(平成28年2月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人P1、同P2及び同P3(以下、順に「請求人P1」、「請求人P2」及び「請求人P3」といい、併せて「請求人ら」という。)が、被相続人P4(以下「本件被相続人」という。)に係る相続財産であるアメリカ合衆国(以下「米国」という。)e州f市所在の不動産の価額を、f市財産税の評価額に基づき評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該不動産の価額は、e州遺産税の申告における価額(鑑定評価額)によるべきであるなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人らが、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

 関係法令等の要旨は、別紙2記載のとおりである。

(3) 審査請求に至る経緯

イ 本件被相続人は、平成22年3月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した。本件被相続人の死亡により開始した相続(以下「本件相続」という。)の共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人P2、長男である請求人P1及び二男である請求人P3である。請求人らは、本件相続に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を、法定申告期限内である平成23年1月4日にG税務署長に提出して相続税の申告をした(以下「本件申告」という。)。

ロ 本件申告に係る相続財産及び債務等は、別表2の「申告額」欄に金額の記載のある財産及び債務等であり、この中には、別表3記載のf市○区所在の不動産17物件(ただし、順号1の不動産については持分3分の1。以下併せて「本件対象不動産」という。)が含まれている。

ハ 請求人P1及び請求人P3は、平成23年12月14日、本件申告において、本件対象不動産のうち、別表3の順号2ないし17の物件の本件被相続人の持分を全部としていたが、これは誤りであり、真実の持分は10分の6であるなどとして、G税務署長に対し、別表1の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求をしたが、同税務署長は、平成24年3月12日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人P1及び請求人P3は、上記通知処分に対し不服申立てをしていない。

ニ G税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成25年7月30日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件相続に係る相続税の各更正処分(否認内容等は後記(4)のトのとおり。以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

ホ 請求人らは、平成25年9月27日、本件各更正処分等を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年1月14日付で、棄却の異議決定をした。

ヘ 請求人らは、平成27年2月20日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人P1を総代として選任した。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 本件被相続人は、医師であり、同じく医師であるP5と共に、昭和○年頃から、a市b町○−○所在のd病院を共同で経営していた(以下、d病院に係る事業を「本件病院事業」という。)。
 請求人P2は、d病院に薬剤師として勤務していた。

ロ H社は、昭和○年○月○日に設立された、医療器具のリース及び販売、不動産の売買、賃貸借等を事業目的とする法人であり、本件相続開始日まで、本件被相続人が代表取締役を務め、本件被相続人及び請求人P2が発行済株式の全部を有していた。

ハ 本件被相続人、請求人P2、P5及びH社は、昭和62年5月15日、外国における不動産の売買、賃貸借等の事業を共同で営むことを目的とする任意組合契約を締結し、任意組合を組成した(以下、当該任意組合を「本件組合」という。)。
 本件組合は、f市所在の不動産(主に居住用物件)を賃貸する事業(以下「本件不動産事業」という。)を営んでいた。
 本件相続開始日における本件不動産事業に係る不動産は、本件対象不動産のほか、別表4の順号1の不動産の請求人P2及びP5の各持分3分の1並びに請求人P2所有の順号18の不動産(以下併せて「本件組合不動産」という。)である。

ニ 本件組合不動産の○○(登記記録)上の本件被相続人、請求人P2及びP5の所有権登記は、別表4の「登記持分(本件申告)」欄のとおりである。

ホ 請求人P2は、本件相続開始日後、f市に事務所を置く不動産鑑定会社であるJ社に本件対象不動産の鑑定を依頼し、別表3の「4鑑定価額」欄のとおり鑑定結果を得た(以下、同欄記載の価額を「本件鑑定価額」という。)上、2010(平成22)年12月19日、本件鑑定価額を本件対象不動産の価額として、本件被相続人に係るe State Estate Tax(e州遺産税)及びUnited States Estate Tax(連邦遺産税)の申告をした(以下、これらの申告を併せて「本件米国申告」という。)。なお、e州遺産税及び連邦遺産税は、いずれもいわゆる遺産課税方式(被相続人の遺産全体を課税物件として課税する方式)による相続税である。
 本件米国申告のうち、e州遺産税の申告については、e State Department of Taxation and Finance(e州税務・財政局)から、当該申告が申告どおり受理され、納付義務が履行されたことを証明する旨及びこれまでに開示されていなかった資産が新たに見つかった場合等を除き、当該申告についての審議をやり直すことはない旨が記載された2011(平成23)年4月13日付のClosing Letter(クロージングレター)と題する文書が発行されている。
 なお、連邦遺産税については、特例措置により、2010(平成22)年中はその課税が停止されていたことから、本件相続に係る課税はされなかったものである。

ヘ 請求人らは、平成22年12月28日付遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)により、本件被相続人の相続財産について遺産分割協議を成立させた上、同協議書記載の本件被相続人の財産及び債務等を相続財産及び債務等として、本件申告をした。
 請求人らは、本件申告において、本件対象不動産の価額を、別表3の「本件申告における価額」欄の「1財産税評価額」欄記載のReal Property Tax(f市財産税)の算定の基礎となる評価額(Market Value。以下「財産税評価額」といい、本件対象不動産に係る財産税評価額を「本件財産税評価額」という。)から、本件財産税評価額に借家権割合として100分の30の割合を乗じた金額を控除して算定した「3評価額」欄記載の価額とした。

ト 本件各更正処分が基礎とした相続財産及び債務等の金額は、別表2の「更正処分額」欄のとおりであり、否認内容等は次のとおりである。

(イ) 本件対象不動産について
 本件対象不動産の評価通達5−2に定める売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価した価額は、本件申告が用いた本件財産税評価額に基づく価額ではなく、本件鑑定価額と認められるから、その差額を課税価格に加算又は減算する。

(ロ) 土地(貸家建付借地権)について
 別表2の順号1の(1)ないし(4)の貸家建付借地権は、借家権割合の誤り等の評価誤りがあるから、その評価差額を課税価格に加算する。

