(平成28年3月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税等について、外国の子会社の解散により交付を受けた残余財産の分配金のうち、剰余金の配当等とみなして益金の額に算入しない金額の算定に誤りがあるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該金額の算定に誤りはないなどとして、その処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成23年8月1日から平成24年7月31日まで及び平成24年8月1日から平成25年7月31日までの各事業年度(以下、順次「平成24年7月期」及び「平成25年7月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税並びに平成24年8月1日から平成25年7月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに提出した。
 なお、請求人は、平成24年7月期の法人税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)に係る申告書に、別表八(二)「外国子会社から受ける配当等の益金不算入に関する明細書」を添付して提出した。

ロ H税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税について、平成27年7月7日付で別表の「更正処分等」欄のとおり各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに平成25年7月期の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

ハ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成27年7月24日に審査請求した。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人及び請求人の子会社

(イ) 請求人は、電子機器等の組立・加工等を事業目的として昭和○年○月に設立された同族法人であり、昭和○年○月に現在の商号に変更された。

(ロ) 請求人は、平成5年12月、中華人民共和国(以下「中国」という。)のJ社との間で合作契約を締結し(以下、この締結された合作契約を「本件合作契約」という。)、中国d市に電気機械器具の製造等を事業目的として外国法人のK社(以下「本件中国子会社」という。)を設立することに合意し、本件中国子会社は、平成○年○月に設立された。

(ハ) 請求人は、本件中国子会社の設立に当たって、本件合作契約に基づき、本件中国子会社の登記機関で登記された全出資者の出資額(以下「登録資本の額」という。)1,750,000アメリカ合衆国ドル(以下「米ドル」という。)の全額を払い込んだ。

(ニ) 本件中国子会社は、毎年1月1日から12月31日までを事業年度として事業を行ってきたが、平成23年10月に解散し、翌年6月に請求人に対して残余財産を分配した。

ロ 出資及び残余財産の分配の状況

(イ) 本件中国子会社への出資

請求人は、本件中国子会社に対する出資金を、次表のとおり、いずれも米ドルで払い込み、当該払込額をその払込みの日における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値(以下「電信売買相場の仲値」という。)により円に換算した金額を帳簿に計上した。
 なお、請求人の上記払込額は、本件中国子会社の設立から残余財産の分配がされるまでの間継続して、本件中国子会社の出資総額の100%を占めていた。

出資金払込日 払込額(米ドル) 計上額(円)
設立時 1,750,000 181,707,275
平成7年10月12日 700,000 71,225,000
平成8年6月27日 500,000 54,825,000
平成10年12月25日 500,000 58,025,000
合計 3,450,000 365,782,275

(ロ) 本件中国子会社からの残余財産の分配

請求人は、平成24年6月26日、本件中国子会社から、解散に伴う残余財産の全部の分配として7,788,308.95米ドルの交付(以下「本件分配」という。)を受け、当該交付を受けた額をその交付の日における電信売買相場の仲値79.67円/米ドルにより円に換算した620,494,573円(以下「本件分配金」という。)を帳簿に計上した。
 なお、本件分配は、本件中国子会社が人民元により算出していた本件中国子会社の残余財産の全額を、請求人の求めに応じて、米ドルにより支払われたものである。

ハ 中国の企業会計に関する法令の定め

中国の企業会計に関する各法令(以下「中国会計法等」という。)は、本件中国子会社の設立から残余財産の分配がされるまでの間における外貨建取引に係る会計処理及び財務諸表の作成等に関して、要旨次のとおり定めている。

(イ) 会計処理及び財務諸表の作成に使用する通貨(中国会計法第12条及び(旧)中国企業会計準則第7条又は(新)中国企業会計準則第19号第4条)

会計処理に使用する通貨(以下「記帳通貨」という。)は、原則として人民元とし、主として人民元以外の通貨で取引を行う企業については、その中の一種類の通貨を記帳通貨として選択することができる。ただし、財務諸表の作成に使用する通貨(以下「単位通貨」という。)は、人民元とする。

