(平成27年5月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の外国子会社の資産状態が著しく悪化したとして、当該子会社への出資持分に係る評価損を損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該子会社の資産状態が著しく悪化した事実はなく当該評価損は損金の額に算入できないなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成23年4月1日から平成24年3月31日まで及び平成24年4月1日から平成25年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成24年3月期」及び「平成25年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税並びに平成24年4月1日から平成25年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税については、法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により、復興特別法人税については、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第53条《課税標準及び税額の申告》第4項の規定により、いずれも1月間延長されたもの。)までに提出した。

ロ H税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成24年3月期の法人税について、平成25年10月29日付で別表1の「当初更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件当初更正処分」という。)をした。

ハ H税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税について、平成26年5月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする法人税及び復興特別法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

ニ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成26年7月29日に審査請求をした。
 なお、本件当初更正処分についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法第2条《定義》第21号は、有価証券について、金融商品取引法第2条《定義》第1項に規定する有価証券その他これに準ずるもので政令で定めるものをいう旨規定している。

ロ 法人税法施行令(以下「施行令」という。)第11条《有価証券に準ずるものの範囲》は、法人税法第2条第21号に規定する政令で定める有価証券は、施行令第11条各号に掲げるものとする旨規定し、同条第1号において、金融商品取引法第2条第1項第1号から第15号までに掲げる有価証券及び同項第17号に掲げる有価証券に表示されるべき権利(これらの有価証券が発行されていないものに限る。)を、また、施行令第11条第3号において、合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分を、それぞれ掲げている。

ハ 法人税法第33条《資産の評価損の損金不算入等》第1項は、内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
 また、同条第2項は、内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。

ニ 施行令第68条《資産の評価損の計上ができる事実》第1項は、法人税法第33条第2項に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(施行令第68条第1項各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であって、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする旨規定しており、同項第2号は、資産の区分として有価証券を掲げて、次の事実を定めている。

(イ) 施行令第119条の13《売買目的有価証券の時価評価金額》第1号から第3号までに掲げる有価証券(施行令第119条の2《有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法》第2項第2号に掲げる株式又は出資に該当するものを除く。以下「上場有価証券等」という。)の価額が著しく低下したこと。(第2号イ)

(ロ) 上場有価証券等以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと。(第2号ロ)

(ハ) 上記(ロ)に準ずる特別の事実(第2号ハ)

ホ 法人税基本通達(以下「法基通」という。)9−1−7《上場有価証券等の著しい価額の低下の判定》は、施行令第68条第1項第2号イに規定する「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする旨定めており、その注書2において、本文の回復可能性の判断は、過去の市場価格の推移、発行法人の業況等も踏まえ、当該事業年度終了の時に行うのであるから留意する旨定めている。

ヘ 法基通9−1−9《上場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態の判定》は、施行令第68条第1項第2号ロに規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次の(イ)又は(ロ)に掲げる事実がこれに該当する旨及び次の(ハ)に留意する旨定めている。

(イ) 当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に当該発行法人について次に掲げる事実が生じたこと。(同通達(1))

A 特別清算開始の命令があったこと。

B 破産手続開始の決定があったこと。

C 再生手続開始の決定があったこと。

D 更生手続開始の決定があったこと。

(ロ) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。(同通達(2))

(ハ) 上記(ロ)の場合においては、次のことに留意する。

A 当該有価証券の取得が2回以上にわたって行われている場合又は当該発行法人が募集株式の発行等若しくは株式の併合等を行っている場合には、その取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等があった都度、その増加又は減少した当該有価証券の数及びその取得又は募集株式の発行等若しくは株式の併合等の直前における1株又は1口当たりの純資産価額を加味して当該有価証券を取得した時の1株又は1口当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行う。

