(平成28年3月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、損害保険代理業及び生命保険媒介業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の代表取締役Eに対して支払った業務委託契約に基づく報酬を損金の額に算入して法人税等の申告をしたところ、原処分庁が、同人は代表取締役に就任する前から法人税法上の役員に該当するため、当該報酬は損金の額に算入されない役員給与に該当するなどとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、代表取締役に就任する前のEは法人税法上の役員に該当しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の1平成22年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度(以下「平成23年3月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)、平成24年3月期及び平成25年3月期(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税、2平成24年4月1日から平成25年3月31日までの課税事業年度(以下「平成25年3月課税事業年度」という。)の復興特別法人税、3平成23年4月1日から平成24年3月31日まで及び平成24年4月1日から平成25年3月31日までの各課税期間(以下、それぞれ「平成24年3月課税期間」、「平成25年3月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)、並びに4平成22年7月から平成22年12月まで、平成23年1月から平成23年6月まで及び平成23年7月から平成23年12月までの各期間分(以下「本件各期間分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、審査請求(平成27年4月8日)に至る経緯は別表1から別表4までに各記載のとおりである。
 なお、異議決定書の謄本は、平成27年3月11日に請求人に送達された。
 また、平成24年3月課税期間の消費税等の修正申告に伴い平成26年10月20日付でされた過少申告加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令の要旨

 別紙4のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 請求人は、平成17年4月○日に設立された株式会社であり、損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務を行うことを目的とする法人税法第2条第10号に規定する同族会社である。

ロ 請求人は、平成19年3月期以後の各事業年度の法人税の申告書について、青色申告の承認を受け、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書により申告した。

ハ 請求人の代表取締役は、平成17年4月○日から平成20年11月30日までGが、平成20年12月1日から平成21年2月20日までHが、同日から平成21年9月11日までEが、同日から平成22年7月29日までJが、同日から平成24年4月25日までKがそれぞれ務め、同日以降は、Eが務めている。また、Eが請求人の取締役に就任していた期間は、上記の代表取締役就任期間と同じで、平成17年4月○日から平成19年2月28日まで監査役に就任していたほかは、本件各事業年度のその他の時期においては、請求人の会社法上の役員には就いていなかった。
 なお、請求人の商号及び目的等の変更に係る登記の状況は別表5記載のとおりである。

ニ Eは、平成22年4月1日において、請求人の発行済株式の53.8%(小数点第2位以下切捨て)を所有し、平成23年6月2日の増資により請求人の発行済株式の52.1%(小数点第2位以下切捨て)を所有することとなり、当該所有割合はその後平成24年3月31日まで同じであった。

ホ 請求人は、Eとの間で、委任型募集人業務委託契約を締結していたところ、請求人においては、同契約第19条(対価)の算定方法等(以下「報酬規定」という。)に基づき委任型募集人の報酬を計算しているが、平成23年3月期及び平成24年3月期におけるEに対する報酬について、報酬規定に基づく報酬の額(以下「本件支払報酬料規定額」という。)と実際に支払われた報酬の額(以下「本件支払報酬料」という。)には、別表6に記載のとおり差異がある。

ヘ 請求人は、本件支払報酬料を平成23年3月期及び平成24年3月期の損金の額にそれぞれ算入した。

ト 請求人が、委任型募集人業務委託契約を締結したE以外の各委任型募集人に対して、実際に支払った報酬の額と報酬規定に基づき計算された報酬の額は同額である。

チ 請求人は、平成26年3月24日、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、「委任型募集人業務委託契約に基づいて支払われた業務報酬に係る税務上の取扱いについて」と題する文書(以下「平成26年3月24日付文書」という。)を提示した。
 なお、平成26年3月24日付文書には、要旨次のとおり記載がある。

(イ) 請求人は、全国で31支店の出店費用その他相当の経費が必要となることから、Eが目指す300名体制にするため、それまではE自身の報酬は全額取らずに、資金繰りを優先してきた。

