(平成27年6月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、平成23年に土地及び建物を譲渡した審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該譲渡に係る譲渡所得について所得税の確定申告をした後、当該譲渡所得の金額の計算上控除すべき当該土地の取得費の額に誤りがあるとして、更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該土地は請求人が所得税法第58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用を受けて取得した同項に規定する取得資産であるから、当該譲渡所得の金額の計算上控除すべき当該土地の取得費の額は所得税法施行令第168条《交換による取得資産の取得価額等の計算》第3号の規定により計算した金額になるなどとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をするとともに、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、請求人は本件特例の適用を受けていたとは認められないのであるから、原処分庁が計算した当該譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額には誤りがあるとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成23年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出して、確定申告をした。

ロ 請求人は、平成24年12月27日、分離長期譲渡所得の金額の計算に誤りがあることを理由に、別表1の「更正の請求」欄のとおり記載した平成23年分の所得税の更正の請求書(以下「本件更正の請求書」という。)を原処分庁に提出して、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

ハ 原処分庁は、本件更正の請求に対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成26年4月15日付で、1別表1の「通知処分」欄のとおり、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をするとともに、2別表1の「更正処分等」欄のとおり、所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ニ 請求人は、平成26年6月13日、本件通知処分及び本件更正処分等を不服として別表1の「異議申立て」欄のとおり、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成26年9月12日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、平成26年10月10日、異議決定を経た後の本件通知処分及び本件更正処分等に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 1所得税法第58条第1項は、同項第1号に土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権及び賃借権を含む。)を掲げ、居住者が、1年以上有していた固定資産で同項各号に掲げるものをそれぞれ他の者が1年以上有していた固定資産で当該各号に掲げるものと交換し、その交換により取得した当該各号に掲げる資産(以下「交換取得資産」という。)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(以下「交換譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には、所得税法第33条《譲渡所得》の規定の適用については、当該交換譲渡資産(交換取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には、当該金銭の額及び金銭以外の資産の価額に相当する部分を除く。)の譲渡がなかったものとみなす旨、2所得税法第58条第2項は、同条第1項の規定は、同項の交換の時における交換取得資産の価額と交換譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い価額の100分の20に相当する金額を超える場合には、適用しない旨、3同条第3項は、同条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨、交換取得資産及び交換譲渡資産の価額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する旨、4同条第4項は、税務署長は、確定申告書の提出がなかった場合又は同条第3項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、同条第1項の規定を適用することができる旨、5同条第5項は、同条第1項の規定の適用を受けた居住者が交換取得資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算に関し必要な事項は政令で定める旨、それぞれ規定している。

ロ 所得税法施行令第168条は、所得税法第58条第1項の規定の適用を受けた居住者が同項に規定する交換取得資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者がその交換取得資産を所得税法施行令第168条各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額をもって取得したものとみなす旨規定し、同条第3号は、交換取得資産を取得するために要した経費の額がある場合には、交換譲渡資産の取得費(所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項又は第2項の規定による取得費をいい、その交換譲渡資産の譲渡に要した費用がある場合には、これらの取得費にその費用の額を加算した金額をいう。)に、交換取得資産を取得するために要した経費の額を加算した金額を掲げている。

ハ 所得税法施行規則第37条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例の適用を受けるための記載事項》は、所得税法第58条第3項に規定する財務省令で定める事項は、所得税法施行規則第37条各号に掲げる事項とする旨規定し、1同条第1号は、所得税法第58条第1項に規定する交換取得資産及び交換譲渡資産の種類、数量及び用途を、2所得税法施行規則第37条第2号は、所得税法第58条第1項に規定する交換の相手方の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地を、3所得税法施行規則第37条第3号は、同条第2号の交換がされた年月日を、4同条第4号は、同条第1号の交換取得資産及び交換譲渡資産の取得の年月日を、5同条第5号は、その他参考となるべき事項を、それぞれ掲げている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 平成23年の譲渡について

