(平成29年5月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人G、同J及び同K(以下、順に「請求人G」、「請求人J」及び「請求人K」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した財産の価額について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)に定める方法により評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、一部の土地及び建物の価額は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるとして、国税庁長官の指示を受けて評価した価額により相続税の各更正処分等をしたのに対し、請求人らが原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
  • ロ 評価通達1《評価の原則》の(2)は、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続により財産を取得した日)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額(以下「通達評価額」という。)による旨定めている。
  • ハ 評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
  • ニ 租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項は、個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもので政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で同項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第11条の2《相続税の課税価格》に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に同項各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする旨規定し、同項第2号は、貸付事業用宅地等である小規模宅地等の割合を100分の50とする旨規定している(以下、貸付事業用宅地等に係る当該特例を「小規模宅地等特例」という。)。
  • ホ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第74条の14《行政手続法の適用除外》第1項は、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》を除き、同法第3章《不利益処分》の規定は適用しない旨規定している。
  • ヘ 行政手続法第14条第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、平成24年6月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を、法定申告期限までに共同してM税務署長に提出した(以下、当該申告書に係る申告を「本件申告」という。)。
  • ロ これに対し、M税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成28年4月27日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
     なお、本件各更正処分等の通知書に付記された処分の理由(以下「本件付記理由」という。)の要旨は、別紙2のとおりである。
  • ハ 請求人らは、本件各更正処分等に不服があるとして、平成28年7月27日にそれぞれ審査請求をするとともに、請求人Gを総代として選任し、同日、その旨を当審判所に届け出た。

