(平成28年9月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の事業所得に係る売上げの一部を脱漏するとともに、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を納める義務が免除されないにもかかわらずこれらの申告をしなかったとして、所得税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分並びに消費税等の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分等を行ったのに対し、請求人が、請求人に隠ぺい又は仮装に該当する行為はないとして、所得税等及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人の事業の概要
    1. (イ) 請求人は、昭和56年頃から、b市内で農産物及び肉用牛(以下、これらを併せて「農産物等」という。)の生産販売を行っていた。
    2. (ロ) 請求人は、平成19年分ないし平成25年分において、次の販売先に農産物等を販売し、その販売代金を現金、小切手又はH農業協同組合○○支店の請求人名義の普通営農貯金口座(口座番号○○○○、以下「本件農協口座」という。)若しくはJ銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件銀行口座」といい、本件農協口座と併せて「本件各口座」という。)への振込みにより受領した。
      • A H農業協同組合(受領方法:本件農協口座への振込み)
      • B K社(受領方法:本件銀行口座への振込み)
      • C L社(受領方法:本件銀行口座への振込み)
      • D M社(受領方法:小切手)
      • E N社(受領方法:現金)
    3. (ハ) 請求人は、平成19年分ないし平成25年分において、補填金及び選果剰余金などの助成金等(以下、これらを併せて「本件雑収入」という。)を本件農協口座への振込みにより受領した。
    4. (ニ) 請求人は、平成19年分ないし平成25年分において、事業に関する日々の取引を記載した会計帳簿等を作成していなかった。
  • ロ 請求人による収支内訳書の作成等
    1. (イ) 請求人は、平成22年ないし平成26年の各年の3月頃、所得税の確定申告前に、H農業協同組合(以下「本件農協」という。)から、前年1年間に請求人が本件農協に販売した農産物等の数量、振込金額等が記載された販売年間取引実績表を受領した(以下、請求人が受領した販売年間取引実績表を「本件実績表」といい、平成21年分ないし平成25年分(以下「本件各年分」という。)の本件実績表を「本件各実績表」という。)。
       なお、本件各実績表に記載された農産物等の品名ごとの振込金額は、別表1の「振込金額1」欄のとおりである。
    2. (ロ) 請求人は、次のとおり「平成 年分収支内訳書(農業所得用)」(以下「収支内訳書用紙」という。)に収入金額及び必要経費等を記載し、本件各年分の申告相談で使用する収支内訳書を作成した(以下、請求人が作成した収支内訳書用紙を「本件下書用収支内訳書」といい、本件各年分の本件下書用収支内訳書を「本件各下書用収支内訳書」という。)。
      • A 本件農協に販売した農産物等について、収支内訳書用紙の「収入金額の明細」欄に、別表1の「本件下書用収支内訳書『収入金額の明細』」欄のとおり記載した。
      • B 本件農協以外の販売先に販売した農産物について、収支内訳書用紙の「収入金額の明細」欄に、別表2の「本件下書用収支内訳書『収入金額の明細』」欄のとおり記載した。
         なお、本件各年分の本件農協以外の販売先に係る販売金額(収入金額)は、別表2の「本件農協以外の販売先に係る販売金額」欄のとおりである。
      • C 本件雑収入について、平成21年分は記載せず、平成22年分ないし平成25年分は、その一部を収支内訳書用紙の「収入金額の明細」の「雑収入の内訳」欄に記載した。
      • D 必要経費について、収支内訳書用紙の「経費」欄に科目ごとに記載し、また、取得した減価償却資産の名称、取得年月及び取得価額を収支内訳書用紙の「減価償却費の計算」欄に記載し、専従者の氏名及び続柄を「事業専従者の氏名等」欄に記載した。
      • E 雇人費について、平成21年分及び平成25年分はその支払金額の一部のみを、収支内訳書用紙の「雇人費」又は「雇人費の内訳」欄に記載し、平成22年分ないし平成24年分はその支払金額を記載しなかった。
  • ハ 本件各年分の申告相談における状況
    1. (イ) 請求人は、b市が開催した本件各年分の確定申告に係る申告相談において、本件各下書用収支内訳書をb市職員に提示した。
    2. (ロ) 請求人は、上記(イ)の申告相談において、b市職員から本件各実績表及び本件各口座の通帳の提示を求められたことはなく、b市職員にこれらを提示しなかった。
    3. (ハ) b市職員は、請求人が提示した本件各下書用収支内訳書を基に平成21年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各確定申告書(以下、これらを併せて「本件各確定申告書」という。)並びに本件各確定申告書に添付する収支内訳書(以下「本件各収支内訳書」という。)を作成した。
  • ニ 本件各年分の確定申告の状況
    1. (イ) 請求人は、b市職員が上記ハの(ハ)のとおり作成した本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を原処分庁に提出した。
    2. (ロ) 請求人が原処分庁に提出した本件各収支内訳書の「収入金額」の「販売金額」欄の金額は、いずれも10,000,000円以下であった。
    3. (ハ) 請求人は、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで及び平成24年1月1日から平成24年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」及び「平成24年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の確定申告書を提出しなかった。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成21年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等について、別表3の「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに原処分庁に申告した。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、平成27年5月14日付で、別表3の「更正処分等」欄のとおりとする次の処分を行った。
    1. (イ) 平成21年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各更正処分
    2. (ロ) 平成21年分、平成22年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件所得税等各賦課決定処分」という。)
       なお、原処分庁は、平成21年分、平成22年分及び平成24年分の所得税の各更正処分並びに平成25年分の所得税等の更正処分により増加した納付すべき税額のうち、本件農協に係る農産物の販売金額の計上漏れの金額(別表1の「差額(12)」欄の農産物に係る金額を合計した金額)に係る税額を重加算税の基礎となるべき税額とした。
  • ハ 原処分庁は、平成27年5月14日付で、別表4の「決定処分等」欄のとおりとする本件各課税期間の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税等各決定処分」という。)並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件所得税等各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、原処分庁は、本件消費税等各決定処分による納付すべき税額のうち、本件農協に係る農産物の販売金額の計上漏れの金額(別表1の「差額(12)」欄の農産物に係る金額を合計した金額)に係る税額を重加算税の基礎となるべき税額とした。
  • ニ 請求人は、上記ロ及びハの各処分のうち次の処分を不服として、平成27年6月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月16日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
    1. (イ) 平成21年分、平成22年分及び平成23年分の所得税の各更正処分並びに本件所得税等各賦課決定処分
    2. (ロ) 本件消費税等各決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分
  • ホ 請求人は、異議決定を経た後の上記ニの(イ)及び(ロ)の各処分のうち、原処分に不服があるとして、平成27年10月13日に審査請求をした。

