(平成27年7月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所得税の修正申告並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の期限後申告をしたところ、原処分庁が、正当な売上金額を把握できたにもかかわらず、恣意的に操作して算出した売上金額により所得税の収支内訳書を作成するなどしたことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項又は同条第2項に規定する隠ぺい又は仮装に当たるとして原処分を行ったのに対し、請求人が、請求人の行為は隠ぺい又は仮装に当たらないなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に係る経緯

平成20年分、平成21年分、平成22年分及び平成23年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税並びに平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで及び平成23年1月1日から平成23年12月31日までの各課税期間(以下、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成26年9月5日請求)に至る経緯はそれぞれ別表1及び別表2のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は別紙8のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人について

(イ) 請求人は、平成20年、平成21年、平成22年及び平成23年の各年中(以下「本件各年中」という。)において、個人でd市e町○−○(以下「本件d住居」という。)を事業所として電気工事業を行っていた。

(ロ) 請求人は、本件各年中において、h市i町○−○(以下「本件h住居」という。)を住民票上の住所としていたが、平成25年1月28日、上記(イ)の事業に係る事業所である本件d住居に住所を定めて転入した旨をd市長に届け出た。

ロ 請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る各確定申告の状況について

(イ) 請求人は、本件各年分の所得税について、各法定申告期限までに、本件各年分の各収支内訳書(以下「本件収支内訳書」という。)を添付した各確定申告書をH税務署長に提出して、各確定申告をした。

(ロ) 請求人は、本件各課税期間の消費税等について、各法定申告期限までに、本件各課税期間の各確定申告書をH税務署長に提出せず、各確定申告をしなかった。

ハ 請求人が提示した書類について

(イ) H税務署長所属のJ事務官は、平成24年12月10日、請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に関する調査として、請求人から、請求人が保存していた次のAないしCの各書類の提示を受け、これを預かった。

A 請求人の取引先であるK社から請求人宛の平成20年11月分から平成23年12月分までの支払内容確認書(K社から請求人に対する支払金額等が記載されたもの。以下「本件支払内容確認書」という。)

B 平成13年4月26日から平成24年7月18日までの間のK社からの入金額等が記帳された預金通帳(L銀行(旧M銀行)○○支店に請求人名義で開設された普通預金口座(口座番号○○○○)に係るもの。以下「本件通帳」といい、当該口座を「本件口座」という。)

C 平成19年分から平成23年分までの各年分の必要経費に係る領収書(レシートを含む。以下「本件領収書」という。)

(ロ) 請求人がJ事務官に提示した本件領収書の中には、その裏面に請求人が次のA及びBの内容を記載したものがあった。

A 本件各年分のうちの一部の日付及び当該日付と同日のK社に対する売上金額の集計金額を手書きしたもの(以下「本件売上金額メモ」という。)

B 「○○○○で確定申告すると○○○○納税」、「○○○○」などと手書きしたもの(以下「本件税額メモ」という。)

ニ 請求人がした修正申告及び期限後申告について

(イ) J事務官は、平成25年2月1日までに、次のA及びBの各申告書(以下、これらを併せて「本件修正申告書等」という。)の原案を作成した。

A 本件各年分の所得税の各修正申告書(事業所得の金額及び納付すべき税額等が印字され、住所及び氏名等の各欄は空欄のもの。)

B 本件各課税期間の消費税等の各期限後申告書(消費税の課税標準額及び納付すべき税額等が印字され、納税地、屋号及び氏名等の各欄は空欄のもの。)

(ロ) J事務官及びH税務署長所属のN統括国税調査官(以下、J事務官と併せて「本件H調査担当職員」という。)は、平成25年2月1日、G税務署において、請求人に対して、調査結果の内容を説明するとともに、本件各年分の所得税の修正申告及び本件各課税期間の消費税等の期限後申告を勧奨した。
 これに対し、請求人は、その場で、本件修正申告書等に住所及び氏名等を自署した上で押印し、これをH税務署長に対して提出して、本件各年分の所得税の修正申告及び本件各課税期間の消費税等の期限後申告(以下、これらを併せて「本件修正申告等」という。)をした。

ホ P税理士(以下「本件税理士」という。)との面談について
 本件税理士は、平成25年2月21日、H税務署において、N統括調査官と面談した。

ヘ 請求人に対する質問について
 原処分庁は、H税務署長から本件の引継ぎを受けたものであるところ、原処分庁所属の調査担当職員は、平成25年4月以降、請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に関する調査として、請求人に対する電話で生活の本拠地がどこであるかについて質問をした(以下「本件調査」という。)。

ト 原処分の各処分通知書について
 原処分庁所属の送達担当職員(以下「本件送達担当職員」という。)は、原処分の各処分通知書(以下「本件通知書」という。)を、本件d住居に設置された郵便受け箱(以下「本件郵便受け箱」という。)の中に投入した(以下「本件投入」という。)。

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2 争点

(1) 争点1 原処分は本件調査に係る調査手続の違法を理由に取り消されるべきか否か。

(2) 争点2 本件通知書が請求人に対して送達されたか否か。具体的には、本件投入は、通則法第12条《書類の送達》第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当するか否か。

(3) 争点3 原処分は、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、「修正申告書の提出……があったとき」(通則法第65条《過少申告加算税》第1項)又は「期限後申告書の提出……があった場合」(通則法第66条《無申告加算税》第1項第1号)に該当するか否か。具体的には、本件修正申告等は無効であるか否か。