請求人は、平成23年8月27日付で、Gとの間で、d市e町○−○に所在する宅地(以下「本件土地」という。)及び本件土地に存する家屋番号○番○の建物(以下「本件建物」という。)について、売主を請求人、買主をG、売買代金を○○○○円とする旨の不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、本件売買契約に基づき本件土地及び本件建物を譲渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)。
 本件土地の地積は、本件売買契約に係る契約書には122平方メートルと記載されているが、登記記録では、平成23年10月20日、平成10年12月26日地目変更を原因として122平方メートルから122.85平方メートルへ変更されており、本件土地及び本件建物については、平成23年10月31日、請求人からGへ同日売買を原因とする所有権移転登記がそれぞれされた。

ロ 本件土地の取得について

本件土地は、次のとおり、請求人が交換により取得したものであった。

(イ) 請求人は、平成8年2月21日、H、J及びKとの間で、「J及びKが所有する土地(d市e町○−△の地積639.60平方メートルのうち218.18平方メートルの宅地)に設定された請求人の借地権(以下「本件借地権」という。)」と「Hが所有する本件土地の所有権」とを交換する旨の契約(以下「本件交換契約」といい、本件交換契約に係る「土地・借地権等価交換契約書」と題する契約書を「本件交換契約書」という。)を締結し、本件交換契約に基づき請求人とHとは本件借地権と本件土地の所有権とを交換した(以下、この本件交換契約に基づく本件借地権と本件土地の所有権との交換を「本件交換」という。)。
 なお、本件交換契約書には、本件借地権と本件土地の所有権とは、同一価額として等価交換とし、請求人とHとの間において、本件借地権と本件土地の所有権との交換以外に金銭その他の授受は行わない旨記載されている(本件交換契約書第3条)。

(ロ) 本件土地については、平成8年7月15日、Hから請求人へ同年2月21日交換を原因とする所有権移転登記がされた。

ハ 請求人が原処分庁に提出した書面について

原処分庁所属の調査担当職員は、本件譲渡に係る譲渡所得について調査を実施し、請求人の代理人であるQ税理士は、平成24年8月3日、当該職員に対し、本件交換契約書のほか、請求人の平成8年分の譲渡所得計算明細書の控え(以下「本件明細書控え」という。)、平成8年分の所得税の修正申告書の控え(以下「本件控え」という。)、「E(請求人)平成8年分所得税の確定申告に関しての検討報告書」と題する書面(以下「本件報告書」という。)などの書類を提出した。

(イ) 本件明細書控えについて
 本件明細書控えには、平成10年6月10日付のF税務署の文書収受印が押印されており、要旨次表のとおり記載されている。

項目 記載内容
譲渡者 請求人
関与税理士 L(以下「L税理士」という。)
特例適用条文 所得税法第58条
譲渡した資産の明細 資産の所在地番 d市e町○−△の一部
資産の種類 土地(借地権)
資産の利用状況 宅地
資産の数量 639.60平方メートル
譲渡先 H
譲渡した年月日 平成8年2月21日
譲渡資産を取得した時期 昭和44年2月1日
譲渡価額の総額 (記載なし)
取得費 (記載なし)
譲渡に要した費用 (記載なし)
交換した資産の明細 所在地番 d市e町○−○
資産の種類 土地
資産の利用状況・利用目的 宅地
資産の数量 122.00平方メートル
代わりの資産を買った日 平成8年2月21日
買入れ(交換)先 H
代わりの資産の買取り価額 (記載なし)
譲渡所得の金額の計算 収入金額 零円
必要経費 零円
譲渡所得の金額 零円

(ロ) 本件控えについて

本件控えには、平成10年9月22日付のF税務署の文書収受印が押印されており、作成税理士欄にL税理士の氏名、事務所所在地等が記載されているほか、要旨次表のとおり記載されている。

記載内容
一面 A修正前の課税額 B修正申告額 C修正する額
BA
総合課税の
所得金額
その他の事業所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
不動産所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
総合課税の
所得金額
雑所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
合計 ○○○○円 ○○○○円 ○○○○円
分離長期譲渡所得の金額 (記載なし) 零円 (記載なし)
所得控除の額(合計) ○○○○円 ○○○○円
納付すべき税額
(△印:還付金の額に相当する税額)
○○○○円 ○○○○円 ○○○○円
二面 所得の金額 所得の種類 種目 所得の生ずる場所 収入金額 所得金額
不動産 貸地 d市e町 ○−○ ○○○○円 ○○○○円
分離長期譲渡 土地借地権 d市e町 ○−△の一部 (記載なし) 零円
異動の理由 不動産所得の計上漏れ、所得税法第58条の適用申告漏れ。