(ロ) Eは、自らが外交員として前職時同様のトップの営業成績を残すことで会社を引っ張り、優秀な営業マンを採用することなどのリクルート活動にまい進してきた。

リ 本件調査担当職員の上司である○○(以下「本件調査担当○○」という。)が、平成26年8月8日、請求人に調査結果の説明を実施したところ、請求人は、平成26年9月8日、本件各事業年度の法人税の各修正申告書を提出した。
 なお、当該各修正申告の内容は、別表7記載のとおりで、本件調査担当○○が説明した調査結果の内容のうち、K及びEがそれぞれ代表取締役に就任していた期間における同人らに対する各報酬について、損金の額に算入されない役員給与として所得金額に加算したほか、同人らの所得税の確定申告において請求人から支払われた報酬を事業所得として申告していたことから、同人らの上記期間に対応する必要経費(以下、それぞれ「Kの本件事業経費」及び「Eの本件事業経費」といい、これらを併せて「本件各事業経費」という。)の合計額を損金として所得金額から減算する内容が含まれていた。

ヌ 請求人が提出した本件各課税期間の消費税等の修正申告書並びに平成24年3月課税期間の更正の請求書の内容は、別表8記載のとおりである。
 なお、請求人は、平成24年3月課税期間については、本件支払報酬料のうち同課税期間分の6,610,300円は課税仕入れに係る支払対価の額に含まれないとして修正申告をしたが、その後、当該支払報酬料の額及びKの本件事業経費の額については課税仕入れに係る支払対価の額に含まれるとして更正の請求をしたものである。

ル 平成23年3月期及び平成24年3月期の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に係る各通知書(以下「本件法人税額等の各更正通知書」という。)に記載された処分の理由(以下「本件付記理由」という。)において本件支払報酬料が役員給与に当たり損金に算入されないとした理由は、別紙5記載のとおりである。

(5) 争点

イ 原処分に係る調査手続(以下「本件調査手続」という。)に、原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か。

ロ 本件付記理由に不備があったか否か。

ハ Eは、法人税法上の役員に該当するか否か。

ニ 本件各事業経費の中に、損金の額に算入される金額があるか否か。

ホ 本件各事業経費の中に、課税仕入れとなる金額があるか否か。

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2 主張

(1) 争点イ(本件調査手続に、原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か。)について

イ 請求人

原処分庁は、調査結果の内容の説明が納税者の権利利益の救済に資することを目的としている以上、納税者が理解できるよう要件事実を説明すべきであるのに、平成26年8月20日に行われた調査結果の内容の説明の際、1原処分庁がEを役員と認定する上で最も重要な課税要件事実としている「契約書の作成名義が代表Eとしていること」、2「人事権、資金繰り、株式の保有率等からEが法人税法上の役員に該当すること」の説明がなかった。
 また、調査結果の内容の説明の際、課税要件事実の話があれば、説明と反証が可能であったにもかかわらず、反論の機会を与えなかったことは、通則法第74条の11の趣旨からして違法であり、違法でなくとも不当である。

ロ 原処分庁

本件調査担当○○は、平成26年8月8日、請求人の代表取締役であるEに対し、通則法第74条の11第2項に規定する「更正決定等をすべきと認めた額」及び「更正決定等をすべきと認めた理由」を含む調査結果の内容を説明しているので、本件調査手続における調査結果の内容の説明は適法に行われており、同月20日の説明内容によって、違法又は不当となることはない。
 なお、調査結果の内容の説明を行う際、原処分に係る通知書に記載した全ての事項について説明をしなければならない旨を定めた法令の規定はない。

(2) 争点ロ(本件付記理由に不備があったか否か。)について

イ 請求人

本件法人税額等の各更正通知書に記載された本件付記理由において、原処分庁は、本件支払報酬料が役員給与に該当するとして所得税法第28条第1項に規定する給与等と認定しているが、本件支払報酬料が給与等に該当する具体的な理由が記載されていないので本件付記理由には不備がある。
 なお、理由付記の程度について、いかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないとする原処分庁の主張は、租税法律主義に反する。

