(平成27年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人D(以下「請求人D」という。)及び同F(以下「請求人F」といい、請求人Dと併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した財産の一部が共同相続人間でまだ分割されていない場合における相続税の課税価格の計算に当たって、未分割の財産の価額並びに債務及び葬式費用の金額については、それらの価額及び金額に法定相続分の割合を乗じた価額及び金額により課税価格を計算して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、1当該未分割の財産の価額については、いわゆる穴埋方式により計算すべきであり、2当該債務の金額については、請求人らの負担に属する部分の金額はないことから控除することはできないなどとして、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人らが、1当該未分割の財産の価額については、請求人らが当該未分割の財産に対して何ら権利行使をすることができず、実質的担税力を欠いているなどの個別事情があることから、いわゆる積上方式により計算すべきであり、2当該債務及び葬式費用の金額については、共同相続人各人の負担する金額が確定していない上、遺言による相続分の指定があったとは認められないから、法定相続分の割合を乗じた金額を控除すべきであるとして、当該各更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成22年5月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したG(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同で原処分庁に提出して、相続税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。

ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人Dに対しては平成26年3月4日付で、請求人Fに対しては同月14日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
 なお、請求人Dに対する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に係る「相続税の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」は、平成26年3月5日、請求人Dに送達された。

ハ 請求人Dは、平成26年5月7日(同月5日及び6日は休日であることから、国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項の規定により、これらの日の翌日が同法第77条《不服申立期間》第1項に規定する不服申立ての期限となる。)、請求人Fは、同月12日、本件各更正処分等に不服があるとして、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月8日付で、いずれも棄却の異議決定をした。

ニ 請求人らは、平成26年8月8日、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、それぞれ審査請求をし、同日、請求人Dを総代として選任する旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法(平成23年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)第55条《未分割遺産に対する課税》本文は、相続により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正をする場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(第904条の2《寄与分》を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする旨規定し、相続税法第55条ただし書は、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは同法第32条《更正の請求の特則》の更正の請求をし、又は税務署長において更正をすることを妨げない旨規定している。

ロ 相続税法第13条《債務控除》第1項は、相続により財産を取得した者が同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、同法第13条第1項各号に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、同項第1号は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)を、また、同項第2号は、被相続人に係る葬式費用をそれぞれ掲げている。

ハ 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達。)13−3《「その者の負担に属する部分の金額」の意義》(以下「本件通達」という。)は、相続税法第13条第1項に規定する「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうのであるが、この場合において、これらの者の実際に負担する金額が確定していないときは民法第900条《法定相続分》から第902条《遺言による相続分の指定》までの規定による相続分の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱う旨定めている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長女であるH、同二女である請求人D、同三女である請求人F及び同養子であるJの4名である(以下、これら4名を「本件共同相続人」という。)。

ロ 本件被相続人は、平成18年8月7日、遺言公正証書により、別表2の1の財産(以下「本件分割済財産」という。)をH及びJ(以下、これらの者を併せて「Hら」という。)の両名に各2分の1の割合で相続させる旨、また、Hらの両名には、別表2の1の順号8の建物の購入及び同順号10の立体駐車場の建設に関して本件被相続人が金融機関から借り受けた借入金を含む本件被相続人の債務を負担させる旨、それぞれ遺言をした(以下、これらの遺言を「本件遺言」という。)。
 なお、本件遺言に係る遺言公正証書には、葬式費用の負担に関する記載はない。

ハ 本件被相続人の相続財産には、本件分割済財産のほかに、本件申告の時点において本件共同相続人間でまだ分割されていない別表2の2の未分割の財産(以下「本件未分割財産」という。)があった。
 なお、本件各更正処分等がされるまでの間、本件共同相続人間で、本件被相続人の相続財産に係る分割協議は行われていない。

ニ 請求人らは、1本件未分割財産については、各共同相続人が未分割の財産に対する自己の相続分に応じた価額相当分を取得したものとして計算する方法(以下「積上方式」という。)により、本件未分割財産の価額に請求人らの法定相続分の割合である4分の1を乗じた価額を、請求人らの取得した財産の価額とし、また、2本件被相続人の債務(以下「本件債務」という。)及び本件被相続人に係る葬式費用(以下「本件葬式費用」といい、本件債務と併せて「本件債務等」という。)については、本件債務等の金額に請求人らの法定相続分の割合である4分の1を乗じた金額を、請求人らの負担に属する部分の金額として、請求人らの本件相続税の課税価格を計算して、上記(2)のイのとおり、本件申告をした。

