(平成29年9月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産から生じる不動産所得について、平成23年分から平成26年分までの所得税等の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該期限後申告書の提出は、国税通則法第66条《無申告加算税》(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
  • ロ 通則法第66条第5項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その申告に基づき納付すべき税額に係る同条第1項に規定する無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の配偶者であるS(以下「本件配偶者」という。)は、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、不動産の賃貸に基づく不動産所得があるとして法定申告期限までに申告した。
     なお、当該不動産所得の計算の基礎となった各不動産(以下「本件各不動産」という。)には、請求人及びT(本件配偶者の実姉であり、以下「本件姉」という。)名義の不動産が含まれていた。
  • ロ 請求人の実子であり、本件姉の養子でもあるQ(以下「本件実子」という。)は、平成27年3月17日、R税理士(以下「本件税理士」という。)を通じて、本件実子が本件配偶者に代わって本件配偶者の過去の一定期間に係る所得税の申告手続を行う旨記載した「嘆願書」と題する文書を原処分庁に提出した。
  • ハ 本件配偶者は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等について、いずれも本件各不動産の賃貸に基づく不動産所得があるとして法定申告期限後である平成27年7月15日に本件税理士の税務代理権限証書を添付して申告した。
  • ニ 本件配偶者及び本件姉は、平成22年分の所得税について、法定申告期限後である平成27年7月31日に本件税理士の税務代理権限証書を添付してそれぞれ申告した。
  • ホ 平成27年11月17日に実施された実地の調査に係る経緯等は、以下のとおりである。
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成27年10月26日、本件税理士に対し、電話により、本件配偶者の平成24年分の所得税並びに平成25年分及び平成26年分の所得税等について調査を実施する旨事前通知した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成27年11月17日に、本件実子及び本件税理士と面談し、本件配偶者の平成24年分の所得税並びに平成25年分及び平成26年分の所得税等に係る実地の調査を実施した(以下、平成27年11月17日の本件配偶者に対する実地の調査を「本件実地調査」という。)。
    • (ハ) 本件実子及び本件税理士は、本件実地調査において、本件調査担当職員に対し、本件各不動産の固定資産税の納付通知書などを提示した。
    • (ニ) 本件調査担当職員は、本件実地調査時に提示された上記(ハ)の書類を確認し、請求人及び本件姉名義の各不動産から生じる不動産所得を請求人及び本件姉が申告していないことを把握したが、本件実子及び本件税理士に対し、本件各不動産から生じる不動産所得について不動産の各名義人の不動産所得として申告すべきである旨の指摘を行わなかった(なお、平成28年1月18日以前に本件調査担当職員が当該指摘を行った事実がないことは、原処分庁も認めるところである。)。
  • ヘ 本件姉は、平成27年12月○日に死亡した。
  • ト 本件税理士が本件実地調査後に原処分庁に書類を提出した経緯は、以下のとおりである。
    • (イ) 本件税理士は、平成28年1月16日に、原処分庁に簡易書留で書類を送付し、原処分庁は当該書類を同月18日に収受した。また、本件税理士は、平成28年1月21日に、原処分庁に書類を送付し、原処分庁は当該書類を同月22日に収受した。
       なお、原処分庁が平成28年1月18日及び同月22日に収受したそれぞれの書類の内容物については、当事者間に争いがあるものの、内容物全体に争いはない。
    • (ロ) 以下の各書類は、いずれも本件税理士が原処分庁に提出し、原処分庁が収受した書類であるが、上記(イ)のとおり、原処分庁における収受日について当事者間に争いがある。
      • A 宛名を原処分庁、差出人を本件税理士とし、「所得税を物件の所有者ごとに申告をした場合の所得を計算し、概算で税額を計算し、本税の既納付額との差額も概算で算出しました。税務調査でいただいた指摘事項についても反映し、根拠資料も添付しております。」と記載された文書1枚(以下「本件文書1」という。)
      • B 宛名を原処分庁、差出人を本件税理士とし、「平成27年〔平成28年の誤記であることについて争いがない。〕1月19日にお電話にてご質問があったことについて、本件実子に確認をとりました。以下のとおりご回答申し上げます。」と記載され、要旨、次の応答が記載された文書1枚(以下「本件文書2」という。)
        • (A) (質問)不動産の所有は各人が購入当初から保有しているものか否か教えて欲しい。
           (回答)お渡しした登記簿の履歴のとおりです。
        • (B) (質問)本件配偶者と本件姉、請求人の間で賃貸借があるのではないか。本件配偶者がそれを顧客に又貸ししているのではないか。
           (回答)それに該当する契約書はありません。三者間の賃貸借は聞いたことがありません。本件姉は従前から本件配偶者とは別に不動産所得を申告していたことを考えても、世帯間で不動産を賃貸借していることはないと思います。
        • (C) (質問)請求人が平成24年に購入した土地代金はどこから来ているものか。
           (回答)請求人が不動産を保有しており、その賃料収入が購入原資となっています。
      • C 本件配偶者の平成22年分から平成26年分までの株式の譲渡所得の内訳が記載された書類
      • D 本件配偶者名義の顧客勘定元帳等の写し
      • E 平成22年分から平成26年分までの本件配偶者の不動産所得、株式譲渡所得及びそれらに係る所得税の各納付税額並びに請求人及び本件姉の不動産所得及びそれに係る所得税の各納付税額をそれぞれ記載した書類
      • F 不動産の登記事項証明書の写し45通
      • G 「平成27年度課税明細書(土地・家屋)」の写し
      • H 本件各不動産の所在地、名義、建物種類等が記載された文書3枚
      • I 「貸家リスト」と題する書類
      • J 不動産所得に係る必要経費が記載された書類
      • K 建築工事請負契約書等の写し
      • L 平成25年分及び平成26年分に係る社会保険料及び医療費の各支払金額が記載された書類
      • M 本件配偶者の株式の譲渡に係る通帳の写し
  • チ 本件税理士は、本件調査担当職員に対し、本件各不動産から生じる不動産所得について、不動産の各名義どおりに申告をやり直したい旨の申出(以下「本件申出」という。)を平成28年1月中に行った(なお、本件申出を行った日については、後記3のとおり当事者間に争いがある。)。
  • リ 請求人は、平成23年分、平成24年分、平成25年分及び平成26年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税(平成25年分及び平成26年分については所得税等。以下同じ。)について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限後である平成28年3月23日に申告した(以下、本件各年分の期限後申告書を併せて「本件各期限後申告書」といい、本件各期限後申告書に基づく申告を「本件各期限後申告」という。なお、本件各期限後申告書に本件税理士の税務代理権限証書は添付されておらず、平成23年分を除く本件各期限後申告書の税理士署名欄に本件税理士の名前が記載されている。)。
  • ヌ 原処分庁は、請求人に対し、平成28年4月22日付で、別表の「賦課決定」欄のとおり、本件各年分の無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ル 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成28年6月17日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成28年9月1日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
  • ヲ 請求人は、再調査決定を経た後の本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成28年9月30日に審査請求をした。