B 当該発行法人が債務超過の状態にあるため1株又は1口当たりの純資産価額が負(マイナス)であるときは、当該負の金額を基礎としてその比較を行う。

ト 法基通9−1−10《外国有価証券の発行法人の資産状態の判定》の本文は、外国法人の発行する有価証券につき法基通9−1−9の(2)により当該有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化したかどうかを判定する場合には、原則として、当該有価証券を取得した日における当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額(当該発行法人がその会計帳簿の作成に当たり使用する外国通貨表示の金額により計算した金額とする。以下同じ。)と当該事業年度終了の日における当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額の金額に基づいてその比較を行う旨定めている。

チ 法基通9−1−11《上場有価証券等以外の有価証券の著しい価額の低下の判定》は、法基通9−1−7は、施行令第68条第1項第2号ロに掲げる有価証券の価額が著しく低下したことの判定について準用する旨定めている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人及び関係法人の出資の状況等について

(イ) 請求人は、明治○年○月○日に設立された法人で、○○の製造加工等を業としている。

(ロ) J社は、N国e市f町に、昭和○年○月○日に設立された法人で、設立以後の出資の状況等は次のとおりであった。

A J社の設立時の登録資本は、○○○○P国通貨であり、請求人は、昭和○年○月○日までに○○○○P国通貨を、平成元年○月○日に○○○○P国通貨を、それぞれ払い込み、J社の同日の請求人の出資比率はXX%であった。

B J社の設立の日から平成24年3月31日までの間に、J社の払込資本金に関する異動は、別表2の「J社の状況」欄のとおり行われており、このうち、請求人の有する出資持分の状況は、同表の「左のうち請求人の出資持分」欄のとおりであった。
 なお、平成24年3月期の終了の日において、J社の払込資本金の額は○○○○P国通貨で、このうち請求人がJ社に対して出資した額は○○○○P国通貨であり、当該払込資本金に対する請求人の出資比率は約XX.XX%となる。

C J社の純資産価額は、J社の平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「J23年12月期」という。)終了の日において、○○○○N国通貨であり、これを、請求人計算のとおり、平成23年12月末の為替レート(TTM)である1N国通貨当たりXX.XX円で換算すると、○○○○円となり、そのうち、請求人の持分に係る純資産価額は○○○○円であった。

ロ 請求人のJ社に対する出資持分について

請求人のJ社に対する出資持分は、上記(3)のロに規定する有価証券に該当し、かつ上場有価証券等以外の有価証券に当たる。

ハ J社の純資産価額等について

請求人は、別表2のとおり、J社に対する出資を複数回にわたって行っていることから、上記(3)のヘの(ハ)のAにより、その1株又は1口当たりを1P国通貨当たりとして請求人が出資持分を取得した都度、その増加した出資持分及びその取得の直前における出資1P国通貨当たりの純資産価額を加味し、出資持分を取得した時の1P国通貨当たりの純資産価額を修正する(以下、当該修正後の1P国通貨当たりの純資産価額を「改定純資産単価」という。)と、改定純資産単価は別表3の「持分取得時の改定純資産単価」欄に記載の金額となるところ、この算定過程及び金額については、請求人と原処分庁との間で争いはない。

ニ 本件に関連する請求人の税務処理について

請求人は、請求人の平成24年3月期におけるJ社に対する出資持分(以下「本件保有J持分」という。)の税務上の帳簿価額を○○○○円としていたところ、平成24年3月期の法人税の確定申告において、所得の金額の計算上、本件保有J持分の評価損として、○○○○円を損金の額に算入した(以下、損金の額に算入された金額を「本件出資評価損」という。)。

(5) 争点

イ 本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ロに掲げる「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」の事実が生じたと認められるか否か。(争点1)

ロ 本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ハに掲げる「ロに準ずる特別の事実」が生じたと認められるか否か。(争点2)

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2 主張

(1) 争点1(本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ロに掲げる「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」の事実が生じたと認められるか否か。)について

