(平成28年11月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が法人税等の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、請求人の代表者等の名義の建物を賃貸したことにより生じた所得に係る法人税等の決定処分等をしたのに対し、請求人が、消費税及び地方消費税の各決定通知書の理由の提示に不備があり、また、原処分において損金の額として認められた経費とは別に損金の額に算入されるべきものがあるなどとして、原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人は、昭和61年10月○日に設立された不動産の賃貸、売買及び管理等を目的とする法人であり、代表取締役はGであったが、平成27年1月○日に解散した。
  • ロ Gは、e市f町○−○に所在する建物(以下「Jビル」という。)及びb市g町○−○に所在する建物(以下「Kビル」という。)の○階ないし○階部分の一部を、L地方裁判所が行った競売によりそれぞれ落札した。Jビルは、平成9年6月○日競売による売却を原因として、同月○日に、また、Kビルの当該一部は、平成10年7月○日競売による売却を原因として、同月○日にそれぞれ所有権移転登記がされた。
  • ハ G及び同人の配偶者であるMは、h市i町○−○、○−○に所在する建物(以下「Nビル」という。)の○階及び○階部分の一部並びにj市k町○−○に所在する建物(以下「Pビル」という。)を、L地方裁判所が行った競売によりそれぞれ落札し、Nビルの当該一部は、平成9年12月○日競売による売却を原因として、同月○日に、Pビルは、平成11年7月○日競売による売却を原因として、同月○日に、それぞれ各自の持分を2分の1とする旨の所有権移転登記がされた。
  • ニ 請求人は、平成21年10月1日から平成22年9月30日まで、平成22年10月1日から平成23年9月30日まで、平成23年10月1日から平成24年9月30日まで、平成24年10月1日から平成25年9月30日まで及び平成25年10月1日から平成26年9月30日までの各事業年度(以下、順次「平成22年9月期」、「平成23年9月期」、「平成24年9月期」、「平成25年9月期」及び「平成26年9月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)において、Jビルの○階及び○階、Kビルの○号室、○号室、○号室、○号室、○号室、○号室及び○号室、Nビルの○階及び○階並びにPビルの○階、○階、○階、○階、○階及び○階を、それぞれ賃貸の用に供していた(以下、請求人を賃貸人とするこれらの物件を「本件各物件」という。)。
     本件各物件に係る契約内容は要旨別表1のとおりであり、本件各物件に係る賃貸料等は、Q銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号:○○○○)、同行○○支店の普通預金口座(口座番号:○○○○)、R銀行○○支店の普通預金口座(口座番号:○○○○)及びS銀行○○支店の普通預金口座(口座番号:○○○○)に振り込まれており、その入金状況は別表2のとおりである。
  • ホ 請求人は、1本件各事業年度の法人税、2平成24年10月1日から平成25年9月30日まで及び平成25年10月1日から平成26年9月30日までの各課税事業年度(以下、順次「平成25年9月課税事業年度」及び「平成26年9月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の復興特別法人税並びに3平成21年10月1日から平成22年9月30日まで、平成22年10月1日から平成23年9月30日まで、平成23年10月1日から平成24年9月30日まで、平成24年10月1日から平成25年9月30日まで及び平成25年10月1日から平成26年9月30日までの各課税期間(以下、順次「平成22年9月課税期間」、「平成23年9月課税期間」、「平成24年9月課税期間」、「平成25年9月課税期間」及び「平成26年9月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書をY税務署長に提出しなかった。
  • ヘ これに対し、Y税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成○年○月○日付で、別表3及び別表4の「決定処分等」欄のとおり、本件各事業年度に係る法人税の各決定処分、本件各課税事業年度に係る復興特別法人税の各決定処分及び本件各課税期間に係る消費税等の各決定処分(以下、法人税の各決定処分を「本件法人税各決定処分」といい、これら全ての決定処分を併せて「本件各決定処分」という。)並びにこれらに係る無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて「本件各決定処分等」という。)をした。
  • ト 平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の各決定処分の通知書(以下「本件消費税等各決定通知書」という。)には、処分の理由として、「1 確定申告書の提出義務」、「2 消費税」及び「3 地方消費税」の各項目について記載されており、「1 確定申告書の提出義務」には、次のとおり記載されている。
    1. (イ) 平成22年9月課税期間
       「貴社は、自平成21年10月1日至平成22年9月30日課税期間において、消費税法第2条第1項第4号に規定する事業者(貴社は、当課税期間の基準期間である自平成19年10月1日至平成20年9月30日課税期間における課税売上高が○○○○円であるため、同法第9条の規定の適用はありません。)に該当し、次の2のとおり国内における課税資産の譲渡等があることから、消費税及び地方消費税の確定申告書を提出する義務があります。」
    2. (ロ) 平成23年9月課税期間
       「貴社は、自平成22年10月1日至平成23年9月30日課税期間において、消費税法第2条第1項第4号に規定する事業者(貴社は、当課税期間の基準期間である自平成20年10月1日至平成21年9月30日課税期間における課税売上高が○○○○円であるため、同法第9条の規定の適用はありません。)に該当し、次の2のとおり国内における課税資産の譲渡等があることから、消費税及び地方消費税の確定申告書を提出する義務があります。」
  • チ Y税務署長は、書留郵送した本件各決定処分等に係る各通知書が返戻されたことから、平成○年○月○日に当該各通知書の送達に際して、○○。
     なお、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)○○の規定に基づき、当該各通知書に係る○○。
  • リ 請求人は、本件各決定処分等を不服として、平成27年7月○日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年10月20日付でいずれも棄却の異議決定をした。
  • ヌ 請求人は、異議決定を経た後の本件各決定処分等に不服があるとして、平成27年11月19日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

  • イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定するとともに、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
  • ロ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とすると規定し、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とすると、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(第1号)、2上記1に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(第2号)及び3当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(第3号)とする旨、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨、それぞれ規定している。
  • ハ 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第5条《納税義務者》第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務がある旨規定している。
  • ニ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
  • ホ 通則法第25条《決定》本文は、税務署長は、納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合には、その調査により、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定すると規定している。
  • ヘ 通則法第66条《無申告加算税》第1項は、同法第25条の規定による決定があった場合には、当該納税者に対し、当該決定に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、また、同法第66条第2項は、同条第1項に規定する場合において、同項に規定する納付すべき税額が50万円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。

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2 争点

(1) 請求人が主張する経費(別表5の「費目」欄記載の各経費。以下「本件追加経費」という。)の額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。(争点1)

(2) 本件消費税等各決定通知書の理由の提示に不備があるか否か。(争点2)

(3) 請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務があるか否か。(争点3)

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件追加経費の額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)

請求人 原処分庁
 本件追加経費の額は、請求人の賃貸料等が振り込まれた銀行口座から支払われている経費及び保存されている領収証等に係る経費のうち本件法人税各決定処分において損金の額に算入されていない経費の額である。
 したがって、本件追加経費の額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるべきである。
 請求人には、本件各事業年度において、本件各物件を貸し付けたことによる収益があると認められることから、本件各事業年度に係る法人税の確定申告書を法定申告期限内に提出する義務があるところ、請求人からは本件各事業年度の法人税の各確定申告書の提出がなかったため、Y税務署長は通則法第25条の規定に基づいて決定した。請求人の所得金額は、本件法人税各決定処分で認定したとおりであり、本件追加経費の額は、本件各事業年度の損金の額に算入されない。

(2) 争点2(本件消費税等各決定通知書の理由の提示に不備があるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件消費税等各決定通知書には、1請求人は消費税法第2条《定義》第1項第4号に規定する事業者に該当すること、2請求人は平成22年9月課税期間の基準期間の課税売上高が○○○○円、あるいは、平成23年9月課税期間の基準期間の課税売上高が○○○○円であるため、いずれの課税期間も消費税法第9条の規定の適用がないこと、3請求人は国内における課税資産の譲渡等があることなどの事実を示した上で、4請求人は消費税等の確定申告書を提出する義務がある旨の判断が記載されており、この処分の理由は、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間において、請求人に消費税等の確定申告書を提出する義務があることが容易に理解できる内容であって、各事実に基づく合理的かつ慎重な行政庁の判断及び請求人の不服申立ての便宜も十分に配慮したものとなっているから、行政手続法第14条第1項の趣旨を充足する程度に具体的な事実及び判断が提示されている。
 したがって、本件消費税等各決定通知書の理由の提示に不備はない。
 本件消費税等各決定通知書には、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高の算定根拠が記載されていないことから、請求人に消費税等の確定申告書を提出する義務があることを容易に理解することができず、このような処分の理由は行政手続法第14条第1項に反し違法である。
 したがって、本件消費税等各決定通知書の理由の提示に不備がある。

