(平成29年1月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、1関連会社に対する未収賃貸料の免除額を特別損失に計上して損金の額に算入し、2受取配当に係る所得税額の全額を法人税額から控除して、各事業年度の法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、1当該免除は、当該関連会社に対する経済的な利益の無償の供与として寄附金に該当し、2当該配当に係る元本を所有していた期間に対応するものとして計算される所得税額の計算に誤りがあるとして、当該各事業年度の法人税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、1当該免除には相当の理由があり、2当該配当に係る元本を所有していた期間の認定に誤りがある等として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

関係法令等は、別紙2のとおりである。なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 当事者等
    • (イ) 請求人は、○○業等を営む法人であり、B及びEが代表取締役を務めている。
       なお、請求人の発行済株式の全部である48,000株を、B(うち37,200株)及びその妻であるF(うち10,800株)が保有している。
    • (ロ) G社(以下「本件子会社」という。)は、平成○年○月○日に○○等を目的として設立され、請求人の○○事業部を引き継いだ法人であったが、平成○年○月○日に解散し、同年○月○日に清算結了した。
       なお、本件子会社の発行済株式は、その全部を請求人が保有していた。
       また、本件子会社の本店所在地は、請求人の所在地と同所であった。
    • (ハ) H社(以下「本件P会社」という。)は、平成○年○月○日に本件子会社からの会社分割(分社型分割)により設立された法人であり、Bが代表取締役を務めており、本店所在地は、請求人の所在地と同所である。
       なお、本件P会社の発行済株式は、同社の設立当時は本件子会社が全部保有していたが、平成25年10月2日に本件子会社からBにその全部が譲渡された。
    • (ニ) J社(以下「本件Q会社」という。)は、昭和○年○月○日に設立された、○○業等を営む法人であり、Bが代表取締役を務めている。
  • ロ 本件P会社に対する債務免除について
    • (イ) 請求人は、平成25年4月1日、本件P会社に対して、別表1の「施設名」欄記載の1R1、2R2、3R3及び4R4(以下、これらを併せて「本件各○○施設」という。)を、いずれも同日から平成35年3月31日までの期間、同表の「月額賃貸料」欄記載の賃貸料でそれぞれ賃貸した。
    • (ロ) 請求人は、平成25年8月下旬頃、本件P会社に対し、平成25年5月分から同年11月分までの本件各○○施設の賃貸料合計額13,650,000円を免除することとした(以下「本件免除」という。)。
    • (ハ) 請求人は、平成24年12月1日から平成25年11月30日までの事業年度(以下「平成25年11月期」という。)において、本件免除の額13,650,000円を特別損失勘定に計上し、所得金額の計算において、同額を損金の額に算入した。
  • ハ 本件Q会社からの受取配当について
    • (イ) 請求人は、平成26年3月18日、本件Q会社の発行済株式の全部である20,000株(以下「本件株式」という。)を、B(うち19,250株)及びF(うち750株)から合計○○○○円で譲り受けた。
    • (ロ) 本件Q会社は、平成26年9月30日、請求人に対し、本件株式に係る配当(以下「本件配当」という。)として○○○○円のうち、所得税額○○○○円及び復興特別所得税額○○○○円を源泉徴収した後の○○○○円を支払った。
    • (ハ) 請求人は、平成25年12月1日から平成26年11月30日までの事業年度(以下「平成26年11月期」という。)の所得金額の計算において、本件配当の○○○○円を受取配当等の益金不算入額として益金不算入とし、また、本件配当に係る所得税額○○○○円及び復興特別所得税額○○○○円を法人税額から控除される所得税額及び復興特別法人税額から控除される復興特別所得税額(以下「法人税額から控除される所得税額等」という。)として損金不算入とした。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成25年11月期の法人税について、青色の確定申告書に別表2-1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した後、平成26年4月25日、別表2-1の「修正申告1」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成26年8月18日から同年10月10日まで、請求人の平成25年11月期の法人税等の調査(以下「本件先行調査」という。)を行った。
  • ハ 請求人は、平成26年10月15日、平成25年11月期の法人税について、上記ロの本件先行調査に基づき、その所得金額の計算において、本件免除が寄附金に該当するなどとして、別表2-1の「修正申告2」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
  • ニ 請求人は、平成26年12月15日、平成25年11月期の法人税について、上記ハの修正申告書に誤りがあるとして、別表2-1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をしたところ、原処分庁は、平成27年3月13日付で、交際費等の損金不算入額の一部を除いて当該更正の請求に理由があるとして、別表2-1の「減額更正処分」欄のとおりの更正処分をした。
  • ホ 請求人は、平成26年11月期の法人税について、青色の確定申告書に別表2-2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ヘ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成27年6月11日から同年12月8日まで、請求人の平成25年11月期及び平成26年11月期の法人税等の調査(以下、平成25年11月期の調査を「本件再調査」という。)を行った。
  • ト 原処分庁は、上記ヘの調査に基づき、平成27年12月18日付で、別表2-1の「再更正処分」欄のとおりの平成25年11月期の法人税の再更正処分(以下「本件平成25年再更正処分」という。)並びに別表2-2の「更正処分等」欄のとおりの平成26年11月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件平成26年当初更正処分等」という。)をした。
  • チ 請求人は、平成28年2月4日、上記トの各処分を不服として審査請求をした。
  • リ 原処分庁は、平成28年2月18日付で、本件平成26年当初更正処分等を取り消し、同日付で、別表2-2の「再更正処分等」欄のとおりとする再更正処分(以下「本件平成26年再更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件平成26年賦課決定処分」といい、本件平成26年再更正処分と併せて「本件平成26年再更正処分等」という。)をした。
  • ヌ 請求人は、平成28年2月29日、上記チの審査請求のうち、本件平成26年当初更正処分等に対する審査請求を取り下げ、同日に、本件平成26年再更正処分等を不服として審査請求をしたので、本件平成25年再更正処分に対する審査請求と併合審理をする。

