(平成28年4月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、相続税の法定申告期限後に「相続についてのお尋ね」と題する文書を送付したところ、請求人が当該文書に相続財産である預金を記載せずに返送したことなどから、その後の相続税の調査を経て請求人がした当該預金を相続財産に含む期限後申告に基づき、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、期限内申告書の提出がなかったことについては「正当な理由」があり、また、請求人の行為は、隠ぺいに当たらないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  1. イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、その期限後申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、また、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
  2. ロ 通則法第66条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が50万円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
  3. ハ 通則法第68条《重加算税》第2項は、同法第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対し、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  1. イ 相続について
     請求人の父であるJ(以下「本件被相続人」という。)は、平成24年11月○日に死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る相続人は、本件被相続人の長男である請求人のみである。
  2. ロ 本件相続に至る経緯等
    1. (イ) 本件被相続人は、昭和62年4月頃から請求人と二人で同居していたが、平成24年7月19日、体調の悪化等を理由に病院に入院した。
    2. (ロ) a市長は、平成24年10月5日、K家庭裁判所a支部に対し、本件被相続人について後見開始の審判を求める旨の申立てをした。なお、同市長は、上記申立てにおいて、請求人が、本件被相続人を自宅の2階で生活させて1階に下りないよう命じたり、上記(イ)の入院に係る費用を支払わなかったりしたことなどから、後見人として不適切であると述べている。
    3. (ハ) 上記(ロ)の後見開始申立ての結果、平成24年11月1日、弁護士L及び同Mの両名(以下、両名を総称して「本件成年後見人」という。)が、本件被相続人の成年後見人となった。
    4. (ニ) 本件被相続人は、平成24年11月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、これを受けて、本件成年後見人は、同日、請求人に対し、本件被相続人の財産及び負債の状況等を説明した上で、N銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(以下「本件N口座」という。)の預金は、一旦L名義の口座に移し、本件被相続人の負債の弁済及び本件成年後見人に対する報酬等の支払を行った後、請求人に返還したい旨申し入れたところ、請求人は承諾した。
       なお、本件相続開始日において、本件被相続人名義の口座は、本件N口座のほか、P銀行○○支店の普通預金口座(以下「本件P口座」といい、本件N口座と併せて「本件各口座」という。)及びQ銀行○○支店の普通預金口座(以下「本件Q口座」という。)があり、生前、本件Q口座は、主に、本件被相続人の公的年金の入金及び公共料金等の引落口座として使用されており、また、本件Q口座と本件各口座との間の資金移動は、遅くとも平成20年以降は、全くないか、ほとんどなかった。
    5. (ホ) 本件成年後見人は、平成24年12月6日、請求人と共に、N銀行○○支店及びP銀行○○支店に赴き、本件各口座の預金について、請求人への相続手続を行った。
       なお、本件N口座の預金は、上記(ニ)のとおり、一旦L名義の口座に移され、本件被相続人の負債の弁済等がされた後、その残金が平成25年3月1日にN銀行○○出張所の請求人名義の普通預金口座へ入金された。
  3. ハ 期限後申告に至る経緯
    1. (イ) 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告をすることなく、その法定申告期限である平成25年9月○日が経過した。
    2. (ロ) 原処分庁は、平成26年2月20日付で、請求人に対し、「相続税の申告等についての御案内」と題する書面及び「相続についてのお尋ね」と題する書面を送付した。
    3. (ハ) 請求人は、平成26年2月28日付で、上記(ロ)の「相続についてのお尋ね」と題する書面に、本件相続に係る財産等について、要旨、次のとおり記載して原処分庁に提出した(以下、請求人が次のとおり記載して原処分庁に提出した書面を「本件お尋ね回答書」という。)。なお、下記Aの土地及び下記Bの建物は、本件被相続人及び請求人が同居していた自宅の土地及び建物(以下、当該土地及び建物を併せて「本件不動産」という。)であり、下記Cの普通預金は、本件Q口座の預金である。
      1. A a市b町○−○に所在する土地(持分16/20)
      2. B a市b町○−○に所在する建物(持分16/20)
      3. C Q銀行 ○○支店 普通預金38,716,480円(家族共有分)
    4. (ニ) 請求人の本件相続税の調査時における申述
      •  請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当者」という。)による本件相続税の調査を受け、平成26年9月、本件調査担当者に対し、要旨、次のとおり申述した。
      1. A 相続財産は、本件お尋ね回答書に記載した本件不動産と本件Q口座の預金のみである。
      2. B 本件相続により相続した財産について、相続手続を行ったものはない。
      3. C (上記Bの申述をした後、本件調査担当者からの本件被相続人の預金口座を請求人が解約したものがあるようだが心当たりはないかとの質問に対し)本件被相続人の成年後見人か何か代理人のような人と解約の手続に行った気がするが、詳しくは覚えていない。
      4. D (上記Cの申述をした後、本件調査担当者が本件P口座に係る相続届の写しを示して何か覚えていないかと質問したのに対し)はっきりとは覚えていないが、成年後見人と金融機関に行き、言われるがまま解約手続を行ったと思う。
      5. E (上記Dの申述をした後、本件調査担当者からの他に解約手続をしたものはないかとの質問に対し)他に解約手続をしたものはない。
      6. F (上記Eの申述をした後、本件調査担当者が本件N口座に係る相続に関する依頼書の写しを示して何か覚えていないかと質問したのに対し)はっきりとは覚えていないが、これも成年後見人と解約に行ったのだと思う。
    5. (ホ) 請求人は、本件調査担当者から本件各口座の預金は本件被相続人の財産である旨などの指摘を受け、平成26年11月14日、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載した相続税の申告書を原処分庁に提出して、相続税の期限後申告(以下「本件期限後申告」という。)をした。なお、当該申告書の第11表(相続税がかかる財産の明細書)に記載された本件被相続人の財産は、別表のとおりである。
  4. ニ 原処分庁は、請求人に対し、平成26年11月26日付で、本件期限後申告により納付すべきこととなった税額を基礎として、重加算税の額を○○○○円とする重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  5. ホ 請求人は、平成27年1月16日、本件賦課決定処分に不服があるとして、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月16日付で、棄却の異議決定をした。
  6. ヘ 請求人は、平成27年5月15日、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