(4) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件相続に係る関係人等
    • (イ) 本件被相続人は、大正○年○月○日生まれで、○歳で死亡し、本件相続が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるN、同長女である請求人J、同長男である請求人G、同二男であるP及び同養子である請求人K(二男Pの長男)の5名である。
    • (ロ) 本件被相続人は、平成20年8月○日、請求人Kを養子とする養子縁組をした。
    • (ハ) Q社は、昭和40年10月○日に不動産の売買及び賃貸借並びに不動産の管理等を目的として設立され、平成21年6月○日以前の代表取締役は本件被相続人、同日以後は請求人Gである。
  • ロ 不動産の取得状況等
    • (イ) 本件被相続人は、平成20年5月13日、Q社の代表者として、R銀行に対し、○○診断を申し込んだ。
       ○○診断を申し込むに当たり、本件被相続人は、R銀行に対し、次期後継者を請求人G、請求人Gの後継者を請求人Kと考えており、孫である請求人Kの代まで事業を承継させたい旨及び当該事業承継に伴う遺産分割や相続税が心配である旨を伝えた。
    • (ロ) 本件被相続人は、平成21年1月30日付で、売主である法人との間で、別表2に記載のd県e市f町○-○の土地(以下「本件甲土地」という。)及び別表3に記載の本件甲土地上に存する家屋番号○番○の○の建物(以下「本件甲建物」といい、本件甲土地と併せて「本件甲不動産」という。)を総額XXX,XXX,XXX円で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件甲不動産を取得した。
    • (ハ) 本件被相続人は、平成21年1月30日付で、R銀行との間で金銭消費貸借契約を締結し、XXX,XXX,XXX円を借り受けた。
       なお、当該金銭消費貸借契約において、Q社、N、請求人G及びPが保証人となっている。
    • (ニ) 本件被相続人は、平成21年10月16日、本件甲不動産を含む多くの財産を請求人Kに相続させる旨の公正証書遺言をした。
    • (ホ) 本件被相続人は、平成21年12月18日付で、請求人Jとの間で金銭消費貸借契約を締結し、XX,XXX,XXX円を借り受けた。
    • (ヘ) 本件被相続人は、平成21年12月21日付で、Nとの間で金銭消費貸借契約を締結し、XX,XXX,XXX円を借り受けた。
    • (ト) 本件被相続人は、平成21年12月25日付で、売主である法人との間で、別表4に記載のg市h町○-○の土地及び当該土地上に存する建物(以下、当該土地及び建物を併せて「本件乙不動産」といい、本件甲不動産と併せて「本件各不動産」という。)を総額XXX,XXX,XXX円で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件乙不動産を取得した。
    • (チ) 本件被相続人は、平成21年12月25日付で、R銀行との間で金銭消費貸借契約を締結し、XXX,XXX,XXX円を借り受けた。
       なお、当該金銭消費貸借契約において、Q社、N、請求人G及びPが保証人となっている。
    • (リ) 平成24年10月17日、共同相続人の間で、上記(ニ)の公正証書遺言に係る本件被相続人の財産の一部について、遺産分割協議が成立し、請求人らは、当該公正証書遺言及び当該遺産分割協議に基づき、本件相続に係る相続財産を取得した。
       なお、請求人Kは、当該公正証書遺言に基づき、本件各不動産を取得するとともに、本件被相続人の債務の全部を承継した。当該承継債務XXX,XXX,XXX円のうち、本件相続開始日における本件各不動産の取得の際に締結した金銭消費貸借契約に基づく借入金債務の額は、R銀行からのXXX,XXX,XXX円及びNからのXX,XXX,XXX円である(以下、これらの借入金債務の合計額XXX,XXX,XXX円を「本件借入金債務合計額」という。)。
    • (ヌ) 請求人Kは、平成25年3月7日付で、買主である個人との間で、本件乙不動産を総額XXX,XXX,XXX円で売り渡す旨の不動産売買契約を締結し、本件乙不動産を譲渡した。
  • ハ 本件各不動産の価額等
    • (イ) 請求人らは、本件申告において、評価通達の定めに従い、別表5の「請求人ら主張額」欄のとおり、本件甲土地の価額はXXX,XXX,XXX円(小規模宅地等特例を適用する前の価額。以下「本件甲土地通達評価額」という。)、本件甲建物の価額はXX,XXX,XXX円、これらを合計した本件甲不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件甲不動産通達評価額」という。)、また、本件乙不動産の土地に係る価額はXX,XXX,XXX円、建物に係る価額はXX,XXX,XXX円、これらを合計した本件乙不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件乙不動産通達評価額」といい、本件甲不動産通達評価額と併せて「本件各通達評価額」という。)と評価した。
       なお、本件申告における本件各不動産を除く取得財産の価額は、XXX,XXX,XXX円である(別表1の「申告」の「各人の合計」欄参照)。
    • (ロ) S社が平成27年4月22日付で作成した不動産鑑定評価書(以下「本件甲不動産鑑定評価書」という。)では、本件甲土地の価額はXXX,XXX,XXX円、本件甲建物の価額はXXX,XXX,XXX円、これらを合計した本件甲不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件甲不動産鑑定評価額」という。)とされている。
       なお、本件甲不動産鑑定評価書の要旨は、別紙3のとおりである。
    • (ハ) T社が平成27年4月22日付で作成した不動産鑑定評価書(以下「本件乙不動産鑑定評価書」という。)では、本件乙不動産の価額はXXX,XXX,XXX円(以下「本件乙不動産鑑定評価額」といい、本件甲不動産鑑定評価額と併せて「本件各鑑定評価額」という。)とされている。
       なお、本件乙不動産鑑定評価書の要旨は、別紙4のとおりである。
    • (ニ) 原処分庁は、本件各更正処分において、国税庁長官の指示を受けて別表5の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各不動産を評価した(以下、原処分庁が評価した小規模宅地等特例を適用する前の本件各不動産の価額を「本件各原処分庁評価額」という。)。
       なお、本件各原処分庁評価額は、本件各鑑定評価額と同額である。
    • (ホ) 本件甲土地は、小規模宅地等特例の適用があり、本件甲土地通達評価額に適用した後の価額はXX,XXX,XXX円、本件甲土地に係る原処分庁評価額に適用した後の価額はXXX,XXX,XXX円である。
    • (へ) 本件相続に係る相続財産のうち、請求人らと原処分庁との間で評価方法及びその価額に争いがある相続財産は、本件各不動産であり、請求人ら及び原処分庁が主張する本件相続開始日における価額は、それぞれ別表5の「請求人ら主張額」欄及び「原処分庁主張額」欄のとおりである。

トップに戻る

2 争点

  1. 争点1 本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。
  2. 争点2 本件付記理由に、本件各更正処分等を取り消すべき記載不備があるか否か。