(ハ) 有価証券について
 本件申告書に記載がない別表2の順号3の(1)及び(2)の有価証券は、相続財産に該当するから、課税価格に加算する。

(ニ) 預貯金について
 別表2の順号4の(1)の定期預金は、本件病院事業に係る事業預金であるとして、その2分の1の金額を本件申告書に記載しているが、同預金は、本件病院事業とは関係のない本件被相続人の固有の預金であり、その全額が相続財産に該当するから、その差額を課税価格に加算する。
 また、本件申告書に記載がない別表2の順号4の(2)の預金は、本件病院事業に係る事業預金と認められ、その2分の1が相続財産に該当するから、課税価格に加算する。
 さらに、本件申告書に記載がない別表2の順号4の(3)及び(4)の預金は、相続財産に該当するから、課税価格に加算する。

(ホ) 生命保険金について
 別表2の順号5の(1)の生命保険金は、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号に規定する、相続により取得したものとみなされる財産であるから、課税価格に加算する。
 また、本件申告書に記載がある別表2の順号5の(2)の生命保険金及び上記生命保険金のうち15,000,000円は、相続税法第12条第1項第5号の規定による非課税財産に該当するから、同金額を課税価格から減算する。

(ヘ) 預け金及び未収金について
 別表2の順号5の(4)ないし(6)の預け金及び未収金は、相続財産に該当するから、課税価格に加算する。

(ト) 債務控除について

A 借入金について
 別表2の順号8の(1)ないし(10)の借入金は、本件被相続人を被保険者とする団体信用生命保険契約に係る生命保険金により補填されるから、債務控除の金額から減算する。
 また、別表2の順号9の(1)ないし(4)の借入金(本件対象不動産の取得に係る米国ドル建て借入金)は、邦貨換算レートに誤りがあるから、その評価差額を債務控除の金額に加算する。

B 敷金について
 別表2の順号10の本件対象不動産に係る敷金は、邦貨換算レートに誤りがあるから、その評価差額を債務控除の金額に加算する。

C 公租公課について
 別表2の順号11ないし13の公租公課は、本件被相続人に係る平成18年分ないし平成22年分の所得税の更正処分等により、請求人らが納付すべきこととなる本件被相続人に係る所得税、加算税(平成21年分及び平成22年分を除く。)、延滞税(本件相続開始日後の期間に対応する部分を除く。)、市民税及び事業税であり、これらは本件被相続人の債務であるから、債務控除の金額に加算する。

D 別表2の順号14の未払医療費は、本件被相続人に係る医療費の未払金であり、本件被相続人の債務であるから、債務控除の金額に加算する。

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2 争点

(1) 争点1 本件対象不動産の価額

(2) 争点2 課税価格の計算上控除すべき本件被相続人の債務の有無

(3) 争点3 通則法第65条第4項に規定する正当な理由の有無

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3 争点に対する当事者双方の主張

(1) 争点1 本件対象不動産の価額

原処分庁 請求人ら
次の理由から、本件対象不動産の価額は、本件鑑定価額によるべきである。また、当該価額から借家権の価額を控除することはできない。 次の理由から、本件対象不動産のうち、別表3の順号3及び4以外の不動産(以下「本件係争不動産」という。なお、本件組合不動産>本件対象不動産>本件係争不動産の順に、広い範囲を示すものである。)の価額は、本件財産税評価額から、当該価額に借家権割合として100分の30の割合を乗じて計算した価額を控除した価額によるべきである
 仮に、本件財産税評価額による評価が認められないとしても、別表3の順号3及び4の不動産を含め、借家権割合の控除は認められるべきである。
イ 本件鑑定価額は、f市の不動産鑑定の精通者であるJ社によって、本件相続開始日における市場価格として評価されたものであり、本件対象不動産の近隣の比較取引事例各3件以上の売買実例価額を本件対象不動産の各物件の態様に応じて調整した価額等を考慮していることから、評価通達5−2に定める「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するもの」に該当する。 イ 本件鑑定価額は、売買実例価額として採用した比較取引事例が各3件程度と少数であり、売主・買主の条件、経済状況等、物件に関連しない取引の特殊事情により価額が左右されている可能性を否定できないことから、「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するもの」として不適当である。
ロ 本件鑑定価額の算定上考慮された比較取引事例の財産税評価額は、同物件の売買実例価額と比較して、大きくかい離していることから、財産税評価額は「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」を示すものとはいえず、評価通達5−2に定める「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するもの」とは認められない。
 また、請求人らが本件財産税評価額の算定上考慮されたと主張する売買実例価額は、その状況、所在地域等、本件対象不動産との類似性が不明であり、どのように参酌されているのかが明らかでない。
 さらに、本件財産税評価額の評価基準日は、2009(平成21)年1月○日及び2010(平成22)年1月○日であり、本件相続開始日ではない。
ロ 本件財産税評価額は、各不動産区分において過去の近隣の売却物件の類似価格又は○○という売買実例価額から導かれる数値を用い、多くの比較取引事例の売買実例価額を考慮した上で計算され、取引ごとの特殊性を排除できるほどに平準化される形で売買実例価額を算出されていることから、本件鑑定価額よりも、評価通達5−2に定める「売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するもの」として適切である。
 また、本件財産税評価額の評価基準日は、2009(平成21)年1月○日及び2010(平成22)年1月○日であるが、不動産の取引価額は短期間で大きく変動するものとは考えにくいから、この両日の価額が近似値であれば、この間の平準化した価額を用いるのが適切であり、これらの観点から考えれば、本件相続開始日においてもこの平準化した価額と同額であると強く推認することができる。
ハ 請求人らは、本件米国申告において、本件対象不動産の価額を本件鑑定価額によっている。 ハ 仮に、本件鑑定価額が評価通達5−2に定める価額と認められるとしても、同通達は、最も適切なある特定の方法により評価すべきとは定めておらず、納税者が、適切な方法の中から、自己に最も有利な評価方法を選択して申告することが認められるべきである。
ニ そもそも、本件対象不動産は、評価通達5−2に定める「この通達に定める評価方法に準じて」評価することができない財産なのであるから、これに、ある部分についてのみ評価通達(評価通達93)を適用して評価をすることは背理であって、借家権の価額を控除することはできない。また、国外の不動産については、賃貸借による制約の有無や程度、価額への影響が不明であることから、評価通達93の定めを国外の不動産に適用する合理性は認められない。 ニ 本件財産税評価額は、借家権の負担がない物件をサンプルとして算出したものであると予測され、また、本件鑑定価額は、その算定に当たり考慮された比較取引事例に賃借権が設定されていない不動産が多く、賃借権の設定による不動産価額の減少は評価されていないと考えられるから、評価通達93及び同94の(1)に準じてK国税局長が定める100分の30の借家権割合を控除すべきである。

