(平成28年8月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が営む○○店とは別に、請求人の父が営むものとして申告等されていた○○店の事業に係る所得等について、原処分庁が、請求人に帰属するとして所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の認定に誤りがあるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

  • イ 所得税及び復興特別所得税
    1. (イ) 請求人は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分(以下、平成23年分及び平成24年分と併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、国税電子申告・納税システム(以下「e-Tax」という。)を利用して、別表1の「確定申告」欄のとおり入力した青色の確定申告データを原処分庁に送信して、法定申告期限までに申告をした。
    2. (ロ) 原処分庁は、これに対し、平成27年6月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分並びに平成25年分の所得税等の更正処分(以下、平成23年分及び平成25年分の各更正処分を併せて「本件所得税等各更正処分」という。)並びに平成23年分の所得税及び平成25年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、平成23年分及び平成25年分の各賦課決定処分を併せて「本件所得税等各賦課決定処分」という。)をした。
       なお、平成24年分の所得税の更正処分は、納付すべき税額を減額する更正処分である。
    3. (ハ) 請求人は、上記(ロ)の本件各年分の所得税等の各更正処分及び本件所得税等各賦課決定処分を不服として、国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成27年8月28日に審査請求をした。
  • ロ 消費税及び地方消費税並びに源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税
    1. (イ) 消費税及び地方消費税
      • A 請求人は、平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、e-Taxを利用して、別表2の「確定申告」欄のとおり入力した確定申告データを原処分庁に送信して、法定申告期限までに申告をした。
         なお、請求人は、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで及び平成24年1月1日から平成24年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成23年課税期間」及び「平成24年課税期間」といい、平成25年課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等については、確定申告をしていなかった。
      • B 原処分庁は、これに対し、平成27年6月30日付で別表2の「更正処分等」欄のとおりの平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税等各決定処分」という。)並びに平成25年課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)並びに平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の無申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件消費税等各決定処分と併せて「本件消費税等各決定処分等」という。)並びに平成25年課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」といい、本件消費税等更正処分と併せて「本件消費税等更正処分等」という。)をした。
      • C なお、原処分庁は、本件消費税等各決定処分等に対して、平成28年1月8日付で平成23年課税期間及び平成24年課税期間の消費税等の納付すべき税額をそれぞれ○○○○円とする各更正処分を行うとともに、当該各課税期間に係る消費税等の無申告加算税の額をそれぞれ○○○○円とする各変更決定処分を行った。
    2. (ロ) 源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税
       原処分庁は、1平成23年1月から平成23年6月まで、2平成23年7月から平成23年12月まで、3平成24年1月から平成24年6月まで及び4平成24年7月から平成24年12月までの各期間分の源泉徴収に係る所得税並びに5平成25年1月から平成25年6月まで及び6平成25年7月から平成25年12月までの各期間分(以下、上記1ないし6の各期間分を併せて「本件各期間分」という。)の源泉徴収に係る所得税等(以下「源泉所得税等」という。)について、平成27年6月30日付で、別表3の「納税告知処分等」欄のとおりの各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び上記1ないし4の各期間分に係る不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件源泉所得税等各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。
    3. (ハ) 請求人は、上記(イ)のBの本件消費税等各決定処分等及び本件消費税等更正処分等並びに上記(ロ)の本件各納税告知処分等を不服として、平成27年8月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、当該異議申立てについて、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成27年10月16日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同月20日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
  • ハ 審査請求の併合
     通則法第104条《併合審理等》第1項の規定により、上記イの(ハ)の審査請求と上記ロの(ハ)の審査請求を併合して審理する。

(3) 関係法令の要旨

  • イ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において同法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等(以下「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定している。
  • ロ 所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において税理士業務に関する報酬又は料金(同項第2号)を含む一定の報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定している。
  • ハ 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下「復興財源確保法」という。)第28条《源泉徴収義務等》第1項は、所得税法等の規定により所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収(平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に行うべきものに限る。)の際、復興特別所得税を併せて徴収し、当該復興特別所得税を当該所得税に併せて国に納付しなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められ、あるいは原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によってもその事実が容易に認定できる。