2 争点

  • (1) 本件再調査の手続には、本件平成25年再更正処分の取消事由となる違法があるか否か(争点1)。
  • (2) 本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当するか否か(争点2)。
  • (3) 本件配当について、配当の計算の基礎となった期間の月数のうちに請求人がその元本を所有していた期間の月数の占める割合(以下「所有期間割合」という。)はいくらか(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件再調査の手続には、本件平成25年再更正処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

  • イ 請求人の主張
    • (イ) 本件P会社は、請求人と同じ建物内に事務所が存するところ、平成27年5月13日に本件P会社の法人税調査が行われた際には、帳簿書類を請求人の事務所2階にある会議室に用意していた。しかし、本件P会社に対する調査の担当職員は、本件P会社に関する調査をするにとどまらず、請求人の資金の流れに関して聴き取りをした後、当該帳簿書類を特に確認せずに無断で1階の請求人の社員の執務エリアに立ち入り、請求人の経理部主任であり、本件P会社の経理事務も担当しているMに対して質問調査をし、請求人の所有物である机やパソコンに保管されていた請求人のグループ再編に関する電子メール等の資料(以下「本件再編関係資料」という。)を閲覧するなど、必要な範囲を超えた調査を行った。
       これは、本件P会社の調査を装って、請求人に対する事前通知を欠いたまま実質的に本件再調査を開始したものというべきである。
    • (ロ) 仮に、上記(イ)の調査を本件P会社に対する調査と捉えたとしても、本件P会社は、請求人との間での本件各○○施設の賃貸借契約に関する資料を何ら作成・保有していないから、本件P会社に対する調査において、通則法第74条の11第6項の規定による請求人に関する新たな情報が得られることはあり得ない。
       また、原処分庁が平成27年3月13日付減額更正処分で是認した本件免除について、これを寄附金に該当するとした判断に新たに得られた情報の内容がどのような影響を与えたか明示すべきであり、これを明示できないことは新たに得られた情報が存在しなかったと推認せざるを得ない。
       そうすると、本件再調査の担当職員は、再調査の要件である通則法第74条の11第6項に規定する新たに得られた情報がないにもかかわらず、本件再調査を行ったものというべきである。
    • (ハ) したがって、本件再調査の手続には、本件平成25年再更正処分の取消事由となる違法がある。
  • ロ 原処分庁の主張

