(平成27年4月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、複数の法人の代表取締役である審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該各法人から契約上の地位を譲り受けた各生命保険契約を解約したことにより受領した解約払戻金に係る所得について申告せず、他の所得のみを申告したところ、原処分庁が、当該解約払戻金に係る一時所得の金額が生じるとして、所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該各法人が支払った保険料を含む当該各生命保険契約に係る保険料の総額を一時所得の金額の計算上控除すべきであり、そうすると当該解約払戻金に係る一時所得の金額は生じないとして、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を原処分庁に提出して、法定申告期限までに確定申告をした。

ロ 次いで、請求人は、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成26年1月17日に提出した。

ハ 原処分庁は、これに対し、その調査に基づき、平成26年3月7日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ニ 請求人は、平成26年4月28日、本件更正処分等に不服があるとして、その全部の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付で、いずれも棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、平成26年7月29日、上記ニの異議決定を経た後の本件更正処分等になお不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第34条《一時所得》第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。

ロ 平成23年6月政令第195号による改正前の所得税法施行令(以下「平成23年6月改正前施行令」という。)第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項第2号は、生命保険契約等に基づく一時金の支払を受ける居住者のその支払を受ける年分の当該一時金に係る一時所得の金額の計算について、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する旨規定している。
 なお、平成23年6月政令第195号による改正により、所得税法施行令第183条第4項に新たに第3号が追加され(以下、同改正後の所得税法施行令を「平成23年6月改正後施行令」という。)、上記の同条第2項に規定する保険料又は掛金の総額について、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額から、事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額を控除して計算する旨規定された。

ハ 平成24年2月10日付課個2−11・課審4−8による改正前の所得税基本通達34−4《生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等》(以下「平成24年改正前通達」という。)は、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額には、その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(これらの金額のうち、相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額を除く。)も含まれる旨定めている。
 なお、平成24年2月10日付課個2−11・課審4−8による改正後の所得税基本通達34−4(以下「平成24年改正後通達」という。)は、平成23年6月改正後施行令第183条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額は、1平成23年6月改正後施行令第183条第4項の規定の適用後のものをいう旨定めた上で、2丸イその一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金及び丸ロ当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるものを含む旨定めている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 請求人について

請求人は、遅くとも平成19年以降現在に至るまで、M社(平成19年10月○日にN社から商号変更。)及びP社(以下、M社と併せて「本件各社」という。)の各代表取締役の地位にある者である。

ロ 本件各社による生命保険契約の締結

(イ) M社は、平成19年3月15日、Q生命(以下「本件保険会社」という。)との間で、次の内容の保険契約(保険証券番号○○○○。以下「本件保険契約1」という。)を締結した。

A 保険種類 ○○定期保険
B 保険契約者及び死亡保険金受取人 M社
C 被保険者 請求人
D 保険期間の始期(契約日) 平成19年3月15日
E 保険期間の終期 平成35年3月14日
F 主契約 基本保険金額 ○○○○円
G 特約 ○○特約
H 保険料の払込方法・払込期月 年払・毎年3月
I 支払保険料 10,966,800円
J 解約払戻金額 別表2のとおり

(ロ) P社は、平成19年5月30日、本件保険会社との間で、次の内容の保険契約(保険証券番号○○○○。以下「本件保険契約2」といい、本件保険契約1と併せて「本件各保険契約」という。)を締結した。

A 保険種類 ○○定期保険
B 保険契約者及び死亡保険金受取人 P社
C 被保険者 請求人
D 保険期間の始期(契約日) 平成19年5月30日
E 保険期間の終期 平成35年5月29日
F 主契約 基本保険金額 ○○○○円
G 特約 ○○特約
H 保険料の払込方法・払込期月 年払・毎年5月
I 支払保険料 4,477,800円
J 解約払戻金額 別表3のとおり

(ハ) 本件各保険契約に付加された特約である「○○特約」の内容は、要旨、契約日から3年間の解約払戻金について、当該特約を付加しなかった場合の解約払戻金に対して、第1保険年度(契約日から直後の年単位の契約応当日の前日までをいう。以下同じ。)は○%、第2保険年度(第1保険年度の満了日の翌日に1年を加えて計算したものをいう。以下同じ。)は○%、第3保険年度(第2保険年度の満了日の翌日に1年を加えて計算したものをいう。以下同じ。)は○%とするものであった。

ハ 本件各社による本件各保険契約に係る保険料の支払等

(イ) M社は、その名義により、本件保険会社に対して、本件保険契約1に係る第1保険年度、第2保険年度及び第3保険年度の各保険料10,966,800円(合計32,900,400円)をそれぞれ支払った。
 なお、M社は、これら支払った保険料の経理処理について、それぞれ平成19年3月15日、平成20年3月21日及び平成21年3月27日の属する事業年度の保険料として、その全額を損金処理した。