(2) 争点2 課税価格の計算上控除すべき本件被相続人の債務の有無

原処分庁 請求人ら
本件相続開始日における、本件被相続人の、P5、請求人P2及び本件被相続人の母であるP6に対する債務は認められない。 次のとおり、本件相続開始日における本件被相続人のP5、請求人P2及びP6に対する預託金又は借入金の返還債務若しくは不当利得の返還債務が認められるので、これらを課税価格の計算上控除すべきである。
イ P5に対する債務
 請求人らが主張する預託金、借入金ないし不当利得返還請求権を裏付ける証拠はない。
 請求人らが、本件被相続人がP5に対して負担している債務の金額の計算根拠として主張する、別表5の「P5キャッシュフロー状況表」により計算された金額は、P5のいわゆる可処分所得金額を推計したものであり、当該金額をもってP5が本件被相続人に預けた又は貸し付けた金額とは認められず、P5キャッシュフロー状況表が本件被相続人とP5との間で金銭消費貸借契約が締結されていたことを証明するものではない。また、本件対象不動産が取得された昭和62年から平成12年までの期間外の可処分所得を加算している根拠も不明である。
 さらに、本件病院事業に係る預金口座(以下「本件病院事業口座」という。)及び医局現金(以下「本件医局現金」という。)については、本件申告及び本件各更正処分において、その2分の1のみが被相続人の遺産とされており、請求人らがP5の資産と主張するこれら財産の残り2分の1は、相続税の課税対象財産からは除外されている。
イ P5に対する債務
 P5は、本件病院事業について、一部を除き、収益の分配を受けていなかった。そして、当該未分配額は、本件組合に出資されて、本件対象不動産に係るP5の共有持分となっているはずであった。しかし、P5は、本件各更正処分を機に、本件対象不動産が登記名義に従い本件被相続人に帰属することを認めることとなったが、そうであるとすれば、本件被相続人は、P5に対し、同人の本件組合に対する出資相当額又は上記未分配額につき、預託金若しくは借入金の返還債務又は不当利得の返還債務を負うこととなる。
 そして、本件被相続人がP5に対して負担していた債務の具体的な金額は、P5キャッシュフロー状況表のとおり、P5の昭和60年分から平成21年分までの所得税の確定申告における税引後所得金額から、キャッシュフローに影響する項目を加減し、P5の生活費等を控除して算出した金額の合計である407,671,404円であり、当該金員は、本件対象不動産の取得資金及び取得のための借入金の返済等に充てられている。
ロ 請求人P2に対する債務
 請求人らが主張する預託金、借入金ないし不当利得返還請求権を裏付ける証拠はない。
 請求人らが本件被相続人が請求人P2に対して負担している債務の金額の計算根拠として主張する、別表6の「P2店主勘定表」に記載された金額は、請求人P2の預金口座から本件病院事業口座に移動したとする金額であり、当該金額をもって請求人P2が本件被相続人に預けた又は貸し付けた金額とは認められず、本件被相続人と請求人P2との間で金銭消費貸借契約が締結されていたことを証明するものではない。また、本件対象不動産が取得された昭和62年から平成12年までの期間外の送金額を加算している根拠も不明である。
ロ 請求人P2に対する債務
 請求人P2は、昭和○年6月からd病院に勤務しており、請求人P2名義の預金口座に振り込まれた給与を、ある程度まとめて本件病院事業口座に送金し、同金員は、その後、本件組合に出資されて、本件対象不動産に係る請求人P2の共有持分となっているはずであった。しかし、請求人P2は、本件各更正処分を機に、本件対象不動産が登記名義に従い本件被相続人に帰属することを認めることとなったが、そうであるとすれば、本件被相続人は、請求人P2に対し、請求人P2が本件病院事業口座に送金した額について、預託金若しくは借入金の返還債務又は不当利得の返還債務を負うこととなる。
 そして、本件被相続人が請求人P2に対して負担していた債務の具体的な金額は、P2店主勘定表のとおり、昭和60年3月から平成21年12月までに請求人P2が本件病院事業口座に送金した額の合計である204,138,150円であり、当該金員は、本件対象不動産の取得資金及び取得のための借入金の返済等に充てられている。
ハ P6に対する債務
 本件被相続人とP6との間で金銭消費貸借契約が締結されていたことを裏付ける証拠はない。
 また、請求人らは審査請求書において、本件被相続人がP6から墓の購入資金及び管理費のために金銭を借り入れた旨主張するが、相続税法第13条第3項は、墓所及び霊びょうの取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、相続税の課税価格の計算上相続により取得した財産の価額から控除できない旨規定しており、仮に、墓の購入資金及び管理費のために金銭を借り入れたとしても、その返還債務は、墓所及び霊びょうの取得、維持又は管理のために生じた債務の金額に該当するため、控除できない。
ハ P6に対する債務
 P6は、本件被相続人から依頼を受けて、本件被相続人に金銭を貸し付けた。このことは、P6名義の預貯金口座からの出金状況及び本件被相続人名義の預金口座への入金状況を取りまとめた、別表7の「P6資金移動表」から明らかである。
 具体的な貸付額は、P6債務表のとおり、平成18年6月から平成19年5月までにP6が本件被相続人に交付した額の合計である21,770,000円である。

(3) 争点3 通則法第65条第4項に規定する正当な理由の有無

請求人ら 原処分庁

本件各更正処分が取り消されるべきである以上、これを前提とする本件各賦課決定処分も取り消されるべきである。
 仮に、本件各更正処分が適法であるとしても、請求人らには、真に請求人らの責に帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人らに過少申告加算税を賦課することが不当又は酷である場合ということができ、通則法第65条第4項の「正当な理由」があるため、本件各賦課決定処分は取り消されるべきである。すなわち、請求人らは、本件米国申告に係る手続を米国の法律事務所に委任しており、本件申告当時には本件米国申告に使用された本件鑑定価額に関する資料を受領していなかった。一方で、本件不動産事業の米国の連絡先であるLから取り寄せたf市財産税の通知書に記載された本件財産税評価額を本件対象不動産の価額と考え、これを用いて本件申告を行ったものである。したがって、本件相続に係る相続税の法定申告期限においては、請求人らは、本件鑑定価額と本件財産税評価額とで本件対象不動産の評価額が異なることを認識しておらず、これに気付くことは到底不可能であり、期待できなかった。