イ 原処分庁

次のことから、本件保有J持分には、施行令第68条第1項第2号ロに規定する事実が生じておらず、本件出資評価損は損金の額に算入されない。

(イ) 「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」について

A 「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」という要件を満たすか否かは、法基通9−1−9の定めにより判断されるが、J社には同通達の(1)に掲げられた各事実が生じていると認められないことから、同通達の(2)に掲げる「当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったか否か」により判断され、有価証券の取得が複数回行われている場合には、取得の都度、1口当たりの純資産価額を修正する必要がある。そして、J社は外国法人であることから、法基通9−1−10の本文の定めにより外国通貨表示の金額により計算した金額により検討される。
 なお、請求人は、J社には、1株又は1口という概念が存在しないから、原処分庁の1口当たりの純資産価額という表示は誤っていると主張するが、請求人の出資総額や出資持分保有割合が誤っているものではなく、出資1P国通貨当たりの純資産価額の数値も変動しないのであるから判断に影響を及ぼすものではない。

B J社の資産状態について、法基通9−1−9に基づいて計算すると、平成23年12月末時点では、出資1P国通貨当たりの純資産価額(1.XXXXN国通貨)は、請求人が平成17年に取得した時の改定純資産単価(0.XXXXN国通貨)に比して50%以上下回っていない。

(ロ) 「有価証券の価額が著しく低下したこと」について
 本件においては、上記(イ)のAの要件を欠くことから「有価証券の価額が著しく低下したこと」について判断する必要がない。

ロ 請求人

次のことから、本件保有J持分には、施行令第68条第1項第2号ロに規定する事実が生じており、本件出資評価損は損金の額に算入される。

(イ) 「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」について
 次のことから、J社の資産状態は著しく悪化している。

A 原処分庁は、施行令第68条第1項第2号ロの解釈について法基通9−1−9によっているが、同通達が、施行令第68条第1項第2号ロに規定する「その有価証券を発行する法人の資産状態が悪化したこと」の唯一絶対の判断基準ではなく、次の基準による判断も認められるべきである。
 J社には、1株又は1口という概念が存在せず、1株当たり又は1口当たりの純資産価額を算定することはできないので、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」といえるためには、「当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の資本金1N国通貨当たりの純資産価額(N国通貨)が当該有価証券を取得した時(請求人については、J社設立時)の当該発行法人に対する資本金1N国通貨当たりの純資産価額(N国通貨)に比して50%以上下回ることとなったか否か」により判断すべきである。
 なお、確かに平成24年3月期においては、出資持分保有割合をP国通貨による出資持分を基準として考え配当等も行われているものの、J社はN国の法人であり、資産及び負債の全てがN国通貨で運用及び調達されているから、その資産状態が悪化しているか否かの判断については、N国通貨を基準に判断されるべきである。必ずしも出資持分保有割合と同じ基準(P国通貨を基準)で判断する必要はない。

B J社については、昭和○年のJ社設立時の資本金1N国通貨当たりの純資産価額は1N国通貨(期末の純資産価額○○○○N国通貨÷資本金等の額○○○○N国通貨)であったのに対し、平成23年12月末時点におけるJ社の資本金1N国通貨当たりの純資産価額は0.XXXN国通貨(期末の純資産価額○○○○N国通貨÷資本金等の額○○○○N国通貨)となっており、50%以上下回っているから資産状態が著しく悪化している。

(ロ) 「有価証券の価額が著しく低下したこと」について
 次のことから、本件保有J持分の価額は著しく低下している。

A 「有価証券の価額が著しく低下した」といえるためには、法基通9−1−11の準用する同9−1−7に定めているとおり、「当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない」といえるか否かにより判断する。

B 本件については、J社における平成23年12月末時点の請求人の持分たる純資産価額は○○○○円であり、本件保有J持分の帳簿価額は○○○○円であるから、平成23年12月末時点の当該純資産価額は、当該帳簿価額の50%を下回っている。また、J社は、J23年12月期において、Qの原料となるRの価格が高騰する中、○○によるQの値上げが抑制される一方で、N国国内の○○に対してのみ○○Rを廉価にて譲渡することとした○○の影響により、N国国内の○○と対等な条件での取引ができなくなったため、業績が回復する見込みもなく、本件保有J持分の価額が回復する見込みもなくなった。