(4) 関係法令の要旨

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 通則法第68条第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ハ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定は、同条第1項の規定にかかわらず、その納税義務の成立の日から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。

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2 争点

請求人の行為は、通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人が作為的に過少な収入金額を本件各下書用収支内訳書に記載した行為は、本件各下書用収支内訳書が決算書類に当たることから、決算書類の虚偽記載に当たり、通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装の行為に該当し、重加算税の賦課要件は満たされる。 請求人が本件各下書用収支内訳書を作成した行為は、単なる過少申告行為であり、綿密な計算や策を弄して行ったものではなく、隠ぺいしようという確定的意図の下に行った申告でもなく、仮装・隠ぺいの事実はない。
 また、請求人は、原処分に係る調査当初から、保有する資料を隠すことなく提示し、虚偽答弁等も行っておらず、仮装した事実、隠した資産等はない。
 したがって、請求人には、隠ぺい又は仮装に該当する行為は認められず、通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たされない。
(2) 仮に、上記(1)の行為が、過少申告行為とは別の隠ぺい又は仮装の行為に該当しない場合であっても、請求人は、次のとおり、当初から所得を過少に申告すること及び消費税等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく所得税等の過少申告をし、また、消費税等の確定申告書を提出しなかったと認められるため、重加算税の賦課要件は満たされる。
イ 請求人は、確定的な過少申告の意思に基づいて、本件下書用収支内訳書の「収入金額の明細」欄を記載するに当たって、収入金額を過少に集計した。
ロ 請求人は、本件各実績表及び本件農協口座の通帳があるにもかかわらず、真実とは異なる金額を記載した本件各下書用収支内訳書をb市職員に提示した。
ハ 請求人は、b市職員に税額が過少になる本件各確定申告書及び本件各収支内訳書を作成させて原処分庁に提出し、また、消費税等の確定申告書を提出しなかった。
ニ 請求人は、原処分に係る調査の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に、曖昧な答弁や虚偽答弁をした。また、本件各下書用収支内訳書や平成20年分及び平成22年分の本件実績表などの書類を自発的に提示しなかった。
ホ 請求人は、これまで十数年間にわたり、所得金額を少なくする確定的な意図に基づき、過少申告を続けていた。
へ 請求人は、事業所得に関して帳簿書類の保存義務があるにもかかわらず、本件各年分について、納品書、出荷伝票、領収書、仕切書等の売上関係書類を保存しなかった。

