(平成28年3月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人J、同M及び同L(以下、順に「請求人J」、「請求人M」及び「請求人L」といい、併せて「請求人ら」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて相続税の期限後申告をしたところ、原処分庁が、請求人J及び請求人Mに対し、当該期限後申告により納付すべき税額について重加算税の各賦課決定処分をするとともに、請求人Lに対し、相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第5項の規定の適用により、同条第1項に規定する税額軽減額がない旨の相続税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人J及び請求人Mが、上記重加算税の各賦課決定処分の一部の取消しを求め、請求人Lが、上記更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人J及び請求人Mが、課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったと認められるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

審査請求(平成27年8月7日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。
 なお、請求人らは、請求人Jを総代として選任し、審査請求日にその旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令

別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

次の事実については、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ N(以下「本件被相続人」という。)は、平成24年3月○日に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 本件相続の相続人は、配偶者である請求人L、子である請求人J及び請求人Mの3名である。

ロ 本件相続の相続財産総額は○○○○円であり、そのうちP証券d支店(以下「P証券」という。)扱いの公社債及び証券投資信託の受益証券(以下「本件金融資産」という。)が○○○○円分あった。
 請求人J及び請求人Mは、平成24年4月25日、P証券を訪れ、本件金融資産の全てを請求人Lに取得させる旨の名義書換手続を行った。

ハ 請求人Mは、平成24年4月頃、国税庁ホームページの相続税の計算方法等が説明されているページを印刷し(以下「本件印刷物」という。)、これを基に本件相続に係る相続税の額を試算したり、同年夏頃、K税務署を訪れて相続税の申告書用紙を入手したりした。

ニ 請求人らは、本件相続に係る相続税の法定申告期限である平成25年1月○日までに、相続税の申告書を提出しなかった。

ホ 原処分に係る調査の状況等

(イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下単に「調査担当職員」という。)は、平成26年9月25日、請求人Jに対し、本件相続に係る相続税の実地の調査につき、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項所定の事前通知をした上、同月26日、本件被相続人宅において、請求人J及び請求人Lに対する実地の調査を実施した(以下「本件実地調査」という。)。なお、請求人Mは、本件実地調査に立ち会っていない。

(ロ) 本件実地調査において、請求人Jは、調査担当職員からの求めに応じ、Q信用金庫e支店の本件被相続人名義の預金通帳を提示したが、調査担当職員からの、本件被相続人に証券会社との取引はなかったかとの問いに対しては、知らない旨答えた。

(ハ) また、調査担当職員が、請求人Jに対し、香典帳の提示を求めたところ、請求人Jは、一旦席を外した上、戻ると、調査担当職員に対し、香典者名及び香典額が記載されたメモ書きを提示したが、当該メモ書きは、一見して下半分が切り取られたものであった。
 調査担当職員は、請求人Jに対し、上記香典メモから切り取られた部分はどこにあるのかと質問したが、請求人Jは黙して答えなかった。

(ニ) その後、調査担当職員は、本件被相続人宅内の現況調査を行ったところ、同宅2階の居室において、上記香典メモから切り取られた部分を発見した。当該部分には「P証券 5,000」との記載があった。

(ホ) 請求人Jは、調査担当職員に対し、香典メモからP証券の記載がある下半分を破りとった上で提示したことを認めた(以下では、請求人Jが香典メモの下半分を破り取った上で調査担当職員に提示した行為を「本件香典メモ破棄行為」という。)。

ヘ 期限後申告
 請求人らは、平成27年1月5日、本件相続に係る相続財産について、代償分割の方法により、相続人各人の取得財産の価額がおおむね法定相続分どおりとなるよう遺産分割協議を成立させた上、別表の「申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税の期限後申告をした。
 当該期限後申告において、請求人Lについては、相続税法第19条の2第1項の規定を適用し、納付税額は○○○○円とされている。

ト 原処分

(イ) 原処分庁は、平成27年2月25日付で、請求人J及び請求人Mに対し、別表の「更正処分等」欄のとおり、上記ヘの期限後申告により納付すべき税額について、重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。本件各賦課決定処分に係る各通知書には、処分の理由として、次の各事実から、請求人J及び請求人Mは、法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告をしなければならないことを知りながら、相続財産の存在を隠ぺいし又は仮装して相続税の申告書を提出していなかったものと認められるため、通則法第68条第2項の規定に基づき重加算税を賦課する旨の記載がある。