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2 争点

本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。

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3 争点についての主張

(1) 請求人

本件各期限後申告書の提出は、次のとおり、通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

  • イ 本件各期限後申告に係る調査があったか否かについて
     調査の告知は本件配偶者に対してのみ行われ、請求人に対しては行われなかったから、請求人は、自己が調査対象であるとの認識がなかった。
     また、本件実地調査において、本件調査担当職員は、本件実子及び本件税理士が提示した固定資産税の納付通知書などの資料に基づき本件各不動産に係る名義人や賃料収入などを確認しているが、当該資料は、本件配偶者の調査に関する資料であるから、当該資料に基づく指摘及び質問調査は、本件配偶者に対するものであって、請求人に対するものではない。
     本件税理士は、本件申出を平成28年1月6日に電話により行ったところ、本件調査担当職員から、仮に各名義人で申告した場合の各所得金額及び納税額を示すよう指示を受けた。
     しかしながら、本件実地調査から本件申出までの間、本件調査担当職員から、請求人に対する本件各不動産に係る一切の指摘及び質問調査並びに調査結果の説明を受けていない。本件調査担当職員は、請求人の本件各年分の所得税の課税標準等又は税額等を認定するための一連の行為を行っていない。
     なお、本件税理士は、本件実地調査時において、請求人から本件各年分の所得税に係る税務代理権限を付与されていなかった。
     したがって、本件各期限後申告に係る調査はなかった。
  • ロ 決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当するか否かについて
     仮に、本件各期限後申告に係る調査があったとしても、次のとおり、本件税理士は、原処分庁から請求人に対する指摘等を受けることなく、自主的に期限後申告書の提出に係る意思を客観的・外形的に示したものであるから、本件各期限後申告書の提出は、決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当する。
    • (イ) 請求人は、上記イのとおり、自己が調査対象であるとの認識がなかった上、本件実地調査において請求人に対する本件各不動産に係る一切の指摘及び質問調査並びに調査結果の説明を受けていなかった。
    • (ロ) 本件税理士は、上記(イ)のとおり、請求人に対する本件各不動産に係る一切の指摘及び質問調査並びに調査結果の説明を受けていなかったところ、本件姉の相続税の申告のために相続財産を検討したことを契機として、本件各年分の本件配偶者の不動産所得について再検討した結果、本件配偶者の申告の誤りに気付いた。そして、当該誤りの是正により本件各不動産から生じる不動産所得を各名義人で申告した場合の合計納税額と各名義人分を本件配偶者が全て申告した場合の納税額とを比較すると、前者は後者を大幅に下回ることから、原処分庁からの積極的な指摘はないと考えて、請求人が申出を行うしかないとの認識に基づき、平成28年1月6日に電話で本件申出を行うとともに、同月16日に、本件調査担当職員の指示に従い、本件申出に関する書類として、本件文書1及び上記1(3)ト(ロ)EからLまでの各書類を簡易書留で原処分庁宛に送付した。
       なお、本件税理士は、平成28年1月21日に、本件文書2並びに上記1(3)ト(ロ)C、D及びMの各書類を原処分庁宛に送付した。