ホ 原処分庁は、1本件未分割財産については、未分割の財産について、各共同相続人が、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法(以下「穴埋方式」という。)により、請求人らが取得する本件未分割財産の価額を計算して、その価額を請求人らの取得した財産の価額とし、また、2本件債務については、請求人らの負担に属する部分の金額はないことから控除せず、本件葬式費用については、請求人らの法定相続分の割合である4分の1を乗じた金額を控除するなどして、請求人らの本件相続税の課税価格を計算して、上記(2)のロのとおり、請求人らに対し、本件各更正処分等をした。

ヘ 異議審理庁は、本件各更正処分等のうち、本件葬式費用については、請求人らの負担に属する部分の金額はないことから控除することはできないなどとして、請求人らの本件相続税の課税価格を再計算し、上記(2)のハのとおり、異議決定をした。
 なお、原処分庁が本審査請求において主張する請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は、次表のとおりであり、上記の異議決定における課税価格及び納付すべき税額と同額である。

項目 請求人D 請求人F
課税価格 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき税額 ○○○○円 ○○○○円

ト 請求人らは、本審査請求において、本件未分割財産及び本件債務等に係る本件相続税の課税価格の計算(本件未分割財産の穴埋方式による計算及び本件債務等の負担割合)について争っており、本件被相続人の相続財産の価額(別表2の1及び2)及び本件債務等の金額(本件債務の金額○○○○円及び本件葬式費用の金額○○○○円)については、争っていない。

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2 争点

(1) 争点1

本件未分割財産について、相続税法第55条に規定する課税価格の計算は、穴埋方式によるべきか、積上方式によるべきか。

(2) 争点2

請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額を控除できるか否か。

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3 争点1(本件未分割財産について、相続税法第55条に規定する課税価格の計算は、穴埋方式によるべきか、積上方式によるべきか。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人ら
次のとおり、本件未分割財産について、相続税法第55条に規定する課税価格の計算は、穴埋方式によるべきである。 次のとおり、本件においては個別事情があることから、本件未分割財産について、相続税法第55条に規定する課税価格の計算は、積上方式によるべきである。
イ 相続税法第55条に規定する「相続分の割合」とは、「共同相続人が他の共同相続人に対してその権利を主張することができる持分的な権利の割合」をいうと解される。
 そうすると、相続財産の一部が未分割である場合において、相続税の課税価格を計算する際には、穴埋方式によるべきである。
イ Hらは、本件未分割財産である不動産、有価証券及び預貯金等並びにこれらから派生する収益の全てを支配、独占しており、請求人らは、本件未分割財産に対し何らの権利も行使できておらず、また、将来的にも本件未分割財産の全てを取得できるとは限らないこと、本件未分割財産についてはその帰属が確定するまでは処分することが難しいことからすれば、請求人らは、手元に納税のための財産がない状態であり、実質的担税力を欠いているといえるところ、かかる請求人らに対し、本件未分割財産について、全面的に課税する結果となる穴埋方式を機械的に適用するのは不合理であるから、実質的担税力に応じ、積上方式によるべきである。
ロ そして、本件相続税において、穴埋方式により課税価格を計算すべきであることについては、1次の(イ)及び(ロ)のとおり、実質的担税力に影響を与える事情は認められず、本件未分割財産の支配状況等によって左右されることはない上、2本件共同相続人間の合意形成の有無によっても左右されるものではない。 ロ また、請求人らとHらとは、何ら意思の連絡なく当初の申告を別々に行っているものの、本件未分割財産に係る課税価格を積上方式により計算していた点では、同一の方法で申告していたのであるから、本件共同相続人間において、積上方式により課税価格を計算して申告することの合意形成があったと同視できる状態にあったといえる。
 このように本件共同相続人全員が同じ積上方式により課税価格を計算して本件未分割財産についても申告しているのであるから、相続財産の未分割による課税の先延ばしを排除するという相続税法第55条の規定の目的は達成できており、原処分庁がわざわざ介入して本件未分割財産に係る課税価格の計算方法を積上方式から穴埋方式に変更する理由はない。
(イ) 共同相続人のうち特定の者が未分割の財産を管理することは、遺産分割により当該財産の帰属が確定的に定まるまでの暫定的なものにすぎず、そのことと当該財産の帰属とは全く別の問題であり、遺産分割前において共同相続人のうちの誰が現実に未分割の財産を管理し所持しているかということ等は、相続により各共同相続人が取得する財産の割合に何ら影響を与えるものではなく、現時点においてHらが本件未分割財産を管理していること等をもって、相続税法上、請求人らとHらにおける実質的担税力に違いがあると認めることはできない。
(ロ) 加えて、未分割の財産から生じる法定果実については、そもそも相続財産とは別個の独立した財産であって、相続税法における実質的担税力についての判断に影響を及ぼすものではない。
ハ 本件未分割財産のうちの金銭債権については、相続税賦課の観点からは、明らかにその全部又は一部の帰属が確定しているとは認められないため、今なお未分割の状態にあるものとして、他の未分割の財産と一体として扱うのが相当であり、相続財産の中に金銭債権がある場合においても、上記イのとおり、穴埋方式によるべきである。 ハ さらに、本件未分割財産のうち金銭債権については、次のこともいえる。
 すなわち、最高裁判所昭和29年4月8日第一小法廷判決によれば、相続財産の中の金銭債権は、相続開始とともに当然に分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解されているところ、本件のように相続財産の一部について共同相続人の一部の者に相続させる旨の遺言があり、未分割の相続財産の中に金銭債権が含まれている場合、当該金銭債権が相続開始とともに相続分に応じて分割されると解される可能性が相当程度あるにもかかわらず、本件未分割財産のうちの金銭債権について、請求人らがその全てを取得するものとする穴埋方式を適用することは、結果的に本来負担しなくてもよい納税の負担を請求人らに負わせていたことになるから、不合理である。

