(平成28年2月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、国外関連者に該当する子会社に対する貸付金に係る利息について、金銭消費貸借契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告をしたところ、原処分庁が、当該利息が独立企業間価格に満たないなどとして法人税及び復興特別法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該独立企業間価格の算定に用いた方法及び利率に誤りがあるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年6月1日から平成20年5月31日まで、平成20年6月1日から平成21年5月31日まで、平成21年6月1日から平成22年5月31日まで、平成22年6月1日から平成23年5月31日まで、平成23年6月1日から平成24年5月31日まで及び平成24年6月1日から平成25年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成20年5月期」、「平成21年5月期」、「平成22年5月期」、「平成23年5月期」、「平成24年5月期」及び「平成25年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 また、請求人は、平成24年6月1日から平成25年5月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、青色の復興特別法人税申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

ロ その後、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成25年5月期の法人税について別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を、また、本件課税事業年度の復興特別法人税について別表2の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を、いずれも平成26年6月24日に提出した。

ハ J税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成26年7月29日付で、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)を、また、平成20年5月期、平成23年5月期及び平成25年5月期について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税各賦課決定処分」という。)を、さらに、本件課税事業年度の復興特別法人税について、別表2の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件復興特別法人税更正処分」といい、本件法人税各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件法人税各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

ニ 請求人は、本件各更正処分等のうち国外関連者に対する貸付金に係る利息の益金算入額に係る部分を不服として、平成26年9月25日に、本件各更正処分等の一部の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年2月26日付で、いずれも棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年3月12日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 平成20年5月期ないし平成24年5月期の関係法令等

(イ) 租税特別措置法

A 租税特別措置法(平成23年法律第82号による改正前のもの。以下「改正前措置法」といい、改正後のものを「改正後措置法」という。)第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項は、法人が当該法人に係る国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係のあるものをいう。)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引(一定の取引を除く。以下「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす旨規定している。

B 改正前措置法第66条の4第2項は、同条第1項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が同条第2項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法により算定した金額をいう旨規定し、同項第1号は、棚卸資産の販売又は購入に係る方法として独立価格比準法(同号イ)、再販売価格基準法(同号ロ)、原価基準法(同号ハ)(以下、これらの各方法を併せて「基本三法」という。)及び基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法(同号ニ)を掲げ、同項第2号は、棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る方法として、基本三法と同等の方法(同号イ)を掲げるとともに、当該同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができる方法として、同項第1号ニに掲げる基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法(同項第2号ロ)を掲げている。

C 租税特別措置法施行令(平成23年政令第199号による改正前のもの。)第39条の12《国外関連者との取引に係る課税の特例》第8項各号は、改正前措置法第66条の4第2項第1号ニに規定する政令で定める方法として、利益分割法(第1号)、売上高営業利益率を比較指標とする取引単位営業利益法(第2号)、総費用営業利益率を比較指標とする取引単位営業利益法(第3号)及び同項第2号又は第3号に掲げる方法に準ずる方法(第4号)を掲げている。

(ロ) 法令解釈通達等

A 租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成23年10月27日付課法2−13ほか共同による改正前のもの。以下「改正前措置法通達」といい、改正後のものを「改正後措置法通達」という。)66の4(6)−1《同等の方法の意義》は、改正前措置法第66条の4第2項第2号イ及びロに規定する「同等の方法」とは、有形資産の貸借取引、金銭の貸借取引等、棚卸資産の売買以外の取引において、それぞれの取引の類型に応じて同項第1号に掲げる方法に準じて独立企業間価格を算定する方法をいう旨を定めている。
 また、改正前措置法通達66の4(6)−4《金銭の貸付け又は借入れの取扱い》は、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等の金利の設定方式をいう。)、利払方法(前払い、後払い等の利払方法をいう。)、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることを要することに留意する旨を定め、さらに、その注書において、独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法が適用できない場合には、国外関連取引の借手が銀行等から当該国外関連取引と同様の条件の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を比較対象取引における利率として独立企業間価格を算定する方法(以下「借手の銀行調達利率による方法」という。)を改正前措置法第66条の4第2項第2号ロに掲げる方法とすることができる旨を例示している。