ロ 原処分庁

本件付記理由には事実として、請求人が本件支払報酬料を損金の額に算入していること及びこれに対する法的評価として、1Eが法人税法上の役員に該当し、本件支払報酬料は、役員であるEに対して給与を支給したものと認められる旨、2本件支払報酬料は、法人税法第34条第1項第1号から第3号までに規定する役員給与のいずれにも該当しないことから、損金の額に算入されない旨が記載されており、本件付記理由には、いかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別できる程度に理由が表示されている。
 したがって、本件付記理由は、法人税法第130条第2項に規定する理由付記として不備はない。

(3) 争点ハ(Eは、法人税法上の役員に該当するか否か。)について

イ 原処分庁

(イ) Eは、代表取締役に再度就任する前である平成23年3月期及び平成24年3月期において、請求人の発行済株式の50%を超える株式を保有していたことから、第一順位の株主グループに属していた。

(ロ) Eは、1L社との間で締結された平成24年1月17日付の報酬計算等に係る業務委託契約書(以下「本件報酬計算等業務委託契約書」という。)に、代表取締役に再度就任する前に請求人の代表者として署名及び押印をしていること、2平成26年3月24日付文書に「Eは、M社を退職し、請求人を創業した。」旨記載があること、及び、平成26年3月24日に本件調査担当職員に対し「請求人の代表者になる前は、保険会社を辞めたばかりですぐ代理店の社長になれず、当初は母親のKを代表登記していたが、実際は、自分がいろいろ切り盛りをして、会社をやっていた。」旨申述していることから、請求人の設立当初から請求人の経営に携わっていること、3平成26年3月24日付文書に「Eは、優秀な営業マンを採用することなどのリクルート活動にまい進してきた。」旨記載があることから、請求人の人事に携わっていたこと、4請求人の資金計画に関わっていることから、請求人の創業時から請求人の事業運営上の重要事項に参画していたものと認められるので、Eは、代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法施行令第7条第2号に規定する「会社の経営に従事しているもの」に該当する。

(ハ) Eは、上記(イ)及び(ロ)から平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法第2条第15号に規定する「役員」に該当する。

ロ 請求人

(イ) Eは、請求人の株式を過半数所有していたが、議決権があるだけで必ずしも経営に参画しているとはいえない。

(ロ) 原処分庁は、Eが、代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法施行令第7条第2号に規定する「会社の経営に従事しているもの」に該当すると主張するが、1本件報酬計算等業務委託契約書は日付、署名、押印を誤って作成されたものであること、2人事採用の権限はEを含む全ての募集人にあり、Eに特別の権限が与えられていたわけではなかったこと、3資金繰りはKが指揮し、Eはその指揮の下で行っていたこと、4Eが、請求人の役員会議に参加して会社の経営方針・計画の立案や経営目的を考えることなど、経営に参画している事実はなかったのであるから誤りである。
 また、原処分庁は、Eが、法人税法上の役員に該当するか否かについて、当時の代表取締役であるKに対する質問検査を全く行わずに認定、判断をしており、証拠資料の収集が不十分のまま、誤った認定、判断を行ったものである。

(ハ) 上記(イ)及び(ロ)からすれば、Eは、平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法第2条第15号に規定する「役員」に該当しない。

(4) 争点ニ(本件各事業経費の中に、損金の額に算入される金額があるか否か。)について

イ 原処分庁

本件各事業経費のうち、Kの本件事業経費については、支払事実及び請求人の業務との関連性が明らかでなく、Eの本件事業経費については、請求人の業務との関連性が明らかでないので、いずれも法人税法第22条第3項に規定する「売上原価、販売費、一般管理費その他の費用」に該当しないから、本件各事業経費は、請求人の本件各事業年度の損金の額に算入されない。

