分、平成21年分及び平成24年分の帳簿書類の提出を求めたところ、請求人からは、平成19年分、平成21年分及び平成24年分の本件居酒屋伝票等の一部が提出されたが、その余の帳簿書類の提出はなかった。

C 調査担当職員は、請求人の了解を得て、請求人宅内の現物確認調査を行ったところ、居間に置かれた引出しの中から、一部が切断された本件売上表及び本件支払表を発見した。

D その後、請求人が、食事をとると言って本件居酒屋の方に降りていったので、調査担当職員は、請求人の了解を得て、本件スナックで、提出書類の預り証を作成するなどしながら待機し、請求人の食事が終わった後、請求人との間で、次回11月7日午後2時に臨場することを約した上、午後4時頃、本件建物を辞去した。

(ハ) 平成24年11月7日の調査

A 調査担当職員3名は、平成24年11月7日午後1時45分頃、本件建物に臨場し、本件居酒屋において、請求人から、帳簿書類の記帳の流れや保存状況等を聴取した。

B 同日の調査において作成され請求人の署名押印がある質問てん末書には、「職業 住所地において「H」と「J」(現「U」)を経営」との記載がある。

C 調査担当職員は、請求人から、本件居酒屋の営業が始まったら本件スナックに移動してほしい旨の要請を受けたため、本件居酒屋の営業開始後は、本件スナックに場所を移して請求人からの聴取を行った。
 調査担当職員は、請求人との間で、次回11月14日午後2時に臨場することを約した上、午後6時10分頃、本件建物を辞去した。

(ニ) 平成24年11月14日の調査

A 調査担当職員3名は、平成24年11月14日午後1時45分頃、本件建物に臨場し、本件居酒屋において、再度、請求人から、帳簿書類の記帳の流れや保存状況等を聴取した。

B 調査担当職員は、請求人の了解を得て、本件居酒屋のレジ周りの現物確認調査を行い、前回までに発見できなかった予約帳を発見したが、この予約帳については、ある程度以前の時期のものは破棄されていた。

C 請求人は、調査担当職員に対し、本件各店舗の経営を息子らに引き継いだ旨の説明をした。

D 調査担当職員は、請求人との間で、次回11月21日午後2時に臨場することを約した上、午後4時頃、本件建物を辞去したが、後に請求人からの要請により、次回臨場日を11月22日午後2時に変更した。

(ホ) 平成24年11月22日及び同月28日の調査
 その後、平成24年11月22日及び同月28日にも、調査担当職員3名が本件建物に臨場した。
 このうち、平成24年11月28日の調査時には、請求人は、調査担当職員に対し、確定申告の際、本件居酒屋の収支を概算で計上していた旨説明した。
 調査担当者は、請求人に対し、修正申告に応じる意思があるかを確認したところ、請求人は応じるつもりはないとの趣旨の回答であったため、今後、更正処分をすることになる旨を伝えた。

(ヘ) 平成25年1月15日の調査
 調査担当職員2名は、平成25年1月15日午後2時頃、本件建物に臨場し、本件居酒屋において、請求人から、帳簿書類の記帳の流れや保存状況等を聴取するとともに、修正申告に応じる意思がないことを改めて確認した。

(ト) 提出書類の返却
 調査担当職員は、平成25年2月18日、G税務署において、請求人に対し、上記(イ)及び(ロ)の調査時に請求人から提出を受けた書類を返却し、請求人は、預り証控えの返却確認欄(預り物件について確かに返還を受けた旨の記載がある。)に署名した。

(チ) 平成25年4月16日の調査
 調査担当職員2名は、平成25年4月16日午後1時頃、本件建物に臨場し、請求人に対し、請求人の平成24年分の所得税及び平成24年課税期間の消費税等につき調査を行う旨などを説明して、本件居酒屋の平成24年分の帳簿書類の提示を求めたが、請求人はこれに応じなかった。

(リ) 本件スナックの営業活動の停止、本件各店舗に関する届出等

A 請求人は、平成24年○月、○○により、本件スナックの営業活動を停止した。

B 本件居酒屋については、平成24年11月○日付で、Kを営業者とするY局長からの食品営業許可が新規取得され、本件スナックについては、同年8月○日付で、Lを営業者とするY局長からの食品営業許可が新規取得されている。