B 国税庁長官発遣の「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(平成23年10月27日付査調8−130ほか共同による改正前のもの。以下「改正前事務運営指針」といい、改正後のものを「改正後事務運営指針」という。)2−7《措置法通達66の4(6)−4に定める方法以外の方法による金銭の貸借取引の検討》は、法人及び国外関連者がともに業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについて調査を行うに当たり、改正前措置法通達66の4(6)−4に定める方法のいずれも適用できないときは、次の(A)又は(B)により計算した利率を独立企業間の利率として、当該貸付け又は借入れに付された利率の適否を検討する旨を定めている。

(A) 国外関連取引の貸手が非関連者である銀行等から通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に通常付されたであろう利率

(B) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られたであろう利率(上記(A)に掲げる利率を用いることができる場合を除く。)

C 改正前事務運営指針の「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「改正前参考事例集」といい、改正後のものを「改正後参考事例集」という。)の事例4(独立価格比準法に準ずる方法を用いる場合)の《前提条件2:金銭の貸借取引の場合》は、金銭の貸付け等を業としない法人による国外関連者への金銭の貸付けの事例として、他の方法に優先する基本三法と同等の方法が適用できず、また、当該法人の銀行借入れの実績から国外関連者への貸付けと同様の条件で当該銀行から借り入れた場合のスプレッド情報が得られるため、改正前事務運営指針2−7の(1)(上記Bの(A)の利率を用いて独立企業間価格を算定する方法(以下「貸手の銀行調達利率による方法」という。)が妥当と認められる場合の利率は、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、当該スプレッドを加えた利率になるとしている。
 なお、スプレッドとは、金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含むとともに、金利スワップのスワップレートとは、国際金融市場において示された短期金利と交換可能な長期金利の水準を示すものであるとしている。

ロ 平成25年5月期の関係法令等

(イ) 租税特別措置法

A 改正後措置法第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項は、上記イの(イ)のAと同旨を規定している。

B 改正後措置法第66条の4第2項は、同条第1項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が同条第2項各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、当該国外関連取引の内容及び当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいう旨規定し、同項第1号は、棚卸資産の販売又は購入に係る方法として、同号イないしハに基本三法を、同号ニに基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法を掲げ、同項第2号は、棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る方法として、同項第1号イからニまでに掲げる方法と同等の方法を掲げている。

C 租税特別措置法施行令(平成25年政令第114号による改正前のもの。)第39条の12《国外関連者との取引に係る課税の特例》第8項第1号は、改正後措置法第66条の4第2項第1号ニに規定する政令で定める方法として、比較利益分割法(同号イ)、寄与度利益分割法(同号ロ)及び残余利益分割法(同号ハ)を、同項第2号及び第3号は、上記イの(イ)のCと同旨の取引単位営業利益法を、同項第4号は、同項第1号ないし第3号に掲げる方法に準ずる方法をそれぞれ掲げている。

(ロ) 法令解釈通達等

A 改正後措置法通達66の4(7)−1《同等の方法の意義》は、改正後措置法第66条の4第2項第2号に規定する「同等の方法」とは、上記イの(ロ)のAと同旨である旨を定めている。
 また、改正後措置法通達66の4(7)−4《金銭の貸付け又は借入れの取扱い》は、上記イの(ロ)のAの後段と同旨の定めのほか、さらに、その注書において、借手の銀行調達利率による方法は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法となることに留意する旨を定めている。

B 改正後事務運営指針2−7《独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討》は、法人及び国外関連者がともに業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについて調査を行うときには、必要に応じ、次の(A)から(C)までに掲げる利率を独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する旨を、また、その注書の1において、次の(A)、(B)及び(C)に掲げる利率を用いる方法の順に、独立企業原則に即した結果が得られることに留意する旨を定めている。

(A) 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(B) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(C) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率(この利率を用いて独立企業間価格を算定する方法を、以下「国債等の運用利率による方法」という。)

