(平成27年10月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続の開始前に、自らが実質的に経営する同族会社における被相続人からの借入金の帳簿上の残高を減少させる仕訳を行い、仕訳により減少させた後の帳簿上の借入金の残高を被相続人の同族会社に対する貸付金の額であるとして相続税の期限後申告をした後、貸付金の額に誤りがあったなどとして修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人は、根拠となる私法上の行為が存在しない仕訳を故意に行うことにより、貸付金の額を減少させたのであるから、相続税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を仮装したとして、重加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、仕訳は被相続人と協議の上で行ったものであるから、事実を仮装したものではないとして、賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成23年12月○日に死亡したP2(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、平成24年10月23日、課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)をR税務署長に提出して、相続税の期限後申告をした。
 なお、請求人は、本件申告書に記載した納付すべき税額○○○○円を、平成24年10月10日に納付した。

ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査を受け、平成25年12月20日、課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載した相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)をR税務署長に提出して、相続税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。

ハ R税務署長は、平成26年6月26日付で、本件修正申告による納付すべき税額を基礎として、過少申告加算税の額を○○○○円及び重加算税の額を○○○○円とする過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、重加算税の賦課決定処分を「本件重加算税賦課決定処分」という。)をした。
 なお、上記の各賦課決定処分は、本件申告書の提出が、国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第6項の適用があり、同法第65条《過少申告加算税》第1項に規定する「期限内申告書が提出された場合」に含まれるとして(下記(3)のイ参照)、同条第1項及び第2項並びに第68条《重加算税》第1項の規定に基づきされたものである。

ニ 請求人は、平成26年7月25日、本件重加算税賦課決定処分に不服があるとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月22日付で、棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、平成26年11月19日、異議決定を経た後の本件重加算税賦課決定処分に不服があるとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、同法第66条第1項ただし書又は第6項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同法第65条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。

ロ 通則法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人及び関係会社について

(イ)本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の子である請求人、P3、P4、P5及びP6の計5名である。

(ロ)請求人は、下表の「期間」欄の各期間において、同表の「会社名」欄の各会社(下記(ニ)以下では、当該各会社の「株式会社」又は「有限会社」は、いずれも省略する。)における同表の「役職」欄の各役職に就いていた。

会社名 期間 役職
a社 平成16年1月14日〜平成18年3月30日 取締役
平成23年5月30日以降 取締役
b社 平成16年1月26日〜平成18年3月30日 取締役
平成16年1月26日〜平成17年1月20日 代表取締役
平成23年5月20日以降 取締役
代表取締役
d社 平成9年3月20日以降 取締役
e社 平成13年3月30日〜平成15年3月31日 取締役
代表取締役
平成20年2月20日〜平成26年4月18日 取締役
代表取締役

(ハ)本件被相続人は、下表の「期間」欄の各期間において、同表の「会社名」欄の各会社における同表の「役職」欄の各役職に就いていた。

会社名 期間 役職
a社 平成16年11月25日〜平成23年12月○日 取締役
平成23年12月○日〜平成23年12月○日 代表取締役
b社 平成16年1月26日〜平成23年12月○日 取締役
平成17年1月20日〜平成23年5月20日 代表取締役
e社 平成17年2月25日〜平成23年12月○日 取締役

(ニ)a社は、昭和○年○月○日に設立された不動産の売買及び賃貸などを目的とする株式会社であり、本件相続の開始前において、その発行済株式の全てを請求人及び本件被相続人が保有する同族会社であった。
 なお、平成16年1月14日以降の期間のうち、本件被相続人がa社の代表取締役に就いていた期間(平成23年12月○日から同月○日までの期間)を除く期間は、請求人の母(本件被相続人の元配偶者)であるP7がa社の代表取締役に就いていた。

(ホ)b社は、平成○年○月○日に設立された○○の経営などを目的とする株式会社であり、本件相続の開始前において、その発行済株式の全てを請求人が保有する同族会社であった。

(ヘ)d社(以下、a社及びb社と併せて「本件各会社」という。)は、昭和○年○月○日に設立された不動産賃貸などを目的とする株式会社(特例有限会社)であり、本件相続の開始前において、その発行済株式の50%の株式を請求人が保有する同族会社であった。

(ト)e社は、平成○年○月○日に設立された不動産の管理業務などを目的とする株式会社であり、本件相続の開始前において、その発行済株式の50%の株式を請求人が保有する同族会社であった。

ロ 本件相続の開始前における本件各会社の会計処理等について

(イ)a社の会計処理について

請求人は、本件各会社の経理事務を担当していたP4に指示をして、a社の帳簿を作成するための会計ソフトに、平成22年12月31日付で下表の順号1ないし12の各仕訳(以下、当該各仕訳を、順号に合わせて「本件仕訳1」ないし「本件仕訳12」という。)を入力させ、平成23年5月19日付で下表の順号13の仕訳(以下「本件仕訳13」という。)を入力させた(下記4の(2)以下では、貸方の補助科目に表示された各会社の「有限会社」又は「株式会社」は、いずれも省略する。)。