(4) 争点4 原処分のうち重加算税の各賦課決定処分は、請求人が、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たものである(所得税につき通則法第68条第1項、消費税等につき同条第2項)か否か。

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3 主張

(1) 争点1(原処分は本件調査に係る調査手続の違法を理由に取り消されるべきか否か。)

請求人 原処分庁
イ 本件税理士は、平成25年2月頃、N統括調査官に税理士法第30条《税務代理の権限の明示》に規定する書面(以下「税務代理権限証書」という。)を渡し、H税務署長に対してこれを提出した。それにもかかわらず、原処分庁所属の調査担当職員は、当該提出の事実を認めず、本件税理士を介することなく請求人に電話をかけて直接連絡を取り続け、本件調査をした(そして、原処分庁は、その後突然、原処分をした。)。
 このような本件調査は、本件税理士が調査に関与する機会を奪うものであり、質問検査権を濫用したものとして、その手続は違法である。
イ 本件税理士が、平成25年2月頃、H税務署長に対して税務代理権限証書を提出した事実は認められない。
 したがって、本件調査に係る調査手続が違法である旨の請求人の主張は、その前提を欠くものである。
ロ 上記イのとおり、本件調査に係る調査手続は違法であるから、原処分は、このことを理由に取り消されるべきである。 ロ また、税務調査の手続については、その手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに賦課決定をしたに等しいものと評価を受ける場合に限り、その賦課決定に取消原因があるものと解される。
 仮に、請求人が主張する事実(1本件税理士がH税務署長に対して税務代理権限証書を提出した事実、2原処分庁所属の調査担当職員が、当該提出の事実を認めず、本件税理士を介することなく請求人に電話をかけて直接連絡を取り本件調査をした事実、3原処分庁が突然原処分をした事実)があったとしても、それらの事実をもって何らの調査なしに賦課決定をしたに等しいものと評価を受けることはないから、請求人の主張は、原処分の適法性を左右するものではない。
 したがって、原処分が、本件調査に係る調査手続の違法を理由に取り消されることはない。

(2) 争点2(本件通知書が請求人に対して送達されたか否か。具体的には、本件投入は、通則法第12条第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当するか否か。)

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件通知書は、平成26年3月14日に請求人に対して送達された。  次のとおり、本件通知書は、請求人に対して送達されたとはいえない。
イ 本件送達担当職員が本件通知書を本件郵便受け箱の中に投入した(本件投入をした)のが平成26年3月14日であることについては、当該職員が作成した送達記録書から明らかである。 イ 本件送達担当職員が本件通知書を本件郵便受け箱の中に投入した(本件投入をした)のが平成26年3月14日であることについては、これを裏付ける証拠はない。
ロ 通則法第12条に規定する差置送達の効果は、社会通念上、差し置かれるべき書類が受送達者の支配領域内に入り(つまり差し置かれて)、その内容を客観的に了知し得るときに生じると解される。そして、本件郵便受け箱の中は、請求人の支配領域内である。
 したがって、平成26年3月14日に本件通知書が本件郵便受け箱の中に投入されたこと(本件投入)は、通則法第12条第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当する。
ロ 仮に本件投入がされたのが平成26年3月14日であったとしても、この日、請求人は自宅を留守にしていた。本件通知書が請求人の支配下に入ったのは、請求人が帰宅後実際にこれを受け取った同月16日であり、同月14日に本件郵便受け箱の中に入っただけでは請求人の支配下に入ったとはいえない。
 したがって、平成26年3月14日に本件通知書が本件郵便受け箱の中に投入されたこと(本件投入)は、通則法第12条第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当しない。

(3) 争点3(原処分は、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、「修正申告書の提出……があったとき」(通則法第65条第1項)又は「期限後申告書の提出……があった場合」(通則法第66条第1項第1号)に該当するか否か。具体的には、本件修正申告等は無効であるか否か。)