C 改正後参考事例集の事例4(独立価格比準法に準ずる方法を用いる場合)の《前提条件2:金銭の貸借取引の場合》は、改正前参考事例集の事例4の前提条件の下、独立企業間価格の算定に当たっては、最も適切な方法を事案に応じて選定する必要があるとし、本事例では、改正後事務運営指針2−7の(2)(上記Bの(B))に掲げる利率を示し、貸手の銀行調達利率による方法を最も適切な方法として選定することが妥当と認められるとした上で、改正前参考事例集の事例4と同様に、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、当該法人の銀行借入れの実績から得られた国外関連者への貸付けと同様の条件で当該銀行から借り入れた場合のスプレッドを加えた利率になるとしている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成元年3月○日に設立された法人で、不動産賃貸業等を営むものである。

ロ 請求人は、アメリカ合衆国e州において設立されたK社の発行済株式の全部を保有していた。

ハ 請求人は、平成14年8月○日にゴルフ場の経営等を目的とするL社を100%出資により設立し、同年11月12日に同社に対しK社の発行済株式の全部を譲渡し、その後、平成18年7月○日にL社を吸収合併しており、本件各事業年度において当該株式の全部を保有していることから、K社は、請求人の国外関連者に該当する。

ニ L社及び請求人がK社に対して行った金銭の貸付けの状況は、次のとおりである。

(イ) L社は、自らを貸主、K社を借主として、別表3の順号1ないし5の各欄の内容を要旨とする金銭消費貸借契約を締結し(以下、当該契約を順号順に「K1」、「K2」、「K3」、「K4」及び「K5」という。)、K1ないしK5に係る金員をそれぞれK社に送金した。

(ロ) 請求人は、自らを貸主、K社を借主として、別表3の順号6ないし10の各欄の内容を要旨とする金銭消費貸借契約を締結し(以下、当該契約を順号順に「K6」、「K7」、「K8」、「K9」及び「K10」と、K1ないしK10に基づく各貸付けを併せて「本件各貸付け」といい、本件各貸付けに係る貸付利息を「本件各貸付利息」という。)、K6ないしK8及びK10に係る各金員をそれぞれK社に、K9に係る金員を寄託先であるM社に送金した。

(ハ) 本件各貸付けに係る契約書の第3条には、借入要項記載の利率は変更しないが、金融情勢の変化、その他相当の事由がある場合には、利率を一般に行われる程度のものに変更することができる旨がそれぞれ記載されている。

ホ L社及び請求人が金融機関から行った金銭の借入れ等の状況は、次のとおりである。

(イ) L社は、K社への貸付資金に充てるため、N銀行から別表4の順号1、2、4及び5の各欄の内容の借入れをした。

(ロ) 請求人は、資産の取得資金に充てるため、N銀行から別表4の順号3の各欄の内容の借入れをした。

(ハ) 請求人は、K社への貸付資金に充てるため、N銀行から別表4の順号6ないし8及び10の各欄の内容の借入れをした(以下、上記(イ)及び(ロ)の借入れと併せて「本件各借入れ」という。)。

(ニ) 請求人は、K社への貸付資金に充てるため、別表4の順号9の各欄の内容のN銀行の保証が付された社債を発行し、当該社債の全部をN銀行が引き受けた(以下、当該社債の発行を「本件社債発行」といい、本件各借入れ及び本件社債発行を併せて「本件各借入れ等」という。)。

ヘ 原処分庁は、請求人がK社から本件各事業年度に支払を受ける本件各貸付利息の額が、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を用いて算定した独立企業間価格に満たないとして、当該独立企業間価格と当該支払を受ける本件各貸付利息の額との差額を益金の額に算入するなどの、本件各更正処分等を行った。

(5) 争点

イ 本件各貸付利息の独立企業間価格の算定に用いるべき方法は何か。(争点1)

ロ 本件各貸付利息の独立企業間価格を独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定する場合の利率はいくらか。(争点2)

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2 主張

(1) 争点1(本件各貸付利息の独立企業間価格の算定に用いるべき方法は何か。)について

イ 原処分庁

独立価格比準法と同等の方法、再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法はいずれも比較対象取引の候補とするものがないことから、これらの方法を本件各貸付利息の独立企業間価格の算定に用いることはできない。
 そこで、請求人には本件各借入れ等の実績があることから、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として、改正前事務運営指針2−7の(1)又は改正後事務運営指針2−7の(2)に掲げる貸手の銀行調達利率による方法を用いたものであり、法令の適用に誤りはない。

