(平成29年8月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、○○業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、顧客に対する商品券の販売を資産の譲渡等に該当しないとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該商品券は他者が発行したものを請求人が譲り受けたものであるから、当該商品券の販売は物品切手の譲渡に該当するとして、その販売高を資産の譲渡等の対価の額に含めて算出した課税売上割合に基づき、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を計算して消費税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該商品券は請求人が発行したものであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙3のとおりである。
 なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、○○等を行う法人である。
  • ロ 請求人は、L社(以下「本件カード会社」という。)との間で、平成18年9月22日に、請求人の店舗においてのみ顧客が使用できる商品券(以下「本件商品券」という。)と引換えに商品を販売することができる「○○○○」となる契約を締結し、同月25日付で、本件商品券の発行及び販売に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
     なお、本件商品券は、請求人の顧客が商品を購入する際に、券面金額をもって支払に充てることのできる証書、すなわち物品の給付請求権を表彰する証書であり、消費税法別表第1第4号ハに規定する物品切手に該当する。
  • ハ 請求人は、本件商品券を、券面金額である○○円(値引販売する場合には○○円)を販売単価として、顧客に販売していたところ、平成25年○月○日から平成26年○月○日までの課税期間(以下「平成26年○月課税期間」という。)においては○○○○円を、平成26年○月○日から平成27年○月○日までの課税期間(以下「平成27年○月課税期間」といい、平成26年○月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)においては○○○○円を、その販売高として、それぞれ経理した。
     なお、請求人の本件商品券に関する基本的な取引の会計処理(仕訳等)は、別表1のとおりであった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、その納税地を所轄するM税務署長(以下「所轄税務署長」という。)に対し、本件各課税期間の消費税等について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     その際、請求人は、本件商品券は請求人が発行したものであるから、本件商品券の顧客への販売は消費税法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされる資産の譲渡等(以下「非課税資産の譲渡等」という。)である同法別表第1第4号ハに規定する物品切手の譲渡(以下「物品切手の譲渡」という。)に該当しないとして、その販売高を本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額に含めなかった。
  • ロ 所轄税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成28年6月29日付で、別表2の「更正処分等」欄記載のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、所轄税務署長は、本件各更正処分において、本件商品券は本件カード会社が発行したものを請求人が譲り受けたものであるから、本件商品券の顧客への販売は非課税資産の譲渡等である物品切手の譲渡に該当するとして、上記(3)ハ記載の販売高を資産の譲渡等の対価の額に含めて算出した課税売上割合に基づき、課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を計算した。
  • ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成28年8月24日に審査請求をした。

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2 争点

請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当するか否か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁の主張