請求人 原処分庁
 次のイないしハからすると、本件修正申告等は無効であるから、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、「修正申告書の提出……があったとき」(通則法第65条第1項)又は「期限後申告書の提出……があった場合」(通則法第66条第1項第1号)に該当しない。  次のイないしハのとおり、本件修正申告等は有効であるから、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、「修正申告書の提出……があったとき」(通則法第65条第1項)又は「期限後申告書の提出……があった場合」(通則法第66条第1項第1号)に該当する。
イ 本件H調査担当職員は、本件修正申告書等の収入金額等の欄等を記入し、平成25年2月1日、請求人に本件修正申告書等に署名押印をさせた。このように、本件H調査担当職員が上記記入をしたことは、税理士でない者が税理士業務(申告書の作成)を行ったといえるので、税理士法第52条《税理士業務の制限》に違反する。 イ 本件では、J事務官が、請求人に対する調査結果の説明に当たり、本件修正申告書等を作成している。しかしながら、同作成行為は、国税に関する行政事務に従事する者がその行政事務を遂行するため必要な限度において当該事務を行ったものであり、税理士法第2条《税理士の業務》に規定する「税理士業務」に含まれないから、同法第52条に違反するものではない。
ロ 本件H調査担当職員は、平成25年2月1日、請求人に上記イの署名押印をさせる際、本件修正申告書等の住所の欄に本件h住居を書くように指導したため、請求人はそのとおり記載した。しかしながら、その当時の請求人の住所は、本件d住居であった。
 したがって、本件H調査担当職員は、本件修正申告書等の署名押印に際し、請求人に対して誤った指導をしたものである。
ロ そもそも、本件H調査担当職員が、平成25年2月1日、請求人に対して、本件修正申告書等の住所の欄に本件h住居を書くように指導した事実はない。
ハ 本件H調査担当職員は、平成25年2月1日、その所属する税務署長の管轄区域外であるG税務署内において、請求人に対し本件修正申告等の勧奨をした。
 また、上記勧奨の時の請求人の住所は本件d住居であったから、本件修正申告等に係る所得税及び消費税等の納税地を所轄する税務署長は、原処分庁であった。
 したがって、本件修正申告等の勧奨は、本件修正申告等に係る国税の納税地を所轄しない税務署長に所属する職員が、その所属する税務署長の管轄区域外においてしたものである。
ハ そもそも、税務署長所属の職員が、その所属する税務署長の管轄区域外の場所において、修正申告の勧奨をすることを禁止する法令の規定は存在しない。加えて、請求人の事業所(本件d住居)がG税務署の管内にあり、請求人の利便を考慮したものであったことからすれば、本件H調査担当職員が、平成25年2月1日、G税務署内において、請求人に対し本件修正申告等の勧奨をしたことは、請求人の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度を超えて行われたものとは認められない。
 また、請求人は、1平成25年2月1日までに、納税地を異動した旨の届出をH税務署長及び原処分庁に対してしておらず、2同日、本件H調査担当職員に対してその旨を申し出なかった上、3自ら本件修正申告書等に本件h住居を記載した(なお、本件H調査担当職員が当該記載を指示した事実はない。)ものであるから、同日における納税地(生活の本拠たる住所地)を本件h住居と解していたというべきである。
 なお、仮に、平成25年2月1日における請求人の納税地が本件d住居であったとしても、本件H調査担当職員は、その事実を知り得なかったことにやむを得ない事情があったというべきである。

(4) 争点4(原処分のうち重加算税の各賦課決定処分は、請求人が、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たものである(所得税につき通則法第68条第1項、消費税等につき同条第2項)か否か。)

原処分庁 請求人
イ 次の(イ)及び(ロ)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項又は同条第2項に規定する事実の隠ぺい又は仮装があったと認められる。 イ 請求人には、通則法第68条第1項又は同条第2項に規定する事実の隠ぺい又は仮装がない。
(イ) 通則法第68条第1項について
A 請求人は、次の(A)ないし(C)のとおり申述しているところ、実際、本件各年分の所得税の各確定申告書に記載された納付すべき税額は、いずれも○○○○円を下回る金額となっていることを併せ考えれば、自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたものと認められる。
(A) 平成19年からはFX取引の損失の穴埋めのため、平成20年からは改装資金借入金の返済資金確保のため、売上金額を過少に申告し、必要経費も大体の金額で適当に申告していた旨
(B) 税金(所得税)が大体○○○○円にならないくらいになるように額を考え、その後、所得金額を決めた上で、その金額を基に売上金額の合計から一部を除外し、仕入金額及び必要経費を水増ししていた旨
(C) 本件税額メモは、納税額を少なく申告する際に試算したメモ書であり、このような不正な計算は5年ほど前から行っていた旨
B 請求人は、上記Aの過少申告の意図に基づき、次の(A)ないし(C)のとおりの行為をしていた。
(A) K社からの日々の売上金額(請求人が同社に対して請求すべき金額)を記載した本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたこと。
(B) 本件税額メモと同様の本件各年分の納税額を過少申告する際に試算したメモ書を廃棄していたこと(以下、請求人が試算のために作成し、廃棄した旨原処分庁が主張する当該メモ書を「本件試算メモ」という。請求人は、本件試算メモを5年ほど前から作成していた旨を申述しているにもかかわらず、本件各年分の所得税の各確定申告書に記載された所得金額及び納付すべき税額が一致する本件試算メモが存在しない。)。
(C) 本件収支内訳書に、何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたこと(なお、収入金額については、本件売上金額メモを保存すること及び事業所得に係る収入金額が入金される口座を確認することにより、容易に確認できたにもかかわらず、これらの記録によることなく本件収支内訳書に記載していた。)。
C 上記Bの一連の行為は、当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められ、請求人は、その意図に基づき過少申告を行っていたのであるから、重加算税の賦課要件を充足する。
(ロ) 通則法第68条第2項について
 上記(イ)の一連の行為は、当初から課税売上げ等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められ、請求人は、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったのであるから、重加算税の賦課要件を充足する。
ロ なお、重加算税は、その課税要件を充足する事実が認められる場合に賦課されるものであって、裁量により賦課するか否かを決するものではないから、重加算税が賦課されない他の事案が存在することで、原処分が不当となるものではない。 ロ なお、所得税事案においては、過少申告加算税賦課事案が圧倒的に多く、重加算税賦課事案は極めて少ないという現実の運用がされているところ、他の過少申告加算税賦課事案と何ら異なるところのない請求人の事案を重加算税賦課事案としたことは、極めて公平一貫性を欠くものであり、不当である。

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4 判断

(1) 争点1(原処分は本件調査に係る調査手続の違法を理由に取り消されるべきか否か。)