(2) 争点2(本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ハに掲げる「ロに準ずる特別の事実」が生じたと認められるか否か。)について

イ 請求人

次のことから、本件保有J持分には、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」が生じており、本件出資評価損は損金の額に算入される。

(イ) 施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」とは、「収益力が著しく悪化したことに関連する工場設備等の間接的な資産価値減少が生じ、有価証券の価額が著しく低下している状態」などが該当する。

(ロ) 本件についてみると、○○の実施により、J社は、採算の合う営業活動をすることができなくなり、工場の稼働率が50%以下になるなどにより、急激な業績悪化に見舞われ、資産状態が悪化し、出資持分の価額(純資産価額)の回復の可能性も立たなくなったものであり、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」が生じたといえる。

ロ 原処分庁

次のことから、本件保有J持分には、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」が生じておらず、本件出資評価損は損金の額に算入されない。

(イ) 請求人は、○○の実施によってJ社の急激な業績悪化と資産状態の大幅な悪化につながったと主張しているところであるが、当該主張は施行令第68条第1項第2号ロに掲げる「有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化したこと」に該当し得るものとの主張であると認められ、本件保有J持分に同号ロに規定する事実が生じたものではないことは、上記(1)のイの主張で述べたとおりである。

(ロ) 施行令第68条第1項第2号ハは「ロに準ずる特別の事実」と規定するものであるところ、「準ずる」とは、「あるものと同様又は類似の性質、内容、要件等を有している別のものについて、そのあるものと同じ取扱い、処理をする場合に使用される語」であり、同号ロに該当し得ないものについて、その性質等の類似性に着目して同号ロと同様の取扱いをしようというものであるから、同号ロに該当し得る事実は、同号ハに該当する事実とはならない。

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3 判断

(1) 争点1(本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ロに掲げる「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」の事実が生じたと認められるか否か。)について

イ 法令解釈

(イ) 法人税法第33条第1項は、原則として、資産の評価損は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず損金の額に算入する旨規定している。

(ロ) 上記(イ)の政令で定める事実について、施行令第68条第1項第2号ロは、上場有価証券等以外の有価証券の場合には、「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」とする旨規定しているが、当該規定は、1「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」及び2「有価証券の価額が著しく低下したこと」の二つの要件を満たす必要があると解するのが相当である。
 すなわち、法人税法においては、資産の評価損の損金算入を原則として認めていないことから、その例外である資産の評価損の損金算入を認める場合を規定する法人税法第33条第2項及び施行令第68条の取扱いについては、これを限定的に解すべきであり、また、評価損の損金算入を認める場合の例示として災害による著しい損傷を挙げていることからすると、政令で定める事実については、これと同程度ないしはそれに準ずる程度の資産価値の減少が生じていることを要すると解される。

(ハ) 上記(ロ)の施行令第68条第1項第2号ロの規定上、有価証券の評価損の損金算入を認めるべき特定の事実については、一般的、抽象的に表現され、上記(ロ)の二つの要件である1及び2のうち、1の「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」については、法基通9−1−9において、上記1の(3)のへの(イ)のとおり、当該有価証券の発行法人における特別清算開始の命令等の形式的な事実があったことのほか、同ヘの(ロ)のとおり、当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が、当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったことがこれに該当する旨定めているところ、その内容に照らし、評価損の損金算入の具体的判断基準として一定の合理性を有すると考えられ、当審判所においてもその取扱いは相当と認められる。
 なお、上記の取扱いに当たって、上記1の(3)のへの(ハ)のAのとおり、有価証券の取得後、期末までの間に取得が2回以上にわたって行われている場合には、その取得の都度、その増加した当該有価証券の数及びその取得の直前における1株又は1口当たりの純資産価額を加味して、当該有価証券を取得した時の1株又は1口当たりの純資産価額を修正し、これに基づいてその比較を行うことは、様々な出資者の様々な取得形態を一律に規制する必要上定められた基準として合理性を有すると考えられ、当審判所においてもその取扱いは相当と認められる。