    本件P会社に対する調査の担当職員は、平成27年5月13日、本件P会社の代表者であるBの了承を得た上で、本件P会社の経理担当者であるMに対する質問調査及び現物確認調査を行い、本件再編関係資料の写しを証拠として収集した。

    そして、本件再編関係資料の記載内容を検討した結果、請求人の行った本件免除には相当な理由がないことが認められた。これは、本件先行調査では判明していなかった情報であった。

    そこで、本件再調査の担当職員は、通則法第74条の11第6項に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に該当すると判断し、本件再調査を行っていることから、本件再調査の手続に違法な点はない。

    なお、「新たに得られた情報」について、その理由を開示して説明することは法律上規定されていない。

(2) 争点2(本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当するか否か。)について

  • イ 原処分庁の主張

    本件P会社は、1再建計画を作成していないこと、2平成25年10月2日以降、Bが本件P会社の全株式を保有しているところ、本件P会社の借入金はBからの借入金のみであり、銀行等からのものは一切ないこと、3平成26年11月30日現在、N社に対して42,000,000円の貸付金があること、4本件免除を受けた以降、請求人からR1を買い受けたN社及びBに対して、それぞれ本件各○○施設に係る賃借料を支払っていることからすると、本件免除については、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものではなく、合理的な再建計画に基づくものでもないから、法人税基本通達9-4-2に定める「相当な理由」がない。

    したがって、本件免除の額について、請求人と本件P会社との間に完全支配関係があったと認められる平成25年10月2日より前の期間の9,750,000円は、法人税法第37条第2項に規定する「寄附金の額」に該当し、平成25年10月2日以降の期間の3,900,000円は、同条第1項に規定する「寄附金の額」に該当する。

  • ロ 請求人の主張

    請求人は、本件子会社を通じて運営していた○○事業について、1第二会社方式(会社分割スキーム)によって本件P会社を新設し、本件P会社に○○事業を承継させる、2本件子会社は、本件P会社の株式をBに売却する、3請求人は、請求人が被る損失を最小にするため、本件P会社に対して本件免除をするという方法により、○○事業から撤退したものである。

    このように、本件免除は、本件子会社の解散及び本件P会社の経営権の譲渡等のために請求人が賃貸料を免除したというものであり、法人税基本通達9-4-1の要件を充足するから、本件免除の額は「寄附金の額」に該当しないというべきである。

    なお、原処分庁は、本件P会社が倒産の危機に瀕していないと主張するが、本件P会社は金融機関から借入れできる状況になく、金融機関から借入れしていないことが倒産の危機に瀕していない理由とはならない。

    したがって、本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」のいずれにも該当しない。

(3) 争点3(本件配当について、所有期間割合はいくらか。)について

  • イ 原処分庁の主張

    本件配当の計算の基礎となった期間の月数は、平成25年6月1日から平成26年5月31日までの12か月間である。

    そして、請求人が本件株式を取得したのは平成26年3月18日であるから、当該計算の基礎となった期間の月数のうち、請求人がその元本である本件株式を所有していた期間の月数は、同日から同年5月31日までの3か月間である。

    したがって、本件配当について、法人税法施行令第140条の2第2項により所有期間割合(3か月/12か月)を算定すると、0.250となる。

  • ロ 請求人の主張

    本件配当は、本件Q会社の平成26年6月1日から平成27年5月31日までの事業年度中である平成26年9月18日に開催された臨時株主総会における配当決議によるものである。

