(平成28年3月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成24年中に譲渡した土地の譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の特別控除を適用して所得税の確定申告をしたところ、D税務署長が当該特別控除は適用できないなどとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成24年分の所得税について、e市f町○−○所在の土地(住居表示は、e市f町○−△。以下「本件土地」という。)の譲渡につき、租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用して、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書をD税務署長に提出して、期限内申告をした。

ロ D税務署長は、これに対し、本件特例は適用できないなどとして、平成26年12月10日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成27年2月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月9日付でいずれも棄却する異議決定をし、異議決定書の謄本は、同月15日、請求人に送達された。

ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年5月11日に審査請求をした。

ホ なお、請求人は、平成27年8月6日に住所をg市h町○−○から肩書地へ移動したので、これに伴い、原処分庁はD税務署長からB税務署長となった。

(3)関係法令の要旨

措置法第35条第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋の譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合又は当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなったものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなったものとともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡を、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において同項又は所定の規定の適用を受けている場合を除き、譲渡所得の金額は、同金額から30,000,000円(当該資産の譲渡に係る譲渡所得の金額がこれに満たない場合には、その金額)を控除した金額とする旨規定している。

(4)基礎事実

次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人等について

(イ)請求人は、昭和60年7月31日にEと婚姻し、平成13年12月13日に離婚した。

(ロ)請求人とEは、平成17年11月、住民票上の住所を、1g市i町○−○から、同市h町○−△所在の建物(家屋番号:○番△。以下「本件借家」という。)が存する2g市h町○−○へと異動した。その後、請求人の住民票上の住所は、平成27年8月6日(上記(2)のホ参照)まで異動がない。

ロ 本件土地について

(イ)請求人は、昭和63年11月29日、遺贈によりe市f町○−×所在の土地(本件土地はその一部である。)を取得し、上記遺贈を原因とする所有権移転登記手続を経た後、平成17年11月10日に上記イの(ロ)の1の住所から同2の住所に移転した旨の住所変更に係る登記手続をした(平成19年3月13日受付)。

(ロ)請求人は、平成23年12月12日、Hとの間で、下記ハの家屋を請求人の負担と責任で取り壊す旨の特約を付した上で、本件土地を○○○○円で売却する旨の売買契約を締結し、同契約に基づき、平成24年1月12日に上記(イ)の土地を本件土地ほか一筆の土地に分筆した後、同年2月8日に本件土地を譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。

ハ 本件土地上の家屋について
 本件土地上には、e市f町○−○所在の家屋(家屋番号:○番○、種類:共同住宅、構造:木造瓦葺2階建。以下「本件家屋」という。)が存していた。
 本件家屋については、昭和34年12月4日、Fを所有者とする所有権保存登記がされ、請求人は、平成13年12月6日、同日の売買を原因とする所有権移転登記手続を経た後、上記ロの(イ)と同様の住所変更に係る登記手続をした(平成19年3月13日受付)。なお、本件家屋については、平成24年3月16日の取壊しを原因として同月29日に閉鎖登記がされている。

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2 争点

本件家屋は、措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」に該当するか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
請求人は、遅くとも平成17年11月頃から本件家屋に居住している。そして、1請求人は、本件家屋のリフォームを建築士に依頼しているところ、平成22年1月から2月にかけて、当該リフォームの図面作成の打合せのため、建築士が本件家屋を何度も訪問した際、請求人は常に在宅していたこと、2請求人は、平成22年2月3日にe市の○○を利用しているところ、○○は、原則としてe市内在住者を利用対象としていること、3請求人が提出した当該○○の個人利用申請書の住所欄に「e市f町○−△」と記載していること、以上のことから、本件家屋が、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠とされていたことは明らかである。
 また、原処分庁の主張(右記の(1)ないし(3))は、次のとおり理由がないから、本件家屋は請求人の「居住の用に供している家屋」に該当し、本件譲渡に係る譲渡所得について、本件特例を適用することができる。

(1)本件借家の所在地を住民票上の住所としていたのは、○○するためであり、合理的な理由がある。

(2)本件家屋は窓ガラスが割れていたりしたことはあるものの、それにより老朽化が著しいとまではいうことができず、実際には、十分居住可能な状態であった。

(3)請求人は、本件家屋において、クーラーや暖房器具を使わず、テレビをほとんど見ず、LED電球を利用し、カセットコンロを持ち込み、ウェットティッシュで体を拭き、飲み水を購入したり、公園の水道を利用したりして生活していた。
 また、本件家屋における電気、ガス及び水道の使用量について、顕著な増減はないが、これは請求人において生活費も極力抑えて生活しなければならなかったためであり、電気、ガス及び水道を使用しなかったとしても、それが本件家屋で居住していない根拠とならない。
 さらに、一般的には大変と思われる生活状況であっても、本件借家で元妻のEから責められながら暮らすより、本件家屋で暮らすことの方が、ずっと安らかで、暮らしやすかったのであり、本件家屋の電気、ガス及び水道の使用量が少なかったことは、請求人の「居住の用に供している家屋」に該当しない理由とならない。