A 請求人Jに対する通知書に記載された事実

(A) 請求人Jは、他の相続人と共同して、法定申告期限前に本件金融資産等について相続手続を行っていること。

(B) 請求人Jは、調査の際に、調査担当職員に対し、本件被相続人はQ信用金庫e支店としか金融機関の取引がない旨の事実と異なる申述をしていること。

(C) 請求人Jは、調査の際に、香典メモのP証券の記載がある部分を破り、P証券の記載がない部分が香典メモの全てであるとして調査担当職員に提示し、調査担当職員が当該破かれた部分を発見した際に、P証券との取引を知られたくなかった旨申述していること。

(D) 請求人Jは、請求人Mが平成24年4月7日に出力した本件印刷物を調査時まで保管していたこと。

(E) 請求人Jは、相続税の申告について請求人Mと話し合い、請求人Mから、本件被相続人の相続財産は約○○○○円で、税金は半分くらいになると聞いた旨申述していること。

B 請求人Mに対する通知書に記載された事実

(A) 請求人Mは、他の相続人と共同して、法定申告期限前に本件金融資産等について相続手続を行っていること。

(B) 請求人Mは、相続手続を行う際に、P証券から、税理士を紹介するので何かあれば相談してくださいとの話があった旨申述していること。

(C) 請求人Mは、相続開始の半年くらい前に、本件被相続人のP証券扱いの財産が約○○○○円あることを知った旨申述していること。

(D) 請求人Mは、被相続人の相続開始から10月以内に相続税の申告をしなければならないことを知っていた旨申述していること。

(E) 請求人Mは、相続開始後、国税庁のホームページで相続税がいくらになるか簡単に計算をした旨申述していること。

(F) 請求人Mは、本件印刷物を請求人Jに渡していること。

(G) 請求人Mは、請求人Jに対し、相続財産が約○○○○円で、税金は半分くらいになる旨の話をしたこと。

(H) 請求人Mは、平成24年夏頃、K税務署に行き、相続税の申告書用紙をもらった旨申述していること。

(I) 相続税の申告をしなかったことについて、税務署から問合わせがあってからしたらいいという気持ちがあり、申告しなければ税金を支払わなくてもいいという気持ちもあった旨申述していること。

(ロ) 原処分庁は、平成27年2月25日付で、請求人Lに対し、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件相続に係る相続税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。本件更正処分等に係る通知書には、処分の理由として、上記(イ)のA及びBの各事実からすると、本件相続に係る共同相続人である請求人J及び請求人Mは、法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告をしなければならないことを知りながら、申告をしないという確定的な意思の下に申告書を提出しなかったことが認められ、このことは、相続財産の存在を隠ぺいし又は仮装して相続税の申告書を提出していなかったものといえるから、相続税法第19条の2第6項に規定する「隠蔽仮装行為」に該当し、同条第5項の規定の適用により、同条第1項の規定による税額軽減額はない旨の記載がある。