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4 判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合、又は、隠ぺい又は仮装という不正手段を用いて期限内申告書を提出しなかった場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在することを要するが、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、過少申告をし、又は法定申告期限までに申告しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件各下書用収支内訳書の「収入金額の明細」欄の記載について
    1. (イ) 請求人は、生活するだけで目一杯で、販売金額の合計額が10,000,000円を超えると消費税がかかり、消費税を払うことが大きな負担となると感じていたことから、本件各年分において、本件各実績表及び本件各口座の通帳により各農産物等の販売金額の合計額が10,000,000円を超えることを認識していたにもかかわらず、次の(ロ)及び(ハ)のとおり、本件各下書用収支内訳書の「収入金額の明細」欄に、本件農協及び本件農協以外の販売先に対する販売金額の合計額が10,000,000円を超えないように調整した金額を記載した。
       なお、本件各実績表に記載された振込金額及び本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額は、平成21年分XX,XXX,XXX円、平成22年分XX,XXX,XXX円、平成23年分XX,XXX,XXX円、平成24年分XX,XXX,XXX円、平成25年分XX,XXX,XXX円であり、いずれも10,000,000円を超えていた。
    2. (ロ) 本件農協に係る販売金額について
       本件各実績表には別表1の「振込金額1」欄のとおり販売した農産物等の品名ごとの振込金額が記載されていた。そして、請求人は、これらの金額が本件農協に対する販売金額であることを認識していたにもかかわらず、本件各下書用収支内訳書には同表の「販売金額2」欄のとおり、品名ごとに上記振込金額から適当な金額を差し引いた後の金額を記載し、又は上記振込金額があるにもかかわらずこれらを全く記載しなかった。
    3. (ハ) 本件農協以外の販売先に係る販売金額について
       請求人は、本件銀行口座の通帳等により、別表2の「販売金額1」欄のとおり、本件農協以外の販売先に対する販売金額を認識していたにもかかわらず、同表の「販売金額2」欄のとおり、本件各下書用収支内訳書にこれらの販売金額を過少に記載し、又はこれらを全く記載しなかった。
  • ロ 平成19年分及び平成20年分に係る本件下書用収支内訳書の作成及び使用状況等
    1. (イ) 請求人は、平成19年分及び平成20年分において、本件実績表に記載された振込金額と本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額が10,000,000円を超えていることを認識していたにもかかわらず、本件下書用収支内訳書に販売金額の合計額が10,000,000円を超えないように各農産物について過少な販売金額を記載するなどした。
       なお、平成19年分及び平成20年分の本件実績表に記載された振込金額及び本件農協以外の販売先に係る販売金額の合計額は、平成19年分XX,XXX,XXX円、平成20年分XX,XXX,XXX円であり、いずれも10,000,000円を超えていた。
    2. (ロ) 請求人は、b市が開催した平成19年分及び平成20年分の確定申告に係る申告相談において、上記(イ)のとおり作成した本件下書用収支内訳書をb市職員に提示した。
    3. (ハ) 請求人は、上記(ロ)の申告相談において、b市職員から本件実績表及び本件各口座の通帳の提示を求められたことはなく、b市職員にこれらを提示しなかった。
    4. (ニ) b市職員は、上記(ロ)のとおり請求人が提示した本件下書用収支内訳書を基に平成19年分及び平成20年分の所得税の各確定申告書並びに各収支内訳書を作成した。
    5. (ホ) 請求人は、b市職員が上記(ニ)のとおり作成した各確定申告書及び各収支内訳書を原処分庁に提出した。
       なお、当該各収支内訳書の「収入金額」の「販売金額」欄の金額は、平成19年分X,XXX,XXX円、平成20年分X,XXX,XXX円であった。
  • ハ 国税局長による臨時の税務書類の作成等の許可
     平成19年分ないし平成25年分の各確定申告書の「税理士署名欄」には、いずれも、当該各確定申告書の作成当時にb市税務課長を務めていた職員の署名押印があり、当該各職員は、当該各確定申告書の作成当時、税理士法第50条《臨時の税務書類の作成等》第1項に規定する申告書等の作成及びこれに関連する課税標準等の計算に関する事項について相談に応じることの許可をP国税局長から受けていた。
  • ニ 請求人による資料の提示の状況
    1. (イ) 本件調査担当職員は、平成26年10月10日に初めて請求人の自宅に臨場した際に、請求人に対し、確定申告書の控え及び本件各口座の通帳の提示を要請したところ、請求人は、平成19年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各確定申告書の控え並びにその関係書類を年分ごとに保管している各封筒並びに本件各口座の通帳を提示した。
    2. (ロ) 本件調査担当職員は、上記(イ)のとおり提示された各封筒の中から、平成19年分ないし平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各確定申告書の控え並びに各収支内訳書の控え、平成20年分及び平成22年分の本件実績表並びに本件各下書用収支内訳書を把握した。
       なお、請求人は、平成20年分及び平成22年分以外の本件実績表について、捨ててはいないと思うが失くしたかもしれない旨申述した。
    3. (ハ) 本件調査担当職員が、平成26年10月10日に請求人に対し、平成19年分、平成21年分、平成23年分、平成24年分及び平成25年分の本件実績表を本件農協から取り寄せるように要請したところ、請求人は、平成26年10月17日に、本件農協から取り寄せた当該年分の本件実績表を提示した。

