(平成28年8月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、請求人とは異なる者が営業許可の名義人となっている飲食店について、実質的な経営者は請求人であり、それらに係る収益は請求人に帰属するなどとして請求人の所得金額を推計の方法により算出し各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、事実誤認があるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成○年○月○日に飲食店業及び学習塾を営むことを目的として設立され、その代表取締役はe(以下「本件代表者」という。)であり、本件代表者が請求人の株式の全てを所有している。なお、請求人は平成○年○月○日、株主総会の決議により解散した。
  • ロ 請求人は、平成19年4月6日、法人税の青色申告の承認申請書を原処分庁に提出し、平成○年○月○日から平成20年1月31日までの事業年度(以下「平成20年1月期」といい、他の事業年度も同様に表記する。)以後、青色申告の承認を受けた。
  • ハ 請求人は、設立後、本件代表者が平成○年○月から個人で経営していた「x1」の名称の飲食店を引き継ぐとともに、平成20年2月から「x2」の名称の飲食店の営業を始め、「x1」及び「x2」に係る収益について申告している(以下、請求人が申告している「x1」と「x2」を併せて「申告店舗」という。)。
  • ニ f社は、本件代表者を代表取締役として平成○年○月○日に飲食店業、ネイルサロン等を営むことを目的として設立され、「x3」の名称の飲食店及び「x4」の名称の飲食店を経営していたが、平成○年○月○日に解散し、○年○月○日に清算を結了している。ただし、「x3」及び「x4」はf社解散後も営業を継続していた。
  • ホ 本件代表者の妻であったp2(平成○年○月に離婚し、現在の姓は○○である。)は、g社の代表取締役であり、g社は、「x5」の名称の飲食店を経営している。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、申告店舗に係る平成20年1月期ないし平成26年1月期(以下、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税及び平成25年2月1日から平成26年1月31日までの課税事業年度(以下「平成26年1月課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、いずれも法定申告期限までに申告した。
     また、請求人は、申告店舗に係る平成21年2月1日から平成22年1月31日までの課税期間(以下「平成22年1月課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)ないし平成26年1月課税期間(以下、これらの課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分に係る調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成25年9月11日以降、法人税、復興特別法人税、消費税等並びに源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)及び復興特別所得税(以下、源泉所得税と併せて「源泉所得税等」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を行った。
  • ハ 原処分庁は、本件調査の結果、食品衛生法による営業許可(以下「飲食店営業許可」という。)の名義人が請求人とは異なる店舗(別表2記載の各店舗。以下「x6」、「x7」、「x8」、「x9」及びf社解散後の「x3」及び「x4(平成24年7月に屋号を「x10」に変更。)」を、それぞれ、「x6」、「x7」、「x8」、「x9」、「x3」及び「x10」といい、これらの6店舗を併せて「本件各店舗」という。)に係る収益の帰属者はいずれも請求人であるなどとして、平成27年3月2日付で、別表1−1記載の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)を行うとともに、本件各事業年度の所得金額を推計の方法により算出し、別表1−2ないし別表1−4記載の各処分を行った。
     以下、別表1−2記載の法人税の各更正処分を「本件法人税各更正処分」、同表記載の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分を「本件法人税各賦課決定処分」、別表1−3記載の復興特別法人税の更正処分を「本件復興特別法人税更正処分」、同表記載の復興特別法人税に係る重加算税の賦課決定処分を「本件復興特別法人税賦課決定処分」といい、また、別表1−4記載の消費税等の各更正処分を「本件消費税等各更正処分」、同表記載の消費税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」という。
  • ニ さらに、原処分庁は、請求人から本件代表者に対して、推計の方法により算出した利益(以下「本件利益」という。)に相当する額の給与等が支給されたとして、平成27年3月9日付で、別表1−5記載の各処分を行った。
     以下、別表1−5記載の各月分を「本件各月分」、同表記載の各納税告知処分を「本件各納税告知処分」、不納付加算税及び重加算税の各賦課決定処分を「本件源泉所得税等各賦課決定処分」という。
  • ホ 請求人は、上記ハ及びニの原処分を不服として、平成27年5月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月30日付で、いずれも棄却の異議決定をし、同月31日に異議決定書謄本を請求人に対して送達した。
  • ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成27年8月31日に審査請求をした。

(4) 関係法令の要旨

  • イ 法人税法第11条《実質所得者課税の原則》は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定している。
  • ロ 法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第3項は、内国法人が、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する給与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定している。
  • ハ 法人税法第126条《青色申告法人の帳簿書類》第1項は、同法第121条《青色申告》第1項の承認を受けている内国法人(以下「青色申告法人」という。)は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定している。
  • ニ 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号は、青色申告法人につきその事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない場合には、納税地の所轄税務署長は、その事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなす旨規定している。
  • ホ 法人税法第131条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準(更正をする場合にあっては、課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額)を推計して、これをすることができる旨規定している。
  • ヘ 法人税法施行規則第53条《青色申告法人の決算》は、青色申告法人は、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、その記録に基づいて決算を行わなければならない旨規定している。
  • ト 消費税法第13条《資産の譲渡等を行った者の実質判定》(平成27年法律第9号改正前のもの。以下同じ。)は、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する旨規定している。
  • チ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
  • リ 消費税法第30条第7項は、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用しない旨規定している。
  • ヌ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
  • ル 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
  • ヲ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第4項は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同条第1項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同条第1項の規定を適用する旨規定している。
  • ワ 通則法第67条《不納付加算税》第1項は、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、納税の告知に係る税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する。ただし、当該告知に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
  • カ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する揚合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ヨ 通則法第68条第3項は、同法第67条第1項の規定に該当する場合において、納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったときは、税務署長は、当該納税者から、不納付加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る不納付加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を徴収する旨規定している。

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2 争点

  • (1) 本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人か否か。(争点1)
  • (2) 請求人に、法人税法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か。(争点2)
  • (3) 請求人の法人税及び消費税等に係る推計課税に必要性及び合理性があるか否か。(争点3)
  • (4) 請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたか否か。(争点4)
  • (5) 請求人に、通則法第68条第1項及び第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実があるか否か。(争点5)

