(平成27年10月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、納税者J社(以下「本件滞納法人」という。)が、同社の子会社の株主総会において、募集株式発行の議案について議決権を行使したことにより、審査請求人(以下「請求人」という。)が当該子会社の株式の第三者割当てを受けたことは、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「その他第三者に利益を与える処分」に該当するとして、原処分庁が請求人に第二次納税義務の納付告知処分をしたことに対して、請求人が、当該第三者割当てによって請求人に利益は生じていないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 請求人及び関係法人の概要

(イ) 本件滞納法人は、○○の経営等を目的として、昭和29年1月○日にd市内で設立され、主に○○を営んできたが、平成19年12月30日の臨時株主総会において、K社(以下「本件子会社」という。)を設立して当該事業を承継させるとする新設分割計画を承認した。
 なお、請求人は、平成18年9月10日に本件滞納法人の取締役に、次いで平成21年1月19日に代表取締役に就任した。
 また、別表1のとおり、平成25年9月8日現在における本件滞納法人の発行済株式は、請求人がXX,XXX株(全株式のXX%)、請求人を代表者とするL社及びM社がそれぞれX,XXX株(同XX.X%)保有し、請求人及び本件滞納法人は、L社及びM社の発行済株式の全てを保有している。

(ロ) 本件子会社は、上記(イ)の新設分割計画に基づき、請求人を代表者として、平成20年2月○日に本件滞納法人から分割された法人であり、当該分割により、本件滞納法人の営む○○に関する資産○○○○円、負債○○○○円及び雇用契約その他権利の一部を承継し、資本金の額を○○○○円(発行済株式X,XXX株)として設立され、本件滞納法人は、当該分割により、本件子会社の発行済株式X,XXX株全てを所有することとなった。
 なお、本件子会社の発行可能株式総数は、XX,XXX株として登記されている。

ロ 本件子会社の株式の差押え等

原処分庁は、平成22年4月30日、本件滞納法人が納付すべき別表2の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、N税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
 その後、原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成22年6月8日付で本件滞納法人が所有する本件子会社の上記イの(ロ)の発行済株式X,XXX株を差し押さえ(以下、差し押さえた株式を「本件差押株式」という。)、本件滞納法人に対して、原則として公売する旨伝えた。
 本件滞納法人は、原処分庁に対して、平成22年9月29日付で「ご通知(K社の株式の○○について)」と題する文書を送付し、本件滞納法人が依頼した本件子会社の株式に係る評価書によると、本件差押株式の評価額は○○○○円となるが、○○○○円で請求人又は本件子会社が本件差押株式を買い取る旨申し出た。

ハ 本件差押株式の公売通告等

(イ) 原処分庁所属の徴収担当職員は、平成24年12月19日に本件滞納法人の事務所を訪れ、請求人を含む本件滞納法人の役員ら(以下「本件役員ら」という。)に対して、本件差押株式を公売する方針であり、株式の評価方法については現在検討中である旨説明した。
 これに対して、本件役員らは、本件差押株式が公売された場合、○○を経営する第三者の介入による混乱を招くおそれがあることから、公売ではなく、本件子会社が本件差押株式を買い取りたい旨、再度申し出たが、当該職員は、本件役員らに対して、原則として公売する方針である旨伝えた。

(ロ) 原処分庁所属の徴収担当職員は、平成25年8月12日に本件滞納法人の事務所を訪れ、本件役員らに対し、本件差押株式の公売について、原処分庁が外部の株式評価の専門家に依頼した本件差押株式の評価方法の概要、原処分庁が採用した時価純資産法及びディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」という。)による本件差押株式の総合評価並びにその評価額が○億円を超えるものとなった旨説明し、本件滞納法人の○○○○円による買取りの申出には応じられず、本件差押株式は公売する方針である旨伝えた。

ニ 本件子会社の第三者割当増資

(イ) 本件子会社は、平成25年9月8日の臨時株主総会において、新たにXX,XXX株(以下「本件新株式」といい、本件新株式発行後の総発行済株式XX,XXX株を「本件総株式」という。)の第三者割当増資をすることとし、その全部を1株○○○○円(計○○○○円)で請求人に割り当てる旨決議した(以下、当該決議を「本件決議」といい、また、請求人に対する第三者割当増資を「本件増資」という。)。
 なお、本件滞納法人は、本件決議において、本件子会社の全株式を所有する唯一の株主として議決権を行使した。