ロ 認定事実

請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) J社の設立時の○○上の登録資本は、○○○○P国通貨と表記され、平成23年○月○日付のJ社の○○には、請求人がJ社に対して出資した額は○○○○P国通貨であると記載がある。

(ロ) 請求人を含む各出資者間においてJ社への○○による共同出資及び運営に関する基本事項を取り決めた平成○年○月○日付の○○契約書には、J社の登録資本がP国通貨で表記(第○条の投資形態及び経営期間)され、各出資者の出資比率(第○条の出資比率)はP国通貨建ての出資持分により算定され表記されている。

(ハ) 平成○年○月○日付でJ社の定款の改定が行われているところ、当該改定後の定款は、要旨以下のとおりとなっている。

A 登録資本を○○○○P国通貨増加し、○○○○P国通貨とする。これにより登録資本の出資額は次表のとおりとなる。(第○条)

(単位:万P国通貨)
出資者 今回増資額 出資額 出資比率
請求人 ○○○○ ○○○○ XX.XX%
K社 ○○○○ ○○○○ XX.XX%
L社 ○○○○ ○○○○ XX.XX%
M社 ○○○○ ○○○○ XX.XX%
合計 ○○○○ ○○○○ 100.00%

B 出資各社のいずれかが第三者にその出資持分の全部又は一部を譲渡するときは、他の出資者に書面で通知し、書面による同意を受けなければならない。(第○条第○項)
 また、出資持分の譲渡は、譲渡者と被譲渡者が合意し、かつ、○○会で承認された価格をもって行う。(第○条第○項)

C J社は、出資各社の出資比率によって利益分配を行うことができる。(第○条)

D J社が債務を全額返済した後の残余財産は、出資各社の登録資本に占める出資比率に応じて分配する。(第○条)

ハ 当てはめ

本件保有J持分は、上記1の(4)のロのとおり、上場有価証券等以外の有価証券に該当することから、上記イの(ロ)のとおり、当該有価証券に係る評価損を損金の額に算入するためには、1「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」及び2「有価証券の価額が著しく低下したこと」の二つの要件を満たす必要があると解されるところ、上記1の有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したか否かについては、上記1の(3)のヘのとおり、法基通9−1−9に具体的な事実が定められ、当該事実が存在するか否かによることになるが、本件保有J持分については、同ヘの(イ)に掲げる各事実の存在が認められないことから、同ヘの(ロ)に掲げる事実の存在について、以下検討することになる。

(イ) 「1株又は1口当たり」について
 株式又は出資とは、会社等の構成員である株主又は社員の地位を割合的単位の形式にしたものであり、株主又は社員と会社等との間の種々の法律関係を明確にし、株主又は社員の権利行使や会社等から株主又は社員に対する配当の支払等を容易にするためのものである。そして、当該地位を数量的に測定する単位として一般に株数又は口数を用いており、法基通9−1−9においては、上記1の(3)のヘの(ロ)及び(ハ)のとおり、1株又は1口当たりの純資産価額をもって、その比較を行うこととしている。
 ところで、J社においては、上記ロの(イ)のとおり、P国通貨単位の登録資本によって○○が発行され、また、同ロの(ロ)のとおり、J社の各出資者間で取り交わした○○契約書においても、当該登録資本を前提に出資者間のP国通貨単位の出資持分を取り決め、当該出資持分を基に各出資者の数量的地位を示す出資比率が算定されている。これらを受けたJ社の定款は、1同ロの(ハ)のAのとおり、登録資本はP国通貨単位であることを、2当該P国通貨単位の出資持分について、同(ハ)のBのとおり、出資者の有する出資持分が第三者へ譲渡される場合には、他の出資者の同意及び○○会の譲渡価格の承認が必要とされることを、3同(ハ)のCのとおり、利益の分配はP国通貨単位の出資持分を基に算定した出資比率によって行うことを、4同(ハ)のDのとおり、残余財産はP国通貨単位の出資持分を基に算出した出資比率に応じて分配することを、それぞれ定めていることからすれば、J社に出資している各出資者の地位を数量的に測定する単位は、株数又は口数に代えてP国通貨数が用いられていると認められる。したがって、P国通貨数を出資単位とするJ社の出資持分にあっては、法基通9−1−9の「1株又は1口当たり」は「1P国通貨当たり」として純資産価額を計算することが相当である。