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人か否か。)について

原処分庁 請求人
事業から生ずる収益の帰属者は、その事業を開始し、維持・継続する権限を有する者、すなわち経営者と一致すると考えられることから、事業収益の帰属者が誰であるかは、1当該事業が営まれている事業所を巡る権利関係、2事業から生じた売上金の管理形態、3経費の負担関係、4従業員に対する指揮監督状況などを総合勘案して判断するものと解されているところ、以下のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は、いずれも請求人である。 実質所得者課税においては、1店舗に関する法律行為の名義人、2店舗に対する出資状況、3収支の管理状況、4預金通帳及び印鑑の保管状況、5従業員の雇用、監督等を総合勘案して収益の帰属者を判断することとなっているところ、以下のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は、いずれも請求人ではない。
イ 「x6」について イ 「x6」について
1本件代表者の指示により、h名義で不動産賃貸借契約、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律による営業許可(以下、「風俗営業許可」といい、「飲食店営業許可」と併せて「本件各営業許可」という。)の届出並びにクレジット会社への申込み等が行われており、本件代表者が名義人の決定権を有していた。2hは、売上伝票及び売上日報とともに売上金をi又はjを介して本件代表者に、また、クレジットによる売上金を直接本件代表者に渡しており、本件代表者が売上金の管理を行っていた。3上記2のとおり、本件代表者が売上金の管理を行っていたところ、酒等の仕入金額は、その売上金の中から支払われ、また、本件代表者がh及び従業員に対し給与を支払っていた。4申告店舗も飲食店業であり、「x6」の売上金の管理形態及び報告体制は、申告店舗と同様である。
 以上のことを総合勘案すると、「x6」に係る収益の帰属者は請求人である。
1店舗の賃借人、風俗営業許可の名義人及びクレジットカード加盟店契約の名義人はhである。2hが開業するに当たり、本件代表者は店舗設備等の資金を立て替えてはいるが、経営者として出資したものではない。また、請求人も出資していない。3店舗の収支について管理していたのはhである。なお、本件代表者が店舗の売上金から現金を回収していたのは、開業時の立替金等を回収するためである。4請求人及び本件代表者は、店舗に係る預金通帳及び印鑑を保管していない。5店舗の従業員の雇用、監督等について、請求人及び本件代表者は関知していない。
 以上のことを総合勘案すると、「x6」に係る収益の帰属者はhである。
ロ 「x7」について ロ 「x7」について
1本件代表者の指示により、i名義で不動産賃貸借契約及び本件各営業許可の届出が行われており、本件代表者が名義人の決定権を有していた。2iは、売上伝票及び売上日報とともに売上金を本件代表者に渡しており、本件代表者が売上金の管理を行っていた。3上記2のとおり、本件代表者が売上金の管理を行っていたところ、本件代表者がiに対し給与を支払っていた。4申告店舗も飲食店業であり、「x7」の売上金の管理形態及び報告体制は、申告店舗と同様である。
 以上のことを総合勘案すると、「x7」に係る収益の帰属者は請求人である。
1店舗の賃借人、風俗営業許可の名義人及びクレジットカード加盟店契約の名義人はiである。2「x7」の開業に当たり、請求人及び本件代表者は何ら関与しておらず、出資もしていない。3店舗の収支について管理していたのはiである。4請求人及び本件代表者は、店舗に係る預金通帳及び印鑑を保管していない。5店舗の従業員の雇用、監督等について、請求人及び本件代表者は関知していない。
 以上のことを総合勘案すると、「x7」に係る収益の帰属者はiである。
ハ 「x8」について ハ 「x8」について
1本件代表者の指示により、k名義で不動産賃貸借契約、本件各営業許可の届出及びクレジット会社への申込み等が行われており、本件代表者が名義人の決定権を有していた。2kは、売上伝票及び売上日報とともに売上金をi又はjを介して本件代表者に、また、クレジットによる売上金を直接本件代表者に渡しており、本件代表者が売上金の管理を行っていた。3上記2のとおり、本件代表者が売上金の管理を行っていたところ、酒等の仕入金額は、その売上金の中から支払われ、また、本件代表者がk及び従業員に対し給与を支払っていた。4申告店舗も飲食店業であり、「x8」の売上金の管理形態及び報告体制は、申告店舗と同様である。
 以上のことを総合勘案すると、「x8」に係る収益の帰属者は請求人である。
1店舗の賃借人、風俗営業許可の名義人及びクレジットカード加盟店契約の名義人はkである。2kが開業するに当たり、本件代表者は店舗設備等の資金を立て替えてはいるが、経営者として出資したものではない。また、請求人も出資していない。3店舗の収支について管理していたのはkである。なお、本件代表者が店舗の売上金から現金を回収していたのは、開業時の立替金等を回収するためである。4請求人及び本件代表者は、店舗に係る預金通帳及び印鑑を保管していない。5店舗の従業員の雇用、監督等について、請求人及び本件代表者は関知していない。
 以上のことを総合勘案すると、「x8」に係る収益の帰属者はkである。
ニ 「x9」について ニ 「x9」について
1本件代表者の指示により、m名義で不動産賃貸借契約が行われ、また、店舗を開廃業しており、本件代表者が名義人及び店舗の開廃業に関する決定権を有していた。2mは、売上伝票及び売上日報とともに売上金をiを介して本件代表者に渡しており、本件代表者が売上金の管理を行っていた。3上記2のとおり、本件代表者が売上金の管理を行っていたところ、本件代表者がm及び従業員に対し給与を支払っていた。4申告店舗も飲食店業であり、「x9」の売上金の管理形態及び報告体制は、申告店舗と同様である。
 以上のことを総合勘案すると、「x9」に係る収益の帰属者は請求人である。
1店舗の賃借人、風俗営業許可の名義人及びクレジットカード加盟店契約の名義人はmであるが、mは夫であるiの従業員である。2「x9」の開業に当たり、請求人及び本件代表者は何ら関与しておらず、出資もしていない。3店舗の収支について管理していたのはmである。4請求人及び本件代表者は、店舗に係る預金通帳及び印鑑を保管していない。5店舗の従業員の雇用、監督等について、請求人及び本件代表者は関知していない。
 以上のことを総合勘案すると、「x9」に係る収益の帰属者はiである。
ホ 「x3」及び「x10」について ホ 「x3」及び「x10」について
1本件代表者の指示により、n名義で本件各営業許可の届出及びクレジットによる売上金の入金口座の開設等が行われており、本件代表者が名義人の決定権を有していた。2nは、売上伝票及び売上日報とともに売上金を本件代表者が指示する者に、また、クレジットによる売上金も同者に渡しており、当該指示する者を介して本件代表者が売上金を受け取っていたと推認され、本件代表者が売上金の管理を行っていたといえる。3上記2のとおり、本件代表者が売上金の管理を行っていたところ、酒等の仕入金額は、その売上金の中から支払われ、また、本件代表者がn及び従業員に対し給与を支払っていた。さらに、本件代表者が、「x3」の閉店及びこれに伴う「x10」の店舗拡張工事の実施を決定し、その費用を負担した。4申告店舗も飲食店業であり、「x3」及び「x10」の売上金の管理形態及び報告体制は、申告店舗と同様である。
 以上のことを総合勘案すると、「x3」及び「x10」に係る収益の帰属者は、請求人である。
1風俗営業許可の名義人及びクレジットカード加盟店契約の名義人はnである。なお、店舗の賃借人の名義は本件代表者になっているが、これは、nが開業した際に、「x3」及び「x10」の前経営者であるf社が滞納家賃を速やかに支払うことが困難であり、nもすぐに敷金等を用意できなかったことから、店舗の賃借人の名義を変更しないまま営業を開始したためであり、このことはnも了承している。2「x3」及び「x10」の開業に当たり、f社はnに店舗内の建物付属設備、器具備品等を売却し、請求人及び本件代表者は何ら関与しておらず、出資もしていない。3店舗の収支について管理していたのはnである。4請求人及び本件代表者は、店舗に係る預金通帳及び印鑑を保管していない。5店舗の従業員の雇用、監督等について、請求人及び本件代表者は関知していない。
 以上のことを総合勘案すると、「x3」及び「x10」に係る収益の帰属者はnである。

(2) 争点2(請求人に、法人税法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人であると認められるところ、請求人は、平成20年1月期において、財務省令で定めるところにより、本件各店舗に係る帳簿書類を備え付けて、これにその資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならないにもかかわらず、本件調査において、本件各店舗の帳簿書類を提示せず、また、請求人の関与税理士は、本件各店舗は請求人が経営しているものではないから帳簿書類は一切作成していない旨申述していることから、請求人は、仕訳帳及び総勘定元帳その他必要な帳簿を備え、本件各店舗に係る益金及び損金など、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、かつ、当該帳簿を保存しているとは認められない。
 したがって、請求人の帳簿書類の備付け等が法人税法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないと認められることから、請求人には、同法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由がある。
原処分庁は、本件調査の際、請求人に対し平成20年1月期の青色申告に関する帳簿の提示を求めておらず、確認をしないまま法人税法第127条第1項第1号に該当すると判断したが、請求人は平成20年1月期の帳簿書類を同法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って備え付けている。なお、上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益は請求人に帰属しないので、請求人において本件各店舗に係る帳簿書類を備え付ける必要はない。
 したがって、請求人には、法人税法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由はない。

(3) 争点3(請求人の法人税及び消費税等に係る推計課税に必要性及び合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 推計課税の必要性について イ 推計課税の必要性について
上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人であると認められるところ、請求人は、本件各店舗の帳簿書類を備え付けておらず、また、本件各店舗の本件各営業許可の名義人であるh、i、k、m及びn(以下、これらの者を併せて「本件各名義人」という。)が調査担当者に対して提示した書類も一部であって、帳簿書類によって請求人の所得金額及び消費税等の課税標準額を実額で把握することができないことから、推計の方法により算定する必要性がある。 申告店舗については、収入計上漏れ等何ら非違が把握されておらず、帳簿書類も存在しており、請求人の所得金額及び消費税等の課税標準額を実額で把握する直接の資料があるので、推計課税の必要性はない。
 なお、上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益はいずれも請求人に帰属しないのであるから、本件各店舗を含めて推計課税を行い、請求人の所得金額及び消費税等の課税標準額を算定するのは明らかに誤りである。
ロ 推計課税の合理性について ロ 推計課税の合理性について
原処分庁は、請求人の本件各事業年度に係る売上原価を類似法人の平均売上原価率で除することにより売上金額を算定し、当該売上金額に類似法人の平均調整営業利益率を乗じる方法により、請求人の本件各事業年度における所得金額及び本件各課税期間の消費税等の課税標準を算定しているところ、1業種・業態及び規模等において類似性がある類似法人にあっては、特段の事情がない限り、同程度の収入からは同程度の所得が得られるものであり、また、各類似法人間に通常存する程度の営業条件の差異については、各類似法人の比率からその平均値を算定する過程において捨象されること、2平均売上原価率及び平均調整営業利益率の算定に使用した資料は、いずれも帳簿書類の整っている青色申告法人の決算書であって、その信頼性ないし正確性は高いものであること、3類似法人として抽出した件数は、7件から18件と、各類似法人の個別性を平均化するに足りることから、原処分庁が行った推計課税には合理性がある。 仮に、推計課税の必要性が認められるとしても、原処分庁は、業種、業態、事業内容、規模、事業所所在地において請求人と類似していると認められる法人を抽出して所得金額等を計算したとしているが、本件各店舗は、夜の人通りがほとんど無い程繁華街からかなり離れており、客数が少なく利益率も低いこと、申告店舗には飲み放題がなく、ホステスもいない店舗があることなどからすると、店舗の形態等において請求人と類似した法人が抽出されているとはいえず、また、原処分庁が抽出した法人の件数はほんの数件にとどまっていることから、原処分庁が行った推計課税には合理性がない。

(4) 争点4(請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたか否か。)について

原処分庁 請求人
所得税法第28条第1項に規定する給与所得となる給与等には、雇用契約に限らず、これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務等の対価として、あるいは労務等を提供する地位に基づいて支給されるものも含まれるものと解される。そして、法人の代表者が法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配している事情がある場合には、代表者は、実質的に、その法人資産を自由に処分し得る地位及び権限を有し、簿外資産をねん出し、これを当該法人の事業とは無関係に利得し、費消することも可能であるので、法人の代表者が、給与支給の外形によらず、その意思に基づき、当該法人の事業活動を利用して利益を得たような場合には、当該利益は、法人の代表者がその地位及び権限に基づいて受けた給与等であると解するのが相当である。
 本件についてみると、上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人であると認められ、推計の方法による算定の結果、請求人には本件利益が生じていることが認められるところ、1本件利益に見合う請求人の資産は発見されていないこと、2請求人は、本件代表者が代表取締役となっている同族会社であること、3上記(1)のとおり、本件各店舗の売上金を本件代表者が管理していることからすると、請求人は、その事業活動により本件利益に相当する額を得ており、その上で、本件代表者は、給与の外形を有していないものの、その意思に基づき請求人の事業活動を利用して、本件利益に相当する額の利益を、その地位及び権限に基づいて受けたとみるのが相当である。
 したがって、請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたものと認められる。
申告店舗について収入計上漏れ等はなく、また、上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益はいずれも請求人に帰属しないのであるから、請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等は支給されていない。