(ロ) 請求人は、本件増資に係る出資財産は、平成22年4月30日付金銭消費貸借契約に基づく請求人が本件子会社に対して有する債権のうちの○○○○円とし、平成25年9月10日に本件増資に伴う出資(株式引受の履行)を行った。

ホ 公売の中止及び第二次納税義務の納付告知処分

(イ) 原処分庁は、平成25年10月7日に本件差押株式の公売予告通知書を本件滞納法人に発送したが、本件滞納法人から、これに対する原処分庁への連絡等はなく、また、本件増資の連絡もなかったため、本件差押株式の公売手続を進め、同年12月5日に公売公告日を同月16日とした。
 その後、原処分庁は、本件増資の事実を把握したため、予定していた公売公告を中止した。

(ロ) 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成26年5月26日付で、請求人に対し、本件滞納法人の議決権行使により、請求人が本件増資に係る本件新株式を引き受けたことは国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条に規定するその他第三者に利益を与える処分に該当するとして、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、納付すべき限度の額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。

ヘ 不服申立て

請求人は、平成26年7月23日、本件告知処分に不服があるとして、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月10日付で棄却の異議決定をした。
 その後、請求人は、平成26年11月6日、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3)関係法令

関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

2 争点

本件告知処分に基づき納付すべき限度の額は、受けた利益の額の範囲内であるか否か(本件増資により請求人に受けた利益が存在するか否か。)。

3 主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件新株式の時価算定は適正であり、本件増資によって請求人が受けた利益の額は、本件新株式の価額○○○○円から対価の額○○○○円を控除した○○○○円となる。
 したがって、本件告知処分は、請求人が受けた利益の限度の額の範囲内であることから、適法である。
次のとおり、原処分庁の本件新株式の時価算定は適正でなく、本件新株式の時価は○○○○円である。
 したがって、本件増資を受けたことによって請求人が受けた利益の額は生じていないから、本件告知処分は、違法であり取り消されるべきである。
(1) 本件新株式の評価額の算定に当たり、DCF法を加味したことについて  (1) 本件新株式の評価額の算定に当たり、DCF法を加味したことについて
徴収法第39条に規定する「受けた利益」の額は財産が処分された時点における受益財産の客観的価値とされる。
 継続企業における支配株式の評価は、その企業がどの程度の収益を生みだす力があるのかを算定するのが妥当な考え方であり、いわゆる営業権を考慮しない時価純資産法による評価額とDCF法による評価額との単純平均値を本件差押株式の時価としたのは、各評価方法は相互に補完する関係にあり、株式評価実務における様々な不確定要素を加味したむしろ控え目な評価方法である。
 なお、株式の時価総額(株主価値)は、本件新株式の発行がなされたか否かによって変化するものでなく、当該評価額には合理性がある。
請求人は、本件新株式の引受けに際しては、一般的に税務上の時価評価の基準とされている相続税評価により「受けた利益の額」があるか否かを算定していた。
 原処分庁は、本件子会社については、中小零細企業において一般に用いられる相続税の評価を準用せず、財産評価基本通達では取引相場のない株式の評価方法としていないDCF法を用いたが、DCF法は、将来予測の算定結果に不確実性を伴うことは避けられないのであるから、強制力を有する課税処分において用いることは相当性を欠くものである。
 原処分庁の本件新株式の評価額は、一般の取引価額から著しく乖離しているといわざるを得ないものであるから、その評価方法に合理性、相当性はない。
(2) 事業計画によらないDCF法による算定について (2) 事業計画によらないDCF法による算定について
本件差押株式の評価過程において、原処分庁は、本件滞納法人を通じて本件子会社の残高試算表などの提出を依頼したものの、税務署に対して提出すべき書類ではないことを理由に協力を得ることができなかった。
 このように、本件滞納法人から全面的な協力が得られない状況下においては、本件差押株式の客観的価値を算定するための毎期のフリー・キャッシュ・フロー(以下「FCF」という。)について、予測数値を本件子会社の事業計画によらず、貸借対照表及び損益計算書などの客観的な過去の数値を基にして算出したことには合理性がある。
DCF法によりFCFを基礎として株式価値を算定する場合、評価対象者の事業計画に基づき予想することが原則であり、例外的に事業計画に基づくことなくFCFを予想することが認められるのは、事業計画に基づかない評価がなされてもやむを得ない事情がある場合に限られる。
 本件子会社は、原処分庁から事業計画を提出する機会を与えられず、将来の収益見込み等について説明する機会も得られないまま、株式について時価評価を受けることになったものであり、原処分庁が算定した評価額は、上記の原則に反して作成されたものであり、評価における適正手続に欠けていたものである。