イ 法令解釈
 所得税法第234条《当該職員の質問検査権》(平成23年法律第114号による改正前のもの。)第1項及び消費税法第62条《当該職員の質問検査権》(平成23年法律第114号による改正前のもの。)第1項に規定する質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものである。
 したがって、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに処分をしたに等しいものと評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当である。

ロ 判断
 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のヘのとおり、原処分庁所属の調査担当職員は、請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に関する調査として、請求人に対して電話で質問をした事実が認められるところ、仮に、請求人の上記主張のとおり、当該調査担当職員が、H税務署長に対して税務代理権限証書を提出していた本件税理士を介することなく請求人に電話をかけて直接連絡を取り続けていたとしても、そのことをもって直ちに、本件調査が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに処分をしたに等しいものと評価することはできないから、請求人の主張する調査内容をもって、原処分は取り消されるものではない。

(2) 争点2(本件通知書が請求人に対して送達されたか否か。具体的には、本件投入は、通則法第12条第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当するか否か。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件送達担当職員が作成した平成26年3月14日付の送達記録書及び同送達記録書に添付された写真によれば、本件送達担当職員は、平成26年3月14日午前10時33分に、本件通知書を送達するため請求人の住民票上の住所である本件d住居を訪れ、呼び鈴を鳴らすも応答がなかったことから、「G税務署」と印刷された封筒に入れた本件通知書を本件郵便受け箱に投入した(本件投入)と認められる。なお、当該送達記録書に格別不自然な点はなく、その他信用性を疑わせるような事情は認められない。

(ロ) 上記(イ)の写真等によれば、本件郵便受け箱は、本件d住居の玄関ポーチに単独で置かれ、それを覆い隠すようなものもなく、また、その形状や大きさは市販されているものと同等のものであった。

ロ 判断
 上記イの(イ)のとおり、本件送達担当職員が、平成26年3月14日、本件d住居の呼び鈴を鳴らしても応答がなかったことからすれば、請求人が不在であったこと、すなわち、請求人が通則法第12条第5項第2号に規定する送達すべき場所にいない場合に該当したことは優に認められるので、本件送達担当職員が、送達すべき場所に本件通知書を差し置く行為をしたことは相当である。
 そして、上記イの(ロ)のとおり、本件郵便受け箱は、本件d住居の玄関ポーチに置かれ、請求人が帰宅した際には必ず目に入り、しかも、すぐに中に入っている物を取り出すことができる状況にあったと認められるから、本件郵便受け箱は、請求人の支配領域内にあったといえ、すなわち、送達すべき場所に該当する。
 したがって、本件投入は通則法第12条第5項第2号の「書類を差し置くこと」に該当し、これにより、本件通知書は請求人に対して適法に送達された。

(3) 争点3(原処分は、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、「修正申告書の提出……があったとき」(通則法第65条第1項)又は「期限後申告書の提出……があった場合」(通則法第66条第1項第1号)に該当するか否か。具体的には、本件修正申告等は無効であるか否か。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 平成24年11月21日、J事務官が、本件各年分(平成20年分を除く。)の所得税に係る各確定申告書の作成の経緯等について質問するに当たって、本人であることを確認したところ、請求人は、住所は本件h住居である旨申述し、J事務官も、そのとおり録取した。
 平成24年12月10日、J事務官が、請求人に対して本件d住居の家賃について質問したところ、請求人は、「住所地はあくまでもh市i町で、ここが生活の中心であり実際に帰っている。」、「住民票はi町にあるし、事業所は生活の中心ではない。」と申述した。
 平成24年12月26日、J事務官が、本件売上金額メモの記載等について質問するに当たって、本人であることを確認したところ、請求人は、住所は本件h住居である旨申述し、J事務官も、そのとおり録取した。

(ロ) 平成25年1月中旬頃、J事務官は、請求人に係る平成25年1月16日付の住民票の写しをh市長から取り寄せた。当該住民票の写しには、請求人の住所が本件h住居である旨記載されていた。

(ハ) 平成25年2月1日、J事務官が、N統括調査官立会いの下、本件税額メモの記載等について質問するに当たって、本人であることを確認したところ、請求人は、住所は本件h住居である旨申述し、J事務官も、そのとおり録取した。
 その後、本件H調査担当職員は、請求人に対し、本件修正申告等を勧奨した(上記1の(4)のニの(ロ))。

(ニ) 本件H調査担当職員が作成した調査経過記録書の平成25年2月1日付の「調査事項・応接状況等」欄には、「納税者に修正申告の提出の勧奨及び更正に関しての説明を行ったところ、修正申告等を提出するとの申し出があったため、平成18年から平成23年分の所得税の修正申告書及び平成21年から平成23年分の消費税及び地方消費税の確定申告書について、官が住所、氏名、生年月日、電話番号等の記載及び押印を依頼し、納税者は各申告書の氏名欄、納税地の欄(「h市i町○−○」と自書)、生年月日の欄等に自書し、押印し、当該申告書を預かった。」と記載されている。

(ホ) 請求人は、平成25年2月1日までに、H税務署長及び原処分庁のいずれに対しても、納税地を異動した旨の届出をしなかった。

(ヘ) 平成25年2月18日、J事務官は、H税務署の徴収部門の職員から、請求人は本件d住居に転出済みである旨連絡を受け、h市長から同月22日付の住民票の写しを取り寄せた。当該住民票の写しには、平成25年1月25日の届出により、請求人の住民票上の住所が本件d住居に転出した旨記載されていた。