(ハ) 本件報告書について
 本件報告書は、平成10年6月10日の日付の記載があるL税理士(事務所の担当者:M)から原処分庁宛の書面であり、同書面には、要旨次のとおり記載されている。

A 当事務所において請求人の「申告委任」を受け、検討した結果を報告する。

B 請求人は、高齢でありながら、姉を扶養する立場で同居し、年金で生活をしていたところ、地主との立退問題が発生し、結果、土地の交換で解決に至った。

C 別紙の納税者の嘆願書(なお、当該嘆願書については、後記ホに記載のとおり。)の嘆願理由から、期限後申告については、納税者の認識が悪意でなく、申告が必要であれば積極的かつ自主的に行われていたと思われる。

ニ 請求人が本件更正の請求において提出した書面について

請求人は、上記ハの本件譲渡に係る譲渡所得の調査による指摘事項が示された後、上記(2)のロのとおり、平成24年12月27日に本件更正の請求をしたところ、本件更正の請求書には、更正の請求をする理由等の欄に「当初申告における計算数値を更正するため、別紙にその理由を添付しました。」と記載されており、当該「別紙」のほか、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」(以下「本件内訳書」という。)などが添付されている。

(イ) 本件更正の請求書に添付された「別紙」には、要旨次のとおり記載されている。

A 本件借地権と本件土地との交換がなされたとしての土地の価格指数(N社の○○市街地価格指数・○○地)

(A) 平成8年○月○日:1XX.XX(同年○月の1XX.Xと同年○月の1XX.Xの平均値)

(B) 平成23年○月○日:9X.X

B 平成23年分の路線価

(A) 本件借地権:420,000円

(B) 本件土地:420,000円

C 本件交換の時における本件借地権及び本件土地の各価額

平成23年分の
路線価
1
地積
2
上記Aの(A)の指数
÷同(B)の指数
3
借地権割合
4
本件交換時の価額
1×2×3×4
本件借地権 420,000円 218.18平方メートル 1.XXX 0.7 73,XXX,XXX円
本件土地 420,000円 122.00平方メートル 1.XXX 58,XXX,XXX円
差額 14,XXX,XXX円

(ロ) 本件内訳書の「土地」の「購入・建築代金又は譲渡価額の5%」欄には、本件譲渡に係る本件土地の購入代金は「73,XXX,XXX円」と記載されている。

ホ 請求人が異議審理庁に提出した書面について

請求人は、上記(2)のニの異議申立てにおいて、本件交換契約書の写し、本件更正の請求書の控え、本件明細書控え、本件報告書、「所得税確定申告書の期限後申告についての嘆願書」と題する書面(以下「本件嘆願書」という。)などを異議審理庁に提出したところ、本件嘆願書は、平成10年6月10日の日付の記載がある請求人から原処分庁宛の書面であり、同書面には、要旨次のとおり記載されている。

(イ) 請求人は、所得税(平成8年分)の確定申告に当たり、申告書の提出義務を今になって認識し、確定申告書を提出した。

(ロ) 上記(イ)の理由は、次のとおりである。

A 平成9年2月に不動産取得税の申告のためにd県税事務所に行き、その足でP税務署に行く予定であった。d県税事務所では、担当者から譲渡所得の申告は現住所地のF税務署となる、なお譲渡所得はかからないと言われ、申告に必要な書類をd市役所から入手していたが、申告が不要と判断してしまい、その日はF税務署には行かなかった。
 今思えば、d県税事務所の意見で判断すること自体間違いであった。

B その後、請求人が高齢のため、請求人の長男が、当時、国税局のテレホンサービスに問い合わせ、判断を仰いだところ、税金がかからないとの回答を得た。また、請求人の長女の夫も税務署に行って問い合わせたところ、税金がかからないとのことであった。