次の(1)ないし(3)の事情等並びに請求人の居住の状況に関する本件家屋及び本件借家の近隣住民の申述内容等を総合勘案すれば、請求人の生活の本拠は、本件借家であって、本件家屋は、仮に使用していたとしてもその使用は一時的又は臨時的なものであったと認めるのが相当であり、本件家屋が、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠とされていたと認めることはできないから、本件家屋は、請求人の「居住の用に供している家屋」に該当せず、本件譲渡に係る譲渡所得について、本件特例を適用することはできない。

(1)請求人は、本件借家の所在地を平成17年11月以降住民票上の住所として登録しているところ、請求人が実際の住所ではないと主張する本件借家の所在地に住民登録をしたことについて合理的な理由が認められない。

(2)本件家屋は、老朽化が著しく、一般には継続して生活の本拠とすることは極めて難しいといわざるを得ない家屋であり、また、請求人は、水やカセットコンロを持ち込み、電気もほとんど使用することなく生活の本拠として使用していたとするが、請求人は、週に1、2回本件借家に寝泊まりしたり、風呂に入ったりしていた旨申述しており、本件借家の存在なくして、そのような生活を長期間継続することを前提として本件家屋に入居したとは認められない。

(3)本件家屋及び本件借家の平成20年から平成24年までの間における電気、ガス及び水道の使用量は、請求人が申述する本件家屋及び本件借家の使用状況にかかわらず、顕著な増減は認められず、また、本件家屋については、請求人によるガスの利用契約がなく、水道の利用契約についても、平成21年1月に解約されており、請求人は、本件家屋において、電気、ガス及び水道を使用したことがほとんどなかったと推認される。

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4 判断

(1)認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 電気、ガス及び水道の使用量

(イ)本件家屋

 平成20年1月から平成24年3月までの本件家屋の電気、ガス及び水道の使用量は、別表2の「本件家屋」欄のとおりであった。水道の使用については、J名義で契約されていたが、平成21年1月に契約が解除されており、ガスの使用については、上記期間において契約がなかった。
 なお、同期間の電気代はおおむね月1,100円台から1,600円台で推移しているところ、総務省統計局の家計調査結果によれば、平成20年から平成24年までの間の単身世帯の電気代の平均額は、月4,700円台から5,100円台で推移している。

(ロ)本件借家

 平成20年1月から平成24年3月までの本件借家の電気、ガス及び水道の使用量は、別表2の「本件借家」欄のとおりであった。

ロ 本件家屋及び本件借家の所在する地域の自治会への加入状況
 請求人は、本件家屋の所在する地域の自治会には加入していなかったが、本件借家の所在する地域の自治会には平成17年以降継続して加入していた。

ハ 本件家屋の近隣住民の申述
 本件家屋の近隣住民3名のD税務署長所属の調査担当職員に対する申述によれば、本件家屋は窓ガラスが割れたまま放置された状態であったと認められ、上記住民らは、その他の本件家屋の状態をも踏まえて、本件家屋を人が住める建物ではなかったと評している。

ニ 請求人の所得税の確定申告書に記載された住所
 請求人は、平成21年分ないし平成24年分の所得税の各確定申告書の「職業」欄に○○(平成23年分については不動産賃貸業)と、「屋号・雅号」欄に○○などと記載し、「住所」欄には住民票に記載された住所(本件借家の所在地の住所)を記載した。

ホ 本件借家の賃貸借契約書の入居者欄の記載
 本件借家の賃貸借契約は、賃借人をE、賃貸人をGとして平成17年10月30日に締結され、その後2年ごとに契約が更新され、更新ごとに賃貸借契約書が作成されているところ、各賃貸借契約書の入居者欄には、請求人及びEが記載されている。

ヘ e市の○○の利用資格
 e市の○○は、利用者登録をすれば市内在住者以外の者も利用することができる。

(2)法令解釈

本件特例は、個人が居住の用に供している家屋又は当該家屋とともにする敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡につき30,000,000円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることを考慮して設けられたものである。
 なお、不動産取引の実態等に鑑み、個人が、その居住の用に供している家屋を、その敷地の用に供されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊した上、当該土地のみの譲渡となった場合であっても、居住用の家屋をその敷地とともに譲渡した場合に準ずるものとして、措置法第35条第1項に規定する譲渡に該当するものと扱われている。
 また、本件特例について連年の適用を認めず3年に一度の適用を認めたにとどまることからすると、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の本拠としていたことを要するものと解するのが相当である。
 そうすると、措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」とは、譲渡者が、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいうものと解され、譲渡資産がこれに該当するか否かについては、当該譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋の入居目的、その家屋の構造及び設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である。

