(平成28年2月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、第三者から請求人の代表者が賃借していた建物内に設置し、貸付けの用に供していた内装設備等に関し、当該建物の賃貸借契約の解約に伴い当該内装設備等の所有権を放棄したとして計上した固定資産除却損及び当該貸付けにより生じた債権を放棄したとして計上した雑損失などについて、原処分庁が、これらの放棄の事実は認められないなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成24年1月1日から平成24年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限後の平成25年3月1日に申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成25年5月28日付で、本件事業年度の法人税について別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの無申告加算税の賦課決定処分をした。

ハ その後、原処分庁は、平成26年9月30日付で、本件事業年度の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ニ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成26年11月28日に異議審理庁に対して異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年2月26日付で、いずれも棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年3月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項各号に掲げる額とする旨規定し、同項第3号は、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものを掲げている。また、同条第4項は、同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。

ロ 法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第1項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、また、同条第7項は、同条第1項から第6項までに規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定している。

ハ 法人税基本通達9−6−1《金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ》は、法人の有する金銭債権について同通達の(1)ないし(4)に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち同通達の(1)ないし(4)に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する旨を定め、同通達の(4)は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合という事実を掲げるとともに、その事実が発生した場合の金額として、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を掲げている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成22年2月○日に設立された法人で、病院開設に関する業務等を目的とするものである。

ロ 請求人は、平成22年9月15日付で、G病院の院長であるE(以下「E院長」という。)との間において、d市e町○−○に所在するfビルの3階部分(以下「本件建物」という。)に設置された請求人の所有する内装造作諸設備(以下「本件設置設備」という。)を、E院長に賃貸する旨の契約(以下「本件設置設備賃貸契約」という。)を締結した。
 なお、E院長は、当該契約の締結時において、請求人の代表社員であった。

ハ H社は、平成23年9月○日に、J社の名称で設立された法人で、本件建物の所在地を主たる事務所の所在地とし、E院長が設立の日から平成25年2月1日までの間代表理事に就任しており、平成25年12月○日に現名称に変更したものである。また、J社は、平成24年1月○日に、E院長が本件建物において営むG病院の事業を承継し、同日以後、本件建物内において病院名を「J社附属G病院」として病院事業を行っていた。

ニ K社は、次の(イ)及び(ロ)の契約を締結していたところ、平成○年○月○日に、E院長を被告として、賃料等の滞納を理由にL地方裁判所へ本件建物の明渡し等を求めた訴訟(L地方裁判所平成○年(○)第○号)(以下「本件訴訟」という。)を提起した。

(イ) 本件建物を第三者から借り受けていたM社との間の平成21年12月8日付建物賃貸借契約(以下「本件建物転貸借契約」という。)は、K社がM社から本件建物を賃借するというものである。

(ロ) E院長との間の平成21年12月8日付賃貸借契約(以下「本件建物再転貸借契約」という。)は、K社がE院長に本件建物を賃貸するというものである。

ホ K社、E院長、J社、M社及びN社(平成27年7月○日にP社から現商号に変更した法人。)は、平成24年10月○日に、本件建物の賃貸借の処理に関し、本件建物転貸借契約及び本件建物再転貸借契約の合意解約、J社のK社への本件建物の明渡し並びにM社とN社との間の本件建物に関する新規賃貸借契約等についての合意(以下、当該合意の内容が記載された「合意書」と題する書面を「本件合意書」という。)をした。

ヘ 本件訴訟は、平成24年10月○日に、原告であるK社、被告であるE院長並びに利害関係人であるJ社、請求人、N社及びQ社の間で和解(以下「本件和解」という。)が成立し、終了した。本件和解に係る条項(以下「本件和解条項」という。)には、要旨以下の記載がある。

(イ) K社、E院長及びJ社は、本件建物転貸借契約が平成24年10月○日付で合意解約されたこと、同日、K社がM社に対し本件建物を現状有姿のまま明け渡したことを相互に確認する。

(ロ) K社、E院長及びJ社は、本件建物再転貸借契約が平成24年10月○日付で合意解約されたこと、同日、E院長がK社に対し本件建物を現状有姿のまま明け渡したことを相互に確認する。