順号 借方 貸方
総勘定科目(補助科目) 金額(円) 総勘定科目(補助科目) 金額(円)
1 短期借入金(本件被相続人) 3XX,XXX 売掛金(f社) 3XX,XXX
2 短期借入金(本件被相続人) 5X,XXX,XXX 短期貸付金(g社) 5X,XXX,XXX
3 短期借入金(本件被相続人) 3XX,XXX 短期貸付金(P8) 3XX,XXX
4 短期借入金(本件被相続人) 1,XXX,XXX 短期貸付金(h社) 1,XXX,XXX
5 短期借入金(本件被相続人) 3,XXX,XXX 会員権(○○CC) 3,XXX,XXX
6 短期借入金(本件被相続人) 8X,XXX,XXX 美術品 8X,XXX,XXX
7 短期借入金(本件被相続人) 3,XXX,XXX 未収入金(b社) 3,XXX,XXX
8 短期借入金(本件被相続人) 5,XXX,XXX 短期貸付金(P9) 5,XXX,XXX
9 短期借入金(本件被相続人) 1X,XXX,XXX 建設仮勘定(P10) 1X,XXX,XXX
10 短期借入金(本件被相続人) 2X,XXX,XXX 建設仮勘定(P11) 2X,XXX,XXX
11 短期借入金(本件被相続人)
未収入金(i社)
固定資産売却損
1,XXX,XXX
3X,XXX,XXX
5X,XXX,XXX
土地
固定資産売却損
5X,XXX,XXX
3X,XXX,XXX
12 短期借入金(本件被相続人) 4X,XXX,XXX 開発費 4X,XXX,XXX
13 短期借入金(本件被相続人) 1,XXX,XXX 美術品 1,XXX,XXX

(ロ)b社の会計処理等について

A b社は、平成23年5月30日、e社に対し、○市○町○−○及び同○−○の各土地並びに当該各土地上に存する家屋番号○番○の建物を48,875,000円で売り渡した。
 b社は、上記売買代金48,875,000円のうち2X,XXX,XXX円については、その受領に代えて、b社が有する本件被相続人からの長期借入金2X,XXX,XXX円をe社に負担させることとした。

B 請求人は、上記Aの取引に関して、P4に指示をして、平成23年5月30日付で、b社の帳簿を作成するための会計ソフトに下表の順号14の仕訳(以下「本件仕訳14」という。)を入力させた。

順号 借方 貸方
総勘定科目(補助科目) 金額(円) 総勘定科目(補助科目) 金額(円)
14 保証金(e社)
長期借入金(本件被相続人)
未収入金(e社)
固定資産除却損
長期借入金(本件被相続人)
2X,XXX,XXX
2X,XXX,XXX
5,XXX,XXX
4X,XXX,XXX
4X,XXX,XXX
建物
建物付属設備
構築物
土地
固定資産除却損
5X,XXX,XXX
8,XXX,XXX
7XX,XXX
2X,XXX,XXX
4X,XXX,XXX

C 上記Aにより、e社が負担することとした本件被相続人からの長期借入金2X,XXX,XXX円については、a社に本件被相続人からの借入金を集約させるため、上記Bと同日付(平成23年5月30日付)で、a社の帳簿上、本件被相続人からの短期借入金2X,XXX,XXX円を計上するとともに、e社の帳簿上、同額をa社からの短期借入金として計上した。

(ハ)d社の会計処理等について

A d社は、平成23年2月25日、j社に対し、○市○町○−○の土地及び同○−○の借地権並びに当該借地権上に存する家屋番号○番○の建物を35,500,000円で売り渡した。なお、これに伴い、d社は、帳簿上、固定資産除却損7X,XXX,XXX円を計上した。

B d社は、平成23年3月18日、a社から、○市○町○−○、同○−○、同○−○及び同○−○の各土地並びに当該各土地上に存する家屋番号○番○など合計31戸の各区分所有建物を、117,000,000円で買い受けた。
 d社は、上記売買代金117,000,000円のうち7X,XXX,XXX円については、その支払に代えて、a社が有する本件被相続人からの短期借入金7X,XXX,XXX円をa社から引き受けた。

C 請求人は、P4に指示をして、平成23年6月30日付で、d社の帳簿を作成するための会計ソフトに下表の順号15の仕訳(以下「本件仕訳15」といい、本件仕訳1ないし15を併せて「本件各仕訳」という。)を入力させた。

順号 借方 貸方
総勘定科目(補助科目) 金額(円) 総勘定科目(補助科目) 金額(円)
15 短期借入金(本件被相続人) 7X,XXX,XXX 固定資産除却損 7X,XXX,XXX

ハ 上記ロのとおり、本件各仕訳により、本件各会社の本件被相続人からの借入金は帳簿上減少したが、これは、本件各会社が本件被相続人に対して当該借入金を弁済した事実に基づくものではなかった。

