(平成28年11月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、飲食店に係る所得税及び消費税の期限後申告書を提出した審査請求人(以下「請求人」という。)が、飲食店に係る事業所得は請求人に帰属しないなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人の概要等
    • (イ) 請求人は、平成8年4月頃から、a市b町○-○の飲食店「F」(以下「本件店舗」という。)で、従業員として、客に対するホステスの割当てやボトル・ミネラルウォーター等のセッティング及びボトルの管理などの業務に従事するようになった。
    • (ロ) 本件店舗の開業時(昭和62年4月○日)に従業員であったGは、その後間もなくして、その当時のオーナーから本件店舗における営業資産等を購入し、平成3年10月に、H社を設立し、同社の代表取締役に就任した。
    • (ハ) 平成23年から平成25年まで(以下「本件各年」という。)、本件店舗では、「ママ」と呼ばれていたG、「チーフ」と呼ばれていた請求人及び経理事務を行うJのほか、数名のホステスが従事していた。
        以下、本件各年における本件店舗での事業を「本件事業」という。
  • ロ 請求人のGに対する資金の受渡しの状況

    請求人はGに依頼されて、平成○年○月○日頃、K銀行○○支店から融資(ローン借入れであり、借入金額は200万円である。)を受けて200万円をGに手渡した。Gは、この金員を本件店舗での事業の運営資金等に充て、同人が預金通帳を保管しているK銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座に入金することにより、当該融資を請求人に代わって返済した。

  • ハ 本件事業に係る営業許可及び各契約等の名義並びに開業届出等の状況
    • (イ) 本件事業に係る食品衛生法第52条《営業許可》第1項に規定する営業許可(以下「飲食店営業許可」という。)及び各契約等の名義は、別表1のとおりである。
    • (ロ) 請求人は、平成○年○月○日、原処分庁に対し、同月○日を開業日とする本件店舗での事業に係る個人事業の開廃業等届出書(以下「本件開業届出書」という。)及び所得税の青色申告承認申請書を提出した。
  • ニ 本件事業の資金管理等及び従業員の指揮監督状況
    • (イ) 本件事業の資金管理等
      • A 請求人は、本件事業の売上げを毎日集計した上、集計金額を記載したメモ、売上伝票、領収書及び現金をビニール袋に入れ、Gが出勤した際、あるいは本件店舗に立ち寄った際に同人に渡していた。Gは、受領した現金を自己の財布に入れて保管していた。
         そして、売掛金については、JがGの自宅において、売上伝票等から売掛台帳を作成し、Gが当該台帳を所持していた。
      • B Gは、本件事業に係る現金及び各預金通帳(K銀行○○支店の「D(請求人)」名義、M銀行○○支店○○出張所の「F D(請求人)」名義、M銀行○○支店の「H社J」名義及びT信用金庫○○支店の「J」名義の各普通預金口座に係る各預金通帳)を管理し、請求人が一時的に立替払をした消耗品などの少額な経費の支出を除き、本件事業に係る経費を相手方に直接支払っていた。
      • C ホステスの給与については、JがGの自宅において、各ホステスのタイムカードを基に給料支払明細書を作成し、Gが当該明細書に基づいて現金を用意してホステスに渡していた。
    • (ロ) 従業員の指揮監督状況

      求人情報誌へのホステス募集広告の掲載依頼並びにホステスの面接、採用及び時間給の決定などのホステスの労務管理に関する業務は、Gが行っていた。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 確定申告の状況

    請求人は、平成22年分から平成24年分までの所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下、平成24年分及び平成25年分を併せて「本件各年分」といい、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)の各確定申告書を、後記ロの税務調査を受けるまで提出しなかった。

    また、請求人は、平成22年1月1日から同年12月31日まで、平成23年1月1日から同年12月31日まで、平成24年1月1日から同年12月31日まで及び平成25年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次、「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」、「平成24年課税期間」、「平成25年課税期間」といい、平成23年課税期間、平成24年課税期間及び平成25年課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書についても、同様に提出しなかった。