(2) 原処分庁

本件各期限後申告書の提出は、次のとおり、通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。

  • イ 本件各期限後申告に係る調査があったか否かについて
     本件調査担当職員は、本件実地調査において、請求人名義の不動産から生じる不動産所得を請求人が申告していない事実を把握し、本件税理士にその事実を確認し、請求人が本件各年分の確定申告書を提出していないことについて、本件税理士に質問調査をするなど、請求人に帰属すべき不動産所得の有無について検討している。そして、本件調査担当職員の当該一連の行為は、請求人の本件各年分の所得税の課税標準等又は税額等を認定するために行った行為であるから、調査に該当する。
     なお、本件税理士は、本件実地調査において請求人に係る資料を本件調査担当職員に示した上、請求人に係る申告の内容について本件調査担当職員に対し答弁していることからすれば、本件実地調査時において、請求人から本件税理士に対して税務代理権限の付与があったものとみるのが相当である。
     したがって、本件各期限後申告に係る調査はあった。
  • ロ 決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当するか否かについて
     本件各期限後申告書の提出は、次のとおり、決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当しない。
    • (イ) 本件実地調査において、本件調査担当職員が請求人名義の不動産から生じる不動産所得を請求人が申告していない事実を把握し、それについて本件税理士に行った質問調査は、請求人の本件各年分に係る所得税の課税標準等又は税額等を認定するために行ったものであるから、本件実地調査以後の期限後申告書の提出は、決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当しない。
    • (ロ) 本件税理士は、本件実地調査における本件調査担当職員の質問調査に対して、本件配偶者が本件各不動産から生じる所得の実質所得者であると答弁したものの、請求人が当該調査を契機として、その後、請求人の不動産所得に係る調査の進展により、いずれ本件各不動産の真実の権利者は各名義人であることが発覚し、決定に至ることを予知したことから、本件申出を行ったものである。
       なお、本件税理士が、平成28年1月6日、原処分庁へ電話をした事実は認めるが、応答者及び応答内容は明らかでない。
       本件税理士は、平成28年1月19日に、本件調査担当職員が本件税理士に対して電話により「本件各不動産の名義は、購入当初から請求人、本件配偶者及び本件姉各々の名義であったか」等質問調査を行っていた際に、本件申出を行った。
       また、平成28年1月18日に原処分庁に送達された書類は、上記1(3)ト(ロ)C及びDの各書類であり、本件文書1及び上記1(3)ト(ロ)EからLまでの各書類は、同月22日に原処分庁に送達された。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈等
     通則法第66条第5項に規定する調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解される。そして、同項の趣旨が、納税者の自発的な申告を奨励する点にあることからすれば、課税庁が当該納税者を具体的に特定した上でする直接的な調査でなくても、当該調査が、客観的にみれば当該納税者を対象とするものと評価することができ、納税者が決定のあるべきことを予知することができる可能性があるものである限り、同項に規定する調査に該当すると解するのが相当である。
     また、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないことの判断に当たっては、通則法第66条第5項の文言及び趣旨からすると、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、期限後申告に至る経緯、期限後申告と調査の内容との関連性の事情を総合考慮して判断すべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件実子は、本件実地調査時において、請求人、本件配偶者及び本件姉の各名義の不動産の管理を任されていた。
    • (ロ) 本件税理士は、本件実子から本件各不動産から生じる不動産所得の申告を包括的に依頼され、請求人名義の不動産から生じる不動産所得を本件配偶者の不動産所得として申告し、請求人の申告を行わないと判断した。
