(平成28年2月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が出資したとする任意組合が支出し、請求人が当該任意組合の事業の運用損益の計算において費用として計上した雑費が架空のものと認められるなどとして、請求人の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、そのうち重加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、重加算税の計算の基礎となるべき税額の計算に誤りがあるか否かである。

(2)審査請求に至る経緯

審査請求(平成27年2月20日)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 以下では、請求人の平成18年7月1日から平成19年6月30日まで、平成19年7月1日から平成20年6月30日まで、平成20年7月1日から平成21年6月30日まで、平成21年7月1日から平成22年6月30日まで、平成22年7月1日から平成23年6月30日まで及び平成23年7月1日から平成24年6月30日までの各事業年度を、順次「平成19年6月期」、「平成20年6月期」、「平成21年6月期」、「平成22年6月期」、「平成23年6月期」及び「平成24年6月期」といい、当該各事業年度の法人税の各更正処分を「本件各更正処分」といい、このうち平成23年6月期の法人税の更正処分を「本件平成23年6月期更正処分」といい、平成23年6月期の法人税に係る重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。

(3)関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 通則法第65条第2項は、同条第1項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、過少申告加算税の額は、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
 通則法第65条第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。

ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

ハ 国税通則法施行令(以下「施行令」という。)第28条《重加算税を課さない部分の税額の計算》第1項は、通則法第68条第1項に規定する隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額は、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額のうち当該事実のみに基づいて更正があったものとした場合におけるその更正に基づき納付すべき税額とする旨規定している。

(4)基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、昭和○年○月○日に設立された、医療器具のリース及び販売、不動産の売買、賃貸借等を事業目的とする法人であり、Eの生前は、同人が代表取締役を務め、株主は同人及び同人の妻であるFのみであった。

ロ Eは、医師であり、同じく医師であるGと共に、昭和○年頃から、d市e町○−○所在のf病院を経営していた。
 Fは、f病院に薬剤師として勤務していた。

ハ 請求人、E、F及びGは、昭和62年5月15日、外国における不動産の売買、賃貸借等の事業を共同で営むことを目的とする任意組合契約(以下「本件組合契約」という。)を締結し、任意組合を組成した(以下、当該任意組合を「本件組合」という。)。請求人、E、F及びGは、本件組合契約において、Eを本件組合の代表者と定めた。
 本件組合は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)g州h市所在の別表2−1の順号1ないし18の不動産(以下「本件米国不動産」という。)を賃貸する事業(以下「本件事業」という。)を営んでいた。

二 Eは、平成○年○月○日に死亡した。
 これに伴い、EとFの長男であるH及び二男であるJが新たに本件組合の組合員となるとともに、請求人、F、H、J及びGは、合意により、Fを本件組合の代表者と定めた。また、Eが有していた請求人の株式は、H及びJが取得した。

ホ 本件組合は、米国の有資格の不動産仲介業者であるKに対し、本件米国不動産の賃貸管理業務を有償で委託していた。

ヘ Gは、K作成に係る、本件事業の収入及び支出を記載した「Monthly Report」と題する書面を、Eの生前はEから、Eの死後はHから受け取り、当該書面を基に、本件事業の損益の各組合員への分配を定めた「米国不動産損益分配表」と題する書面(以下「本件損益分配表」という。)を作成していた。
 本件損益分配表の「雑費」欄には、本件組合がL, Limited Liability Company(以下「本件LLC」という。なお、Limited Liability Companyは、有限責任会社の意である。)に本件米国不動産の管理を委託したことを前提に、その委託費として別表3のとおり支払ったとされる金額(以下「本件雑費」という。)が含まれている。
 請求人を含む本件組合の各組合員は、本件損益分配表を基に法人税(E、F、G、H及びJにあっては所得税)の確定申告をしていた。

ト 本件米国不動産の登記記録上、請求人の所有権登記はない。

チ M税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件雑費が架空のものと認められること及び本件事業に係る損益分配の割合(以下「本件分配割合」という。)に誤りがあること(具体的には、請求人は、確定申告において、本件分配割合を、別表2−1のとおり、各組合員の出資金額に応じて定めているが、当該出資金額は真実の出資金額とは認められず、別表2−2の本件米国不動産の登記名義等の割合に応じて定めるのが適当であること)を理由に、本件各更正処分を、本件雑費が架空のものと認められることを理由に、本件雑費の総額に本件事業全体の雑費合計額に占める各組合員の雑費計上額の割合(以下「本件雑費割合」という。)を乗じて各組合員に帰属する本件雑費の額を算出し、これを基礎に、本件賦課決定処分をした。