ニ 請求人の本件相続税の申告状況について

(イ)請求人は、本件申告書の第11表の「相続税がかかる財産の明細書」に、b社及びd社に対する貸付金を記載せず、a社に対する貸付金の価額を1,2XX,XXX,XXX円と記載して、上記(2)のイのとおり、本件相続税の期限後申告をした。

(ロ)請求人は、本件修正申告書の第11表の「相続税がかかる財産の明細書」に、1a社に対する貸付金の価額を1,4XX,XXX,XXX円(本件申告書に記載した上記(イ)の価額に本件仕訳1ないし13により減少した本件被相続人からの短期借入金の価額の合計額2XX,XXX,XXX円を加算した価額)、1b社に対する貸付金の価額を4X,XXX,XXX円(本件仕訳14により減少した本件被相続人からの長期借入金の価額6X,XXX,XXX円から、上記ロの(ロ)のCによりa社に集約された短期借入金の価額2X,XXX,XXX円を控除した価額)及び1d社に対する貸付金の価額を7X,XXX,XXX円(本件仕訳15により減少した本件被相続人からの短期借入金の価額)と記載して、上記(2)のロのとおり、本件修正申告をした。

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2 争点

請求人の行為が、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装したことに該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1)請求人は、本件各会社の経理処理を自由にできる自身の立場を利用して、本件被相続人からの債務免除等の事実がないにもかかわらず、本件各会社の帳簿において事実に基づかない本件各仕訳を行い、本件被相続人からの借入金の帳簿上の残高を減少させたものと認められる。
 そして、そのような請求人の行為は、平成12年7月3日付課資2−263ほか2課共同による「相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」の第1の1において不正事実として例示されている行為(帳簿について虚偽の表示をしていること)と何ら異なる点がなく、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに該当する。
(1)請求人は、回収不能な貸付金、価値のない美術品、建設仮勘定として計上されたままであった不動産、開発が中止されたにもかかわらず計上されたままであった開発費等の本件各会社の不良な資産を本件各会社の本件被相続人からの借入金と「相殺」すること、すなわち、不良な資産の帳簿価額を零円にするとともに、本件被相続人からの借入金を不良な資産の帳簿価額と同額だけ減少させる処理をすることについて、本件被相続人と協議した上で本件各仕訳を行ったものである。
 そして、そのような本件被相続人との協議に基づいて請求人が適切な処理をしていたとすれば、当初の申告が適正なものと認められたはずである。
 したがって、請求人は、少なくとも、本件各仕訳により故意に事実を隠ぺい又は仮装したものではないから、請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに該当しない。
(2)仮に、本件各仕訳をしたことが、直ちに隠ぺい又は仮装に該当するとはいえないとしても、以下のイないしハのことからすれば、請求人は、本件被相続人の本件各会社に対する貸付金の額を本件各会社の帳簿に基づいて確定させることを予定し、相続税の負担を減少させる目的の下、自身の立場を利用して、本件各会社の帳簿において事実に基づかない本件各仕訳を行い、本件被相続人からの借入金の帳簿上の残高を減少させたものと認められる。
 そして、そのような請求人の行為は、相続税を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたということに該当するから、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに該当する。

イ 請求人は、本件調査担当職員に対して、「私の父(本件被相続人)が各会社(本件各会社)に対して有していた貸付金を少なくし、父が亡くなった場合の相続税を少しでも少なくするために関与税理士に相談せず、私の独断で行ったものです。」、「資料1のNO.1(本件仕訳1)ないしNO.15(本件仕訳15)までの取引は存在しませんでしたので、書類の作成もなく、父のa社への貸付金と相殺し、取引が存在したような操作をしてしまいました。」や「資料1のNO.14(本件仕訳14)及びNO.15は、同様に父の会社への貸付金を減らしたかったため、各会社の損失を私が会計上は行えない処理で父の各会社への貸付金と相殺したものです。」と申述しているところ、当該申述の内容は、請求人の内心に関するものである上、本件被相続人からの債務免除等の事実が存在しなかったことと符合しており信用性が高い。

ロ 本件各仕訳は、事実との整合性を無視して簿記上の当否という観点のみでみれば誤りはないため、請求人は簿記に関する知識を有していたと認められる。

ハ 本件仕訳15は、a社からd社に対する不動産の譲渡に伴い、d社がa社から引き受けた本件被相続人からの借入金と、d社が不動産を譲渡した際に生じた損失を、いずれも消滅させたものであり、d社の財務体質の強化のために債務免除をしたなどというには理由に乏しい。

