(平成29年3月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が、金属スクラップ等の売買取引により得た収入を故意に計上しなかったことなどを理由として、法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該取引に基づく収益は請求人に帰属するものではなく、また、上記の各処分を含む原処分には理由の記載や調査手続に瑕疵があるなどと主張して、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙2のとおりである。なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、Jがその全額を出資して平成○年○月○日に設立した、土木建築工事業等を営む同族会社であり、青色申告の承認を受けている。
  • ロ Jは、請求人の設立以前から、個人で「K」の屋号を用いて土木建築工事業等を営んでいる者である。
  • ハ Jは、平成8年4月○日に請求人の代表取締役を退任し、平成13年6月○日に取締役を辞任した。その後、平成15年9月○日に再び請求人の取締役に就任したが、平成21年6月○日にこれを辞任した。なお、Jの娘婿のG(以下「請求人代表者」という。)は、平成23年3月○日に請求人の代表取締役に就任した。
     Jは、遅くとも上記のとおり請求人代表者が請求人の代表取締役に就任した平成23年以降、請求人の株式を有していなかった。
  • ニ 請求人は、平成23年頃、L社から、同社が施工するd市所在の工場の解体撤去工事(以下「本件工事」という。)における解体作業を請け負った。
     また、請求人は、平成23年10月27日、L社との間で、本件工事の解体現場で発生する金属スクラップ等の有価物を買い受ける旨の継続的売買契約を締結した。
  • ホ 請求人とM社は、平成23年10月31日、請求人がL社から買い受けた金属スクラップ等をM社に売り渡す旨の継続的売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
     本件売買契約において、非鉄金属の売買単価は、1キログラム当たり○○○○円(消費税抜き)と定められた。
  • ヘ 請求人は、本件工事の解体現場で発生し、平成24年1月19日に搬出された非鉄金属17,850キログラム(以下「本件非鉄金属」という。)をL社から買い受けた上、本件売買契約に基づきM社に本件非鉄金属を売り渡し、同社は、同月31日、請求人に対し、本件売買契約に定める1キログラム当たり○○○○円の単価で算出した代金○○○○円(消費税抜き)を支払った。
  • ト その後、M社における請求人の担当者であったNは、Jから、本件工事で搬出され、本件売買契約に基づきM社に売り渡された金属スクラップ等の中に希少金属である○○が含まれていたことを理由に、相応の金額の支払を求められた。
     これを受けて、Nは、本件非鉄金属を1キログラム当たり○○○○円として見積もった金額から、上記ヘの既払金○○○○円を差し引いた上、消費税相当額を加えるなどして算出した○○○○円(以下「本件金員」という。)を、Nが経営するP社を振込名義人として、平成24年3月30日にQ信用金庫○○支店のR名義の普通預金口座に○○○○円を振込送金し、同年4月10日にS銀行のJ名義の○○口座に○○○○円を振込送金することによって支払った。
  • チ 請求人は、本件工事の解体作業をT社に外注していたところ、平成23年7月1日から平成24年6月30日までの事業年度(以下「平成24年6月期」という。)において、T社がその下請業者に対して支払うべき材料仕入費等○○○○円(以下「本件材料仕入高」という。)を同社に代わって支払ったとして、これを請求人の本件工事に係る売上原価に算入する一方、T社に対して支払ったとする外注加工費の中にも本件材料仕入高の額を含めることによって、本件材料仕入高を売上原価として重複計上した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成24年6月期の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに確定申告をした。
     また、請求人は、平成23年7月1日から平成24年6月30日までの課税期間(以下「平成24年6月課税期間」という。)及び平成25年7月1日から平成26年6月30日までの課税期間(以下「平成26年6月課税期間」といい、平成24年6月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)について、別表2の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限までに確定申告をした。
  • ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成28年3月9日付で、請求人に対し、別表1及び2の「更正処分等」欄のとおり、平成24年6月期の法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件法人税更正処分等」という。また上記重加算税の賦課決定処分を、以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をするとともに、本件各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件消費税等更正処分等」という。)をした。
  • ハ 原処分の通知書(以下「本件通知書」という。)には、更正の理由ないし処分の理由として、要旨、次の記載がある。
    • (イ) 本件法人税更正処分について
      • A 本件金員は、次のとおり、本件工事で発生する金属スクラップ等の売買取引について、P社が請求人と継続して取引するために支払ったものと認められるから、平成24年6月期の雑収入として益金の額に算入すべきである。したがって、本件金員を雑収入の計上漏れとして平成24年6月期の所得金額に加算した。
        • (A) P社が発行した本件金員に係る支払明細書(以下「本件支払明細書」という。)の宛先が請求人となっていること。
        • (B) Nが、本件金員は請求人と継続して金属スクラップの売買取引を行うことを条件に支払ったものである旨供述していること。
        • (C) P社は、請求人の会長という肩書を持つJの指示により、本件金員を、上記(3)のトのR名義の口座及びJ名義の口座に振り込んでいること。
      • B 請求人が平成24年6月期の売上原価として計上した別表3記載の合計○○○○円(本件材料仕入高)は、T社が作成した請求書及び請求人が作成した支払通知書によると、本件工事の外注先であるT社が負担すべき費用を同社に代わって請求人が支払ったものであるが、請求人は、当該支払をT社に対する別の外注加工費としても計上しているものと認められるから、売上原価の過大計上として、平成24年6月期の所得金額に加算した。
    • (ロ) 本件重加算税賦課決定処分について
       上記(イ)のAのとおり、本件金員は請求人の益金の額に算入すべきものと認められるが、請求人は、本件金員を請求人名義の口座に入金させるのではなく、別人名義の口座に入金させた上、これを請求人の帳簿書類に記載しなかったのであるから、本件金員を隠ぺい又は仮装したものと認められる。
       したがって、通則法第68条第1項の規定により、本件金員に係る増差税額を基礎として計算した重加算税を賦課する。
    • (ハ) 本件消費税等更正処分等について
      • A 平成24年6月課税期間について
         上記(イ)のBのとおり、本件材料仕入高に係る控除対象仕入税額が減少する。
      • B 平成26年6月課税期間について
         請求人が課税仕入れとして計上した合計○○○○円の外注加工費について、消費税法第30条第7項所定の帳簿及び請求書等の保存がないため、仕入税額控除の対象とすることはできない。
  • ニ 請求人は、本件法人税更正処分等を不服として、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成28年5月6日に審査請求をした。
     また、請求人は、本件消費税等更正処分等を不服として、平成28年5月6日に異議申立てをしたが、異議審理庁は、同申立てについて、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により、審査請求として取り扱うことが適当であると認め、請求人に同意を求めたところ、請求人が同月19日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
     そこで、本件法人税更正処分等に対する審査請求と本件消費税等更正処分等に対する審査請求について併合審理する。