ロ 判断

(イ) 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のイのとおり主張するが、税務職員が税務調査を行った納税者のために申告書の原案を作成するなどの技術的援助をすることは、行政事務の一環として是認されるものと解されるから、当該請求人の主張は、請求人独自の見解を述べるにすぎない。

(ロ) 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のロのとおり主張する。
 しかしながら、請求人は、本件H調査担当職員が平成25年2月1日に本件修正申告書等の住所の欄に本件h住居を書くように指導した事実を基礎付ける事情について何ら具体的な主張をしない上、上記イの(ニ)のとおり、調査経過記録書には、本件H調査担当職員が請求人に対して本件修正申告書等の住所の欄に本件h住居を書くように指導した旨の記載はなく、その他これを認めるに足りる証拠はない。かえって、1上記イの(イ)及び(ハ)のとおり、請求人は、住所は本件h住居である旨一貫して申述し、J事務官も、そのとおり録取したこと、2上記イの(ロ)のとおり、請求人に係る平成25年1月16日付の住民票の写しでは、請求人の住所が本件h住居であったこと、3上記イの(ホ)のとおり、請求人は、平成25年2月1日までに、H税務署長等に対し、納税地を異動した旨の届出をしなかったこと、及び4上記イの(ヘ)のとおり、J事務官は、平成25年2月中旬頃に、請求人の住民票上の住所が本件d住居に転出した事実を把握したこと等からすれば、本件H調査担当職員は、請求人に対して本件修正申告等を勧奨した時、請求人が本件d住居に住所を定めて転出していたことを知らず、かつ、そのことについてやむを得ない事情があったと認められるので、本件H調査担当職員が、請求人に対してあえて本件修正申告書等の住所の欄に本件h住居を書くように指導をしたとは考え難い。
 したがって、請求人の上記主張は理由がない。

(ハ) 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のハのとおり主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件H調査担当職員は、請求人に対して本件修正申告等を勧奨した時、請求人が本件d住居に住所を定めて転出していたことを知らず、かつ、そのことについてやむを得ない事情があったと認められるところ、このような事実関係の下で、H税務署長は、請求人に対して、所得税又は消費税等について更正又は決定をすることができることからすれば(国税通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》(平成26年法律第10号による改正前のもの。)第2項)、H税務署の所掌する事務の範囲内に、請求人に対して本件修正申告等の勧奨をする行為が含まれていたと認められる。また、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、請求人はG税務署管内にある本件d住居を事業所としていたこと、及び、上記イの(ハ)のとおり、請求人に対する本件修正申告等の勧奨は、本件税額メモの記載等についての質問に引き続いてされたことからすれば、本件H調査担当職員がG税務署で請求人に対して本件修正申告等の勧奨をする必要があり、かつ、そのことは社会通念上相当であったといえる。
 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(ニ) その他本件修正申告等が無効であることをうかがわせる事情はなく、本件修正申告等は無効ではない。

(4) 争点4(原処分のうち重加算税の各賦課決定処分は、請求人が、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たものである(所得税につき通則法第68条第1項、消費税等につき同条第2項)か否か。)

イ 法令解釈

(イ) 通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をしたことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解される。

(ロ) また、通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この隠ぺい又は仮装に基づく無申告に対して重加算税を課する制度の趣旨は、上記(イ)の隠ぺい又は仮装に基づく過少申告に対して重加算税を課する制度(同条第1項)の趣旨と同じであると認められるから、上記(イ)と同様に、必ずしも架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまでは必要ではなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて申告をしなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 平成18年分ないし平成23年分の事業所得に係る総収入金額及び必要経費の額並びに所得税の納付すべき税額の申告の状況等について

A 請求人の平成18年分ないし平成23年分の事業所得に係る総収入金額の当初申告額、修正申告額、その差額及び当初申告割合(当初申告額を修正申告額で除して求めた割合をいう。以下同じ。)は、別表3のとおりである。

B 請求人の平成18年分ないし平成23年分の事業所得に係る必要経費の額の当初申告額、修正申告額、その差額及び当初申告割合は、別表4のとおりである。

C 請求人の平成18年分ないし平成23年分の所得税の納付すべき税額の当初申告額、修正申告額(平成26年3月14日付でされた減額更正処分後のもの)、その差額及び当初申告割合は、別表5のとおりである。

(ロ) 本件各年分の事業所得に係る総収入金額等について

A 本件各年分の請求人の事業所得に係る取引先ごとの売上金額は、別表6のとおりである。
 請求人は、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、本件通帳を保存していたところ、本件各年分の請求人の事業所得に係る売上金(K社については、下記Bの3の相殺後の支払金額から振込手数料を控除したもの。別表7参照)は、全て本件口座に振り込まれていた。

B K社は、毎月、請求人に対し、本件支払内容確認書を郵送していたが(後記(ホ)参照)、本件支払内容確認書には、1請求人のK社に対する売上金額、2同社が支払の際に相殺する部材金額及び保険料金、3当該相殺後の支払金額が記載されていた。

C 請求人は、平成24年11月21日、J事務官の「なぜ、売上を抜いたのですか。」との質問に対し、「最初は、借入れたお金をFXで取り返そうと思っていたのですが、そのFXで大損してしまったので、借入れ金返済のために、売上を意図的に抜いていました。」と申述した。