  • イ 請求人及び関係人等について
    1. (イ) 請求人の父であるP3(以下「父P3」という。)について
      • A 父P3は、高校を卒業した昭和44年頃から、請求人の祖母であるP4(以下「祖母P4」という。)が、f市g町○−○に昭和43年7月頃に開業した○○屋H(以下「g店」という。)に勤務し始め、その後、経営を引き継いだ。
      • B 父P3は、賃借していたg店の店舗建物の建替えに伴い、平成16年6月21日頃から平成17年7月頃に新装開店するまでの間はg店の営業を休業していた。
    2. (ロ) 請求人について
      • A 請求人は、父P3の次男として昭和○年○月○日にf市で生まれ、平成11年3月に大学を卒業後、h市i町の○○店で修業を積んだ後、平成14年12月に同店を退店し、平成15年1月からg店に勤務し始めた。
      • B 請求人は、f市保健所長から平成17年7月○日を新規許可取得日、g店の営業者を請求人とする食品衛生法上の営業許可(以下「平成17年営業許可」という。)を取得した。
      • C 請求人は、平成22年11月○日、店舗所在地をj市k町○−○、屋号をHj店とする○○店(以下「j店」という。)を開業した。
    3. (ハ) H社について
       H社は、平成26年2月○日に、f市g町○−○を本店所在地として、○○店の経営等を目的に、請求人を代表取締役及び父P3を取締役として設立された法人であり、同日、g店及びj店の事業を引き継いだ。
    4. (ニ) J社について
       J社は、平成2年12月○日にK社の商号で、不動産の売買等並びに軍手・作業着等の作業用雑貨及び食料品等の小売等を目的に、父P3を代表取締役及び請求人の兄のP6(以下「兄P6」という。)を取締役として設立された法人で、平成5年9月○日に商号をJ社に変更し(商号変更の前後を通じ、同社を指して以下「J社」という。)、平成6年5月○日にf市m町○−○から同市n町○−○(父P3の現在の住所地)に本店所在地を変更し、平成13年11月○日に請求人が監査役に就任している。
  • ロ 請求人及び父P3の税務関係の届出等の状況
    1. (イ) 父P3は、原処分庁に対し、次のとおりg店に関する税務関係の各種申請・届出をした。
      • A 平成15年分以後の所得税の申告に係る「所得税の青色申告承認申請書」を平成15年3月5日に提出。
      • B 平成15年1月以後、請求人を青色事業専従者とする旨の「青色事業専従者給与に関する届出書」を平成15年1月31日に提出。
      • C 平成15年1月1日に給与支払事務所等を開設したとして「給与支払事務所等の開設届出書」及び「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書」を、平成15年1月31日に提出。
      • D 平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者になる旨の「消費税課税事業者届出書」及び消費税の簡易課税制度の適用を受ける旨の「消費税簡易課税制度選択届出書」を平成16年3月29日に提出。
      • E g店の事業をH社に引き継いだことに伴い、その事業を平成26年2月○日に廃業したとして「個人事業の開業・廃業等届出書」、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」及び消費税に関する「事業廃止届出書」を平成26年2月13日にe-Taxにより送信。
    2. (ロ) 請求人は、原処分庁に対し、次のとおりj店に関する税務関係の各種申請・届出をした。
      • A 平成22年11月○日にj店を開業したとして「個人事業の開廃業等届出書」及び平成22年分以後の所得税の申告に係る「所得税の青色申告承認申請書」を平成22年12月16日に提出。
      • B 平成22年11月○日に給与支払事務所等を開設したとして「給与支払事務所等の開設届出書」及び「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書」を平成22年12月16日に提出。
      • C 平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者になる旨の「消費税課税事業者届出書」を平成24年3月14日にe-Taxにより送信。
      • D j店の事業をH社に引き継いだことに伴い、その事業を平成26年2月○日に廃業したとして「個人事業の開業・廃業等届出書」、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」及び消費税に関する「事業廃止届出書」を平成26年2月13日にe-Taxにより送信。
  • ハ 請求人の本件各年分の申告の状況
    1. (イ) 請求人は、本件各年分の所得税等の確定申告において、j店の事業に係る所得(事業所得)及びg店からの給与に係る所得(給与所得)を別表1の「確定申告」欄のとおり入力した確定申告データ並びにj店に係る売上(収入)金額及び必要経費等の内訳について、要旨、それぞれ別表4の「A 請求人申告額(j店)」欄のとおり入力した本件各年分の所得税青色申告決算書(一般用)データを、e-Taxによりいずれも法定申告期限内に原処分庁に送信し、申告した。
    2. (ロ) 請求人は、j店の事業に係る平成25年課税期間の消費税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり入力した確定申告データを、e-Taxにより法定申告期限内に原処分庁に送信し、申告した。
  • ニ 父P3の本件各年分の申告の状況
    1. (イ) 父P3は、本件各年分の所得税等の確定申告において、g店の事業に係る所得(事業所得)及びJ社からの給与に係る所得(給与所得)を申告する内容の確定申告データと共に、本件各年分の所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件各年分父P3決算書」という。)のデータを、e-Taxによりいずれも法定申告期限内に原処分庁に送信し、申告した。
       本件各年分父P3決算書には、g店に係る売上(収入)金額及び必要経費等の内訳について、要旨、それぞれ別表4の「B 父P3申告額(g店)」欄のとおりの入力がある(なお、別表4の「B 父P3申告額(g店)」欄の各勘定科目の内書は、後記ヘの(イ)の原処分の内容に関係する項目である。)。
    2. (ロ) 父P3は、g店の事業に係る本件各課税期間の消費税等について、確定申告データをe-Taxによりいずれも法定申告期限内に原処分庁に送信し、申告した。
  • ホ 本件各期間分の源泉所得税等に係る納付状況
     父P3は、g店の従業員に対する給与等及び関与税理士への税理士報酬に係る本件各期間分の源泉所得税等について、それぞれ原処分庁に対し納付した。
  • ヘ 原処分の内容
     原処分庁は、請求人及び父P3の本件各年分の所得税等、本件各課税期間の消費税等及び本件各期間分の源泉所得税等に係る調査(以下、当該調査に係る担当者を「原処分担当者」という。)を実施し、g店の事業に係る所得等は父P3ではなく請求人に帰属するものであると認定した。原処分の内容は、次のとおりである。
    1. (イ) 本件各年分の所得税等の各更正処分において、別表4の「原処分庁認定額」欄のとおり、請求人が申告したj店の損益にg店に係る売上(収入)金額及び必要経費等を加算して所得金額を計算したが、この際、g店に係る売上(収入)金額については、雑収入として計上されていた請求人に係る社宅家賃の金額(同表のB欄の1欄の内書)を差し引き、一方、必要経費等については、1給料賃金に計上されていた請求人及び請求人の妻であるP7(以下「妻P7」という。)へ支払ったとされる金額(同表のB欄の平成23年分は3欄、平成24年分及び平成25年分はそれぞれ4欄の内書)、2地代家賃に計上されていた請求人の住宅に係る家賃(同表のB欄の平成23年分は4欄、平成24年分は5欄及び平成25年分は6欄の内書)及び3租税公課に計上されていた父P3の平成24年課税期間及び平成25年課税期間に係る消費税等の納付税額(同表のB欄の平成24年分及び平成25年分のそれぞれ3欄の内書)をそれぞれ差し引いて合計した。また、原処分庁は、平成25年分について、上記のほか、4g店の事業資金に係る借入金に対する支払利息38,657円を利子割引料の額に加算した。
    2. (ロ) そして、原処分庁は、別表2のとおり、請求人に対し、平成23年課税期間及び平成24年課税期間についても消費税等の課税事業者になるとして、上記(イ)のとおり認定した売上(収入)金額及び必要経費等に基づき、消費税等の課税標準額、控除対象仕入税額及び消費税等の納付すべき税額を算出していずれも決定処分を行い、平成25年課税期間については更正処分を行った。
    3. (ハ) さらに、原処分庁は、別表3のとおり、請求人が本件各期間分に係るg店の従業員に対する給与等及び関与税理士への税理士報酬につき源泉徴収すべき源泉所得税等を、法定納期限までに納付していなかったとして、本件各納税告知処分等を行った。

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2 平成24年分の所得税の更正処分及び本件消費税等各決定処分等について

審査請求の対象となる処分は、審査請求人の権利利益を侵害するものでなければならず、したがって、例えば、納付すべき税額を減額する更正処分は、審査請求人に利益な処分であって審査請求の利益が認められないから不適法となるところ、請求人は、平成24年分の所得税の更正処分について、その全部の取消しを求めているが、当該更正処分は、更正前(確定申告)の納付すべき税額を減額させるものであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえず、その取消しを求める審査請求の利益はない。
 また、本件消費税等各決定処分等については、原処分関係資料によると、平成28年1月8日付で原処分庁において税額を○○○○円とする更正処分及び変更決定処分が行われていることが明らかであるから(上記1の(2)のロの(イ)のC)、本件消費税等各決定処分等に対する審査請求についても、その取消しを求める審査請求の利益はない。
 以上のことから、これらの審査請求は、いずれもその取消しを求める審査請求の利益がなく不適法である。
 そこで、以下においては、原処分のうち、これらの処分を除いた各処分に係る審査請求について、審理する。

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3 争点

  • (1) g店の事業に係る本件各年分における所得及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価は、請求人又は父P3のいずれに帰属するか。(争点1)
  • (2) g店の事業に係る本件各期間分の給与等及び税理士報酬について、源泉徴収義務は、請求人又は父P3のいずれにあるか。(争点2)

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4 主張

(1) 争点1(g店の事業に係る本件各年分における所得及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価は、請求人又は父P3のいずれに帰属するか。)について