2 争点

  • (1) 原処分の理由の記載に不備があるか否か(争点1)。
  • (2) 調査手続等に原処分を取り消すべき違法があるか否か(争点2)。
  • (3) 本件金員が請求人に帰属する収益であるか否か(争点3)。
  • (4) 本件金員について隠ぺい又は仮装が認められるか否か(争点4)。

3 主張

(1) 争点1(原処分の理由の記載に不備があるか否か。)について 

原処分庁 請求人
本件通知書には、更正の理由として、1本件金員は請求人の雑収入として益金の額に算入すべきこと、2本件材料仕入高は請求人がT社の負担すべき費用を同社に代わって支払ったものであり、請求人の売上原価とは認められないことについて、具体的に根拠が明示されている。
 また、本件通知書には、重加算税の賦課決定処分の理由として、請求人が本件金員を帳簿書類に記載せず、収入に計上しなかったという隠ぺいの具体的事実が記載されている。
 以上のとおりであるから、原処分に理由付記ないし理由提示の不備はない。
原処分庁は、本件金員及び本件材料仕入高に係る処分態様を社外流出としているところ、本件通知書には、本件金員及び本件材料仕入高の重複計上のいずれについても、その処分態様を社外流出とした根拠が何ら記載されていない。
 このことは、理由付記ないし理由提示の不備に当たる。