ロ 請求人

改正前措置法第66条の4第2項第2号が適用される平成20年5月期から平成24年5月期までの各事業年度は、基本三法と同等の方法である原価基準法と同等の方法を用いることができ、また、改正後措置法第66条の4第2項第2号が適用される平成25年5月期は、原価基準法と同等の方法が最も適切な方法である。
 したがって、本件各貸付利息の独立企業間価格の算定は原価基準法と同等の方法を用いるべきであるから、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を用いた原処分は法令の適用を誤っており違法である。

(2) 争点2(本件各貸付利息の独立企業間価格を独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定する場合の利率はいくらか。)について

イ 原処分庁

貸手の銀行調達利率による方法は、国外関連取引の貸手が銀行等から国外関連取引と同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率により算定するもので、その利率は銀行等の調達金利に銀行等のスプレッドを加えたものとなるところ、本件各借入れ等の貸借期間は最長でも3年2か月であるのに対し、本件各貸付けの貸借期間は10年又は20年であり、利率に影響を与える貸借期間が同様の状況にはないから、本件各借入れ等の利率を貸手の銀行調達利率とすることはできない。
 原処分は、本件各貸付けの各貸付日における各貸借期間に係るスワップレートを銀行等の調達金利とし、本件各借入れ等に係るN銀行のスプレッドを加えた利率を用いて独立企業間価格を算定したものであるから合理的なものである。

ロ 請求人

独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として貸手の銀行調達利率を用いるとしても、次のとおり、本件各借入れ等に係る各貸借期間は、本件各貸付けの各貸借期間と同一であり、利率に影響を与える貸借期間が同様の状況にあったといえるから、本件各借入れ等の利率を用いることができる。
 したがって、誤った事実認定に基づき独立企業間価格を算定した原処分は違法である。
 L社及び請求人は、本件各借入れ等を行い、その調達した資金をK社に転貸したところ、本件各借入れ等に際して請求人とN銀行との間では、その使途がK社に対する貸借期間10年又は20年の長期の貸付金であり、K社から返済される金銭をもって本件各借入れ等の返済に充てることを前提としており、本件各借入れ等に係る各貸借期間も10年又は20年とする旨が当然合意されていた。
 しかしながら、原処分庁は、このような本件各借入れ等と本件各貸付けとの関連性を特に考慮することなく、本件各借入れ等の貸借期間を最長でも約3年であると認定した。

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3 判断

(1) 争点1(本件各貸付利息の独立企業間価格の算定に用いるべき方法は何か。)について

イ 法令解釈

(イ) 改正前措置法における独立企業間価格の算定方法について

A 棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る独立企業間価格の算定方法を定めた改正前措置法第66条の4第2項第2号は、上記1の(3)のイの(イ)のBのとおり、同号イに掲げる方法が用いることができない場合に限り、同号ロに掲げる方法を用いることができる旨規定しているところ、同号イに掲げる方法は実在する非関連者間取引を比較対象取引として用いて算定する基本三法と同等の方法であり、同号ロに掲げる方法は基本三法に準ずる方法と同等の方法並びに利益分割法と同等の方法、取引単位営業利益法と同等の方法及び取引単位営業利益法に準ずる方法と同等の方法とされている。
 したがって、改正前措置法第66条の4第2項の規定は、国外関連取引と比較可能な非関連者間の取引が実在する場合には、同項第1号イないしハ及び同項第2号イにより、当該実在の取引を比較対象取引とすることを原則としているが、そのような取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような仮想取引を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、同項第1号ニの「準ずる方法」及び同項第2号ロのこれと「同等の方法」として許容する趣旨と解するのが相当である。このことは、国内及び国際的な金融市場が存在する通貨の貸借取引に係る利息の独立企業間価格の算定についても同様のことがいえ、融資取引の代表例である金融機関による貸付けの利率は、市場金利に基づく調達コストに、事務コストや利ざや等から構成されるスプレッドを加えるという方法で決定されていることから、当該金融機関による貸付けを基準とすることにも十分な合理性があるというべきである。
 なお、比較対象取引とする仮想取引については、国外関連取引との類似性の程度が十分な非関連者間取引であることを要し、金銭の貸借取引においては、国外関連取引と通貨が同一で、貸借時期、貸借期間等の金利に影響を与える諸要因が同様であることを要するものと解される。