4 判断

(1) 法令解釈

徴収法第39条は、滞納者である本来の納税義務者が、その国税の法定納期限の1年前の日以後にその財産について無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下、併せて「無償譲渡等の処分」という。)を行ったために、本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められるときは、無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対し、無償譲渡等の処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者が無償譲渡等の処分の時にその滞納者の親族やその他の特殊関係者(以下、併せて「特殊関係者等」という。)であるときは、無償譲渡等の処分により受けた利益の限度)において、本来の納税義務者の滞納に係る国税の第二次納税義務を課している。

したがって、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分があった場合であっても、当該処分により権利を取得し、又は義務を免れた特殊関係者等に受けた利益がない場合には、第二次納税義務に基づき納付すべき限度の額は生じないのであるから、第二次納税義務の納付告知処分は違法であると解される。また、第二次納税義務の納付告知処分により納付すべきとされた限度の額が、受けた利益の額を上回る場合には、当該納付告知処分により納付すべきとされた限度の額のうち、当該上回る額に相当する部分について取り消されるべきである。

(2) 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 原処分庁は、平成25年6月、徴収法(平成26年法律第10号による改正前のもの。)第98条《見積価額の決定》に基づき、本件差押株式の公売における見積価額を算定するため、公認会計士を代表者として企業価値評価業務を営む法人(以下「本件鑑定人」という。)に本件差押株式の鑑定を依頼した。

また、原処分庁は、本件差押株式の評価額を算定するための資料として、平成25年7月までに、本件子会社の定款、法人税の確定申告書、同申告書に添付された損益計算書、貸借対照表、勘定科目内訳書及び法人事業概況説明書並びに固定資産課税台帳兼名寄帳等を把握していたが、より精緻な算定をするため、本件子会社の会社案内、関係会社一覧、事業別・店舗別の損益計算書及び貸借対照表、事業計画、直近の試算表、減価償却資産台帳、土地賃貸借契約書並びに貸付金の契約書等の提出を求めることとし、平成25年7月2日に本件滞納法人を通じ、本件子会社の上記の書類等について提出を依頼した。

しかしながら、本件滞納法人から、「本件子会社の会社案内などは作成しておらず、残高試算表はあるが、税務署への提出書類ではないので提出できない。」旨の回答があり、本件滞納法人から、上記の書類等の提出はなかった。

ロ 原処分庁は、本件鑑定人から、本件差押株式の時価を鑑定した平成25年7月18日付「K社の株式価値算定書」と題する鑑定に係る書類を受領した(以下、当該書類を「本件鑑定書」という。)。

なお、本件鑑定書の要旨は、別紙2のとおりであり、本件鑑定人は、DCF法と時価純資産法を併用する方法により、本件差押株式の株式価値評価額の基準値を○○○○円と算定したが、評価基準日と株式売買予定日との差を考慮して基準値の上下10%の誤差の範囲を設けると鑑定した。

ハ 原処分庁は、本件告知処分における納付すべき限度の額の算定に当たって、本件鑑定書によって算定された本件差押株式の株式価値評価額の基準値○○○○円を基に、別表3のとおり、請求人の受けた利益の額を○○○○円と算定して、本件告知処分を行った。

ニ 原処分時における本件滞納法人の資産からすると、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる。

(3) 争点について

イ 取引相場のない非上場株式の評価方法について

(イ) 取引相場のない非上場株式の評価の基準については、財産評価基本通達があるが、財産評価基本通達は、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを定めたものであるところ、第二次納税義務の限度額を算定するための財産の評価に関して、徴収法の規定上、財産評価基本通達を適用又は準用すべきとした規定はないことから、財産評価基本通達に従って算定しなければならないものではない。