(3) 当てはめ

  • イ 請求人は、上記(2)のイ及びロのとおり、消費税等の負担を免れるために、平成19年分ないし平成25年分において、本件実績表及び本件各口座の通帳によって各農産物等の販売金額の合計額が10,000,000円を超えていることを認識していたにもかかわらず、その合計額が10,000,000円を超えないよう、本件下書用収支内訳書に各農産物の販売金額を過少に記載するなどしたことからすれば、本件各年分の所得税等については過少申告の意図を、本件各課税期間の消費税等については無申告の意図を、それぞれ継続的に有していたものと認められる。
  • ロ そして、請求人は、上記1の(2)のハ及び上記(2)のロのとおり、b市が開催する平成19年分ないし平成25年分の確定申告に係る申告相談において、本件下書用収支内訳書をb市職員に提示し、その際、b市職員から本件実績表及び本件各口座の通帳の提示を求められず、本件下書用収支内訳書の記載内容に疑問を抱かれなかったことを奇貨として、これらの資料を一切提示せず、その結果、各農産物等の販売金額の合計額がいずれも10,000,000円以下となる各収支内訳書及び各確定申告書を作成させたものである。
     このように、請求人が、少なくとも平成19年分ないし平成25年分の7年間という長期間にわたり、各農産物の販売金額を過少に記載するなどした本件下書用収支内訳書を作成し、これをb市職員に提示することによって、上記(2)のハのとおりP国税局長の許可の下で臨時の税務書類の作成等が認められていたb市職員をして各農産物の販売金額を過少に記載させ、その合計額がいずれも10,000,000円以下となる各収支内訳書及び各確定申告書を作成させ続けていたことに鑑みると、請求人のこれらの行為は、請求人の過少申告の意図又は無申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当するものと認められる。
  • ハ 以上のとおり、請求人は、本件各年分の所得税等については当初から過少申告を意図し、かつ、本件各課税期間の消費税等については当初から無申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、所得税等については過少申告をし、消費税等については期限内に確定申告書を提出しなかったと認められるのであるから、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
  • ニ なお、請求人は、本件各下書用収支内訳書を作成した行為は単なる過少申告行為であり、また、原処分に係る調査当初から保有する資料を隠すことなく提示し、虚偽答弁等も行っていないのであるから、通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する行為は認められず、重加算税の賦課要件は満たされない旨主張する。
     確かに、上記(2)のニのとおり、請求人は、本件調査担当職員の要請に応じて資料を提示したことが認められ、また、事後的に虚偽答弁又は隠ぺいのための具体的工作を行ったことは認められない。
     しかしながら、本件各下書用収支内訳書の作成を含む請求人の一連の行為が単なる過少申告行為と認めらないことは、上記イないしハのとおりであり、原処分に係る調査の際の請求人の応答状況を斟酌したとしても、当審判所の上記判断を左右するものではない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 本件所得税等各賦課決定処分
     上記(3)のハのとおり、本件各年分において、請求人に通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったと認められ、同行為は同法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当するから、同法第68条第1項の規定に基づいて行われた本件所得税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。
  • ロ 本件消費税等各賦課決定処分
     上記(3)のハのとおり、本件各課税期間において、請求人に通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったと認められ、同行為は同法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当するから、同法第68条第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び同法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて行われた本件消費税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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