(ロ) 外貨建てにより資本の払込みを受けた場合の換算

A 平成13年12月31日以前(中国外商投資企業会計制度第47条)

 外貨建てにより資本の払込みを受けた場合において、契約書に為替レートの約定がない場合には、当該資本の払込みを受けた日の為替レートで記帳通貨に換算するものとし、登記の際に用いた通貨と記帳通貨が異なる場合、また出資者が出資額を払い込んだ時期が異なる場合は、払込資本勘定は第1回目の資本の払込みを受けたときの為替レートに基づき換算しなければならない。

B 平成14年1月1日以後(中国企業会計制度第80条及び(新)中国企業会計準則第19号第10条)

 外貨建てにより資本の払込みを受けた場合において、契約書に為替レートの約定がない場合には、当該資本の払込みを受けた日の為替レートで記帳通貨に換算しなければならない。
 なお、平成19年1月1日以後は、系統的かつ合理的な方法に基づき確定された当該為替レートに近似する為替レートで換算することもできる。

ニ 本件中国子会社の資本金

 本件中国子会社は、中国会計法等の定めに基づき、人民元を記帳通貨及び単位通貨とし、資本金に関して、次のとおり会計処理及び財務諸表の作成を行った。

(イ) 会計処理

 本件中国子会社が設立から解散までの間に払込み等を受けた資本金の額は、請求人から払込みを受けた上記ロの(イ)の出資総額3,450,000米ドル及び平成17年に利益剰余金から組み入れた5,000,000米ドルの合計8,450,000米ドルであり、それぞれ、当該払込み等を受けた額を中国会計法等の定めに基づき人民元に換算されて帳簿に計上され、当該計上された資本金の合計額は、70,305,100人民元であった。

(ロ) 財務諸表

A 本件中国子会社の解散の日の属する平成23年1月1日から同年10月○日までの事業年度の財務諸表の一つである貸借対照表に記載された資本金の額は、70,305,100人民元であった。
 なお、上記財務諸表の注記の「財務諸表項目の注釈」には、払込資本金の額は8,450,000米ドルであり、同金額を人民元に換算した金額は70,305,100人民元である旨が記載されていた。

B 本件中国子会社の解散に伴う平成23年○月○日から同月30日までの清算期間の財務諸表の一つである清算資産貸借表に記載された資本金の額は、70,305,100人民元であった。
 なお、上記財務諸表の清算事項説明の「会社概要」には、登録資本の額は8,450,000米ドルである旨が記載されていた。

ホ 本件各更正処分の理由等

(イ) 本件各更正処分は、いずれも、本件確定申告における所得金額の算定に当たり、本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額が過大であるとすることを基因として行われたものである。

(ロ) 本件確定申告及び平成24年7月期の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)における本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の計算過程は、それぞれ次表のとおりである。
 なお、両者の受取配当等の益金不算入額の算定結果が相違するのは、本件中国子会社の直前資本金額等を8,450,000米ドル又は70,305,100人民元のいずれに基づいて算定したかによるものである。

項目 本件確定申告 本件更正処分
1 本件分配金 620,494,573円 620,494,573円
2 解散及び清算時の資本金の額 8,450,000米ドル 70,305,100.00人民元
3 解散及び清算時の資本準備金の額 △264,913.39人民元
4 利益剰余金から資本金に組み入れた額 5,000,000米ドル 40,501,000.00人民元
5 出資対応資本金額等(234 3,450,000米ドル 29,539,186.61人民元
6 本件分配金の交付日の電信売買相場の仲値 79.67円/米ドル 12.60円/人民元
7 出資対応資本金額等の円換算額(5×6 274,861,500円 372,193,751円
8 みなし配当額(17 345,633,073円 248,300,822円
9 みなし配当額に係る費用の額(8×5%) 17,281,653円 12,415,041円
10 受取配当等の益金不算入額(89 328,351,420円 235,885,781円