(2) 請求人は、適法に相続税を減少させることを意図して本件各仕訳を行ったことは否定しないものの、相続税を過少に申告することを意図して本件各仕訳を行ったものではない。
 したがって、請求人は、相続税を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものではないから、請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに該当しない。
 なお、請求人の本件調査担当職員に対する「父(本件被相続人)が亡くなった場合の相続税を少しでも少なくするために関与税理士に相談せず、私(請求人)の独断で行った」旨の申述は、請求人が、上記(1)のとおり、本件被相続人からの借入金を不良な資産の帳簿価額と同額だけ減少させる処理をすることについて、本件被相続人と協議をしたことを前提にしたものであり、相続税を過少に申告する意図があったことを申述したものではない。
 また、請求人が「取引が存在しない」「取引が存在したような操作をした」等の申述をしたとする点については、本件調査担当職員から、会社の機関決定、債権放棄の通知、契約書の作成等、必要な諸手続がなされていなければ取引が存在したとはいえないとの指摘を受け、そのような必要な諸手続はなされていないことを認めたところ、本件調査担当職員が「取引が存在しない」「取引が存在したような操作をした」とする質問応答記録書を作成してきたため、それに押印したにすぎない。請求人は、本件各仕訳が本件被相続人との協議に基づくものである旨の説明をしており、原処分庁の主張は、請求人が、そのような説明をしたことを無視している。

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4 判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているときに課されるものであるところ、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠ぺいし、あるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解するのが相当である。

(2)認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件被相続人の老人ホームへの入所等に係る事実経過

(イ)本件被相続人は、平成22年6月18日、介護付有料老人ホーム「S」(以下「本件老人ホーム」という。)に入所し、死亡するまで本件老人ホームに入所していた。

(ロ)本件老人ホームの職員が作成した本件被相続人の生活記録には、平成22年6月18日の本件被相続人の「ご様子」として「息子様に付き添われ元気にご入居される。」との記載がある。

(ハ)請求人は、本件被相続人が本件老人ホームに入所した後、本件被相続人に面会するために、入所から2か月後の平成22年8月17日までの間に少なくとも4回、同年中に少なくとも21回、本件老人ホームを訪れた。

ロ 本件被相続人のa社に対する貸付金の額は、同社の平成21年1月1日から同年12月31日までの事業年度末においては4XX,XXX,XXX円、本件被相続人が本件老人ホームに入所した平成22年6月18日においては4XX,XXX,XXX円であった。

ハ 本件被相続人と本件各会社との間において、本件被相続人の本件各会社に対する貸付金に係る金銭消費貸借契約書は作成されておらず、本件被相続人の本件各会社に対する貸付金の額は、専ら本件各会社の帳簿上の借入金の残高によって管理されていた。

ニ 本件各仕訳の「貸方」の「補助科目」欄に記載された法人等について

(イ)本件仕訳2にあるg社は、平成22年○月○日、T地方裁判所による破産手続開始の決定を受け、同年○月○日、破産手続廃止の決定が確定した。

(ロ)a社は、平成16年以降、本件仕訳5にある○○CC(正式には「○○カントリークラブ」)の年会費(年20,000円)を支払っていない。

(ハ)a社は、昭和63年10月21日にP12から8X,XXX,XXX円で購入した、本件仕訳6にある美術品に相当する仏像6体(以下「本件各仏像」という。)について、k社に鑑定評価を依頼したところ、同社は、平成25年12月27日付の鑑定評価書を作成し、本件各仏像は、美術品的価値がないとして、120,000円と評価した。

(ニ)本件仕訳8にあるP9は、本件調査担当職員に対し、P9やP9の経営する会社が、本件被相続人やその関係会社から金員を借りたことはあるものの、本件被相続人の生前に高い金利をつけて全て返済しており、本件相続の開始時点で借入金はない旨申述した。

(ホ)a社は、平成元年11月8日、P13が所有していた○市○町○−○及び同○−○の各土地を、農地法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》の許可を条件として、1X,XXX,XXX円で買い受ける旨の売買契約上の買主の権利を取得し、平成14年頃、P13の相続人で、本件仕訳9にあるP10に残代金1,000,000円を支払ったものの、農地法第5条の許可が得られなかったことから、本件仕訳9をするまで、帳簿上、「P10」を補助科目とする建設仮勘定として1X,XXX,XXX円を計上していた。なお、a社は、平成25年2月26日に、当該各土地について、平成元年11月8日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を了している。

(ヘ)a社は、平成4年12月29日、P11との間で、同人が所有していた○市○町○−○、同○−○、同○−○、同○−○、同○−○、同○−○、同○−○及び同○−○の各土地を、農地法第5条の許可を条件として買い受ける旨の条件付売買契約を締結したが、平成11年4月16日、両者の間で、上記売買契約の解除を確認するとともに、P11が、a社に対し、契約解除に伴う売買代金(預り金)の一部(2X,XXX,XXX円)の返還に代えて、上記各土地を代物弁済することに合意した。そして、a社は、平成16年6月11日、P11の相続人であるP14との間で、農地法第5条の許可がなされたときには、a社に対し平成11年4月16日付代物弁済を原因とする所有権移転仮登記に基づく本登記をすることなどにつき合意したものの、農地法第5条の許可が得られなかったことから、a社は、本件仕訳10をするまで、帳簿上、「P11」を補助科目とする建設仮勘定として2X,XXX,XXX円を計上していた。なお、a社は、平成25年2月26日に、当該各土地について、平成4年12月29日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を了している。