ロ 請求人

K及びEが代表取締役に就任していた期間に支払われた報酬について、役員給与として処理した以上、両名の同期間に係る本件各事業経費は、法人税法第22条の規定により、請求人の本件各事業年度の損金の額に算入されるべきであるのは当然のことであり、事業関連性の問題を主張するのは失当である。
 また、Eが代表取締役に再度就任する前の期間に支払われた報酬について、役員給与と認定するのであれば、上記と同様に同期間のEの本件事業経費は平成23年3月期及び平成24年3月期の損金の額に算入されるべきである。
 なお、本件各事業経費に係る次の証拠資料を原処分庁等へ提出している。

(イ) Kの本件事業経費に関する領収書等は、白色申告であることから保管義務がないものと認識していたため、全て処分して存在しないが、支払事実を月ごとに集計した経費明細書を原処分庁に提出している。

(ロ) Eの本件事業経費に関する平成24年分及び平成25年分の総勘定元帳並びに領収書等を異議審理庁に提出している。

(5) 争点ホ(本件各事業経費の中に、課税仕入れとなる金額があるか否か。)について

イ 原処分庁

上記(4)イのとおり、本件各事業経費は、請求人の業務との関連性が明らかでないことから、請求人の事業経費として損金算入されず、本件各課税期間の課税仕入れとはならない。

ロ 請求人

上記(4)ロのとおり、本件各事業経費は、請求人の事業経費として損金算入されるべきであり、領収書等で支払事実が明確となっている支出については、課税仕入れとなる。

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3 判断

(1) 争点イ(本件調査手続に、原処分の取消事由となる違法又は不当があるか否か。)について

イ 通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられることからすれば、調査手続の瑕疵は、原則として課税処分の効力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。
 もっとも、通則法は、第24条《更正》の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるところ、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
 他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解するのが相当である。

ロ 請求人は、本件調査手続に係る通則法第74条の11第2項所定の調査結果の内容の説明について、違法又は不当がある旨主張する。
 しかし、本件においては、本件調査手続のうち証拠収集手続自体については違法がある旨の主張がされておらず、当審判所の調査の結果によっても、証拠収集手続に違法があるとは認められない。そうすると、本件調査手続について、調査結果の内容の説明に違法又は不当な点があったとしても、本件の証拠収集手続に影響を及ぼすものではないから、原処分の取消事由とはならない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点ロ(本件付記理由に不備があったか否か。)について

イ 法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであるから、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法人税法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁参照)。

ロ これを本件についてみると、本件法人税額等の各更正通知書には、上記1(4)ル(別紙5)のとおり、更正の理由として、1Eが法人税法第2条第15号及び法人税法施行令第7条第2号の規定により、請求人の役員に該当すること、2本件支払報酬料は、役員であるEに対して給与を支給したものと認められること、3本件支払報酬料は、法人税法第34条第1項第1号から第3号までに規定する役員給与のいずれにも該当しないことから、損金の額に算入されないこと、4請求人が損金の額に算入した本件支払報酬料の全額を所得金額に加算したことが記載されており、上記1については、その判断の基礎となった具体的事実関係が記載されていることが認められる。
 そうすると、本件付記理由は、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に記載されたものであるということができるから、本件付記理由に不備はないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点ハ(Eは、法人税法上の役員に該当するか否か。)について

イ 原処分庁は、上記2(3)イのとおり、平成23年3月期及び平成24年3月期において、Eが請求人の「経営に従事しているもの」に該当する旨主張するので、以下検討する。

(イ)原処分庁は、Eが請求人の人事や資金計画に関わっていたことについて、平成26年3月24日付文書の記載内容や、Eが平成26年3月24日に行った本件調査担当職員に対する「実際は、自分がいろいろ切り盛りをして、会社をやっていた。」旨の申述を根拠の一つに挙げている。しかしながら、これらの内容からはいつの時点においていかなる役割を担っていたのかが必ずしも明らかでないところ、これを具体的に裏付ける証拠資料の収集がされていない上、請求人は、この点について、Eが切り盛りしていたのは営業のことであり、また、資金繰りについても代表取締役に再度就任した後に関与したもので、それ以前は対外的な仕事にも資金繰りにも関わっていない旨主張しているが、この主張を排斥するだけの証拠資料も存しない。