(ロ) このほか、取引相場のない非上場株式の評価を対象とした基準等としては、日本公認会計士協会が作成した「企業価値評価ガイドライン(平成19年5月16日作成。平成25年7月3日改正。)」(以下「本件ガイドライン」という。)がある。

本件ガイドラインは、公認会計士に対して法的拘束力を持つものではないものの、近年のM&Aなど株式評価業務の増加に対応して、日本公認会計士協会が我が国における取引相場のない非上場株式の評価基準及びマニュアルとなり得るものとして、株式の価値を評価する場合の実施及び報告について取りまとめて作成したものであることから、本件差押株式の評価においても、十分参考となる指針であると認められる。

(ハ) 本件ガイドラインによれば、評価アプローチ体系には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ及びネットアセット・アプローチがあり、具体的評価法には、時価純資産法、類似取引法、配当還元法及びDCF法などがあるとしている。

時価純資産法は、ネットアセット・アプローチの手法であり、貸借対照表の時価評価額を基準に価値を評価する会社の清算を前提とするような場合に相応しい評価方法として、また、DCF法は、インカム・アプローチの代表的手法であり、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法であるとされている。

また、本件ガイドラインにおいては、企業価値等形成要因は評価対象会社によって様々であり、評価法にはそれぞれ長所、短所があることから、価値形成要因が単純である場合は、単独法が採用されるが、そうでない場合は、複数の評価方法の採用、併用又は折衷法のいずれかで総合評価すべきとしている。

これらの評価方法は、実務上、企業の株式評価に広く活用され、さらに判例でも採用されている現状にあり、株式評価の方法として広く認められたものといえる。

(ニ) 原処分庁は、本件鑑定書における本件差押株式の評価において、財産評価基本通達によらず、DCF法などの評価方法を選択しているところ、上記(ハ)のとおり、これらの評価方法は株式評価の方法として広く認められたものであることから、これらの評価方法を選択していることをもって、不合理な点があるとは認められない。

ロ 本件総株式の評価額について

(イ) 原処分庁は、本件差押株式を公売する目的で本件鑑定人に対して本件差押株式の時価の鑑定(時価評価)を依頼したところ、本件告知処分を行うに当たり、改めて本件子会社の株式の時価の鑑定を依頼することなく、本件鑑定書によって算定された本件差押株式の株式価値評価額を基礎として、第二次納税義務の限度額を算定した。

そもそも、本件鑑定書は、本件差押株式を公売する目的で作成されたものではあるが、本件告知処分における請求人の受けた利益の額は、請求人が交付を受けた本件子会社の株式の時価評価、すなわち、本件子会社の総株式の時価評価を前提にしているものであり、本件差押株式の時価評価も本件子会社の総株式の時価評価を前提としていることに変わりはない。

そうすると、原処分庁が、本件差押株式の時価評価に基づく本件鑑定書をもって、本件告知処分における納付すべき限度の額の算定の基礎としたことに不合理な点は認められない。

(ロ) なお、本件鑑定書は、平成25年6月30日現在の本件差押株式を評価したものであり、本件新株式の引受けが行われた同年9月10日時点の評価をしたものではないが、本件新株式の引受けが行われた時点において、本件鑑定書による評価に影響を与えるような事実は特段確認又は予想されていないことから、本件鑑定書の株式価値評価額の基準値に基づき本件総株式の評価を行ったとしても、特に不合理であるとは認められない。

また、本件鑑定人は、別紙2の6から8のとおり、本件鑑定書の本件差押株式の評価において、まず、継続企業としての価値の評価として相応しい評価方法であるDCF法による評価額を算定し、次いで、会社の清算を前提とするような場合に相応しい評価方法である時価純資産法による評価額を算定し、最後に、上記二つの評価方法の平均値をもって、最終的な評価額としているところ、本件鑑定書は、単独法だけではなく、複数法の採用、併用又は折衷法のいずれかで総合評価すべきとした本件ガイドラインに照らして不合理であるとはいえない。