(ト)a社は、U不動産鑑定(代表:P15不動産鑑定士)に対し、上記(ホ)及び(ヘ)の各土地(以下、これらの各土地を併せて「本件V物件」という。)の鑑定評価を依頼したところ、U不動産鑑定は、平成25年12月20日付の不動産調査報告書を作成し、本件V物件を3,500,000円と評価した。

(3) 請求人の本件各仕訳等に関する申述等

イ 原処分庁に対する請求人の申述

請求人は、平成25年12月9日、原処分庁に対して、要旨次のとおり申述した(この項、下記ロ及びハの請求人の申述等では、請求人を「私」、本件被相続人を「父」という。)。
 なお、当該申述を記録した同日付の質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)には、請求人の申述は記録されているが、本件調査担当職員の請求人に対する質問は記録されていない。

(イ)私は、本件各会社の経営及び経理処理について、自由にできる立場にいたため、各取引(本件各仕訳)に係る帳簿記入ができ、この帳簿記入については、私の父が本件各会社に対して有していた貸付金を少なくし、父が亡くなった場合の相続税を少しでも減らすため、関与税理士に相談せず、私の独断で行ったものである。

(ロ)本件各仕訳に沿う取引は存在しなかったので、書類の作成もなく、父のa社への貸付金と相殺し、取引が存在したような操作をしてしまった。

ロ 異議審理庁に対する請求人の申述

請求人は、平成26年9月3日、同月9日及び同月18日、異議審理庁に対して、要旨次のとおり申述した。

(イ)父は、ずっとワンマン経営であり、本件各会社の金と父の金とが同じ財布にあるとの考えから、本件各会社の金を他人に貸し付けたり、本件各会社の金で美術品やゴルフ会員権を購入したりしていた。

(ロ)父と本件各会社との間で金銭消費貸借契約書は作られていないため、私は、父の本件各会社に対する貸付金の残高を、本件各会社の補助元帳で確認した。

(ハ)いずれ私が本件各会社の経営を引き継ぐに当たり、回収できないような債権や美術品などを何とか整理したいと思っており、これらを整理しなければならないと父と何度も話をした。父の本件各会社に対する多額の貸付金も、相続財産となってしまうから整理しなければならないと父と何度も話をした。父がやったことは父に精算してほしいと思っており、父からもお前の好きにしろと言ってもらった。しかし、父が本件各会社に対する貸付金を債権放棄する又は債権譲渡する旨を書面にして通知することはしなかった。なお、本件各会社の債権と父の貸付金を整理するという話は、父が平成22年6月18日に本件老人ホームに入所してからも、何度もしている。

(ニ)本件各仕訳をした目的について、上記イの(イ)の平成25年12月9日に申述した「帳簿記入については、私の父が本件各会社に対して有していた貸付金を少なくし、父が亡くなった場合の相続税を少しでも減らすため、関与税理士に相談せず、私の独断で行ったもの」という点は、異議申立てをした現在においても変わりはない。

ハ 当審判所に対する請求人の答述

請求人は、平成27年5月14日、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。

(イ)本件被相続人との協議一般について

A a社に価値のない不良資産が計上されたままであることや、父からの多額の借入金があることは前々から分かっていたため、かねてより、とりわけ決算の時期になると、これらをどうするのかという話題になったが、結局、父は何もしないままでいた。

B しかし、何もせぬまま、父の○○で分からなくなってしまったら困るので、父が本件老人ホームに入所した頃に、こうした事態を招いた父に責任を取ってもらうとの考えの下、a社の価値のない資産と父からの借入金とを「相殺」するという話を父にした。なお、資産と借入金を「相殺」するというのは、資産の帳簿価額を零円にして、借入金を資産の帳簿価額と同額だけ減額する処理をするという意味である。父からは「いいよ。」と返事があった。その際、本件各仕訳を記載した表を作り、全ての仕訳について父に説明した訳ではない。

C 父に個別に打診して拒否されるはずがないので、本件各仕訳のうち資産等を特定して協議をしていないものも処理をすることができると考えていた。

(ロ)本件各仕訳が行われた当時の請求人の本件各会社における立場等について

A 本件各仕訳を行った当時、本件各会社の経理処理等について自由にできる立場にあった。

B 父が本件老人ホームに入所する以前は、毎期の決算の資料に目を通すくらいで、本件各会社の経営にはほとんど関与していなかったが、父が本件老人ホームに入所した後は、本件各会社の経理処理等の必要な判断を行うようになった。ただ、入所後しばらくは、父が○○の時もあったので、必要に応じて父に相談をしながら判断をしていた。

(ハ)本件各仕訳の意図及び本件各仕訳に係る協議について

A 本件仕訳1について、f社に対する売掛金は未収家賃であり、5年位前から毎期の決算書類に載ったままであった。父とは、この売掛金と父からの借入金とを「相殺」するという話はしていない。

B 本件仕訳2について、g社の短期貸付金5X,XXX,XXX円は、父が個人的な関係で貸付けをして回収できなくなってしまったものである。父とは、この短期貸付金と父からの借入金とを「相殺」するという話をしている。