トップに戻る

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。)について

  • イ 原処分庁
     本件各不動産については、次のとおり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある。
    • (イ) 評価通達6は、評価通達に定める評価方法を画一的に適用した場合には、適正な時価が求められず、その評価額が時価、すなわち、客観的な交換価値からかけ離れて不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合も生じることが考えられることから、そのような場合には、客観的な交換価値を個別に評価し、適正な時価評価を行うことができるようにする趣旨で定められたものであり、その射程には、通達評価額が時価を上回る場合だけでなく、下回る場合も含まれる。
    • (ロ) 本件において、本件甲不動産通達評価額は、本件甲不動産の取得価額及び本件甲不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離がある。
       また、本件乙不動産通達評価額は、本件乙不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件乙不動産鑑定評価額の30%にも満たない僅少なもので、著しい価額の乖離がある。
    • (ハ) そして、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、本件申告における本件各不動産を除く取得財産の価額は約○億円であるところ、本件被相続人及び請求人らによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為により、本件被相続人の本件相続開始日における財産の価額を減少させ、併せて、債務を増加させたものであり、その結果として、相続税額が全く算出されておらず、このことは、ほかに多額の財産を保有せず同様の方法を採った場合にも結果としてほかの相続財産の課税価格の大幅な圧縮による相続税の負担の軽減という効果を享受する余地のない納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の機能に反する著しく不相当な結果をもたらしている。
    • (ニ) 本件各鑑定評価額は、いずれも不動産鑑定評価基準に準拠しており、収益還元法における純収益や各種利回りの査定も価格時点における不動産市況を反映した客観的で信頼性の高いものであるため、本件各不動産の本件相続開始日における時価を合理的に算定しているものと認められる。
       なお、本件各鑑定評価額に係る最終還元利回りは、類似の取引事例に係る取引利回り等を参考に、立地、建物のグレード、築年数、市場の需給動向、分析期間以降の収支予測に係るリスクの程度及び純収益の変動の可能性等を総合的に考慮して査定しており、将来の不確実性等も踏まえた信頼性の高いものである。
    • (ホ) 以上のとおり、本件各不動産の評価に当たり、評価通達に定める評価方法を形式的に適用することによって、実質的な租税負担の公平が著しく害されることとなることは明らかであるから、本件各不動産には評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情がある。
       したがって、本件各不動産は、評価通達6の定めにより、国税庁長官の指示に基づき評価することとなり、当該指示に基づき評価した価額である本件各鑑定評価額は、相続税法第22条に規定する時価を適正に反映している。
    • (ヘ) 税務官庁は、評価通達を定めた上で、評価通達1の(2)は、財産の価額は評価通達の定めによって評価した価額による旨、また、評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨をそれぞれ定め、これらの評価通達を公的見解として明示している。
       したがって、本件各不動産の評価に当たって、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるとして、評価通達6の定めに基づき本件各更正処分等を行うことは、信義則に反するものとは認められない。
  • ロ 請求人ら
     本件各不動産については、次のとおり、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情はない。
    • (イ) 評価通達6は、路線価の決定において考慮されていなかった地盤沈下や近隣の廃棄物処理施設等の建設予定等、潜在的な価額低下要因が路線価決定後に明らかにされた場合には、路線価が時価と大きく乖離して過大となることから、想定外の時価下落事情が事後的に生じた場合の救済措置として創設されたものである。
       そして、評価通達による評価が「著しく不適当な場合」とは、評価通達に定める評価方法によることが否定されるべき特別の事情がある場合を意味し、この特別の事情は、評価通達6の制定趣旨を踏まえて判断されるべきであるから、通達評価額と時価評価額との乖離が著しいというだけでは足りず、客観的な評価減の根拠事実が発生し、時価が激変したことを具体的かつ客観的に立証できる場合を意味する。
    • (ロ) 本件各更正処分は、本件各不動産を借入金で取得し、本件各通達評価額を上回る債務をほかの相続財産から控除して、相続税の過度な節税対策又は租税回避をしたものとみなし、評価通達6を適用したことがうかがわれるが、評価通達6の要件とされる特別の事情には、節税や租税回避の意図といった主観的要素は該当しないから、節税や租税回避を阻止するための根拠として評価通達6を適用することは、その制定趣旨に反した運用で、課税庁の恣意的な課税となり、租税法律主義に反する。
    • (ハ) なお、本件被相続人が本件各不動産を取得したのは、a市に所有していた賃貸物件が建物の経年により投資運用効率が悪化したため、及び不動産事業の承継予定者である請求人Kが将来在住予定の首都圏に賃貸物件の拠点を移すためであり、取得の経緯には投資の側面と生活設計の側面の双方における合理的な理由があり、本件各不動産の取得に係る一連の行為は、相続税を不当に減少させる行為ではなく、相続税の節税や租税回避を目的としたものではない。
    • (ニ) 課税庁は、納税者が通達評価額を下回る価額で申告した場合には、評価通達に定める評価方法によらないことを理由に、通達評価額により課税処分を行うが、この点に課税庁による評価通達の使い分けの問題がある。本件各更正処分が許容されるのであれば、課税庁による恣意的課税を許すことになり、租税法律主義に反する。
    • (ホ) 通達評価額と不動産鑑定士等によるほかの評価方法による評価額との間の乖離が著しいと思われる場合はまれではなく、その場合の全てに評価通達6が適用されているものではないこと、さらに、原処分庁は、本件各不動産の近隣不動産の評価においても、評価通達6が適用された事例を示して、本件各更正処分の合理性を立証すべきであるが、これについて明らかにしていないことから、本件各不動産の評価に当たり、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額の乖離が認められるとして評価通達に定める評価方法を採用しないことは、租税公平主義に反する。
    • (ヘ) 鑑定評価に用いられた最終還元利回りは飽くまで見積もられたものであり、評価主体の恣意により大きく変動するため、収益還元法による時価評価は唯一適正な時価とはいえない。したがって、評価通達により統一的に評価するべきであり、例外的な評価は、客観的な地価急落要因等が存在する場合にのみ用いられるべきである。
       また、相続税法の時価は、相続という、取引によらない偶発的な原因により生じる相続税額算定のための時価であるから、控えめな評価額とされているのであり、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額を前提とする収益還元法に基づく評価によるべきではない。
    • (ト) 評価通達とは別の評価方法によって評価して本件各更正処分をしたことは、国税庁長官が発した評価通達に従って財産評価を行い、本件申告をした請求人ら納税者の信頼を裏切るものであり、法の一般原則たる信頼保護法理に違背し、違法である。

