(平成27年5月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の相続税について、原処分庁が、請求人が一部の金地金を秘匿して課税財産に含めて申告しなかったとして、相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該金地金は存在しておらず原処分庁の認定は誤りであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

審査請求(平成26年7月11日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成26年3月26日付でされた平成23年9月○日相続開始に係る相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」という。

(3) 基礎事実

次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 被相続人、共同相続人等の概要

平成23年9月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した請求人の父であるD(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人は、本件被相続人の子の請求人、E、F、G、H及び亡Jの代襲相続人であるK(以下、これらの者を併せて「本件各共同相続人」という。)であり、本件相続に係る受遺者は、請求人の妻のL及び子のM並びにEの亡妻のN(平成24年2月○日死亡)であった。

ロ 本件被相続人による金地金の取得状況等

本件被相続人は、別表2記載の金地金について、平成16年7月15日に順号1から7までの各金地金(合計重量7,000g)、平成19年8月28日に順号8から24までの各金地金(合計重量11,400g)をそれぞれ「取得先」欄の取得先から取得した。
 本件被相続人は、平成20年10月頃、別表2の順号8及び17の各金地金(合計重量1,500g)をKに贈与し、同人は、平成21年3月27日に順号17の金地金(500g)、同年5月28日に順号8の金地金(1,000g)をP社(金地金の取扱業者)にそれぞれ売却した。

ハ 原処分に至る経緯

請求人は、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に本件相続により2,300gの金地金を取得した旨記載していたところ、その後行われた本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対し、上記2,300gの金地金として、別表2の順号5、7及び23の各金地金(合計重量2,100g)及び別表2外の金地金2個(合計重量200g)を提示した。
 原処分庁は、本件調査の結果に基づき、別表2の順号1から4まで、6、9から16まで、18から22まで及び24の各金地金(合計重量14,800g。以下、これら各金地金を「本件金地金」という。)を申告漏れの相続財産と認定し、課税価格に○○○○円を加算して本件更正処分をした。

ニ 本件被相続人の生活状況等

本件被相続人は、平成14年5月26日から平成20年8月12日までの期間、d市(d市の住居表示については、平成○年○月○日の行政区画変更によりd郡e町からの名称変更後の表示である。)f町○−○所在の家屋にて一人暮らしをし、同日から同年9月26日までの期間、g市h町(g市の住居表示については、平成○年○月○日○○施行後の表示である。)に所在するQ病院に入院し、Q病院を退院した同日から平成23年7月6日までの期間(病院への短期入院の期間を除く。)、請求人とa市b町○−○所在の家屋(以下「本件居宅」という。)にて同居し、同日から本件相続開始日までの期間、a市i町に所在するR病院に入院していた。
 本件被相続人は、Q病院を退院して請求人と本件居宅にて同居するようになった平成20年9月26日以降、請求人に指示をして、本件被相続人の預貯金の入出金、銀行振込等の手続及び非鉄金属の移動等を行わせていた。
 本件被相続人と請求人は、平成22年2月5日、本件被相続人の生活、療養看護並びに不動産・動産等全ての財産の保存、管理、変更及び処分に関する事務を請求人に代理権を付与して委託する旨の契約を締結し、これを証する同日付公正証書を作成した。

(4) 争点

争点1 本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるか否か。
 争点2 請求人が本件金地金を本件相続に係る相続財産として申告しなかったことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるか否か。)