C 本件仕訳3について、P8への貸付金は、あげたものだろうと認識していたので、父とは、この貸付金と父からの借入金とを「相殺」するという話はしていない。

D 本件仕訳4について、h社に対する貸付金は、保証も取っておらず、父が催促もしていない、いい加減な貸付金である。父とは、この貸付金と父からの借入金とを「相殺」するという話はしていない。

E 本件仕訳5について、○○カントリークラブの会員権は、会費をずっと払っておらず、必要がないのであれば売ればよいのに、なぜ残しているのかと思っていた。本件仕訳5について父と話をしたかは、はっきりと覚えていない。

F 本件仕訳6について、本件各仏像は、父がだまされて買ったものであるから、父に引き取ってもらったという認識であった。本件各仏像については、父からの借入金と「相殺」するという話をしたと思う。

G 本件仕訳7について、a社の帳簿にはb社に対する未収入金が計上されていたが、b社には対応する未払金が計上されていなかった。この未収入金は、a社がb社の隣の土地を取得するに当たって支払った手数料であるが、a社とb社のいずれの経費であるのかも不明であり、そもそも、支払う必要があったのか分からないものであったので、仕訳を行った。b社に未払金が計上されていないことを以前から認識していたわけではないので、本件仕訳7について、父と協議していないと思う。

H 本件仕訳8について、P9は、父と昔から金銭の貸し借りをしていて、返してもらっていない金は、仕訳の額にとどまらないはずであるが、返してもらえそうもないので、仕訳を行った。父とは、P9への貸付金と父からの借入金とを「相殺」するという話をしたと思う。

I 本件仕訳9・10について、貸方の建設仮勘定は、バブルの時にマンション建設計画のために購入した土地であるが、計画は頓挫したので、損失を出して処理をしておけばよいのに、そのままにしていたので仕訳を行った。父とは、この建設仮勘定につき、父からの借入金と「相殺」するという話をした。

J 本件仕訳11について、売買契約に基づく手付金1,XXX,XXX円が、帳簿上受け取ったことになっていなかったので、父が持っていってしまったのだろうと思い、手付金の金額を父からの借入金残高から減少させる処理をした。本件仕訳11について、父と具体的に協議していない。

K 本件仕訳12について、開発費は、マンション建設のための開発行為等のために支払った金額を計上したものであるが、建設計画が頓挫したので損失として処理すべきであるのに、そのままにしていたので仕訳を行った。父とは、開発費と父からの借入金とを「相殺」するという話をした。

L 本件仕訳13について、古伊万里がなくなってしまっており、父がどこかに持っていってしまったのだろうと思った。父に尋ねても「知らねえ。」と言うだけだと思っていたため、確認はしていない。本件仕訳13について、父と具体的に協議していない。

M 本件仕訳14について、このような処理をしたのは、P6がe社の経営を引き継ぐ場合に、e社が欠損金や借入金を抱えたままでいるのはかわいそうだと思ったからであり、また、相続税を減らすために父の貸付金を減らしたいという意図もあった。本件仕訳14について、父と話はしていないし、事後的にも報告していない。

N 本件仕訳15について、d社が父からの借入金を負担していると、他の兄弟に継がせにくくなってしまうので、父からの借入金の負担をなくすためにこのような処理をした。本件仕訳15のような処理をすることについて、父と協議していないし、事後的にも報告していない。

(4) 当てはめ

イ 本件仕訳2・6・8・9・10・12について

(イ)請求人は、当審判所に対して、上記(3)のハの(イ)のBのとおり、本件被相続人が本件老人ホームに入所した頃、本件被相続人に対し、a社の価値のない資産と本件被相続人からの借入金とを「相殺」する話をした旨答述するとともに、同ハの(ハ)のB、F、H、T及びKのとおり、本件仕訳2・6・8・9・10・12(以下、これらを併せて「本件仕訳2等」という。)については、本件被相続人と協議をした旨答述している。
 そこで、それらの信用性を検討するに、以下のAないしFのことからすれば、本件相続税の納税義務者の答述であることを考慮しても、上記の請求人の答述には一応の信用性が認められることから、請求人と本件被相続人との間で請求人が答述するような協議があった可能性を十分に認めることができる。

A 上記(2)のロのとおり、本件被相続人が本件老人ホームに入所した頃、本件被相続人のa社に対する貸付金の額が4XX,XXX,XXX円を優に超えていたことからすると、請求人が、相続税の負担を軽くすべく、そのような多額の貸付金の額を少しでも減らしたいと考えることは、自然なことである。