(5) 争点5(請求人に、通則法第68条第1項及び第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 本件法人税各賦課決定処分、本件復興特別法人税賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分について 上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益はいずれも請求人に帰属せず、請求人及び本件代表者が本件各名義人に対し、収益の帰属者を偽るような指示は一切していない。また、上記(4)のとおり、請求人が本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等を支給した事実もない。
 したがって、請求人に、通則法第68条第1項及び第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実はない。
上記(1)のとおり、請求人は、本件各名義人に対し、本件各営業許可の届出、クレジット会社への申込み等を本件各名義人の名前で行うよう指示し、また、本件各店舗に係る収益が請求人に帰属するにもかかわらず、本件各店舗に係る売上金額等を帳簿に記載せず、これに基づいて本件各事業年度の法人税、平成26年1月課税事業年度の復興特別法人税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出している。
 したがって、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実がある。
ロ 本件源泉所得税等各賦課決定処分について
上記(4)のとおり、請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたところ、請求人はこれを帳簿に一切記帳せず、源泉徴収の対象となる給与等の支払事実を隠ぺいし、源泉所得税等を法定納期限までに納付していない。
 したがって、請求人には、通則法第68条第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実がある。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人か否か。)について

  • イ 認定事実
  • 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 申告店舗について
      • A 「x1」は、平成○年○月○日に本件代表者名義で飲食店営業許可を、また、○年○月○日に同名義で風俗営業許可を受けて営業を開始し、平成26年1月末現在において営業していた。その営業形態は、主に客に対して酒を提供するバー・ラウンジであった。
         「x2」は、平成○年○月○日にp2名義で飲食店営業許可を受け、営業を開始し、平成26年1月末現在において営業していた。その営業形態は、フーズバーであり、酒も提供していた。
         なお、請求人は、本件各事業年度において、飲食店業のほかに事業を行っておらず、また、申告店舗の上記営業形態は、開業当初から平成26年1月まで大きな変更はなかった。
      • B 本件代表者は、申告店舗のカウンター椅子の入替え、備品の撤去等の工事を業者に依頼しており、業者との打合せ及び具体的な指示を自ら行っていた。
      • C 申告店舗の店長は、本件代表者の指示の下、閉店後に売上伝票及び経費に係る領収書から売上日報を作成し、売上金と売上伝票等を本件代表者に渡しており、売上伝票等は、後日、各店長に返還されていた。
      • D 申告店舗の店長は、本件代表者の指示の下、申告店舗の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類を本件代表者に渡していた。
      • E g社の事務所内にあるパソコン(以下「g社のパソコン」という。)には、平成22年10月ないし平成23年5月の申告店舗の店長及び従業員に対する給与の支給額を入力したデータが保存されているところ、本件代表者が、各人ごとの給料の入った封筒を申告店舗の店長に渡していた。
    2. (ロ) 「x6」について
      • A 「x6」は、平成19年6月に営業を開始し、平成22年12月に閉店した。その営業形態は、開業当初から閉店するまで、主に客に対して酒を提供するバー・ラウンジであった。
      • B hは、本件代表者から、「x6」の雇われママになるよう依頼され、その指示の下、平成19年4月10日、自らを賃借人、本件代表者を連帯保証人として、「x6」の店舗に係る建物賃貸借契約を締結し、また、h名義で飲食店営業許可を受けた。
      • C 「x6」の店舗で使用されていた固定電話の契約者は、本件代表者であった。
      • D 「x6」が開業される前に、本件代表者は、「x6」の店舗の給排水管の改修工事をp社に依頼しており、当該工事に当たっての業者との打合せ及び具体的な指示を自ら行い、平成19年6月18日付で請求書が同社から本件代表者宛てに発行され、本件代表者が工事代金を同社に持参して支払った。また、同店舗のガルスパン等の改装工事も行われ、同日付で2枚の請求書が工事店たるq社から本件代表者宛てに発行された。
      • E 本件代表者は、「x6」の看板をr社に発注しており、看板制作に係るレイアウト等の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、r社は、平成19年7月31日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • F hは、本件代表者の指示の下、売上伝票及び経費に係る領収書から売上日報を作成し、売上金については、本件代表者に指示された者が売上伝票、売上日報及び経費に係る領収書とともに回収して本件代表者に渡すか、直接、本件代表者が回収していた。そして、売上伝票等は、2日ないし3日後に売上金を入れる袋とともにhに返還され、hは、本件代表者から、虚偽の売上伝票を作成し、売上金額を実際の3分の1程度にして市民税の申告をするよう、また、真実の売上伝票は1週間以内に破棄するよう指示され、当該指示に従っていた。
      • G hは、本件代表者の指示の下、「x6」の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類を月末に本件代表者に渡していた。
      • H g社のパソコンには、平成22年10月ないし同年12月のh及び「x6」の従業員に対する給与の支給額を入力したデータが保存されているところ、各人ごとの給料の入った封筒を、本件代表者に指示された者が本件代表者から預かり、又は本件代表者が直接、hに渡していた。
      • I 「x6」は、本件代表者とh及びk(hの子で、「x8」の飲食店営業許可の名義人)との間で問題が生じて閉店するに至ったところ、本件代表者の代理人である弁護士は、hの代理人である弁護士に対し、平成23年2月2日付で、1本件代表者がhに対して雇われママをお願いしたこと、2hに対して未払の給与があること、3本件代表者が、経営につきhに対して指導をし、売上げについて報告させていたにもかかわらず、hが売上げの一部を報告しておらず、自ら取得していたとの疑義が生じたこと及び4本件代表者が、売上金等を管理していた預金通帳の返却を受けたことが記載された文書を送付し、また、同年3月8日付で、5「x6」に係る平成20年分の消費税等は本件代表者が納付する旨記載された文書を送付した。
    3. (ハ) 「x7」について
      • A 「x7」は、平成23年1月から「x6」が営業していた店舗において営業を開始し、平成26年3月に閉店した。その営業形態は、開業当初から閉店するまで、主に客に対して酒を提供するバー・ラウンジであった。
      • B iは、本件代表者から、表向きだけ「x7」の経営者になってほしいと頼まれ、その指示の下、平成23年2月8日、自らを賃借人、本件代表者を連帯保証人として、「x7」の店舗に係る建物賃貸借契約を締結し、また、i名義で飲食店営業許可を受けた。
      • C 「x7」が開業される前に、本件代表者は、「x7」の店舗の採寸及びカウンター椅子の納品等をs社に依頼しており、椅子のデザイン等の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、同社は、平成22年12月31日及び平成23年1月31日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • D 本件代表者は、「x7」の看板をr社に発注しており、看板制作に係るレイアウト等の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、r社は、平成23年1月31日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • E iは、本件代表者の指示の下、売上伝票及び経費に係る領収書から売上日報を作成し、売上金については、本件代表者に指示された者又はiが売上伝票、売上日報及び経費に係る領収書とともに本件代表者に渡すか、直接、本件代表者が回収していた。そして、売上伝票等は、後日、iに返還され、iは、本件代表者から、売上伝票を破棄し、虚偽の売上日報を作成するよう指示され、当該指示に従っていた。
      • F iは、本件代表者の指示の下、「x7」の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類を本件代表者に渡していた。
      • G g社のパソコンには、平成23年1月ないし平成24年7月及び平成25年1月ないし同年8月の「x7」の従業員に対する給与並びに平成23年1月ないし同年4月のiに対する給与の支給額を入力したデータが保存されているところ、本件代表者は、各人ごとの給料の入った封筒をiに渡していた。
    4. (ニ) 「x8」について
      • A 「x8」は、平成22年3月に営業を開始し、同年12月に閉店した。その営業形態は、開業当初から閉店するまで、主に客に対して酒を提供するバー・ラウンジであった。
      • B kは、本件代表者から、「x8」の雇われママになるよう依頼され、その指示の下、自らを賃借人、本件代表者を連帯保証人として、「x8」の店舗に係る建物賃貸借契約(賃貸借期間は平成22年4月1日ないし平成23年3月31日)を締結し、また、k名義で飲食店営業許可を受けた。