  • ロ 税務調査の状況等
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成26年4月25日、請求人に対し、電話で、平成22年分から平成24年分までの所得税、平成25年分の所得税等並びに平成22年課税期間及び本件各課税期間の消費税等の調査(以下「本件調査」という。)に係る事前通知を行い、平成26年5月13日に本件店舗に赴いて、本件調査を開始した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成26年5月13日、請求人に本件店舗での事業の概要等について聴き取りを行ったが、本件事業に係る帳簿書類等を請求人が所持していなかったことから、後日、平成23年分以前の帳簿書類等をJの自宅で、平成24年分以降の帳簿書類等をGの自宅で、それぞれ確認して預かった。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、平成26年6月12日、E税務署において、請求人に対し、本件調査の結果を説明し、期限後申告を勧奨したところ、請求人は、同日、平成22年分から平成24年分までの所得税、平成25年分の所得税等並びに平成22年課税期間及び本件各課税期間の消費税等の各確定申告書(以下、本件各年分及び本件各課税期間に係る各確定申告書を併せて「本件各期限後申告書」という。)を、原処分庁に提出した。
       なお、請求人の本件各年分の所得税又は所得税等の申告内容は、本件店舗に係る事業所得及びS社からの給与所得で、別表2の「確定申告」欄のとおりであり、本件各課税期間の消費税等の申告内容は、別表3の「確定申告」欄のとおりである。
  • ハ 更正の請求

    請求人は、本件事業の事業主は請求人ではなく、本件事業から生じた収益は請求人に帰属しないなどとして、平成27年2月19日に本件各年分の所得税又は所得税等について、同年5月27日に本件各課税期間の消費税等について、それぞれ更正の請求をした。

    以下、本件各年分の所得税又は所得税等に係る各更正の請求を「本件所得税等各更正請求」と、本件各課税期間の消費税等の各更正の請求を「本件消費税等各更正請求」といい、本件所得税等各更正請求及び本件消費税等各更正請求を併せて「本件各更正請求」という。

    なお、本件各更正請求の内容は、別表2及び別表3の各「更正の請求」欄のとおりである。

  • ニ 原処分

    原処分庁は、本件各更正請求に係る調査(以下「本件更正請求調査」という。)を行い、平成27年7月8日付で本件各更正請求に対して更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした。

    以下、本件各年分の所得税又は所得税等に係る更正をすべき理由がない旨の各通知処分を「本件所得税等各通知処分」と、本件各課税期間の消費税等に係る更正をすべき理由がない旨の各通知処分を「本件消費税等各通知処分」といい、本件所得税等各通知処分及び本件消費税等各通知処分を併せて「本件各通知処分」という。

  • ホ 異議申立て

    請求人は、本件各通知処分に不服があるとして、平成27年9月8日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月27日付で、いずれも棄却する旨の異議決定をした。

  • ヘ 審査請求

    請求人は、異議決定を経た後の本件各通知処分に不服があるとして、平成27年12月26日、審査請求をした。

(4) 関係法令等の要旨

  • イ 所得税法第12条《実質所得者課税の原則》は、事業から生じる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、同法の規定を適用する旨規定している。
  • ロ 消費税法第13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》第1項は、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、同法の規定を適用する旨規定している。
  • ハ 所得税基本通達12-2《事業から生ずる収益を享受する者の判定》は、事業から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかにより判定するものとする旨定めている。