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2 主張

原処分庁 請求人
次のとおり、重加算税の計算の基礎となるべき税額は、適正に算出されており、計算に誤りはない。
 本件各更正処分においては、架空計上と認められた本件雑費を請求人の費用から減算し、また、本件事業の収入及び費用を、本件米国不動産の登記名義に基づく割合により分配して、請求人の所得金額を計算した。
 重加算税の対象となる本件雑費の計上については、その各組合員への分配基準が不明であったことから、本件雑費割合を分配基準とした。
 そして、本件賦課決定処分では、更正後の法人税額から仮装事由部分(本件雑費を本件雑費割合で分配した額)以外の事実のみに基づいて計算した税額を控除して重加算税の計算の基礎となるべき税額を算出した。
次のとおり、重加算税の計算の基礎となるべき税額の計算に誤りがある。
 本件各更正処分は、各組合員の本件事業の損益について、本件米国不動産の登記名義に基づく割合により計算する一方で、本件賦課決定処分は、各組合員の本件雑費について、本件組合契約の出資金額の割合により計算しており、その計算方法に一貫性がない。
 この点、民法第674条《組合員の損益分配の割合》第2項において、組合において利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは、その割合は利益及び損失に共通であるものと推定する旨規定されていることからも明らかなように、特段の理由がない限り、収益及び損失の分配基準は一致させるべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件LLCについて

(イ)本件LLCは、g州LLC法に準拠して設立されたものであるところ、同法によれば、LLCは、その経営を誰が行うかにより2種類に分類され、構成員が経営も行うMember-managed LLCと、構成員の過半数により選任された特定の経営者が経営を行うManager-managed LLCの形態が存在する。
 本件LLCは、上記のうち、構成員が経営も行うMember-managed LLCの形態であり、Eの生前はEが、Eの死後はF、H及びJが構成員であった(なお、当該事実は、当審判所が職権調査により収集した後記(ロ)及び(ハ)の各預金口座開設時の銀行関係書類(後記(ロ)の預金口座は、Eが署名を届け出て開設しており、(ハ)の預金口座は、F、H及びJが「Member-managed」との肩書で署名を届け出て開設している。)から認められる。)。

(ロ)本件LLCは、平成12年6月14日、x1銀行において、本件LLC名義の預金口座(以下「本件LLC口座1」という。)を開設した。

(ハ)本件LLCは、平成23年6月14日、x2銀行において、本件LLC名義の預金口座(以下「本件LLC口座2」という。)を開設した。

ロ 本件雑費の支払方法等について

(イ)Eは、本件組合の事業用口座として、x3銀行及びx2銀行において、E・K連名名義の預金口座(以下併せて「本件組合口座1」という。)を開設していた。
 Eの生前、本件雑費は、小切手により、本件組合口座1から本件LLC口座1に支払われていた。
 本件LLC口座1に入金された本件雑費のうちの7割程度が、小切手により、本件LLC口座1からx2銀行のE名義の預金口座(以下「E個人口座」という。)に送金されていた。
 E個人口座に入金された当該金員のうちの8割程度が、小切手により、E個人口座から本件組合口座1に支払われていた。

(ロ)Eの死亡により本件組合の代表者となったFは、平成22年10月21日、本件組合の事業用口座として、x2銀行において、F・K連名名義の預金口座(以下「本件組合口座2」という。)を開設した。
 Eの死後、本件雑費は、小切手により、本件組合口座2から本件LLC口座2に支払われていた。
 本件LLC口座2に入金された本件雑費は、その全額が、本件LLC口座2からx2銀行のF名義の預金口座に送金されていた。

ハ 本件事業に係る本件LLCからの役務提供の有無に関する資料等について

(イ)Hは、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件事業に係る本件LLCからの役務提供があったことを裏付ける資料であるとして、Nなる人物からEに宛てられた、本件米国不動産の一部の物件についての修繕前の状況と修繕後の状況を写真付きで報告した文書4通を提出した。
 当該文書には、当該修繕に本件LLCが関与したことを示す記載はない。