(2) 判断

イ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人らが本件申告をするに当たり、本件未分割財産について、積上方式により本件相続税の課税価格を計算することに関し、請求人らとHらとの間で何ら協議はなかった。

(ロ) 請求人らが本件申告をした後、本件各更正処分等がされるに至るまで、本件未分割財産について、積上方式により本件相続税の課税価格を計算することに関し、請求人らとHらとの間で何ら協議はなく、また、請求人らからHらに対して何らかの連絡をしたことも、請求人らがHらから何らかの連絡を受けたこともなかった。

ロ 検討

(イ) 未分割の財産がある場合の相続税の課税価格の計算について
 相続税法第55条の規定は、相続財産の全部又は一部がいまだ分割されていない時点では、各共同相続人は、他の共同相続人に対し、未分割の個々の財産について具体的な主張をすることはできないが、未分割の財産全体について自己の相続分の割合に応じた持分的な権利を主張できることを踏まえて、相続税の申告又は課税をする場合において、相続財産の全部又は一部が分割されていないときは、未分割の財産については、持分的な割合に従って当該未分割の財産を取得したものとして課税価格を計算するものとしている。
 そして、相続財産の一部のみが分割された場合、そのことによって、相続財産全体に対する各共同相続人の相続分の割合が変更されることはないから、各共同相続人は、他の共同相続人に対し、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分について、その権利を主張することができる。
 そうすると、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する」とは、相続税の申告又は課税をする場合、各共同相続人が相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち穴埋方式により課税価格を計算することをいうと解するのが相当である。
 なお、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分」とは、原則として、民法第900条から第903条《特別受益者の相続分》までに規定する相続分をいうのであるから、共同相続人の中に被相続人から贈与を受けた者がいる場合には、同法第903条の規定により、相続財産の価額に被相続人から贈与を受けた財産の価額を加える、いわゆる持戻計算(以下「持戻計算」という。)を行うこととなるので、被相続人から贈与を受けた財産の価額については、相続財産の価額への持戻計算を行った上で、穴埋方式により課税価格を計算することとなる。

(ロ) 本件未分割財産の本件相続税の課税価格の計算について
 上記(イ)のことから、本件各更正処分において、本件未分割財産の本件相続税の課税価格の計算は、本件被相続人から贈与を受けた財産の価額については相続財産の価額への持戻計算を行った上で、穴埋方式によることが相当である。 

