(平成28年12月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除》第6項の規定に基づき、平成25年分の上場株式等に係る譲渡損失等の金額を、平成26年分の株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から繰越控除して確定申告をした後に、同条第8項所定の要件を充足するため、平成25年分の所得税等の確定申告書に上場株式等に係る譲渡損失等の金額の計算に関する明細書等を添付していなかったのを追完する旨の平成25年分の所得税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が原処分の全部の取消しなどを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙のとおりである。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成25年2月6日、D証券の特定口座以外の口座において、E社の株式100株を譲渡したところ、○○○○円の譲渡損失(以下「本件譲渡損失」という。)が生じた。
  • ロ 請求人は、平成25年中に、F社から○○○○円、G社から○○○○円、それぞれ株式配当金(以下、併せて「本件配当」という。)の支払を受けた。
  • ハ 請求人は、平成26年3月12日、原処分庁に対し、平成25年分の所得税等の確定申告書(以下「25年分申告書」という。)を提出したが、当該確定申告書に計算明細書等を添付しなかった。
  • ニ 請求人は、平成27年3月5日、原処分庁に対し、平成26年分の所得税等の確定申告書(以下「26年分申告書」という。)を提出した。
     請求人は、26年分申告書において、措置法第37条の12の2第6項の規定に基づき、平成25年中に生じた本件譲渡損失(○○○○円)のうち本件配当(○○○○円)から外国所得税額(○○○○円)を控除した後の金額より引き切れない譲渡損失(○○○○円)を平成26年以降に繰り越した(以下、当該譲渡損失の金額(○○○○円)を「本件繰越金額」という。)上、これを平成26年分の株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から控除した。
  • ホ 請求人は、平成27年3月9日、原処分庁に対し、平成25年分の所得税等につき、更正の請求書(以下「本件更正請求書」という。)に、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(平成25年分)」及び「平成25年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」(以下、併せて「本件明細書等」という。)を添付して提出し、本件繰越金額を平成26年以降に繰り越す旨の更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
  • ヘ 原処分庁は、本件更正請求に対し、平成27年12月3日付で、平成25年中に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額を平成26年以降に繰り越すためには、26年分申告書の提出前に本件明細書等を添付した25年分申告書を提出する必要があったところ、当該申告書は提出されておらず、本件更正請求は措置法第37条の12の2第6項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の要件を満たさないなどとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
  • ト 請求人は、平成27年12月25日、原処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成28年3月24日付で棄却の異議決定をした。
  • チ 請求人は、平成28年4月22日、異議決定を経た後の原処分を不服として、原処分の全部の取消しを求めるとともに、平成25年分の所得税等につき、平成26年以降へ繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円(本件譲渡損失の額)とすることを求める旨の審査請求をした。

2 争点

  • (1) 争点1 本件更正請求書をもって26年分申告書が、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か。
  • (2) 争点2 措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。

3 主張

(1) 争点1 本件更正請求書をもって26年分申告書が、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か。

請求人 原処分庁
本件更正請求書は26年分申告書よりも先に作成したものであるから、提出日の先後ではなく、作成順序の先後をもって、実質的に判断されるべきである。
 また、本件更正請求書の提出は、平成26年分の所得税等の法定申告期限までに行ったものであるから、本件更正請求書の提出をもって26年分申告書について訂正申告書が提出されたものとみなされるのが相当である。
 したがって、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当する。
措置法第37条の12の2第8項によれば、請求人は、26年分申告書の提出までに、本件更正請求書を提出すべきであったところ、その提出は、26年分申告書より後に行われており、同項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当しない。

(2) 争点2 措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。

請求人 原処分庁
仮に、26年分申告書の提出前に本件更正請求書を提出する必要があったとしても、電子申告制度がなければ、請求人は本件更正請求書と26年分申告書を同じ日に郵送提出していたはずであるから、措置法第37条の12の2第9項により準用される同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があると認められる。 措置法第37条の12の2第9項により準用される同条第4項の「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他納税者の責めに帰することのできない客観的事情をいい、納税者が法令に規定する制度の適用を失念していたような場合はこれに当たらないところ、請求人の主張する事情は主観的事情にすぎず、同項の「やむを得ない事情」には該当しない。