      • C 「x8」が開業される前に、本件代表者は、「x8」の店舗の内装工事等をs社に依頼しており、当該工事に当たっての業者との打合せ及び具体的な指示を自ら行い、同社は、平成22年3月31日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • D 本件代表者は、「x8」の看板をr社に発注しており、看板制作に係るレイアウト等の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、r社は、平成22年4月30日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • E kは、本件代表者の指示の下、売上伝票及び経費に係る領収書から売上日報を作成し、売上金については、本件代表者に指示された者が売上伝票、売上日報及び経費に係る領収書とともに回収して本件代表者に渡すか、直接、本件代表者が回収していた。そして、売上伝票は、2日ないし3日後に売上金を入れる袋とともにkに返還され、kは、本件代表者から、売上伝票は破棄するよう指示されていた。
      • F kは、本件代表者の指示の下、「x8」の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類を月末に本件代表者が指示した者に渡していた。
      • G g社のパソコンには、平成22年10月ないし同年11月のkに対する給与及び同年10月ないし同年12月の「x8」の従業員に対する給与の支給額を入力したデータが保存されているところ、各人ごとの給料の入った封筒を、本件代表者に指示された者が本件代表者から預かり、又は本件代表者が直接、kに渡していた。
      • H 「x8」は、本件代表者とh及びkとの間で問題が生じて閉店するに至ったところ、本件代表者の代理人である弁護士は、kの代理人である弁護士に対し、平成23年2月2日付で、1本件代表者がkに対して雇われママをお願いしたこと、2kに対して未払の給与があること、3本件代表者が、経営につきkに対して指導をし、売上げについて報告させていたにもかかわらず、kが売上げの一部を報告しておらず、自ら取得していたとの疑義が生じたこと及び4本件代表者が、売上金等を管理していた預金通帳の返却を受けたことが記載された文書を送付し、また、同年3月8日付で、5「x8」の店舗の賃借人をkから本件代表者に変更し、未払賃料を本件代表者において支払う旨記載された文書を送付した。
    5. (ホ) 「x9」について
      • A 「x9」は、平成23年4月に「x8」が営業していた店舗において営業を開始し、平成24年1月に閉店した。その営業形態は、開業当初から閉店するまで、主に客に対して酒を提供するバー・ラウンジであった。
      • B mは、本件代表者から夫のiを介して「x9」のママになるよう依頼され、その指示の下、平成23年3月18日、自らを賃借人、本件代表者を連帯保証人として、「x9」の店舗に係る建物賃貸借契約を締結し、また、m名義で飲食店営業許可を受けた。
      • C 売上日報は、本件代表者の指示の下に作成され、iが、売上金、売上伝票、売上日報及び経費に係る領収書を回収して本件代表者に渡していた。
      • D mは、本件代表者の指示の下、「x9」の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類をiが「x5」に持参していた。
      • E g社のパソコンには、平成23年4月ないし平成24年1月のm及び「x9」の従業員に対する給与の支給額を入力したデータが保存されているところ、iが、本件代表者に指示されて、各人ごとの給料の入った封筒を本件代表者から預かり、mに渡していた。
    6. (ヘ) 「x3」及び「x10」について
      • A 「x3」は、f社が解散する前に「x3」として営業していた店舗において、f社解散後も営業を継続していたが、平成24年6月に閉店した。その営業形態は、開業当初から閉店するまで、主に客に対して酒を提供するホストクラブであった。
         「x10」は、f社が解散する前に「x4」として営業していた店舗において、f社解散後も営業を継続していたが、その後、「x3」が営業していた店舗との間の壁を解体撤去して1店舗にし、平成26年1月末現在において営業していた。その営業形態は、開業当初から、主に客に対して酒を提供するバーであった。
      • B 本件代表者は、f社を経営していた平成18年3月14日、自らを賃借人として、f社解散前の「x3」及び「x4」の店舗に係る賃貸借契約を締結し、f社解散後の平成24年4月20日にも、自らを賃借人として、「x3」及び「x10」の店舗に係る賃貸借契約(賃貸借期間は平成24年4月1日ないし平成29年3月31日)を締結した。
      • C nは、本件代表者から、表向きだけ「x3」及び「x10」の経営者になってほしいと頼まれ、その指示の下、「x3」については平成○年○月○日、「x10」については平成○年○月○日、n名義で飲食店営業許可を受けた。
      • D 本件代表者は、「x3」のトイレの修理、改装工事、窓の工事等をs社に依頼しており、当該工事の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、同社は、平成22年12月31日、平成23年3月30日及び平成24年2月29日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • E 本件代表者は、「x3」と「x10」の店舗の間の壁を解体撤去し、1店舗とするための工事をs社に依頼しており、当該工事の具体的な指示及び業者との打合せを自ら行い、同社は、平成24年6月30日付で、本件代表者宛ての請求書を本件代表者の自宅に郵送した。
      • F nは、本件代表者の指示の下、売上伝票及び経費に係る領収書から売上日報を従業員に作成させ、売上金については、n又はiが売上伝票、売上日報及び経費に係る領収書とともに「x5」に持参しており、売上伝票等は、後日、nに返還されていた。
      • G nは、本件代表者の指示の下、「x3」と「x10」の従業員の出勤管理をタイムカードで行っており、従業員の給与については、タイムカードと指名数から各人ごとの支給額を計算した書類を「x5」に持参していた。
      • H 「x3」及び「x10」の店長及び従業員の給与については、「x5」の従業員が、上記Gの書類を基に給与の集計をg社のパソコンに入力し、本件代表者の指示の下、i又は「x5」の従業員が、各人ごとの給料の入った封筒をnに渡していた。
      • I 請求人が当審判所に提出したf社の総勘定元帳によると、f社は、解散した平成○年○月○日に簿価で建物付属設備等をnに譲渡したとして、下記のとおり、同日付で(A)、翌日付で(B)の仕訳により会計処理(振替)を行った。
(A) 【借方】   【貸方】  
未収入金 4,127,776円 建物 1,050,389円
    建物付属設備 2,073,749円
    工具器具備品 883,238円
    売掛金 120,400円
(B) 【借方】   【貸方】  
未払金 3,042,721円 未収入金 4,127,776円
(給与・家賃等)    
仮受金 1,085,055円    
(g社)    
  • ロ 法令解釈
  • 法人税は、その営む事業から生じる所得に着目して課される税であり、その納税義務者は当該事業に係る費用収益の帰属主体である。また、消費税等は、事業者が行う資産の譲渡等に着目して課される税であり、それらの納税義務者は課税資産の譲渡等を行った事業者である。そして、実質的な費用収益の帰属主体及び資産の譲渡等の帰属主体については、名義と実質が一致しない場合においては、実質的にこれらを享受する者に対して課税されることとなる(法人税法第11条《実質所得者課税の原則》、消費税法第13条《資産の譲渡等を行った者の実質判定》参照)。
     上記実質的な費用収益及び資産の譲渡等の帰属主体については、事業に至る経緯、経営の実態、経理関係、関係者の認識等を総合して判断されるべきである。
  • ハ 当てはめ
    1. (イ) 申告店舗について
       上記1の(2)のイ及び上記イの(イ)のAのとおり、本件代表者は請求人の代表取締役であって、「x1」の本件各営業許可の名義人となり、また、「x2」については、本件代表者の元妻が飲食店営業許可の名義人になっているところ、いずれの店舗においても、上記イの(イ)のBのとおり、店舗の工事等につき本件代表者が主体となって関与し、上記イの(イ)のCのとおり、本件代表者が、売上日報等を店長に作成させ、売上金の回収、売上げ及び経費の管理をし、また、上記イの(イ)のDのとおり、本件代表者の指示の下、店長及び従業員の勤務管理が行われ、上記イの(イ)のEのとおり、本件代表者に持参された書類を基に本件代表者の元妻が経営するg社のパソコンにおいて店長及び従業員の給与のデータが入力され、本件代表者が給与を支給していたことからすると、本件代表者は、請求人の代表取締役として、申告店舗の経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていたものと認められる。
    2. (ロ) 「x6」について
       上記イの(ロ)のBのとおり、hが、店舗の賃借人及び飲食店営業許可の名義人になっているものの、これは本件代表者の指示によるものであって、本件代表者が、hに対して雇われママになることを依頼したこと、上記イの(ロ)のCのとおり、店舗の固定電話の契約者は本件代表者であったこと、上記イの(ロ)のD及びEのとおり、開業前の店舗の改修工事及び看板の設置につき自らが主体となって関与し、本件代表者宛てに各請求書が発行されていること、上記イの(ロ)のGのとおり、本件代表者によってhを含め従業員の勤務状況が管理されていたことからすると、「x6」は本件代表者が開業を決意し、経営の実権を握っていたものといえる。また、上記イの(ロ)のFのとおり、本件代表者の指示の下に売上日報等が作成され、売上金の回収、売上げ及び経費の管理を本件代表者がしていたこと、上記イの(ロ)のG及びHのとおり、本件代表者の指示の下、h及び従業員の勤務管理が行われ、本件代表者に持参された書類を基に本件代表者の元妻が経営するg社のパソコンにおいてh及び従業員の給与のデータが入力され、本件代表者が給与を支給していたことからすると、本件代表者が主体となって経理処理をしていたものと認められる。そして、かかる経営状況は、上記(イ)のとおり、本件代表者が代表取締役を務め、法人経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていた申告店舗の経営状況と同様であって、申告店舗と「x6」は、その経営の実態において何ら変わるところはなく、本件代表者が、申告店舗及び「x6」に係る売上金を回収した上で、g社のパソコンで従業員の給与について一緒に管理し給与を支給していたことからすると、本件代表者には、「x6」の収益が全て請求人に帰属するとの認識があったものと認められる。このことは、上記イの(ロ)のIのとおり、本件代表者が、「hをママとして雇い給与を支給していたこと」及び「『x6』に係る消費税等を負担すること」を自ら認めて書面を送付していたことからもうかがえる。