ハ 請求人らの主張について

(イ) 請求人らは、Hらが本件未分割財産及びこれらから派生する収益の全てを支配、独占しており、請求人らが本件未分割財産に対して何らの権利も行使できておらず、また、将来的にも本件未分割財産の全てを取得できるとは限らないこと及び本件未分割財産についてはその帰属が確定するまでは処分することが難しいことからすれば、請求人らは、手元に納税のための財産がなく実質的担税力を欠いているといえるところ、かかる請求人らに本件未分割財産について全面的に課税する結果となる穴埋方式を機械的に適用するのは不合理である旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のイ)。
 しかしながら、相続税は、金銭で納付することを原則とするものであるところ、預貯金、現金が僅少である場合など、相続税を一時に金銭で納付することを困難とする事由がある場合は、延納(相続税法第38条《延納の要件》)による方法によって納付することもできるのであって、仮に、請求人らの主張するとおり、本件未分割財産を含む相続財産をHらが全て支配していたり、あるいは本件未分割財産について処分することが難しく、請求人らの手元に納税のための財産がない状態であったりしたとしても、本件未分割財産について穴埋方式により本件相続税の課税価格を計算することが相当であることは、上記ロの(ロ)のとおりであるから、上記請求人らの主張自体を理由として本件各更正処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ロ) 請求人らは、本件未分割財産について、本件共同相続人全員が積上方式により課税価格を計算して申告しており、積上方式により課税価格を計算して申告することの合意形成があったと同視できる状態にあり、このように本件共同相続人全員が同じ積上方式により課税価格を計算して本件未分割財産についても申告しているのであるから、相続財産の未分割による課税の先延ばしを排除するという相続税法第55条の規定の目的は達成できており、原処分庁がわざわざ介入して本件未分割財産に係る課税価格の計算方法を穴埋方式に変更する理由はない旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のロ)。
 しかしながら、1上記イの(イ)のとおり、請求人らが本件申告をするに当たり、本件未分割財産について、積上方式により本件相続税の課税価格を計算することに関し、請求人らとHらとの間で何ら協議はなかったことに加え、当審判所の調査の結果によっても、請求人ら又は請求人らの代理人である弁護士や税理士が、本件申告に先立ち、Hらが本件未分割財産について積上方式により本件相続税の課税価格を計算して申告することを了知した上で、それを前提にして本件申告をしたものであると認めるべき証拠は見当たらないこと、2上記イの(ロ)のとおり、請求人らが本件申告をした後、本件各更正処分等がされるに至るまで、請求人らとHらとの間で、本件未分割財産について、積上方式により本件相続税の課税価格を計算することに関し何ら協議はなく、また、請求人らからHらに対して何らかの連絡をしたことも、請求人らがHらから何らかの連絡を受けたこともなかったことからすれば、本件申告の以前も以後も、本件共同相続人間において、本件未分割財産について、積上方式により本件相続税の課税価格を計算して申告することの合意形成があったと同視できる状態にあったとは認められない。
 また、仮に本件未分割財産について積上方式により課税価格を計算して申告することの合意形成があったと同視できる状態にあったとする請求人らの主張を前提としても、上記ロの(ロ)のとおり、本件各更正処分において、本件未分割財産について、穴埋方式により本件相続税の課税価格を計算することは相当であるから、請求人らの主張をもって直ちに穴埋方式による本件各更正処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ハ) 請求人らは、本件のように相続財産の一部について共同相続人の一部の者に相続させる旨の遺言があり、未分割の相続財産の中に金銭債権が含まれている場合、当該金銭債権が相続開始とともに相続分に応じて分割されると解される可能性が相当程度あるにもかかわらず、本件未分割財産のうちの金銭債権について、請求人らがその全てを取得するものとする穴埋方式を適用することは、結果的に本来負担しなくてもよい納税の負担を請求人らに負わせていたことになるから、不合理である旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のハ)。
 しかしながら、相続税法第55条の規定は、現実に相続により取得する財産が確定していないことを理由に相続税の納付義務を免れるという事態を防止するため、法定申告期限までに相続人間で相続財産が分割されていないときであっても、その未分割の財産については、便宜上、民法(第904条の2を除く。)に規定する相続分の割合に従って当該財産を取得したものとして課税価格を計算することとしているものであり、その後、相続財産の分割が行われ、既に確定した相続税額が過大になった場合には、その時点で相続税額を改めて計算し、相続税法第32条の規定により更正の請求ができるのであるから、請求人らの主張するように、結果的に本来負担しなくてもよい納税の負担を負わせることになるか否かをあらかじめ考慮して、相続税を課す旨の規定とはなっていない。
 そして、本件各更正処分において、本件未分割財産について穴埋方式により本件相続税の課税価格を計算することが相当であることは、上記ロの(ロ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