(ロ)上記(イ)を除き、請求人、F、H、J及びGから、本件事業に係る本件LLCからの役務提供に関する資料等は提出されていない。

(2)判断

イ 本件雑費の計上が事実の仮装と認められることについて

上記(1)のロのとおり、本件組合から本件LLCに支払われた本件雑費は、その大部分が、事後的に、Eの生前はE個人口座又は同口座を経て本件組合の下に還流され、Eの死後はEに替わり本件組合の代表者となったFの下に還流されており、また、同ハのとおり、本件事業に係る本件LLCからの具体的な役務提供がされていた事実を認めるに足りる証拠はない(なお、同ハの(イ)の文書は、本件LLCからの具体的な役務提供の事実を裏付けるものとは到底いえない。)ことに加え、同イのとおり、本件雑費の支払先である本件LLCは、本件組合とその主要な構成員を共通にしており、証拠上、本件組合ないしEらから離れて独立の存在意義は見出せず、むしろ、本件組合ないしEらと同一視することができることに照らせば、本件雑費は、実体を伴わない架空の経費であるものと認めるのが相当である。
 したがって、本件組合において本件雑費を計上した行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したものと認められる。

ロ 本件組合において本件雑費を計上した行為は請求人自身の行為と同視できることについて

仮に、本件組合において専らE(及びEから委託を受けたK)が業務の執行を担っていたものであるとしても、上記1の(4)のイないしニのとおり、Eは、その生前は請求人の代表取締役を務めていた上に、本件組合は、EのほかはEの家族及び請求人を含む関係者のみで組成された小規模閉鎖的な任意組合であって、各組合員の個性が重要視されるとともに、組合員相互の結び付きが強固であるから、本件組合において本件雑費を計上した行為は、請求人自身の行為と同視することができるというべきである。

ハ 重加算税の計算の基礎となるべき税額の計算に誤りがあるか否かについて

(イ)請求人は、上記1の(4)のチのとおり、原処分庁が、本件各更正処分においては、本件分配割合を本件米国不動産の登記名義割合に応じて定めたにもかかわらず、本件賦課決定処分においては、本件雑費の総額を各組合員の出資金額の割合に応じて各組合員に割り付けたことは、計算方法の一貫性を欠くなどと主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件組合の各組合員に帰属する本件雑費の額を、上記1の(4)のチのとおり算出したものであるところ、請求人は、本件雑費を含む本件組合の損益を本件雑費割合に応じて各組合員に分配した本件損益分配表に基づいて申告をしたのであるから、原処分庁が、架空経費たる本件雑費を各組合員に割り付けるに当たり、かかる割合をよりどころとしたこと自体は、何ら不合理ではなく、請求人の主張は採用することができない。

(ロ)ところで、通則法第68条第1項括弧書は、重加算税の課税標準となる「過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額」(以下「重加算税基礎税額」という。)は、更正に基づく増差税額全体から、その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して算出する旨規定し、同項の委任を受けた施行令第28条第1項は、通則法第68条第1項に規定する隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額は、増差税額全体のうち当該事実のみに基づいて更正があったものとした場合におけるその更正に基づき納付すべき税額とする旨規定している。
 上記各規定を本件に当てはめると、本件平成23年6月期更正処分の基礎となった事実のうち、本件分配割合に誤りがあったことについては、隠ぺい又は仮装は認められないから、当該事実は、上記各規定にいう隠ぺいし、又は仮装されていない事実に当たる。
 そうすると、上記各規定によれば、請求人に係る重加算税基礎税額は、1別表4−1の「更正処分により納付すべき法人税額」欄記載の本件平成23年6月期更正処分に基づく増差税額全体から、2別表4−2の「平成23年6月期」の「4隠ぺい・仮装されていない事実に基づく税額」欄記載の本件分配割合に誤りがあったことのみに基づいて更正があったものとした場合におけるその更正に基づき納付すべき税額を控除して計算するのが相当であるが、12は同額であることから、上記計算の結果、重加算税基礎税額は零円となる。
 したがって、本件平成23年6月期更正処分に基づく増差税額は、その全部が過少申告加算税の賦課対象となるというべきであり、このことを前提に、請求人の平成23年6月期の法人税に係る重加算税及び過少申告加算税の額を計算すると、別表4−1の「重加算税」及び「過少申告加算税」の「審判所認定額」の各「加算税の額」欄記載のとおりとなるから、本件賦課決定処分のうち、上記過少申告加算税の額を超える税額(同別表の「増減する加算税の合計額」欄記載のとおり)に係る部分は、違法である。
 なお、本件平成23年6月期更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。

(3)原処分について

以上によれば、本件賦課決定処分は、上記(2)のハの(ロ)で述べたとおり、その一部が違法であるから、当該部分を別紙のとおり取り消すべきである。

(4)その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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