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2 争点

請求人は、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受しているか。

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
次のことから、本件事業の事業主はGであり、請求人は単なる名義人にすぎないから、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受していない。 次のことから、請求人は単なる名義人ではなく、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受している。
(1) 本件事業に係る営業許可及び各契約等の名義並びに開業届出の状況
 請求人は、本件事業の真実の経営者であるGから本件事業に関して名義を貸してほしいと言われ、本件開業届出書を提出したにすぎない。
 また、本件店舗の飲食店営業許可、著作権協会の契約及び火災保険契約については、請求人の知らないところで請求人名義に変更され、本件店舗の建物賃貸借契約及びカラオケ機器の取引契約については、Gの業務命令により請求人名義に変更した。なお、電気・ガス・水道・電話などの公共料金については、引落し口座の変更も含め、請求人名義に変更されていない。
(1) 本件事業に係る営業許可及び各契約等の名義並びに開業届出の状況
 請求人は、原処分庁に対して本件開業届出書を提出するとともに、本件事業を行っていく上で必要な飲食店営業許可の申請、本件店舗の建物賃貸借契約、火災保険契約及びカラオケ機器の取引契約を請求人名義で行っている。
(2) 本件事業の資金管理等
  • イ 請求人は、本件事業における資金管理や売掛金の管理をしておらず、また、酒の仕入れに関する権限もなく、経費の支払も行っていないから、毎月の売上金額や経費の合計額なども知らなかった。
  • ロ 請求人はGに依頼されてM銀行○○支店○○出張所に請求人名義の普通預金口座(クレジットカード決済を利用した売上金が振り込まれる預金口座)を開設したが、開設以降、Gが当該口座に係る預金通帳を所持して管理しており、請求人は、当該通帳の中身を見たこともなく、当該口座に入金された金員がどのように処分されたかも知らない。
  • ハ 請求人は、本件店舗に係る備品の購入や内装工事などは一切行っていない。
  • ニ 請求人には、一定の範囲内でしか客の飲み代の単価について決定権はなく、決定権は、Gにあった。
(2) 本件事業の資金管理等
  • イ 請求人は、Gとの間で、本件事業における資金の管理は、Gが従業員の立場で行うことで合意していた。
  • ロ 請求人は、日々の営業で使用する釣銭を管理しており、また、クレジットカード決済を利用した売上金が振り込まれるM銀行○○支店○○出張所の普通預金口座は請求人名義であるから、本件事業に係る売上げの管理に関与していた。
(3) 従業員の指揮監督等
 請求人には、ホステス募集のための求人情報誌への掲載依頼やホステスの面接、採用及び時間給の決定のほか、退職勧告通知、給与の前借り等の業務に関して権限はなかった。
(3) 従業員の指揮監督等
 請求人は、Gとの間で、ホステスに係る労務管理は、Gが従業員の立場で行うことで合意していた。
(4) 出資等の状況
 請求人は本件店舗での事業の営業権を購入したこと及び本件店舗での事業に出資したことはなく、Gに渡した200万円については、Gに対する貸付けである。
(4) 出資等の状況
 請求人は、K銀行から運転資金の名目で200万円を借り入れ、このうち100万円をGに支払って本件店舗での事業の営業権を購入し、残りの100万円を本件店舗での事業に出資して、本件店舗での事業の運転資金に充てた。
(5) 本件事業から生じた収益のうち、請求人が受け取る金員の性質
 請求人は、休む場合には、Gに承諾を得なければならないなど、勤務時間を拘束されており、請求人が本件事業に関して受け取っていた金員は、本件開業届出書を原処分庁に提出した後も以前と同様に、タイムカードに基づき時給計算された給与である。
(5) 本件事業から生じた収益のうち、請求人が受け取る金員の性質
 請求人は、Gとの間で役割分担を決定し、請求人が最終的な責任を負うとの合意をしたことから、請求人がGから給与を受ける立場であったとはいえない。
(6) 本件各期限後申告書の提出
 請求人は、Gからの業務命令により、本件調査において経営者として対応したにすぎない。
 Gは、本件調査の結果、納付しなければならなくなった消費税等について、原処分庁に対してG自身が支払う旨の発言を繰り返しており、また、N組合が作成した組合員名簿に「H社 G」の文言は削除しないよう依頼していることからも、Gが本件事業の経営者であることを認識していることは明らかであり、請求人が本件各期限後申告書を提出したからといって、請求人が本件事業の経営者であることにはならない。
(6) 本件各期限後申告書の提出
 請求人は、本件調査において、本件事業の経営者であるとして対応し、本件調査担当職員から本件調査の結果説明及び期限後申告の勧奨を受けた上で、本件各期限後申告書を提出している。

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4 当審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 認定事実