本件各更正処分は適法である。また、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」には、過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか、納税者の主観的な事情に基づくような場合を含むものではないところ、請求人らの主張は、請求人らのもっぱら主観的な事情をいうにとどまり、「正当な理由」とは認められない。

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4 判断

(1) 争点(本件対象不動産の価額)について

イ 法令解釈等

(イ) 評価の原則
 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額について、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここにいう時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的交換価値をいうものと解される。
 そして、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務においては、財産評価の一般的基準として、評価通達が定められ、原則として、同通達に定められた画一的な評価方式によって財産を評価することとされているが、かかる取扱いは、税負担の公平、効率的な税務行政の実現等の観点から合理的であり、当審判所においても相当と認める。

(ロ) 国外財産の評価
 評価通達5−2は、国外財産の評価について、同通達に定める評価方法によることを原則としつつ、同通達の定めによって評価することができない財産については、同通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとする旨定めている。これは、外国の法令や制度は国内と同一ではないことから、国外財産の中には、国内の法令や制度を前提として定められた評価通達をそのまま適用して評価することになじまないものがあり、そのような財産については、同通達に定める評価方法に準じて評価するか、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して、当該財産の客観的交換価値を個別的に把握するとの趣旨に出たものであると解され、かかる取扱いは当審判所においても相当と認める。

ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) e州遺産税及び連邦遺産税(以下併せて「e州遺産税等」という。)に係る財産の評価に関する法令の規定
 e州遺産税の申告において計上すべき財産の評価については、非居住者にも居住者に関する規定が適用されるとされ、e Tax Law(e州税法)第○章第○条(b)、第○条(b)(1)の各規定により、Internal Revenue Code(米国内国歳入法)第26章第2031条の規定が準用されている。
 そして、米国内国歳入法第26章第2031条は、連邦遺産税の申告において計上すべき「gross estate(総遺産)」の価額は、被相続人の死亡時における資産の価額を算定するものと規定し、同法の委任を受けた米国財務省規則第20の2031-1(b)は、「総遺産」に含まれる資産の価額は、被相続人の死亡時における「fair market value(適正市場価額)」とする、「適正市場価額」とは、自発的売手と自発的買手が、いずれも強制されることなく、かつ双方ともに関連事実について合理的知識を持った上で、その資産を取引する際の価額をいう、資産は、地方税納税のための評価額で申告してはならない、ただし、当該価額が評価日時点における適正市場価額を反映している場合はこの限りではないなどと規定している。

(ロ) 本件鑑定価額の評価方法等
 本件鑑定価額に係る鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)によれば、本件鑑定価額は、J社所属のe州の認定を受けた鑑定人が、米国鑑定業務基準に従い、本件対象不動産の本件相続開始日時点の市場価格(競争のある公開市場で、公正な販売に必要なあらゆる条件において、買手と売手が互いに慎重かつ賢明に行動し、その価額が不適切な影響を受けないと仮定した場合に形成される価額をいう。)を評価したものであるとされている。
 そして、本件鑑定評価書は、比較取引事例として、本件相続開始日に近接した時期の、本件対象不動産の各物件と同一建物内の類似タイプのユニット又は近隣の類似物件の取引事例を各3件以上選定し、取引時期、立地、設備、階数、眺望、建築の品質及び床面積等の市場価格に影響を及ぼすと考えられる諸要因に係る本件対象不動産と比較取引事例の較差を踏まえて比較取引事例の売買実例価額を調整し、取引事例比較方式による試算価格を算定した上、物件ごとに、原価方式及び収益方式の採用の可否を判断して、別表3の順号5以外の不動産については、原価方式及び収益方式を採用せず、取引事例比較方式による試算価格そのものを採用価格とした上、そこから、本件相続開始日において有効に存続している賃貸借契約の残存期間を考慮した減価を行って最終価格を決定し、また、同別表の順号5の不動産については、取引事例比較方式による試算価格ではなく、収益方式による価格を採用して最終価格を決定し、本件鑑定価額を求めている。

(ハ) 本件財産税評価額の評価方法等(なお、本項記載の事実は、当審判所が職権調査により収集したf City Department of Finance(f市財務局)作成の本件係争不動産に係る財産税通知書(以下「本件財産税通知書」という。)及び同財務局発行の○年版のf市財産税の評価方法に関するガイドライン等の証拠から認められる。)

A 評価基準時
 財産税評価額の評価基準時は、各年の1月○日である。
 なお、請求人らが本件申告において本件対象不動産の価額の基礎とした本件財産税評価額には、評価基準時が2009(平成21)年1月○日である2009/2010年度の財産税評価額と、評価基準時が2010(平成22)年1月○日である2010/2011年度の財産税評価額とが混在している。

B 評価方法
 財産税評価額の評価方法は、物件の居室数に応じて分類される「クラス」ごとに異なり、本件係争不動産が属するクラス○(○ないし○件の居室を有する物件)及びクラス○(○件以上の居室を有する物件)についての評価方法の概要は、次のとおりである(なお、請求人らが当審判所に提出したf市財務局発行の財産税に関するクラス別の説明書は、○年○月改訂版であり、本件相続開始日当時の財産税評価額の評価方法を説明したものとは認められない。)。

(A) クラス○についての評価方法
 別表3の順号5の不動産は、クラス○に分類される。
 本件財産税通知書において、別表3の順号5の不動産の本件財産税評価額は、収受した又は収受可能な収入を基準に評価した価額であり、同不動産に係る総収入に、○○という係数を乗じて計算する収益方式により評価したものであるとされている。

(B) クラス○についての評価方法
 別表3の順号1、2及び6ないし17の各不動産は、クラス○に分類される。
 本件財産税通知書において、別表3の順号1、2及び6ないし17の各不動産の本件財産税評価額は、販売価額ではなく賃貸物件としての価額を評価すべきものであり、まず、ビル全体に係る総収入額を推定し、これに○○を乗じてビル全体の評価額を推定した上で各居室に割りつけるという収益方式により評価したものであるとされている。