C 税金がかからないことが、申告不要と思い込んだことが原因である。いずれにしても、請求人の認識の不備であることに違いはない。

D 請求人は、請求人の長男と相談して専門家に委任することがよいとの判断から、会計事務所に依頼することとした。

ヘ 原処分庁が主張する本件譲渡に係る譲渡所得の金額等について

異議審理庁は、上記(2)のニの異議決定において、本件譲渡に係る譲渡所得の金額について、別表2のとおり(当該譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は別表2(付表)のとおり。)計算し、請求人の平成23年分の所得税の納付すべき税額について、別表3のとおり計算して、当該納付すべき税額(別表3の「納付すべき税額15」欄の金額)は本件更正処分における納付すべき税額を上回るから本件更正処分は適法であるとして、棄却の異議決定をした。
 原処分庁は、本審査請求において、本件譲渡に係る譲渡所得の金額は別表2のとおり(当該譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は別表2(付表)のとおり。)であり、請求人の平成23年分の所得税の納付すべき税額は別表3のとおりである旨主張している。

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2 争点

本件土地の譲渡は、所得税法第58条第5項に規定する、本件特例の適用を受けた居住者が交換取得資産を譲渡した場合に該当するか否か、すなわち、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は、所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算した金額によるべきか否か。

3 主張

請求人 原処分庁
(1) 以下の理由により、請求人は、平成8年分の所得税の申告において、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用を受けていたとは認められないので、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当せず、本件土地は交換取得資産に該当しない。 (1) 以下の理由により、請求人は、平成8年分の所得税の申告において、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用を受けているので、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当し、本件土地は交換取得資産に該当する。
イ 本件明細書控えには、本件交換の対象資産の価額が明示されておらず、地積の記載に誤りがある。また、本件明細書控えには、譲渡価額の記載漏れがあるため、等価で交換したことの計算(譲渡所得の金額の計算)がされていない。
 さらに、平成23年分の路線価を基礎として、N社が公表している平成8年及び平成23年の市街地価格指数(以下「本件指数」という。)に基づき、本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額との差額を計算すると、当該差額が、これらの価額のうち多い価額である本件借地権の価額の20%を超えることが明らかであるから、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得には、本件特例の適用があったと認めることはできない。
イ 本件控え及び本件明細書控えには、本件交換に係る内容が譲渡所得として記載され、本件特例の適用を受ける旨が記載された上、F税務署の文書収受印が押印されていることからすれば、請求人は、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について、本件特例の適用を受ける旨の平成8年分の所得税の修正申告を行ったものと認められる。
 そして、申告納税制度の下における所得税の申告は、原則として、納税者自らの申告によりその納付すべき税額等が確定するものであるところ、上記の平成8年分の所得税の修正申告の後に修正申告又は更正が行われた事実は見当たらないこと及び本件交換について本件特例の適用要件を満たさないことが明らかであると認められる事実も見当たらないことから、平成8年分の所得税については、本件特例の適用を受けたものとしてその内容が確定していると認められる。
ロ 所得税法第58条第4項の規定(いわゆる宥恕規定)は、確定申告書の提出がなかった場合又は所定の事項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、税務署長が、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについて「やむを得ない事情」があると認めるときは、本件特例を適用することができる旨規定しており、ここでいう「やむを得ない事情」とは、国税不服審判所の裁決によれば、自然災害等の客観的に本人の責めに帰することができない外的事情をいうものであるところ、本件のように、平成10年になって平成8年分の所得税の修正申告等が行われた事情は、請求人の個人的な事情にすぎないことから、同項に規定する要件を満たしていない。 ロ 所得税法施行令第168条の規定は、本件特例の適用を受けた者にその適用があるとされ、本件特例の適用を受けているという事実のみに基づいて同条の規定の適用があるところ、本件の場合、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得の申告において本件特例を適用しているのであるから、所得税法第58条第4項に規定する「やむを得ない事情」の有無は、所得税法施行令第168条の規定の適用の要否に係る判断に影響を及ぼすものではない。
ハ 原処分庁は、本件交換の実態を無視して、本件交換契約書の表題の「等価」の文字をもって、当事者が等価交換である旨合意したとの誤った事実認定をしている。
 また、本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額との間に価額の差があったとしても、交換当事者間において合意された本件交換の対象資産の各価額が、交換をするに至った事情等に照らして合理的に算定されているものと認められるものであるときは、その合意された各価額が通常の取引価額と異なるときであっても、本件特例の適用上、本件交換の対象資産の各価額は交換当事者間において合意されたところによるものとされるという原処分庁のハの主張は、誤った解釈である。
ハ 原処分庁は、本件交換契約書には、本件借地権と本件土地は同一価額の等価交換として、本件借地権及び本件土地以外に金銭その他の授受は行わない旨記載されていること及び本件明細書控えには収入金額が零円と記載され、交換差金についての記載がなく、実際に差金の授受がされた事実もなかったとうかがえることから、本件借地権の価額と本件土地の価額は、交換当事者間において同一価額である旨の合意があったものとしたのであって、本件交換契約書の表題の文字で判断したものではない。
 仮に、本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額との間に価額の差があったとしても、交換当事者間において合意された本件交換の対象資産の各価額が交換をするに至った事情等に照らして合理的に算定されているものと認められるものであるときは、その合意された各価額が通常の取引価額と異なるときであっても、本件特例の適用上、本件交換の対象資産の各価額は交換当事者間において合意されたところによるものとされるところ、本件の場合、本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額の算定に不合理な点があるとも認められない。
(2) 上記(1)のとおり、請求人は、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当せず、本件土地は、交換取得資産に該当しないので、原処分庁が、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額について、所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算したことは誤りであり、当該取得費の額は、請求人が本件指数に基づいて合理的に推定した金額とすべきである。 (2) 上記(1)のとおり、請求人は、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当し、本件土地は、交換取得資産に該当するので、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額について、所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算したことに誤りはない。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであり、交換も譲渡の一形態であることから交換に対しても譲渡所得に対する課税が行われることとなるが、同一の種類の固定資産を交換した場合には同一の固定資産が継続して保有されているとみられるので、本件特例は、一定の要件を満たす交換の場合には譲渡がなかったものとみなして、譲渡益に対する課税を繰り延べることとしたものと解される。
 また、所得税法第58条第5項は、本件特例が課税の繰延べを認めた特例であることを前提として、本件特例の適用を受けた場合には、交換取得資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算においては、同項で委任された所得税法施行令第168条の規定により、交換取得資産は交換譲渡資産の取得費に係る金額をもって取得したものとみなす(なお、当該取得費には交換取得資産を取得するために要した経費の額が加算される。)こと、すなわち、交換取得資産の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき交換取得資産の取得費は交換譲渡資産の取得費を引き継ぐことにより、本件特例において繰り延べられた課税を実現することを目的とした規定であると解される。