B また、改正前措置法通達66の4(6)−4は、上記1の(3)のイの(ロ)のAのとおり、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法を適用できない場合には、国外関連取引の借手が銀行等から国外関連取引と同様の条件の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を比較対象取引における利率として、独立企業間価格を算定することができることを定め、さらに、改正前事務運営指針2−7は、同(ロ)のBのとおり、改正前措置法通達66の4(6)−4に定める独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法のいずれも適用できないときは、国外関連取引の貸手が非関連者である銀行等から国外関連取引と同様の状況の下で借り入れたとした場合に通常付されたであろう利率又は国外関連取引に係る資金を国外関連取引と同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られたであろう利率を独立企業間の利率として利率の適否を検討する旨定めているところ、これらの取扱いは、いずれも独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として、改正前措置法第66条の4第2項の上記Aの趣旨に適合するものであるから、当審判所においても相当であると認められる。
 さらに、上記Aに示した融資取引の代表例である金融機関による貸付けは、国際金融市場で示された短期金利と交換可能な長期金利の水準を示す金利スワップにおけるスワップレートに、金融機関の事務コストや利ざや等から構成されるスプレッドを加えた利率により行われていることから、上記1の(3)のイの(ロ)のCのとおり、貸手の銀行調達利率による方法の利率について、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借り入れた場合のスプレッドを加えた利率となる旨を示した改正前参考事例集の事例4の取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。

(ロ) 改正後措置法における独立企業間価格の算定方法について

A 改正後措置法第66条の4第2項は、OECD移転価格ガイドラインの改定に伴い従来の算定方法の適用上の優先順位が廃止され、上記1の(3)のロの(イ)のBのとおり、独立企業間価格とは、各算定方法のうち、国外関連取引の内容及び国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、最も適切な方法により算定した金額をいう旨規定しているが、金銭の貸借取引において国外関連取引と比較可能な非関連者間の取引が実在しない場合には、上記(イ)の法令解釈と同様に、融資取引の代表例である金融機関による貸付けを基準とすることにも十分な合理性があるというべきである。

B また、改正後措置法通達66の4(7)−4は、本文を改正前と同文とし、注書において、借手の銀行調達利率による方法は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法となることを、さらに、改正後事務運営指針2−7は、必要に応じて検討する方法として、借手の銀行調達利率による方法を加え、改正後参考事例集の事例4は、上記1の(3)のロの(ロ)のCのとおり、改正後事務運営指針2−7の(2)に掲げる貸手の銀行調達利率による方法を最も適切な方法として選定することが妥当と認められるとした上で、改正前参考事例集の事例4と同様の取扱いを示しているところ、これらの取扱いは、上記Aの趣旨に適合するものであるから、当審判所においても相当であると認められる。
 加えて、通常、金銭の貸借取引に付される利率は、借手の信用リスクを考慮して設定されることから、あるべき標準的取引価格を求めようとする独立企業間価格の算定に当たっては、借手の銀行調達利率による方法が最も適当で、一方の当事者の貸手の銀行調達利率による方法が次いで適当であり、国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率による方法は、上記いずれの方法も用いることができない場合に用いることが相当と解されるところ、改正後事務運営指針2−7の注書は、上記1の(3)のロの(ロ)のBのとおり、借手の銀行調達利率による方法、貸手の銀行調達利率による方法及び国債等の運用利率による方法の順に独立企業原則に即した結果が得られることとなるとしており、当該取扱いは当審判所においても相当であると認められ、改正前措置法第66条の4第2項の適用に当たっても共通する考え方である。

ロ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) K社は、L社及び請求人以外の者から金銭の借入れを行ったことはない。