    • (ハ) 本件税理士は、本件実地調査において、本件実子の同席の下、本件調査担当職員からの本件姉が平成23年分以降の不動産所得について所得税の確定申告をしていない理由に係る質問に対し、平成23年分以降の本件姉名義の不動産所得は、本件配偶者の不動産所得に含めて申告した旨回答した。
    • (ニ) 本件調査担当職員は、本件実地調査の際、本件各不動産のうち請求人及び本件姉名義の各不動産について、購入資金の関係から、これらの真の所有者は本件配偶者ではないかとの疑問を持っていた。
       しかし、本件調査担当職員は、本件税理士から、上記(ハ)のとおり回答されたこともあり、本件税理士が1不動産から生じる不動産所得を当該不動産の各名義人で申告すべきことを知っていて、2本件配偶者が請求人及び本件姉から同人ら名義の不動産を使用貸借により借り受けて転貸しているものと判断し、3これらのことから本件各不動産から生じる不動産所得を本件配偶者の不動産所得として申告したものであると理解したことから、本件実地調査から平成28年1月18日までの期間において、本件各不動産から生じる不動産所得の帰属を判断するための調査や各名義人の不動産所得として申告すべきである旨の指摘を行わなかった。
    • (ホ) 本件調査担当職員は、平成28年1月19日、本件税理士に対し、電話により、要旨、次の質問等を行った。
      • A 本件各不動産は、各名義人が購入当初から保有しているものか否か
      • B 本件調査担当職員は、本件配偶者が請求人及び本件姉から不動産を借用し、それを又貸ししていたと理解していたが、これと異なるのか否か
      • C 請求人が平成24年に購入した土地の原資
  • ハ 検討
    • (イ) 本件各期限後申告に係る調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識について
       上記1(3)ホ(ハ)、(ニ)及び4(1)ロ(ハ)のとおり、本件調査担当職員は、本件実地調査において、本件各不動産に係る固定資産税の納付通知書等から、請求人及び本件姉名義の各不動産が存在するにもかかわらず、それらから生じる本件各年分の不動産所得を請求人及び本件姉がそれぞれ申告していないことを把握し、本件実子の同席の下、本件税理士に対し、本件姉が平成23年分以降の不動産所得について所得税の確定申告をしていない理由について質問し、これに対し、本件税理士は、本件配偶者の不動産所得に含めて申告した旨回答したことが認められる。
       このように、本件調査担当職員は、本件実地調査において、本件税理士に対し、本件各不動産の真実の権利者は誰かという観点から、本件各不動産の所有者を確認した上で、所有者と申告者が相違することを前提として上記質問を行っていると認められることからすれば、本件実地調査は、請求人に対する直接的な調査ではないものの、客観的にみれば請求人名義の不動産から生じる不動産所得を得ている請求人をも対象とするものと評価することができ、請求人が自らの申告について決定のあるべきことを予知することができる可能性のあるものであるから、本件実地調査における請求人名義の不動産を含む本件各不動産に係る調査をもって、本件各期限後申告に係る調査が行われたとみるのが相当である。
       他方、本件税理士は、上記ロ(ハ)のとおり、本件調査担当職員からの本件各不動産から生じる不動産所得の帰属に係る質問に対し、「本件配偶者の不動産所得に含めて申告した」旨回答していることからすれば、本件実地調査時に本件各不動産のうち請求人名義の不動産の真実の権利者について本件調査担当職員が問題としていることを認識したと認められる。
       そして、請求人は、本件実地調査当時、本件税理士に税務代理権限を付与していなかったとしても、上記ロ(イ)から(ハ)までのとおり、本件税理士が、本件各不動産の管理を任されていた本件実子から、本件各不動産から生じる不動産所得の申告について包括的に依頼を受け、請求人名義の不動産から生じる不動産所得を本件配偶者の不動産所得として申告し、請求人の不動産所得として申告を行わないと判断していたこと、本件実地調査時に本件調査担当職員から本件実子とともに上記のとおり本件各不動産から生じる不動産所得の帰属について質問を受けたことからすれば、本件実子と本件税理士は、請求人名義の不動産に係る調査を認識したものと認めるのが相当である。
       したがって、本件実地調査における本件各不動産に係る調査により、本件各期限後申告に係る調査があったと認められ、請求人は当該調査を認識していたものと認められる。
    • (ロ) 期限後申告に至る経緯について