       以上のことから、「x6」に係る収益の帰属者は請求人であると認められる。
    3. (ハ) 「x7」について
       上記イの(ハ)のBのとおり、iが、店舗の賃借人及び飲食店営業許可の名義人になっているものの、これは本件代表者の指示によるものであって、本件代表者が、iに対して表向きだけ経営者になることを依頼したこと、上記イの(ハ)のC及びDのとおり、開業前の店舗の設備の準備等及び看板の設置につき自らが主体となって関与し、本件代表者宛てに各請求書が発行されていること、上記イの(ハ)のFのとおり、本件代表者によってiを含め従業員の勤務状況が管理されていたことからすると、「x7」は本件代表者が開業を決意し、経営の実権を握っていたものといえる。また、上記イの(ハ)のEのとおり、本件代表者の指示の下に売上日報等が作成され、売上金の回収、売上げ及び経費の管理を本件代表者がしていたこと、上記イの(ハ)のF及びGのとおり、本件代表者の指示の下、i及び従業員の勤務管理が行われ、本件代表者に持参された書類を基に本件代表者の元妻が経営するg社のパソコンにおいてi及び従業員の給与のデータが入力され、本件代表者が給与を支給していたことからすると、本件代表者が主体となって経理処理をしていたものと認められる。そして、かかる経営状況は、上記(イ)のとおり、本件代表者が代表取締役を務め、法人経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていた申告店舗の経営状況と同様であって、申告店舗と「x7」は、その経営の実態において何ら変わるところはなく、本件代表者が、申告店舗及び「x7」に係る売上金を回収した上で、g社のパソコンで従業員の給与について一緒に管理し、給与を支給していたことからすると、本件代表者には、「x7」の収益が全て請求人に帰属するとの認識があったものと認められる。
       以上のことから、「x7」に係る収益の帰属者は請求人であると認められる。
    4. (ニ) 「x8」について
       上記イの(ニ)のBのとおり、kが、店舗の賃借人及び飲食店営業許可の名義人になっているものの、これは本件代表者の指示によるものであって、本件代表者が、kに対して雇われママになることを依頼したこと、上記イの(ニ)のC及びDのとおり、開業前の店舗の内装工事等及び看板の設置につき自らが主体となって関与し、本件代表者宛てに各請求書が発行されていること、上記イの(ニ)のFのとおり、本件代表者によってkを含め従業員の勤務状況が管理されていたことからすると、「x8」は本件代表者が開業を決意し、経営の実権を握っていたものといえる。また、上記イの(ニ)のEのとおり、本件代表者の指示の下に売上日報等が作成され、売上金の回収、売上げ及び経費の管理を本件代表者がしていたこと、上記イの(ニ)のF及びGのとおり、本件代表者の指示の下、k及び従業員の勤務管理が行われ、本件代表者に持参された書類を基に本件代表者の元妻が経営するg社のパソコンにおいてk及び従業員の給与のデータが入力され、本件代表者が給与を支給していたことからすると、本件代表者が主体となって経理処理をしていたものと認められる。そして、かかる経営状況は、上記(イ)のとおり、本件代表者が代表取締役を務め、法人経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていた申告店舗の経営状況と同様であって、申告店舗と「x8」は、その経営の実態において何ら変わるところはなく、本件代表者が、申告店舗及び「x8」に係る売上金を回収した上で、g社のパソコンで従業員の給与について一緒に管理し給与を支給していたことからすると、本件代表者には、「x8」の収益が全て請求人に帰属するとの認識があったものと認められる。このことは、上記イの(ニ)のHのとおり、本件代表者が、「kをママとして雇い給与を支給していたこと」及び「店舗の未払賃料について負担すること」を自ら認めて書面を送付していたことからもうかがえる。
       以上のことから、「x8」に係る収益の帰属者は請求人であると認められる。
    5. (ホ) 「x9」について
       上記イの(ホ)のBのとおり、mが、店舗の賃借人及び飲食店営業許可の名義人になっているものの、これは本件代表者の指示によるものであって、本件代表者が、iを介してmに対しママになることを依頼したこと、上記イの(ホ)のDのとおり、本件代表者によってmを含め従業員の勤務状況が管理されていたことからすると、「x9」は本件代表者が開業を決意し、経営の実権を握っていたものといえる。また、上記イの(ホ)のCのとおり、本件代表者の指示の下に売上日報等が作成され、売上金の回収、売上げ及び経費の管理を本件代表者がしていたこと、上記イの(ホ)のD及びEのとおり、本件代表者の指示の下、m及び従業員の勤務管理が行われ、本件代表者の元妻が経営する「x5」に持参された書類を基に同人が経営するg社のパソコンにおいてm及び従業員の給与のデータが入力され、本件代表者が給与を支給していたことからすると、本件代表者が主体となって経理処理をしていたものと認められる。そして、かかる経営状況は、上記(イ)のとおり、本件代表者が代表取締役を務め、法人経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていた申告店舗の経営状況と同様であって、申告店舗と「x9」は、その経営の実態において何ら変わるところはなく、本件代表者が、申告店舗及び「x9」に係る売上金を回収した上で、g社のパソコンで従業員の給与について一緒に管理し給与を支給していたことからすると、本件代表者には、「x9」の収益が全て請求人に帰属するとの認識があったものと認められる。
       以上のことから、「x9」に係る収益の帰属者は請求人であると認められる。
    6. (ヘ) 「x3」及び「x10」について
       上記イの(ヘ)のCのとおり、nが、飲食店営業許可の名義人になっているものの、これは本件代表者の指示によるものであって、本件代表者が、nに対して表向きだけ経営者になることを依頼したこと、上記イの(ヘ)のBのとおり、本件代表者が、f社解散後も自らが賃借人となって「x3」及び「x10」の店舗の賃貸借契約を締結していること、上記イの(ヘ)のEのとおり、「x3」及び「x10」の店舗の壁の解体撤去工事につき自らが主体となって関与し、本件代表者宛てに請求書が発行されており、「x3」及び「x10」を1店舗とすることを本件代表者が決定したといえること、上記イの(ヘ)のGのとおり、本件代表者によってnを含め従業員の勤務状況が管理されていたことからすると、「x3」及び「x10」は本件代表者が各店舗の開業を決意し、経営の実権を握っていたものといえる。また、上記イの(ヘ)のFのとおり、本件代表者の指示の下に売上日報等が作成されて、売上金等が本件代表者の元妻が経営する「x5」に持参されており、売上金の回収、売上げ及び経費の管理を本件代表者がしていたといえること、上記イの(ヘ)のG及びHのとおり、本件代表者の指示の下、n並びに「x3」及び「x10」の従業員の勤務管理が行われ、本件代表者の元妻が経営する「x5」に持参された書類を基に同人が経営するg社のパソコンにおいてn及び従業員の給与のデータが入力され、給与が支給されていたことからすると、本件代表者が主体となって経理処理をしていたものと認められる。そして、かかる経営状況は、上記(イ)のとおり、本件代表者が代表取締役を務め、法人経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていた申告店舗の経営状況と同様であって、申告店舗と「x3」及び「x10」は、その経営の実態において何ら変わるところはなく、本件代表者が、申告店舗、「x3」及び「x10」に係る売上金を回収した上で、g社のパソコンで従業員の給与について一緒に管理し給与を支給していたことからすると、本件代表者には、「x3」及び「x10」の収益が全て請求人に帰属するとの認識があったものと認められる。
       以上のことから、「x3」及び「x10」に係る収益の帰属者は請求人であると認められる。
  • ニ 請求人の主張について
    1. (イ) 請求人は、「x6」及び「x8」につき、売上金から現金を回収していたのは、開業時の立替金等を回収するためであった旨主張している。
       しかしながら、上記イの(ロ)のI及び(ニ)のHのとおり、本件代表者は、代理人を介して、h及びkをママとして雇用し給与を支給していたこと及び売上金を報告させて回収していたことを認める旨の文書をh及びkの代理人に送付しており、請求人の主張は、自らが送付した文書の内容と矛盾するものであって採用できない。
    2. (ロ) また、請求人は、「x3」及び「x10」については、f社からnに店舗設備等を譲渡された旨主張し、その証拠として、当審判所に対し、上記イの(ヘ)のIのとおり、f社の総勘定元帳を提出した。
       しかしながら、現実にnに店舗設備等が譲渡され、それに伴いf社の事業もnに引き継がれたのであれば、当該譲渡後にnによって経営が開始されるのが通常であるところ、上記イの(ヘ)のCのとおり、nはf社解散より半年余りも前である平成○年○月にx3の飲食店営業許可を受けていたこと、上記イの(ヘ)のB、D及びEのとおり、本件代表者が、f社解散後においても、「x3」及び「x10」の店舗につき自らが賃借人となって賃貸借契約を締結し、主体的に店舗の工事に関わっていたことからすると、請求人の主張はこれらの事実と矛盾するものであり、上記ハの(ヘ)の認定も併せ考慮すると、上記イの(ヘ)のIの帳簿の記載内容をもってしても、f社の事業がnに引き継がれたと認めることはできない。