(ハ) 本件更正処分に係る通知書(以下「本件更正通知書」という。)には、更正の理由として、要旨次のとおり記載されている。

A 請求人は、本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定の基となる本件中国子会社の直前資本金額等について、請求人が本件中国子会社に出資金として払い込んだ額3,450,000米ドル及び利益剰余金から資本金に組み入れた額5,000,000米ドルに基づき274,861,500円と算定し、当該直前資本金額等に基づいて算定されるみなし配当額を345,633,073円、受取配当等の益金不算入額を328,351,420円として申告している。
 しかしながら、本件中国子会社の直前資本金額等は、本件中国子会社が中国会計法等の定めに基づき単位通貨としている人民元に基づき円に換算して算定することが相当であり、本件中国子会社の財務諸表に記載された資本金の額70,305,100人民元と資本準備金の額△264,913.39人民元の合計額70,040,186.61人民元から、利益剰余金から資本金に組み入れた額40,501,000人民元を控除した29,539,186.61人民元を円に換算して算定した372,193,751円となるから、当該直前資本金額等に基づいて算定されるみなし配当額は248,300,822円となり、また、受取配当等の益金不算入額は235,885,781円となる。
 したがって、請求人が申告した所得金額等又は税額等には、受取配当等の益金不算入額の計算に誤りがあり過大であるから、正当な受取配当等の益金不算入額235,885,781円と申告された受取配当等の益金不算入額328,351,420円との差額92,465,639円を加算して更正した。

B 請求人は、翌期へ繰り越す欠損金の額を○○○○円として申告しているが、上記Aによる所得金額等の更正により欠損金の額が92,465,639円減少したので、正当な翌期へ繰り越す欠損金の額は○○○○円となった。

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2 争点

(1) 本件更正通知書に記載された更正の理由に、法人税法第130条第2項に違反する不備があるか否か(争点1)。

(2) 本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定における本件中国子会社の直前資本金額等は、請求人が出資金として払い込んだ金額又は本件中国子会社の財務諸表上の金額のいずれを基に算出すべきか(争点2)。

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3 争点についての主張及び判断

(1) 争点1(本件更正通知書に記載された更正の理由に、法人税法第130条第2項に違反する不備があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件更正通知書の更正の理由の付記に不備はなく適法である。 次のとおり、本件更正通知書の更正の理由の付記には不備があり違法である。
(イ) 法人税法第130条第2項が求める更正の理由付記は、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせ、不服申立ての便宜を与えるための制度と解されており、更正通知書記載の更正の理由が、その趣旨目的を充足する程度に具体的な更正の根拠をそこに明示しているものである限り、法人税法の要求する更正の理由付記として欠けるところはないものと解されているところ、本件更正処分は、法人税確定申告書の別表八(二)の算出の基礎となる直前資本金額等の概念について、請求人と原処分庁との法的評価の相違により行われたものであり、本件更正通知書には、法的評価を判断することができる理由が表示されている。 (イ) 請求人が確定した決算において計上した法人税法第22条第3項第3号の損失額である為替損失(有価証券譲渡損)90,920,775円を原処分庁が否認する場合は、納税者(請求人)の不服申立ての便宜のため、同条に規定する別段の定めを明示し、有価証券譲渡益6,411,476円を再計算したことに関する課税関係を説明すべきであり、本件更正通知書の更正の理由では、請求人の会計帳簿による仕訳処理が、原処分庁の更正によってどのように修正されたのかが十分に理解できない。
(ロ) 本件更正通知書には、請求人の帳簿に記載された為替損失(有価証券譲渡損)90,920,775円に関することや本件更正処分に伴い算定される有価証券譲渡益6,411,476円に関する記載はないものの、為替損失(有価証券譲渡損)や有価証券譲渡益は直前資本金額等の変動に伴い再計算されるものであり、請求人の所得金額の増減に直接影響しない会計上の仕訳処理が記載されていなくても、上記(イ)の趣旨目的を充足する程度に具体的な更正の根拠が明示されているから、法人税法の要求する更正の理由付記として欠けるところはない。 (ロ) 本件更正通知書には、みなし配当額を97,332,251円減額する理由と法人税確定申告書の別表八(ニ)の計算に関する記載があるのみで、為替損失(有価証券譲渡損)を否認し、有価証券譲渡益を計上することについての記載がない。