    請求人提出の日記帳、原処分関係資料並びに請求人、G、P社の代表者であるL及びN組合の事務員であったQの当審判所に対する各答述、Jの当審判所からの照会に対する回答文書並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 本件事業に係る営業許可及び各契約等の名義並びに開業届出の状況等
      • A 請求人のGに対する金員の貸付け
         本件店舗での事業の従業員として従事していた請求人は、平成○年○月頃、Gから、本件店舗での事業の運転資金の不足や同人の子の学費等の支払などを理由として借金を申し込まれ、上記1の(2)のロのとおり、同年○月○日頃に200万円、その他、同月○日頃に100万円、合計300万円を同人に貸し付けた。
      • B 飲食店営業許可等の名義変更及び本件開業届出書の提出
         請求人は、上記Aの金員をGに貸し付けた後、同人から、本件店舗での事業の名義を3年間だけ請求人名義に変更してほしいなどと依頼されてこれを引き受け、平成○年○月○日付で請求人名義で本件店舗の飲食店営業許可を取得し、その後、原処分庁に対しては、上記1の(2)のハの(ロ)のとおり、同年○月○日を開業日とする本件開業届出書を提出した。
         また、請求人は、Gに依頼され、本件店舗の建物賃貸借契約の賃借人、カラオケ機器の取引契約の契約者も請求人名義に変更した。
         以下、上記の請求人への名義変更をまとめて「本件名義変更」という。
      • C 請求人及びGの本件店舗での役割
         本件名義変更の前後で請求人の本件店舗での役割や稼働状況に変更はなく、請求人は、本件店舗では「チーフ」と呼ばれ、上記1の(2)のイの(イ)のとおり、客に対するホステスの割当てやボトル・ミネラルウォーター等のセッティング及びボトルの管理などの業務に従事していた。また、請求人は、原則として、本件店舗の鍵を開けて開店準備を行い、本件店舗の営業終了時まで勤務していた。Gの役割や稼働状況も、本件名義変更の前後において変更はなく、Gは、本件店舗では「ママ」と呼ばれ、本件店舗に出勤するときは、客に対するホステスの割当てや客との価格交渉などを行い、出勤しないときは、請求人に対して、電話でホステスの接客に関する指示を行うこともあった。
    • (ロ) 本件事業の資金管理等
      • A 本件事業の資金管理の状況も、本件名義変更の前後において変わっていない。すなわち、上記1の(2)のニの(イ)のとおり、Gが自宅において本件事業に係る現金、各預金通帳及び売掛台帳を管理するとともに、同人が本件事業に係るホステス等従業員の給与を含めた経費を支払い、本件事業の資金管理を行っていた。
         加えて、少なくとも平成24年以降において、Gがホステスの給料支払明細書に記載された全額の現金を用意できなかった月も多く、その際同人は独断で各ホステスに給与の支払延期を依頼するなど、Gは、本件事業に係る資金管理を行うとともに、本件事業から生じた利益を自由に使用する立場にあったものと認められる。
      • B 他方で、請求人は、本件事業に係る日々の売上げは把握していたものの、Gからそれ以外の本件事業に係る収支状況について定期的に報告されていなかったため、本件事業の収支状況を把握していなかったものと認められる。
         また、請求人は、 本件調査があるまで、J名義の預金口座である売掛金が入金される預金口座の存在すら知らなかったことからすると、請求人は、日々の売上集計に関する業務以外、売掛金の回収の把握すらしておらず、本件事業の資金管理に関与していなかったと認められる。
    • (ハ) 出資等の状況

      請求人がGに交付した300万円は、上記(イ)のAの経緯で請求人がGに貸し付けたものであり、請求人の本件店舗での事業に関して出資した金員でないことは明らかである。

    • (ニ) 請求人が本件事業から受け取った金員の性質
      • A 請求人は、同人のタイムカードを基に作成された給料支払明細書に基づいて、Gから金員を受け取っていた。なお、給料支払明細書は、勤務時間に時間単価を乗じたものに定額の手当を加算する方式で作成されており、請求人の手当や時間単価は、本件名義変更の前後で変わらなかった。
      • B また、請求人がGから受け取った金員は、平成23年が○○○○円、平成24年が○○○○円、平成25年が○○○○円と減少しているが、他方、本件事業に係る事業所得の金額(青色申告特別控除前)は、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円、平成25年分が○○○○円と増加しており、本件事業に係る事業所得の金額の多寡に応じて増減していないことが認められる。
      • C かえって、上記Aの状況からすれば、請求人が本件事業から受け取った金員は、勤務時間(拘束時間)に時間単価を乗じた金額に定額の手当を加えた金額に基づき、労働の対価として受けた給与と認めるのが相当である。
    • (ホ) 本件各期限後申告書の提出

      請求人は、本件店舗での事業の経営者として本件調査を受けた際、本件調査担当職員に対して自己が経営者であると説明し、平成26年6月12日、請求人名義で本件各期限後申告書を提出した。

      しかしながら、上記(イ)のBの経緯からすれば、請求人の上記各行為は、Gとの名義貸しの合意に沿ってしたものと考えるのが自然であり、このことは、上記(ロ)のBのとおり、本件調査を受けるまで、請求人が本件店舗での事業の売掛金が入金される預金口座さえ知らなかったことからもうかがわれる。

    • (ヘ) H社について

      本件各年において、H社名義の普通預金口座に入出金はなく、また、H社が法人として事業活動を行っていたことは認められない。

    • (ト) Gの申述等の信用性

      以上に対し、Gは、多額の借入れがあり、本件店舗での事業を継続できなくなったことから、同人が資金管理や従業員の労務管理を行う合意の下、請求人に依頼して経営者になってもらった、G自身は従業員の立場で資金管理や従業員の労務管理を行ったなどと、本件更正請求調査に係る調査担当職員に対して申述又は当審判所に対して答述している。