(2) 争点2(請求人に、法人税法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
     平成20年1月期に営業していた店舗は、申告店舗及び「x6」であったところ、「x6」において記録、保存されていた平成20年1月期の帳簿書類は、以下のとおりである。
    1. (イ) 売上等集計表(各月ごとに、日々の売上金額、仕入れ等の支払金額及び従業員への日払金の合計金額を一覧表に記載したもの。以下同じ。)の一部
    2. (ロ) 仕入れ及び経費に係る領収書
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益の帰属者は請求人であると認められるところ、上記イのとおり、「x6」において記録、保存されていた帳簿書類は一部の取引に係るものであることからすると、請求人は、平成20年1月期において、仕訳帳及び総勘定元帳その他必要な帳簿を備え、収益及び費用など、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、かつ、当該帳簿を保存していたとは認められない。
     したがって、請求人の帳簿書類の備付け等は、法人税法第126条第1項に規定する財務省令に従って行われていないと認められ、請求人には、同法第127条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由がある。

(3) 争点3(請求人の法人税及び消費税等に係る推計課税に必要性及び合理性があるか否か。)について

  • イ 帳簿書類等の存在
    1. (イ) 本件調査において請求人が提示した帳簿書類は、申告店舗に係る以下の帳簿書類である。
      • A 平成22年1月期ないし平成26年1月期の総勘定元帳
         なお、請求人は、異議審理庁に対し、平成20年1月期及び平成21年1月期の総勘定元帳を提示している。
      • B 平成22年1月期ないし平成25年1月期の決算報告書
      • C 平成22年1月期ないし平成25年1月期の売上日報(日々の売上金額、仕入れ等の支払金額明細、従業員への日払金及び現金残高を記載したもの。以下同じ。)の一部
      • D 平成22年1月期ないし平成25年1月期の売上伝票(客数、単価、売上明細及び合計売上金額を記載したもの。以下同じ。)の一部
      • E 平成22年1月期ないし平成25年1月期の仕入れ及び経費に係る領収書・請求書
    2. (ロ) 本件調査において調査担当職員が把握した本件各店舗に係る帳簿書類は、以下のとおりである。
      • A 「x6」
        1. (A) 平成22年1月ないし同年12月の期間に係る売上日報
        2. (B) 平成22年1月ないし同年12月の期間に係る売上伝票
        3. (C) 平成20年1月ないし平成22年12月の期間に係る売上等集計表の一部
        4. (D) 平成19年ないし平成22年の期間に係る仕入れ及び経費に係る領収書
      • B 「x7」
        1. (A) 平成24年1月ないし平成26年1月の期間に係る売上日報
        2. (B) 平成24年1月ないし平成25年8月の期間に係る売上伝票
      • C 「x8」
        1. (A) 平成22年3月ないし同年12月の期間に係る売上日報
        2. (B) 平成22年3月ないし同年12月の期間に係る売上伝票
        3. (C) 平成22年3月ないし同年12月の期間に係る仕入れ及び経費に係る領収書
      • D 「x9」
        1. (A) 平成24年1月の売上日報
        2. (B) 平成24年1月の売上伝票
      • E 「x3」
         平成24年の3日分の売上伝票
      • F 「x10」
        1. (A) 平成24年5月ないし同年6月及び平成24年8月ないし平成26年1月の期間に係る売上日報並びに平成24年7月分の売上等集計表
        2. (B) 平成25年9月ないし平成26年1月の期間に係る売上伝票
        3. (C) 平成25年9月ないし平成26年1月の期間に係る仕入れ及び経費に係る領収書の一部
    3. (ハ) 原処分庁が、本件各店舗の酒の仕入先を調査し、当該仕入先の帳簿書類から得られた資料の内容は、以下のとおりである。
      • A 「x6」に係る平成19年6月ないし平成21年2月の仕入金額(酒以外の飲料を含む。)
      • B 「x10」に係る平成23年4月ないし平成26年1月の仕入金額(酒以外の飲料を含む。)
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 上記(1)のとおり、本件各店舗の収益は請求人に帰属するところ、本件各店舗の営業期間は、別表2のとおりである。
    2. (ロ) 本件調査において、申告店舗に係る損益計算書に記載された売上原価の額に、非違事項は把握されなかった。
    3. (ハ) 原処分庁が採用した推計の方法は、以下のとおりである。
      • A 申告店舗に係る損益計算書に記載された売上原価の額に、本件各店舗の酒の仕入先に対する調査の結果得られた上記イの(ハ)の仕入金額及び上記イの(ロ)の売上日報及び売上等集計表から把握した仕入金額を加算した額を、別表3−1ないし別表3−7の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各事業年度の売上原価の額とした。
      • B ○○の税務署、U税務署、V税務署、Y税務署及びZ税務署の管轄内において、バー、キャバレー、ナイトクラブを営む法人で、次の基準の全てに該当する法人を類似の同業者として、売上金額、売上原価及び一般経費を調査し、その調査を基に、別表4−1、別表4−3、別表4−5、別表4−7、別表4−9、別表4−11及び別表4−13(原処分庁の主張)のとおり、平均売上原価率(売上金額に対する売上原価の割合の平均値をいう。以下同じ。)及び平均調整営業利益率(売上金額に対する調整営業利益額(売上金額から1売上原価の額、2販売費及び一般管理費の額(ただし、役員報酬、役員賞与及び役員退職給与(以下、これらを併せて「役員報酬等」という。)、減価償却費並びに地代家賃の額を除いた額)を控除した額)の割合の平均値をいう。以下同じ。)を算出した。なお、調査の対象とした事業年度は、本件各事業年度それぞれの末日の前後半年間に終了する事業年度(平成26年1月期については平成25年8月1日から平成26年3月31日までの間に終了する事業年度)であった。
        1. (A) 青色申告書により法人税の確定申告書を提出していること
        2. (B) バー、キャバレー、ナイトクラブを営む法人であること
        3. (C) 対象事業年度を通じ、継続して事業を行い、(B)以外の事業を兼業していないこと
        4. (D) 売上原価、給与賃金(役員報酬等を除く。)及び地代家賃(店舗に係る賃借料)の支払があること
        5. (E) 複数店舗を有すること
        6. (F) 対象事業年度において、売上原価の額がそれぞれ請求人の売上原価(上記Aにより算定された額。ただし、調査により把握した売上原価が1年に満たない場合には、これを年換算した額(別表3−1ないし別表3−7の「年換算額」))の0.5倍以上2倍以下であること
        7. (G) 対象事業年度において、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと
      • C 上記Aの売上原価を上記Bの平均売上原価率で除した金額を、請求人の本件各事業年度の売上金額とし、当該売上金額に上記Bの平均調整営業利益率を乗じ、当該乗じた金額から、役員報酬等、減価償却費及び地代家賃を特別経費として減じる方法により、本件各事業年度における請求人の所得金額を算定した。
    4. (ニ) 請求人は、当審判所に対して本件各店舗の収益、費用等の額を実額で把握するに足りる資料を提出していない。
  • ハ 判断
    1. (イ) 推計課税の必要性について
       所得金額は、収益の額(益金の額)から費用及び損失の額(損金の額)を控除したものであり、これに対する法人税は、原則として両者の実額を把握した上で課税されるべきものであるが、実額を把握するに足りる資料が存在しない場合や、存在しても、記載内容が不正確であったり、納税義務者の協力が得られないために確認できないような場合に、課税を断念するのは、租税の公平負担の原則に反することが明らかである。そのため、法人税法は、当該納税義務者の所得金額を、間接的な資料に基づいて推計して課税することを認めている。もっとも、課税は実額に基づくことが原則であるため、処分時に上記のような推計による課税を行わねばならない事情が存すること、すなわち推計課税の必要性の存在は、原則として当該処分の適法要件と解される。
       また、消費税法第28条《課税標準》は、消費税の課税標準となるべき課税資産の譲渡等の数額を定めたものにすぎず、同条に従って決せられる課税標準の数額を、常に実額調査の方法によってのみ決定しなければならないことまでを定めたものと解することはできず、消費税法が、信頼し得る調査資料を欠くために実額調査のできない場合に、適当な合理的な推計の方法をもって課税標準の数額を算定することを禁止するものでないことは、特に納税義務者が質問検査に協力しない場合に納税義務者の課税資産の譲渡等を捕捉するのに十分な資料がないだけで課税を見合わせることが許されないことからいっても、当然の事理であり、このことは法人税法第131条のような明文の規定があることによって初めて可能となるわけではないから、消費税法第28条の定める課税標準の数額の決定につき推計の方法を用いることは、法律の許容するところである。
      • A 上記(1)のとおり、本件各店舗の収益は請求人に帰属するところ、上記イの(イ)のとおり、本件調査において請求人が提示した帳簿書類は、申告店舗に係るもののみである上、上記イの(ロ)のとおり、本件各店舗に係る売上日報等は、一部が保存されているにすぎず、請求人の本件各事業年度の所得金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額を実額で把握するに足りる資料が存在しないといえ、推計課税の必要性があったものと認められる。
      • B また、上記ロの(ニ)のとおり、請求人は、当審判所に対しても、本件各店舗の収益、費用等の額を実額で把握するに足りる資料を提出しなかったことから、当審判所においても、推計の方法により本件各事業年度の所得金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額を算定せざるを得ない。
    2. (ロ) 推計課税の合理性について
       一般に推計課税の合理性が肯定されるためには、1推計の基礎となるべき事実、例えば比率法が適用される場合には、この比率を乗ずべき納税者の売上金額等が正確に把握されていること、2種々の推計方法のうち、当該事案に適切と考えられる方法が選択されたこと、3具体的な推計方法が、できる限り所得の実額に近似した数値が算出され得る客観性を有すること、具体的には、同業者比率法を用いる場合、1対象となる同業者の類似性(業種・業態、立地条件、事業規模等)、2資料の正確性、3抽出過程における恣意の排除、4同業者率の内容の合理性等の要件が満たされていることを要する。
      • A 推計方法の選択の適切性
         上記ロの(ハ)のとおり、原処分庁は、申告店舗に係る売上原価の額に本件各店舗の酒の仕入先を調査するなどして算定した仕入金額を加算した額を本件各事業年度の売上原価の額とし、その額を基礎として同業者比率法を用いて本件各事業年度の所得金額を推計しているところ、上記(1)のイの(イ)ないし(ヘ)の各Aのとおり、申告店舗及び本件各店舗の営業形態は主として客に対して酒を提供するものであり、バー・キャバレー、ナイトクラブといった業種においては売上原価の大半を酒が占めることからすれば、本件各店舗の売上金額は、酒の仕入金額と比例関係にあるといえる。
         また、上記ロの(ハ)のBのとおり、原処分庁は、販売費及び一般管理費の額から実額により把握できる役員報酬等、減価償却費及び地代家賃の額を除いた上で、本件各事業年度の調整営業利益額を算定し、役員報酬等、減価償却費及び地代家賃は特別経費として処理しているところ、およそ類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の売上原価からは同程度の収入があり、同程度の収入に対し同程度の利益を得ることが通例であり、請求人の事業において特段の事情があるとは認められず、また、類似の同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、通常、平均値を算出する過程で捨象されるものであり、算定に当たって殊更影響を及ぼさない。
         以上のことからすると、種々の推計方法のうち、請求人の事業に適切と考えられる推計方法が選択されたと認められる。
      • B 請求人の売上原価の額の正確性
         上記ロの(ハ)のAのとおり、原処分庁は、推計課税の基礎とした売上原価の額につき、申告店舗については、損益計算書に記載された売上原価の額を、本件各店舗については、酒の仕入先調査において得られた仕入金額並びに売上日報及び売上等集計表から把握した仕入金額をそれぞれ採用している。
         かかるところ、1上記ロの(ロ)のとおり、請求人の本件各事業年度の損益計算書に記載された申告店舗に係る売上原価の額は、本件調査において計上誤り等の非違事項が把握されていないこと、2上記イの(ハ)のとおり、酒の仕入先調査において得られた仕入金額は、当該仕入先において日々記帳された帳簿書類に基づき把握されたものであること、3上記(1)のイの(ロ)のF、(ハ)のE及び(ニ)のEのとおり、本件代表者は、飲食店営業許可の名義人に対し、売上伝票を破棄し、虚偽の売上日報を作成するよう指示していたものの、これは、売上日報により真実の売上金額を確認した後、売上金すなわち納税額を減少させるためであって、仕入れについては虚偽の記載をさせる理由はなく、むしろ、経理処理をしていた本件代表者としては、日々の正確な売上金及び売上原価等の額を把握する必要があって本件各名義人に売上日報等を作成させていたといえることからすると、請求人の酒の仕入金額は当該帳簿書類等により正確に把握できるものと認められる。
         もっとも、原処分庁が算定した平成22年1月期の売上原価の額には一部計算誤りが認められ、また、平成25年1月期及び平成26年1月期の売上原価の額には、酒の仕入金額以外に通信費、消耗品費等の額が含まれており、これらは売上原価を構成するものではないから除外し、これらを訂正した別表3−3、別表3−6及び別表3−7の「審判所認定額」欄の額をもって、平成22年1月期、平成25年1月期及び平成26年1月期の売上原価の額とするのが相当である。
      • C 同業者の類似性並びに平均売上原価率及び平均調整営業利益率の算定の合理性
         原処分庁は、平均売上原価率及び平均調整営業利益率の算定に当たって、類似の同業者とする選定基準を上記ロの(ハ)のBのとおり設定しているところ、かかる選定基準についてみると、選定対象とした業種・業態をバー、キャバレー、ナイトクラブに限定しており、これは、上記(1)のイの(イ)ないし(ヘ)の各Aのとおり、バー・ラウンジ、フーズバー及びホストクラブを営む請求人の営業形態との同一性に配慮したものと認められ、かつ、売上原価の額が請求人の売上原価の額の0.5倍以上2倍以下であり、給与賃金(役員報酬等を除く)及び地代家賃(店舗に係る賃借料)の支払があること、複数の店舗を経営し、他の事業を兼業していないなど、事業規模等においても上記(1)のイの(イ)のAの請求人の事業規模等との類似性を十分に考慮している。そして、かかる条件に合致する事業者の個別性を平均化するに足る件数の事業者を選定すべく、上記ロの(ハ)のBのとおり、選定対象とした事業者の所在地を○○の税務署のみならず、U税務署、V税務署、Y税務署及びZ税務署の管轄内としていることから、選定対象となる同業者の類似性は満たされているといえる。このように選定基準を設け、これに該当する事業者を機械的に抽出することによれば、抽出過程に関係者の恣意が介入することは回避できるといえ、抽出過程における恣意も排除されるものと認められる。また、選定対象者については、青色申告者であって、対象事業年度において、継続して事業を行い、不服申立て又は訴訟が係属中でないこととしており、売上金額等を把握する上で障害となるような不安定要素を有する者が除外されているとともに、青色申告制度が日々の取引を所定の帳簿に記帳し、その記帳に基づいて正しい申告をすることで、所得の計算等について有利な取扱いが受けられる制度であることに鑑みると、調査資料の正確性は担保されているといえる。
         ただし、原処分庁が平成23年1月期の類似の同業者として抽出した事業者の中には、上記ロの(ハ)のBの選定基準に該当しない事業者が1件含まれていることから、別表4−8(審判所の認定)のとおり、これが類似の同業者から除外され、また、上記Bのとおり、請求人の売上原価の額が変動することに伴い、平成25年1月期及び平成26年1月期について、上記ロの(ハ)のBの選定基準に従って同業者を選定すると、別表4−12及び別表4−14(審判所の認定)のとおり、それぞれ1件が除外され、平成25年1月期においては新たに1件が選定される。
         なお、原処分庁が主張する売上原価率及び調整営業利益率の算定は端数処理において適当でなく、上記の同業者の除外及び選定の結果として適切な端数処理により算定される売上原価率及び調整営業利益率は、別表4−2、別表4−4、別表4−6、別表4−8、別表4−10、別表4−12及び別表4−14(審判所の認定)のとおりとなるから、同各表の算定率を適用すべきである。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、申告店舗には、飲み放題がなく、ホステスもいない店舗があり、店舗の業態等において請求人と類似した同業者が抽出されているとはいえず、また、原処分庁が抽出した同業者の件数はほんの数件にとどまっていることから、推計課税の合理性はない旨主張している。
     しかしながら、請求人の主張するような業態の差異が存在するとしても、上記ハの(ロ)のAのとおり、類似の同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、通常、平均値を算出する過程で捨象されるものであり、算定に当たって殊更影響を及ぼさない上、原処分庁により抽出された類似の同業者は、本件各事業年度において7社ないし18社であり、同業者の個別性を平均化するに不足はないといえることから、請求人の主張は理由がない。