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4 争点2(請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額を控除できるか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人ら
次のとおり、相続税法第13条第1項の規定及び本件通達の定めにより、本件債務等は、いずれもHらが負担するものと認められるから、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額を控除することはできない。 次のとおり、本件債務等については、本件共同相続人各人の「実際に負担する金額」は確定していないし、遺言による相続分の指定があったとは認められないから、相続税法第13条第1項の規定及び本件通達の定めにより、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額に法定相続分である4分の1の割合を乗じた金額をそれぞれ控除すべきである。
イ 本件申告書には、請求人らが本件債務を弁済したことを証する書類及び本件葬式費用を支払ったことを証する書類がいずれも添付されておらず、請求人らがこれらの弁済又は支払をした事実は認められない。
 一方で、Hらは、1本件債務のうち、K信用金庫に対する債務について、平成23年10月5日付で同信用金庫に対して債務引受契約証書を差し入れた上、実際に当該債務を弁済したほか、当該債務を含む本件債務の弁済及び本件葬式費用の支払を全て行い、2これらについて、Hらの関与税理士を通じて異議審理庁に対し、請求人らに求償する意思はない旨申述していることから、本件債務等は、いずれもHらが負担することが確定しているものと認められる。
 そうすると、本件債務等は、Hらが負担するものと認められるから、請求人らの負担に属する部分の金額はない。
イ 以下のとおり、本件債務等については、本件通達に定める「実際に負担する金額」は確定していないというべきである。
(イ) 本件共同相続人間において、本件債務等の負担についての協議又はこれに類するものは行われていない。
(ロ) Hらが本件債務等の弁済等をした事実が認められたとしても、本件通達に定める「実際に負担する」とは、債務等の弁済等に充てた原資から判断されるべきであり、本件において、Hらは、同人らの固有の財産から本件債務等の弁済等を行ったのではなく、同人らが支配している本件未分割財産のうちの預貯金から当該弁済等を行ったと推測され、そうであるならば、当該預貯金には、遺産分割がなされるまでは潜在的にせよ請求人らの持分が含まれていることから、潜在的には請求人らも当該弁済等の負担をしたままの状態であるといえるので、Hらが、本件債務等を負担することが確定したとみることはできない。
(ハ) また、Hらが本件債務等の弁済等をし、当該弁済等について請求人らに求償する意思はない旨述べた事実が認められたとしても、それは本件遺言でHらが相当程度の資産を相続するとされていることを前提としてのことであると思われ、例えば本件遺言が無効となるなど、その前提が変わった場合であってもHらが求償をしないとは考えにくいから、Hらが述べたという内容は容易に覆り得るものであって、信頼できるようなものではないので、上記事実は本件債務等についてHらが負担することが確定したとする根拠にはならない。
ロ なお、Hらが本件未分割財産の一部を原資として本件債務等の弁済等をした事実があったとしても、本件未分割財産を請求人らが取得することとなった場合においては、Hらに対して求償することにより減少した財産の回復を図ることができるので、当該事実のみによって直ちに本件債務等を請求人らが負担したこととなるものではないから、当該事実をもって「実際に負担する金額」が確定していないとはいえない。 ロ さらに、本件債務等について、民法第902条第1項に規定する遺言による相続分の指定があったとは認められない。
 すなわち、相続分は、積極財産・消極財産を含む全相続財産につき、各共同相続人の相続すべき分数的割合であるから、積極財産と消極財産とを分けて相続分の指定をすることはできないと解すべきであること、また、消極財産については、遺産分割の対象としたり遺言で相続分の指定をしたりすると債権者を害する可能性があることから、積極財産・消極財産を含む全相続財産に係る相続分が割合で示されている場合を除き、消極財産については、民法第902条第1項に規定する遺言による相続分の指定をすることはできないと解すべきである。
 そして、相続税法第13条第1項に規定する債務控除について、債務と葬式費用とで異なる扱いをすべき理由はない。