       本件調査担当職員は、本件実地調査において、上記1(3)ホ(ニ)のとおり、請求人及び本件姉名義の各不動産から生じる不動産所得を請求人及び本件姉が申告していないことを把握し、上記ロ(ハ)のとおり、本件税理士に対し、本件姉名義の不動産から生じる不動産所得の申告について質問をしたものの、本件税理士から、本件配偶者の不動産所得に含めて申告した旨の回答を受け、上記ロ(ニ)のとおり、本件配偶者が請求人及び本件姉から同人ら名義の不動産を使用貸借により借り受けて転貸しているものと理解したため、当該質問後、平成28年1月18日まで、本件各不動産から生じる不動産所得の帰属を判断するための調査や各名義人の不動産所得として申告すべきである旨の指摘を行わなかった。
       ところが、本件調査担当職員は、上記ロ(ホ)のとおり、平成28年1月19日、本件税理士に電話をかけ、本件各不動産に関する質問等を行ったのであるから、その頃、本件各不動産について上記理解と異なる認識を持つに至るような契機があったはずである。
       この点について、請求人は、平成28年1月6日、本件調査担当職員に対し、電話により本件申出を行い、その際の本件調査担当職員の指示に従って、同月16日、本件文書1及び上記1(3)ト(ロ)EからLまでの各書類を原処分庁宛に送付した旨主張する。
       そこで、本件税理士が原処分庁に提出した書類について検討すると、本件税理士から原処分庁へ書類を送付した際に使用したとされる2通の封筒における通信日付は、それぞれ同月16日(押印された収受日は同月18日)及び同月21日(押印された収受日は同月22日)である。また、本件文書1及び本件文書2は、いずれも宛名及び差出人が記載されていることから、別々の封筒で送付されたものとみるのが自然である。そして、本件文書2は、上記1(3)ト(ロ)Bのとおり、「平成28年1月19日にお電話にてご質問があったことについて……ご回答申し上げます。」との記載内容から、平成28年1月19日以降である同月21日に送付されたものと認められ、また、上記1(3)ト(ロ)B(A)のとおり、「お渡しした登記簿の履歴のとおりです。」との記載内容から、本件文書2よりも先に登記事項証明書の写しが送付されていたものと認められる。他方、本件文書1は、上記1(3)ト(ロ)Aのとおり、「所得税を物件の所有者ごとに申告をした場合の所得を計算し、概算で税額を計算し……根拠資料も添付しております。」との記載内容から、登記事項証明書の写しと同時に送付されたものと認められる。そうすると、本件文書1は、本件文書2より前である平成28年1月16日に、登記事項証明書の写し等の資料と共に原処分庁に送付されたと認められ、本件申出は、本件各不動産の各名義どおり申告をやり直したいとの内容であることからすれば、本件文書1の送付前になされたものとみるのが相当である。
       したがって、本件税理士は、遅くとも平成28年1月18日までに、本件調査担当職員の指示によることなく、同職員に対し本件申出を行い、本件文書1及び上記1(3)ト(ロ)EからLまでの各書類を原処分庁に送付し、本件各期限後申告書の提出に至ったものと認められる。なお、原処分庁は、本件申出に関する書類について請求人と異なる主張をするものの、その主張の根拠となる明確な証拠を提出せず、当審判所の調査によっても原処分庁の主張に沿う事実を認めるに足りる証拠は認められないから、原処分庁の主張は採用できない。
    • (ハ) 期限後申告と調査の内容との関連性等について
       本件各期限後申告書は、請求人の不動産所得が無申告であったことを是正する内容であり、本件各期限後申告に係る調査の内容も同様である。
       しかし、本件調査担当職員は、上記ロ(ニ)のとおり、平成28年1月18日まで、本件配偶者が請求人名義の不動産から生じる不動産所得を申告していることについて疑問又は是正を要するとの認識を持っておらず、また、本件税理士が本件姉の相続税の申告のために相続財産を検討したことを契機として本件配偶者の申告の誤りに気付いて本件申出を行った旨の請求人の主張が明らかに不合理であるともいえないことから、本件申出は、本件各期限後申告に係る調査を契機としたものではないというべきである。
       したがって、本件各期限後申告と本件各期限後申告に係る調査とには関連性を認めることはできない。
    • (ニ) まとめ
       以上を総合すると、本件税理士は、本件各期限後申告に係る調査とは別の契機により、本件各期限後申告書を提出する旨の意思表明である本件申出を行い、請求人は、これに基づいて本件各期限後申告書を提出したのであり、決定があるべきことを予知して行ったものでないと認められる。
  • ニ 小括
     以上のとおり、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。