    そのため、本件配当の計算の基礎となった期間の月数は、平成26年6月1日から同年9月18日までの4か月間である。

    そして、請求人が本件株式を取得したのは平成26年3月18日であるから、当該計算の基礎となった期間の月数のうち、請求人がその元本である本件株式を所有していた期間の月数は、同年6月1日から同年9月18日までの4か月間である。

    したがって、本件配当について、法人税法施行令第140条の2第2項により所有期間割合(4か月/4か月)を算定すると、1.000となる。

    なお、本件Q会社は、本件配当に係る源泉所得税の納付書及び支払調書合計表に支払確定年月日及び配当の基準日を平成26年9月18日と記載しており、原処分庁は、平成26年11月期の法人税の確定申告書の記載内容や原処分庁内部にある資料を十分に検討し、また、証拠資料の収集を十分に行えば容易に判明したにもかかわらず、これを怠った結果、事実認定を誤ったものといえる。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件再調査の手続には、本件平成25年再更正処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

  • イ 認定事実

    請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

    1. (イ) 本件P会社に対する調査の担当職員は、平成27年5月13日、本件P会社に対する法人税調査を開始し、請求人の本社建物の2階にある会議室において、本件P会社の帳簿書類を確認するとともに同社の代表者であるBに対して聴き取りを行った後、同人の了承を得た上で、同建物の1階にある事務室に下りて、請求人の経理部主任であり、請求人を基幹とする同族グループ法人全体の経理担当者であるMに対する質問調査を行い、また、本件再編関係資料の写しを証拠として収集した。
    2. (ロ) 本件再編関係資料は、本件先行調査においては提示されていなかった。
    3. (ハ) 本件再編関係資料には、平成25年8月当時の請求人の監査役が、本件免除を行う正当な理由として「本件P会社の経営が安定する。」ことなどを挙げていること、また、これを受け、請求人の関与税理士が、「○○施設の賃貸借契約は、H事業がマイナス事業にならずに維持経営できる範囲で家賃を設定することを合意するという条項をつければよい。」旨の助言をしたことが記載されていた。
    4. (ニ) 本件再調査の担当職員は、平成27年6月11日、請求人の代表者であるB及びEに対して、「新たに得られた情報に照らし非違があると認められる」ときに当たる旨を伝えるとともに本件再調査に係る事前通知を行い、了解を得た上で、本件再調査を開始した。
  • ロ 検討
    1. (イ) 上記1(3)イ(ロ)及び(ハ)によれば、本件P会社は、設立時である平成○年○月○日から同年10月1日までの間、請求人と資本関係を有する孫会社であったこと、本件P会社の本店所在地が請求人の所在地と同所であることが認められ、これらの事情を踏まえると、上記イ(イ)のとおり、本件P会社に対する調査の担当職員が、請求人の資金の流れに関しても聴き取りを行ったことや、本件P会社の代表者の了承を得た上で、請求人の本社建物の1階にある事務室に下りて、本件P会社を含む請求人を基幹とする同族グループ法人全体の経理担当者に対する質問調査を行い、また、本件再編関係資料の写しを証拠として収集したことは、いずれも、本件P会社の法人税の調査として必要な範囲を超えたものとはいうことができない。そうすると、本件P会社に対する調査の担当職員は、飽くまで本件P会社に対する調査を行ったものであって、請求人に対する事前通知を欠いたまま実質的に本件再調査を開始したとはいえない。
    2. (ロ) そして、本件P会社に対する調査において証拠として収集された本件再編関係資料の写しは、上記イ(ロ)及び(ハ)のとおり、本件先行調査においては提示されていなかったものであり、本件免除の目的や額の定め方など、本件免除の額が法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当するか否かの判断を左右する情報を含むものであった。
       そうすると、本件再調査の担当職員は、本件先行調査が終了した後に、本件再編関係資料に基づいて本件免除の目的や額の定め方などを把握し、それに照らして、請求人に非違があると認めたことになるから、通則法第74条の11第6項に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に該当するというべきである。
    3. (ハ) したがって、本件再調査の手続には、本件平成25年再更正処分の取消事由となる違法があるとは認められない。