(ハ) 本件各年分の事業所得に係る必要経費について
 請求人は、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、本件領収書を保存していたところ、請求人は、平成25年2月1日、J事務官の「開業から現在まで、経費仕入は、どのように申告していましたか。」との質問に対し、「5年分保存はしていますが、申告のときに集計はしていません。開業してから、現在まで、経費も適当な金額で多く申告しています。」と申述した。

(ニ) 請求人におけるFX取引の損益及び借入金の状況について

A 請求人は、平成19年11月29日から、Q証券(現、R証券)との間でFX取引を開始したが、平成19年12月中及び本件各年中の当該取引に係る損益は、別表8のとおりである。

B なお、上記3の(4)の「原処分庁」欄のイの(イ)のAの(A)の「改装資金借入金」については、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、借入れの発生時期、借入金額及び返済額を客観的に示す証拠は確認できなかった。

(ホ) 請求人とK社との取引状況等について

A K社は、S社から家電取付工事等を請け負い、電気工事士に仕事を振り分けてその工事等をさせる業務をしていたが、請求人は、当該電気工事士の一人である。

B K社から本件口座に、上記(ロ)のBの3の支払金額が振り込まれるまでに行われる手続は、以下のとおりである。

(A) 請求人は、K社から振り分けられた工事が終了すると、その都度工事明細表又は設置明細表を提出し、K社は、これらをまとめて一月分の工事の内容や金額等を記載した工事内容確認書を毎月作成して、請求人に対して郵送する。

(B) 請求人は、自分が行った一月分の工事が工事内容確認書に漏れなく記載されているかを確認し、漏れがある場合には、K社に対し、工事内容確認書の訂正をFAXで依頼する。

(C) K社は、上記(B)の確認後の工事内容確認書の内容を反映させた支払内容確認書を請求人に郵送する。

(D) 請求人は、支払内容確認書に署名押印してK社に返送する。

(E) K社は、上記(ロ)のBの3の支払金額を、本件口座に振り込む。

(ヘ) 本件売上金額メモ及び本件税額メモの記載内容等について

A 本件売上金額メモを把握した経緯等
 上記1の(4)のハのとおり、本件売上金額メモは、J事務官が、平成24年12月10日に請求人から提示を受け、預かった本件領収書の中にあったものであるが、本件売上金額メモ以外に同様の記載がある書類はない。

B 本件売上金額メモの記載内容及び保存状況等

(A) 本件売上金額メモには、別表9の「本件売上金額メモ」欄のとおり、1平成20年は3月23日から12月30日までの間の32日分、2平成21年は7月24日から12月24日までの間の28日分、3平成22年は1月24日から12月31日までの間の34日分、4平成23年は1月22日から12月31日までの間の21日分の合計115日分が記載されている。
 なお、日付のみで、数字の記載のない箇所がある(別表9の「本件売上金額メモ」「数字」欄に「空白」と記載したもの。)。

(B) 本件売上金額メモに記載された数字と、上記(ホ)のBの(A)ないし(C)の工事内容確認書記載の工事代金の額欄に記載された金額との対応関係は、別表9のとおりである(なお、当審判所において確認できた工事内容確認書は、平成21年11月以後のもののみである。)。

(C) 請求人は、平成24年12月26日、J事務官に対し、本件売上金額メモについて、「日付の書いてあるものは、日々の売上を集計したものです。そこに書いてある金額は、K社からの支払通知書(支払内容確認書)の金額、預金通帳(本件通帳)の振込金額とほぼ同じになると思います。」と申述した。

(D) 請求人は、平成25年2月1日、J事務官に対し、「暇な時に、毎日の売上をメモしています。他に、ノートの切れはしなどにも書いていたので、レシートは、その一部です。ほとんどは、金額を、K社からの支払確認書(支払内容確認書)と照らし合わせて、合っていれば、捨ててしまいます。」と申述した。

C 本件税額メモの記載内容等

(A) 本件税額メモに記載された「○○○○」との数字は、平成18年分の収支内訳書に記載された収入金額と一致している(別表3参照)。
 なお、この点について、請求人は、平成25年2月1日、J事務官に対し、「○○○○は、平成18年分の申告のときの売上金額です。」と申述した。

(B) 本件税額メモに記載された「○○○○」及び「○○○○」との数字については、平成18年分の収支内訳書及び確定申告書には、当該数字と一致する金額は記載されていない。
 なお、この点について、請求人は、平成25年2月1日、J事務官の「レシート(本件税額メモ)の「○○○○」は何の数字ですか。」との質問に対し、「どのような計算をしたかは、よくわかりませんが、税額計算をする表を見て、税率をかけて出していると思います。○○○○が、どこの数字か、自分もよくわかりません。確定申告の計算さえよくわかっていません。」と申述した。

(C) 請求人は、平成24年12月26日、J事務官から提示された本件税額メモについて、平成18年分の所得税の「納税額を少なく申告する際に、試しに計算した時のメモ書きです。」と申述し、また、当該申述に続く「いつ頃から、このような不正な計算をしていたのですか。」との質問に対し、「だいたい5年程前からです。」と申述した。さらに、請求人は、平成25年2月1日、J事務官の「平成24年12月26日の聴取書に添付したレシートの裏面の数字について教えて下さい。」との質問に対し、「先日、お話したとおり、5〜6年程前から、納税額を少なく申告するときに、納税額を試しに計算したものです。」と申述した。なお、平成24年12月26日の聴取書に添付したレシートの裏面とは、本件税額メモのことである。