ロ 判断

(イ) 法令解釈

法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税を更正する場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法人税法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。
 ところで、青色申告に係る更正処分の態様は、1帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合、2事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分をする場合など様々であるが、個々の更正処分につき要求される理由付記の程度は、上記の法人税法第130条第2項の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきである。そして、上記1の帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合はともかく、2の事実に対する法的評価の相違による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に理由が示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解される。

(ロ) 当てはめ

A 上記1の(4)のホの(イ)及び(ロ)のとおり、本件各更正処分は、いずれも、本件確定申告における所得金額の算定に当たり、本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額が過大であることを理由とするものであり、請求人の帳簿に記載された本件分配金の交付を受けた事実、交付の時期及び本件分配金の額などの事実を前提として、受取配当等の益金不算入額の算定方法の相違、すなわち法的評価の相違により行われたものであると認められる。

B そして、上記1の(4)のホの(ハ)のとおり、本件更正通知書の更正の理由では、本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定について、1直前資本金額等は、本件中国子会社が中国会計法等の定めに基づき単位通貨としている人民元に基づき円に換算して算定することが相当であること、2本件中国子会社の財務諸表に記載された資本金の額に基づき算定される直前資本金額等は372,193,751円となること、1当該直前資本金額等に基づいて算定されるみなし配当額は248,300,822円となり、受取配当等の益金不算入額は235,885,781円となることが、その計算過程を示して記載されている。

C そうすると、本件更正通知書に記載された更正の理由には、請求人が本件中国子会社から本件分配金の交付を受けたという事実に対する本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定に当たっての法人税法上の評価が明確に判別できる程度に記載されており、請求人は、この記載により本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定の過程を逐一検証することが可能であると認められる。

D したがって、本件更正通知書に記載された更正の理由は、請求人において、本件更正処分がいかなる理由で行われたかを理解し、これに対する不服申立てをすべきかどうかを判断するのに十分な具体的説明がされているということができることから、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという更正の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度のものというべきであり、法人税法第130条第2項の要求する更正の理由の付記として不備は認められない。

(ハ) 請求人の主張について

請求人は、本件更正処分が、請求人が確定決算において計上した為替損失90,920,775円を否認し、同決算に計上していない有価証券譲渡益6,411,476円を加算して行われたものであり、本件更正通知書に記載された更正の理由には、その課税関係についての説明の記載がなく、不備がある旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する為替損失及び有価証券譲渡益は、本件更正通知書の更正の理由において説示されている本件中国子会社の直前資本金額等に連動して再計算されるものであり、請求人の法人税の所得金額の増減には直接影響を及ぼすものではないから、本件更正通知書の更正の理由には、これらの事項についての記載がないとしても、本件更正処分の判断過程を検証する上で不都合はなく、不備があるとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件分配金に係る受取配当等の益金不算入額の算定における本件中国子会社の直前資本金額等は、請求人が出資金として払い込んだ金額又は本件中国子会社の財務諸表上の金額のいずれを基に算出すべきか。)について

イ 主張

原処分庁 請求人

次のとおり、本件中国子会社の直前資本金額等は、財務諸表に表示された人民元を単位とする額を基に算出した金額である。

本件中国子会社の所在地国の法令等により認識される配当等の範囲と我が国の法人税法において認識される配当等の範囲が当然のことながら異なることから、法人税法第23条の2の規定による剰余金の配当等の額は、我が国の法令により判断すべきである。そして、法人税法第23条の2に規定する剰余金の配当等の額には、同法第24条第1項のみなし配当額を含み、みなし配当額の計算における法人税法施行令第23条第1項第3号の直前資本金額等は、同令第8条により判断すべきである。

そして、法人税法施行令第8条に規定する資本金の額は、貸借対照表の資本金の項目に表示された金額を指すものであると解されており、本件において、本件中国子会社の貸借対照表は人民元を単位通貨として記載されていることから、資本金等の額は人民元建てで把握することが最も合理的である。