ロ そして、所得税法が採用する申告納税方式の下では、居住者が固定資産を交換した日の属する年分の所得税につき確定申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載するなどして申告をした場合には、その申告により本件特例の適用を前提として計算された税額は確定し、修正申告又は更正により本件特例の適用が否定されない限り、そのような居住者は所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当すると解するのが文理解釈上自然であり、また、そのような居住者に所得税法第58条第5項の規定が適用できないとすれば、上記イで述べた同項の規定の趣旨に反し、不合理である。

ハ したがって、居住者が、本件特例の適用を受けようとする旨の申告をした場合には、修正申告又は更正により本件特例の適用が否定されない限り、当該居住者は所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」に該当し、当該居住者が本件特例の適用を受けようとする旨の申告において交換取得資産とした資産は、本件特例の適用を受けた者の交換取得資産に該当することになると解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 原処分庁において、請求人の平成8年分の所得税の確定申告書は、保存期間満了により廃棄されているため、保存されていない。

ロ また、請求人においても、請求人の平成8年分の所得税の確定申告書の控えを所持している事実は認められない。

ハ 本件控えのF税務署の文書収受印の日付の日(平成10年9月22日)の後に、請求人の平成8年分の所得税について、請求人が修正申告をした事実、あるいは、原処分庁が更正処分をした事実は、いずれも認められない。