(2) 争点2(本件付記理由に、本件各更正処分等を取り消すべき記載不備があるか否か。)について

  • イ 原処分庁
     行政手続法第14条の規定は、行政庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあるという趣旨によるものであることから、不利益処分の理由が当該趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する処分理由の提示として欠けることはない。
     そして、本件付記理由の記載内容は、相続税法第22条の規定及びその解釈並びに評価通達6の定めを踏まえ、処分の基となる各事実、その法的評価及び当該法的評価に基づき評価通達6の定めを適用した旨の記載がされ、本件各更正処分等の理由を具体的に明示しており、理由付記が求められている趣旨を十分に担保するものであるから、本件付記理由に記載不備は認められない。
  • ロ 請求人ら
     本件各更正処分等の通知書には、本件付記理由として、本件各不動産に係る一連の取引が特別の事情に該当する理由が記載されていなければならないにもかかわらず、本件付記理由には、本件各鑑定評価額が時価であるとして、本件申告における本件各通達評価額との開差が3倍ないし4倍であることが記載されているにとどまり、評価通達6の適用要件を充足することの具体的な理由が記載されていないから、処分理由の付記に不備があり、その不備は、本件各更正処分等の違法事由に該当する。

トップに戻る

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各不動産について、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
     相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
     しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
     そうすると、特に租税平等主義という観点からして、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的に全ての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通達に定める方法以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法第22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないものというべきである。
     しかし、他方、評価通達に定められた評価方法によるべきであるとする趣旨が上記のようなものであることからすれば、評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは、評価通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
     すなわち、相続財産の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価通達に定める評価方法によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、ほかの合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件被相続人が本件各不動産を取得した時期は、本件被相続人が○歳となり、Q社の事業承継についてR銀行に対し相談し、その事業承継のための方策の一環として請求人Kと養子縁組した時期に近接した時期である。
    • (ロ) 本件被相続人は、R銀行から○○診断結果の報告を受けた際、借入金により不動産を取得した場合の相続税の試算及び相続財産の圧縮効果についての説明を受けていた。
    • (ハ) 本件被相続人が、上記1の(4)のロの(ハ)及び(チ)の金員の借入れを申し込んだ際に、R銀行の担当者は、それぞれ「貸出稟議書」と題する書面を作成したところ、当該各書面には「採上理由」として相続対策のため不動産購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった旨及び相続対策のため本年1月に不動産購入、前回と同じく相続税対策を目的として収益物件の購入を計画、購入資金につき借入れの依頼があった旨の記載があり、本件被相続人は、上記の金員の借入れを申し込むに際し、R銀行との間で、金員の借入れの目的が、相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあるとの認識を共有していた。
    • (ニ) R銀行は、上記1の(4)のロの(ハ)及び(チ)の貸付けにおいて、本件各不動産にそれぞれ抵当権を設定するとともに、Q社が所有する不動産についても抵当権を設定した。
    • (ホ) 本件甲不動産通達評価額は、本件甲不動産の取得価額及び本件甲不動産鑑定評価額のそれぞれ約23.9%、約26.5%の価額であり、また、それぞれの価額との差はXXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円である。
       また、本件乙不動産通達評価額は、本件乙不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件乙不動産鑑定評価額のそれぞれ約24.3%、約26.0%、約25.8%の価額であり、また、それぞれの価額との差はXXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円、XXX,XXX,XXX円である。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件各鑑定評価額は、いずれも資格を有する不動産鑑定士により不動産鑑定評価基準に準拠した方法により算出されており、いずれも原価法による積算価格と収益還元法(DCF法及び直接還元法)による収益価格をそれぞれ試算した上で、両者を比較検討し、最終的には収益還元法による収益価格を重視して鑑定評価を行ったものであると認められるところ、収益還元法の適用の基礎となる純収益に係る数値、DCF法において適用する割引率及び最終還元利回り並びに直接還元法において適用する還元利回りの査定は、本件相続開始日における本件各不動産の実情及び不動産市況を反映したものと認められる。