  • イ 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第1に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第1第4号ハは、物品切手の譲渡を掲げているが、消費税法基本通達6-4-5は、事業者が、同法別表第1第4号ハに規定する物品切手を発行し、交付した場合において、その交付に係る相手先から収受する金品は、資産の譲渡等の対価に該当しない旨定めている。
  • ロ 本件商品券の発行者は、次の事情に照らせば、本件カード会社である。
    • (イ) 本件商品券の裏面には、発行元が本件カード会社である旨の記載がある。
    • (ロ) 本件契約によれば、本件商品券は、本件カード会社が作成・発行したものを券面金額で請求人に販売し、請求人がこれを顧客に再販売するものとされており、本件カード会社が請求人に販売した時点で財貨が移転、すなわち本件商品券の流通が開始されたといえる。
    • (ハ) 請求人は、本件商品券が資金決済法第3条第4項に規定する自家型前払式支払手段に該当する旨主張するが、自家型前払式支払手段を発行する者は、同法第5条第1項の規定による自家型発行者の届出書の提出及び同法第14条第1項の規定による発行保証金の供託並びに法人税基本通達2-1-39に定める取扱いに沿った所得金額の計算をすべきところ、請求人はこれらを行っていない。
    • (ニ) 本件商品券は、顧客が本件商品券を使用できる店舗が請求人の店舗に限られることのほかは、本件カード会社が発行している商品券「L社ギフトカード」 と相違する点がない。
    • (ホ) 本件カード会社は、自らが本件商品券の発行者であると認識している。
    • (ヘ) 仮に請求人が本件商品券と商品との引換えができなくなった場合の危険は、本件カード会社が負担する。
    • (ト) 請求人は、本件カード会社から、本件商品券の作成(印刷)費用相当額をはるかに超える券面金額で本件商品券を購入しており、本件カード会社から単なる印刷物を購入したとはいえない。
  • ハ 以上のことからすると、請求人は、本件各課税期間において、本件カード会社が発行した本件商品券を本件カード会社から購入して顧客に販売していたものと認められるから、消費税法基本通達6-4-5の定めの適用はなく、請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当する。
  • ニ なお、課税期間中に課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等がある場合には、仕入税額控除において、課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れに係る消費税額だけを控除するのであるから、請求人が非課税資産の譲渡等である本件商品券の販売を行うことにより、控除対象仕入税額が減少するのは当然の帰結であり、請求人の主張する二重課税が生ずるものではない。

(2) 請求人の主張

  • イ 本件商品券の発行者は、次の事情に照らせば、請求人である。
    • (イ) 本件商品券は、請求人以外の者の店舗等では使用できない商品券であるから、資金決済法上の自家型前払式支払手段に該当する。
    • (ロ) 国税庁の公表する質疑応答事例「商品券の発行に係る売上げの計上時期」には、「流通している商品券等」の販売は非課税資産の譲渡等である旨記載されているところ、本件商品券は、請求人から顧客に交付されて初めて、顧客が本件商品券と引換えに商品の提供を受け得る状態、すなわち流通が開始された状態になるのであるから、「流通している商品券等」には該当しない。
       この点、原処分庁は、本件カード会社が請求人に本件商品券を販売した時点で財貨が移転したと主張するが、本件商品券は、請求人から顧客に交付されて初めて、顧客が本件商品券と引換えに商品の提供を受け得る状態になるのであるから、本件カード会社から請求人に交付された時点では、権利が付与されていない印刷物にすぎず、財貨が移転したとはいえない。
    • (ハ) 請求人は、本件商品券の作成(印刷)費用、すなわち本件商品券の発行に係る費用を負担している。
       なお、請求人は、本件カード会社に本件商品券の券面金額を支払うが、これは担保金あるいは預け金である。すなわち、請求人は、商品の販売時に商品と引換えに顧客から受け取った本件商品券を、その後、本件カード会社に引き渡し、その券面金額から一定の手数料を控除された金額の返還を受けるのであるから、本件カード会社の実益は本件商品券の作成(印刷)費用と手数料のみとなる。また、仮に請求人が本件商品券と商品との引換えができなくなった場合には、本件カード会社が上記担保金を基に顧客への補償を行うのであるから、その経済的な負担を負うのは請求人である。
       したがって、本件カード会社は、請求人の委託を受けて本件商品券の印刷及び管理に関する事務を代理しているにすぎないといえる。
  • ロ 以上のことからすると、請求人は、本件各課税期間において、自らが発行した本件商品券を顧客に販売していたといえるから、消費税法基本通達6-4-5の定めが適用され、請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当しない。