(2) 争点2(調査手続等に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
以下のとおり、原処分は、調査手続に瑕疵があり、社会通念上相当の限度を超えて課税権を濫用するものであることから、取り消されるべきである。 本件調査の一連の手続は、社会通念上相当な限度ないし権限ある税務職員の合理的な選択、裁量の範囲に収まっており、違法な点はない。
イ 通則法第24条は、更正処分は調査により行う旨規定しているところ、原処分庁は、本件金員及び本件材料仕入高に係る処分態様を社外流出とする一方、社外流出とした金員について、反面調査等の事実解明のためのいかなる調査も行っておらず、調査を欠く違法がある。 イ 調査担当職員は、複数回にわたり、請求人の本店における調査、帳簿書類の検査や取引先に対する質問検査等を行っており、必要な調査は尽くしている。
ロ 本件調査のような長期間にわたる税務調査は、社会通念上相当の限度を超えた負担を納税者に課すものであり、違法である。 ロ 上記イのとおり、必要な調査を遂げるのに時間を要したものであり、いたずらに調査を引き延ばしたといった事情はない。
ハ 調査担当職員が、虚偽の理由を告げて請求人代表者を税務署に出頭させ、原処分庁に都合のよいようにその申述書を作成しようとしたことは、質問検査権の濫用に当たり、違法である。 ハ 調査担当職員が虚偽の理由を告げて請求人代表者を出頭させたとか、申述内容を誘導したり、押しつけたりといった事実はなく、適正に質問調査を行っている。
ニ 原処分庁所属の特別国税調査官は、請求人が特定の団体の会員であることなどから調査対応が異なっている旨の発言をした。
 本件調査は、請求人が特定の団体の会員であることを理由として恣意的に行われたものであり、違法である。
ニ 原処分庁所属の特別国税調査官がいかなる発言をしたか記録はないが、仮に請求人が主張するような発言があったとしても、一般納税者と対応の異なる調査は行っていない。
ホ 原処分庁は、本件金員及び本件材料仕入高に係る処分態様を社外流出としているところ、調査結果の内容の説明においてその根拠の説明がなかった。 ホ 調査結果の内容の説明は適切に行っており、瑕疵はない。

(3) 争点3(本件金員が請求人に帰属する収益であるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人の元代表取締役で、請求人代表者の義父でもあるJは、取引先等に対し、請求人の「会長」として振る舞っていたことが認められ、また、本件工事により発生した金属スクラップの売買取引に関連して、P社の代表者であるNは、○○に係る売買取引について、Jから買取価格を高くしてほしいとの求めを受けて、請求人宛の本件支払明細書を作成し、これに基づき本件金員を支払っていることから、本件金員は請求人に対して支払われたものと認められる。
 Nは、Jから○○を非鉄金属の取引単価である1キログラム当たり○○○○円よりも高い○○○○円で買い取るよう求められ、取引を継続することが得策であると判断し、本件金員の支払に応じたものである。
 なお、本件金員は、P社が請求人と継続して取引することを条件として、請求人に対する交際費として支払われたものである。
 以上より、本件金員は請求人に帰属する収益であると認められる。
本件金員は、P社のNが、以降の取引を円滑に行うために、請求人との取引について大きな影響力を有するJ個人に対し支払ったものであり、請求人に帰属する収益ではない。
 本件非鉄金属の売買取引の当事者は請求人とM社であり、P社との間において、売買取引は存在しない。
 Nは、本件支払明細書について、内部資料であって、請求人に送付したかは記憶にない、宛先を請求人としたのは、取引の足跡を残すためである旨申述していることから、請求人の収益ではない。

(4) 争点4(本件金員について隠ぺい又は仮装が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、Jの指示の下、本件金員を、請求人の確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていないJ及びR名義の各○○口座に入金させた上、帳簿書類に記載せず、請求人の収益に計上しなかったものであり、隠ぺい、仮装が認められる。 本件支払明細書は請求人に送付されておらず、請求人代表者以下、本件金員が請求人に支払われることを認識していなかったのであるから、請求人において、当初から所得を過少に申告することを意図することはできず、仮装、隠ぺいはない。