       したがって、本件各鑑定評価額は、本件各不動産の本件相続開始日における時価を合理的に算定しているものと認められる。
    • (ロ) 本件被相続人は、本件相続開始日において、本件各不動産以外の積極財産として、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、総額XXX,XXX,XXX円の財産を有しており、ここから本件借入金債務合計額を除いた本件被相続人の債務の額XX,XXX,XXX円及び葬式費用の額X,XXX,XXX円を控除するとXXX,XXX,XXX円となり、通常、相続税が発生する。
    • (ハ) しかし、本件申告では、本件各不動産について、上記ロの(ホ)のとおり、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には著しい乖離があり、小規模宅地等特例を適用した後の価額で比較すると、別表5の「差引金額」欄のとおり、合計XXX,XXX,XXX円の開差があるところ、上記1の(4)のハの(イ)及び(ホ)に基づきXXX,XXX,XXX円を課税価格に算入し、同ロの(リ)の本件借入金債務合計額を控除したので、本件借入金債務合計額は、その全額を当該課税価格に算入した額から控除できず、その差額XXX,XXX,XXX円がほかの積極財産の価額から控除されることとなり、結果として、課税価格に算入すべき金額の大半が圧縮され、請求人らは相続税の負担を免れることになる。
       このように、本件被相続人及び請求人らなどによる本件各不動産の取得から借入れまでの一連の行為は、本件被相続人が本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間に著しい乖離のある本件各不動産を、借入金により取得し、本件申告において評価通達に定める評価方法により評価することにより、本件借入金債務合計額が本件各不動産はもとよりほかの積極財産の価額からも控除され、請求人らが本来負担すべき相続税を免れるという結果をもたらすこととなる。
    • (ニ) そして、上記1の(4)のロの(イ)及び上記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件被相続人は、1○歳となり、Q社の事業承継に伴う遺産分割や相続税の負担を懸念し、R銀行に対し○○診断を申し込んだこと、2R銀行から、借入金により不動産を取得した場合の相続税の試算及び相続財産の圧縮効果についての説明を受けていたこと、3本件各不動産の購入資金の借入れの目的が、相続税の負担の軽減を目的とした不動産購入の資金調達にあると認識していたこと、及び4Q社の事業承継のための方策の一環として請求人Kと養子縁組した時期と近接した時期に、本件各不動産を取得していることを総合すれば、本件被相続人の本件各不動産の取得の主たる目的は相続税の負担を免れることにあり、本件被相続人は、本件各不動産の取得により本来請求人らが負担すべき相続税を免れることを認識した上で、本件各不動産を取得したとみることが自然である。
    • (ホ) また、本件被相続人が不動産を取得することで、請求人らが、上記(ハ)のような相続税の負担を免れるという利益を享受し得るためには、不動産の購入資金の大半を借入金により賄うことで借入金債務を負担するとともに、その借入金債務が、購入する不動産以外の積極財産に係る課税価格を圧縮できる程度に多額のものでなければならない。実際、本件被相続人が、本件各不動産の購入資金の大半をR銀行からの借入金により賄ったところ、その借入金の総額は、本件各通達評価額を上回り、課税価格を圧縮する多額のものであった。そして、本件被相続人が、R銀行から多額の借入れをすることができたのは、本件被相続人の一族及びQ社が保証人となり、かつ、本件各不動産に加え、上記ロの(ニ)のとおり、Q社が所有する不動産に抵当権を設定することができたためであると認められる。
    • (ヘ) このように、本件各不動産について、本件各通達評価額を課税価格に算入すべきものとすると、請求人らが、本件各不動産を取得しなかったならば負担していたはずの相続税を免れる利益を享受するという結果を招来する。これは、本件被相続人が、上記(ホ)のとおり、相続税の負担の軽減策を採ったことによるものであり、このような事態は、同様の軽減策を採らなかったほかの納税者との間の租税負担の公平はもちろん、被相続人が多額の財産を保有していないため、同様の軽減策によって相続税負担の軽減という効果を享受する余地のないほかの納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害し、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反する著しく不公平なものであるといえる。
    • (ト) したがって、本件各不動産については、評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであることから、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情があると認められ、本件各不動産の価額は、上記(イ)のとおり、ほかの合理的な時価の評価方法である不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当である。
  • ニ 請求人らの主張について
    • (イ) 請求人らは、評価通達に定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情は、路線価の決定の際に考慮されていなかった潜在的な土地の価額低下要因が路線価の決定後に明らかにされた場合、すなわち路線価に反映されない客観的な時価の変動要因である地盤沈下や近隣の廃棄物処理施設等の建設予定等の客観的な評価減の根拠事実が発生し、その結果として時価が激変したことが具体的かつ客観的に立証された場合に限られる旨主張する。
       しかしながら、特別の事情は、上記イのとおり、「評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合」に認められるものと解され、土地の価額が低下した場合に限られるものではない。
       したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