原処分庁 請求人
g店の事業については、次のとおり、g店の出資の状況は明らかでないものの当該出資の状況にかかわらず、事業の遂行に際して行われる平成23年以降の法律行為の名義は全体として請求人であり、請求人がg店の収支の管理を行い、従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたことが認められることから、本件各年分におけるg店の経営主体は父P3ではなく請求人であり、g店の事業に係る所得は請求人に帰属し、また、本件各課税期間における消費税等の納税義務者も請求人であると認められる。 g店の事業については、次のとおり、g店の出資は父P3が行ったことは明らかで、法律行為の名義を総合的に判断すると父P3がg店の経営者であり、また、請求人が収支の管理を行うことも一般的な経理担当者が行う通帳の管理と変わらず、そして、請求人が従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたことについても一般的な店長が行うことを遂行しただけで、最終決定権を有していたのは父P3である。したがって、父P3がg店の経営の主体であり、請求人は、g店の店長として店の切り盛りを任されていたにすぎず、g店の事業に係る所得及び資産の譲渡等の対価は請求人ではなく、父P3に帰属する。
【経営の移譲及び出資の状況について】 【経営の移譲及び出資の状況について】
イ 請求人及び父P3の各申述によれば、g店の経営は、昭和40年頃に祖母P4から父P3へ引き継がれた後、平成2年に父P3から兄P6へ引き継がれ、その後平成17年に兄P6から請求人へ引き継がれていると認められるが、当該各引継ぎの際に、出資金の清算等があったと認めるに足る証拠はなく、g店の出資の状況は明らかでない。 イ 父P3は、昭和46年からg店を経営していた祖母P4より昭和50年頃にg店を引き継ぎ、請求人は、平成16年にg店の店長として職務に就いた。左記「原処分庁」欄のイにおいて平成2年及び平成17年に「経営を引き継いだ」とあるのは、店舗の切り盛りを任せたということであって、経営者である父P3のもと、店長として働くことを意味しており、父P3は、平成2年も平成17年も経営者としての立場を譲ったわけではない。
 平成17年の状況について、父P3が原処分庁に対して申述した内容で、父P3が「店を閉めようと思う。」と言った旨及び請求人が店長としてやるならば店を続けていくことも述べた旨の発言は、父P3が経営者だからこそできる発言であり、明らかに兄P6や請求人が店長にすぎないことを証明している。
ロ 原処分庁は、出資の状況にかかわらず平成23年から平成25年までにおけるg店の経営主体は請求人であると認定したのであり、平成17年から平成22年までの間におけるg店の経営主体が請求人であったとは認定していない。よって、右記「請求人」欄のイの平成17年の状況に関する父P3の発言、同ロのg店の改装の状況及び父P3がL社と締結したg店の設備什器を保険対象とする火災保険契約(以下「本件火災保険契約」という。)に基づくg店の設備什器に係る所有者である旨の主張は、いずれも原処分庁の認定を左右するとは認められない。 ロ 父P3が平成17年7月1日付で締結したg店の内装工事に係る工事請負契約(以下「本件工事請負契約」という。)や平成17年6月30日付でx2信用金庫と締結した金銭消費貸借契約(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)を自ら申し込み、g店を改装したことなどをみれば、g店の出資は父P3が行ったことは明らかである。
 また、本件火災保険契約では、g店の設備什器に係る保険契約者及び資産の所有者が父P3となっており、所有と経営の一致がなされていることが明らかである。
【法律行為等の名義について】 【法律行為等の名義について】
ハ 次のことから、請求人が平成17年営業許可を受けていることをはじめ、本件加盟店等契約(下記(ロ)参照)、本件リース契約(下記(ハ)参照)といったg店の売上げ・資金繰りやサービスに関する契約を請求人自らの意思で締結していることが認められ、他方、本件賃貸借契約(下記(ニ)参照)は父P3名義で締結されているものの、請求人による使用を妨げるものではなく、結局、g店の事業の遂行に際して行われる平成23年以降の法律行為の名義は、全体的に請求人であると認められる。 ハ 次のことから、請求人が平成17年営業許可を申請していること並びに本件加盟店等契約及び本件リース契約について請求人が契約書を交わしていることからは、請求人が経営者になるとはいえず、また、本件賃貸借契約は父P3が将来の事業継承を見据えた上で家族の使用が禁止されない文言を入れて契約したものであることから、法律の名義に着目するのであれば、まさに父P3が経営者である。
(イ) 平成17年営業許可の内容は、請求人が平成17年にg店の経営を引き継ぐことになったとする請求人及び父P3の各申述と符合することから、請求人が、平成17年7月に、g店の経営を引き継ぐ意図をもってf市保健所長に対し営業許可の申請を行い、同許可を得たものと認められること。 (イ) 平成17年営業許可の申請は、平成17年に店舗のあるビルの建替えにより、単に営業許可が必要となっただけであり、請求人は、営業許可の申請を店長として自分が提出するのが、一般的だと考えて申請したにすぎず、g店の経営を引き継ぐ意図など存在しなかったこと。
(ロ) 平成23年1月26日付で申し込まれたg店に係るクレジットカードの加盟店契約及びそのクレジットカード決済による売上代金の早期決済契約(以下、これらの契約を併せて「本件加盟店等契約」という。)については、請求人をg店の代表者として申込みを行っている。他方、父P3は、当該契約をすることに反対だったが、請求人が自らの意思で契約を行った旨申述している。これらのことから、請求人が、平成23年1月に自らの意思により、当該契約を行ったと認められること。 (ロ) 本件加盟店等契約のクレジットカード導入に際して、父P3は反対していたが、請求人と何度も話し合い、父P3の判断により当該契約に至り、クレジットカード会社によれば、契約者が経営者でなくてもよいとのことから、当該契約は店長である請求人が行ったが、単に父P3から契約を任されたにすぎないこと。
 なお、クレジットカードの売上代金について、父P3名義のg店口座を指定していることは、経営者が父P3であるから行ったことである。
(ハ) g店に係るオーダーエントリーシステムのリース契約(以下「本件リース契約」という。)については、請求人が平成23年2月に、自らをg店の代表として申込みを行っており、このことから、g店の代表は請求人であることを外部に表示した上、当該契約を行ったと認められること。
 なお、付言するに、当該契約に係る使用料は、x1信用金庫○○支店の父P3名義普通預金口座(口座番号○○○○、以下「g店口座」という。)からではなく、請求人名義の口座から支払われており、g店に係る必要経費がg店口座のみならず請求人の預金口座からも支払われていたことが認められる。
(ハ) 本件リース契約のオーダーエントリーシステムは、少ない人数で店舗を運営できるメリットを考え、父P3が導入を請求人に指示したのであり、貸主のM社によれば、契約は経営者であっても、店長であっても、社員であっても誰でもよいことになっており、当該契約の申込みを行った者が経営者であるという理論は成り立たないこと。
(ニ) g店の店舗は、父P3が自らを賃借人として賃貸借契約(以下、g店の店舗建物に係る賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)を締結していることが認められるが、当該契約によれば、賃借人である父P3の家族による使用は禁止されておらず、請求人による使用を妨げるものではないこと。 (ニ) 父P3は、本件賃貸借契約を自らの責任で行っていること。当該契約では家族の使用が禁止されないこととなっているが、これは請求人が今後事業を引き継ぐ際に、スムーズに商売ができるようにと父P3が大家に掛け合って契約をしたことである。
(ホ) 父P3は、本件火災保険契約を自らの責任で行っていること。
(ヘ) 父P3は、g店の税務申告を自らの責任で行っていること。
【収支の管理状況について】 【収支の管理状況について】
ニ 次のことから、請求人がg店口座に係る通帳(以下「本件通帳」という。)及びキャッシュカード(以下「本件キャッシュカード」という。)を保有し、g店の売上金を事実上の支配・管理下において管理するとともに、当該売上金から請求人及び妻P7の生活費の捻出並びにj店への貸付け等を請求人の判断で行っていたものと認められ、結局、請求人がg店の収支の管理を行っていたと認められる。 ニ 次のことから、本件通帳及び本件キャッシュカードの所有権は、父P3にあり、請求人及び妻P7が本件通帳及び本件キャッシュカードを保有・管理していることは、一般の企業の経理事務担当者が保有・管理しているのと変わらず、また、父P3は、月次試算表などから経営数値の把握をするなどして、収支の管理を行っていた。
(イ) 請求人、父P3及び妻P7の各申述によれば、父P3は本件通帳及び本件キャッシュカードを保有しておらず、請求人及び妻P7がこれらを保有し入出金を行っていたと認められること。 (イ) 本件通帳及び本件キャッシュカードの所有権は父P3にあり、父P3は、一般的な他の企業の経理担当に行わせるのと同様に、請求人及び妻P7に売上金の入金管理を行わせたのであって、請求人及び妻P7は、売上金の入金管理の都合上、本件通帳及び本件キャッシュカードを単に保有・管理していたにすぎないこと。
(ロ) 妻P7の申述及び本件通帳の手書きメモによれば、g店口座から請求人の生活費の出金及びj店に対する貸付金等の資金移動が随時行われていたことがうかがわれること。 (ロ) 請求人への支出は、給料の範囲内での支出であり、g店口座からの支出は、給料のみならず他業者への支出全てにおいて父P3の了解を取らなければならず、請求人の裁量で動かせるものではないこと。
 なお、g店は、業績の低迷が続き、父P3は生活費をg店から得るどころか、むしろ資金を入れることがほとんどであった。父P3はg店の経営者であるから、その責任として、自らの生活費を取らないことに不思議はない。
(ハ) 請求人は本件通帳を父P3に見せに行く旨申述し、父P3は請求人及び妻P7が本件通帳に何を書いているか分からない旨申述しているところ、g店の売上げや経費はg店口座で管理しているのだから、父P3はg店の売上げの状況や経費の支払状況の詳細を管理していなかったことが認められること。 (ハ) 父P3は、本件各年分の当時の顧問税理士より試算表として、g店の売上げではなく、原価率、人件費率及びその他経費について毎月報告を受けており、月次の試算表によりg店の売上げの状況や経費の状況を詳細に把握していたこと。
【従業員に対する指揮監督及び店舗の運営状況について】 【従業員に対する指揮監督及び店舗の運営状況について】
ホ 請求人及び父P3の各申述によれば、請求人が、従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたと認められる。 ホ g店の従業員の雇用について、店長である請求人は、面接を行い、その面接の印象を父P3に報告しており、最終的に採用の有無を決めるのは経営者である父P3である。また、解雇についても、父P3が店舗確認の際に、目に付いた者について解雇することなどもあり、従業員の雇用・解雇については、経営者である父P3が最終責任者として行っている。
ヘ g店の店舗の運営に関して、取引業者については、父P3選定以外の業者とは取引できず、○○や○○などの決定に始まり、店舗のメニュー構成や価格、家主との折衝等の経営方針は、全て父P3の決定によっている。
ト 父P3は、平成16年に請求人が店長として働くようになってからも、主導的な役割を果たし、名実ともに支配的影響力を持った経営者として、変わらぬ影響力を有している。当該事実の裏付けとして実施した取引業者等への事実確認からしても、経営者は父P3であり、請求人でないことは明らかである。