(2) 争点2(本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当するか否か。)について

  • イ 認定事実

    請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 本件P会社は、平成26年1月31日時点において、○○○○円の債務超過の状態にあった。
    • (ロ) 本件P会社は、平成○年○月○日から平成26年1月31日までの事業年度(以下「平成26年1月期」という。)において、○○○○円の事業収入を得ていた。
    • (ハ) 平成26年1月31日時点における本件P会社の借入金は、Bから借り入れた○○○○円のみであった。
    • (ニ) 請求人は、本件免除に当たって、「○○事業からの撤退計画」、「Hの今後の展開」、「新設分割計画」等の計画を立案した。
    • (ホ) 請求人が立案した上記(ニ)の各計画においては、1本件免除の額が本件P会社の再建のための必要最低限の金額となるように本件P会社が採り得る方策の検討、2請求人による本件P会社の再建管理の方法の検討、3請求人が本件P会社に対して支援を行うことの当否や、4本件P会社の代表者であるBなど他の債権者との間での負担割合の合理性の検討等はされていない。
  • ロ 法令解釈
    • (イ) 法人税法第37条第1項及び第7項は、別紙2の3及び5のとおり規定しているところ、このように、法人税法が一定額を超える寄附金の額を損金の額に算入しない旨の損金不算入制度を採用しているのは、法人が支出した寄附金の全額を損金の額に算入するとすれば、国の財政収入の確保を阻害し、課税の公平を害することとなる一方で、法人が支出する寄附金の中には法人の収益を生み出すのに必要な費用としての性質を有するものもあるものの、寄附金は反対給付がなく、個々の寄附金の支出が当該法人の事業に直接関連があるものであるか否かが明確ではなく、これを区別することが困難であることを踏まえ、統一的な損金算入限度額を設け、その範囲に限り寄附金の損金算入を認めることとしたものと解される。
       そして、法人がする債権放棄についても、対価的意義を有する反対給付を受けないで、一方的に債務者に経済的利益を与えるものであることからすれば、原則として寄附金として扱われるべきものであって、損金算入限度額を超える部分の金額は、課税の対象となるものである。
       また、法人税法第37条第2項は、別紙2の4のとおり規定しており、内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額については、一律に損金の額に算入しないこととしている。
    • (ロ) もっとも、法人税法第37条第7項は、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与であっても、「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきもの」については寄附金から除くことを定めているところ、これは、上記に掲げられた費用が、その費用としての性格が明白であるため、寄附金に当たらないものとすることにより、その全額を損金の額に算入することとしたものと解される。
       そうすると、こうした同項の規定の趣旨に照らせば、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるものであっても、その費用性が明白なものであれば、同項に規定する寄附金の額には該当せず、同条第1項又は同条第2項の適用を受けずに、その全額を損金の額に算入することも許容され得ると解することができる。
       そして、上記(イ)のとおり、法人税法第37条が、統一的な損金算入限度額の制度を設け、寄附金について画一的な処理をすることとしている趣旨に鑑みれば、その例外として寄附金の額に当たらないことを理由にその全額の損金算入を認めることができるのは、それが客観的に見て法人の収益を生み出すのに必要な費用であるか又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であるとして、その費用性が明白なものであると認められる場合に限られると解するのが相当である。
    • (ハ) 以上を踏まえると、法人と当該債権放棄の相手方との間に資本関係、取引関係、人的関係、資金関係等において関連性が存する場合で、業績不振による倒産を防止するために当該法人が債権放棄を行った場合等、当該債権放棄に経済合理性がある場合にあっては、当該債権放棄は、一般に、客観的に見て法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用として、その費用性が明白なものであると認められるものと解され、一律に損金算入を認めないこととすると、かえって、上記法人税法の趣旨に反する結果になることから、その損金算入を認めるべきものと考えられる。
       そして、法人税基本通達9-4-2は、法人がその子会社等(当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者を含む。)に対して債権放棄等をした場合において、その債権放棄等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど、その債権放棄等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その債権放棄等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする旨を定めているところ、この定めは、債権放棄等に経済合理性があるか否かを判断する基準として、当審判所においても相当なものであると認められる。
  • ハ 検討
    • (イ) これを本件についてみると、本件P会社は、平成26年1月31日時点において、財務諸表上○○○○円の債務超過の状態にあったのは、上記イ(イ)のとおりであることに照らせば、本件P会社は、本件免除が行われた平成25年8月下旬頃においても、債務超過の状況であったことがうかがわれる。しかしながら、上記1(3)イ及びロの基礎事実並びに上記4(2)イで認定した事実によれば、1本件P会社は、請求人との間に完全支配関係がある本件子会社からの会社分割により設立された法人であること、2本件P会社が設立されたのは同年○月○日であり、本件免除は、設立から約○か月後の同年8月下旬頃にされたこと、3本件P会社が平成26年1月期において一定の事業収入を得ていたこと、4本件P会社の借入金は、Bからのもののみであったところ、同人は、本件P会社の設立当初からの代表者であり、平成25年10月2日以降は、本件P会社の株式の全部を保有していることが認められる。
       以上の事実関係を前提にすると、本件免除がされた平成25年8月下旬頃においては、本件P会社は設立間もない時期で、未払金などの債務も発生間もないものであるのに加え、本件P会社は一定の事業収入を得ており、また、借入金の債権者であるBが設立時からの代表者で、同年10月2日以降は100%株主であることを踏まえると、本件P会社が直ちに債務の弁済を求められる状況にあるとは考え難い。
       そうすると、本件P会社に対する本件免除が、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ずに行われたものであるとして、その必要性があったとは認めることができない。
    • (ロ) また、上記イ(ホ)のとおり、請求人が立案した各計画においては、請求人の本件P会社に対する具体的な再建計画が全く明らかにされていなかった上、平成25年10月2日以降、本件P会社が請求人による完全支配関係がなくなったのは上記1(3)イ(ハ)のとおりであり、請求人が本件P会社の再建を管理することが困難となったことも踏まえると、本件免除が合理的な再建計画に基づくものであるとして、相当性があると認めることもできない。
    • (ハ) 以上の検討結果を総合的に判断すれば、本件免除に経済合理性があるということはできない。
       したがって、本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当する。
  • ニ 請求人の主張について