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2 主張

原処分庁 請求人ら
(1) 納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、その課税標準等又は税額等の計算の基礎とされる事実の全部の隠ぺい又は仮装に当たり、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件が満たされるものと解される。
 また、相続税法第19条の2第5項に規定する「隠蔽仮装行為」は、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の行為と同じであると解される。
(1) 通則法第68条第2項は、隠ぺい又は仮装行為に「基づき」無申告になることを要件とするところ、原処分庁の同項の解釈は、この文言を超えている。さらに、原処分庁の解釈は、平成7年4月28日最高裁第2小法廷判決とは似て非なるものであり、同判決の「重加算税の賦課要件が満たされる」を「事実の全部が隠ぺい仮装に当たる」に置き換え独自の規範を定立している。なお、これは、同法第68条第2項括弧書及び平成12年7月3日付課資2−263ほか「相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第2に反する結果を招いている。
 このように、原処分は、法律にも最高裁判決にも基づいていないから、法の根拠なく行われた瑕疵ある原処分は、法律による行政の原理に反しており、取り消されるべきである。
(2) 以下の一連の経緯からすると、請求人J及び請求人Mは、本件相続に係る相続税の申告をしないことを意図した上、両者間でその旨の合意を成立させるという、不申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められる。
 すなわち、請求人J及び請求人Mは、本件金融資産を含む本件被相続人の遺産の内容及び本件相続に係る相続税の申告義務の存在を知しつしていたことは明らかである。
 そして、調査担当職員に対する、請求人Jの「相続税の申告については、請求人Mと話し合ったが、その後、なあなあになってしまった。」との申述及び「申告の必要があることは分かっていたが、ずるずると今まで来た。」との申述、請求人Mの「相続税の申告は、税務署から問合わせがあってからしたらいいかという気持ちがあったことと、申告をしなければ税金を払わなくていいという気持ちもあった。」との申述を総合すれば、両者の間では、法定申告期限までに、本件相続に係る相続税の申告をしない旨の合意が成立していたものというべきである。
 さらに、請求人Jは、調査担当職員に対し、本件被相続人がP証券と取引していたことを隠すため、取引金融機関に関する虚偽答弁、本件香典メモ破棄行為をするなど、相続財産を隠ぺいする態度、行動をできるだけ貫こうとしているのである。
 したがって、上記の不申告の意図に基づき法定申告期限内に申告書を提出しなかったのであるから、事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったことは明らかである。
(2) 仮に、上記最高裁判決を本件に当てはめるとしても、請求人J及び請求人Mは、法定申告期限前に原処分庁に赴き、名乗った上で申告書用紙セットを入手し、納税資金に充てるために公社債を解約しているから、期限内に申告する意思が確定的に認められるところ、同人らは、P証券の財産を除くと基礎控除以下だと認識していたのだから、同人らがP証券の財産を含めて申告するつもりだった(隠すつもりがなかった)ことは明らかである。
 そして、請求人Jは、「なあなあになってしまった」という申述はしておらず、他にも当事者が発言していないことや、言葉尻を捉えたものが申述証拠とされているなど(質問応答記録書には本人が申述していないことも申述したと記載されている。)、「申告をしない旨の合意」に関する具体的証拠は存在しない。
 そもそも重加算税の賦課は、当初から無申告の意図があったというだけでは足りず、単なる認識ある無申告は隠ぺい又は仮装に当たらないから、仮に原処分庁のいう「申告をしない旨の合意」があったとしても、重加算税の賦課要件は満たさない。
 さらに、調査担当職員の、本件被相続人の証券会社との取引の有無に関する質問に対する請求人Jの「知らない」旨の申述は、事前にその関係書類を準備するよう指示を受けていなかった同人が、P証券との取引を積極的に開示しなかったという経緯による。したがって、P証券との取引があることを知りながら、その関係書類を故意に準備する書類から除いて告げた調査担当職員に帰責事由があり、その不利益を請求人らに課すことは法の趣旨に反する。また、本件香典メモ破棄行為も「知らない」との答弁に辻褄を合せるために、とっさに破ってしまった行動であるし、請求人Jがその直後に正直に話していることからも、計画的・悪質なものではなく、これら一連の経緯は特段の行動と評価し得ない。
 本件は、請求人Mが、うっかり法定申告期限を過ぎたために税務署からのお尋ねを待っていたところ、公的機関に対応不慣れな請求人Jが、調査の冒頭「知らない」と述べたばかりに法の根拠なく処分されたというのが実情である。
 したがって、請求人らが、事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったと認定される余地はない。

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3 判断

(1) 理由提示及び理由の差し替えに違法がある旨の主張について

請求人らは、原処分は、理由提示の不備のために原処分庁の判断の慎重・合理性が担保されておらず、また、原処分の通知書に記載された処分の理由と本件審査請求手続において原処分庁が主張する処分の理由とを比較すると、事実の同一性を欠く理由の差し替えが行われていることから、これらの点に関し違法があるなどと主張する。
 しかしながら、原処分に係る通知書に記載された処分の理由は、上記1の(4)のトの(イ)及び(ロ)のとおりであるところ、かかる記載によって、原処分の判断過程が、行政庁の恣意抑制及び処分の名宛人の不服申立ての便宜という理由提示の趣旨を充足する程度に具体的に明示されているといえるから、原処分の理由提示に不備があるとはいうことができない。
 また、原処分に係る通知書に記載された処分の理由と本件審査請求における原処分庁の主張とを対比してみても、原処分庁が違法な理由の差し替えを行っているとは認められない。
 したがって、請求人らの上記主張は理由がない。

(2) 争点(請求人J及び請求人Mが、課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったと認められるか否か。)について

イ 通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに申告書を提出しなかったこと自体が隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、これとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて法定申告期限までに申告書を提出しなかったことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続税を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかった場合には、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったものと認めることができるものと解される。