(2) 争点2(g店の事業に係る本件各期間分の給与等及び税理士報酬について、源泉徴収義務は、請求人又は父P3のいずれにあるか。)について

原処分庁 請求人
上記(1)の「原処分庁」欄のとおり、g店の経営主体は請求人であり、請求人はg店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者であることから、請求人は、当該給与等及び報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務がある。 上記(1)の「請求人」欄のとおり、g店の経営者は父P3であり、請求人はg店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者ではないから、請求人は、当該給与等及び報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務はない。

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5 判断

(1) 争点1(g店の事業に係る本件各年分における所得及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価は、請求人又は父P3のいずれに帰属するか。)について

  • イ 法令解釈
     収入が何人の所得に属するかは、何人の勤労によるかではなく、何人の収入に帰したかで判断される問題である。
     これを事業所得についてみると、事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきである。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 平成17年の新装開店前のg店の状況等
      • A 祖母P4の昭和53年分の所得税の確定申告書の控えによれば、g店の事業に係る昭和53年分の所得税は同人名義で申告されており、当時、父P3は祖母P4の事業専従者となっていた。
      • B 祖母P4は、平成元年10月2日に原処分庁に対して、g店の事業に係る「消費税課税事業者届出書」及び「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しており、昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者となる旨及び当該課税期間から消費税簡易課税制度の適用を受ける旨を届け出た。
      • C 祖母P4は、平成13年11月15日に原処分庁に対して、「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出し、平成13年1月1日から平成13年12月31日までの課税期間から消費税の納税義務がなくなった旨を届け出た。
      • D 祖母P4は、平成15年1月24日に原処分庁に対して、g店の事業に係る消費税の「事業廃止届出書」を提出し、平成13年12月31日に事業を廃止した旨を届け出た。
      • E 祖母P4は、少なくとも平成6年11月16日から平成21年11月30日まで、f市保健所長からg店の事業に関して3年又は6年ごとに食品衛生法上の営業許可を受けていたが、同保健所長に対し、廃業した旨を平成17年7月22日に届け出た。
         なお、祖母P4は、平成21年11月○日に死亡した。
      • F 祖母P4は、g店の事業に関して平成6年12月29日にx2信用金庫から設備資金として14,000,000円の借入れをしており、当該借入金は、平成16年6月21日に完済された。なお、当該借入れにおいて父P3と兄P6が連帯保証人となっていた。
    2. (ロ) g店の新装開店時の状況
      • A g店の店舗建物は、上記1の(4)のイの(イ)のBのとおり、賃借物件で平成16年の半ば頃から平成17年7月頃にかけて新しい建物に建て替えられた。父P3は、g店の新たな内装工事費用に充てるため、x2信用金庫○○支店と平成17年6月30日付で本件金銭消費貸借契約を締結し、16,000,000円を借り入れた。この借入れは、e県の中小企業制度融資のうち小規模企業融資として行われたものであり、個人事業者が借主の場合には、事業承継者を保証人とすることとされ、請求人が連帯保証人となっていた。
         なお、本件金銭消費貸借契約に際してx2信用金庫○○支店が作成した書面には、父P3は、祖母P4が経営していたg店に36年以上勤務し、平成15年頃から経営者になった旨の記載がある。
      • B 父P3は、N社を請負者とする工事請負契約(本件工事請負契約)を平成17年7月1日付で締結し、g店の内装工事を17,167,500円で発注した。
      • C 請求人及び父P3は、上記Aの借入金の金額と上記Bの内装工事の金額との差額1,167,500円について、父P3名義のx2信用金庫○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、上記Aの借入金が入金され、かつ返済口座でもあり、以下「本件内装費用借入口座」という。)に平成17年7月12日に2,267,500円の現金入金があることを根拠に、父P3が自己資金で支払った旨当審判所に回答しているところ、これに反する証拠は存しない。
      • D 平成28年1月26日付でL社○○支店長が父P3宛に発行した「火災保険付保証明書」と題する書面及び契約日をそれぞれ平成18年7月28日、平成19年7月28日及び平成20年7月29日とする店舗総合保険証券並びに当審判所の同保険会社に対する調査の結果によれば、父P3は、同保険会社との間でg店の設備什器等を保険の対象とする本件火災保険契約を、平成17年7月26日から平成26年10月3日まで締結していた(なお、本件火災保険契約は保険期間を1年とするものであり、年によっては次の契約まで数日、また、平成25年においては同年7月28日から10月2日まで保険期間の空白がある。)。
    3. (ハ) 本件各年分のg店の資産の状況
      • A 本件各年分父P3決算書の貸借対照表の資産の部の内訳は別表5のとおりであり、g店の事業に係る資産の大部分は、建物附属設備、車両運搬具及び工具・器具・備品の減価償却資産並びに差入保証金(差入保証金840,000円のうち、800,000円はg店の店舗に係る敷金、40,000円は○○保証金である。)によって占められ、この減価償却資産及び差入保証金のうち店舗敷金800,000円の合計額が資産の合計額に占める割合は同表14欄のとおり、平成23年末は○○%、平成24年末は○○%及び平成25年末は○○%に達している。
      • B また、本件各年分父P3決算書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産の内訳は、別表6のとおりである。
    4. (ニ) 法律行為等の名義
       平成23年ないし平成25年(以下「本件各年」という。)において、g店の事業の遂行上行われている法律行為等の名義に関しては、上記(ロ)のDのとおり、本件火災保険契約が父P3名義で行われ、また、上記1の(4)のイの(ロ)のBのとおり、平成17年営業許可が請求人の名義で取得されているほか、次の事実が認められる。
      • A 本件賃貸借契約
         本件賃貸借契約は、平成14年4月26日以降、少なくともその更新の都度、建物賃貸借契約公正証書が作成されており、当該公正証書によれば、平成14年ないし平成25年中の内容は、要旨次表のとおりである。
契約締結日 賃借人 賃貸借期間
平成14年4月26日 祖母P4(代理人父P3) 平成14年5月1日から平成17年4月末日
平成17年6月1日 父P3 平成17年7月29日から平成20年7月28日
平成20年7月15日 平成20年7月29日から平成23年7月28日
平成23年7月21日 平成23年7月29日から平成26年7月28日