(ロ) 原処分庁は、本件各貸付利息の独立企業間価格の算定において、基本三法と同等の方法による算定をするための比較対象取引をいずれも把握することができなかった。また、当審判所の調査によっても、当該比較対象取引を見いだすことはできない。

(ハ) 請求人は、平成27年11月12日、原価基準法と同等の方法を適用する場合の比較対象取引に関する当審判所の質問に対し、比較対象取引として主張できる取引を提出することは難しいが、原価基準法と同等の方法を用いることができるとの主張はする旨答述した。

ハ 当てはめ

(イ) 基本三法と同等の方法について

基本三法と同等の方法の適用に当たっては、それぞれの独立企業間価格の算定に求められる比較可能性のある比較対象取引が必要であるところ、上記ロの(イ)のとおり、K社はL社及び請求人以外の者から借入れを行ったことはないこと、同ロの(ロ)のとおり、原処分庁は本件各貸付けに係る比較対象取引を把握することができず、また、当審判所の調査の結果によっても当該比較対象取引を見いだすことができない上に、同ロの(ハ)のとおり、請求人から原価基準法と同等の方法を用いるための比較対象取引の提出はないことから、基本三法と同等の方法を用いることはできない。

(ロ) 独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法について

A 借手の銀行調達利率による方法

K社は、上記ロの(イ)のとおり、L社及び請求人以外の者から金銭の借入れを行ったことがないことから、借手の銀行調達利率による方法を用いることはできない。

B 貸手の銀行調達利率による方法

L社及び請求人は、上記1の(4)のホのとおり、N銀行から本件各借入れ等をしており、本件各貸付けに係る通貨の各貸付日における各貸借期間に対応する金利スワップのスワップレート及び本件各借入れ等に係るスプレッドを基礎として貸手の銀行調達利率による方法を用いる余地がある。
 この点、本件各貸付けに係る通貨の各貸付日における各貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートについては、金融市場において示された水準を入手可能である。また、スプレッドについては、本件各借入れ等は本件各貸付けと同一通貨、同時期、ほぼ同金額のものであるから、本件各借入れ等のスプレッドを基礎に貸借期間等の諸要因による影響を勘案した上で用いることにも合理性があるといえ、加えて、上記イの(ロ)のBのとおり、貸手の銀行調達利率による方法は国債等の運用利率による方法より独立企業原則に即した結果が得られることに照らしても相当と認められる。

(ハ) まとめ

本件各貸付利息の独立企業間価格の算定方法については、上記(イ)及び(ロ)のAのとおり、基本三法と同等の方法及び独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする借手の銀行調達利率による方法を用いることはできず、同(ロ)のBのとおり、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする貸手の銀行調達利率による方法を用いることに合理性が認められ、また、他により合理的な方法も見いだし得ない。
 したがって、改正前措置法が適用される平成20年5月期ないし平成24年5月期については、基本三法と同等の方法を用いることができない場合に用いることができる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法(貸手の銀行調達利率による方法)が相当であり、また、改正後措置法が適用される平成25年5月期については、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法(貸手の銀行調達利率による方法)が最も適切な方法と認められるから、本件各事業年度の本件各貸付利息の独立企業間価格は、いずれも貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定すべきである。

ニ 請求人の主張について

請求人は、原価基準法と同等の方法が適用できる旨主張するが、上記ロの(ハ)のとおり、本件各貸付利息の独立企業間価格の算定の基礎となる比較対象取引を示した上で具体的に主張するものではないから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(本件各貸付利息の独立企業間価格を独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定する場合の利率はいくらか。)について

イ 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 東京金融市場における円の金利スワップのスワップレートであるTOKYO SWAP REFERENCE RATE TELERATE(以下「TSRレート」という。)の本件各貸付けの各貸付日における各貸借期間に対応するレート(午前10時と午後3時の公表レートのうちいずれか低いレート)は、別表5のとおりであった。

(ロ) N銀行が本件各借入れに際し作成した○○りん議書、○○りん議書、○○報告書又は○○確認票などに記載されたスプレッドは、いずれもN銀行の事務経費に相当する部分や借手の信用力に相当する部分を含むN銀行が得るべき利益に相当する金利であり、当該スプレッドの数値は、別表4の順号1ないし8及び10の「スプレッド」欄のとおりである。