4 判断

(1) 却下部分(主文第1項)について

請求人は、上記1の(3)のチのとおり、本件審査請求において、原処分の全部の取消しを求めるとともに、平成25年分の所得税等につき、平成26年以降へ繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を、本件更正請求により求めた金額(○○○○円)を超える○○○○円とすることを求めている。

しかし、国税不服審判所長に対する審査請求において、原処分の取消しを求めるのとは別に課税標準等の是正を求めることを認めた法令上の規定はないから、本件審査請求のうち、平成25年分の所得税等につき、平成26年以降へ繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円とすることを求める部分は、不適法というほかなく、却下すべきである。

(2) 争点1(本件更正請求書をもって26年分申告書が、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈等
    1. (イ) 措置法第37条の12の2第8項の規定は、本件特例の適用要件として、@上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき計算明細書等の添付がある確定申告書を提出し、かつ、Aその後において連続して確定申告書を提出している場合であって、B本件特例の適用を受けようとする年分の確定申告書に控除を受ける金額の計算明細書等の添付がある場合であることを要求している。
    2. (ロ) また、本件通達は、上記(イ)の@の上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき計算明細書等の添付がある確定申告書を提出した場合には、計算明細書等の添付なく提出された確定申告書につき、通則法第23条に基づく更正の請求に基づく更正により、新たに上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなった場合も含まれるものとしている。
       そこで、本件通達に照らすと、本件特例は、更正の請求に基づく更正により、新たに上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなり、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって、本件特例の適用を受けようとする年分の確定申告書に控除を受ける金額の計算明細書等の添付がある場合にも適用されるものと解される。
  • ロ 検討

    上記1の(3)のハのとおり、請求人は、25年分申告書に計算明細書等を添付しなかったから、上記イの(イ)の@の要件を満たさないことは明らかである。

    また、上記1の(3)のニ及びホのとおり、請求人は、原処分庁に対し、26年分申告書を提出した後に本件更正請求書を提出したものであって、26年分申告書の提出時において本件更正請求に基づく更正がされていなかったことは明らかであるから、本件更正請求書をもって26年分申告書が、更正の請求に基づく更正により、新たに上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなり、その後において連続して確定申告書を提出している場合(上記イの(ロ))に該当するものでもない。

  • ハ 請求人の主張について
    1. (イ) 請求人は、本件更正請求書は26年分申告書よりも先に作成したものであるから、提出日の先後ではなく、作成順序の先後をもって、実質的に判断されるべきである旨主張する。
       しかし、措置法第37条の12の2第8項は「その後において連続して確定申告書を提出している場合」と規定しているのであるから、連続性の有無は、前年分の確定申告書(更正の請求に基づく更正を含む。)と後年分の確定申告書の提出の先後をもって判定すべきことは法文上明らかであり、請求人の主張は採用することができない。
    2. (ロ) 請求人は、平成26年分の所得税等の法定申告期限までに本件更正請求書を提出したことから、本件更正請求書の提出をもって26年分申告書についての訂正申告書の提出があったものとみなされ、連続性の要件を満たす旨主張する。
       しかし、本件更正請求書の提出をもって26年分申告書についての訂正申告書の提出があったものとみるべき理由はないから、請求人の主張は採用することができない。

(3) 争点2(措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。)について

請求人は、電子申告制度がなければ、本件更正請求書と26年分申告書を同じ日に郵送提出していたはずであるから、措置法第37条の12の2第9項により準用される同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があると認められるなどと主張する。

しかし、請求人が主張する事情は、上記の「やむを得ない事情」には当たらず、他に、25年分申告書に計算明細書等の添付がなかったことについて、「やむを得ない事情」があることをうかがわせる事情は見当たらない。

したがって、請求人の主張は採用することができない。

5 原処分について

以上のとおり、本件繰越金額は、本件特例の適用要件を満たさず、措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」も認められないから、これを平成26年以降に繰り越すことはできない。

したがって、本件更正請求は更正をすべき理由がないから、原処分は適法である。

6 その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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