ロ これを本件についてみると、上記1の(4)のロ及びハの事実によれば、請求人J及び請求人Mが、本件相続につき、相続財産及び相続税の申告義務の存在を十分認識しながら、あえて期限内申告をしなかったことは明らかである。
 ここで、原処分庁は、請求人J及び請求人Mの下記申述等を根拠に、請求人Jと請求人Mの間では、遅くとも法定申告期限までに、本件相続に係る相続税の申告をしない旨の合意が成立しており、両名は、かかる合意に基づき、法定申告期限までに申告書を提出しなかったものである旨主張し、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人Jは、本件実地調査に係る事前通知を受けた後、請求人Mに対し、どのように対応すればよいかと相談したところ、請求人Mは、調査担当職員からこれだけ申告するようにと言われたら、それに従えばよい、ただし、申告期限が過ぎているので、こちらからは積極的に財産を開示しない方がいいかもしれないなどと助言したこと、原処分に係る調査において、請求人Jは、調査担当職員に対し、本件相続に係る相続税の申告については、請求人Mと話し合ったが、その後、なあなあになってしまった、申告の必要があることは分かっていたが、ずるずると今まで来てしまった、本件被相続人がP証券との取引があったことを知られたくなかったので、本件香典メモ破棄行為に及んだ旨申述したこと、請求人Mは、調査担当職員に対し、本件相続に係る相続税の申告については、税務署から問合せがあってからすればよいという認識であった、申告をしなければ税金を払わなくていいという気持ちもあった旨申述したことが認められる。
 しかしながら、上記1の(4)の基礎事実に上記申述等を総合しても、請求人Jと請求人Mの間で、法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告をしない旨の意思の合致があったとまではにわかに認めることができず、他にこのことを認めるに足りる証拠もないから、原処分庁の上記主張は採用することができない。

ハ ところで、上記ロで認定した事実によれば、請求人Jと請求人Mの間では、事前通知を受けてから本件実地調査までの間に、調査に対し積極的には協力しない旨の漠然とした合意が形成されたことが認められる。また、上記1の(4)のホの(ロ)ないし(ホ)のとおり、請求人Jは、本件実地調査の際、本件被相続人がP証券との取引があった事実を秘匿するため、虚偽の答弁や、本件香典メモ破棄行為という明らかな証拠隠滅行為に及んだことなど、請求人J及び請求人Mの、相続財産を隠ぺいし、本件相続に係る相続税を無申告で済ませようとする意図をうかがわせる一定の事情が認められる。
 しかし、上記各事情は、いずれも、法定申告期限経過時から約1年8か月が経過した後の調査時点における言動等であって、その内容をみても、事前準備を要するような計画的なものではなく、とっさにとった行動とも評価し得るものである。また、請求人Jは、本件実地調査の中で直ちに上記証拠隠滅行為等を看破され、調査担当職員に対し、本件被相続人がP証券との取引があったことを隠すため当該行為に及んだ旨を自供しており、上記1の(4)のヘのとおり、請求人J及び請求人Mがその後遅滞なく期限後申告に応じていることも併せ考慮すると、相続財産を隠ぺいし、本件相続に係る相続税を無申告で済ませようとする態度、行動をできる限り貫こうとしたとまではいい難い。
 これらによれば、本件相続に係る相続税については、上記1の(4)のロのとおり相続財産総額が○○○○円余りと多額であり、その大部分を占める本件金融資産について調査時に上記のような証拠隠滅行為がされたことを考慮しても、請求人J及び請求人Mが、本件相続に係る相続税を申告しない意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったとまでは認めることができない。
 したがって、請求人J及び請求人Mが、本件相続に係る相続税につき、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったものとは認められない。

ニ そして、上記ロ及びハで述べたところは、相続税法第19条の2第5項に規定する「隠蔽仮装行為」の有無についても同様に当てはまるから、請求人Lの同条第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の適用はない。

ホ なお、請求人らは、本件各賦課決定処分について、原処分庁は、通則法第68条第2項の要件につき、同項の文言を超えた解釈によって独自の規範を定立するなど、法律の根拠に基づかずに課税をしており、法律による行政の原理に反しているなどと主張している。
 請求人らの上記主張の趣旨は必ずしも判然としないが、原処分の通知書に記載された処分の理由(上記1の(4)のトの(イ)及び(ロ))からも明らかなとおり、原処分庁は、請求人J及び請求人Mによる相続財産の隠ぺいをうかがわせる複数の間接事実を具体的に認定した上、これを通則法第68条第2項の要件に当てはめて、同項の規定に基づき本件各賦課決定処分をしたことが明らかであり、同項の文言を超えた独自の解釈に立脚しているといった事情は何らうかがえない。したがって、本件各賦課決定処分が法律の根拠に基づかない課税処分であるとか、法律による行政の原理に反しているなどということはできず、請求人らの上記主張は失当である。

(3) 原処分について

イ 本件各賦課決定処分について
 上記(2)のハのとおり、請求人J及び請求人Mが、本件相続に係る相続税につき、課税要件事実の隠ぺい、仮装に基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったものとは認められない。
 もっとも、請求人J及び請求人Mが法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各賦課決定処分は、別紙2−1及び別紙2−2のとおり、無申告加算税相当額を超える部分の金額について違法であり、当該部分を取り消すべきである。

ロ 本件更正処分等について
 上記(2)のニのとおり、請求人Lの本件相続に係る相続税の期限後申告における相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の適用はないから、本件更正処分等は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(4) その他

原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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