(平成29年6月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成26年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に太陽光発電事業を開始したとして、本件課税期間中に消費税課税事業者選択届出書を提出し、本件課税期間に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付申告をしたところ、原処分庁が、本件課税期間の前年になされた太陽光発電所の建設工事に係る工事請負契約の締結は当該事業に必要な準備行為に当たり、その締結日の属する課税期間が課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間であるため、消費税法上、請求人は、本件課税期間について消費税等を納める義務を免除された者となるから、還付申告をすることができないとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法に別段の定めがある場合を除き、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
     なお、以下、消費税法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を「免税事業者」といい、免税事業者を除く事業者を「課税事業者」という。
  • ロ 消費税法第9条第4項は、免税事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、同条第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間中に国内において行う課税資産の譲渡等については、同項本文の規定は、適用しない旨規定している。
  • ハ 消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》第1号は、消費税法第9条第4項に規定する政令で定める課税期間は、事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間とする旨規定している。
  • ニ 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成28年法律第59号による改正前のもの。以下「再生エネルギー措置法」という。)第6条《再生可能エネルギー発電設備を用いた発電の認定等》第1項は、再生可能エネルギー発電設備を用いて発電しようとする者は、経済産業省令で定めるところにより、同項各号のいずれにも適合していることにつき、経済産業大臣の認定を受けることができる旨規定し、同条第2項は、経済産業大臣は、同条第1項の認定の申請に係る発電が同項各号のいずれにも適合していると認めるときは、同項の認定をする旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 太陽光発電事業による電力供給に至るまでの経緯について
    • (イ) 請求人は、再生エネルギー措置法に基づく太陽光発電事業を行うため、平成25年9月30日に、注文者を請求人、請負者をH社とする、要旨次の内容の太陽光発電所建設工事の施工に係る工事請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
       なお、以下、本件契約に基づいて建設することとした太陽光発電所に係る発電設備を「本件発電設備」という。
      • A 本件発電設備は、太陽電池モジュール○○枚、パワーコンディショナーの出力を○○キロワットなどとする。
      • B 工事場所は、a市b町○-○、○-○、○-○(以下、これらを併せて「本件各土地」という。)ほかとする。
      • C 工期は、着工時期が平成25年9月30日、完成が平成26年5月30日とする。
      • D 請負代金の総額は、○○○○円(内消費税等○○○○円)とする。
      • E 請負代金は、契約金として平成25年10月31日に○○○○円、着手金として農地転用後着工時に○○○○円、竣工・電力連系後に残金○○○○円を支払う。
    • (ロ) 請求人は、H社に対し、平成25年10月30日に本件契約に基づく契約金○○○○円を支払った。
    • (ハ) 請求人は、本件発電設備について、J電力の電力系統への連系の可否を照会するため、J電力に対し、平成25年11月12日付で○○を提出した。
    • (ニ) 請求人は、本件発電設備について、再生エネルギー措置法第6条第1項の規定による再生可能エネルギー発電設備の認定を受けるため、経済産業大臣に対し、平成25年11月14日付で、H社が本件契約に基づき作成した設置図等を添付した「再生可能エネルギー発電設備認定申請書」を提出した。
    • (ホ) 請求人は、上記(ニ)の申請について、経済産業大臣から、平成25年11月○日付の「再生可能エネルギー発電設備の認定について(通知)」と題する書面により、本件発電設備(発電出力は○○キロワット)を再生可能エネルギー発電設備とする認定を受けた。
    • (ヘ) 請求人は、本件発電設備を建設するため、a市長に対し、平成25年12月16日付で、本件各土地ほか2筆の各土地を農業振興地域の整備に関する法律の規定による農用地区域から除外する旨の「農用地利用計画変更申出書」を提出した。
    • (ト) 請求人は、上記(ハ)の照会について、J電力から、平成26年1月9日付の○○と題する書面により、申込時の設備仕様等を変更しないことなどを条件として、本件発電設備は電力系統に連系可能である旨の回答を受けた。
    • (チ) 請求人は、本件発電設備について、J電力の電力系統への接続契約の申込みのため、J電力に対し、平成26年2月24日付で○○と題する書面を提出した。
    • (リ) 請求人は、農地法第4条《農地の転用の制限》第1項の規定に基づき、本件各土地ほか3筆の各土地を本件発電設備の用地に利用するために、a市農業委員会会長に対し、平成26年3月20日付で、農地の転用をする旨の「農地法第4条第1項の規定による許可申請書」を提出した。
    • (ヌ) 請求人は、上記(リ)の申請について、a市農業委員会会長から、平成26年4月○日付の「農地法第4条第1項の規定による許可書」により、農地の転用の許可を受けた。
    • (ル) 請求人は、K銀行から平成26年5月30日に融資を受け、同日、本件契約に基づく着手金○○○○円をH社に支払った。
    • (ヲ) 請求人は、上記(チ)の申込みについて、J電力から、平成26年6月16日付の○○と題する書面により、承認を受けた。
    • (ワ) 請求人は、H社から平成26年7月に本件発電設備の引渡しを受けた。そして、請求人は、平成26年7月○日にJ電力との間で、同日を受給開始日として、本件発電設備において発生する電力を請求人が供給し、J電力がこれを受給する旨を定めた再生エネルギー措置法に基づく電力受給契約を締結した。
    • (カ) 請求人は、K銀行から平成26年8月28日に融資を受け、同日、本件契約に基づく残金○○○○円をH社に支払った。
  • ロ 消費税課税事業者選択届出書等の提出状況について
    • (イ) 請求人は、原処分庁に対し、平成26年8月7日に、所得税法第229条《開業等の届出》の規定に基づき、開業日を同年7月26日と記載した「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出した。
    • (ロ) 請求人は、原処分庁に対し、平成26年12月22日に、消費税法第9条第4項の規定に基づき、本件課税期間以後の課税期間について納税義務の免除の規定の適用を受けない旨を記載した「消費税課税事業者選択届出書」を提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年3月14日に、本件課税期間の消費税等の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して申告した。
  • ロ 原処分庁は、平成28年3月29日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成28年5月20日に別表の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月17日付で、別表の「異議決定」欄のとおり棄却の異議決定をした。
  • ニ 請求人は、平成28年9月14日に、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、審査請求をした。