(ハ) K社、E院長及びJ社は、J社が平成24年10月○日付で本件建物の占有を解いてK社に明け渡したことを相互に確認する。

(ニ) N社は、上記(イ)ないし(ハ)に記載の本件建物の各明渡しが本件和解成立をもって完了したことを確認し、K社に対し、M社との間で本件建物を現状有姿のまま平成24年10月○日付で新規に賃借する内容の賃貸借契約を締結することを約束する。

ト N社は、M社との間において、M社から本件建物を賃借することを内容とする建物賃貸借契約を平成24年10月○日付で締結し、また、J社との間において、J社に対し本件建物を賃貸することを内容とする建物賃貸借契約を同日付で締結した。

チ 請求人は、本件設置設備について、取得価額から本件事業年度以前の各事業年度において損金の額に算入した減価償却費の額の合計額を控除した額に相当する金額153,549,625円を固定資産除却損として平成24年10月○日付で計上した。また、請求人は、本件事業年度における本件設置設備の病院事業への賃貸に係る収入として、平成24年1月から同年10月までの各月においてそれぞれ800,000円を計上していたが、同年11月以降における当該収入を計上していない。
 なお、J社は平成24年1月○日から本件事業年度終了の日までにおいて、本件設置設備を使用していた。

リ 請求人は、E院長に対し有していた本件設置設備の賃貸料に係る売掛金の全額4,800,000円(以下「本件債権」という。)を放棄したとして、同額を雑損失として平成24年12月31日付で計上した(以下、請求人がしたとする本件債権の放棄を「本件債権放棄」という。)。

ヌ E院長は、請求人が上記リの本件債権放棄をしたとして計上した本件債権放棄の額に相当する金額を債務免除益として平成24年12月31日付で計上し、これを平成24年分の所得税に係る事業所得の金額の計算上、収入金額に含めて同年分の所得税の確定申告をした。

ル 原処分庁は、上記1の(2)のハのとおり、平成26年9月30日付で、請求人が本件設置設備について本件事業年度に固定資産除却損として計上した金額及び減価償却費として計上した金額の合計額のうち、本件事業年度の減価償却資産の償却限度額を超える金額を減価償却超過額として損金の額に算入されないこと、並びに本件債権を放棄した事実は認められない等として雑損失の過大計上があることなどを内容とする本件更正処分等をした。

(5) 争点

イ 請求人が本件設置設備の所有権を放棄したとして計上した固定資産除却損の金額は、損失として損金の額に算入されるか否か。(争点1)

ロ 請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されるか否か。(争点2)

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2 主張

(1) 争点1(請求人が本件設置設備の所有権を放棄したとして計上した固定資産除却損の金額は、損失として損金の額に算入されるか否か。)について

イ 原処分庁
 次のとおり、請求人が本件設置設備の所有権を放棄した事実は認められず、また、本件設置設備は、本件和解後も請求人に所有され、請求人からJ社への賃貸事業の用に供されていたと認められるから、請求人が本件設置設備について本件事業年度に固定資産除却損及び減価償却費として計上した金額の合計額のうち、本件事業年度の減価償却資産の償却限度額を超える金額については、損金の額に算入されない。

(イ) 本件設置設備については、請求人がE院長へ賃貸することを目的に請求人において本件建物に設置し、平成22年9月1日からE院長が請求人から賃借して使用し、さらに、E院長が本件建物内で行っていた病院事業を承継するために設立されたJ社が請求人から賃借して本件建物とともに使用していたものと認められ、その後において、本件設置設備が解撤、破砕、廃棄等がされた事実や他者へ売却、移設された事実は認められない。

(ロ) 本件合意書及び本件和解条項には、本件設置設備の権利義務関係に係る具体的な合意事項及び和解条項の記載がなく、また、本件訴訟の当事者及び利害関係人の間で、本件設置設備の請求人の権利を放棄する旨の協議による決定又は確認をした事実や、請求人以外の本件訴訟の当事者及び利害関係人の各担当者には本件設置設備の帰属が変更になったとの認識が一切認められない。

(ハ) なお、本件和解条項における「現状有姿のまま明け渡した」との記載は、本件建物におけるJ社による事業をそのまま継続しつつE院長とK社との間の本件建物の賃貸借関係を解消して本件訴訟を解決するための便宜的な措置にすぎず、当該記載があることは、本件和解の時点で請求人が本件設置設備を引き続き賃貸事業の用に供する事実を何ら変更するものではないと認められる。