(ハ) N銀行が本件社債発行に際し作成した○○補足書の当行利ざやは、N銀行が得るべき利益に相当するものであり、当該利ざやの数値は、別表4の順号9の「スプレッド」欄のとおりである。なお、本件社債発行に際し、本件各借入れと同様に○○りん議書が作成されている。

(ニ) N銀行は、請求人との間で要旨次の内容の金銭消費貸借契約証書を平成23年3月31日付で取り交わしており、当該証書に係る契約は、本件各借入れ等のうち別表4の順号10の借入れの書替えによるものと認められ、同順号10の借入れの金利の設定方式(固定)及び利率(X.XX%)とは、それぞれ異なった内容である。
A 借主 請求人
B 貸付金額 665,000,000円
C 弁済期日 平成26年3月31日
D 使途 既存借入返済資金(当初米国現法転貸資金)
E 利息 変動利率年X.XX%(基準利率+X.XX%で変動する)

(ホ) N銀行の○○営業部の融資業務を行う担当者の平成26年5月8日の原処分庁所属の調査担当職員に対する次のAの申述及び上記(ニ)の事実によれば、本件各借入れ等の金利は本件各貸付けの各貸借期間と同一の貸借期間の金利とは認められない。また、同担当者の次のBの申述は、自らが従事した融資業務に関する実態を述べたものであり、当該実態があったと認められる。さらに、同担当者の次のCの申述及び上記(ハ)の事実によれば、本件社債発行は、N銀行において請求人への融資と同様のものと認められる。

A 請求人とは貸付期間3年程度の融資取引を行い、金銭消費貸借契約書上の貸付期間が終了して書替えする場合には、当初の金銭消費貸借契約を引き継ぐのではなく、書替え時の市場金利を基に貸付金利を設定し、別に新たな契約を締結するものである。

B スプレッドは貸付先の信用力によるところが大きく、貸付期間の長短ではほとんど変わらない。

C 貸出先にとっては、証書貸付、手形貸付及び私募債の発行などの借入手段がある。請求人との融資取引において、私募債の発行はN銀行からお願いしたものである。

(ヘ) 一般社団法人全国銀行協会が公表した平成20年2月1日から平成20年3月14日までの間のTIBOR(東京市場の銀行間取引金利)の日本円6か月物の年利率は、0.88500%から0.88917%までの間で推移し、その変動幅は0.00417ポイントであった。

(ト) 原処分庁は、本件各貸付利息の独立企業間価格について、金融市場の本件各貸付けに係る通貨の各貸付日における本件各貸付けの各貸借期間と期間を同様とする金利スワップの各スワップレート(別表5の「各貸借期間に対応するTSRレート」欄)に、本件各借入れ等の各スプレッド(別表4の「スプレッド」欄)を加えた各利率(別表6の「利率(年利)」欄)により本件各事業年度に対応する金額を計算し、本件各貸付けに係る契約書の利率による本件各事業年度に対応する金額との差額を益金の額に算入する更正処分をした。

ロ 当てはめ

貸手の銀行調達利率による方法は、上記(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、国外関連取引の貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借り入れた場合のスプレッドを加えた利率を用いるものであるところ、本件各貸付利息に係る貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定する場合の利率を検討すると、以下のとおりとなる。

(イ) 金利スワップのスワップレートについて

別表5のTSRレートは、上記イの(イ)のとおり、金融市場の本件各貸付けに係る通貨の各貸付日における各貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートであるから、これを用いることは相当と認められる。