  • ハ なお、仮に、本件商品券の発行者を本件カード会社とし、本件商品券の顧客への販売を非課税資産の譲渡等であるとすると、本件商品券が請求人の店舗においてのみ使用され、請求人は、本件商品券との引換えによる商品の販売について消費税を課税されるにもかかわらず、仕入税額控除において、課税売上割合が低下することにより、本件商品券の販売に対応する課税仕入れに係る消費税額を控除できない点で、いわゆる二重課税をされていることになる。このことからしても、請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当しないというべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当するか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件契約に係る契約書においては、次の事項が定められている。
      • A 本件契約は、本件カード会社が本件商品券を作成・発行の上で請求人に販売し、請求人が請求人の顧客に対して本件商品券を再販売するに当たって必要な事項等を定めるものである(第1条)。
      • B 本件カード会社が作成・発行し、請求人に販売する券種は、○○円券のみとし、他の券種の作成・発行については、別途協議により決定する(第3条)。
      • C 請求人は、本件カード会社に対して本件商品券の作成費用を支払い(第2条第3項)、本件カード会社の請求人に対する本件商品券の販売価格は、本件商品券の券面金額とする(第6条第3項)。
      • D 請求人が本件商品券の購入代金(券面金額)を支払うまでの間、本件商品券の所有権を本件カード会社に留保するものとし、請求人が本件カード会社のために本件商品券を善良なる管理者の注意義務をもって保管するものとする(第8条)。
      • E 請求人は、本件カード会社から承諾を得た販売場所においてのみ、請求人の顧客に対して本件商品券を再販売するものとする(第9条)。
      • F 請求人は、本件商品券の使用者から本件商品券を受領し、商品、権利の引渡し又は役務の提供などを行うものとする(第10条第1項)。
      • G 請求人は、本件商品券の使用者から受領した本件商品券を本件カード会社に引き渡し、本件カード会社は、請求人に対して、本件商品券の券面金額から○○%分を割り引いた金額の精算金を支払う(第10条第2項)。
    • (ロ) 本件商品券の裏面には、発行元が本件カード会社である旨表示されている。
    • (ハ) 請求人は、本件商品券に関し、資金決済法第5条第1項の規定による自家型発行者の届出書の提出及び同法第14条第1項の規定による発行保証金の供託をいずれも行っていなかった。
    • (ニ) 請求人は、本件商品券に関し、法人税基本通達2-1-39に定める取扱いに沿った所得金額の計算を行っていなかった。
    • (ホ) 本件カード会社は、本件商品券に関し、資金決済法第7条の規定による第三者型発行者の登録を受けるとともに、同法第15条の規定により、発行保証金保全契約を締結し、その旨の届出を行っていた。
       なお、仮に請求人において本件商品券と商品との引換えができなくなった場合には、本件カード会社は、本件商品券の発行の業務を廃止した上で、資金決済法第20条第1項本文及び同項第1号の規定に基づき、本件商品券を保有している顧客に払戻しを行う。
    • (ヘ) 本件カード会社は、本件商品券に関し、法人税基本通達2-1-39に定める取扱いに沿った所得金額の計算を行っていた。
    • (ト) 請求人は、上記1(3)ハのとおり、本件商品券を、券面金額である○○円(値引販売する場合には○○円)を販売単価として、顧客に販売していたところ、そのほかに、本件商品券を、取引先へ贈答し、又は、顧客へ無償で交付しており(以下、これらの取引を併せて「本件無償交付」という。)、上記1(3)ハ記載の本件商品券の販売高には、別表3の「審判所調査」欄記載のとおり、本件無償交付をした本件商品券の枚数に通常の販売単価を乗じて算出した金額(以下「本件無償交付に係る金額」という。)が含まれていた。
  • ロ 検討
     消費税法第2条第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定しているところ、本件無償交付は、対価を得て行われる取引ではないことから、資産の譲渡等には該当しない。
     そのため、以下、本争点においては、請求人が行った本件商品券の顧客への販売とは、本件無償交付を含まないものであることを前提とする(本件無償交付に係る金額の取扱いについては、後記(2)イに記載する。)。
    • (イ) 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第1に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第1第4号ハは、物品切手(商品券その他名称のいかんを問わず、物品の給付請求権を表彰する証書をいい、郵便切手類に該当するものを除く。)の譲渡を掲げている。