(3) 争点3(請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務があるか否か。)

原処分庁 請求人
 請求人の平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高は、本件各物件の賃貸について契約書が存在するもの及びその賃貸料の入金状況を勘案すれば、いずれも1,000万円を超えていることから、請求人は、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間において、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出し、消費税等を納付しなければならず、請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務がある。  答弁書添付の異議決定書に記載された契約書の賃貸料収入を合計しても、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高が必ずしも1,000万円を超えているとはいえない。
 したがって、請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務はない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件追加経費の額は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とする旨規定している。当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 請求人は、上記3の(1)のとおり、本審査請求に至って初めて本件追加経費の額が損金の額に算入されるべきであるとの主張をするところ、平成28年2月23日、本件追加経費を支出した証拠として、617件の支出に係る領収証等、請求書等及び現金自動預払機のご利用明細等(以下、これらの証拠を「本件領収証等」という。)を当審判所に提出した。当審判所において、本件領収証等に記載されている内容を検討すると、本件領収証等のうち、別表6に掲げたものについては、請求人が支出したものと認められる。
    2. (ロ) 上記(イ)を除く本件領収証等のうち、1請求人の代表者が支出しているもの及び2請求書等のみが提出され、その支出の事実が確認できないものについては、当該記載内容のみでは、請求人が支出したことが客観的に明らかにはならず、当該支出が請求人の支出であるといえる合理的な理由等について、請求人からの説明もなく、当審判所の調査の結果によっても、請求人が支出したものであることを明らかにする証拠は認められないことから、請求人の支出であると認めることはできない。
    3. (ハ) その他、本件領収証等を含めた本件追加経費に係る証拠については、以下の事実が認められる。
      • A 本件領収証等は事業年度及び費目ごとに台紙に貼付されており、それらの中には、各区分の台紙の初葉に手書きで費目及び集計金額が記入されているものもある一方で、これらの事項が記入されていないものもあり、当該集計金額が請求人の主張する本件追加経費の内訳(別表5)の金額と一致しない。
      • B 上記(イ)を除く本件領収証等には、1請求人の業務に関連する支出であることを明らかにする文言が記載されていないもの及び2請求人以外の者が賃貸している建物について、請求人が支出しているものが含まれている。
      • C また、上記(イ)を除く本件領収証等には、1原処分において既に損金の額に算入されているもの、2減価償却資産の取得のためのもの、3工事の目的が明らかでない本件各物件についての工事見積書や請求書等が含まれている。
      • D 請求人は、本件各事業年度において、出金伝票等の伝票類、現金出納帳、預金元帳及び総勘定元帳等その他の帳簿書類等を、一切、作成していない。
      • E 請求人は、本件領収証等を当審判所に提出するのみで、それらの各支出が請求人において、どのような業務に関連した支出であるのか、具体的な説明をしていない。
  • ハ 当てはめ
    1. (イ) 請求人は、上記1の(2)のイのとおり、不動産の賃貸、売買及び管理等を目的とする法人であり、本件各決定処分等についても、請求人の代表者等の名義の建物の賃貸料収入に係るものであるところ、上記ロの(イ)のとおり、請求人が当審判所に提出した本件領収証等のうち、請求人が支出したことが認められる別表6に掲げたものに記載された支出内容は、同表の「支出内容」欄に記載したとおりであって、同表に掲げた各支出については、本件各物件の賃貸・管理等をする上で必要なものであると客観的に判断できることから、請求人の業務に関連性があり、業務遂行上必要なものであると認められる。したがって、当該各支出の額は、請求人の別表6の「事業年度」欄に記載した各事業年度の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入される。