原処分庁 請求人
以下に述べるように、本件相続開始日以前に本件被相続人又は本件被相続人の委任を受けた請求人の管理下には多数の金地金の保有が推認され、売却及び贈与の事実はないことからすると、本件金地金は、本件相続開始日において請求人が取得した本件相続に係る相続財産である。 以下に述べるように、本件相続に係る相続財産である金地金は、本件被相続人が作成した平成23年2月16日付遺言公正証書に記載された2,300gが実在の重量であり、本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産ではない。
イ 本件被相続人が平成16年7月及び平成19年8月に金地金を取得以後、本件相続開始日以前において、本件被相続人又は本件被相続人の委任を受けた請求人の管理下には、次のとおり金地金の保有状況があるので、これらの状況から多数の金地金が保有されていたと推認される。 イ 原処分庁が主張する左記イの(ロ)のような出来事はなかった。
 また、原処分庁主張の左記イの各事実が仮に存在したとしても、それらの事実より後に作成された平成23年2月16日付遺言公正証書には「金地金の全部(本遺言作成時の在り高2,300グラム)」との記載がされていることから、遅くともこの時点には、請求人が申告した以外には金地金がなかったことは明らかである。
(イ) 平成20年5月頃、Gが本件被相続人の自宅に多数の金地金が保有されているのを確認し、また、同年8月頃、請求人は、それらが所在不明になったとして、S証券○○支店において別表2の順号8から24までの各金地金17個の金塊番号を確認したことがあった。
(ロ) 平成20年10月頃、Kは、本件被相続人が金地金3,500gをKに引き渡した際、同席した請求人から上記3,500g(当該金地金のうち2,000gは平成21年6月頃にKが本件被相続人に返却)の金地金以外の金地金を見せられ、本件居宅に多数の金地金が保有されているのを確認したことがあった。
(ハ) 本件被相続人が作成した平成20年11月28日付遺言公正証書には、請求人に相続させる相続財産として「金地金の全部」と、金地金が存在することを示す記載がされていた。
ロ 本件被相続人の行動範囲並びに本件金地金の製造者から売却先と想定したT社本店、U社本店及びj地方○県にあるU社の特約店の全て(以下、これらを併せて「本件調査対象金地金取扱業者等」という。)において、本件金地金の取得日から平成25年8月31日までの期間の売却事実の有無を調査したところ、本件金地金の売却事実は把握されていない。
 また、請求人、F、G及びHは、本件被相続人が金地金を売ったという話を聞いたことはなく、また、同人らは本件被相続人が金地金を売ることはないと認識している。
 さらに、本件被相続人は、金地金を売却した旨記載した所得税の確定申告書を提出していない。
 これらの事実からは、本件被相続人が、本件相続開始日以前に本件金地金を売却した可能性は著しく低いものとみるべきである。
ロ 原処分庁の左記ロの主張に係る各事実が仮に存在したとしても、それらのみからでは、本件金地金の売却事実がないとの認定には至らない。
ハ 請求人、E、F、G、H並びに請求人の子のW及びXが本件金地金の贈与を受けていないことからすると、本件金地金は、本件被相続人から上記以外の者に贈与された事実もないものと推認するべきである。 ハ 原処分庁の左記ハの主張に係る各事実が仮に存在したとしても、それらのみからでは、本件金地金の贈与事実がないとの認定には至らない。

(2) 争点2(請求人が本件金地金を本件相続に係る相続財産として申告しなかったことは、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)

原処分庁 請求人
以下に述べるように、請求人が、本件金地金を本件相続に係る相続財産として申告しなかったことは、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものということができるから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。 以下に述べるように、原処分庁は事実を誤認しており、請求人が本件金地金を本件相続に係る相続財産として申告しなかったことは、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
イ 請求人は、本件被相続人の指示の下、本件被相続人の財産管理に関与していたと認められるところ、本件金地金が、本件相続開始日において、本件被相続人によって保有されていることを存知していたと認められるにもかかわらず、相続税申告の関与税理士であるVに本件金地金の存在を伝えず、相続財産が過少な本件申告書を作成させている。 イ 請求人は、本件被相続人の存命中、本件被相続人の財産を管理していたわけではなく、本件相続に係る相続財産である金地金は、本件被相続人が作成した平成23年2月16日付遺言公正証書に記載された2,300gしか知らない。
ロ 請求人は、本件調査担当者に対し、本件金地金の管理に関与していた事実を秘匿し、Kに対して本件金地金の存在を本件調査担当者に言わないように口止めしており、請求人は、本件金地金の存在の事実を一貫して秘匿する意思を有していた。 ロ 請求人は、Kに対し、本件金地金の存在を言わないように口止めしたことはない。

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3 判断

(1) 争点1(本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるか否か。)

上記2の(1)の原処分庁の主張は、本件相続開始日において本件金地金を本件相続に係る相続財産であると認定した根拠について、本件被相続人が平成16年7月及び平成19年8月に金地金を取得した以後、1平成20年5月頃、同年10月頃及び同年11月頃にも本件被相続人の下に多数の金地金が保有されていたこと、2本件調査対象金地金取扱業者等に対する売却の事実がないこと、3Kを除く本件各共同相続人及び親族2名への金地金の贈与の事実がないことから、本件被相続人が本件金地金を売却した可能性が著しく低く、かつ、K以外の者に対しては本件被相続人からの金地金の贈与の事実はないとする推認を経て、本件相続開始日において、本件被相続人又は本件被相続人の委任を受けた請求人の管理下には本件金地金が存在したとするものである。
 しかしながら、上記1から3までの事情は、本件相続開始日に本件金地金が本件被相続人の相続財産として存在したと認めるには十分とはいえず、他に原処分庁の主張事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるとは認められない。

(2) 争点2(請求人が本件金地金を本件相続に係る相続財産として申告しなかったことは、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)

上記(1)のとおり、本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるとは認められないから、本件金地金が相続財産であることが前提となる争点2は判断する必要はない。

(3) 本件更正処分について

上記(1)のとおり、本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるとは認められないから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分について

上記(3)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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