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2 争点

(1) 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められるか否か(争点1)。

(2) 請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か(争点2)。

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3 争点1について

(1) 主張

請求人 原処分庁

丸1請求人は、本件各口座の預金を請求人に帰属する財産と考えていたことから、本件相続税の申告義務がないと判断していたのであり、また、丸2原処分庁所属の職員において、本件各口座の預金は相続財産に含まれる旨の指摘を法定申告期限内にしていれば、請求人は本件期限後申告をすることはなかったのであるから、期限内申告書の提出がなかったことについて、「正当な理由」がある。

丸1請求人が本件相続税の期限内申告書を提出しなかったのは、自ら本件各口座の預金を相続財産から除き、検討した結果として、本件相続税の申告義務がないと判断したためであり、また、丸2申告納税制度の下における相続税の申告は、本来、納税義務者自身の判断と責任においてなされるべきであり、納税者に対して、個別に法定申告期限までに申告が必要である旨通知することを原処分庁に義務付ける法令等の規定はないのであるから、期限内申告書の提出がなかったことについて、「正当な理由」があるとは認められない。

(2) 判断

  1. イ 法令解釈
     通則法第66条に規定する無申告加算税は、納税者が法定申告期限後に申告書を提出した事実があれば、原則として、その納税者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告をした納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、適正な申告納税の実現を図るための行政上の措置である。
     このような無申告加算税の趣旨からすると、期限後申告であっても例外的に無申告加算税が課されない場合である通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、法定申告期限内に申告がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の無申告加算税の趣旨に照らしても、なお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
  2. ロ 当てはめ
     請求人は、上記(1)の「請求人」欄の丸1及び丸2の事情により、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」がある旨主張する。
     しかしながら、上記丸1の点についてみれば、請求人が、本件各口座の預金は請求人に帰属するものと考えていたという事情は、仮にそのような事情があったとしても、それは請求人の主観的な事情にすぎず、また、上記丸2の点についてみても、法定申告期限内に申告書を提出するよう個々の納税者に対して連絡することを税務職員に義務付ける法令等の規定はないことからすれば、請求人が主張する各事情は、いずれも法定申告期限内に申告がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということはできない。
     したがって、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

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4 争点2について

(1) 主張

原処分庁 請求人

イ 本件被相続人は、生前、相続税の課税を免れる目的であることを請求人に明示した上で、生活に通常使用する口座を本件Q口座のみとし、本件各口座が原処分庁には容易に知りえない状況を作出するとともに、請求人に対し、本件Q口座以外の口座は申告する必要はないと指示していた。