      しかしながら、Gが従業員の立場で本件事業の資金管理をしていたのであれば、自己の生活費等と本件事業に係る資金を混同させないはずであるが、Gは本件事業に係る売上金を自己の財布に入れて保管していたと本件調査担当職員に対して申述しており、その事実だけでも上記のGの申述等は信用できない。

      また、本件名義変更以前から本件店舗と取引のあるP社の代表者であるLの当審判所に対する答述によれば、同人は本件事業の経営者をGであると認識していたことが認められるほか、本件名義変更の前後においてN組合の事務員であったQの当審判所に対する答述によると、Gは平成22年以降も本件店舗が所属するN組合に対して、自己が経営者である旨述べていたことが認められるから、上記の同人の申述等は信用できない。

      他方で、請求人の当審判所に対する答述は、請求人及びGの本件事業での役割及び稼働状況等に照らして自然で、かつ、請求人の日記帳(請求人の私生活に関する出来事を日々つづったもの)にも裏付けられており、信用性がある。

  • ロ 法令解釈
    1. (イ) 所得税法第12条は、所得が誰に帰属するかにつき、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であり、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属する旨規定し、いわゆる実質所得者課税の原則を定めているところ、その趣旨は、担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合、後者を収益の帰属者とするというものと解される。
       これを受け、所得税基本通達12-2は、事業から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかにより判定するものとする旨定めているところ、当審判所においても、当該取扱いは相当と認められる。
       そして、その事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかという点は、実質所得者課税の原則を定めた所得税法第12条の趣旨に鑑み、事業許可等の名義のみならず、事業資産や事業資金の調達・管理、利益の管理・処分状況、従業員の雇用等事業の運営に関する諸事情を総合的に勘案して判定すべきである。
    2. (ロ) また、消費税法第13条も、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、同法を適用する旨規定しており、所得税法と同様の実質課税の原則を規定したものと解されるから、その事業に係る資産の譲渡等の対価を享受する者が誰であるかという点は、上記(イ)と同様に解される。
  • ハ 当てはめ

    本件各年において、本件店舗の飲食店営業許可及び本件事業に係る各契約等の多くは請求人名義となっているが、これらは、Gの依頼に応じたものにすぎない。

    そして、本件名義変更後も、Gは、本件事業の資金管理を行い、本件事業から生じる利益を自由に処分し、ホステス等従業員の雇用及び労務管理を含めた本件事業の運営を行っており、請求人とGとの間で、Gが従業員の立場でホステス等従業員の雇用及び労務管理を含めた本件事業の運営を行う旨の特段の合意があったとは認められないことからすると、本件事業の事業主は、Gであったと認められる。

    なお、当審判所の調査の結果によると、上記イの(ヘ)のとおり、本件各年において、H社が法人として事業活動を行っていた事実はないから、H社は本件事業の事業主体とはならず、また、上記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人は、本件店舗での事業に出資しておらず、本件事業から労働の対価として給与を受けていたにすぎないのであるから、請求人は本件事業の従業員であったと認められる。

    以上のことから、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受していたのは、Gであり、請求人は、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受していない。

  • ニ 原処分庁の主張について

    原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件事業を行うに当たって、請求人名義で飲食店営業許可を申請し、本件店舗を賃借するなどしていること、本件事業の資金管理やホステスに係る労務管理について、Gが従業員の立場として行うことを同人と合意し、本件開業届出書及び本件各期限後申告書を原処分庁に提出していることなどを総合すれば、本件事業から生ずる収益及び本件事業に係る資産の譲渡等の対価を請求人が享受する旨主張する。

    しかしながら、原処分庁の主張は、本件更正請求調査時のGの申述等を根拠としているが、当該申述が信用できないことは上記イの(ト)のとおりであり、したがって、原処分庁の主張は採用することができない。

(2) 本件所得税等各通知処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、請求人は、本件事業から生ずる収益を享受しておらず、本件各年分の事業所得の金額はそれぞれ○○○○円となり、本件所得税等各更正請求は、理由があって認められるべきものであるから、本件所得税等各通知処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

(3) 本件消費税等各通知処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、請求人は、本件事業に係る資産の譲渡等の対価を享受しておらず、本件各課税期間における納付すべき消費税等の額はそれぞれ○○○○円となり、本件消費税等各更正請求は、理由があって認められるべきものであるから、本件消費税等各通知処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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