(ニ) 財産税評価額に関する論評等

A f市財務局が発行した○○(財産税報告書)の記載内容
 f市財務局が発行した○年版の財産税報告書の冒頭に、「○○」と題した特別報告が掲載されている。当該特別報告は、○年のe Real property Tax Law(e州財産税法)の大改正の原因となった上院法案○の内容等及びこれがその後○年間のf市財産税に及ぼした影響についてまとめたものであり、そこには、「従前、自用の居住用不動産の財産税評価額は、売買事例を比準した比較方式で評価されていたが、○法の制定により、e州財産税法第○条が規定され、コンドミニアム形式等の居住用不動産は、売買価額と関係なく、賃貸用不動産として収益方式により評価されることとなった結果、それらの不動産の財産税評価額は、相当低額となり、しばしば実際の市場価格や売買価額との相関関係が全く見出せないような状況となった。また、f市財務局が実施した、個々の区画の売買価額を基に評価した価額と収益方式によって算定された価額の比較分析では、両価額は顕著にかい離している場合があり、特に、高価額のコンドミニアム等についてその傾向が顕著である。」旨が記載されている。

B City of f,Office of the Comptroller(f市監査官室)が発行した○○(財務監査報告書)の記載内容
 f市監査官室が○年に発行した財務監査報告書には、「f市財務局が、財産の評価方法を変更した結果、財産税評価額が大きく変動し、一部の不動産の納税額に大きく影響を及ぼした。すなわち、クラス○の不動産の財産税評価額の評価方法は、○/○年度より前は、○○(純利益キャップレート方式)を採用し、○/○年度から○○(○方式)に変更され、○/○年度から○○(純利益キャップレート方式)に再度変更された。両評価方法は、e州財産税法によって認められているものの、変更の根拠は示されず、当該評価方法の変更は、クラス○の不動産の評価額に多大な変動を及ぼした。また、居室数が○件より下のクラス○から○の不動産の財産税評価額を算出するための標準が変更されたことにより、それらの不動産の財産税評価額にも多大な影響を及ぼした。加えて、f市財務局は、財産税評価額を算定する際に採用する比較不動産の選定を、財産評価ガイドラインに従って適切に行っておらず、その結果、収益が不当に低く算定されて過少評価された不動産が見受けられる一方、収益が高く算定されて過大評価された不動産も見受けられる。」旨が記載されている。

(ホ) 本件鑑定評価書が採用した比較取引事例に係る財産税評価額と売買価額との対比

A クラス○に分類される不動産について
 別表8の(1)のとおり、クラス○に分類される別表3の順号5の不動産について、本件鑑定評価書が選定した比較取引事例は4件であるが、各取引事例に係る不動産の財産税評価額は、売買価額より5割ないし6割程度低い。

B クラス○に分類される不動産について
 別表8の(2)ないし(15)のとおり、クラス○に分類される別表3の順号1、2、6ないし17の各不動産について、本件鑑定評価書が選定した比較取引事例は3件ないし5件であるが、各取引事例に係る不動産の財産税評価額は、売買価額より7割ないし9割程度低い。

ハ 判断

(イ) 評価通達13《路線価方式》、同14《路線価》、同21《倍率方式》及び同21−2《倍率方式による評価》は、土地及び土地の上に存する権利については、売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長が評定した路線価に基づいて評価する路線価方式又はこれらの価額等を基として国税局長が定める倍率を固定資産税評価額に乗じて評価する倍率方式により評価する旨定めている。また、評価通達89《家屋の評価》は、家屋については、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する旨定めている。
 そうすると、こうした路線価、倍率ないし固定資産税評価額が定められていない本件対象不動産については、評価通達の定めによって評価することができないことはもとより、同通達に定める評価方法に準じて評価することもできないから、上記イの(ロ)のとおり、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して、その時価、すなわち客観的交換価値を個別的に把握するのが相当である。

(ロ) そこで、まず、本件鑑定価額が本件対象不動産の客観的交換価値を表すものであるかをみると、上記1の(4)のホ、同4の(1)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件鑑定価額は、本件米国申告を行うため、e州遺産税等に係る本件対象不動産の適正市場価額を求めたものであるところ、ここにいう適正市場価額とは、自発的売手と自発的買手が、いずれも強制されることなく、かつ双方ともに関連事実について合理的知識を持った上で、その資産を取引する際の価額をいうものとされており、上記イの(イ)でみた相続税法第22条に規定する時価、すなわち客観的交換価値と、基本的に同義の価額を指向するものであると認めることができる。
 そして、本件鑑定価額の評価方法等は、上記ロの(ロ)のとおりであって、その鑑定価額の算定手順に別段不合理な点があるとは認め難いことに加え、上記1の(4)のホのとおり、本件鑑定価額を基にしたe州遺産税の申告が、州税務当局によって是認されていることを併せ考慮すれば、本件鑑定価額は、e州遺産税等に係る適正市場価額を表すものであると認められ、ひいては、客観的交換価値を表すものであると認めることができる。
 したがって、本件鑑定価額は、本件対象不動産の時価と認められる。

(ハ) 一方、請求人らが本件申告において本件対象不動産の価額の評価の基とした本件財産税評価額についてみると、次のようにいうことができる。

A 本件財産税評価額の評価基準時は、上記ロの(ハ)のAのとおり、2009年(平成21年)1月○日又は2010年(平成22年)1月○日であって、相続税法第22条に規定する時価の評価基準時である本件相続開始日(平成22年3月○日)とは異なる。

B また、上記ロの(ハ)のBのとおり、本件係争不動産が分類されるクラス○及びクラス○に係る財産税評価額の評価方法は、いずれも収益方式によるものとされており、その基本的な評価姿勢は、必ずしも市場価格ないし売買価額を指向するものとはいうことができない。

C さらに、上記ロの(ニ)のAのとおり、コンドミニアム形式等の居住用不動産に係る財産税評価額は、売買価額と関係なく、収益方式により評価される結果、しばしば市場価格との相関関係が見出せないような低額になる状況にあるとの指摘がf市財務局からされており、現に、同(ホ)のとおり、本件鑑定評価書が採用した比較取引事例に係る財産税評価額と売買価額とを対比すると、前者は後者より、クラス○の不動産について5割ないし6割程度、クラス○の不動産について8割ないし9割程度低いことが認められる。
 これらによれば、少なくともクラス○及びクラス○に分類される不動産に係る財産税評価額について、市場価格ないし売買価額との相関関係を見出すことはできず、かえって、所有期間中繰り返し課される財産税としての性格を有することを考慮し、市場価格ないし売買価額より相当程度低めの評価がされているものであることがうかがわれる。