C N社が原処分庁に提出した消費税課税事業者選択届出書の参考事項欄には、「法人設立するも個人で行っていたが、H25.1.1より法人申告を行う。」との記載がある。

ハ 判断

(イ) 請求人は、平成24年10月17日の調査の冒頭で、調査担当職員に対し、本件各店舗の経営主体がN社に変更となった旨を説明したにもかかわらず、調査担当職員は、N社の代表取締役であるLの承諾を得ずに調査を行ったものであるから、本件調査は、所得税法第234条第1項第1号に規定する納税義務者等に該当しない者に対する調査と評価され、違法である旨主張する。
 しかしながら、平成24年10月17日から平成25年1月15日までに行われた請求人に対する実地調査は、請求人の平成23年分以前の所得税及び平成23年課税期間以前の消費税等を調査対象とするものであるところ、少なくとも平成23年以前の本件各店舗の経営主体が請求人であることは明らかであるから、請求人が主張する平成24年8月における廃業、経営主体の変更の有無にかかわらず、上記の各年分の所得税及び各課税期間の消費税等については、請求人が「納税義務がある者」ないし「納税義務があると認められる者」に該当する。
 また、請求人が主張する平成24年8月における廃業、経営主体の変更についてみると、上記ロの(リ)のA及び同Bのとおり、請求人は平成24年7月に本件スナックの営業活動を停止しており、本件スナックについて、同年8月○日付で、Lを営業者とする食品営業許可がなされ、本件居酒屋について、同年11月○日付でKを営業者とする食品営業許可がなされ、また、上記1の(4)のニ及び同ホのとおり、原処分庁に対し、請求人は平成24年8月31日をもって廃業した旨を記載した「個人事業の廃業届出書」及び「事業廃止届出書」を提出し、Lも同年9月1日をもって請求人から事業の引継ぎを受けた旨を記載した「個人事業の開業届出書」を提出しており、さらに、請求人は、上記ロの(ニ)のとおり、同年11月14日の調査の際に本件各店舗の経営を息子らに引き継いだ旨説明はしている。
 しかしながら、上記ロの(イ)のDのとおり、平成24年10月17日の調査時に請求人が本件各店舗の経営主体が代わった旨の説明をしたことはないし、上記ロの(ハ)のBのとおり、同年11月7日の調査の際に作成され請求人の署名押印がある質問てん末書には「職業 住所地において「H」と「J」(現「U」)を経営」との記載があり、請求人が本件各店舗を経営している旨申述していたことが認められる。加えて、上記ロの(リ)のCのとおり、N社が原処分庁に提出した消費税課税事業者選択届出書には、本件各店舗は、平成24年12月31日までは個人で経営していたものを、平成25年1月1日からN社が経営するようになった旨の記載があり、請求人の主張と整合しないし、上記1の(4)のニ及び同ホのとおり、上記の請求人による「個人事業の廃業届出書」及び「事業廃止届出書」並びにLによる「個人事業の開業届出書」が提出されたのは、いずれも平成25年3月14日である。
 これらの点を併せ考慮すると、請求人の主張する平成24年8月における廃業、経営主体の変更は認められず、本件スナックについては同年7月に営業活動を止めているものの、少なくとも同年末まで、請求人が本件各店舗の営業主体であることに変更は認められない。
 以上によれば、請求人の主張は採用することができない。

(ロ) 請求人は、通則法の改正により、実地の調査で質問検査等を行う場合には、事前通知をすることが義務付けられたところ、国税庁は、同改正法の施行前においても、事前通知に先行的に取り組むこととしていたのであるから、本件調査についても事前通知がされるべきであり、これがなく行われた本件の調査は不当である旨主張する。
 しかし、上記イのとおり、平成23年法律第114号による改正前の所得税法第234条第1項及び消費税法第62条第1項の適用される本件調査において、事前通知の要否といった質問検査の実施の細目については、調査担当職員の合理的な選択に委ねられていたものと解されるところ、当時、改正された通則法の施行を見据えた上記のような試行が行われていたことを考慮しても、本件で調査担当職員が請求人に対する事前通知をしなかったことが合理性を欠くと評価できるような事情は見当たらず、請求人の上記主張は採用することができない。

(ハ) 請求人は、調査担当職員が本件調査の中で行った行為が社会通念上相当な限度を逸脱するとして、るる主張するが、いずれもその前提事実を欠くものであり、採用することができない。以下、主要な点に対する判断を示す。

A 請求人は、本件調査は、本件居酒屋の営業を妨害するような傍若無人な態様で行われた旨主張する。
 しかしながら、調査担当職員は、上記ロの(イ)のC、同(ロ)のD及び同(ニ)のBのとおり、物件を探索する際には、必ず請求人の了解を得てこれを行っていたこと、同(イ)のEや同(ハ)のCのように、調査によって本件居酒屋の営業に支障を来さないよう一定の配慮をしていたことに照らせば、請求人が主張するような傍若無人な態様で調査が行われたとはにわかに考え難い。

B 請求人は、調査担当職員が平成24年10月23日の調査の際、本件スナックに不法侵入し、レジ内にあった釣銭5,000円を盗んだ旨主張し、レジの中には、釣銭として、常に5,000円札が3枚、1,000円札が15枚、100円玉が20枚、50円玉が20枚あるようにしていたが、その日は、全く客が入らなかったため、釣銭のまま残っているはずなのに、5,000円札が1枚足りなかった、店の買い物をした場合には、必ずレジに領収証を入れておくよう指示してあったが、それもなかったため、調査の際になくなったとしか考えられない、釣銭のチェックは、毎日、店が終わってから必ずする、したがって、平成24年10月23日の調査の直後に、釣銭5,000円が盗まれたことに気付いたなどと答述する。
 しかしながら、上記ロのとおり、そもそも平成24年10月23日に請求人に対する実地調査が行われた事実はないから、請求人の上記主張は、前提を欠くものであり、失当である。
 また、この点を措き、請求人が、上記ロの(ロ)のとおり請求人に対する実地調査が行われた平成24年10月24日に本件スナックのレジ内の現金が盗まれた旨を主張するものであると解したとしても、調査担当職員が同日の調査時に上記レジ内の現金を盗んだことをうかがわせる証拠は全くない。