(ロ) P社は、その名義により、本件保険会社に対して、本件保険契約2に係る第1保険年度、第2保険年度及び第3保険年度の各保険料4,477,800円(合計13,433,400円。以下、M社が本件保険契約1に基づいて支払った保険料32,900,400円と併せた46,333,800円を「本件法人支払保険料」という。)をそれぞれ支払った。
 なお、P社は、これら支払った保険料の経理処理について、それぞれ平成19年5月30日、平成20年5月30日及び平成21年5月29日の属する事業年度の保険料として、その全額を損金処理した。

ニ 本件各社から請求人への本件各保険契約に係る契約上の地位の譲渡等

(イ) M社及び請求人は、平成22年2月5日、M社が請求人に対して本件保険契約1に係る保険証券及び同証券に係る権利義務の全て(本件保険契約1に係る契約上の地位)を代金5,907,000円で譲渡する旨の契約を締結し、請求人は、同月23日、M社に対して、上記代金を支払った(なお、上記代金の額は、その時の本件保険契約1に係る解約払戻金額と同額である(別表2)。)。
 また、M社は、平成22年2月5日付で、被保険者である請求人の同意を得て、本件保険会社に対して、保険契約者をM社から請求人に、死亡保険金受取人をM社から請求人の妻に、それぞれ変更する旨を請求したところ、本件保険会社は、当該変更について同意し、同月23日付で、請求人に対して、当該変更手続が完了した旨を通知した。

(ロ) P社及び請求人は、平成22年4月15日、P社が請求人に対して本件保険契約2に係る保険証券及び同証券に係る権利義務の全て(本件保険契約2に係る契約上の地位)を代金2,362,800円(以下、請求人がM社に支払った本件保険契約1の譲渡に係る代金5,907,000円と併せた8,269,800円を「本件譲受対価」という。)で譲渡する旨の契約を締結し、請求人は、同月21日、P社に対して、上記代金を支払った(なお、上記代金の額は、その時の本件保険契約2に係る解約払戻金額と同額である(別表3)。)。
 また、P社は、平成22年4月15日付で、被保険者である請求人の同意を得て、本件保険会社に対して、保険契約者をP社から請求人に、死亡保険金受取人をP社から請求人の妻に、それぞれ変更する旨を請求したところ、本件保険会社は、当該変更について同意し、同月21日付で、請求人に対して、当該変更手続が完了した旨を通知した。

ホ 請求人による本件各保険契約に係る保険料の支払

(イ) 請求人は、その名義により、平成22年3月中に、本件保険会社に対して、本件保険契約1に係る第4保険年度(第3保険年度の満了日の翌日に1年を加えて計算したものをいう。以下同じ。)の保険料10,966,800円を支払った。

(ロ) 請求人は、その名義により、平成22年5月中に、本件保険会社に対して、本件保険契約2に係る第4保険年度の保険料4,477,800円(以下、請求人が本件保険契約1に基づいて支払った保険料10,966,800円と併せた15,444,600円を「本件請求人支払保険料」という。)を支払った。

ヘ 請求人による本件各保険契約の解約及び解約払戻金の受領

(イ) 請求人は、平成22年3月25日付で、本件保険会社に対して、本件保険契約1の解約を請求し、同年4月1日付で、本件保険会社から、当該解約の手続が完了した旨の通知を受けるとともに、同日、当該解約に基づく解約払戻金として○○○○円を受領した。

(ロ) 請求人は、平成22年5月31日付で、本件保険会社に対して、本件保険契約2の解約を請求し、同年6月7日付で、本件保険会社から、当該解約の手続が完了した旨の通知を受けるとともに、同日、当該解約に基づく解約払戻金として○○○○円(以下、本件保険契約1の解約に係る解約払戻金○○○○円と併せた○○○○円を「本件解約払戻金」という。)を受領した。

ト 本件更正処分における一時所得の金額の計算について

原処分庁は、本件更正処分において、1一時所得に係る総収入金額は、本件解約払戻金の額○○○○円であり、2当該収入を得るために支出した金額は、丸イ本件譲受対価の額8,269,800円及び丸ロ本件請求人支払保険料の額15,444,600円の合計額23,714,400円であるとして、一時所得の金額を計算した。