D 加えて、上記ロの(ニ)のBのとおり、本件財産税評価額に関係する2009/2010年度及び2010/2011年度の財産税評価額については、f市監査官室により、度重なる評価方法の変更や比較不動産の不適切な選定等に起因する評価額の不安定性が指摘されている。

E 以上の諸点に鑑みれば、本件財産税評価額は、本件対象不動産の客観的交換価値を表すものであるとは認めることができず、これを時価と認めることはできない。

(ニ) 請求人らの主張について

A 請求人らは、本件鑑定価額は、採用した比較取引事例が各3件程度と少数であり、取引の特殊事情により価額が左右されている可能性を否定できないことから、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとして不適当である旨主張する。
 しかしながら、請求人らの主張は、抽象的な懸念を述べるものにすぎず、各取引事例の特殊事情について具体的に指摘するものではない。そして、上記(ロ)のとおり、本件鑑定価額の評価方法等を検討しても、その算定手順に別段不合理な点は認められないから、請求人らの主張は採用することができない。

B 請求人らは、仮に、本件鑑定価額が評価通達5−2に定める売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価した価額に当たるとしても、同通達は、最も適切な特定の方法により評価すべきとは定めていないのであるから、同じく売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価した価額に当たる本件財産税評価額を納税者が選択して申告することも認められるべきであるなどと主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のとおり、そもそも本件財産税評価額は本件対象不動産の客観的交換価値を表すものであるとは認められないのであるから、請求人らの主張はその前提を欠き、採用することができない。

C 請求人らは、本件係争不動産の評価に当たり、評価通達93及び同94の(1)に準じてK国税局長が定める100分の30の借家権割合の控除が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、そもそも本件係争不動産は評価通達に定める評価方法に準じて評価することができない財産なのであるから、借家権割合の控除に関してのみ同通達に準じて評価することを許容すべき理由はない。
 また、本件係争不動産に賃借権が設定されていることが、その価額に影響を及ぼすのであれば、当該事情は、本件鑑定価額の算定過程において考慮されるべきものであり、上記ロの(ロ)のとおり、本件鑑定価額の算定においても、取引事例比較方式による試算価格を採用したものについては、本件相続開始日において有効に存続している賃貸借契約の残存期間を考慮した減価が行われている。
 これらによれば、請求人らの主張は採用することができない。

(2) 争点2(課税価格の計算上控除すべき本件被相続人の債務の有無)について

イ 請求人らは、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上控除すべき本件被相続人の債務があるとして、要旨、次のとおり主張する。

(イ) P5は、本件病院事業に係る収益の分配金の一部を受け取らずに、これを本件組合への出資に充てていた(その金額は、別表5のP5キャッシュフロー状況表のとおり、合計407,671,404円と算定される。)ところ、本件各更正処分を機に、本件対象不動産に対するP5の持分が否定され、本件対象不動産はその全てが本件被相続人に帰属することとなったから、本件被相続人は、P5に対し、上記金額について、預託金若しくは借入金の返還債務又は不当利得の返還債務を負う。

(ロ) 請求人P2は、d病院から受け取った給与が一定程度貯まると、これを本件病院事業口座に送金し、本件組合に出資していた(その金額は、別表6のP2店主勘定表のとおり、合計204,138,150円である。)ところ、本件各更正処分を機に、本件対象不動産に対する請求人P2の持分が否定され、本件対象不動産はその全てが本件被相続人に帰属することとなったから、本件被相続人は、請求人P2に対し、上記金額について、預託金若しくは借入金の返還債務又は不当利得の返還債務を負う。

(ハ) P6は、別表7のP6資金移動表のとおり、本件被相続人に対し、合計21,770,000円を貸し付けたことから、本件被相続人は、P6に対し、同額の貸金返還債務を負う。

ロ そこで検討するに、請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、上記イの請求人らの主張に関係する事情として、次の事実が認められる。

(イ) 本件病院事業口座は、x1銀行○○支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○)、x2銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)、同支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○)、x3銀行○○支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○、○○○○)、x4銀行○○支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及びx5銀行の本件被相続人名義の通常貯金口座の合計7口である。

(ロ) 平成12年2月から平成21年12月までの間に、請求人P2のd病院からの給与振込口座であるx1銀行○○支店の請求人P2名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から、P2店主勘定表の当該期間の各月欄記載の金員が出金され、同金員が、本件病院事業口座の一つである同支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に入金されており、その合計は69,480,290円(以下「本件送金額」という。)である。
 一方、平成22年1月29日には、本件病院事業口座の一つであるx4銀行○○支店の「d病院P4」名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から、上記請求人P2名義の普通預金口座に対し、35,953,159円が送金されている。

(ハ) 本件病院事業口座及びx6銀行○○支店の本件被相続人名義の預金口座から、主としてx7銀行○○支店、x6銀行○○支店及びx6銀行○○支店の本件被相続人名義の各預金口座に対し、平成10年7月から平成12年11月までの間に、合計320,000米ドルが送金され、平成15年6月から平成20年7月までの間に、合計1,955,640.40米ドルが送金されている。

(ニ) 本件組合不動産の取得状況は、次のとおりである。

A 別表4の順号1の不動産は、1987(昭和62)年7月に、代金265,000米ドルで取得したものであり、代金の全額が現金で支払われている。

B 別表4の順号2ないし5及び8ないし17の不動産は、1987(昭和62)年9月から2000(平成12)年3月までの間に、順次取得したものである。取得代金の総額は10,115,000米ドルであり、そのうち3,471,445米ドルが現金で支払われ、残りの6,643,555米ドルが、本件被相続人の米国の金融機関からの借入金により支払われている。

C 別表4の順号6及び7の不動産は、○(平成○)年4月及び○(平成○)年3月に、本件被相続人及びMが、各2分の1の持分割合により共有取得し、後の○(平成○)年2月に、共有物分割により、本件被相続人が単独所有するに至ったものである。取得代金の総額は1,520,000米ドルであり、そのうち628,000米ドルが現金で支払われ、残りの892,000米ドルが、本件被相続人及びMの米国の金融機関からの借入金により支払われている。