D その他

(A) J事務官は、異議審理庁所属の異議申立てに係る調査の担当職員に対し、要旨次のとおり各申述をした。

a 請求人は、「確定申告は毎年税金から計算して、税金がだいたい○○○○円にならないぐらいになるように額を考えて、その後所得金額を決めて、その金額をもとに売上金額の合計から一部を除外し、仕入金額、必要経費を水増した。」と言っていた(平成26年6月19日の申述)。

b 請求人が上記aのとおりの発言をしたのは、平成24年12月26日である(平成26年6月30日の申述)。

c (平成24年12月26日付の聴取書に、請求人の上記aの発言が録取されていない理由について、)その日の聴取書には請求人が残したメモのことについて質問したことを中心に記載しようと考えていて、毎年税金から計算するという発言は聴取書に残すほど重要なことだとはその時点では思わなかった(平成26年6月30日の申述)。

(B) 上記(A)のaの発言の内容は、本件H調査担当職員が作成した調査経過記録書には記載されていない。

ハ 当てはめ

(イ) 過少申告の意図について
 原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のイの(イ)のAのとおり、請求人は、自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたものと認められる旨主張するので、以下、検討する。

A 自己の資金需要の必要性について
 請求人は、上記ロの(ロ)のCのとおり、売上げを除外した動機としてFX取引に係る損失の発生及び借入金の返済を申述したところ、上記ロの(ニ)のBのとおり、このうち借入金の存否については証拠上明らかでないものの、上記ロの(ニ)のAのとおり、FX取引については、請求人は、平成19年11月29日からFX取引を開始し、平成20年中、平成21年中及び平成23年中には当該FX取引から損失が生じていること、及び平成22年中に生じた利益もそれ以前の年中に生じた損失の額には満たないものであったことからすれば、請求人には、本件各年分において、少なくともFX取引の損失の穴埋めという自己の資金需要の必要性があったと認められる。

B 事業所得に係る総収入金額について
 上記ロの(ロ)のA及びBのとおり、請求人は、本件各年分の事業所得に係る売上金が振り込まれていた本件口座の通帳(本件通帳)を保存していたこと、及び請求人は、当該売上金の大半を占めるK社から、毎月、本件支払内容確認書を受領していたことからすると、請求人は、本件各年分の所得税の申告に当たって、事業所得の総収入金額を容易に把握することができる状況にあったことが認められる。
 加えて、上記ロの(イ)のAのとおり、請求人は、平成19年分ないし平成23年分の事業所得に係る総収入金額を、いずれの年分についても過少に申告し、しかも、当初申告額と修正申告額の差額(及び当初申告割合)が、平成19年分は約○○○○円(58.1%)、平成20年分は約○○○○円(54.8%)、平成21年分は約○○○○円(69.9%)、平成22年分は約○○○○円(51.2%)、平成23年分は約○○○○円(80.7%)と大きいこと、また、上記ロの(ロ)のCの売上げを意図的に抜いていた旨の請求人の申述は、これらの事実に照らして信用できることを併せ考えると、請求人は、継続して本件各年分の事業所得に係る総収入金額を意図的に過少に申告していたことが認められる。

C 事業所得に係る必要経費について
 上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、本件各年分において必要経費を支出する際に受領した本件領収書を保存していたことからすると、上記Bと同じく、請求人は、本件各年分の所得税の申告に当たって、必要経費の額を容易に把握することができる状況にあったことが認められる。
 加えて、上記ロの(イ)のBのとおり、請求人は、平成18年分ないし平成23年分の事業所得に係る必要経費を、いずれの年分についても過大に申告し、しかも、当初申告額と修正申告額の差額(及び当初申告割合)が、平成18年分は約○○○○円(184.2%)、平成19年分は約○○○○円(128.5%)、平成20年分は約○○○○円(117.0%)、平成21年分は約○○○○円(159.5%)、平成22年分は約○○○○円(123.2%)、平成23年分は約○○○○円(162.9%)と大きいこと、また、上記ロの(ハ)の開業から現在まで必要経費を適当な金額で多く申告していた旨の請求人の申述は、これらの事実に照らして信用できることを併せ考えると、請求人は、継続して本件各年分の事業所得に係る必要経費の額を意図的に過大に申告していたことが認められる。

D 以上のことから、請求人は、本件各年分の所得税について、FX取引の損失の穴埋めという自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたことは認められる。

(ロ) 特段の行動について
 原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のイの(イ)のB及びCのとおり、1請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたこと、2請求人が本件試算メモを廃棄していたこと、及び3請求人が本件収支内訳書に、何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたことは、当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められる旨主張するので、以下、検討する。

A 本件売上金額メモについて

(A) 上記ロの(ヘ)のBの(B)のとおり、本件売上金額メモに記載された特定の日の金額とその直前の日の金額との差額は、K社からの日々の売上金額と一致又は近似する箇所が複数あることから、本件売上金額メモは、K社からの日々の売上金額の累計金額(月ごと)を記載したものと認められる。そして、当日までの売上金額の累計金額を記載するためには、前日までの累計金額に当日の売上金額を加算しなければ算出できないことからすると、請求人は、本件各年分の全期間を通して、K社からの日々の売上金額を計算し、累計の売上金額をメモ書していたと推認される。
 にもかかわらず、上記ロの(ヘ)のAのとおり、本件売上金額メモ以外に、同様の記載がある書類がなかったこと及び上記ロの(ヘ)のBの(C)及び(D)の請求人の申述のうち、本件売上金額メモは日々の売上げを集計したものの一部であり、ほとんどは捨てていた旨の申述は、これらの事実に符合して信用できることからすると、確認できなかった日付に係るものについては、請求人が廃棄したものと認められる。