B 1上記(2)のニの(イ)のとおり、本件仕訳2のg社は、平成22年○月までに破産手続の開始及び廃止の各決定を受けていること、1同ニの(ハ)のとおり、本件仕訳6の本件各仏像は、購入額の1%にも満たない120,000円と鑑定評価されていること、1同ニの(ニ)のとおり、本件仕訳8のP9が本件被相続人や本件被相続人の関係会社からの借入金は全て返済している旨申述していること、1同ニの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件仕訳9・10に係る本件V物件は、それを取得する旨の契約を締結してから農地法の許可を得ることができないまま長期間経過している上に、同ニの(ト)のとおり、本件V物件は、売買代金額を大幅に下回る3,500,000円と鑑定評価されていることからすると、本件仕訳2等の貸方に計上された各資産の大半は、請求人が本件被相続人と協議をしたとする平成22年6月頃において、ほとんど価値がないか、存否が明確でないか、あるいは価値が著しく低下しているかのいずれかであったことが認められる。この点を踏まえると、「相殺」を打診する背景として、請求人が上記各資産をa社にとって価値のない資産であると認識したという点は、不自然とはいえない。

C 他方で、請求人の親という立場にある本件被相続人が、請求人を含む相続人らに課される相続税の負担を軽減するため、自らのa社に対する多額の貸付金を減少させることについて応じることも、一般的には十分に考えられるところであり、両者の間に、協議し難い関係にあったことを窺わせるほどの事情は見当たらない。
 また、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件被相続人の本件老人ホームへの入所時の記録に「息子様に付き添われ元気にご入居される。」との記載があることなどから、本件被相続人の心身の状態は、協議に耐えられないものであったとまではいえず、さらに、同イの(ハ)のとおり、請求人は、入所後2か月の間に、本件被相続人に面会するために、本件老人ホームを少なくとも4回来訪していることから、本件被相続人が本件老人ホームに入所した頃に、請求人が本件被相続人と協議をする機会は十分にあったといえる。

D 請求人は、上記(3)のハの(ハ)のA、C、D、G、J、L、M及びNのとおり、当審判所に対し、本件仕訳1・3・4・7・11・13・14・15(以下、これらを併せて「本件仕訳1等」という。)について、本件被相続人と協議していない旨の自らに不利な事実を認める答述もしており、仕訳ごとに区別して答述している様子が窺える。

E 上記(3)のロの異議審理庁に対する請求人の申述の内容と同ハの当審判所に対する請求人の答述の内容を比べると、細部において異なるものの、主要な部分においては一致しており、請求人は、少なくとも異議審理庁所属の担当職員の調査の時からおおむね一貫した供述をしているものと認められる。
 なお、請求人は、上記(3)のイのとおり、原処分庁に対して、本件被相続人と本件各仕訳について協議をした旨の申述はしていないが、本件相続税の調査において、請求人が本件各仕訳に関して原処分庁に申述した内容を記録したものは本件質問応答記録書のみであり、また、本件調査担当職員が本件各会社による本件被相続人に対する返済の事実又は本件被相続人による免除等の意思及び事実に関して質問したか否かが不明であることからすれば、本件被相続人と本件各仕訳についての協議の有無に関し、請求人が供述を変遷させたとまではいい難い。

F 請求人と本件被相続人との間で請求人が答述するような協議があったことを証する書類等はないが、上記(2)のハのとおり、本件被相続人と本件各会社との間においても、本件被相続人の本件各会社に対する貸付金に係る金銭消費貸借契約書が作成されていないことや、親子間の協議であることをも考慮すると、財産の処分に関わるものであるとはいえ、書類等が作成されていないことが不自然とまではいえず、この点をして、答述の信用性が大きく損なわれるとはいい難い。

(ロ)そして、上記(イ)のとおり、請求人と本件被相続人との間で請求人が答述するような協議があった可能性を十分に認めることができることを前提にすると、本件仕訳2等は、a社が有する本件被相続人からの借入金の額を減少させるという本件被相続人の意思に基づき行われた可能性が十分に認められることになり、そうすると、本件仕訳2等を入力させた請求人の行為は、本件相続税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実(本件被相続人のa社に対する貸付金の額)を隠ぺいし、故意に脱漏し、あるいは故意にわい曲したものであるとまでは認めることができない。

ロ 本件仕訳1等及び本件仕訳5について

(イ)請求人は、上記(3)のハの(ハ)のA、C、D、G、J、L、M及びNのとおり、当審判所に対して、本件仕訳1等のような処理をすることについて本件被相続人と協議をしていない旨答述するところ、その請求人の答述に特に疑うべき事情はないことから、請求人は、本件仕訳1等のような処理をすることについて本件被相続人と具体的な協議をしなかったことが認められる。

(ロ)他方で、請求人は、上記(3)のハの(ハ)のEのとおり、本件仕訳5について本件被相続人と協議をしたか否かについては、はっきりと覚えていない旨答述している。その覚えていない旨の答述は、本件被相続人と本件各仕訳についての協議を実施したものとも明確に区別してなされている上(上記イの(イ)のD参照)、協議の存在自体に関する客観的な証拠書類等がない点は、本件仕訳5以外の各仕訳と同様である。
 ところで、請求人の上記(3)のハの(ハ)のEの答述内容からすると、請求人は、a社が、平成16年以降、○○カントリークラブの年会費(年20,000円)を支払っていないこと(上記(2)のニの(ロ))を認識した結果として、同クラブの会員権を不要なものと判断した点が、本件仕訳5の背景にあったといえるところ、請求人は、上記(3)のハの(ロ)のBのとおり、本件被相続人が本件老人ホームに入所する以前は、a社の経営にはほとんど関与しておらず、決算の資料に目を通す程度であった旨答述しており、この答述を前提にすれば、請求人において、本件被相続人が本件老人ホームに入所した頃に、上記年会費を支払っていなかったことを認識していたこと、更にいえば、上記認識に基づいて協議をしたというのはかなり疑問がある。一方で、本件被相続人が本件老人ホームに入所した頃とは別の時期に、本件仕訳5についてのみ別途協議をしたというのであれば、これを覚えていないということは考え難い。
 以上によれば、請求人は、本件仕訳5について、本件被相続人と協議をしなかったものと認めるのが相当である。