また、請求人が主張する法人税法第24条が規定する資本金等の額について中国における米ドル建ての登録資本金を採用した場合には、中国での業績やその一定期間の状況を明らかにする財務諸表及び清算時の残余財産の分配計算と直接的に関係のない資本金の額を採用することとなり、実質的な利益の配当等とみなす金額を算出する際に用いる資本金として不合理である。

次のとおり、本件中国子会社の直前資本金額等は、請求人が本件中国子会社に出資した米ドルを単位とする額を基に算出した金額である。

資本金等の額とは、法人税法第2条第16号に「株主等からの出資を受けた金額として政令で定める金額をいう。」と定義され、法人税法施行令第8条第1項各号に具体的に規定されている。ただし、「資本金の額」の定義については会社法からの借用概念とされ、会社法第445条には、「資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。」と規定されている。

したがって、みなし配当額の計算における法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する直前資本金額等とは、払戻し等を行った法人の払戻し等の直前の払戻し等に対応する「株主等から出資を受けた金額」ということになる。

また、請求人からの本件中国子会社への出資総額は3,450,000米ドルで、他に資本金等の額を増減させる資本等取引はなかった。

よって、本件中国子会社の直前資本金額等は「株主等(請求人)から出資を受けた金額」の3,450,000米ドル(清算結了時の登録資本の額8,450,000米ドルから、法人税法施行令第8条第1項第13号に規定する剰余金の資本組入額5,000,000米ドル控除後の金額)となる。

仮に、原処分庁が主張するとおり、法人税法施行令第8条の資本金の額は、貸借対照表の資本金の項目に表示された金額を指すものであるとしても、1本件中国子会社の平成12年12月31日時点における貸借対照表の所有者持分に係る勘定科目の一部には、人民元での表示に加え、米ドルでの金額表示があること、2本件中国子会社の財務諸表の注記に、米ドルで出資を受けたことが表示されていることから、原処分庁の主張は誤っている。

ロ 判断

(イ) 法令解釈

法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する直前資本金額等とは、残余財産の分配を行った法人の当該分配の直前の資本金等の額をいうものであるところ、この資本金等の額については、法人税法第2条第16号において、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいうこととされ、また、法人税法施行令第8条において、法人の資本金の額と資本金の額以外の金額の前期末までの増減額及び当期の増減額とを合計した金額であるとされている。
 そして、この資本金の額については、法人税法には資本金等として払い込まれた額又は法人の財務諸表に表示された額のいずれをいうのかを判断するための明確な定義が置かれていないことから、会社法における資本金の額、すなわち、確定決算において資本金として計上された金額を意味すると解するのが相当である。
 したがって、法人税法施行令第23条第1項第3号にいう直前資本金額等は、その法人の残余財産の分配の直前の確定決算において資本金として計上された金額、すなわち、その会社の残余財産の分配の直前における財政状態を表す財務諸表の貸借対照表において資本金として表示された金額を資本金の額として、これに基づき算定される金額であると解される。

(ロ) 当てはめ

上記1の(4)のハのとおり、中国会計法等では、会計処理に使用する記帳通貨については、一定の条件の下で選択することができるものの、財務諸表の作成に使用する単位通貨については、人民元に限ると定められ、上記1の(4)のニのとおり、本件中国子会社は、中国会計法等の定めに基づいて、記帳通貨を人民元とする会計処理を行い、単位通貨を人民元とする財務諸表を作成して確定決算を行っている。
 そして、上記1の(4)のニのとおり、本件中国子会社は、請求人から出資金として払込みを受けた3,450,000米ドル及び利益剰余金を資本金に組み入れた5,000,000米ドルの合計額8,450,000米ドルについて、それぞれ中国会計法等の定めに基づき人民元に換算した額の合計額70,305,100人民元を本件中国子会社の本件分配直前の清算時における資本金の額として貸借対照表に表示している。
 したがって、本件中国子会社の直前資本金額等は、本件分配直前の財務諸表の中の貸借対照表に資本金として表示された70,305,100人民元を基に算定すべきである。