(B) しかしながら、1上記ロの(ロ)のAのとおり、売上金は、全て本件口座に振り込まれ、しかも本件通帳は保存されていたこと、2同B及び上記ロの(ホ)のBのとおり、請求人はK社から月度の売上金額が記載された本件支払内容確認書等を受け取っていたこと、及び3本件売上金額メモが発見された経緯は、上記ロの(ヘ)のAのとおりであり、本件売上金額メモ以外に同様の記載がある書類がなかったことについて特に不自然な点はないことからすると、請求人が上記(A)の廃棄をしたのは、単に当該メモ書を保存しておく必要がなくなったからである可能性が十分に考えられ、正当な売上金額を秘匿するために捨てたとは認め難い。

(C) したがって、請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたことをもって、当初から所得等を過少に申告する意図をうかがい得る特段の行動をしたとは評価できない。

B 本件試算メモの破棄について

(A) 上記1の(4)のハの(ロ)のB及び上記ロの(ヘ)のCの(A)から、本件税額メモは、請求人の平成18年分の所得税額の試算に関するものであることが認められる。そして、上記ロの(ヘ)のCの(C)のとおり、請求人は、平成18年分の所得税の申告に当たって、過少に申告する意図で納税額を試算するために、本件税額メモを作成した旨の申述をしているところ、当該申述がされた状況等を鑑みると、当該申述は信用することができる。
 したがって、請求人は、平成18年分の所得税の申告に当たって、過少に申告するために、本件税額メモを作成したことが認められる。

(B) しかしながら、上記ロの(ヘ)のCの(B)のとおり、本件税額メモにおける計算方法は明らかではない上に、請求人の平成24年12月26日の「だいたい5年程前からです。」(同(C))という申述は、その質問の「このような不正な計算」を受けたものであり、当該「このような不正な計算」が、本件各年分においても平成18年分に係る本件税額メモと同様のメモ書(本件試算メモ)の作成をしたことまでも意味しているとは、文言上、解し難いことからすれば、当該申述をもって、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって、本件試算メモを作成していたとは認め難い。
 また、上記ロの(ヘ)のCの(C)の請求人の平成25年2月1日の「5〜6年程前から、納税額を少なく申告するときに、納税額を試しに計算したものです。」との申述も、「平成24年12月26日の聴取書に添付したレシートの裏面の数字について教えて下さい。」との質問に応答したものであり、当該質問の文言からすると、同じく当該申述をもって、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって、本件税額メモと同様の本件試算メモを作成していたとは認め難い。
 加えて、その他に、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算メモを作成していたことを認めるに足りる証拠はない。

(C) 以上のことからすれば、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算メモを作成していたことは認められず、もとより請求人がそれらを破棄した事実もまた、認められる余地はない。

(D) なお、上記ロの(ヘ)のDの(A)のJ事務官の各申述は、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって、少なくとも税額の試算をしていたことをうかがわせ得る内容ではあるが、1上記ロの(ヘ)のDの(A)のaの請求人の発言内容は、上記ロの(ヘ)のDの(A)のc及び同(B)のとおり、平成24年12月26日付の聴取書に記載がないだけでなく、調査経過記録書にも記載されていないこと、2請求人は「確定申告は毎年税金から計算」していると言っていた旨のJ事務官の申述は、上記ロの(ヘ)のCの(B)の「税額計算をする表を見て、税率をかけて出している」との請求人の申述内容と整合しないことからすると、その信用性には疑問が残り、請求人が発言したとするJ事務官の申述内容どおりの行為を請求人が行っていたとは認め難い。

C 本件収支内訳書の記載について
 請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を本件収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない。

(ハ) まとめ
 以上のとおり、原処分庁が主張する請求人の行為については、いずれも「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」とは評価できないものか、行為そのものが認められないものである。そして、他に通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。
 また、原処分庁は、請求人の本件各課税期間の消費税等の無申告についても、上記請求人の行為をもって「特段の行動」があった旨主張しているところ、これらは、同じ理由から、「特段の行動」とは評価できないものか、行為そのものが認められないものであり、また、他に通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、請求人の本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等について、通則法第68条に規定する重加算税の賦課要件を満たすとはいえない。

(5) 本件各年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分について

以上のとおり、請求人の本件各年分の所得税の確定申告について、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていないところ、本件各年分の修正申告書に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも別紙1ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、上記(4)のロの事実からすれば、請求人が、平成20年分の所得税について、正当な税額を免れる目的で、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項(平成27年法律第9号による改正前のもの。)に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する過少申告行為をしたことは優に認められる。したがって、平成20年分の所得税に係る修正申告書は、法定申告期限から3年を経過した日以後に提出されたものではあるが、その提出は、通則法第65条第5項の「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないので、原処分庁が、請求人に対し、平成20年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額以下の部分の金額を課することは適法である。

(6) 本件各課税期間の消費税等に係る重加算税賦課決定処分について

上記(4)のハの(ハ)のとおり、請求人の本件各課税期間の消費税等の期限後申告について、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていないところ、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも別紙5ないし別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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