(4) 争点4(請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件利益に相当する請求人の資産は発見されなかった。
  • ロ 法令解釈
     所得税法第28条第1項は、給与所得となる給与等について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」と包括的に規定しており、この趣旨からすると、給与等には、雇用契約に限らず、これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務等の対価として、あるいは労務等を提供する地位に基づいて支給されるものも含まれると解される。
     そして、法人の代表者等が法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配している事情がある場合には、法人の代表者等が、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、それが法人の資産から支出されたと認められる場合には、当該利得は、法人の代表者等がその地位及び権限に対して受けた給与等であると解するのが相当である。
  • ハ 当てはめ
     上記1の(2)のイ及び上記(1)のとおり、本件代表者が請求人の株式の全てを所有して代表取締役を務め、申告店舗及び本件各店舗の経営の実権を握り、自らが主体となって経理処理をしていたことからすると、本件代表者が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していると認められる。そして、本件利益は、上記(1)のとおり、請求人に帰属すべく、請求人の事業活動を通じて得た利得であるにもかかわらず、上記イのとおり、本件利益に相当する請求人の資産は発見されず、上記(1)のとおり、本件代表者が、申告店舗及び本件各店舗の売上金を回収及び管理し、任意に処分できる状態であったことからすると、本件利益は、本件代表者が請求人の事業活動を通じて得た利得であり、給与支出の外形を有しないものの、本件代表者がその地位及び権限に対して受けた給与等であると認められる。
     したがって、請求人から本件代表者に対し、本件利益に相当する額の給与等が支給されたものと認められる。

(5) 争点5(請求人に、通則法第68条第1項及び第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する事実があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条に規定する重加算税は、同法第65条ないし第67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法第68条第1項及び第3項の「事実を隠ぺいし」とは、税額等の計算の基礎となる事実等について、これを隠ぺいしあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲したことをいうと解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のとおり、本件各店舗に係る収益は、請求人に帰属するものであるにもかかわらず、請求人は、本件各名義人に指示して飲食店営業許可を本件各名義人の名前で取得させ、当該収益につき請求人の帳簿に一切記載せず、申告店舗に係る収益についてのみ確定申告していたことから、あたかも、本件各店舗に係る収益が本件各名義人に帰属し、それが真実であるかのように装い、故意に事実をわい曲していたものと認められる。
     また、上記(4)のとおり、請求人は、本件利益が請求人から本件代表者に対する給与等として支給されていたにもかかわらず、本件代表者に対して給与等を支給した事実について帳簿に一切記載せず、源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことから、あたかも、本件各店舗に係る収益が本件各名義人に帰属し、請求人が給与等の支払者でないかのように装い、税額等の計算の基礎となる事実について隠ぺいしていたものと認められる。
     したがって、請求人が、本件各店舗に係る収益が本件各名義人に帰属するかのように装ったこと、また、源泉徴収の対象となる給与等の支払事実について帳簿に一切記載していなかったことは、通則法第68条第1項及び第3項に規定する「隠ぺい又は仮装」の事実に該当する。