(ハ) 請求人の主張について

A 請求人は、本件中国子会社の法人税法施行令第23条第1項に規定する直前資本金額等について、本件中国子会社が株主等から出資を受けた額であり、本件中国子会社の登録資本の額である8,450,000米ドルに基づき算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件中国子会社の資本金の額とは、本件中国子会社の確定決算としてその貸借対照表に資本金として表示された金額をいうことは既に述べたとおりであり、これと異なる本件中国子会社が出資の払込みを受けた額や登録資本の額を請求人の確定決算による資本金の額として本件中国子会社の直前資本金額等を算出することを正当とする理由は認められない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

B また、請求人は、予備的に、資本金の額が貸借対照表上の資本金の額を指すとしても、1本件中国子会社の平成12年12月31日時点における貸借対照表の所有者持分に係る勘定科目の項目の一部には、人民元での表示に加えて米ドルでの金額表示もあること、2本件中国子会社の財務諸表の注記に、米ドルで出資を受けたことが表示されていることから、当該米ドルで表示された出資額が貸借対照表上の資本金の額に当たり、これに基づき本件中国子会社の直前資本金額等を算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張する貸借対照表又は貸借対照表を含む財務諸表の注記に米ドルで表示された出資額等は、当該貸借対照表に人民元で表示された確定決算による資本金の額に関する説明事項又は参考情報等として表示し開示されているものであり、これを確定決算による資本金の額と認めることはできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件更正処分について

イ 直前資本金額等及び出資対応資本金額等

上記(2)のとおり、本件における直前資本金額等は、貸借対照表の資本金の額である70,305,100人民元を基に算出すべきであることから、直前資本金額等の算定の基となる本件中国子会社の本件分配の直前の資本金等の額は、本件中国子会社の清算時における貸借対照表の資本金70,305,100人民元に、資本積立金△264,913.39人民元を加算し、利益剰余金から資本金に組み入れた40,501,000人民元を減算した29,539,186.61人民元を、本件分配金の交付の日の人民元と円との電信売買相場の仲値12.60円で換算した372,193,751円となる。
 そして、本件中国子会社は、1残余財産の全部の分配を行っており、2請求人がその全部を出資する子会社であることから、法人税法施行令第23条第1項第3号の規定により、直前資本金額等及び出資対応資本金額等は、いずれも372,193,751円となる。

ロ みなし配当額

本件分配金620,494,573円のうちみなし配当額は、法人税法第24条第1項の規定により、上記イの出資対応資本金額等372,193,751円を超える部分の248,300,822円となる。

ハ 受取配当等の益金不算入額

上記ロのみなし配当額248,300,822円のうち外国子会社である本件中国子会社から受ける配当等の益金不算入の額は、法人税法第23条の2及び法人税法施行令第22条の4第2項の規定により、当該みなし配当額248,300,822円から当該みなし配当額の5%相当額を控除した235,885,781円となり、上記1の(4)のホの(ロ)の表の「本件更正処分」欄の10の「受取配当等の益金不算入額」記載の金額と同額となる。

ニ 小括

以上のとおり、本件更正通知書に記載された更正の理由に不備はなく、また、上記ハの受取配当等の益金不算入額に基づく請求人の平成24年7月期の法人税の所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金の額は、いずれも別表の1の平成24年7月期の「更正処分等」欄記載の金額と同額となることから、本件更正処分は適法である。

(4) 平成25年7月期の法人税の更正処分について

 上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、同更正処分の翌期へ繰り越す欠損金の減少に伴って行われた請求人の平成25年7月期の法人税の所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金の額については、いずれも別表の1の平成25年7月期の「更正処分等」欄記載の金額と同額となることから、平成25年7月期の法人税の更正処分は適法である。

(5) 本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分について

 上記(4)のとおり、平成25年7月期の法人税の更正処分は適法であるから、これに基づき行われた本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分は適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

 上記(4)及び(5)のとおり、平成25年7月期の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税の各更正処分は適法であり、また、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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