(ロ) 本件出資評価損の適否について
 当審判所も相当と認める法基通9−1−9の取扱いにおいては、有価証券の取得が2回以上にわたって行われている場合は、上記1の(3)のヘの(ハ)のとおり、当該有価証券を取得した時の当該有価証券の純資産価額を修正し、これに基づいて比較を行うこととされているところ、上記「1株又は1口当たり」を「1P国通貨当たり」と置き換えた上で、請求人が取得した別表3の順号1から8までの各出資持分について、その取得した時における当該修正後の当該各出資持分の純資産価額を算出すると、それぞれ同表の「持分取得時の改定純資産単価」の各欄に記載のとおりの金額となると認められる。
 そうすると、本件保有J持分については、直近の取得した時である別表3の順号8の「平成17年11月」欄における修正後の純資産価額は同順号8の「持分取得時の改定純資産単価」欄の0.XXXXN国通貨であるところ、請求人の平成24年3月期終了の日に最も近いJ23年12月期終了の日の別表3の順号9の「出資1P国通貨当たりの純資産価額」欄の1.XXXXN国通貨は0.XXXXN国通貨を上回ることから、50%以上下回っているとはいえず、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」とは認められない。したがって、有価証券の評価損が損金の額に算入できるもう一つの要件であるその「有価証券の価額が著しく低下したこと」について判断するまでもなく、本件出資評価損は、法人税法上、損金の額に算入することはできないことになる。

ニ 請求人の主張について

請求人は、施行令第68条第1項第2号ロに規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」の判断基準は、法基通9−1−9に定められた取扱いが唯一絶対の判断基準ではなく、J社には1株又は1口という概念が存在しないから、「当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の資本金1N国通貨当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時(請求人については、J社設立時)の当該発行法人に対する資本金1N国通貨当たりの純資産価額に比して50%以上下回ることとなったか否か」を判断基準とすべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する純資産価額の比較は、上記2の(1)のロの(イ)のBのとおり、昭和○年のJ社の設立時の純資産価額と平成23年12月末日時点でのJ社の純資産価額を各々当時のN国通貨による資本金等の額で除し、資産状態の悪化の有無を比較するものであるところ、請求人の比較方法では、J社の設立後、請求人が出資持分を追加取得した時におけるJ社の純資産価額が全く考慮されておらず、有価証券を発行する法人の資産状態を判定する基準として合理的ということはできないことから、請求人の主張する判断基準を採用することはできない。
 また、請求人は、J社がN国の法人であることから、その資産状態が悪化しているか否かは、P国通貨ではなくN国通貨を基準に判断すべきである旨も主張しているが、N国通貨で算出されたJ社の別表3の「前期末の純資産価額」欄の金額を、出資口数と同視した同表の「前期末のP国通貨による払込資本金額」欄の金額により除して比較していることから、結局はN国通貨で比較を行っていることになり、請求人の主張は失当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件保有J持分について、施行令第68条第1項第2号ハに掲げる「ロに準ずる特別の事実」が生じたと認められるか否か。)について