    • (ロ) 請求人らは、本件被相続人に節税や租税回避の目的があったような事情をもって特別の事情があると判断することは許されず、このような判断が許されるとするならば、課税庁による恣意的な課税が可能になり、租税法律主義に反する旨主張する。
       しかしながら、特別の事情が認められるのは上記イのとおりであり、これに基づき上記ハのとおり判断したところ、その際に、本件被相続人に相続税の負担の軽減という目的があったことを特別の事情の有無を判断する上で考慮することは許されるものであり、このように解したとしても、特別の事情がない限り、課税庁としては、評価通達に定める評価方法以外の方法による評価を採用することが許されないのであるから、租税法律主義に反することにはならないというべきである。
       したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
    • (ハ) 請求人らは、本件被相続人の本件各不動産の取得には、節税や租税回避以外の合理的な目的が存在していた旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ニ)のとおり、本件被相続人が本件各不動産を取得した主たる目的は相続税の負担を免れることにあったことが十分に認められる。そして、本件被相続人の本件各不動産の取得は、それ自体としてみた場合、本件被相続人が相続税の負担の軽減以外の合理的な目的をも有した上で本件各不動産を取得したことを否定するに足る証拠はないが、相続税の負担を免れる目的以外にほかの合理的な目的が併存していたとしても、上記ハの(ト)のとおり、本件各不動産について評価通達に定める評価方法を適用すれば相続税の目的に反し、実質的な租税負担の公平を著しく害することに変わりはなく、相続税の負担の軽減以外の合理的な目的によって、本件各不動産について評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情の存在が肯定されなくなるものとすべき根拠は乏しいというべきである。
       したがって、本件被相続人の本件各不動産の取得に相続税の負担の軽減以外の合理的な目的が併存していたことは、上記ハの判断を左右する事情とはいえない。
    • (ニ) 請求人らは、納税者が通達評価額を下回る価額を課税価格に算入して申告をした場合には、課税庁が評価通達に定める評価方法によらないことを理由に通達評価額により課税処分を行うことから、この点に課税庁による評価通達の使い分けの問題があり、本件各更正処分が許容されるならば、課税庁による恣意的課税を許すことになる旨主張する。
       しかしながら、課税庁が、通達評価額を上回る評価額を採用する場合には、上記イのとおり、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情のあることが要求される。他方で、課税庁が通達評価額を採用する場合にも、課税処分が常に適法になるわけではなく、通達評価額が、対象財産の客観的な交換価値を上回るものではないことが要求されると解すべきである。
       したがって、課税庁が、評価通達に定める評価方法による評価額を採用するか否かについては、相続税法第22条及び租税平等原則の両面からの規制を受け、これを恣意的に決定することはできないというべきであり、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
    • (ホ) 請求人らは、通達評価額と不動産鑑定士等によるほかの評価方法による評価額との間の乖離が著しいことはまれではなく、その場合の全てに評価通達に定める評価方法以外の評価方法が採用されているわけではなく、特に本件各不動産の近隣不動産の評価においても、評価通達に定める評価方法以外の方法による評価額に基づく課税処分が行われているかどうか明らかではないから、本件各不動産について特別の事情があるとして評価通達に定める評価方法を採用しないことは、租税公平主義に反する旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(ト)のとおり、本件各不動産について特別の事情があると認められる以上、仮に同様の事案において、評価通達に定める評価方法以外の方法による評価額に基づく課税処分が行われなかった事例があったとしても、課税庁が、殊更恣意的に本件についてのみ異なる取扱いをしたというような特段の事情がない限り、これをもって直ちに租税公平主義に反するものとはいえず、本件各不動産について評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情の存在を否定すべきであるとはいえない。また、そのような特段の事情があることをうかがわせる証拠もない。
       したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
    • (ヘ) 請求人らは、本件各鑑定評価額は、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価額を前提とするのに対し、相続税法第22条にいう時価は、それとは異なり、控えめな評価額を採用している路線価に基づく価額をいうから、本件各鑑定評価額をもって同条にいう時価ということはできない旨主張する。
       しかしながら、上記イのとおり、相続税法第22条にいう時価は、客観的な交換価値、すなわち財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額にほかならないと解されるから、本件各鑑定評価額をもって同条にいう時価であると認めることに支障はないというべきである。
       したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
    • (ト) 請求人らは、評価通達に定める評価方法とは別の方法による評価額に基づき更正処分をすることは、納税者の信頼を裏切るものであり、信頼保護の原則に反する旨主張する。
       しかしながら、評価通達6が「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めているとおり、評価通達自体、評価通達に定める評価方法による評価がいかなる場合にも適用されるものではないことを明示しているのであるから、その主張の前提を欠くものというべきである。
       したがって、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。