    2. (ロ) 一方、本件領収証等のうち上記ロの(ロ)のものについては、請求人の支出であると認めることはできないので、その余について判断するまでもなく、これらの支出の額を本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
    3. (ハ) また、本件領収証等のうち上記ロの(ハ)のCのものについては、請求人が支出した請求人の業務に関連する支出であることは認められるものの、それぞれ次のことから、これらの各支出の額を追加的に本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
      • A 上記ロの(ハ)のCの1については、原処分庁が原処分において既に損金の額に算入していることから、これを更に本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
      • B 減価償却資産の取得のための支出(上記ロの(ハ)のCの2)と認められるものについては、資産の取得のための支出であって、経費等についての支出とは認められないことから、これを本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
         なお、請求人は、上記ロの(ハ)のDのとおり、帳簿等を一切作成していないことから、法人税法(平成23年9月期以前については、平成23年法律第114号による改正前のもの。)第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項に、償却費として損金の額に算入するための要件として規定する損金経理をしていないため、これらの支出の一部を償却費として損金の額に算入することもできない。
      • C 工事の目的が明らかでない本件各物件についての工事見積書や請求書等に基づく支出(上記ロの(ハ)のCの3)については、これらに基づく支出が修繕費であるのか法人税法施行令第132条《資本的支出》の規定により損金の額に算入されない支出の金額(資本的支出)であるのかを判断するに足る具体的な説明が請求人からなされていない以上、その支出が修繕費に該当するかは、本件領収証等の記載内容のみから判断するしかなく、当該記載内容のみでは、当審判所においても、客観的に修繕費としての損金該当性を認めることができないことから、これらの各支出の額を本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
    4. (ニ) 本件領収証等のうち上記(イ)ないし(ハ)以外のものについても、請求人は、上記ロの(ハ)のDのとおり、本件各事業年度において、総勘定元帳等の帳簿書類等を、一切、作成していないのみならず、同(ハ)のEのとおり、そもそも、それらの各支出が請求人において、どのような業務に関連した支出であるのかという損金該当性について具体的に説明していないところ、不存在の立証は困難であることに加え、本件における経緯、すなわち、総勘定元帳等その他の帳簿書類等を一切作成せず法人税等の確定申告書を提出していなかった請求人が実際には所得が認められるとして本件各決定処分等を受け、その後、本審査請求に至って損金の額に算入されるべき本件追加経費があると初めて主張するという経緯等に鑑みると、本件追加経費が損金に該当するということは、請求人自らが主張するものであり、かつ、請求人が本件追加経費についての損金該当性を容易に主張・立証できる立場にあることからすれば、請求人において本件追加経費が単に損金に該当する旨を主張するのみではなく、それが損金に該当することをある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、本件追加経費の損金該当性を認めることはできないことから、やはり、これらの各支出の額を本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
       なお、上記ロの(ハ)のAのとおり、本件領収証等は事業年度及び費目ごとに台紙に貼付されており、それらの中には、各区分の台紙の初葉に手書きで費目及び集計金額が記入されているものもある一方で、これらの事項が記入されていないものもあり、当該集計金額が請求人の主張する本件追加経費の内訳(別表5)の金額と一致しないことからすれば、これらの各支出の業務との関連性はもちろん、費目の記載にすら疑義があることになる。
    5. (ホ) よって、本件追加経費の額のうち、別表6に掲げた各支出を除く各追加経費の額は、いずれも請求人の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない。