(ロ) 原処分庁は、Eが請求人の代表取締役に再度就任する前の平成24年1月17日付である本件報酬計算等業務委託契約書に、請求人の代表取締役としてEが署名及び押印をしていることを、Eが平成23年3月期及び平成24年3月期において役員に該当することの根拠の一つとして主張しているが、この当時代表取締役でなかったEが代表取締役として署名、押印した書面があるからといって、代表者でないものが契約当事者となっているというにすぎず、その契約内容も重要な業務に係るものとはいえないことから、本件報酬計算等業務委託契約書をもってEが請求人の経営に従事していたことを裏付けるものとまでは認め難い。

(ハ) 原処分庁は、上記(イ)及び(ロ)のほかに、Eが平成23年3月期及び平成24年3月期において請求人の経営に従事していたかどうかについて、Kをはじめとする請求人の役員や従業員に対し、請求人が現在の商号へ変更した平成21年9月以後の請求人の経営状況及びEの請求人との関わりや職務内容の確認を行っておらず(少なくとも証拠資料からはうかがうことはできない。)、また、平成24年4月25日にEが代表取締役に再度就任する前に請求人において具体的にいかなる役割を果たしていたのか、代表取締役に再度就任する前と後とでその役割に違いがあるのかなどの本件における経営に従事していたとする具体的な事実関係が当審判所に提出された証拠資料上明らかではない。この点、Eは、平成24年4月25日に請求人の代表取締役に再度就任しているのみならず、それ以前の平成21年2月20日から同年9月11日までの間にも請求人の代表取締役を務めたことがあるほか、委任型募集人のうちEのみが報酬規定に基づき計算された報酬額どおりに報酬が支払われていなかったことは、上記1(4)ハ、ホ及びトのとおりである。これらの事実に加え、平成26年3月24日付文書に記載された内容(上記1(4)チ参照)をも踏まえると、Eが請求人において単なる一使用人にすぎなかったとは考え難いところであるが、Eが代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において経営に従事していたことを裏付ける事情が明らかになっていないものというほかない。

ロ 上記イ(イ)から(ハ)までのとおり、原処分庁の主張する事実をもって、Eが請求人の経営に従事していたとは認めるに足りず、また、当審判所の調査の結果によっても、原処分庁の主張する事実以外にこれを認めるに足りる証拠資料は存しない。

ハ 以上によれば、Eが平成23年3月期及び平成24年3月期において、請求人の「経営に従事しているもの」に該当すると認めるに足りないといわざるを得ないから、Eは法人税法上の役員に該当するとはいえない。

(4) 争点ニ(本件各事業経費の中に、損金の額に算入される金額があるか否か。)について

イ 法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とする旨規定している。当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。
 ところで、所得を構成する損金の額については、本来、原処分庁が主張、立証責任を負うべきものであるから、具体的な支出が損金の額に算入されるべきか否かが争われている場合には、原処分庁において、その主張額以上に損金が存在しないことを主張、立証すべきであるが、原処分庁は、損金の存否に関連する事実に直接関与していないのに対し、請求人はより証拠に近い立場にあること、一般に、不存在の立証は困難であることなどに鑑みると、更正処分時に存在し、又は提出された資料等を基に判断して、当該支出を損金の額に算入することができないことが事実上推認できる場合には、請求人において、この推認を破る程度の具体的な反証、すなわち、当該支出と業務との関連性を合理的に推認させるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該支出の損金への算入は否定されるというべきである。