(2) 争点2(本件付記理由に、本件各更正処分等を取り消すべき記載不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
     そして、行政手続法第14条第1項本文に基づいてどの程度の理由を付記すべきかは、上記の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきであるが、行政庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する理由の付記として欠けているところはないと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     本件付記理由については、別紙2のとおり、原処分庁が、相続財産の評価に係る法令解釈等を踏まえ、本件各通達評価額と本件各不動産の取得価額及び譲渡価額並びに本件各鑑定評価額との間には、著しい価額の乖離があり、本件各不動産の価額を評価通達の定めにより評価することは、著しく不適当であると認定した上で、国税庁長官の指示に基づいて本件各不動産の価額の評価を行い、本件各更正処分等をした旨記載されている。
     そうすると、本件付記理由には、本件各不動産について、国税庁長官の指示を受けて評価を行うことの理由及び評価額が記載されており、本件付記理由は、上記イの理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されていると認められるから、更正理由の付記として欠けるところはないというべきである。
  • ハ 請求人らの主張について
     請求人らは、本件付記理由は、本件各鑑定評価額が時価であるとして、本件各通達評価額との開差が3倍ないし4倍であることが記載されているにとどまり、評価通達6の要件を充足する具体的な理由が記載されていないから、処分理由の付記に不備がある旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、本件付記理由には、本件各不動産について、国税庁長官の指示を受けて評価を行う理由が具体的に記載されているから、本件の事案の内容等に鑑みれば、本件付記理由程度の記載であっても、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足するに足るものというべきである。
     したがって、本件付記理由に記載不備はなく、請求人らの主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

以上のとおり、本件各不動産は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められ、相続税の課税価格に算入すべき価額は、本件各原処分庁評価額に小規模宅地等特例を適用した後のものとなる。これに基づき算出した請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は、別表1の「更正処分等」欄のとおりとなり、当審判所においても、本件相続税の請求人らの納付すべき税額は、本件各更正処分における請求人らの納付すべき税額と同額であると認められる。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件相続税の過少申告加算税の額は、別表1のとおり、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。

トップに戻る