トップに戻る

2 争点

本件課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当するか否か。

トップに戻る

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
消費税法施行令第20条第1号は、「課税資産の譲渡等に係る事業」と規定しているのであるから、「課税資産の譲渡等」がない場合であっても、「課税資産の譲渡等に係る事業」を遂行するために必要な準備行為(資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など、課税資産の譲渡等に係る事業の前提となる行為)を行った場合には、同号所定の「課税資産の譲渡等に係る事業」を行ったことになることは、文理上明らかである。
 そして、本件契約は、太陽光発電事業を行うために欠くことのできない資産である本件発電設備を建設するための契約であり、事業の根幹となる契約と認められる。
 また、請求人は、平成25年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」という。)中に本件契約の契約金を支払い、経済産業大臣の設備認定を受け、設備建設のための融資交渉や本件発電設備の敷地に係る「農用地利用計画変更申出書」をa市長に対し提出しており、これらの準備行為を行った上で電力受給契約を締結している。
 したがって、請求人は、本件契約を締結した平成25年9月30日には事業を遂行するために必要な準備行為を行ったと認められるので、課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間は、平成25年課税期間となり、本件課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当しない。
事業を開始した日については、消費税法、消費税法施行令及び消費税法基本通達にも明確な規定がない。租税法律主義の下では課税要件等について納税者がその内容を容易に理解できるよう、法においては明確に定められていなければならず、明確に定められていないものについては、納税者の意思の尊重及び経済活動の実態に即した一般的な社会通念に基づいて判断されるべきである。
 この点、原処分庁は、本件契約を締結したことが太陽光発電事業を遂行するために必要な準備行為であると結論づけているが、平成25年9月30日に本件契約を締結したのは、平成26年4月の消費税率改正に伴う経過措置適用のために、前倒しで締結したものであり、本件契約の締結は、実態として準備行為と言えるものではない。
 また、平成25年11月12日付のJ電力に対する○○の提出及び平成25年11月14日付の経済産業大臣に対する「再生可能エネルギー発電設備認定申請書」の提出は、太陽光発電事業が可能かどうかを調査等するためのものであり、請求人には、「事業を開始した」という認識は全くない。
 したがって、事業を開始した日の属する課税期間は、請求人が事業を開始したと認識し、経済活動等の実態に即した、個人事業の開業届出書の開業日(平成26年7月26日)の属する課税期間となるから、本件課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当する。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈

消費税法第9条第4項は、原則として、免税事業者となる者であっても、消費税課税事業者選択届出書を提出した場合には、その日の属する課税期間の翌課税期間から課税事業者となるものとしつつ、消費税課税事業者選択届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間の開始前に、同課税期間中の課税売上げ及び課税仕入れの発生等を予測し、当該課税期間において課税事業者となるかどうかの判断をして消費税課税事業者選択届出書を提出することが、必ずしも容易でないことに配慮し、例外として、新たに事業を開始した事業者に対して、当該事業を開始した日の属する課税期間から課税事業者となることを選択する機会を与えたものと解される。
 そして、消費税法第9条第4項を受けて規定された消費税法施行令第20条第1号は「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」と規定し「課税資産の譲渡等を開始した日」と規定していないこと、新たに事業を行うに当たっては当該事業を行うために必要な資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入などの準備行為を行うのが通常であること、これらに上記の消費税法第9条第4項の趣旨を併せ考えると、新たに事業を行うに当たり必要な準備行為を行った日の属する課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当すると解するのが相当である。

(2) 当てはめ

請求人は、平成25年課税期間において、上記1の(3)のイの(イ)ないし(ヘ)のとおり、本件発電設備を建設する本件契約を締結して契約金を支払った後、J電力の電力系統へ連系することの可否照会、再生可能エネルギー発電設備の認定申請、建設用地を農用地区域から除外するための申請手続を順次行っており、これらの各行為は、いずれも請求人が再生エネルギー措置法に基づく太陽光発電事業を行うために必要な準備行為であると認められる。
 そうすると、上記(1)のとおり、新たに事業を行うに当たり必要な準備行為を行った日の属する課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当するのであるから、本件においては、本件契約を締結した日を含む平成25年課税期間が課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間と認められる。
 したがって、本件課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」には該当しない。そうすると、請求人が提出した消費税課税事業者選択届出書に係る課税事業者選択の効力は、本件課税期間の翌課税期間から生じることとなり、本件課税期間について請求人は、免税事業者となる。

(3) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、事業を開始した日について、消費税法、消費税法施行令及び消費税法基本通達にも明確な規定がなく、租税法律主義の下では課税要件等について納税者がその内容を容易に理解できるよう、法においては明確に定められていなければならず、明確に定められていないものについては、納税者の意思の尊重及び経済活動の実態に即した一般的な社会通念に基づいて判断すべきである旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のとおり、新たに事業を行うに当たり必要な準備行為を行った日の属する課税期間は消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」に該当すると解するのが相当であり、そして、事業を行うために必要な準備行為に該当するか否かは、納税者の主観に左右されるものではなく、客観的な事実に基づき判断すべきところ、上記(2)のとおり、平成25年課税期間に事業に必要な準備行為が開始されていることから、請求人の主張には理由がない。
  • ロ 請求人は、平成25年9月30日に本件契約を締結したのは、平成26年4月の消費税率改正に伴う経過措置適用のために、前倒しで締結したものであり、本件契約の締結は、実態として準備行為と言えるものではなく、また、平成25年課税期間に行ったJ電力及び経済産業大臣への申請書等の提出については、太陽光発電事業が可能かどうかを調査等するためのものであり、事業を開始した認識はない旨主張する。
     しかしながら、上記(2)のとおり、これらの行為を含む平成25年課税期間に行った請求人の各行為は、いずれも請求人が太陽光発電事業を行うために必要な準備行為であると認められ、本件契約を契機として上記各行為が行われていることからすれば、本件契約は、単に契約の締結だけを前倒ししたものではなく、準備行為としての実態を有すると評価できるものである。また、請求人は、準備行為としての実態を有する上記各行為を自ら行っているのであるから、事業を開始した認識がないというのは、請求人の法的評価が誤っているにすぎない。
     よって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件更正処分について
     上記(2)のとおり、本件課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」ではないから、請求人は、本件課税期間において免税事業者となるので、本件課税期間における消費税等について申告をすることはできず、よって消費税等の還付を受けることはできない。
     そして、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、請求人の本件課税期間における納付すべき消費税等の額(還付金の額に相当する税額)を○○○○円とする本件更正処分は、適法である。
  • ロ 本件賦課決定処分について
     上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎となっていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、本審査請求にはいずれも理由がないのでこれを棄却することとする。

トップに戻る