4 判断

(1) 争点1(原処分の理由の記載に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 青色申告に係る法人税について更正をする場合には、法人税法第130条第2項の規定により、更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないが、それは、同法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、課税庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。
       そうすると、青色申告に係る帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合には、付記理由において、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。
    • (ロ) また、行政手続法第14条第1項本文が、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、不利益処分の通知書に記載された理由が、不利益処分の根拠を上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由提示として不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件法人税更正処分に係る更正の理由について
       本件通知書に記載された本件法人税更正処分に係る更正の理由は、要旨、上記1の(4)のハの(イ)のとおりであり、本件金員及び本件材料仕入高に係る帳簿書類の記載を否認する根拠資料を摘示し、当該否認の理由を具体的に明示したものといえるから、青色申告に係る法人税の更正の理由付記として不備はないということができる。
    • (ロ) 本件法人税更正処分以外の原処分に係る処分の理由について
       本件通知書に記載された本件法人税更正処分以外の原処分に係る処分の理由は、要旨、上記1の(4)のハの(ロ)及び(ハ)のとおりであり、課税の根拠をその基礎となる事実関係及び適用法条を摘示して具体的に説明したものということができ、行政庁の恣意抑制及び被処分者の不服申立ての便宜という行政手続法第14条第1項本文の趣旨を充足する程度の理由が示されているものと認められるから、同項本文の規定に基づく理由提示として不備はないということができる。
    • (ハ) 請求人は、原処分庁は、本件金員及び本件材料仕入高の処分態様を社外流出としているところ、本件通知書に社外流出と認定した根拠が何ら記載されていないから、理由付記ないし理由提示の不備がある旨主張する。
       しかし、上記(イ)及び(ロ)で説示したとおり、本件通知書に記載された原処分の理由に不備はない。当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、本件調査において、本件金員及び本件材料仕入高に対応する現金等の行方を確認できなかったことから、その処分態様を社外流出と認定したことが認められるが、上記イでみた青色更正の理由付記及び不利益処分の理由提示の趣旨等に照らすと、付記理由等において、否認事項に係る現金等の処分態様を認定した根拠を必ず示さなければならないものとは解されないから、請求人の主張は採用することができない。

(2) 争点2(調査手続等に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

  • イ 法令解釈

    通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に違反したことが課税処分の取消事由となる旨を定めた法令上の規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来負うべき納税の義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単に瑕疵があるというだけで課税処分の取消事由となるものではなく、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法があり、何らの調査なしに課税処分を行ったに等しいとの評価を受け、課税処分を「調査により」行う旨を定めている通則法第24条から第26条までの各規定に違背するような例外的場合に限り、その違法が課税処分の取消事由となるものと解するのが相当である。

  • ロ 検討
    • (イ) 請求人は、原処分庁は、本件金員及び本件材料仕入高に係る処分態様を社外流出と認定する一方、社外流出と認定した金員について、反面調査等の事実解明のためのいかなる調査も行っておらず、調査を欠く違法がある旨主張する。
       しかし、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁所属の調査担当職員は、本件調査において、請求人代表者、J及びNに対する質問調査、請求人の帳簿書類等の検査、金融機関調査等を行ったが、本件金員及び本件材料仕入高に対応する現金等の行方を確認できなかったことから、その処分態様を社外流出と認定したことが認められ、所要の調査を尽くしたものということができる。
       したがって、調査を欠く違法があるとはいえず、請求人の上記主張は採用することができない。
    • (ロ) 請求人は、本件調査のような長期間にわたる税務調査は、社会通念上相当の限度を超えた負担を納税者に課すものであり、違法である旨主張する。
       しかし、当審判所の調査の結果によれば、本件調査は、平成26年9月から平成28年1月まで、約1年5か月間にわたり行われたことが認められるが、かかる調査期間のみをもって、社会通念上相当の限度を超えた負担を納税者に課すものであったと評価することはできず、原処分庁の怠慢により調査が長引いたなどの事情もうかがわれないから、請求人の上記主張は採用することができない。
    • (ハ) 請求人は、調査担当職員が、虚偽の理由を告げて請求人代表者を税務署に出頭させ、原処分庁に都合のよいようにその申述書を作成しようとしたことは、質問検査権の濫用に当たり、違法であるとか、原処分庁の職員から、請求人が特定の団体の会員であることなどから調査対応が異なっている旨の発言があり、本件調査は、請求人が同団体の会員であることを理由として恣意的に行われたものであるから、違法であるなどと主張するが、請求人が主張する各事実を認めるに足りる証拠はなく、上記主張は採用することができない。
    • (ニ) 請求人は、本件調査における調査結果の内容の説明に不備があった旨主張するが、調査結果の内容の説明は、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続とは別個の手続であって、仮にこの点に不備があったとしても、上記イで説示した重大な違法には当たり得ないから、原処分を違法ならしめるものではなく、上記主張は失当である。
    • (ホ) 他に、当審判所の調査によるも、本件調査に証拠資料の収集手続の重大な違法があることをうかがわせる事情は見当たらない。
       したがって、調査手続に原処分を取り消すべき違法があるとはいうことができない。