イ 法令解釈

法人税法第33条は、上記(1)のイのとおり、資産の評価損の損金算入を原則として認めておらず、特定の場合にのみ例外的にこれを認めることとしているのであるから、その特定の場合については、これを限定的なものと解するのが相当である。
 そして、法人税法第33条第2項は、法人の有する資産について評価損の計上が認められる場合として、「災害による著しい損傷により資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったこと」及び「その他の政令で定める事実が生じた場合」を掲げており、当該規定の委任を受けた施行令第68条は、当該「政令で定める事実」とは、物損等の事実及び法的整理の事実であるとし、当該「物損等の事実」とは、上場有価証券等以外の有価証券については、「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」と規定している。このような規定の仕方からすれば、災害又はこれに準ずるような不測の事態により保有する資産が著しく毀損したことにより、その法人の発行する有価証券の価額が著しく低下し、しかも、それが固定的で回復の見込みがないような場合に法人の有する資産について評価損の計上が認められると解すべきである。
 そうすると、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」とは、同号ロとは異なる原因、すなわち、その有価証券を発行する法人そのものの資産状態以外の当該有価証券の価額の変動を生じさせる客観的な要素について、災害に準ずるような何らかの「特別の事実」が生じたことにより、当該有価証券の価額が著しく低下し、かつ、その価額の回復の見込みがないような場合を指すものと考えられ、例えば、投資信託の受益証券のように、その運用する財産が何らかの特別の事実(例えば、投資対象国のデフォルト等)が生じたことにより、その価額が大幅に下落し、かつ、その価額の回復の見込みがないような場合が該当するものと考えられる。
 一方、有価証券を発行する法人そのものの資産状態の悪化が当該有価証券の価額の低下に影響を与えると考えられる場合には、施行令第68条第1項第2号ロにより判断すべきである。

ロ 当てはめ

これを本件に当てはめると、有価証券を発行する法人であるJ社そのものの資産状態の悪化の有無以外の、本件保有J持分の価額の変動を生じさせるような客観的な要素について、災害に準ずるような何らかの「特別の事実」の存在は認められず、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」が生じているということはできない。したがって、本件出資評価損は、法人税法上、損金の額に算入することはできない。

ハ 請求人の主張について

請求人は、施行令第68条第1項第2号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」とは、「収益力が著しく悪化したことに関連する工場設備等の間接的な資産価値減少が生じ、有価証券の価額が著しく低下している状態」などが該当し、J社については、○○により、採算の合う営業活動をすることができなくなり、工場の稼働率が50%以下になるなど、急激な業績悪化に見舞われ、資産状態が悪化し、有価証券の価額(純資産価額)の回復の可能性も立たなくなったものであり、同号ハに規定する「ロに準ずる特別の事実」が生じているから、法人税法上、本件出資評価損を損金の額に算入することができる旨主張する。
 しかしながら、施行令第68条第1項第2号ハに該当するか否かは、上記イのとおり判断すべきであり、請求人が主張するように、○○の影響による工場の稼働率の低下や業績の悪化があったとしても、そのような事情は、有価証券を発行する法人であるJ社そのものの資産状態に反映される事情であるから、結局、同号ロに規定された判断基準すなわち有価証券を発行する法人の資産状態が悪化したか否かにより判断することになり、同号ハの要件に該当するか否かという観点から検討することは相当ではなく、同号ロの要件の該当性を検討するべきである。
 そして、施行令第68条第1項第2号ロの要件を満たしていないことは上記(1)で述べたとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分等の適法性について

イ 本件各更正処分について

上記(1)及び(2)のとおり、施行令第68条第1項第2号ロ又はハのいずれを根拠としても、本件出資評価損を、法人税法上、損金の額に算入することは認められず、本件各事業年度の所得の金額及び納付すべき法人税額並びに本件課税事業年度の課税標準法人税額及び納付すべき復興特別法人税額は、いずれも本件各更正処分の額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

ロ 本件各賦課決定処分について

平成25年3月期の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税の各更正処分は、上記イのとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(4) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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