    請求人は、本件免除については、請求人が○○事業撤退の一環として請求人が被る損失を最小にするために行った損失負担等に当たり、法人税基本通達9-4-1に定める「相当な理由」があるから、本件免除の額は法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当しない旨主張する。

    しかしながら、法人税基本通達9-4-1は、別紙2の11のとおり、「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために損失負担等をした場合」に、一定の要件の下で、寄附金として取り扱わない旨を明らかにした定めであるところ、本件免除は、上記1(3)ロ(ロ)のとおり、請求人が本件P会社に対する未収賃貸料債権を免除したものであって、会社分割をした後に解散した本件子会社のために経済的利益を供与したものではない。また、上記1(3)イ(イ)ないし(ハ)のとおり、請求人の発行済株式はB及びその妻であるFが保有し、請求人の○○事業部を引き継いだ本件子会社からの会社分割により設立された本件P会社の発行済株式の全部を平成25年10月2日以降Bが保有していることに加え、Bが請求人及び本件P会社の代表取締役を務めており、本件P会社の株式が本件子会社からBに譲渡された前後において本件P会社の代表取締役がBであることに変わりがなく、Bによる請求人及び本件P会社の完全支配関係にも変わりがないことに鑑みると、当該株式の譲渡をしたことをもって、実質的に経営権の譲渡があったものとみることはできない。