(3) 争点3(本件金員が請求人に帰属する収益であるか否か。)について

  • イ 認定事実

    請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) Jは、上記1の(3)のハのとおり平成21年6月○日に請求人の取締役を辞任した後は、請求人の役員や従業員であったことはなく、遅くとも平成23年以降、請求人の株式も有していなかった。
    • (ロ) Jは、上記1の(3)のニ及びチのとおり、請求人がL社から本件工事における解体作業を受注し、当該作業を更にT社に外注するに当たり、請求人とL社の間、請求人とT社の間をそれぞれ仲介した。
       また、Jは、本件売買契約の締結に当たり、請求人とM社の間を仲介した。
    • (ハ) 請求人は、本件売買契約に基づく代金について、M社から、締日ごとの支払金額の内訳、明細等が記載された支払明細書の送付を受け、当該明細書に記載された代金額の支払を受けていた。
    • (ニ) 本件支払明細書は、Nが作成したもので、要旨、次の記載がある(なお、作成日の記載はない。)。
      • A 名義人として「M社 支払代行 P社」及び名宛人として「F社(請求人) 御中」
      • B 支払金額○○○○円(仕入金額○○○○円、消費税○○○○円)
      • C 明細として、「日付1月19日 車番○○ 品目○○ 正味重量17,850 単価○○○○ 金額○○○○」、「日付1月31日 1/25〆にてお支払済み金額(契約分) 正味重量17,850 単価○○○○ 金額○○○○」
      • D 上記Cの残金の支払予定として、5月10日、同月20日、同月31日、6月10日、同月20日、同月30日、7月10日、同月20日、同月31日、8月10日、同月20日、同月31日、9月10日、同月20日及び同月30日の各日限り○○○○円ずつ並びに10月10日限り○○○○円を支払う旨
      • E 支払条件として、本件工事「において発生する鉄スクラップ・非鉄スクラップ・装置・機器等の有価物の売買契約が、F社(請求人)とM社間において、2期工事も継続される場合に限り、上記支払予定表に基づき残金をお支払することとする。故に、2期工事が継続されない場合には、契約書通りのお支払いとし、上記お支払いは発生しないものとする。」、「本来ならば、○○は非鉄に該当し、契約書に基づき、通常の非鉄単価での売買ではあるが、現場からの要請により、2期工事を継続することを条件に今回に限り、その差額をお支払いするものとする。尚、この○○は、希少なものにつき、今後の解体工事において、発生する可能性は低いが、もし今後の工事期間中に再度発生した場合においても、以後は契約書通り、非鉄として扱い、非鉄単価にて売買することを上記のお支払い条件とする。」
    • (ホ) 請求人とP社の間で、金属スクラップ等の売買契約が締結されたことはない。
       また、M社とP社の間に資本関係はない。
    • (ヘ) 本件金員は、Nが出捐した。
    • (ト) 上記1の(3)のトのとおり、本件金員のうち○○○○円が、R名義の預金口座に振り込まれているが、これは、Jが、JのRからの借入金等の返済に充てる趣旨で、上記○○○○円を上記口座に振り込むようNに指示したものであった。
       また、Jは、Nに指示して、本件金員のうち○○○○円をJ名義の○○口座に振り込ませた上、当該金員をJの個人事業の経費等として費消した。
    • (チ) P社の総勘定元帳において、本件金員は、「J」に対する支払として経理されている。
  • ロ 検討
    • (イ) 上記1の(3)のトのとおり、本件金員は、M社の担当者であったNが、Jから、本件売買契約に基づき請求人からM社に売り渡された金属スクラップ等の中に希少金属が含まれていたことを理由に、相応の金額の支払を求められ、これに応じてJに支払ったものであるところ、上記1の(3)のロ及びハ並びに上記イの(イ)、(ロ)及び(ヘ)から(チ)の各事実によれば、Jは、上記売却及び本件金員の支払がされた平成23、24年当時、請求人の役員や従業員ではなく、株主でもなく、請求人とは別個独立の個人事業を営んでいたものであって、本件売買契約や、その大本の本件工事における解体作業に関し、飽くまで仲介人として関与したにとどまる上に、本件金員は、N個人が出捐し、P社を振込名義人として、請求人を経ることなくJに直接支払われたものであり、Jの個人的な使途に充てられ、P社の帳簿上もJに対する支払として経理処理されていることが認められる。
    • (ロ) この点、原処分庁は、1Jが、取引先等に対し、請求人の「会長」として振る舞っていたこと、2本件金員が、請求人宛の本件支払明細書に基づき支払われたこと、3Nは、本件売買契約の継続を目的とし、その継続を条件として本件金員を支払ったものであることなどを根拠に、本件金員は請求人に対して支払われたものと認められる旨主張する。
       しかし、上記1につき、Jは、上記1の(3)のイ及びハのとおり、請求人の創業者であるとともに、現代表者の義父であって、当審判所の調査の結果によると、請求人の「会長」との肩書を用いることがあり、請求人に対し一定の影響力を有していたことはうかがわれるものの、上記(イ)で説示したとおり、Jは、本件当時、請求人の役員や従業員等の地位にあったものではなく、本件売買契約や、その大本の本件工事における解体作業に関し、飽くまで仲介人として関与したにとどまることからすれば、Jの行為を請求人の行為と同視することはできないというべきである。
       また、上記2につき、上記イの(ニ)のとおり、本件金員の支払に関しNが作成した本件支払明細書は、M社の「支払代行」とされるP社から請求人宛として作成されたものであり、本件非鉄金属の残代金として本件金員を支払う旨が記載されていることが認められ、当審判所の調査の結果によれば、Nは、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件支払明細書を請求人に送ったと思う旨申述していることが認められる。しかし、この申述は、それ自体が曖昧である上、当審判所の調査の結果によれば、請求人代表者は、本件支払明細書が請求人に送付されたことはない旨答述していることが認められ、Nの上記申述は信用性に疑問があり、直ちに採用することはできず、他に本件支払明細書がN、P社ないしM社から請求人に送付されたことを認めるに足りる証拠はない。
       さらに、上記1の(3)のホ及び上記イの(ホ)のとおり、本件売買契約の当事者ではなく、M社の関連法人でもないP社が、M社の支払を「代行」するとされる根拠も判然としない。
       したがって、本件支払明細書の記載から、直ちに、本件金員が請求人に対して支払われたものと認めることはできない。
       さらに、上記3につき、上記イの(ニ)のとおり、本件支払明細書には、請求人とM社の間における金属スクラップ等の売買が今後も継続されることが、本件金員の支払条件である旨の記載があることが認められるが、上記のとおり、本件支払明細書は、請求人への送付の有無や記載の趣旨が判然としない。また、Jは、請求人に対し一定の影響力を有していたことがうかがわれ、本件売買契約にも仲介人として関与していたことに照らすと、本件売買契約の継続を目的とする本件金員をJに対して支払うということも、十分首肯できるところであり、本件金員が本件売買契約の継続を目的とするものであることは、これが請求人に対して支払われたことの決め手にはならないというべきである。
       以上のとおりであるから、原処分庁の上記主張はいずれも採用することができない。
    • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)で説示したところを総合すれば、本件金員は、Jに対して支払われたものと認めるのが相当であり、請求人に帰属する収益と認めることはできない。