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2 争点

本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、本件法人支払保険料の額を控除することができるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
次のことから、本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、本件法人支払保険料の額を控除することはできない。 次のことから、本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、本件法人支払保険料の額を控除すべきである。
(1) 所得税法上の各種所得に係る所得金額の計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とするとの趣旨に基づいて定められたものと解される。そして、一時所得に係る所得金額の計算方法を定めた同法第34条第2項も、一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨の規定であると解され、同項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解される。したがって、同項にいう「支出した金額」とは、一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解するのが上記の趣旨にかなうものである。また、同項の「その収入を得るために支出した金額」という文言も、収入を得る主体と支出をする主体が同一であることを前提としたものというべきである。以上からすると、一時所得に係る支出が同項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解するのが相当である。
 平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号についても、以上の理解と整合的に解釈されるべきものであり、同号が一時所得の金額の計算において支出した金額に算入すると規定する「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」とは、保険金の支払を受けた者が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解すべきである。平成24年改正前通達も、以上の解釈を妨げるものではない。
 課税庁は、従前から、所得税法第34条第2項、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号及び平成24年改正前通達に係る上記法令解釈に基づき課税を行っており、最高裁判所平成24年1月13日第二小法廷判決(平成21年(行ヒ)第404号所得税更正処分等取消請求事件。以下「本件最高裁判決」という。)は、当該解釈を改めて認めたものにすぎないのであって、本件更正処分は、本件最高裁判決、平成23年6月改正後施行令第183条の規定及び平成24年改正後通達の定めを遡及適用したものではない。
(1) 定期保険契約は、死亡を保険事故として保険金が支払われる保険であり、満期時に被保険者が生存していた場合に満期保険金が支払われる養老保険とは異なり、その保険料はいわゆる掛け捨てとなる。したがって、定期保険契約においては、運用益等の発生はなく、当該契約を解約した場合の解約払戻金は、保険契約の始期から解約までの間の支払保険料の総額から保険会社の諸経費を差し引いて算定した残余金が支払われるものである。
 このことからすると、平成22年分の所得税について定期保険契約の解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上控除すべき保険料の金額は、当該契約の始期から解約までの保険期間中の支払保険料の総額であると解すべきである。
 上記のように解すべきことは、定期保険契約の契約者が保険期間中に法人から個人に変更になった場合であっても異なるものではなく、少なくとも、平成23年3月15日(平成22年分の所得税の法定申告期限)当時の所得税法施行令(注:平成23年6月改正前施行令)第183条第2項第2号の規定によれば、上記のような場合には、保険期間中に法人及び個人が支払った保険料又は掛金の総額が、同号に規定する「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」であると解して、これを控除すべきである。
 平成23年3月15日当時、生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算上控除すべき金額について上記のとおり解されていたことは、その当時の所得税法施行令(注:平成23年6月改正前施行令)第183条の規定、所得税基本通達34−4(注:平成24年改正前通達)の定め及び書籍(税務研究会出版局発行の「平成22年分(平成23年3月申告用)所得税確定申告の手引」)の記載などからしても明らかというべきであり、本件更正処分において原処分庁がした解釈を採ることは、平成23年3月15日より後に言い渡された本件最高裁判決において示された解釈を遡及して用いるものとして、また、平成23年6月改正後施行令第183条の規定及び平成24年改正後通達の定めを遡及して適用するものとして、不利益遡及を禁じる租税法律主義に反するものである。
(2) 本件についてみると、本件法人支払保険料の額は、請求人が自ら負担したものとは認められないから、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当せず、また、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号に規定する「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」にも該当しない。 (2) 本件についてみると、本件各保険契約は定期保険契約であるから、本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算においては、本件各保険契約の始期から解約までの保険期間中の支払保険料の総額を控除すべきであり、本件法人支払保険料の額は、平成23年3月15日当時の所得税法施行令(注:平成23年6月改正前施行令)第183条第2項第2号に規定する「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」に該当することはもとより、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当する。

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4 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈

所得税法は、第23条《利子所得》ないし第35条《雑所得》において、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し、それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ、これらの計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解される。一時所得についてその所得金額の計算方法を定めた同法第34条第2項もまた、一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨のものであり、同項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解されるから、ここにいう「支出した金額」とは、一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解するのが上記の趣旨にかなうものである。また、同項の「その収入を得るために支出した金額」という文言も、収入を得る主体と支出をする主体が同一であることを前提としたものというべきである。
 したがって、一時所得に係る支出が所得税法第34条第2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解するのが相当である。
 なお、所得税法施行令(注:平成23年6月改正前施行令)第183条第2項第2号についても、以上の理解と整合的に解釈されるべきものであり、同号が一時所得の金額の計算において支出した金額に算入すると定める「保険料…の総額」とは、保険金の支払を受けた者が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解すべきであって、同号が、このようにいえない保険料まで上記金額に算入し得る旨を定めたものということはできない。所得税基本通達34−4(注:平成24年改正前通達)も、以上の解釈を妨げるものではない。
 (以上につき、最高裁平成24年1月13日第二小法廷判決・民集66巻1号1頁(注:本件最高裁判決))