ロ 請求人
 次のとおり、請求人は本件設置設備の所有権を放棄したから、請求人が本件設置設備について計上した固定資産除却損の金額は、損失として損金の額に算入される。

(イ) 請求人は、本件和解条項で用いられた「現状有姿のまま明け渡した」という文言の意義には、請求人の代表社員でもあるE院長がK社から賃貸を受けていた本件建物内に請求人が設置した本件設置設備の所有権を放棄することも含まれているものと理解していたことから、本件建物転貸借契約及び本件建物再転貸借契約が本件和解により平成24年10月○日付で合意解約されたことに伴って、E院長が本件和解条項に従ってK社に本件建物を現状有姿のままで明け渡した際に、請求人は本件和解条項に従って本件設置設備の所有権を放棄した。
 所有権の放棄は、単独行為であるから意思表示の必要はない。

(ロ) 請求人は、本件和解の時点で、本件設置設備を第三者に譲渡又は売却した訳ではなく、上記(イ)のとおり、その所有権を放棄したのであるから、本件設置設備が他者へ売却された事実のないことを基礎とする原処分庁の判断は誤っている。

(2) 争点2(請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されるか否か。)について

イ 請求人
 次のとおり、本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入される。

(イ) 本件債権放棄は、請求人の代表社員であるE院長が本件事業年度末において決断したものであり、本件債権の相手先はE院長であること及び請求人が雑損失を計上するとともにE院長が債務免除益を計上したことを踏まえれば、当然、請求人とE院長との間で本件債権放棄に関する合意の事実があったと認められる。

(ロ) また、K社がE院長に対して債権放棄を行っている事実からも明らかなように、本件債権放棄の時点における本件債権の回収可能性はゼロであったことから、本件債権放棄は法人税基本通達9−6−1の(4)の取扱いにより損金の額に算入することができる貸倒れに該当する。

ロ 原処分庁
 次のとおり、本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。

(イ) 本件債権放棄が口頭により行われたとする事実を認めるに足る証拠はなく、また、本件合意書又は本件和解条項により、請求人が本件債権放棄について合意をした又は和解をした事実はなく、その他に、請求人とE院長との間の債権債務に関してE院長の関係者の協議決定等により請求人が本件債権放棄をした事実も認められない。したがって、本件債権については、書面、口頭、その他の方法により放棄が行われたとする事実は認められないから、放棄の事実そのものがないといわざるを得ない。
 さらに、本件債権の金額について、E院長の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかとなったとする事実も認められないことから、本件債権は法人税基本通達9−6−2《回収不能の金銭債権の貸倒れ》に定める貸倒れとして損金経理することができる金銭債権にも該当しない。

(ロ) なお、本件債権放棄が口頭により行われたとしても、この事実は、請求人により、債務者であるE院長に対して書面により明らかにされていないから、本件債権放棄は法人税基本通達9−6−1の(4)に定める法律上の貸倒れに該当しない。

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3 判断

(1) 争点1(請求人が本件設置設備の所有権を放棄したとして計上した固定資産除却損の金額は、損失として損金の額に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 法人税法第22条第3項第3号の損失については、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、同項にいう損金とは、純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少をいうものと解される。

ロ 認定事実
 請求人の代表社員であるE院長は、平成27年10月21日に、当審判所に対して、要旨以下のとおり答述したところ、次の(イ)の答述の内容は、本件設置設備の所有権の放棄を主張する請求人にとって利するものでなく、また、(ロ)の答述の内容は、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果における各事実と合致するものであり、さらに、これら答述の内容自体に特に不自然、不合理な点は認められず、当審判所の調査においても、これらに反する事実が認められないことを併せ考えると、これらの答述の内容は信用できるから、次の(イ)及び(ロ)のとおりの事実を認めることができる。

(イ) 本件和解条項で用いられた「現状有姿のまま明け渡した」という文言の意義には、請求人が設置した本件設置設備の所有権を放棄することも含まれているものと理解していた。そのため、当該放棄に係る対外的な意思表示をする必要はないので、これを行わなかった。

(ロ) 私が平成24年12月の決算の頃に本件債権放棄を決断し、会計事務所にその旨を伝え、請求人と私のそれぞれの帳簿上において、雑損失と債務免除益の計上の処理をしてもらった。