(ハ) 次に、本件鑑定書の算定過程についてみると、DCF法による算定の要旨については、別紙2の6のとおりである。DCF法は、継続企業としての価値を評価するものであり、将来の事業計画によることが望ましいことはいうまでもないが、本件鑑定人は、本件鑑定書におけるDCF法による算定過程において、本件子会社の将来の事業計画の数値によらず、2012年12月期など過去の決算書等の数値を使用して将来の営業利益等を見積もり、算定している。

しかしながら、これは、原処分庁が、上記(2)のイのとおり、本件子会社の事業計画等の資料を入手できなかったためであり、また、継続企業の評価時点において大きな状況の変化がない場合、将来においても現状の損益を維持するものとして算定したとしても、一概に不合理であるとはいえない。特に、本件子会社は、○○という業種の特性があることから、例えば、店舗の新設又は閉鎖、近隣にライバル店舗が出店するなど、評価に大きな影響を与えるような事実が認められない状況下においては、過去の数値により将来の数値等を見積もって算定したとしても、不合理な数値を採用したとまでは認められない。

ただし、本件鑑定書は、別紙2の6の「6-2-1 FCFの算定」の「設備投資額」、「運転資本の増減額」及び「4調整項目」のとおり、「対象会社は今後も競争力を維持し同等の営業利益を稼得するために現状程度の機械入れ替えを行うものと推定し、設備投資額及び減価償却費、固定資産除売却損は2012年12月期と同等水準発生するもの」としていることから、運転資本の増減額については、2012年12月期の機械購入に伴う未払金の増加額を加味し、運転資本減少額○○○○百万円が2013年12月期(半期)から2017年12月期まで毎期発生するとの前提で調整項目○○○○百万円を算定したと認められるが、将来に渡り、毎期同等水準の設備投資額が発生するものと推定しているものの、当該設備投資に伴い同様に未払金が増加し、運転資本減少額○○○○百万円が毎期発生するとまではいえない。

そこで、この運転資本減少額○○○○百万円を除いてFCFの計算を行うと、別紙3の1「6-2-1 FCFの算定」の「審判所認定額」欄の「5FCF(34)」欄のとおりとなる。

なお、時価純資産法による算定の詳細については、別紙2の7のとおりであるところ、本件ガイドラインに照らしても、不合理な計算であるとは認められない。 

(ニ) 以上のとおり、原処分庁が本件鑑定書を用いて本件総株式の価値を評価したことについては不合理とはいえないものの、上記(ハ)のとおり、DCF法の調整項目の算定過程においては一部不合理な点が認められ、この点を踏まえて当審判所が計算した本件総株式の株式価値評価額の基準値は、別紙3の4「8 株式価値の算定」の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円であり、これを本件総株式の評価額とすることが相当である。

ハ 受けた利益の額について

上記ロの(ニ)のとおり、本件総株式の評価額は○○○○円であり、これを基に請求人の受けた利益の額を算定すると、別表4のとおり、請求人が本件増資により取得した本件新株式の評価額は○○○○円、当該金額から請求人が本件新株式の引受けに当たって出資した○○○○円を控除した金額○○○○円が、受けた利益の額となる(本件増資により、請求人に受けた利益は存在する。)。

ニ 請求人の主張について

(イ) 請求人は、原処分庁の本件新株式の評価において、中小零細企業において一般に用いられる相続税の評価を準用せずDCF法を用いているが、DCF法は、財産評価基本通達で取引相場のない株式の評価方法とはされておらず、また、将来予測の算定結果に不確実性を伴うことは避けられない評価法であることから、強制力を有する課税処分においてDCF法を用いることは、相当性を欠くものである旨主張する。

確かに、相続税法における財産評価基本通達の適用並びに所得税法及び法人税法における財産評価基本通達の準用の規定等はあるが、上記イの(イ)のとおり、差押財産等の評価について、徴収法の規定上、財産評価基本通達に従って算定しなければならない旨の規定はないのであるから、財産評価基本通達に基づかず差押財産等の評価を行ったことをもって、直ちに違法ということはできない。