C 請求人は、調査時に調査担当職員に提出した帳簿書類のうち、平成17年分の本件居酒屋伝票及び本件スナック伝票が返却されなかった旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)のC及び同(ト)のとおり、調査担当職員は、調査時に請求人から物件の提出を受けた際には、物件の目録を記載した預り証を発行して、請求人に交付しており、平成25年2月18日の提出書類の返却時には、調査時に請求人から提出を受けた書類の全てを返却し、預り証控えの返却確認欄に請求人の署名を得ているところ、本件の調査の中で調査担当職員が発行した預り証の中に、平成17年分の本件居酒屋伝票及び本件スナック伝票の記載はなく、調査担当職員が請求人から当該書類の提出を受けたとは認めることができない。

(ニ) 以上のとおりであるから、本件調査の手続に何ら違法な点はないというべきである。

(2) 争点2 青色申告の承認の取消事由があるか否か。

イ 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件居酒屋について

A 請求人は、テーブルごとの客数、注文内容、代金額等について、本件居酒屋伝票に記録して把握していた。
 請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成19年分ないし平成24年分の本件居酒屋伝票の一部を提出したが、その余の本件居酒屋伝票は提出しなかった。

B 請求人は、各営業日の売上げについては、本件居酒屋伝票を基に売上金額及び客数を集計し、当該集計結果を白地の「m票」用紙に記載した(以下、当該記載がされた「m票」用紙を「本件居酒屋集計伝票」という。)上、本件居酒屋集計伝票に記載された売上金額及び客数を、本件売上表に転記していた(本件売上表には、「総売上」、「純売上」、「客数」等の各欄が設けられ、営業日ごとに各項目が手書きで記入されている。)。
 請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成20年分、平成22年分及び平成23年分の本件居酒屋集計伝票及び平成24年分の本件居酒屋集計伝票の一部を提出したが、その余の本件居酒屋集計伝票は提出しなかった。
 また、請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成18年分、平成20年分、平成22年分及び平成24年分(ただし、7月分ないし10月分)の本件売上表を提出したが、その余の本件売上表は提出しなかった。なお、提出された平成18年分、平成20年分及び平成22年分の本件売上表は、いずれも表の一部が切断・除外され、全容が読み取れない状態であった。

C 請求人は、各営業日の食材等の仕入れについて、仕入先から交付されたレシート等(営業日ごとにステープラーでとじられていた。)を基に当日の仕入総額を集計し、当該集計結果をレシート等の裏面に記載するとともに、上記Bのとおり把握した売上金額及び客数についても、併せて同裏面に記載していた(以下、当該各記載がされたレシート等の裏面を「本件レシート裏面」という。)。その上で、本件レシート裏面に記載された仕入金額を、本件支払表に転記していた(本件支払表には、「小口」、「納品書」、「合計」等の各欄が設けられ、各営業日ごとに、「小口」欄には現金仕入れの金額が、「納品書」欄には掛け仕入れの金額が、「合計」欄にはこれらの合計額が手書きで記載されている。)。
 請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成19年分ないし平成24年分の仕入れに係るレシート等の一部並びに平成20年分及び平成22年分ないし平成24年分の本件レシート裏面を提出したが、その余のレシート等及び本件レシート裏面は提出しなかった。
 また、請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成20年分の本件支払表を提出したが、その余の本件支払表は提出しなかった。なお、提出された平成20年分の本件支払表は、いずれも表の一部が切断・除外され、全容が読み取れない状態であった。

(ロ) 本件スナックについて

A 本件スナックにおいて、テーブルごとの注文内容、代金額等は、本件スナック伝票に記録して把握していた。
 本件スナックは、平成24年○月に○○を受け、平成23年分ないし平成24年7月6日分の本件スナック伝票を○○された(なお、平成23年分ないし平成24年6月分の本件スナック伝票は、他の年分の本件スナック伝票と分けて保管されていた。)。調査担当職員は、aに赴き、上記○○された本件スナック伝票の写しを入手した。
 また、請求人は、本件調査の中で、調査担当職員に対し、平成22年分以前の本件スナック伝票であるとして、本件スナック伝票数百枚を提出したが、各伝票に年分の記載がなく、それぞれがいずれの年分のものであるのかを特定することはできなかった。

B 本件居酒屋と異なり、各営業日の売上金額を集計した書類は作成していなかった。

C 仕入れについては、本件居酒屋の仕入れと併せて、さらに、家事費相当分を区分することなく、本件支払表に記載していた。

(ハ) 請求人は、平成25年1月31日、調査担当職員に対し、「残っている資料から本件各店舗の経費を見直したものである」として、1「24年分所得計算書」と題する本件各店舗の平成24年分の売上高及び必要経費を記載したとする表、2本件スナックの平成21年6月分ないし平成22年7月分のホステスの出勤表、3「H売上表」と題する本件居酒屋の本件各年分の月々の売上金額を記載したとする表、4「J売上表」と題する本件スナックの平成21年分ないし平成24年分の各月の売上金額を記載したとする表、5本件居酒屋及び本件スナックの平成21年分ないし平成24年分の売上金額及び従業員給与の額を記載したとする表、6「J・U給料賃金」と題する本件スナックの平成21年分ないし平成24年分の従業員給与を記載したとする表等を提出した。