D 別表4の順号18の不動産は、2000(平成12)年9月に、代金499,000米ドルで取得したものであり、取得代金のうち153,200米ドルが現金で支払われ、残り345,800米ドルが、請求人P2の米国の金融機関からの借入金により支払われている。なお、Lが月別に作成した本件組合不動産の収支に関する報告書(Monthly Report)には、当該借入金の元金および利息の返済として、各月に2,400米ドル前後の支払が計上されている。

(ホ) 別表9−2のとおり、平成12年1月から平成22年1月までの間に、本件病院事業口座から、x1銀行○○支店のP5名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及びx2銀行○○支店のP5名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に対し、合計94,000,000円の金員が送金されている。
 また、別表9−3のとおり、平成19年7月から平成21年12月までの間に、本件医局現金から、P5に対し、合計24,400,000円の金員が払い出されている。
 したがって、別表9−1のとおり、平成12年1月から平成22年1月までの間に、本件病院事業口座及び本件医局現金から、P5に対し、合計118,400,000円の金員が支払われていることになる。

(ヘ) P6資金移動表のとおり、平成18年6月から平成19年5月までの間に、x1銀行○○支店のP6名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及びx5銀行のP6名義の通常貯金口座(記号番号○○○○)から、合計21,770,000円が出金され、出金日と同日又はその翌日に、x4銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に、当該出金額と同額の現金が入金されている。
 上記本件被相続人名義の普通預金口座から、平成18年12月14日に5,000,840円が、平成19年6月20日に6,800,840円がそれぞれ出金され、墓石代の支払に充てられた。
 なお、上記本件被相続人名義の普通預金口座には、本件相続開始日現在、6,448,320円の残高があったが、同口座は、本件申告において相続財産に計上されておらず、本件各更正処分が基礎とした相続財産にも加算されていない。

(ト) 上記1の(3)のロ及び(4)のヘのとおり、本件遺産分割協議書及び本件申告書には、本件対象不動産が別表4の「登記持分(本件申告)」欄記載の登記名義等どおり本件被相続人に帰属するものとして、相続財産に計上されている。
 また、上記1の(3)のロ及び(4)のヘのとおり、本件遺産分割協議書及び本件申告書には、請求人らが上記イの(イ)ないし(ハ)で主張する本件被相続人の債務について、いずれも記載がない。

(チ) 本件被相続人、請求人P2、P5及びH社は、本件不動産事業に係る損益分配の割合が、別表4の「所得税等申告持分」欄のとおりであるとして、各人の平成18年分ないし平成22年分の所得税(H社にあっては法人税)の確定申告をしていたが、請求人ら、P5及びH社は、所轄税務署長から、平成25年7月31日付で、上記損益分配の割合は同別表の「登記持分(本件申告)」欄記載の本件組合不動産の登記名義の割合に応じて定めるのが適当であるなどとして、所得税(H社にあっては法人税)の各更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けた。
 請求人ら、P5及びH社は、上記重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分に対しては不服申立てをする一方、上記各更正処分に対しては不服申立てをしていない。

(リ) P5は、昭和60年以前から、国内に所有する複数の不動産に係る賃貸事業を営み、当該賃貸事業に係る損益を上記(チ)の本件組合不動産に係る損益とともに不動産所得として所得税の確定申告をしていた。当該国内不動産賃貸事業に係る損益は、別表10のとおり、平成15年分以前は平成10年分を除き損失が生じていたが、支払利息の減少に伴い、平成16年分以降は利益が生じている。

ハ 判断

(イ) P5に対する債務について

A 請求人らは、上記イの(イ)のとおり主張する。

B しかしながら、上記ロの(ト)のとおり、本件遺産分割協議書及び本件申告書に、請求人らが上記イの(イ)ないし(ハ)で主張する本件被相続人の債務について、いずれも記載はない。
 また、請求人らは、「本件各更正処分を機に、本件対象不動産に対するP5の持分が否定され」たことが、本件被相続人のP5に対する債務が生じた契機である旨主張するが、そもそも、請求人らは、本件対象不動産が登記名義どおり本件被相続人に帰属すること、換言すれば、本件対象不動産はその全てが本件被相続人に帰属することを前提に本件申告をしている(なお、本件遺産分割協議書においても、本件対象不動産はその全てが本件被相続人に帰属することを前提に、遺産分割協議が行われている。)のであって、かかる本件対象不動産の帰属の点については本件各更正処分においても否認されていないのであるから、「本件各更正処分を機に、本件対象不動産に対するP5の持分が否定され」たという事実はない。
 さらに、上記ロの(チ)のとおり、請求人ら及びP5は、本件不動産事業に係る損益が本件組合不動産の登記名義の割合に応じて分配されるものとする所得税の各更正処分に対して、不服を申し立てていない。
 これらの事情に照らすと、請求人ら及びP5は、元来、本件対象不動産はその全てが本件被相続人に帰属するとの認識を有していたものと推認することができ、請求人らは、上記の認識を有していたにもかかわらず、請求人らが主張するP5に対する本件被相続人の債務を遺産分割及び本件申告の対象としなかったものである。

C ところで、請求人らは、本件被相続人のP5に対する債務の金額たる本件病院事業に係る収益の未分配額、ひいてはP5の本件組合に対する出資額は、P5キャッシュフロー状況表のとおり算定される旨主張し、同表は、P5の昭和60年分ないし平成21年分の各年分の所得税の確定申告において申告された本件病院事業に係る事業所得の金額から、所得税、住民税及び事業税の額を控除して計算した税引後所得金額に、減価償却費、貸倒引当金繰入額、青色申告特別控除額及び人的所得控除額の合計額を加算して仮キャッシュフロー額を算定し、当該仮キャッシュフロー額から、P5の毎年の生活費として、昭和60年から同62年までは零円、昭和63年は3,000,000円、平成元年から同18年は各年5,000,000円、平成19年から平成21年までは各年9,000,000円を控除した額を、上記未分配額と算定するもののようである。
 しかしながら、人的所得控除額は、事業所得の金額の計算上控除されるものではないから、これを税引後所得金額に加算する理由はない。また、生活費として控除している金額も、昭和60年から昭和62年までが零円とされていることが不自然であることはもとより、ほかの年についても、所得金額に比して不自然に些少に見積もられているとみられるのであって、上記ロの(ホ)のとおり、平成12年から同21年までの間に本件病院事業口座及び本件医局現金からP5に対して支払われた金員の合計額は、預金口座の取引記録等から明らかなものだけでも118,400,000円と、P5キャッシュフロー状況表における同期間の生活費見積額の合計額62,000,000円をはるかに上回っていることなどにも照らすと、同表の生活費の見積額に合理性を認めることはできない。
 また、上記ロの(リ)のとおり、P5は、国内に所有する複数の不動産に係る賃貸事業を営み、その必要経費として多額の借入金利息等を支出するなどし、同事業について、賃料収入で賄いきれない多額の損失を計上していたのであって、借入金元金の返済もあったと考えられることにも照らせば、これらの支出を本件病院事業に係る収益から補填する必要があったものと考えられるが、P5キャッシュフロー状況表には、そうした支払は計上されていない。
 これらによれば、P5キャッシュフロー状況表の信ぴょう性には疑問があるものといわざるを得ず、他に、本件病院事業に係る収益の未分配額があったと認めるに足りる的確な証拠はない。