ハ 当てはめ及び請求人の主張の当否

(イ) 所有権の放棄等の事実の有無について
 本件において、本件設置設備に係る固定資産除却損が損失として認められるためには、まず、その所有権の放棄が必要になる。そして、所有権の放棄は相手方のない単独行為であるから、少なくともその意思が一般に外部から認識できる程度になされることが必要であると解されるところ、請求人は、上記ロの(イ)のとおり、本件設置設備の所有権の放棄の意思表示を行っていないこと、また、当該放棄の意思が外部から認識できる程度になされたことを示す証拠は存在しないこと、さらに、本件和解条項において請求人の有する本件設置設備の所有権の放棄に関する記載がないことを併せ考えると、請求人が本件設置設備の所有権を放棄した事実は認められない。
 そして、このことに加え、本件設置設備賃貸契約が解除されたことを示す証拠が存在しないこと、また、上記1の(4)のハ及びチのとおり、E院長の病院事業を引き継いだJ社が、本件和解後において本件設置設備を使用していることを併せ考慮すれば、請求人が本件設置設備をJ社に引き続き賃貸し事業の用に供していると認められるから、請求人において損失による経済的価値の減少は生じておらず、請求人が本件設置設備について本件事業年度に固定資産除却損として計上した金額及び減価償却費として計上した金額の合計額のうち、本件事業年度の本件設置設備に係る償却限度額を超える部分の金額については、損金の額に算入されない。

(ロ) 請求人の主張について

A 請求人は、本件和解条項で用いられた「現状有姿のまま明け渡した」という文言の意義に本件設置設備の所有権を放棄することが含まれているものと理解していたことを理由に、本件和解条項に従って本件設置設備の所有権を放棄した旨主張する。
 しかしながら、本件和解条項における「現状有姿のまま明け渡した」という文言の意義に本件設置設備の所有権を放棄することが含まれているとは読み取ることができない。また、本件和解条項において請求人の有する本件設置設備の所有権の放棄に関する記載がないとともに、請求人が本件設置設備の所有権を放棄した事実が認められないことは、上記(イ)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

B 請求人は、所有権の放棄は単独行為であるから意思表示の必要はない旨主張する。
 しかしながら、所有権の放棄に関する意思表示については、上記(イ)のとおり、少なくともその意思が一般に外部から認識できる程度になされることが必要であるから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈等

(イ) 法人税法第22条第3項第3号は、上記1の(3)のイのとおり、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものは当該事業年度の損金の額に算入する旨規定しているところ、法人がその有する金銭債権を放棄した場合において、その債権が回収不能となったことにより債権放棄が行われたときは、その債権の放棄をもって経済的利益の供与があったということはできないから、当該債権放棄に係る損失の額は寄附金の額に該当せず、貸倒損失の額に該当し、損金の額に算入されることとなる。
 また、法人税基本通達9−6−1は、法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準を定め、同通達の(4)は、その基準の一つとして、上記1の(3)のハのとおり、書面による債権放棄の場合における金銭債権の貸倒れに係る損失の額を当該事業年度の損金の額に算入するためには、法人の有する金銭債権について、1債務者の債務超過の状態が相当期間継続し(債務超過状態継続の要件)、2その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること(回収不能の要件)のいずれの要件も満たすことが必要である旨定めているところ、この取扱いは、書面による債権放棄が、その債権が回収不能となったことにより行われた場合には、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金の額に算入することを明らかにしたものであり、当審判所においても相当であると認められる。

(ロ) そして、回収不能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由に関わるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要するというべきである。

(ハ) また、回収不能とはいえない債権を放棄した場合、その実質は、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したことになり、他方、債務者にとっては、経済的利益の供与を無償で受けたといえるのであるから、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在しない限り、これを寄附金として扱うべきであると解するのが相当である。

ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件債権の債務者であるE院長の収入の状況

A 平成24年における給与所得に係る収入金額は○○○○円であり、雑所得に係る収入金額は○○○○円であった。なお、これ以外にG病院の事業所得に係る収入○○○○円(債務免除益○○○○円を含む。)があった。

B 平成25年における給与所得に係る収入金額は○○○○円であり、雑所得に係る収入金額は○○○○円であった。

C 平成26年における給与所得に係る収入金額は○○○○円であり、雑所得に係る収入金額は○○○○円であった。

(ロ) 請求人のE院長に対する売掛金の状況
 請求人の本件事業年度開始の日に有していたE院長に対する売掛金の金額は14,400,000円であったところ、本件事業年度中に9,600,000円が回収されたことによって、平成24年5月末時点で4,800,000円となっていた。