ロ 判断

(イ) 所得税法第150条第1項第1号の規定により、税務署長は、青色申告の承認を受けた居住者につき、その年における事業所得を生ずべき業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存(以下併せて「備付け等」という。)が同法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない場合には、その年まで遡ってその承認を取り消すことができる。
 そして、所得税法第148条第1項を受けた所得税法施行規則第56条以下は、青色申告者が備付け等すべき帳簿書類につき、正規の簿記の原則に従い記録されたものを原則としつつ、これに代えて、財務大臣の定める簡易な記録の方法及び記載事項(以下「簡易帳簿」という。)によることができる旨を定めており、これを受けた大蔵省告示第3項第1号は、青色申告者は、事業所得の金額が正確に計算できるように、必要な帳簿を備え、その取引を、「現金出納等に関する事項」、「売上に関する事項」、「仕入に関する事項」及び「仕入以外の費用に関する事項」の取引ごとに、取引の年月日、相手方、金額等が明らかになるように記録しなければならない旨を定めている。

(ロ) しかるに、請求人は、上記イの(イ)のとおり、本件居酒屋については、本件売上表や本件支払表等の帳簿を作成し、これに売上金額や仕入金額等を記載してはいたものの、本件売上表は、本件各年分のうち、平成19年分、平成21年分及び平成23年分の提出がない上に、提出のあった各年分についても、平成18年分、20年分及び平成22年分は、いずれも表の一部が切断・除外され、全容が読み取れない状態であったこと、本件支払表は、本件各年分のうち、平成18年分、平成19年分及び平成21年分ないし平成24年分の提出がない上に、提出のあった平成20年分についても、いずれも表の一部が切断・除外され、全容が読み取れない状態であったこと、上記イの(ロ)のとおり、本件スナックについては、売上金額を集計した書類を一切作成しておらず、仕入金額についても、本件居酒屋の仕入金額と併せ家事費相当分を区別することもなく本件支払表に記載していたにとどまり、その本件支払表には上記のような不備があること、なお、本件各店舗は、現金売上げを主体とした業種であるにもかかわらず、請求人が作成していた書類からは、各営業日の現金有高が全く分からないことが認められ、こうした本件各店舗の帳簿書類の備付け等の状況に照らせば、請求人は、上記(イ)で見た正規の簿記の原則に従い記録された帳簿書類の備付け等をしていなかったことはもとより、簡易帳簿による帳簿書類の備付け等をもしていなかったものと見るほかなく、平成18年において、所得税法第150条第1項第1号所定の青色申告の承認の取消事由が認められるから、同年まで遡ってされた本件青色承認取消処分は適法である。

(ハ) これに対し、請求人は、本件売上表及び本件支払表等に加えて、上記イの(ハ)の各帳簿書類を提出したのであるから帳簿書類の備付け等がないとはいえない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)の各提出書類は、各勘定科目の金額の月合計又は年合計を一括して記載したものにすぎず、大蔵省告示が定める、取引ごとに取引の年月日、相手方、金額等が明らかになるように記録したものとはなっていないから、これをもって帳簿書類の備付け等があるものとは認めることができず、請求人の上記主張は採用することができない。

(3) 争点3 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の必要性が認められるか否か。

上記(2)で見たとおり、請求人は、本件各店舗の帳簿書類の備付け等をしていなかった上に、売上金額の裏付けとなる本件居酒屋伝票、本件スナック伝票や、必要経費の額の裏付けとなるレシート等の証ひょう書類についても、その一部しか保存していなかったのであるから、後記(4)のとおり、実額を把握できる平成23年分の課税売上げを除き、飲食業についての事業所得及び課税売上げにつき、実額を把握するに足りる資料が存在しないものというほかはなく、推計の必要性が認められる。
 なお、請求人は、本件各店舗の平成21年分ないし平成23年分の事業所得の金額を修正する旨主張するが、当該主張を裏付ける証拠資料を提出するものではないから、当審判所においても、上記の平成23年分を除く本件各年分の飲食業についての事業所得及び本件各課税期間の課税売上げにつき、推計の方法により金額を算出する必要がある。

(4) 争点4 飲食業についての事業所得及び課税売上げに係る推計の合理性が認められるか否か。

イ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 原処分庁は、次の方法により、本件各店舗の売上金額及び所得金額を推計した。

A 本件居酒屋について

(A) 売上金額について
 平成20年分及び平成22年分の売上金額については、本件居酒屋集計伝票、本件レシート裏面及び本件売上表に記載された各営業日の売上金額を照合した上で集計することにより、また、平成23年分の売上金額については、本件居酒屋集計伝票及び本件レシート裏面に記載された各営業日の売上金額を照合した上で集計することにより、別表3−1の「1実額で把握した売上金額」欄のとおり、実額で把握した。
 平成18年分、平成19年分、平成21年分及び平成24年分の売上金額については、請求人の酒類の仕入先を調査し、本件各年分の本件居酒屋に係る酒類の仕入金額を、別表3−1の「2酒類の仕入金額」欄のとおり把握した(なお、請求人の酒類の仕入れは、本件居酒屋と本件スナックとで分別して行われていた。)上、平成18年分、平成19年分、平成21年分及び平成24年分の酒類の仕入金額を、上記のとおり売上金額を実額で把握した平成20年分、平成22年分及び平成23年分の数値を基に算出した酒類の仕入割合(同別表3−1の「3酒類の仕入割合」欄のとおり。)の平均値(12.53%)で除することによって、同別表の「上記3の平均値(12.53%)で除した売上金額」欄のとおり、算出した。