5 原処分の適法性について

(1) 本件法人税更正処分について

上記4の(3)で説示したとおり、本件金員は請求人に帰属する収益とは認められないから、本件法人税更正処分のうち、本件金員の計上漏れ(別表4の2)に基因する税額に係る部分は、違法である。

なお、上記4の(1)及び(2)で説示したとおり、原処分の理由の記載に不備はなく、調査手続等に原処分を取り消すべき違法があるとはいえない。そして、本件法人税更正処分の上記以外の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

以上を前提に平成24年6月期の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄記載のとおりとなるから、本件法人税更正処分のうち、これを上回る部分を、別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(2) 本件重加算税賦課決定処分について

上記(1)のとおり、本件金員の計上漏れに基因する納付すべき税額がないことから、これを基礎とする本件重加算税賦課決定処分は、争点4(本件金員について隠ぺい又は仮装が認められるか否か。)について判断するまでもなく、違法であり、その全部を取り消すべきである。

(3) その他の原処分について

上記4の(1)及び(2)で説示したとおり、原処分の理由の記載に不備はなく、調査手続等に原処分を取り消すべき違法があるとはいえない。そして、上記(1)のとおり取り消すべき部分以外の本件法人税更正処分を基礎とする過少申告加算税の賦課決定処分及び本件消費税等更正処分等については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない(なお、各過少申告加算税について、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。)。

したがって、上記各処分はいずれも適法である。

6 結論

以上の次第で、本件法人税更正処分の一部及び本件重加算税賦課決定処分の全部を取り消し、その他の審査請求はいずれも理由がないので棄却することとする。

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