       そして、消費税法基本通達5-2-1は、消費税法第2条第1項第8号に規定する「資産の譲渡」とは、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させることをいう旨定めている。この取扱いは、消費税が事業として対価を得て行われる資産の譲渡を課税の対象のひとつとしているところ、この場合の「資産の譲渡」の意義を念のため明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
       また、消費税法基本通達6-4-5は、事業者が、消費税法別表第1第4号ハに規定する物品切手を発行し、交付した場合において、その交付に係る相手先から収受する金品は、資産の譲渡等の対価に該当しない旨定めている。この取扱いは、物品切手の発行が物品の給付請求権を表彰する証書の発行行為として「資産の譲渡」とは法的性格を異にするものであることから、物品切手を発行し交付した相手先から収受する金品が資産の譲渡に係る対価に該当しないことを明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
    • (ロ) そこで、請求人が行った本件商品券の顧客への販売が物品切手の譲渡に該当するか否かを判断するに当たっては、本件商品券の発行者が請求人と本件カード会社のいずれであるかとの観点から、以下、検討する。
      • A 上記イ(イ)A、B、C及びEのとおり、本件契約に係る契約書において、本件カード会社が本件商品券を作成・発行の上で請求人に券面金額で販売し、これを請求人が顧客に再販売するものとされていること、上記イ(イ)Dのとおり、請求人が本件商品券の購入代金を支払うまでの間、本件商品券の所有権を本件カード会社に留保するものとされていること、上記イ(ロ)のとおり、本件商品券の裏面に発行元が本件カード会社である旨表示されていることからすると、本件契約は、本件カード会社が本件商品券を発行し、それを請求人に販売するものとして締結されたと認められる。
         そして、本件商品券は資金決済法第3条第1項に規定する前払式支払手段に該当し、同法は前払式支払手段の発行者がなすべき手続等を規定しているところ、上記イ(ハ)及び(ホ)のとおり、前払式支払手段の発行者に義務付けられた資金決済法上の手続を実際に行っていたのは、本件カード会社であったことに加え、上記イ(ホ)のとおり、仮に請求人において本件商品券と商品との引換えができなくなった場合には、本件カード会社が、資金決済法の規定に基づき、発行者として、顧客に対し本件商品券の払戻しを行い、本件商品券に係る危険を負担することからすると、本件カード会社が、資金決済法上の第三者型発行者として、本件商品券の発行の業務を行っていたといえる。なお、上記イ(ニ)及び(ヘ)のとおり、本件カード会社が、商品券の発行者が行うべき法人税基本通達2-1-39に定める取扱いに沿った所得金額の計算を実際に行っているのに対し、請求人はこれを行っていないことからしても、本件カード会社が、本件商品券の発行の業務を行っていたといえる。
         これらの事情から判断すると、本件商品券の発行者は、本件カード会社であると認められ、請求人は、本件カード会社に本件商品券の券面金額を支払って、本件カード会社から本件商品券の発行を受けたとみるのが相当である。
      • B 上記1(3)ハのとおり、請求人は、本件カード会社から発行を受けた本件商品券を顧客に販売していたのであるから、請求人は、本件カード会社から発行を受けた本件商品券につきその同一性を保持しつつ顧客へ移転させることにより資産の譲渡を行ったものであり、それに伴い請求人が顧客から収受する金銭は、本件商品券の譲渡に係る対価であるから、本件商品券の顧客への販売は、資産の譲渡等に該当する。
      • C 上記1(3)ロのとおり、本件商品券は、消費税法別表第1第4号ハに規定する物品切手に該当する。
      • D したがって、請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当する。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件商品券が、請求人以外の者の店舗等では使用できない商品券であるから、資金決済法上の自家型前払式支払手段に該当する旨主張する。
       しかしながら、資金決済法第3条第4項は、自家型前払式支払手段とは、前払式支払手段を発行する者から物品の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう旨規定しているのであって、前払式支払手段を使用することができる店舗等が限られている場合に、当該店舗等の設置者を前払式支払手段の発行者とする旨規定しているものではない。
       したがって、本件商品券は、請求人以外の者の店舗等では使用できない商品券ではあるものの、このことをもって、請求人を発行者とする自家型前払式支払手段に該当することにはならず、そもそも請求人の主張は、本件商品券の発行者が請求人であることを前提とするものであり、採用できない。
    • (ロ) 請求人は、国税庁の公表する質疑応答事例「商品券の発行に係る売上げの計上時期」には、「流通している商品券等」の販売は非課税資産の譲渡等である旨記載されているところ、本件商品券は、請求人から顧客に交付されて初めて、顧客が本件商品券と引換えに商品の提供を受け得る状態、すなわち流通が開始された状態になるのであるから、「流通している商品券等」には該当しない旨主張する。