ロ そこで検討するに、まずKの本件事業経費については、領収書等は全て処分して存在しないと請求人が主張するとおり、原処分庁及び当審判所に対してその支払事実を証明する領収書等は提出されていない。また、請求人が原処分庁に提出したKの「平成22年度経費明細書、平成23年度経費明細書」には、それぞれ4月から翌年3月までの月ごとに勘定科目ごとの金額が記載されているのみであり、当該記載内容からではその支払事実を確認することはできない。そうすると、請求人は、Kの本件事業経費と請求人の業務との関連性を合理的に推認させるに足りる具体的な立証をしたものとは認められない。

ハ 次に、請求人が異議審理庁に提出したEの本件事業経費に係る平成24年分及び平成25年分の総勘定元帳には、各取引別に取引年月日、相手科目、取引金額及び残高が記載されており、Eの本件事業経費に係る平成24年1月から平成25年12月までの領収書等には、宛名を「E(名字のみ)」、「E」又は「上」として取引年月日、取引金額及び支払先が記載され、ただし書として取引内容が記載されているが、上記の総勘定元帳及び領収書等の記載内容のみでは、Eの本件事業経費と請求人の業務との関連性を合理的に推認させるに足りない。そこで、異議審理庁及び当審判所は、それぞれ請求人に対し、請求人の業務との関連性に係る証拠資料の提出を求めたものの、請求人は、他にこれに当たる証拠資料を提出しなかった。そうすると、請求人は、Eの本件事業経費のうち、同人が請求人の代表取締役に再度就任した以後の期間について、Eの本件事業経費と請求人の業務との関連性を合理的に推認させるに足りる具体的な立証をしたものとは認められない。
 なお、Eが請求人の代表取締役に再度就任する前の期間は、上記(3)で説示したとおり、Eは法人税法上の役員に該当しないから、Eの本件事業経費を請求人の事業経費として損金の額に算入する余地はない。

ニ したがって、本件各事業経費は、請求人の事業経費として本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。

(5) 争点ホ(本件各事業経費の中に、課税仕入れとなる金額があるか否か。)について

 上記(4)のとおり、本件各事業経費は、請求人の事業経費として認められない以上、本件各事業経費の中に請求人の課税仕入れとなる金額があると認めることはできないというべきである。
したがって、請求人の主張には理由がない。

(6) 小括

イ 本件支払報酬料について

上記(3)のとおり、Eは、平成23年3月期及び平成24年3月期において請求人の法人税法上の役員に該当しない。そして、本件支払報酬料は、上記1(4)ホの委任型募集人業務委託契約から所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員の業務に関する報酬又は料金に該当すると認められる。
 したがって、本件支払報酬料は、役員給与に該当せず、法人税法第34条の規定の適用はないことから、本件支払報酬料は、請求人の損金の額に算入される。
 また、本件支払報酬料は、役員給与に該当せず、外交員の業務に関する報酬又は料金に該当するから、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに該当する。
 さらに、本件支払報酬料は、外交員の業務に関する報酬又は料金に該当することから、所得税法第183条第1項に規定する給与等としての源泉徴収は要しないこととなる。

ロ 本件各事業経費について

上記(4)及び(5)のとおり、本件各事業経費の中に、請求人の損金の額に算入される金額、また、課税仕入れとなる金額はない。

(7) 原処分の適法性について

イ 本件各事業年度の法人税の各更正処分の適法性について

(イ) 平成23年3月期

上記(6)イのとおり、役員給与の損金不算入額は、原処分庁主張額19,295,000円が損金の額に算入されるから零円となる。また、繰越欠損金の当期控除額を計算したところ、当期控除額の増加額は、3,783,734円となる。
 平成23年3月期の法人税の更正処分のうちそれ以外の部分については、原処分庁主張額と同額である。
 以上により、同期の課税所得金額及び納付すべき税額は別表9の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、同期の更正処分の納付すべき税額を下回るから、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(ロ) 平成24年3月期