ハ 当てはめ及び当事者の主張の当否

(イ) 本件債権を放棄した事実の有無
 債権放棄は債権者の単独行為であり、かつ、その意思表示は何ら方式が限定されないところ、請求人は、上記(1)のロの(ロ)のとおり、本件事業年度末頃においてE院長に対する本件債権を放棄する意思を有していたと認められること、また、上記1の(4)のリ及びヌのとおり、これに沿った会計処理が請求人及びE院長において行われたことからすると、請求人は本件債権を放棄する意思表示をしたと認められ、請求人が本件事業年度末において本件債権を放棄した事実が認められる。

(ロ) 本件債権放棄による損失の額が貸倒損失に該当するか否か
 債権放棄により法律上金銭債権が消滅した場合の貸倒れの基準の一つを示したのが法人税基本通達9−6−1の(4)であるところ、本件債権の放棄が行われた本件事業年度末の前後におけるE院長の収入の状況は、上記ロの(イ)のとおりであり、本件事業年度中のE院長からの売掛金の回収状況も、同ロの(ロ)のとおりであるから、本件債権の全額が回収不能とは認められない。また、上記(イ)のとおり、本件債権を放棄した事実は認められるが、本件債権放棄が書面により行われたことを示す証拠がないことからすれば、債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、本件債権放棄は法人税基本通達の(4)に掲げる事実に該当しない。さらに、法人税基本通達9−6−1の(1)ないし(3)に掲げる事実に関する証拠はなく、これらの事実も認められない。したがって、本件債権放棄は法人税基本通達9−6−1に定める法律上の貸倒れに該当せず、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、貸倒損失として損金の額に算入されない。
 そして、本件債権放棄は、上記のとおり、回収不能とはいえない債権を放棄したものであるから、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したものであり、かつ、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在するとは認められないから、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額は、寄附金の額に該当する。

(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、K社がE院長に対して債権放棄を行っている事実からも明らかなように、本件債権放棄時点における本件債権の回収可能性はなく、本件債権放棄の金額は法人税基本通達9−6−1の(4)の取扱いにより損金の額に算入することができる旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額が貸倒損失として損金の額に算入されないことは上記(ロ)のとおりである。したがって、請求人の主張には理由がない。

(ニ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、本件合意書及び本件和解条項などをもって、本件債権について、放棄の事実がない旨主張するが、本件債権を放棄した事実があることは、上記(イ)のとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分について

 上記(1)のとおり、請求人が本件設置設備について固定資産除却損として計上した金額及び減価償却費として計上した金額の合計額のうち、本件事業年度の本件設置設備に係る償却限度額を超える部分の金額は損金の額に算入されないが、上記1の(4)のチ及び上記(1)のハの(イ)のとおり、請求人が本件和解後において本件設置設備をJ社に対し無償で賃貸しているから、本件事業年度終了の日までの2か月分の賃貸料に相当する額の1,600,000円を収益の計上漏れとして益金の額に算入するとともに、経済的利益の無償の供与による寄附金として同額を損金の額に算入することとなる。
 また、上記(2)のとおり、請求人が本件債権放棄をしたとして計上した雑損失の金額4,800,000円は寄附金の額に該当するから、貸倒損失としては損金の額に算入されないが寄附金として損金の額に算入されることとなる。
 これらの寄附金の額を基に寄附金の損金不算入額を再計算すると、別表2のとおり、寄附金の損金不算入額は○○○○円となる。
 以上により、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、別表3の「2審判所認定額」の「加算・減算後の所得金額」及び「差引所得に対する法人税額」の各欄のとおりとなり、いずれも同表の「1原処分の額」の同各欄の金額を下回るから、本件更正処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(3)のとおり、別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきであり、これに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は、別紙の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「裁決後の額B」の「加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これらの税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第4項で準用する同法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同法第66条第1項及び第2項の規定に基づいて無申告加算税の金額を計算すると、別紙の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「裁決後の額B」の「加算税の額」欄のとおりとなり、「原処分の額A」の「加算税の額」欄の額を下回るから、本件賦課決定処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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