(2) 争点2(本件消費税等各決定通知書の理由の提示に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきであるところ、そこにおいて要求される提示の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその提示内容自体から了知し得るものでなければならないというべきである。
  • ロ 当てはめ
     上記1の(2)のトのとおり、本件消費税等各決定通知書には、請求人が、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間において、消費税法第2条第1項第4号に規定する事業者に該当し、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高がそれぞれ○○○○円及び○○○○円であることから同法第9条の適用がなく、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間に国内における課税資産の譲渡等があることから消費税等の確定申告書を提出する義務がある旨記載されている。
     そうすると、本件消費税等各決定通知書において提示された消費税等の納税義務に関する理由には、上記のとおり、原処分庁が請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務があると判断した理由として、これらの各基準期間における課税売上高を提示することで、これらの金額が1,000万円を超えるため、消費税法第9条による免税事業者には該当せず、同法第2条第1項第4号の事業者として課税されるという処分をされた旨、すなわち、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかが明示されており、処分の相手方においてその提示内容自体から了知し得るものといえることから、行政手続法第14条第1項に規定する理由の提示として不備はない。

(3) 争点3(請求人には平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の消費税等の納税義務があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     当審判所の調査及び審理の結果によれば、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高は、別表7の各「審判所認定額」欄のとおりである。
     なお、請求人は、これら各基準期間の課税売上高がそれぞれ1,000万円を超えていない旨主張するものの、原処分庁が請求人に帰属する収入として認定した本件各物件の賃貸料収入が請求人に帰属することは争わず、その他、上記各課税売上高がそれぞれ1,000万円を超えないことの根拠についても主張しておらず、上記認定額を覆す事情は見当たらない。
  • ロ 当てはめ
     上記イのとおり、請求人の平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間の各基準期間の課税売上高はそれぞれ1,000万円を超えていることから、請求人には消費税法第9条の適用はなく、平成22年9月課税期間及び平成23年9月課税期間において消費税等の納税義務がある。

(4) その他

請求人は、本件追加経費の額を本件各事業年度の損金の額に算入するとともに、本件追加経費の額に係る消費税額を本件各課税期間の消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の対象とするべきであると主張するが、請求人は、上記(1)のロの(ハ)のDのとおり、帳簿等を一切作成していないことから、同条第7項に仕入税額控除の要件として規定する帳簿及び請求書等を保存していないため、本件各課税期間において仕入税額控除の対象となるものはない。

(5) 本件各決定処分の適法性について

  • イ 上記(1)のハの(イ)のとおり、別表6に掲げた各支出金額については、同表の「事業年度」欄に記載した各事業年度の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入することが相当であると認められ、また、当審判所の調査の結果によれば、本件各物件に係る賃貸料等は別表2のとおりであり、原処分において益金の額に算入されていない賃貸料等は、益金の額に算入することが相当であると認められる。これらに基づき請求人の本件各事業年度の法人税の所得の金額及び納付すべき法人税額を算出すると別表8の各「審判所認定額」欄のとおりとなる。そうすると、平成22年9月期の法人税の所得の金額及び納付すべき法人税額は原処分の金額を下回ることから、平成22年9月期の法人税の決定処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     また、平成23年9月期ないし平成26年9月期の法人税の所得の金額及び納付すべき法人税額は、いずれも原処分の金額を上回ることから、平成23年9月期ないし平成26年9月期の法人税の各決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 上記イに基づき、本件各課税事業年度の復興特別法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を算出すると別表9の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の金額を上回ることから、本件各課税事業年度の復興特別法人税の各決定処分はいずれも適法である。
  • ハ 本件各課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額を算出すると別表10の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも原処分の金額を上回ることから、本件各課税期間の消費税等の各決定処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(5)のイのとおり、平成22年9月期の法人税の決定処分の一部を取り消すべきであり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、平成22年9月期の法人税に係る無申告加算税の額は別表8の「審判所認定額」欄のとおりとなるから、平成22年9月期の法人税に係る無申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     また、上記(5)のイのとおり、平成23年9月期ないし平成26年9月期の法人税の各決定処分はいずれも適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同項及び同条第2項の規定に基づきなされた平成23年9月期ないし平成26年9月期の法人税に係る無申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ロ 上記(5)のロのとおり、本件各課税事業年度の復興特別法人税の各決定処分はいずれも適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条の規定に基づきなされた本件各課税事業年度の復興特別法人税に係る無申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ハ 上記(5)のハのとおり、本件各課税期間の消費税等の各決定処分はいずれも適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同項及び同条第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づきなされた本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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