    そうすると、請求人が子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために損失負担等をした場合には当たらないから、法人税基本通達9-4-1に定める「相当な理由」があるか否かを判断するまでもなく、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件平成25年再更正処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件再調査の手続に違法はなく、本件免除の額は、法人税法第37条第1項及び第2項に規定する「寄附金の額」に該当する。そして、上記1(3)イ(ロ)及び(ハ)によれば、本件子会社がBに対して本件P会社の発行済株式の全部を譲渡した平成25年10月2日より前の期間は、本件P会社は、請求人との間に完全支配関係がある法人に該当するので、本件免除の額のうち、平成25年5月分から9月分までの賃貸料合計額9,750,000円は同条第2項に規定する「寄附金の額」に、同年10月分及び11月分の賃貸料合計額3,900,000円は同条第1項に規定する「寄附金の額」にそれぞれ該当する。したがって、平成25年11月期の所得金額の計算上、本件免除の額(13,650,000円)のうち、9,750,000円は同条第2項によりその全額が損金の額に算入されず、また、3,900,000円は同条第1項により寄附金の損金算入限度額を超える額3,893,813円が損金の額に算入されないこととなる。これに基づき算出した請求人の平成25年11月期の欠損金額、還付金の額に相当する税額及び翌期へ繰り越す欠損金額は、当審判所においても、本件平成25年再更正処分における請求人のこれらの金額と同額であると認められる。

なお、本件平成25年再更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、取り消すべき事由は認められない。

したがって、本件平成25年再更正処分は、適法である。

(4) 争点3(本件配当について、所有期間割合はいくらか。)について

  • イ 認定事実

    請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 本件Q会社は、平成26年9月18日、臨時株主総会を開催し、同日現在の株主に対して、1株につき○○○○円、効力発生日を同月30日とする中間配当を行う旨の決議を行った。
    • (ロ) 本件Q会社は、平成26年10月2日、原処分庁に対し、同年9月18日を基準日及び支払確定年月日として、本件配当を行い、所得税額等○○○○円を源泉徴収した旨の支払調書を提出した。
    • (ハ) 本件Q会社は、設立以後本件配当を行うまで、配当を行ったことがなかった。
  • ロ 検討

    上記イ(イ)及び(ハ)によれば、本件配当は、法人税法施行令第140条の2第2項に規定する判定対象配当等がその1年前の日以前に設立された法人からその設立の日以後最初に支払われる剰余金配当等である場合に該当すると認められ、本件配当の計算の基礎となった期間の初日は、本件配当の支払に係る基準日である平成26年9月18日の1年前の日の翌日の平成25年9月19日となる。そして、同項の規定によれば本件配当の計算の基礎となった期間の月数は、同日から本件配当の基準日である平成26年9月18日までの12か月間となり、また、上記期間の月数のうち、請求人が本件株式を所有していた期間の月数は、本件株式を取得した日である平成26年3月18日から同年9月18日までの7か月間と認められる。

    したがって、本件配当について、法人税法施行令第140条の2第2項により所有期間割合(7か月/12か月)を算定すると、別表3の「審判所認定額」の「8」欄記載のとおり0.584となる。

(5) 本件平成26年再更正処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件配当に係る所有期間割合は0.584であるから、これを前提に法人税額から控除される所得税額等の損金不算入額を計算すると、別表3の「審判所認定額」の「9」欄のとおり○○○○円となる。これに基づき、当審判所が認定した請求人の平成26年11月期の欠損金額及び納付すべき法人税額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件平成26年再更正処分の金額を下回るから、本件平成26年再更正処分はその一部を取り消すべきである。

なお、本件平成26年再更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを取り消すべき事由は認められない。

(6) 本件平成26年賦課決定処分の適法性について

上記(5)のとおり、本件平成26年再更正処分はその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額は○○○○円となるが、それ以外の点は通則法第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項の所定の要件を充足する。

また、この税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

そして、当審判所において、平成26年11月期の過少申告加算税の額を計算すると、別紙1「取消額等計算書」のとおり、本件平成26年賦課決定処分の金額に満たないから、本件平成26年賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(7) 結論

以上によれば、本件平成26年再更正処分等は、いずれもその一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消し、その他の原処分に対する審査請求には理由がないから棄却することとする。

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