(3) 平成8年分の所得税における譲渡所得に係る本件特例の適用について

イ 請求人の平成8年分の所得税の確定申告書は、原処分庁に保存がなく(上記(2)のイ)、また、請求人においても当該申告書の控えを所持している事実を確認できない(上記(2)のロ)が、本件控えには、平成10年9月22日付のF税務署の文書収受印が押印されていること(上記1の(4)のハの(ロ))から、請求人が、原処分庁に対し、同日(平成10年9月22日)、本件控えと同内容の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出して、請求人の平成8年分の所得税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をしたものと認められ、このことからすると、その前提として、請求人は、同日(平成10年9月22日)より前に、平成8年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出していたものと推認される。

ロ そして、本件においては、1本件明細書控えには、平成10年6月10日付のF税務署の文書収受印が押印されていること(上記1の(4)のハの(イ))から、請求人は、同日(平成10年6月10日)、本件明細書控えと同内容の請求人の平成8年分の所得税に係る「譲渡所得計算明細書」(以下「本件明細書」という。)を原処分庁に提出したものと認められること、2本件嘆願書は、本件明細書が原処分庁に提出された日と同日の日付である平成10年6月10日付の、請求人から原処分庁宛の書面であり、平成8年分の所得税の確定申告書の提出が期限後となった事情が記載されていること(上記1の(4)のホ)、3本件報告書は、本件嘆願書と同じく、本件明細書が原処分庁に提出された日と同日の日付である平成10年6月10日付の、請求人の申告の委任を受けたL税理士(事務所の担当者)から原処分庁宛の書面であり、本件特例の適用について検討し、請求人の平成8年分の所得税が期限後申告となってしまったことについての検討結果が記載されていること(上記1の(4)のハの(ハ))、4本件修正申告書は、本件明細書が原処分庁に提出された日(平成10年6月10日)から3か月以上経過した平成10年9月22日に原処分庁に対して提出されたものであること(上記イ)からすると、請求人は、平成10年6月10日、原処分庁に対して、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について、本件土地を交換取得資産として本件特例の適用を受けようとする旨の平成8年分の所得税の申告(期限後申告)をしたものと認められる(なお、本件修正申告は、本件修正申告書の記載内容(上記イ及び上記1の(4)のハの(ロ))から明らかなとおり、申告漏れとなっていた不動産所得の金額を修正したものであり、本件修正申告書に分離長期譲渡所得の金額を「零円」及び当該所得の異動の理由を「所得税法第58条の適用漏れ」とそれぞれ記載されていることについては、上記のとおり認められる本件特例の適用を受けようとする旨の平成8年分の所得税の申告と同内容の事項(分離長期譲渡所得の金額及び特例適用条文)が、本件修正申告書に記載されたものと認められる。)。

(4) 当てはめ

上記(1)のハのとおり、居住者が、本件特例の適用を受けようとする旨の申告をした場合には、修正申告又は更正により本件特例の適用が否定されない限り、当該居住者は、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者」(本件特例の適用を受けた者)に該当し、当該居住者が本件特例の適用を受けようとする旨の申告において交換取得資産とした資産は、本件特例の適用を受けた者の交換取得資産に該当することになると解されるところ、上記(3)のとおり、1請求人は、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について本件土地を交換取得資産として本件特例の適用を受けようとする旨の平成8年分の所得税の申告をしたものと認められ、2その後の本件修正申告においても、請求人は、引き続き本件特例の適用を受けようとする旨を明確に意思表示し、上記(2)のハのとおり、3本件修正申告の後に、請求人が修正申告をした事実、あるいは原処分庁が更正処分をした事実はいずれも認められないことからすると、本件譲渡における本件土地の譲渡は、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者が交換取得資産を譲渡した場合」に該当し、本件譲渡における本件土地は、本件特例の適用を受けた者の交換取得資産に該当することとなる。
 したがって、請求人が平成23年に譲渡した本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は、所得税法第58条第5項及び所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算した金額によるべきである。