また、上記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、DCF法は、継続企業における評価として代表的な算定方法とされているのであるから、原処分庁がDCF法及び時価純資産法を用いた算定方法に不合理な点も認められない。

したがって、請求人の主張には理由がない。

(ロ) また、請求人は、本件子会社は、原処分庁から事業計画を提出する機会を与えられず、将来の収益見込み等について説明する機会も得られないまま、本件差押株式について時価評価を受けることになったものであり、本件鑑定書は、事業計画に基づいてFCFを予想するという評価の原則に反して作成されたものであり、評価における適正手続に欠けていたものである旨主張する。

しかしながら、原処分庁は、本件滞納法人に対して、上記(2)のイのとおり、本件子会社の株式評価の算定のための資料の提出を求めたが、本件滞納法人からの提出はなかったことが認められる。

そうすると、原処分庁が、本件滞納法人の協力を得られない状況下で、既に把握していた資料を基に本件差押株式の評価を行ったことは、やむを得なかったものと認められ、この点について、適正手続に欠けていたとまでは認めることはできない。

したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件告知処分について

イ 無償譲渡等の処分があったか否か

請求人は、上記1の(2)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、本件滞納法人及び本件子会社の代表者であって、かつ、請求人を中心とする各グループ法人を通じて本件滞納法人の株式の70%を保有しており、本件滞納法人の支配的地位にあったと認められ、また、本件滞納法人は、別表1のとおり、本件増資前の本件子会社の唯一の株主であったことから、第三者割当てにより本件子会社の新株発行を行うかどうか、誰に対してどのような条件で新株発行を行うかを自由に決定できる地位にあったと認められる。そして、請求人及び本件滞納法人は、上記の支配的地位を利用して、本件滞納法人が有していた本件差押株式に表章された本件子会社の資産価値の大部分を請求人に移転させるべく、請求人に著しく有利な条件での本件増資を意図し、1本件滞納法人は本件決議に際し、その議決権を行使し、2本件子会社はその意図に従い本件決議をし、3請求人は本件増資に伴う新株の発行を全て引き受けた(以下、当該1から3の行為を併せて「本件一連の行為」という。)ものと認められることからすると、本件滞納法人は、本件一連の行為によって、本件滞納法人が有していた本件差押株式に表章された本件子会社の資産価値を請求人に移転させたものと認められる。

したがって、本件滞納法人は、請求人及び本件子会社と合意のもと、本件一連の行為によって、本件滞納法人が有していた本件子会社株式の資産価値が減少した結果、請求人に上記(3)のハのとおりの利益を与えたことになったのであるから、本件一連の行為は、徴収法第39条に規定する滞納者がその財産につき行ったその他第三者に利益を与える処分に当たると認められる。

ロ 徴収不足とその基因性

上記(2)のニのとおり、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められ、また、上記イの無償譲渡等の処分(その他第三者に利益を与える処分)によって、徴収すべき額に不足することになったものと認められる。

ハ 無償譲渡等の処分は法定納期限の1年前の日以後にされたものか否か

本件滞納国税の法定納期限は、平成22年3月1日であるところ、本件増資による新株式の引受けは、上記1の(2)のニの(ロ)のとおり平成25年9月10日に行われているから、本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われた処分である。

ニ 納付すべき限度の額

本件滞納法人は、上記1の(2)のイの(イ)のとおり、請求人を中心とする各グループ法人を判断の基礎とした同族会社と認められることから、請求人は、徴収法第39条及び国税徴収法施行令第13条第1項第5号に規定する滞納者の特殊関係者に該当すると認められる。したがって、本件告知処分により納付すべき限度の額は、受けた利益の額となる。

そして、上記(3)のハのとおり、請求人には本件増資による受けた利益が存在するものであり、本件告知処分による納付すべき限度の額は、○○○○円となる。

(5) まとめ

上記(4)のとおり、本件告知処分は、納付すべき限度の額を除き、徴収法第39条に規定される要件を全て充足していることから、請求人は、○○○○円を納付すべき限度の額として本件滞納国税の第二次納税義務を負うと認めるのが相当である。

したがって、原処分のうち、納付すべき限度の額につき、○○○○円を超える部分は取り消されるべきである。

(6) その他

原処分のその他の部分について、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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