(B) 所得金額について
 本件各年分の所得金額については、上記(A)の売上金額に、本件居酒屋と業種、規模、立地等が類似する同業者の平均所得率を乗じて算出する方法を採用した。
 原処分庁は、上記の同業者率を把握するため、原処分庁管内及び隣接するd・e・f・g・h・i・j各税務署管内の次の各条件を満たす事業者を抽出したところ、平成18年分ないし平成23年分については4業者が、平成24年分については10業者が抽出された。
 1個人事業者であること
 2青色申告者であること
 3年を通じて事業を営んでいること
 4居酒屋を営んでおり、居酒屋以外の業種を兼業していないこと
 5事業所が一つであること
 6売上金額が、請求人の売上金額の0.5倍以上2倍以下であること(倍半基準)
 7店舗が賃借物件でないこと
 上記のとおり抽出された類似同業者の平均所得率は、平成18年分が16.61%、平成19年分が16.74%、平成20年分が17.10%、平成21年分が17.30%、平成22年分が18.55%、平成23年分が19.26%、平成24年分が19.22%であり、これを請求人の本件各年分の売上金額に乗じて、所得金額を、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円と算出した。
 なお、平成18年分ないし平成23年分と平成24年分とで抽出した類似同業者を異にしたのは、倍半基準の適用に当たり、平成18年分ないし平成23年分については通年倍半を採用したのに対し、平成24年分については各年倍半を採用したためである。平成24年分についてのみ各年倍半を採用したのは、「請求人が平成24年8月末をもって本件各店舗を廃業したため、経営状態に変化があった」と判断したことによる。

B 本件スナックについて

(A) 売上金額について
 平成23年分及び平成24年分の売上金額については、本件スナック伝票を集計することにより、別表3−2の「1実額で把握した売上金額」欄のとおり、実額で把握した。
 平成18年分ないし平成22年分の売上金額については、請求人の酒類の仕入先を調査し、本件各年分の本件スナックに係る酒類の仕入金額を、別表3−2の「2酒類の仕入金額」欄のとおり把握した上、平成18年分ないし平成22年分の酒類の仕入金額を、上記のとおり売上金額を実額で把握した平成23年分及び平成24年分の数値を基に算出した酒類の仕入割合(同別表の「3酒類の仕入割合」欄のとおり。)の平均値(11.19%)で除することによって、同別表3−2の「上記3の平均値(11.19%)で除した売上金額」欄のとおり、算出した。

(B) 所得金額について
 本件各年分の所得金額については、上記(A)の売上金額に、本件スナックと業種、規模、立地等が類似する同業者の平均所得率を乗じて算出する方法を採用した。
 原処分庁は、上記の同業者率を把握するため、原処分庁管内及び隣接するd・e・f・g・h・i・j各税務署管内の次の各条件を満たす事業者を抽出したところ、平成18年分ないし平成23年分については13業者が、平成24年分については14業者が抽出された。
 1個人事業者であること
 2青色申告者であること
 3年を通じて事業を営んでいること
 4スナックを営んでおり、スナック以外の業種を兼業していないこと
 5事業所が一つであること
 6売上金額が、請求人の売上金額の0.5倍以上2倍以下であること
 7店舗が賃借物件でないこと
 上記のとおり抽出された類似同業者の平均所得率は、平成18年分が10.35%、平成19年分が11.60%、平成20年分が9.90%、平成21年分が11.94%、平成22年分が12.28%、平成23年分が10.21%、平成24年分が3.69%であり、これを請求人の本件各年分の売上金額に乗じて、所得金額を、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円と算出した。
 なお、平成18年分ないし平成23年分と平成24年分とで抽出した類似同業者を異にした理由は、本件居酒屋と同じである。

(ロ) 本件各店舗の経営主体等について
 本件スナックは、上記(1)のロの(リ)のとおり、平成24年○月に○○により、廃業となったが、平成18年から廃業まで、請求人が経営主体であって、業態や経営内容にも特段の変化はなかった。なお、請求人の飲食業については、上記1の(4)のハのとおり、息子ら等が青色事業専従者として申告されていたが、本件各店舗の内の本件スナックには、平成18年から廃業まで青色事業専従者がいたことはなかった。
 また、本件居酒屋についても、上記(1)のハの(イ)のとおり、請求人の主張する平成24年8月における廃業、経営主体の変更は認められず、平成18年から平成24年まで、請求人が経営主体であって、業態や経営内容にも特段の変化はなかった。

ロ 判断

(イ) 推計課税の合理性が認められるためには、1推計の基礎数値が正確に把握されていること、2種々の推計方法のうち、当該事案に適切なものが選択されていること、3具体的な推計方法が、できる限り真実の金額に近似した数値が算出され得るような客観的なものであることの各要件を満たす必要があるものと解される。

(ロ) 上記イの(イ)のとおり、原処分庁は、本件各店舗の売上金額につき、本件居酒屋集計伝票や本件スナック伝票等の請求人自身が業務上作成していた伝票類から実額を把握できる年分については、当該伝票類を照合、集計して実額を把握し、そのようにして実額を把握することができない年分については、酒類の仕入金額を仕入割合で割り戻す方法によって算出したものであるところ、酒類の仕入金額は、仕入先に対する調査によって把握され、かつ、請求人の酒類の仕入れは、店舗ごとに分別して行われており、店舗ごとの仕入金額を各別に把握することができたことに鑑みれば、推計の基礎数値は正確に把握されており、本件居酒屋の売上金額は、別表3−1の「本件居酒屋に係る売上金額」欄記載の各金額であり、本件スナックの売上金額は、別表3−2の「本件スナックに係る売上金額」欄記載の各金額であると認めることができる。