(5) 請求人の主張について

イ 請求人は、1本件明細書控えには、本件交換の対象資産の価額が明示されておらず、地積の記載に誤りがあること、また、譲渡価額の記載漏れがあるため、等価で交換したことの計算(譲渡所得の金額の計算)がされていないこと、さらに、平成23年分の路線価を基礎として、本件指数に基づき本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額との差額を計算すると、当該差額がこれらの価額のうち多い価額である本件借地権の価額の20%を超えることが明らかであること、2平成10年になって平成8年分の所得税の修正申告等が行われた事情は請求人の個人的な事情にすぎないので、所得税法第58条第4項に規定する要件を満たしていないことから、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用を受けていたとは認められない旨主張する(上記3の「請求人」欄の(1)のイ及びロ)。
 しかしながら、上記(3)のとおり、請求人は、本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について、本件土地を交換取得資産として本件特例の適用を受けようとする旨の平成8年分の所得税の申告をしたもの(その後の本件修正申告においても引き続き本件特例を適用したもの)と認められ、その後は、上記(2)のハのとおり、請求人が修正申告をした事実、あるいは原処分庁が更正処分をした事実はいずれも認められず、上記(4)のとおり、本件譲渡における本件土地の譲渡は、所得税法第58条第5項に規定する「第1項の規定の適用を受けた居住者が交換取得資産を譲渡した場合」に該当するのであるから、請求人が本件交換による本件借地権の譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用を受けていないことにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

ロ 請求人は、原処分庁は本件交換の実態を無視し、本件交換契約書の「等価」の文字をもって等価交換である旨合意したとの誤った事実認定をしており、また、原処分庁の「本件交換時の本件借地権の価額と本件土地の価額との間に価額の差があったとしても、交換当事者間において合意された本件交換の対象資産の各価額が、交換をするに至った事情等に照らして合理的に算定されているものと認められるものであるときは、その合意された各価額が通常の取引価額と異なるときであっても、本件特例の適用上、本件交換の対象資産の各価額は交換当事者間において合意されたところによるものとされる」という主張は、誤った解釈である旨主張する(上記3の「請求人」欄の(1)のハ)。
 しかしながら、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達。)58−12《交換資産の時価》は、固定資産の交換があった場合において、交換当事者間において合意されたその資産の価額が交換をするに至った事情等に照らし合理的に算定されていると認められるものであるときは、その合意された価額が通常の取引価額と異なるときであっても、所得税法第58条の規定の適用上、これらの資産の価額は当該当事者間において合意されたところによるものとする旨定めており、当該通達の定めは当審判所においても相当と認められるところ、1本件交換契約書には、本件借地権と本件土地の所有権とは同一価額として等価交換とし、本件借地権と本件土地の所有権の交換以外に金銭その他の授受は行わない旨の定めがあること(上記1の(4)のロの(イ))、2本件明細書控えには、譲渡所得の金額の計算において、収入金額及び必要経費がいずれも零円と記載されていること(上記1の(4)のハの(イ))、3当審判所の調査の結果によっても、交換差金(本件借地権と本件土地の所有権の交換以外の金銭等の差金)の授受がされたとする事実は認められないこと、4本件交換に至った事情が地主との立退問題を解決するためにあったこと(上記1の(4)のハの(ハ)のB)からすると、本件交換においては、交換当事者である請求人とHとの間において合意された本件借地権の価額と本件土地の価額は、等価であるとして合理的に算定されていると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(6) 本件通知処分及び本件更正処分について

上記(4)のとおり、請求人が平成23年に譲渡した本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は、所得税法第58条第5項及び所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算した金額によるべきであり、また、上記(5)のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、本件更正の請求に対して更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は、適法である。
 また、上記のとおり、請求人が平成23年に譲渡した本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件土地の取得費の額は、所得税法第58条第5項及び所得税法施行令第168条第3号の規定を適用して計算した金額によるべきであるので、これに基づき、当審判所において請求人の平成23年分の所得税の分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額を計算すると、上記1の(4)のへの原処分庁の主張する別表2(別表2(付表)を含む。)及び別表3の各金額といずれも同額となる。
 そうすると、当審判所が認定した請求人の納付すべき税額(別表3の「納付すべき税額15」欄の金額)は、本件更正処分における納付すべき税額(別表1の「更正処分等」の「納付すべき税額」欄の金額)を上回るから、当審判所が認定した請求人の納付すべき税額の範囲内でされた本件更正処分は、適法である。

(7) 本件賦課決定処分について

上記(6)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は、適法である。

(8) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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