(2) 原処分庁の主張について

原処分庁は、本件実地調査における、請求人名義の不動産から生じる不動産所得を請求人が申告していない事実に係る質問調査は請求人の所得税の課税標準等又は税額等を認定するために行ったものであるから、本件実地調査以後の期限後申告書の提出は、決定があるべきことを予知してされたものでないときに該当せず、また、本件申出は当該質問調査を契機として、決定に至ることを予知したことから、平成28年1月19日にされたものである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)イで説示したとおり、期限後申告書の提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないか否かは、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、期限後申告に至る経緯、期限後申告と調査の内容との関連性の事情を総合考慮して判断すべきであるところ、上記(1)ハ(ニ)のとおり、本件各期限後申告書は本件各期限後申告に係る調査を契機としない本件申出に基づき提出されたものと認められるから、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(1)ニのとおり、本件各期限後申告書の提出は通則法第66条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するが、それ以外の点は同条第1項の所定の要件を充足する。
 また、請求人の本件各年分に係る期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、本件各年分の無申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において、通則法第66条第5項の規定に基づき無申告加算税の額を計算すると、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円及び平成26年分は○○○○円になるところ、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、無申告加算税の額が5,000円未満であるときにはその全額を切り捨てることとなるので、本件各賦課決定処分のうち、平成23年分及び平成24年分の各処分は、いずれもその全部が違法であり、平成25年分及び平成26年分の各処分のうち上記金額を超える部分はいずれも違法である。

(4) 結論

以上によれば、平成23年分及び平成24年分の無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すこととし、平成25年分及び平成26年分の無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部をそれぞれ別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、取り消すこととする。

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