(ハ) また、原処分庁が所得金額の推計方法として採用した同業者比率法は、類似同業者の抽出が適切に行われていれば、真実の所得金額との近似性がよりよく担保され得る手法であると考えられるところ、本件各店舗がその適用になじまないような事情はうかがわれず、推計方法の選択は適切であると認められる。

(ニ) さらに、原処分庁が類似同業者の抽出に当たり設定した上記イの(イ)のAの(B)及び同Bの(B)の抽出条件は、同業者の類似性及び抽出内容の正確性を十分に確保し得る内容であると評価することができる上、その抽出過程に原処分庁の恣意が介在したような事情もうかがわれないから、推計方法の客観性が担保されているものと認めることができる。

(ホ) これらによれば、原処分庁が行った推計課税には、合理性が認められる。

(ヘ) もっとも、上記イの(ロ)のとおり、本件各年分を通じて、本件各店舗の業態や経営状態に特段の変化はなく、本件居酒屋が平成24年8月末をもって廃業したなどの事実も認められないことからすれば、原処分庁が行ったように、類似同業者の抽出過程における倍半基準の適用に当たり、平成24年分についてのみ各年倍半を採用すべき理由はなく、本件各年分を通じた通年倍半を採用するのが相当といえ、この基準に適合する同業者のみを抽出するのがより合理的であるということができる。
 そうすると、本件居酒屋の類似同業者として抽出されるのは、本件各年分を通じて、別表4−1の3業者となる。なお、原処分庁は、平成24年分の類似同業者Bについて、Bは消費税等について税抜経理方式を採用しているところ、これを他の類似同業者が採用する税込経理方式による数値と整合させるために税込換算するに当たっては、消費税等の納付税額を租税公課として必要経費に算入して換算すべきであったにもかかわらず、これを必要経費に算入しないなど、不適切な処理を行っていることから、この点に所要の修正を加えた上で平均所得率を算出すると、同別表4−1の「所得率」欄のとおりとなり、各年分の売上金額(別表3−1の「本件居酒屋に係る売上金額」欄記載の各金額)に平均所得率を乗じて算出される所得金額は、別表5−1の「審判所認定額」欄の「本件居酒屋」欄の「31×2)」欄のとおりとなるものと認められる。
 また、本件居酒屋と同様に、本件スナックについても、平成24年分についてのみ各年倍半を採用すべき理由はなく、本件各年分を通じた通年倍半を採用するのが相当である上に、上記イの(ロ)のとおり、本件スナックに青色事業専従者がいたことはないことからすると、青色事業専従者が存在する事業者は除外するのが適切といえ、これらの基準に適合する同業者のみを抽出するのがより合理的であるといえる。
 そうすると、本件スナックの類似同業者として抽出されるのは、本件各年分を通じて、別表4−2の3業者となり、その平均所得率は、同別表の「所得率」欄であって、各年分の平均所得率を売上金額(別表3−2の「本件スナックに係る売上金額」欄記載の各金額)に乗じて算出される所得金額は、別表5−1の「審判所認定額」欄の「本件スナック」欄の「64×5)」欄のとおりとなるものと認められる。

(ト) 以上によれば、請求人の事業所得の金額は、原処分額が、別表5−1の「原処分額10事業所得の金額」欄のとおりであるのに対し、当審判所の認定額は、同別表の「審判所認定額」欄の「9事業所得の金額(78)」欄のとおりとなり、同別表の「増減差額(910)」欄のとおり、いずれの年分においても、審判所認定額が原処分額を上回る。

(チ) また、本件各店舗に係る消費税等の課税売上げの額は、上記(ロ)の本件各店舗の売上金額(別表3−1の「本件居酒屋に係る売上金額」欄記載の各金額及び別表3−2の「本件スナックに係る売上金額」欄記載の各金額)と同額であると認めることができる。

(リ) これに対し、請求人は、原処分庁が把握した本件各店舗の売上金額や酒類の仕入金額は不正確である旨主張する。
 しかしながら、推計の基礎数値が正確に把握されていることは、上記(ロ)で見たとおりであり、その正確性に疑問を抱かせるような証拠資料は見当たらず、請求人の上記主張は採用することができない。
 また、請求人は、原処分庁が本件スナックの平成23年分の売上金額であると主張する金額は、同年分以外の売上金額をも含む金額である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のイの(ロ)のAのとおり、平成23年分の本件スナック伝票は、他の年分と分けて保管されていたのであるから、原処分庁が平成23年分の売上金額と他の年分の売上金額を混同して集計したとは考え難く、請求人の上記主張は採用することができない。
 さらに、請求人は、原処分庁が類似同業者として選定した業者は、本件各店舗の営業実態にそぐわないものである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁による類似同業者の抽出に合理性が認められることは、上記(ニ)で見たとおりである。なお、本件のように複数の類似同業者の平均値により推計を行う場合、通常想定される程度の営業条件の差異は、平均値を算出する過程で包摂されると考えられる。したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
 なお、請求人は、本件スナックは、実際には赤字であった旨主張するが、当該主張を裏付ける証拠資料を提出するものではなく、採用することができない。