上記のいずれの契約においても、賃貸人の承諾を得ずして賃借人の家族、使用人以外の第三者による事実上の使用は禁止されており、また、敷金については、800,000円を賃貸人が賃借人から受領したとされ、賃貸人は、賃貸借の終了時に賃貸部分の返還を受けると同時に、無利息で賃借人に返還することとされているが、父P3の当審判所に対する答述によれば、敷金は祖母P4が支払ってからそのまま据え置かれている。

  • B 本件加盟店等契約
     申込日をいずれも平成23年1月26日とするクレジットカードの加盟店申込書及びクレジットカード決済による売上代金を週1回決済とする内容の早期決済申込書によれば、申込者を記載する「代表者について」欄には、請求人○○及び当時の住所地などが記載されている。また、これらの申込書において、売上代金の振込口座は、g店口座とされている。
     なお、上記のとおり、本件加盟店等契約は、加盟店募集代行業務及び早期決済支払代行業務等を業務内容とするQ社と締結した早期決済申込みと、同社を通じてR社と締結したクレジットカードの加盟店申込みから成る。早期決済申込書には、営業許可に関して、許可年月日、営業種別、許可番号及び許可取得者名を記載する欄があり、これらの欄には、平成17年営業許可(上記1の(4)のイの(ロ)のB)に基づく内容が記載されている。
  • C 本件リース契約
     平成23年4月1日付でM社を貸主とし、g店に設置するオーダーエントリーシステムをリースする内容の本件リース契約に係る契約書によれば、「リース申込者名」欄には、「H代表」と請求人○○が記載され、また、「連帯保証人(代表者)」欄には、請求人○○及び当時の請求人の住所地などが記載されている。
     なお、本件リース契約に基づくリース料を、以下「本件リース料」という。
  • D g店の事業に係る税務申告の名義(父P3がg店の事業に係る申告を始めた時期)
     祖母P4は、上記ロの(イ)のBないしDのとおり、昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間から消費税の課税事業者となり、平成13年1月1日から平成13年12月31日までの課税期間から消費税の納税義務がなくなった旨を届け出たことからすると、g店の事業に係る消費税等について、その間の課税期間のうち、その課税期間の当時において施行され適用を受ける消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定により消費税の納税義務が免除された課税期間を除いて確定申告をしていたものと推認される。そして、祖母P4は、平成13年12月31日を事業廃止年月日として届け出たことからすると、g店の事業に係る所得税について、平成13年分頃まで確定申告をしていたものと推認される。
     一方、上記1の(4)のロの(イ)のA、C及びDのとおり、父P3が平成15年分以後の所得税から青色承認申請をし、平成15年1月1日に給与支払事務所を開設した旨を届け出たことからすると、父P3は、g店の事業に係る所得税について、平成14年分あるいは平成15年分から申告し始めたものと推認され、また、消費税等については、父P3が平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間につき消費税の課税事業者となった旨を届け出たことからすると、当該課税期間以降、父P3が本件各課税期間まで申告してきたものと推認される。
     なお、父P3の平成15年分所得税青色申告決算書(一般用)の控えの「給料賃金の内訳」欄には、兄P6への給料賃金支給額が年間合計○○○○円である旨記載されているが、父P3の平成16年分所得税青色申告決算書(一般用)の控えの同内訳には、兄P6への給料賃金支給額は記載されていない。
  1. (ホ) 収支の管理の状況
     g店の事業に係る売上げ、仕入れ及び経費等並びにg店口座の管理状況につき、請求人、父P3及び妻P7の申述等によれば、次の事実が認められる。
    • A 売上げ、仕入れ及び経費について
      • (A) g店の日々の売上げは、請求人がPOSレジ(販売時点情報管理機能付きキャッシュレジスター)で管理し、夜11時に同レジを締めて、現金払いの仕入れ及び福利厚生費に係る現金並びに翌日の釣銭50,000円を売上げから差し引いていた。そして、この差し引かれた後の売上金は、売上げの日ごとに分けて、妻P7がg店口座に入金していた。
      • (B) 仕入れ及び経費は、現金又は振込みで妻P7がg店口座から出金して支払っていた。なお、従業員の給与は、月末に各人ごとにg店口座から出金していたが、請求人と妻P7の給与はその時は出金せず、食費等の生活費として必要な時に妻P7が出金し、本件通帳に「生活費」と記載していた。
      • (C) 妻P7は、g店の経理を担当しており、入出金伝票の起票などをするほか、月に一度、当時の関与税理士に本件通帳、仕入れの請求書、入出金伝票及び給与賃金の支払明細書などを渡していた。
    • B g店口座の管理について
      • (A) g店口座の入出金は、妻P7しか行わず、父P3が行うことはなかった。本件通帳及び本件キャッシュカードは、請求人の自宅で保管されていた。
      • (B) 本件通帳には、現金による入金額及び出金額付近の余白に「生活費」、「給料」、「jに貸す」、「j家賃」、「支店に貸す」、「支店にかえす」、「借入れ」、「j店」及び「支店から」等の文字が手書きされている。
  2. (ヘ) 収益の享受の状況
     上記(ホ)のAの(B)のとおり、g店口座から請求人の生活費等が出金されているところ、本件各年においてg店の事業から支出された請求人及び妻P7の生活費等については、当審判所に対する請求人及び父P3の回答によれば、平成23年は○○○○円、平成24年は○○○○円及び平成25年は○○○○円と算出され、原処分庁の回答によれば、同Bの(B)の本件通帳に記載されているメモのうち、「生活費」と記載されたもの及び「支店に貸す」などj店への出金である旨の記載があるものを年ごとに合計することにより、平成23年は○○○○円、平成24年は○○○○円及び平成25年は○○○○円と算出された。
     なお、父P3は、g店の事業から生活費等を得ていなかった。
  3. (ト) 損失等の負担の状況
    • A 本件各年におけるg店及びj店の経営状況
      • (A) g店の事業は、別表4の「B 父P3申告額(g店)」欄のとおり、本件各年分においては連年損失(平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円及び平成25年分は○○○○円の損失)が生じており、j店の事業も、同表の「A 請求人申告額(j店)」欄のとおり、平成23年分は○○○○円の損失が生じている。
      • (B) また、別表7のとおり、父P3の平成22年分の所得税青色申告決算書(一般用)及び本件各年分父P3決算書並びに請求人の平成22年分及び平成23年分の各所得税青色申告決算書(一般用)によれば、g店の事業は、本件各年において平成23年末は○○○○円、平成24年末は○○○○円及び平成25年末は○○○○円の事業主借の状態となっており、j店の事業も事業を開始した平成22年分は元入金○○○○円から事業主貸○○○○円を差し引いた○○○○円が事業主の元入れ、平成23年末は○○○○円が事業主借の状態となっている。
    • B 本件金銭消費貸借契約に係る借入金の返済
       本件金銭消費貸借契約に係る借入金は、父P3名義である本件内装費用借入口座から返済されているところ、少なくとも本件各年中における当該借入金の返済原資は、g店口座から出金され、本件内装費用借入口座に入金された金員である。
    • C 本件リース料の支払
       本件リース料は、支払回数3回目以降口座引落しとされており、その引落し口座として、本件リース契約に係る契約書には請求人○○の名義であるx1信用金庫○○支店普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件リース料引落し口座」という。)が記載されている。本件各年の間、本件リース料引落し口座へは、請求人のj店の事業に係る売上げや経費等を管理していたx1信用金庫○○支店の請求人○○の名義である普通預金口座(口座番号○○○○、以下「j店口座」という。)から出金された200,000円(平成23年2月10日)、g店口座から出金された250,000円(同年6月27日、なお、本件通帳のメモ書きによれば「借 S社(j)」と記載されている。)及び原資不明の180,000円(同年3月9日)の現金入金のほか、f市からの子供(児童)手当及び国税還付金が振り込まれており、おおむねこれらを原資としてリース料が支払われ、本件リース料引落し口座にリース料を支払える残高がない場合には、g店口座から振込みにより支払われていた。割合にすると、本件各年とも本件リース料引落し口座から支払われたのは約4割、g店口座から支払われたのは約6割である。