(ロ) 本件各借入れに係るスプレッドについて

本件各借入れの貸借期間と本件各貸付けの貸借期間はいずれも異なるものであるが、本件各借入れは、1本件各貸付けと同一の通貨で貸借時期がほぼ同時期であること、2上記イの(ホ)のBのとおり、スプレッドは貸付期間の長短ではほとんど変わらないという融資業務に関する実態があったことに加え、一般的に、短期融資に比較して長期融資の方がリスクが高いと考えられること、3他にスプレッドに影響する要因は見いだせないことなどを踏まえると、本件各借入れに係るスプレッドを用いることにも合理性が認められる。
 なお、K3の貸手はL社であり、一方、別表4の順号3の借入れは請求人のN銀行からのものであるが、1当該借入れの時期は、L社のK社への貸付けの時期とほぼ同時期であること、2L社のN銀行からの同表の順号1、2、4及び5の借入れのスプレッドはX.XXX%からX.XXX%までの数値であるところ、L社は請求人の100%出資の子会社であり、L社の信用力を基に付されるスプレッドが請求人の信用力を基に付されるスプレッドを下回ることはないと推認されることからすると、K3の貸手の銀行調達利率による方法のスプレッドとして同表の順号3の借入れのスプレッドの数値であるX.XXX%を用いることには合理性が認められる。

(ハ) 本件社債発行に係るスプレッドについて

別表4の順号9の本件社債発行に係るスプレッドは、本件社債発行を引き受けたN銀行の利ざやであり、社債発行は金銭の貸借とは異なる形態によるものであることから、当該利ざやを国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借入れた場合のスプレッドとはいえないとも考えられる。しかしながら、1上記1の(3)のイの(ロ)のCのとおり、スプレッドとは一般的に金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含むと考えられているところ、上記イの(ハ)のとおり、本件社債発行の利ざやはN銀行が得るべき利益に相当するものと認められること、2上記イの(ホ)のとおり、本件社債発行の実質は金銭の貸借とも考えられること、3本件社債発行とほぼ同じくする借入実行日(平成20年3月14日)及び貸借期間(3年1か月)である別表4の順号10の借入れに係るスプレッドはX.XXX%で、上記イの(ヘ)のとおり、本件社債発行前の同年2月1日から当該借入実行日までの間の金利は変動幅0.00417ポイントで安定して推移しており、請求人が本件社債発行の日にN銀行から借入期間3年間の借入れをした場合に付されるスプレッドはX.XXX%を上限とするとしても、当該上限の数値を上回らない限りにおいて許容されるといえることからすると、別表4の順号9の「スプレッド」欄のX.XXX%は、当該上限の数値をX.XXXポイント下回るものであり、また、上記(ロ)と同様にK9の貸借期間と異なる期間のスプレッドを用いることにも合理性が認められるから、K9の貸手の銀行調達利率による方法のスプレッドとして合理性を有するものと認められる。

(ニ) まとめ

上記(イ)ないし(ハ)のとおり、別表5の「各貸借期間に対応するTSRレート」欄の各数値に別表4の「スプレッド」欄の各数値を加えた利率である別表6の「利率(年利)」欄の各利率は、貸手の銀行調達利率による方法を用いて算定する場合の適正な利率といえる。
 したがって、本件各貸付利息の独立企業間価格は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする貸手の銀行調達利率による方法を用い、別表6の「利率(年利)」欄の各利率により算定することが相当である。

ハ 請求人の主張について

請求人は、上記2の(2)のロのとおり、N銀行との間で本件各借入れ等に係る各貸借期間を10年又は20年とする旨が合意されており、本件各借入れ等と本件各貸付けの貸借期間は同一であるから、本件各借入れ等の利率を用いることができる旨主張する。
 しかしながら、本件各借入れ等の貸借期間が本件各貸付けの貸借期間と同一の期間であると認めるに足りる証拠はない上に、請求人の主張するN銀行との合意の内容は定かではないものの、上記イの(ホ)のとおり、本件各借入れ等の金利は本件各貸付けの各貸借期間と同一の貸借期間の金利とは認められないことから、貸手の銀行調達利率による方法の利率として本件各借入れ等の利率を用いることができるとの請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

本件各貸付利息の独立企業間価格は、上記(2)のとおり、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする貸手の銀行調達利率による方法を用いて別表6の各利率により算定することとなり、これに基づき、本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額並びに本件課税事業年度の復興特別法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を算定すると、いずれも本件法人税各更正処分及び本件復興特別法人税更正処分の金額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

本件各更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分について、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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