(5) 争点5 賃料収入等の帰属が適正か否か。

イ 法令解釈

相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものと解するのが相当である。

ロ 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人の妻であるQは、平成15年8月○日当時、k市n町○−○所在の居宅兼作業所の共有持分10分の2を有していた。
 上記居宅兼作業所の1階部分は、V社に対し、賃料月額○○○○円(平成18年3月以降は○○○○円)で賃貸されている(以下「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に基づく賃料債権を「本件賃料債権」という。)。なお、本件賃貸借契約には、契約は3年ごとに更新され、更新の際、更新料として、更新後の賃料の1か月分に消費税を加えた金額を支払う旨の約定がある。

(ロ) Qは、平成15年8月○日、死亡した。
 Qの相続人は、夫である請求人並びに子であるK、L及びTの4名である。

(ハ) 本件賃料債権に基づく賃料収入のうち、Qの持分に相当する月額○○○○円(平成18年3月以降は○○○○円。以下、「本件賃料収入」という。)は、毎月、請求人名義の貯金口座に送金されている。

(ニ) 請求人は、平成18年分ないし平成23年分の所得税の確定申告において、本件賃料収入の全額を請求人の不動産所得に計上して申告をし、平成24年分の所得税の確定申告において、本件賃料収入のうち、同年1月分ないし8月分の全額を請求人の不動産所得に計上して申告をした。なお、平成24年9月分ないし12月分の本件賃料収入については、Lが、その全額を同人の不動産所得に計上して申告をした。

(ホ) 原処分庁は、請求人の平成18年分、平成21年分及び平成24年分の不動産所得につき、Qの持分に相当する更新料収入(以下、本件賃料収入と併せて「本件賃料収入等」という。)の計上漏れがあり、また、平成24年9月分ないし12月分の本件賃料収入は、その全額が請求人に帰属するなどとして、平成26年3月13日付で、別表1の「更正処分等」欄の各「不動産所得の金額」欄のとおり、所得税の更正処分をし、また、同日付で、別表8の「更正処分等A」欄の内の各「本件建物に係る賃料等(税込み)」欄のとおり、消費税等の更正処分をした。

(ヘ) 上記(ホ)の更正処分当時、Qの遺産分割はされていなかった。

(ト) 請求人は、平成26年8月28日、当審判所に対し、請求人、K、L及びT並びにN社名義の「Qの遺産相続譲渡証」と題する書面(以下「本件譲渡証」という。)を提出した。本件譲渡証には、本件賃料収入を、我々相続人が預かっていたのですが、平成15年9月○日にN社取締役Qの持株を相続し、平成24年9月1日にN社代表取締役Lの就任をきっかけに、N社に、相続金を譲渡することを決めましたとの記載がある。請求人は、本件譲渡証は、平成24年9月1日分以降の本件賃料収入をN社に譲渡することを合意したものである旨答述している。

ハ 判断

(イ) 原処分庁は、本件各年分において、本件賃料収入等の全額が請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人にその相続分に応じて確定的に帰属すると解するのが相当であるから、本件各年分に生じた本件賃料収入等は、その全額が請求人に帰属するのではなく、法定相続分に応じて、請求人に2分の1、K、L及びTに各6分の1の割合で帰属するものと認めるのが相当である。
 上記ロの(ハ)のとおり、本件賃料収入は、毎月、その全額が請求人名義の貯金口座に送金されており、同(ニ)のとおり、請求人は、平成18年分ないし平成24年8月分については、本件賃料収入の全額を自身の不動産所得及び課税売上げに計上して申告をしていたのであって、審査請求における請求人の主張は、こうした従前の態度と矛盾するとも考えられるが、上記イのような私法上の法律関係を前提とすると、本件賃料収入等のうち請求人に帰属するのは2分の1に限られる。

(ロ) なお、請求人は、本件譲渡証により、平成24年9月1日分以降の本件賃料収入等はN社に譲渡された旨主張するが、本件譲渡証は、その文言、提出時期及び請求人の従前の態度に照らし、にわかに措信することができず、請求人の上記主張は採用することができない。

(ハ) 以上を前提に請求人の本件各年分の不動産所得の金額を計算すると、別表5−2の「審判所認定額」欄の「7不動産所得の金額(6×50%)」欄のとおりとなり、同別表の「増減差額(78)」欄のとおり、いずれの年分についても、審判所認定額が原処分額を下回る。

(ニ) また、本件各課税期間の賃料収入等に係る消費税等の課税売上げの額は、別表8の「審判所認定額B」欄の「本件建物に係る賃料等(税込み)」欄のとおりとなり、同別表の「増減差額(B−A)」欄のとおり、いずれの課税期間についても、審判所認定額が原処分額を下回る。

(6) 事実の隠ぺい又は仮装の有無について

請求人提出資料、原処分庁関係資料及び審判所の調査の結果によれば、請求人は、伝票等から本件各店舗の実際の売上金額を把握していたにもかかわらず、その半分以上を除外して売上金額を集計・記載し、更に適当な必要経費を計上した青色決算書を作成し、これを基に所得税及び消費税等の確定申告を行っていた上、本件居酒屋の売上金額等が記載された本件売上表等を故意に切断ないし廃棄(本件調査の中で請求人が提出しなかった年分に係る本件売上表等は、請求人が廃棄したものと認められる。)するなど、調査担当職員が請求人の真実の所得金額等を把握しようとする行為を困難ならしめたことが認められ、請求人は、所得税及び消費税等の課税要件事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき確定申告を行ったものと認めるのが相当である。