    • D 資金繰りの状況
      • (A) 請求人による資金繰り
        • a 請求人は、平成23年12月27日、x1信用金庫○○支店から借り入れた3,000,000円をj店口座で受け入れ、このうち、2,000,000円を同月29日にg店口座に入金した。この借入金は、少なくとも平成24年から平成25年の間、j店口座から返済されていた。
           なお、この3,000,000円の借入金は、父P3がx1信用金庫○○支店に預けてあった同額の定期預金が担保提供されている。
        • b 請求人は、平成25年9月30日、M社から1,500,000円を借り入れ、このうち、1,000,000円を同日にg店口座に入金した。なお、この借入金の金銭消費貸借基本契約証書兼保証契約証書によれば、その返済口座は、x3銀行○○支店の請求人○○の名義である普通預金口座(口座番号○○○○)とされているところ、平成25年中の返済は2回あり、そのうち、同年12月2日の50,000円はg店口座から返済された。
      • (B) 父P3による資金繰り
        • a g店及びj店に対する資金繰り
           J社の平成20年10月1日から平成21年9月30日まで、平成21年10月1日から平成22年9月30日まで及び平成22年10月1日から平成23年9月30日までの各事業年度(以下、順次「21年9月期」、「22年9月期」及び「23年9月期」という。)の貸借対照表及び当該各事業年度の法人税の各確定申告書に添付された「借入金及び支払利子の内訳書」によれば、J社は、父P3からの短期借入金を21年9月期末に23,369,000円、22年9月期末に9,500,000円及び23年9月期末に1,019,000円それぞれ計上していることから、父P3からの借入金を22年9月期に13,869,000円及び23年9月期に8,481,000円返済し、平成23年10月1日から平成24年9月30日までの事業年度の総勘定元帳の短期借入金勘定によれば、平成23年10月及び11月の2か月中に、父P3から11,354,893円を借り入れ、11,769,109円を返済した。
           そして、請求人及び父P3の当審判所に対する回答、本件通帳及びj店口座に係る取引明細書によれば、父P3は、次のとおりJ社名義の預金口座から出金することにより貸付金の返済を受け、これを原資に請求人又は妻P7に現金を渡し、請求人又は妻P7がg店口座又はj店口座に入金するなどした。
          • (a) 平成23年7月1日にJ社名義のx4銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「J社x4銀行口座」という。)及びJ社名義のx5銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「J社x5銀行口座」という。)からそれぞれ1,000,000円が出金され、同日にg店口座及びj店口座に各1,000,000円ずつ入金された。
          • (b) 平成23年9月5日にJ社x4銀行口座から2,000,000円が出金され、同日にg店口座に990,000円及びj店口座に1,000,000円が入金された。
          • (c) 平成23年9月30日にJ社x5銀行口座から1,400,000円が出金され、同日にg店口座に1,000,000円が入金された。
          • (d) 平成23年11月29日にJ社x5銀行口座から2,000,000円が出金され、同日にg店口座及びj店口座に各1,000,000円が入金された。
        • b その他のj店に対する資金繰り
           上記のほか、父P3は、j店の開業に際して、x1信用金庫○○支店から平成22年11月10日に「2号店出店に伴う内装工事費用」として18,000,000円の設備資金及び同日に「2号店出店に伴う諸経費支払資金」として4,000,000円の運転資金を借り入れた。なお、これらの借入金は、同支店に提出された同年12月9日付の「預金振替口座・種別等変更届」により、父P3の全ての融資取引について返済口座をj店口座とする手続が採られ、実際に本件各年中はj店口座から返済されていた。
  4. (チ) 従業員の採用及び指揮監督状況等について
     原処分担当者に対する請求人、妻P7及び父P3の申述によれば、従業員の採用については、請求人が面接を行い決定し、昇給も請求人が決定していた。
  • ハ 検討
    1. (イ) g店の経営の移譲時期等について
      • A 父P3は、原処分担当者に対し、祖母P4からの代替わりにより、g店を開業して約25年間は自分でg店の経営を行っていたが、平成2年にJ社を設立し、同社の代表取締役として同社の業務に専念することとしたため、それからは、兄P6がg店の経営を行うこととなった後、平成17年頃に、兄P6がJ社の業務に専念できるように、g店の経営を請求人に引き継いだ旨申述した。
      • B また、請求人は、原処分担当者に対し、平成17年に兄P6からg店を引き継がないかと言われ、当時のg店の経営状況が連年赤字だったことや、父P3から請求人が引き継がなければg店を閉めようと思うとも言われたことなどから、1週間悩んだ結果、g店を引き継ぐことに決めた旨申述した。
      • C 一方、請求人及び父P3は、当審判所に対し、請求人は、平成11年に大学を卒業した後同業他店に勤務したが(上記1の(4)のイの(ロ)のA)、当該同業他店は、退職の申出をその2か月前にチーフ料理長にしなければならなかったこと及び請求人は平成14年12月に実際に退職したことからすると、平成14年10月頃に兄P6からg店を引き継がないかと言われて、g店に勤務するために当該同業他店を退職した旨回答した。
      • D また、父P3は、当審判所に対し、同人が○○歳くらいの頃(昭和55年頃)に祖母P4からg店を引き継ぎ、父P3の妻と共に事業を営んでいたが、引き継いでからも祖母P4は頻繁に店に顔を出しており、親子間のためきちんとした引継ぎはなく、本件賃貸借契約の名義や申告の名義は35年くらい前(昭和56年頃)に自分名義に変えたと思う旨答述したが、更に当審判所の求釈明に対し、請求人及び父P3は、父P3がg店を引き継ぐこととなった時期や父P3名義で申告し始めた年分の記憶は定かでない旨回答した。
      • E 上記Dのとおり、父P3は祖母P4からg店をいつ引き継いだのか記憶が曖昧で、本件賃貸借契約の名義等は35年くらい前(昭和56年頃)に自分名義に変えたとする父P3の記憶あるいは認識と、上記ロの(ニ)のAのとおり、本件賃貸借契約は、平成14年5月1日から平成17年4月末日までの賃貸借期間に係る契約は父P3が代理人であったとはいえ、賃借人は祖母P4であったなどの客観的な事実が整合せず、結局のところ、父P3が祖母P4からg店を引き継いだ時期は明らかでない。
         また、上記A及びBの父P3及び請求人の各申述によれば、上記4の(1)の「原処分庁」欄のイのとおり、平成2年に父P3から兄P6へ、更に平成17年に兄P6から請求人へg店の経営が引き継がれたかのようにも考えられるが、1上記ロの(ニ)のDのとおり、g店の事業に係る所得税等の申告は、平成14年分あるいは平成15年分以降から父P3が行っていたと推認され、2上記Cのg店を引き継ぐ話は平成14年10月頃からあった旨の請求人及び父P3の回答は、請求人の同業他店の退職時期など他の事実関係とも整合的であることから正確性が高いものと考えられ、また、3上記ロの(ニ)のDの父P3の平成15年分及び平成16年分に係る所得税青色申告決算書(一般用)の控えによる兄P6への給料賃金支給額の状況からすると、兄P6は平成15年末でg店を退店したと推認される。これらのことからすると、g店の経営が平成2年に父P3から兄P6へ、更に平成17年に兄P6から請求人へ引き継がれたとは認めがたい。
    2. (ロ) g店の物的設備等の所有者について
       上記(イ)のEのとおり、父P3が祖母P4からg店の経営を引き継いだ時期は不明であるが、父P3が祖母P4からg店の経営を引き継いだこと自体に争いはないところ、上記ロの(イ)のFのとおり、平成6年頃は祖母P4がg店の設備取得のための資金をx2信用金庫から借り入れているが、平成17年頃には、同(ニ)のAのとおり、本件賃貸借契約の賃借人の名義がg店の新装開店を機に父P3に変更され、また、父P3は、同(ロ)のとおり、g店の経営者として新装開店資金を金融機関から借り入れた上、自ら内装工事の発注をし、そして、g店の設備什器等に係る本件火災保険契約も父P3の名義で行われていた。これらの状況からすると、少なくとも平成17年頃には既に、祖母P4から父P3がg店の経営を引き継いでいたことが推認される。