D なお、上記ロの(イ)、(ハ)及び(ニ)の事実によれば、本件組合不動産の取得資金の中に、P5が出捐した金員が含まれている可能性は否定できないが、当該金員が、本件組合不動産のうちP5が持分を有する部分(別表4の順号1の不動産の持分3分の1)の取得価額を超えると認めるに足りる証拠はない。

E 以上によれば、請求人ら及びP5は、元来、本件対象不動産全部が本件被相続人に帰属するとの認識を有していたにもかかわらず、請求人らは、その主張するP5に対する本件被相続人の債務を遺産分割及び本件申告の対象としなかったものであり、しかも、請求人らが上記の債務の発生の前提として主張する本件対象不動産の購入に充てられた本件病院事業に係る収益の未分配額の存在を認めるに足りる証拠もないのであるから、上記の債務は存在しないというべきである。

(ロ) 請求人P2に対する債務について

A 請求人らは、上記イの(ロ)のとおり主張する。

B しかしながら、上記(イ)のBで述べた点は、本件被相続人の請求人P2に対する債務についても同様に当てはまり、請求人ら及びP5は、元来、本件対象不動産全部が本件被相続人に帰属するとの認識を有していたにもかかわらず、上記債務を遺産分割及び本件申告の対象としなかったものである。

C また、請求人らが本件被相続人の請求人P2に対する債務の金額である本件病院事業口座への送金額、ひいては請求人P2の本件組合に対する出資額の算定根拠とするP2店主勘定表記載の金額(合計204,138,150円)のうち、同表記載のとおりの送金が証拠上認められるのは、上記ロの(ロ)で認定した本件送金額69,480,290円にとどまり、残りの130,000,000円余りについては、送金の事実を認めるに足りる証拠はなく、加えて、本件送金額のうち35,953,159円については、後に本件被相続人から請求人P2に返還されたことがうかがわれる。
 そして、上記ロの(ハ)及び(ニ)の事実によれば、本件組合不動産の取得資金の中に本件送金額が含まれている可能性はあるが、本件送金額から、上記のとおり後に返還されたことがうかがわれる35,953,159円を差し引いた33,527,131円が、同(ニ)のDのとおり平成12年9月に取得された請求人P2所有の別表4の順号18の不動産の取得費用を超えると認めるに足りる証拠はない。

D 以上によれば、請求人ら及びP5は、元来、本件対象不動産全部が本件被相続人に帰属するとの認識を有していたにもかかわらず、請求人らは、その主張する請求人P2に対する本件被相続人の債務を遺産分割及び本件申告の対象としなかったものであり、しかも、請求人らが上記の債務の発生の前提として主張する本件対象不動産の購入に充てられた本件病院事業口座への送金額の存在を認めるに足りる証拠もないのであるから、上記の債務は存在しないというべきである。

(ハ) 確実と認められる債務に該当しないことについて
 仮に、請求人らが主張するように、P5及び請求人P2が本件組合に出資をしたが、結果的にその利益が本件被相続人に帰属することとなり、P5ないし請求人P2の損失によって本件被相続人が利得を受けた関係(民法第703条参照)が一部認められるとしても、上記(イ)及び(ロ)でみたところによれば、その具体的な金額を算定することは困難であるから、かかる債務は相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」(債務の存在のみならず、履行が確実と認められることをいうものと解される。)に該当するということはできず、いずれにしても、これを課税価格の計算上控除することはできない。

(ニ) P6に対する債務について
 請求人らは、上記イの(ハ)のとおり主張し、同ロの(ヘ)のとおり、請求人らが主張する貸付金額と一致する額の金員が、P6名義の預金口座から出金された後、本件被相続人名義の預金口座に入金されていることは認められるものの、当該本件被相続人名義の預金口座は、本件申告において相続財産に計上されていない(なお、本件各更正処分が基礎とした相続財産にも加算されていない。)ことからすると、そもそも請求人らは同口座を本件被相続人に帰属するものとは扱っていなかったことが推認され、上記のとおりP6名義の預金口座から出金された金員が本件被相続人に交付された事実自体、直ちには認めることができない。
 また、仮に当該金員の交付の事実を認めることができたとしても、これについて本件被相続人とP6の間で返還の合意がされたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、請求人らが主張する本件被相続人のP6に対する債務は存在しないというべきである。

(3) 争点3(通則法第65条第4項に規定する正当な理由の有無)について

イ 法令解釈等
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 そして、このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
 したがって、法の不知や納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りなどは、正当な理由には当たらないものというべきである。

ロ 判断
 請求人らは、本件米国申告に係る手続を米国の法律事務所に委任しており、本件申告当時には本件米国申告に使用された本件鑑定価額に関する資料を受領していなかった一方で、Lから取り寄せたf市財産税の通知書に記載された本件財産税評価額を本件対象不動産の評価額と考え、これを用いて本件申告を行ったものであって、本件対象不動産の評価額が本件鑑定価額と本件財産税評価額とで異なることは認識しておらず、これに気付くことは到底不可能であり、期待できなかったことから、過少申告となったことについて「正当な理由」があると認められる旨主張する。
 しかしながら、請求人らの主張は、いずれも本件対象不動産に係る評価方法の不知又は誤解をいうものにすぎず、上記イのとおり、そのような納税者の主観的な事情は正当な理由には当たらない。他に、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情の存在を認めるに足りる証拠もないから、本件各更正処分により相続税の納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認めることはできない。

(4) 原処分について

以上によれば、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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