(2) 判断

イ 法令解釈等

相続税法第13条第1項は、相続により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、相続財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用の金額のうち、「その者の負担に属する部分の金額」(債務控除額)を控除した金額による旨規定している。
 そして、本件通達は、上記の「その者の負担に属する部分の金額」について、相続によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうが、実際に負担する金額が確定していないときは民法第900条から第902条までの規定による相続分の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱う旨定めている。
 この点、被相続人の債務及び被相続人に係る葬式費用について、相続によって財産を取得した者が実際に負担する金額を相続税法第13条第1項に規定する「その者の負担に属する部分の金額」とする取扱いは合理性があり、また、相続税法においては、相続財産が未分割である場合における相続税の課税(相続税法第55条)は、相続財産が分割されるまでの間の暫定的な仮定計算にすぎず、最終的には、分割の確定により修正できることが予定されているから、被相続人の債務等のうち相続によって財産を取得した者が実際に負担する金額が確定していない場合の債務控除額については、各共同相続人が民法に規定する相続分の割合に応じて被相続人の債務等を負担するものとして取り扱うのが合理的であるから、かかる取扱いは、当審判所においても相当であると考える。

ロ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) Hらは、平成23年10月5日付で、K信用金庫(取扱店はe支店)に対し、本件相続開始日における本件被相続人が同信用金庫に対して負担していた借入金債務の全部を引き受ける旨の債務引受契約証書(相続による債務の引受)を作成して、当該債務についての債務引受契約を締結した。なお、当該債務の全部は、Hらにより、平成26年3月10日までの間に弁済された。

(ロ) 本件債務等の支払等については、次のとおりである。

A 本件共同相続人間で、本件各更正処分等がされるに至るまで、本件債務等の負担に関する協議又はこれに類するものは行われていない。また、請求人らは、本件債務を支払っていない。

B 本件被相続人の葬儀に際し、請求人らは、葬儀業者に対して、諸手続の依頼及び葬式費用に関する交渉などは行っていない。
 なお、当該葬儀の喪主はJであった。

C 請求人らは、本件葬式費用を支払っていない。

(ハ) Jは、Hらの関与税理士を通じて異議審理庁に対し、次のとおり申述した。

A Hらは、本件債務等を支払った。

B Hらは、本件遺言に係る遺言公正証書の記載から、本件債務は、Hらに負担させるものであると解釈しており、また、本件葬式費用については、そもそも請求人らに求償する理由が存在しないから、Hらが支払った本件債務等の全てについて、請求人らに求償するつもりはない。

ハ 当てはめ

(イ) 本件債務について
 本件債務の負担については、上記1の(4)のロのとおり、本件遺言に係る遺言公正証書には、Hらに本件債務を負担させる旨明確に記載されており、本件被相続人の意思は、Hらに本件債務の全てを承継させようとする趣旨のものであったと解される。また、上記ロの(イ)のとおり、Hらは、K信用金庫に対して債務引受契約証書を作成して、本件相続開始日における本件被相続人が同信用金庫に対して負担していた借入金債務の全部を引き受ける旨の債務引受契約を締結し、当該債務の全額を弁済しており、Hらが本件遺言に沿った行動をしていると認められる。さらに、上記1の(4)のハ及び上記ロの(ロ)のAのとおり、本件各更正処分等がされるに至るまで、本件共同相続人間において、本件被相続人の相続財産に係る分割協議及び本件債務の負担に関する協議又はこれに類するものが行われた事実も認められない。
 以上のことから、本件債務については、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきである。

(ロ) 本件葬式費用について
 被相続人に係る葬式費用は、相続開始時に現存する被相続人の債務ではないことから、特段の事情がない限り、葬儀を実施した者が負担すると解するのが相当であるところ、葬儀を実施した者とは葬儀を主宰した者、すなわち、一般的には、喪主を指すというべきであるが、喪主が形式的なものにすぎない場合には、葬儀社等に対し、葬儀に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定した葬儀の主宰者が負担するものと解するのが相当である。
 そして、本件葬式費用については、1上記ロの(ロ)のBのとおり、本件被相続人の葬儀の喪主はJであったこと、2同Bのとおり、請求人らは、当該葬儀に際し、当該葬儀に係る葬儀業者に対して、諸手続の依頼及び葬式費用に関する交渉等は行っていないことが認められる。さらに、3上記ロの(ロ)のCのとおり、請求人らは、本件葬式費用を支払っていないこと、4上記ロの(ハ)のとおり、Jは、Hらの関与税理士を通じて異議審理庁に対し、Hらが本件葬式費用を支払い、その負担についてはそもそも求償する理由が存在しないことから、請求人らに求償するつもりはない旨申述していること、5上記1の(4)のロのとおり、本件遺言に係る遺言公正証書には、葬式費用の負担に関する記載はなく、また、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件共同相続人間で、本件各更正処分等がされるに至るまで、本件葬式費用の負担に関する協議は行われていないことが認められる。
 以上のことから、本件葬式費用については、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきである。