       そして、平成17年のg店の新装開店を機に取得された減価償却資産(別表6の順号3ないし10)は、父P3による上記のような資金繰りのもと工事の発注が行われ、上記ロの(ロ)のCのとおり、本件工事請負契約に係る請負代金と本件金銭消費貸借契約に係る借入金の差額(1,167,500円)は、本件内装費用借入口座に対して平成17年7月12日に2,267,500円の現金入金があることを根拠に、請求人及び父P3は、父P3が自己資金で支払った旨回答しているところ、この2,267,500円の現金入金の原資がそもそも父P3の現金あるいは他の預金等であったのかは不明であるが、父P3以外の者が支出したことを示す証拠もないから、本件金銭消費貸借契約に係る借入金及び父P3の自己資金により、本件工事請負契約に係る請負代金が支払われたものと推認される(なお、本件金銭消費貸借契約に係る借入金は、同(ト)のBのとおり、本件各年中はg店口座から出金された金員を原資に返済されており、これを請求人あるいは他の第三者が負担していた証拠はない。)。
       これらのことからすれば、平成17年のg店の新装開店を機に取得された減価償却資産(別表6の順号3ないし10)は、父P3の所有する資産であったと認められる。
       また、本件各年分父P3決算書の「減価償却費の計算」欄に記載された平成7年、平成15年並びに平成21年3月、7月及び10月に取得された資産(別表6の順号1、2及び11ないし13)は、祖母P4と父P3のいずれが取得した資産であるか不明であるが、上記ロの(イ)のEのとおり、祖母P4が平成21年11月には亡くなっていることからすると、仮に祖母P4が取得した資産であったとしても、本件各年においては、これを請求人が取得したと認められる証拠はなく、譲渡、贈与あるいは相続など原因は定かでないが、父P3が承継したと推認される。
       したがって、本件各年分父P3決算書に記載された減価償却資産(別表6)は、いずれも本件各年において父P3が所有していたものと推認される。
       加えて、別表5の差入保証金840,000円のうち800,000円の店舗敷金(上記ロの(ハ)のA)も、同(ニ)のAのとおり、祖母P4が支払ってからそのまま据え置かれていたことからすれば、父P3が祖母P4から承継した資産であると認められる。
       そうすると、これらを父P3から請求人に譲渡あるいは贈与したと認められる証拠はないから、g店の事業の用に供されている物的設備等のほとんどが父P3の所有するものであったと認められる。
    3. (ハ) 小括
       上記イのとおり、収入が何人の所得に属するかは、何人の勤労によるかではなく、何人の収入に帰したかで判断される問題であり、これを事業所得についてみると、事業所得が帰属する事業者については、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義のほか、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきであるところ、 本件においては、資産の譲渡等の対価が帰属する主体も、事業所得の帰属する主体と同様となるものと解される。
       そして、本件各年におけるg店の経営主体が請求人であったか、父P3であったかを判断するためには、上記(ロ)のとおり、g店の経営は既に平成17年頃には祖母P4から父P3に引き継がれていたことを前提とすれば、平成26年2月の1父P3による「事業廃止届出書」等の原処分庁への提出(上記1の(4)のロの(イ)のE)及び2請求人によるg店等の事業を引き継いだ「H社」の設立(同イの(ハ))よりも前に、経営主体が父P3から請求人に移っていたか否かが問題となる。
      • A g店の店舗及び物的設備等の状況について
         上記ロの(ニ)のAのとおり、本件各年において、本件賃貸借契約は父P3の名義になっていた。店舗の賃貸借契約においては、賃借人は賃料の支払義務を負うとともに、期限が到来した場合には契約を更新するか終了するかの判断をすべき立場にあり、契約終了の際には、原状回復義務を負担する立場にあるから、賃料支払能力や契約の更新等の事柄は、店舗の経営と密接に関連する事柄であるといえる。
         また、上記(ロ)のとおり、本件各年の当時、g店の事業は、おおむね父P3の所有する物的設備等によって営まれており、しかもその大半は、平成17年に父P3自らが購入したものであった。
      • B 本件各年における資金調達力について
         請求人は、上記1の(4)のイの(ロ)のCのとおり、平成22年11月にj店を開業したが、この際、上記ロの(ト)のDの(B)のbのとおり、父P3が、同月にj店出店に伴う内装工事費用及び諸経費支払資金として合計22,000,000円を借りている。請求人は、同(A)のaのとおり、平成23年12月にx1信用金庫○○支店から資金を借り入れたが、その際には父P3の定期預金が担保提供されていて、父P3の信用で借り入れがなされ、そのリスクも父P3が負っていた。
         さらに、同(B)のaのとおり、平成23年7月から同年11月の間に、父P3の経営するJ社の口座からg店口座に合計3,990,000円、j店口座に合計3,000,000円が入金されている。
         これらをみると、少なくとも平成23年当時には、請求人はg店を実質的に経営するだけの資金力を有するに至っておらず、g店の経営は父P3の資金力に大きく依存していたということができる。
         なお、請求人は平成25年9月末に1,500,000円を借り入れ、うち1,000,000円をg店口座に入金しているが、その約4か月後の平成26年2月10日にg店等の事業が請求人の経営するH社に引き継がれていることを考えると、事業継承の経緯の中で行われた借入れとみるべきと考えられる。
      • C 法律行為等の名義について
         本件各年において、上記ロの(ロ)のD及び(ニ)のAのとおり、g店の設備什器等を保険対象とする本件火災保険契約及び本件賃貸借契約は、父P3が名義人になっていた。
         他方、上記1の(4)のイの(ロ)のBのとおり、1平成17年営業許可は、請求人の名義で取得され、また、上記ロの(ニ)のB及びCのとおり、2本件加盟店等契約及び3本件リース契約も請求人が名義人になっていた。
         なお、本件リース料は、上記ロの(ト)のCのとおり、請求人が本件リース料引落し口座として自らの名義の預金口座を指定していたところ、同口座からの引落し金額は、本件各年において支払われた本件リース料の全体のうちの約4割の部分であったと認められる。
         このように、平成23年の時点で、請求人がg店の事業の遂行上行われる法律行為等を自らの名義により行い、また経費の一部について多少の負担をすることは、請求人がいずれg店の経営を引き継ぐことを前提に同店での勤務を開始したという立場であることからすれば(上記(イ)のB及びC)、これらの事実をもって請求人が経営者であると認定することはできない。
      • D 収支の管理状況並びに従業員の採用及び指揮監督状況
         上記ロの(ホ)及び(チ)のとおり、g店の事業に係る売上げ、仕入れ及び経費等並びにg店口座の管理については、請求人及び妻P7によって行われ、また、従業員の採用及び昇給の決定も請求人が行っていたとしても、これらのことは、父P3が、ゆくゆくは事業承継する請求人に店長としてかなりの裁量を持たせ、また、経理担当者の妻P7にその職務上g店口座の入出金や管理をさせていたにすぎなかったといえるにとどまり、請求人が経営者であると認定することはできない。
      • E 収益の享受
         g店の事業に係る収益の享受の状況について、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人及び父P3並びに原処分庁は、請求人及び妻P7が、本件各年において○○○○円台の生活費等をg店の事業に係る収益から享受していた旨それぞれ回答している。
         請求人及び父P3並びに原処分庁の回答した金額に各年とも数十万円の差があるのは、原処分庁の回答のとおり、請求人が経営していることに争いのないj店に対するg店からの出金についても請求人の生活費等とするなど、それぞれの生活費等の捉え方の違いに起因するものと考えられ、いずれにしても、本件各年分父P3決算書に計上された請求人及び妻P7の給与等の金額の範囲を超えて、請求人がg店の事業から収益を享受していたとは認められない。
         そして、一方で、父P3はg店の事業から収益を享受していなかったが、上記ロの(ト)のAのとおり、本件各年におけるg店の経営状況は悪く、連年損失が生じていたことからすると、請求人及び父P3の収益の享受の状況は、父P3が経営者であって、請求人が従業員であるとの状況を前提とすれば整合的である。
      • F まとめ
         これらを総合して考慮すれば、平成26年2月以前にg店の経営主体が父P3から請求人に移っていたと認定することはできず、本件各年においては、請求人はg店の経営を引き継ぐことを前提にg店の事業の遂行に当たっており、g店の経営主体は父P3であったとみるべきである。