ロ 当てはめ

本件法人支払保険料は、本件各保険契約に係る契約者である本件各社が、その名義により本件保険会社に対して支払った保険料であり、本件各社においては、その支払保険料の全額が保険料として損金処理されていることが認められることは、上記1の(4)のロ及びハのとおりであるから、請求人が本件解約払戻金を得るために自ら負担して支出したものとはいえず、本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、これを控除することはできない。

ハ 請求人の主張について

(イ) 請求人は、定期保険契約の契約者が保険期間中に法人から個人に変更になったか否かを問わず、定期保険契約の解約払戻金に係る平成22年分の一時所得の金額の計算上、保険期間中の支払保険料の総額を控除すべきである旨主張するところ、当該主張は、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合である必要はないとするものである。
 しかしながら、所得税法第34条第2項の文言及び趣旨に照らせば、同項に規定する「その収入を得るために支出した金額」とは、当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないことは、上記イのとおりである。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(ロ) また、請求人は、平成22年分の所得税の法定申告期限当時における法令等、すなわち、平成23年6月改正前施行令第183条の規定及び平成24年改正前通達の定め、更には書籍(税務研究会出版局発行の「平成22年分(平成23年3月申告用)所得税確定申告の手引」)の記載などからすれば、定期保険契約の契約者が保険期間中に法人から個人に変更になった場合であっても、保険期間中に当該法人及び個人が支払った保険料又は掛金の総額が、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号に規定する「生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額」であると解されていたのであり、本件更正処分において原処分庁がした解釈を採ることは、請求人が平成22年中に受領した本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算において、平成23年3月15日より後に言い渡された本件最高裁判決における解釈を遡及して用いるものとして、また、平成23年6月改正後施行令第183条の規定及び平成24年改正後通達の定めを遡及して適用するものとして、租税法律主義に反する旨主張する。
 しかしながら、一時所得に係る支出が所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解するのが相当であり、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号についても、以上の理解と整合的に解釈されるべきものであることは、上記イのとおりである。したがって、平成23年6月改正前施行令第183条第2項第2号が一時所得の金額の計算において支出した金額に算入すると定める「保険料…の総額」とは、保険金の支払を受けた者が自ら負担して支出したものといえる金額をいうと解すべきであって、同号が、このようにいえない保険料まで上記金額に算入し得る旨を定めたものということはできない。また、平成24年改正前通達も、以上の解釈を妨げるものではない。
 また、本件最高裁判決によれば、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」についての課税庁の解釈は、本件最高裁判決の前から一貫していたものであったと認められるから、平成23年3月15日当時、これと異なる解釈がされていた旨の請求人の主張には理由がない。
 そして、本件最高裁判決は、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」の解釈を公権的に確定したものであり、それ以前にこれと異なる確定解釈があったわけではないから、本件更正処分において原処分庁のした解釈を採ることが本件最高裁判決において示された解釈を遡及的に用いるものである旨の請求人の主張は、相当でない。
 なお、平成23年6月政令第195号による所得税法施行令第183条の改正は、一時所得の金額の計算上控除する保険料について明確化したものにすぎず、当該改正によって、平成23年6月改正前施行令の解釈を変更したものではない。また、このことは、平成24年改正前通達と平成24年改正後通達の関係においても同様に妥当する。
 以上によれば、本件更正処分は、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」を、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解した上で、本件法人支払保険料がこれに該当しないとしてされたものであるから、平成23年6月改正後施行令第183条の規定及び平成24年改正後通達の定めを遡及して用いたものではないというべきである。以上については、請求人が主張する書籍の記載によって、その結論が左右されるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張にも理由はない。

(2) 本件更正処分について

本件解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、総収入金額である本件解約払戻金の額○○○○円(上記1の(4)のへの(ロ))から、本件法人支払保険料の額46,333,800円(同ハの(ロ))を控除することはできない(上記(1))が、他方において、1本件譲受対価の額8,269,800円(上記1の(4)のニの(ロ))及び2本件請求人支払保険料の額15,444,600円(同ホの(ロ))の合計額23,714,400円を所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」として控除すべきものと認められるので、これに基づき請求人の平成22年分の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、いずれも別表1の「更正処分等」欄記載の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(3) 本件賦課決定処分について

上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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