(ハ) まとめ
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきであり、そうすると、本件債務等について、相続税法第13条第1項に規定する「その者の負担に属する部分の金額」はHらの負担に属する部分の金額となることから、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額を控除することはできない。

ニ 請求人らの主張について

(イ) 請求人らは、本件共同相続人間において、本件債務等の負担についての協議又はこれに類するものは行われていないことから、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」は確定していないというべきである旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のイの(イ))。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件債務等の負担に関する協議又はこれに類するものは行われていないものの、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきであることは、上記ハの(ハ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ロ) 請求人らは、本件通達に定める「実際に負担する」とは、債務等の弁済等に充てた原資から判断されるべきであり、本件において、Hらは、本件未分割財産のうちの預貯金から本件債務等の弁済等を行ったと推測されるところ、当該預貯金には、遺産分割がなされるまでは潜在的にせよ請求人らの持分が含まれていることから、潜在的には請求人らも当該弁済等の負担をしたままの状態であるといえるので、Hらが本件債務等を負担することが確定したとみることはできない旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のイの(ロ))。
 しかしながら、請求人らの主張を前提としても、請求人らの負担は潜在的なものにすぎず、それだけをもって、実際に負担する金額が確定したか否かを判断できるものではない。
 そして、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきであることは、上記ハの(ハ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ハ) 請求人らは、Hらが本件債務等の弁済等をし、当該弁済等について請求人らに求償する意思はない旨述べた事実が認められたとしても、それは本件遺言でHらが相当程度の資産を相続するとされていることを前提としてのことであると思われ、例えば本件遺言が無効となるなど、その前提が変わった場合であってもHらが求償をしないとは考えにくいから、Hらが述べたという内容は容易に覆り得るものであって、信頼できるようなものではないので、上記事実は本件債務等についてHらが負担することが確定したとする根拠にはならない旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄のイの(ハ))。
 しかしながら、本件においては、請求人らが主張するような前提が変わったという事実は認められない上、上記ロの(ハ)のBのJが申述した内容については、その信ぴょう性に疑問を生じさせるような事情は認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ニ) 請求人らは、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」は確定しておらず(上記(1)の「請求人ら」欄のイ)、さらに、民法第902条第1項に規定する相続分の指定があったとは認められない(上記(1)の「請求人ら」欄のロ)から、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から本件債務等の金額に法定相続分である4分の1の割合を乗じた金額をそれぞれ控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件債務等について、本件通達に定める「実際に負担する金額」はHらが負担するものとして「確定」しているというべきであることは、上記ハの(ハ)のとおりであるから、請求人らの主張はその前提を欠いている。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

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5 本件各更正処分について

上記3の(2)のロの(ロ)のとおり、本件未分割財産については、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、穴埋方式により計算するのが相当であり、本件未分割財産の価額を穴埋方式により計算するに当たっては、本件分割済財産の価額が、相続財産全体に対する相続分の割合に応ずる価額を超えているHらについては、本件未分割財産に係る相続分はないものとし、相続財産全体に対する相続分の割合に応ずる価額に満たない請求人らについては、本件未分割財産に係る相続分を有するものとして計算することとなる。
 また、上記4の(2)のハの(ハ)のとおり、本件債務等については、請求人らの本件相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除することはできないこととなる。
 そこで、穴埋方式により請求人らに配分される本件未分割財産の取得割合を計算したところ、別表3のとおり、請求人D及び請求人Fは、それぞれ572,XXX,XXX分の286,XXX,XXX(2分の1)となり、当該取得割合に基づき、本件未分割財産の価額を請求人らに配分した上で、本件債務等の金額を控除せずに、請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表4のとおりとなり、これらの金額はいずれも原処分庁が主張する請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額(上記1の(4)のヘの異議決定における各金額)と同額となる。
 そうすると、請求人らの納付すべき税額(別表4の「納付すべき税額」欄の各金額)は、いずれも本件各更正処分の納付すべき税額(別表1の「更正処分等」の「納付すべき税額」欄の各金額)を上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

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6 本件各賦課決定処分について

上記5のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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7 その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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