(6) 本件青色取消処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件青色取消処分は、争点についてこれを取り消すべき理由はなく適法である。

(7) 本件法人税各更正処分の適法性について

上記(3)のハの(イ)のとおり、請求人の法人税に係る推計課税の必要性は認められ、また、上記(3)のハの(ロ)のとおり、類似の同業者の平均売上原価率及び平均調整営業利益率を基に請求人の所得金額を算定することは合理的であると認められる。また、上記(4)の本件利益に相当する額の給与等は、法人税法第34条第3項の規定により、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入されない。
 そして、本件各事業年度の売上原価の額は別表3−1ないし別表3−7の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、当審判所においてこれらの金額を基に上記(3)のハの(ロ)のCで算定した平均売上原価率及び平均調整営業利益率(別表4−2、別表4−4、別表4−6、別表4−8、別表4−10、別表4−12及び別表4−14(審判所の認定))を適用して本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額を算定すると別表5−1ないし別表5−7の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成23年1月期及び平成25年1月期を除く本件各事業年度の法人税の各更正処分は、納付すべき税額がいずれも原処分の額と同額又はこれを上回ることからいずれも適法である。
 しかしながら、平成23年1月期及び平成25年1月期の法人税の各更正処分については、納付すべき税額が原処分の額を下回ることから、いずれもその一部を別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(8) 本件復興特別法人税更正処分の適法性について

上記(7)のとおり、平成26年1月期の法人税の更正処分は適法であるところ、当審判所において平成26年1月期の課税標準法人税額に基づき平成26年1月課税事業年度の復興特別法人税額を計算すると別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、この金額は原処分の額を上回ることから、本件復興特別法人税更正処分は適法である。

(9) 本件消費税等各更正処分の適法性について

上記(3)のハの(イ)のとおり、請求人の消費税等に係る推計課税の必要性は認められ、また、上記(3)のハの(ロ)のとおり、類似の同業者の平均売上原価率を基に請求人の課税標準額を算定することは合理的であると認められる。また、本件各店舗に係る帳簿書類(上記(3)のイの(ロ))は、消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿及び請求書等に該当せず、同項の規定により同条第1項に規定する仕入税額控除の適用はない。
 そして、上記(3)のハの(ロ)のCにより、本件各課税期間の課税標準額及び控除対象仕入税額並びに納付すべき税額を算定すると別表7−1ないし別表7−3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間を除く本件各課税期間の消費税等の各更正処分は、納付すべき税額が原処分の額と同額又はこれを上回ることからいずれも適法である。
 しかしながら、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間の消費税等の各更正処分については、納付すべき税額が原処分の額を下回ることから、いずれもその一部を別紙4及び別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(10) 本件法人税各賦課決定処分の適法性について

上記(5)のロのとおり、本件各事業年度において、請求人に通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったと認められ、請求人は、隠ぺい又は仮装したところに基づき、本件各事業年度の法人税の各確定申告書を提出したと認められることから、請求人につき同項所定の重加算税の賦課要件を満たしているといえる。
 そして、当審判所において本件各事業年度の法人税に係る重加算税の額を計算すると、別表5−1ないし別表5−7の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、平成23年1月期及び平成25年1月期を除く本件各事業年度においては、原処分の額と同額又はこれを上回ることから、平成23年1月期及び平成25年1月期を除く本件各事業年度の法人税に係る各賦課決定処分はいずれも適法である。
 しかしながら、平成23年1月期及び平成25年1月期の法人税に係る重加算税の額については、上記(7)のとおり、平成23年1月期及び平成25年1月期の法人税の各更正処分の一部が取り消されることに伴い、原処分の額を下回ることになるから、いずれもその一部を別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(11) 本件復興特別法人税賦課決定処分の適法性について

上記(8)のとおり、本件復興特別法人税更正処分は適法であり、また、上記(5)のロのとおり、平成26年1月期において、請求人に通則法第68条第1項に規定する仮装の行為があったと認められ、隠ぺい又は仮装したところに基づき、平成26年1月課税事業年度の復興特別法人税の申告書を提出したと認められることから、請求人につき同項所定の重加算税の賦課要件を満たしているといえる。
 そして、当審判所において平成26年1月課税事業年度の復興特別法人税に係る重加算税の額を計算すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分の額を上回ることから、本件復興特別法人税賦課決定処分は適法である。

(12) 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成25年1月課税期間及び平成26年1月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
     上記(9)のとおり、平成25年1月課税期間の消費税等の更正処分は、その一部を取り消すべきであるが、過少申告加算税の基礎となる税額について更正処分の額と変動はなく、また、平成26年1月課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、いずれも通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の基礎とされなかったことについて、請求人に同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において平成25年1月課税期間及び平成26年1月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を計算すると別表7−3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の額と同額となるから、平成25年1月課税期間及び平成26年1月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分
     上記(5)のロのとおり、本件各課税期間において、請求人に通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったと認められ、請求人は、隠ぺい又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出したと認められることから、請求人につき同項所定の賦課要件を満たしているといえる。
     そして、当審判所において本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の額を計算すると別表7−1ないし別表7−3の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間を除く本件各課税期間については、原処分の額と同額又はこれを上回ることから、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間を除く本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
     しかしながら、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間の消費税等に係る重加算税の額については、上記(9)のとおり、平成23年1月課税期間及び平成25年1月課税期間の消費税等の各更正処分の一部が取り消されることに伴い、原処分の額を下回ることになるから、いずれもその一部を別紙4及び別紙5の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(13) 本件各納税告知処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件利益に相当する額が、請求人から本件代表者に対して給与等として支給されたと認められ、所得税法第183条第1項に基づき請求人に源泉徴収義務があるところ、当審判所において本件利益に相当する額に基づいて源泉所得税及び源泉所得税等の額を算定すると、別表8−1ないし別表8−6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成23年1月分及び平成25年1月分を除く本件各月分については、源泉所得税又は源泉所得税等の額が原処分の額と同額又はこれを上回ることから、平成23年1月分及び平成25年1月分を除く本件各月分の源泉所得税及び源泉所得税等の各納税告知処分はいずれも適法である。
 しかしながら、平成23年1月分の源泉所得税及び平成25年1月分の源泉所得税等の各納税告知処分については、源泉所得税及び源泉所得税等の額が原処分の額を下回ることから、いずれもその一部を別紙6及び別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(14) 本件源泉所得税等各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成21年1月分、平成22年1月分及び平成23年1月分の源泉所得税並びに平成25年1月分及び平成26年1月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分
     上記(13)のとおり、請求人には、本件各月分において、本件利益に相当する額を本件代表者に対して給与等として支給したことに係る所得税法第183条に基づく納付すべき源泉所得税等があるところ、いずれもその法定納期限までに完納されておらず、上記源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があるとは認められないので、通則法第67条第1項所定の要件を充足している。
     そして、当審判所において、平成21年1月分及び平成22年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の額を計算すると別表8−1、別表8−2及び別表8−6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の額と同額又はこれを上回ることから、平成21年1月分及び平成22年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
     しかしながら、平成23年1月分の源泉所得税及び平成25年1月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の額については、上記(13)のとおり、平成23年1月分の源泉所得税及び平成25年1月分の源泉所得税等の各納税告知処分の一部が取り消されることに伴い、当審判所において計算すると別表8−3及び別表8−5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の額を下回ることになるから、いずれもその一部を別紙6及び別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ロ 平成21年1月分、平成22年1月分、平成23年1月分及び平成24年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分
     上記イのとおり、請求人には、本件各月分において、本件利益に相当する額を本件代表者に対して給与等として支給したことに係る所得税法第183条に基づく納付すべき源泉所得税等があるところ、通則法第67条第1項所定の要件を充足しており、さらに、上記(5)のロのとおり、請求人には通則法第68条第3項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったと認められ、請求人は隠ぺい又は仮装したところに基づき、平成21年1月分、平成22年1月分、平成23年1月分及び平成24年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことから、同項所定の重加算税の賦課要件を満たしているといえる。
     そして、当審判所において平成21年1月分、平成22年1月分及び平成24年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等に係る重加算税の額を計算すると別表8−1、別表8−2、別表8−4及び別表8−6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の額と同額又はこれを上回ることから、平成21年1月分、平成22年1月分及び平成24年1月分の源泉所得税並びに平成26年1月分の源泉所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
     しかしながら、平成23年1月分の源泉所得税に係る重加算税の額については、上記(13)のとおり、平成23年1月分の源泉所得税の納税告知処分の一部が取り消されることに伴い、当審判所において計算すると別表8−3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、原処分の額を下回ることになるから、その一部を別紙6「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(15) 結論

よって、原処分の一部を取り消し、その余の審査請求には理由がないから棄却することとする。

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