(3)当てはめ

イ 本件特例は、上記1の(3)のとおり、居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に居住用財産を譲渡した場合に適用されるため、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の本拠としていたことについては、上記1の(4)のハのとおり、本件家屋は平成24年3月に取り壊されていることから、平成21年から平成24年3月までの間の請求人の本件家屋に係る客観的な居住事実及び居住意思により総合的に判断すべきことになる。

ロ そこで検討するに、1一般に、都市生活における電気、ガス及び水道の利用状況は、利用されている場所での生活状況を反映するものといえるところ、本件家屋における平成20年1月から平成24年3月までのガス及び水道の使用実績はない上、その期間の全部又は大部分で利用契約すらしていない。また、電気の使用実績はあるものの、使用量は極めて少ない。他方で、本件借家における同時期のガス、水道及び電気については、一定の使用実績がある(以上につき、上記(1)のイの(イ)及び(ロ)並びに別表2)。これに対し、請求人は、公園の水道を利用するなどして本件家屋で生活していた旨主張するが、かかる主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はない。この点に加え、2請求人が、本件借家の所在する地域の自治会に加入する一方、本件家屋の所在地の自治会に加入していなかったこと(上記(1)のロ)や、3本件家屋の登記記録(上記1の(4)のハ)によれば、本件家屋は、平成21年の時点で既に半世紀を超える築年数の木造家屋であると認められるところ、本件家屋の窓ガラスは割れたまま放置されており、複数の近隣住民が、こうした実態等を前提に、人の住める建物ではなかったと評していること(上記(1)のハ)をも併せれば、請求人が平成21年から平成24年3月までの期間を通じて、本件家屋を生活の本拠としていたとは認め難い。

ハ また、1請求人は、平成17年11月から本件譲渡までの間、継続して本件借家の所在地を住所として住民登録をし、本件譲渡後も住民票上の住所を本件借家の所在地としている(上記1の(4)のイの(ロ))のみならず、2平成19年3月に、本件土地及び本件家屋の登記記録における住所も本件借家の所在地を住所とする住所変更の手続をしていること(上記1の(4)のロ及びハ)、3請求人は、継続して、所得税の確定申告書に住所として本件家屋の所在地ではなく本件借家の所在地を記載していること(上記(1)のニ)、4本件借家の賃貸借契約(その更新を含む。)に関して、請求人を入居者の一人としていること(上記(1)のホ)からすれば、請求人は、本件借家における居住の意思があったことが推認され、翻って、本件家屋について真に居住の意思を持っていたとは認め難い。

ニ これに対し、請求人は、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠とされていた根拠として、1本件家屋のリフォームを依頼し、平成22年1月から2月にかけて、リフォーム図面作成の打合せのため、建築士が本件家屋を何度も訪問したが、その際に請求人はいつも在宅していたこと、2平成22年2月3日にe市の○○を利用する際の個人利用申請書の住所欄に「e市f町○−△」と記載していることを挙げる。しかしながら、上記1の点は、用向きがある際は一時的に請求人が在宅していたことを示すにとどまる。また、上記2についてみても、上記(1)のへのとおり、○○の利用はe市の住民であることを条件にしておらず、e市の施設であるため、請求人自身の判断で、個人利用申請書に住所としてe市のものを記したと考えられるにすぎない。さらに、請求人の主張する住民票上の住所に係る事情(上記3の「請求人」欄の(1))は、本件借家の所在地に住民票上の住所を置いていた理由であって、本件借家とは別の本件家屋における居住の事実及び意思を積極的に推認させるものではない。

ホ 以上のとおりであるから、請求人が本件家屋を真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠にしていたとは認められず、上記ニのリフォームに係る業者ほか1名からの請求人宛の年賀状が本件家屋に郵送されたことなど、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果により認められる一切の事情を踏まえても、上記認定は覆らない。
 したがって、本件家屋は、措置法第35条第1項に規定する「居住の用に供している家屋」に該当しない。

(4)本件更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人は、本件特例を適用できないから、これを前提に分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次のとおりとなる。

イ 譲渡所得に係る総収入金額
 請求人は、本件譲渡に係る売買契約に基づき、固定資産税・都市計画税の精算金として○○○○円を受領していると認められる。
 そして、当該精算金は、実質的に本件土地の譲渡の対価であると認められ、譲渡所得に係る総収入金額に含まれるものと認められるから、請求人の平成24年分の譲渡所得の総収入金額は、売買代金○○○○円に当該精算金○○○○円を加算した○○○○円となる。

ロ 取得費
 本件土地の取得費の額については、上記イの譲渡所得に係る総収入金額○○○○円を基に、措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定により本件土地の取得費の額を計算した結果、○○○○円となる。

ハ 譲渡費用
 本件譲渡に係る譲渡費用の額は、仲介手数料○○○○円、建物解体費○○○○円、測量費○○○○円及び収入印紙代○○○○円の合計○○○○円となる。

ニ 小括
 以上により、請求人の平成24年分の分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の「分離長期譲渡所得の金額」及び「納付すべき税額」欄と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(5)本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(6)その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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