ロ 請求人は、上記イの本件被相続人の意図を十分理解した上で、本件各口座の預金を記載しない本件お尋ね回答書を提出し、本件調査担当者に対してもその記載内容に沿った申述を行った後、原処分庁において、その存在を把握されるに至って、本件調査担当者から指摘を受けた口座についてのみ段階的にこれを認める行為を繰り返した。

ハ 以上のとおり、請求人は、本件被相続人が本件各口座を隠ぺいし、本件各口座が他から認知され難い状況にあることを認識しつつ、その状況を利用して、本件相続税の申告書を提出しなかったのであるから、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の事実があり、重加算税の賦課要件を満たしている。

 請求人が、本件各口座の預金について本件お尋ね回答書に記載せず、また、本件調査担当者に伝えなかったのは、当該預金は請求人に帰属する財産と考えており、また、本件被相続人から他人に教えるなと言われていたためであって、隠ぺいを意図したものではない。

 したがって、請求人には、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の事実はなく、重加算税の賦課要件を満たさない。

(2) 判断

  1. イ 法令解釈
     無申告加算税に代えて重加算税を課す場合、法定申告期限の前後を含む、外形的、客観的な事情を合わせ考えれば、真実の相続財産を隠ぺいし、秘匿しようという確定的な意図、態勢の下に、計画的に納税申告書を提出しなかったときには、通則法第68条第2項が規定する「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していた」場合に当たると解するのが相当である(最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号1379頁参照)。
  2. ロ 当てはめ
    1. (イ) 請求人は、本件相続税の法定申告期限前において、上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、本件各口座の預金の相続手続を行っているところ、同イのとおり、本件被相続人の相続人は請求人のみであり、自らが全部相続したことを前提に、本件各口座の預金を相続手続により自己名義の預金口座に預け替えたりしたというだけでは、請求人が本件各口座の預金を隠ぺいし、又は仮装したと評価することはできず、ほかに、請求人が本件相続税の法定申告期限前において本件各口座の預金を隠ぺいし、又は仮装した事実はない。
    2. (ロ) 次に、請求人は、本件相続税の法定申告期限後において、上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、本件お尋ね回答書に本件各口座の預金を記載せずに原処分庁に提出し、また、同(ニ)のA及びBのとおり、本件相続税の調査の際、本件調査担当者に対して、本件お尋ね回答書の記載内容に沿った申述をし、本件各口座の存在を隠している。
      •  しかしながら、請求人は、上記1の(3)のハの(ニ)のCないしFのとおり、本件調査担当者から本件各口座の相続手続について指摘されるとその存在を認めており、本件各口座の預金を隠す態度を一貫していたとはいえない。また、請求人は、本件各口座が発見されることを防止したり、本件各口座の預金が相続財産に含まれないように装ったりする等の積極的な措置を行っていないことからすれば、本件お尋ね回答書を提出したことや、調査の当初は本件各口座の存在を隠していたことをもって、隠ぺい又は仮装の行為と評価することは困難である。
    3. (ハ) そして、上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、法定申告期限の前後において、積極的な隠ぺい又は仮装の行為を行っていないことからすれば、請求人が、本件相続税の法定申告期限経過時点において、本件相続税の調査が行われた場合には、積極的な隠ぺい又は仮装の行為を行うことを予定していたと推認することはできない。
    4. (ニ) 以上に照らすと、請求人は、本件各口座の預金を隠ぺいし、秘匿しようという確定的な意図、態勢の下に、計画的に本件相続税の申告書を提出しなかったとまではいえないというべきであるから、請求人は、隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったとはいえず、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
  3. ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件被相続人が、生活に通常使用する預金口座を本件Q口座のみとすることにより、本件各口座を隠ぺいし、請求人が、その状況を利用して、本件相続税の申告書を提出しなかったのであるから、請求人は重加算税の賦課要件を満たす旨主張する。
     しかしながら、地元の複数の金融機関に自己名義の預金口座を開設し、特定の口座のみを生活に通常使用する口座とすることは、何ら不自然なことではなく、その他に、本件被相続人において、本件各口座を解約して他の種類の財産にし、あるいは、本件各口座の名義を請求人に変更したといった事情もないことからすれば、本件被相続人が本件各口座を隠ぺいしたとは認められない。
     そうすると、請求人において、本件被相続人が本件各口座を隠ぺいしたことを利用した旨の原処分庁の主張は、前提を欠くものであるから、理由がない。

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5 本件賦課決定処分について

上記3の(2)のロのとおり、請求人には、本件相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められないものの、上記4の(2)のロのとおり、同法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出」しなかった場合には該当しないことから、本件賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

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6 その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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