(7) 更正の期間制限について

イ 通則法第70条第4項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定しているところ、上記(6)のとおり、請求人は、所得税及び消費税等の課税要件事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき確定申告を行ったものであるから、偽りその他不正の行為により所得税及び消費税等の税額を免れた(ただし、後記ロで述べる平成18年分の所得税を除く。)ものと認めることができる。

ロ もっとも、上記(2)ないし(5)で判断したところにより請求人の平成18年分の総所得金額を計算すると、別表6の「総所得金額」欄の「審判所認定額C」欄のとおり、○○○○円となり、「申告額A」欄(○○○○円)からの増差額は「2増減差額(C−A)」欄記載の○○○○円(以下「平成18年分所得税増差額」という。)となるが、平成18年分所得税増差額は、本件青色承認取消処分により青色申告者の特典が受けられなくなった結果、総所得金額の計算上否認されることとなった青色事業専従者給与等(○○○○円)から、所得税法第57条第3項第1号ロの規定により必要経費とみなされる事業専従者控除(1,500,000円。なお、平成18年分における本件居酒屋の事業専従者は3人である。)を差し引いた額である○○○○円を下回る。
 そうすると、平成18年分所得税増差額は、本件青色承認取消処分に起因して生じたものとみることができ、請求人が偽りその他不正の行為により免れた税額であるとはいうことができない。

ハ 以上によれば、平成18年分の所得税の更正処分は、旧通則法第70条第1項第1号所定の更正の期間制限に抵触し、違法といわざるを得ないが、平成19年分ないし平成24年分の所得税の更正処分及び本件各課税期間の消費税等の更正処分は、更正の期間制限に抵触しない。

(8) 結論

イ 本件青色承認取消処分について

上記(2)のとおり、本件青色承認取消処分は適法である(主文第1項)。

ロ 本件各更正処分について

(イ) 所得税の更正処分について

A 上記(7)のとおり、平成18年分の所得税の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである(主文第2項)。

B 上記(2)ないし(5)で判断したところにより請求人の平成19年分ないし平成23年分の所得税額を計算すると、別表7のとおり、いずれの年分においても審判所認定額が原処分額を上回るから、平成19年分ないし平成23年分の所得税の各更正処分は適法である(主文第3項)。

C 他方、請求人の平成24年分の所得税額を計算すると、別表7のとおり、審判所認定額が原処分額を下回るから、平成24年分の所得税の更正処分については、別紙1のとおり、その一部を取り消すべきである(主文第4項)。

(ロ) 消費税等の更正処分について
 上記(4)のロの(チ)及び(5)のハの(ニ)で判断したところにより請求人の本件各課税期間の消費税等額を計算する(なお、平成18年課税期間、平成19年課税期間、平成21年課税期間及び平成24年課税期間については、消費税法第37条第1項所定の簡易課税制度の適用がある。)と、別表8のとおり、いずれの課税期間においても、審判所認定額が原処分額を下回るから、本件各課税期間の消費税等の各更正処分については、別紙2−1ないし別紙2−7のとおり、その一部を取り消すべきである(主文第5、6項)。

ハ 本件各賦課決定処分について

(イ) 所得税に係る重加算税等の賦課決定処分について

A この点、原処分庁は、本件スナックの事業所得に係る所得税額を、重加算税額の計算の基礎となる税額から除いて重加算税額を計算している。
 しかしながら、上記(6)で認定したところによれば、請求人は、本件スナックの事業所得についても、課税要件事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき確定申告を行ったものと認めるのが相当であるから、本件スナックの事業所得に係る所得税額についても、重加算税額の計算の基礎に含めるべきである。

B そして、別表7の所得税額を基礎に請求人の平成19年分ないし平成23年分の所得税に係る重加算税等の額を計算すると、同別表のとおり、いずれの年分についても、審判所認定額が原処分額を上回るから、平成19年分ないし平成23年分の所得税に係る重加算税等の各賦課決定処分は適法である(主文第3項)。

C 他方、請求人の平成24年分の所得税に係る重加算税額を計算すると、別表7のとおり、審判所認定額が原処分額を下回るから、平成24年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分については、別紙1のとおり、その一部を取り消すべきである(主文第4項)。

(ロ) 消費税等に係る重加算税等の賦課決定処分について

A 上記(イ)のAと同様に、原処分庁が重加算税額の計算の基礎となる税額から除いた本件スナックの課税売上げに係る消費税等の額を、重加算税額の計算の基礎に含め、請求人の平成18年課税期間ないし平成20年課税期間、平成22年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等に係る重加算税等を計算すると、別表8のとおり、いずれの課税期間についても、審判所認定額が原処分額を上回るから、平成18年課税期間ないし平成20年課税期間、平成22年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等に係る重加算税等の各賦課決定処分は適法である(主文第5項)。

B 他方、請求人の平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税等額を計算すると、別表8のとおり、審判所認定額が原処分額を下回るから、平成21年課税期間の消費税等に係る重加算税等の賦課決定処分については、別紙2−4のとおり、その一部を取り消すべきである(主文第6項)。

(9) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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