(2) 争点2(g店の事業に係る本件各期間分の給与等及び税理士報酬について、源泉徴収義務は、請求人又は父P3のいずれにあるか。)について

  • イ 判断
     所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項は、給与等及び報酬等の支払者が源泉徴収義務を負う旨規定しているところ、上記(1)のハのとおり、g店の経営主体は父P3とみるべきであって、請求人であるとは認められないことから、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者は、請求人であるとは認められない。
     したがって、請求人は、当該給与等及び税理士報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務はなく、父P3にあるものと認められる。
  • ロ 原処分庁の主張について
     上記4の(2)の「原処分庁」欄のとおり、原処分庁は、g店の経営主体は請求人であり、請求人は、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬の支払者であることから、当該給与等及び税理士報酬について、所得税法第183条第1項、同法第204条第1項及び復興財源確保法第28条第1項に規定する源泉徴収義務がある旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、g店の経営主体は請求人でないことから、原処分庁の主張は前提となる事実関係を誤っている。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(3) 原処分について

  • イ 所得税等に係る原処分について
     上記2のとおり、平成24年分の所得税の更正処分に対する審査請求は不適法であるから、却下すべきである。
     そして、上記(1)のハの(ハ)のとおり、父P3が本件各年におけるg店の経営主体であったとみるべきであることから、本件各年分のg店の事業に係る所得は、請求人に帰属するとは認められず、平成23年分及び平成25年分のg店の事業に係る所得が請求人に帰属するとしてされた本件所得税等各更正処分は違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきであり、また、本件所得税等各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ロ 消費税等に係る原処分について
     上記2のとおり、本件消費税等各決定処分等に対する審査請求は不適法であるから、却下すべきである。
     そして、上記(1)のハの(ハ)のとおり、父P3が本件各課税期間におけるg店の経営主体であったとみるべきであることから、平成25年課税期間のg店の事業に係る資産の譲渡等に係る対価は、請求人に帰属するとは認められず、平成25年課税期間のg店の事業に係る資産の譲渡等の対価が請求人に帰属するとしてされた本件消費税等更正処分は違法であるから、その全部を取り消すべきであり、また、本件消費税等賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
  • ハ 源泉所得税等に係る原処分について
     上記(2)のイのとおり、g店の経営主体は父P3とみるべきであって、請求人であるとは認められないことから、本件各期間分において、g店の従業員に対して支払われた給与等及び税理士に対して支払われた税理士報酬は、請求人が支払ったものとは認められず、これらを本件各期間分において請求人が支払ったとしてされた本件各納税告知処分は違法であるから、いずれもその全部を取り消すべきであり、また、本件源泉所得税等各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求のうち平成24年分の所得税の更正処分及び本件消費税等各決定処分等(原処分の2及び4)に対する審査請求は不適法であるから却下することとし、その余の審査請求はいずれも理由があるから上記を除く原処分はいずれもその全部を取り消すこととする。

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