(ハ)そうすると、本件仕訳1等及び本件仕訳5は、本件各会社が有する本件被相続人からの借入金の額を減少させるという本件被相続人の意思に基づくことなく行われたものであって、実際には本件各会社の本件被相続人からの借入金の残高が減少していないにもかかわらず、本件各会社の本件被相続人からの借入金の帳簿上の残高を減少させたものと認められる。
 そして、請求人は、本件仕訳1等及び本件仕訳5のような処理をすることについて本件被相続人と協議をすることなく、上記1の(4)のロの(イ)、同ロの(ロ)のB及び同ロの(ハ)のCのとおり、本件仕訳1等及び本件仕訳5を入力させた当事者であるから、本件仕訳1等及び本件仕訳5が本件各会社の有する本件被相続人からの借入金の額を減少させるという本件被相続人の意思に基づくことなく行われたものであることについて当然に認識していたものと認められる。
 なお、請求人は、上記(3)のハの(イ)のCのとおり、本件被相続人に個別に打診して拒否されるはずがないので、本件各仕訳のうち資産等を特定して協議をしていないものも処理をすることができると考えていた旨答述するが、この答述は、請求人の認識をいうにとどまり、本件仕訳1等及び本件仕訳5が本件各会社の有する本件被相続人からの借入金の額を減少させるという本件被相続人の意思に基づくことなく行われたものであるとの認定を妨げるものではない。

(ニ)そして、上記(2)のハのとおり、本件被相続人の本件各会社に対する貸付金の額は、専ら本件各会社の本件被相続人からの借入金の帳簿上の残高によって把握することが可能であったことからすれば、本件仕訳1等及び本件仕訳5を入力させた請求人の行為は、本件相続税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実(本件被相続人の本件各会社に対する貸付金の額)を故意にわい曲したものであると認められる。

(5)原処分庁の主張について

原処分庁は、請求人が、本件調査担当職員に対し、「私の父(本件被相続人)が各会社(本件各会社)に対して有していた貸付金を少なくし、父が亡くなった場合の相続税を少しでも少なくするために関与税理士に相談せず、私の独断で行ったものです。」、「資料1のNO.1(本件仕訳1)ないしNO.15(本件仕訳15)までの取引は存在しませんでしたので、書類の作成もなく、父のa社への貸付金と相殺し、取引が存在したような操作をしてしまいました。」などと申述したことを根拠に、請求人は、相続税の負担を減少させる目的の下、本件各会社の帳簿において事実に基づかない本件各仕訳を行い、本件被相続人からの借入金の帳簿上の残高を減少させたものであり、そのような請求人の行為は、相続税を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたということに該当するから、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに該当する旨主張する(上記3の「原処分庁」欄の(2))。
 しかしながら、上記(3)のイのとおり、当該申述を記録した本件質問応答記録書には、本件調査担当職員の請求人に対する質問が記録されていないため、当該申述がどのような質問に対する申述であるかが不明で、その趣旨が必ずしも明確とはいえない。とりわけ、「私の父が本件各会社に対して有していた貸付金を少なくし、父が亡くなった場合の相続税を少しでも少なくするために関与税理士に相談せず、私の独断で行ったものです。」との申述については、請求人が相続税を過少に申告することを意図していた旨の申述をしたというよりも、納付すべき相続税額を減らすこと(節税)を意図していた旨の申述をしたとも理解できるのであって、そのような請求人の申述をもって、請求人が相続税を過少に申告することを意図していたとまで認めることはできない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

5 本件重加算税賦課決定処分について

上記4の(4)のロの(ニ)のとおり、本件仕訳1等及び本件仕訳5を入力させた請求人の行為は、本件相続税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したものと認められる一方で、同(4)のイの(ロ)のとおり、本件仕訳2等を入力させた請求人の行為は、本件相続税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したものとは認められず、また、本件修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、本件修正申告に係る過少申告加算税の額及び重加算税の額を、通則法第65条第1項及び第2項並びに同法第68条第1項の規定に基づき計算すると、それぞれ別紙の「取消額等計算書」の3の「加算税の額の計算」の「裁決後の額 B」欄のとおりの各金額となる。
 そうすると、本件重加算税賦課決定処分は、別紙の「取消額等計算書」の1の「加算税の額」欄のとおり、その一部を取り消すべきである。

6 その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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