上記(6)イのとおり、役員給与の損金不算入額は、原処分庁主張額6,610,300円が損金の額に算入されるから零円となる。また、繰越欠損金の当期控除額を計算したところ、当期控除額の減少額は、3,783,734円となる。
 平成24年3月期の法人税の更正処分のうちそれ以外の部分については、原処分庁主張額と同額である。
 以上により、同期の課税所得金額及び納付すべき税額は別表10の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、同期の更正処分の納付すべき税額を下回るから、その一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(ハ) 平成25年3月期

上記(6)ロのとおり、事業経費認定損の損金不算入額は、原処分庁主張額7,820,237円と同額となり、平成25年3月期の法人税の更正処分のうちそれ以外の部分についても、原処分庁主張額と同額である。
 以上により、同期の法人税の更正処分は適法である。

ロ 本件各事業年度の法人税の過少申告加算税の各賦課決定処分の適法性について

(イ) 平成23年3月期

平成23年3月期の法人税の更正処分は、上記イ(イ)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、零円となる。
 したがって、過少申告加算税の賦課決定処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その全部を取り消すべきである。

(ロ) 平成24年3月期

平成24年3月期の法人税の更正処分は、上記イ(ロ)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、○○○○円となる。
 また、この税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そこで、同条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、別紙2の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(ハ) 平成25年3月期

平成25年3月期の法人税の更正処分は、上記イ(ハ)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた同期の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

ハ 平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の更正処分の適法性について
 上記イ(ハ)のとおり、平成25年3月期の法人税の更正処分は適法であり、同更正処分による法人税額を課税標準法人税額として行った平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の更正処分は適法である。

ニ 平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の過少申告加算税の賦課決定処分の適法性について
 上記ハのとおり、平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた同課税事業年度の復興特別法人税の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

ホ 平成25年3月課税期間の消費税等の更正処分の適法性について
 上記(6)ロのとおり、本件各事業経費は課税仕入れに該当しないことから、原処分庁が平成25年3月課税期間の消費税等の更正処分においてEの本件事業経費のうち課税仕入れに係る支払対価の額に算入できないとした7,814,037円については、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。
 以上により、同課税期間の消費税等の更正処分は適法である。

ヘ 平成25年3月課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分の適法性について
 上記ホのとおり、平成25年3月課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて行われた同課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

ト 平成24年3月課税期間の消費税等の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)の適法性について

(イ) 課税仕入れに係る支払対価の額

A 上記(6)イのとおり、本件支払報酬料は課税仕入れに該当することから、請求人が平成24年3月課税期間の消費税等の更正の請求において本件支払報酬料のうち課税仕入れに係る支払対価の額に算入した6,610,300円については、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。

B 上記(6)ロのとおり、本件各事業経費は課税仕入れに該当しないことから、請求人が平成24年3月課税期間の消費税等の更正の請求においてKの本件事業経費のうち課税仕入れに係る支払対価の額に算入した6,455,627円については、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。

(ロ) 以上により、平成24年3月課税期間の納付すべき消費税額及び納付すべき地方消費税額は別表11の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、本件通知処分の納付すべき消費税額及び納付すべき地方消費税額を下回るから、本件通知処分は、その一部を別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

チ 平成24年3月課税期間の消費税等の修正申告に伴う過少申告加算税の賦課決定処分について
 平成24年3月課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分は、上記トのとおり、本件通知処分の一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、○○○○円となる。
 また、この税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そこで、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、別紙3の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

リ 本件各期間分の源泉所得税の各納税告知処分の適法性について
 上記(6)イのとおり、本件支払報酬料は外交員の業務に関する報酬又は料金に該当し、所得税法第183条第1項に規定する給与等としての源泉徴収は要しないのであるから、本件支払報酬料について同条第1項に規定する給与等として行われた本件各期間分の源泉所得税の各納税告知処分は、その全部を取り消すべきである。

ヌ 本件期間分の源泉所得税の不納付加算税の各賦課決定処分の適法性について
 上記リのとおり、本件各期間分の源泉所得税の各納税告知処分は、その全部を取り消すべきであるから、本件各期間分の源泉所得税の不納付加算税の各賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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