       しかしながら、上記イ(イ)Cのとおり、請求人が本件カード会社に対して券面金額を支払うことからすると、本件商品券は、本件カード会社が請求人に対して交付した時点で、単なる印刷物ではなく、券面金額による商品の給付請求権が表彰された証書として、顧客に流通しうる状態になっているものとみるのが相当である。
       したがって、請求人の主張は採用できない。
    • (ハ) 請求人は、1請求人が本件商品券の作成(印刷)費用、すなわち本件商品券の発行に係る費用を負担していること、2請求人は本件カード会社に本件商品券の券面金額を支払うが、これは担保金あるいは預け金であって、本件カード会社の実益は本件商品券の作成(印刷)費用と手数料のみであり、仮に請求人が本件商品券と商品との引換えができなくなった場合には、本件カード会社が当該担保金を基に顧客への補償を行うのであって、その経済的な負担を負うのは請求人であることから、本件カード会社は、請求人の委託を受けて本件商品券の印刷及び管理に関する事務を代理しているにすぎない旨主張する。
       しかしながら、本件商品券の作成(印刷)費用の負担者が請求人と本件カード会社のいずれであるかは、契約自由の原則に基づき両者の合意で定めるべき事項であって、これをもって本件商品券の発行者が決定されるものではない。そして、本件カード会社は、上記イ(ホ)のとおり、資金決済法上の発行者に義務付けられている手続を自己の名義で行っており、顧客への払戻しについても、資金決済法上の発行者に義務付けられているために行うのであって、顧客への補償のための担保金あるいは預け金として本件商品券の券面金額を請求人から受領しているものではない。さらに、請求人が上記イ(イ)Dのとおり、本件商品券の購入代金として券面金額を支払うまでの間、本件商品券の所有権を本件カード会社に留保するものとされていることも併せ考慮すると、本件カード会社が、請求人の委託を受けて本件商品券の印刷及び管理に関する事務を代理しているにすぎないとはいえない。
       したがって、請求人の主張は採用できない。
    • (ニ) 請求人は、仮に、本件商品券の発行者を本件カード会社とし、本件商品券の顧客への販売を非課税資産の譲渡等であるとすると、本件商品券が請求人の店舗においてのみ使用され、本件商品券との引換えによる商品の販売について消費税を課税されるにもかかわらず、仕入税額控除において、課税売上割合が低下することにより、本件商品券の販売に対応する課税仕入れに係る消費税額を控除できない点で、いわゆる二重課税をされていることになることからすれば、請求人が行った本件商品券の顧客への販売は、物品切手の譲渡に該当しないというべきである旨主張する。
       しかしながら、仕入税額控除制度は、非課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れに係る消費税額を控除しないというのがその基本的考え方であって、本件商品券の顧客への販売は、上記ロ(ロ)のとおり物品切手の譲渡、すなわち非課税資産の譲渡等であるから、これに対応する課税仕入れに係る消費税額を控除できないのは必然である。
       したがって、本件商品券との引換えによる商品の販売について消費税を課される一方で、本件商品券の販売に対応する課税仕入れに係る消費税額を控除できないからといって、請求人が行った本件商品券の顧客への販売が、物品切手の譲渡に該当しないという理由にはならず、請求人の主張は採用できない。

(2) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 本件商品券の販売高について
     以上審理したところによれば、本件各更正処分は、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
     しかしながら、上記(1)ロの冒頭で述べたとおり、本件無償交付は資産の譲渡等には該当しないから、本件各更正処分が、控除対象仕入税額の算定に当たり、本件無償交付に係る金額を資産の譲渡等の対価の額に含めている点には誤りがある。
     したがって、本件無償交付に係る金額を資産の譲渡等の対価の額に含めずに、課税売上割合を再計算し、これを基に控除対象仕入税額の再計算を行うべきである。
  • ロ 本件商品券の精算手数料について
     請求人は、本件契約及び本件契約に基づいて準用される本件カード会社の定める「○○規約」に基づき、商品と引換えに顧客から受け取った本件商品券について、1か月ごとに取りまとめた上、本件カード会社に引き渡し、本件カード会社から精算金を受け取っていた。その際、当該精算金から所定の料率による手数料(以下「本件商品券精算手数料」という。)を差し引かれており、その額は本件各課税期間において別表4のとおりであるところ、これを本件各課税期間において課税仕入れに係る支払対価として経理せず、また、控除対象仕入税額の計算に含めていなかった。
     しかしながら、本件契約及び上記「○○規約」によれば、本件商品券精算手数料は、請求人が本件商品券と引換えに行う商品の販売による販売代金を本件カード会社が精算することに対して、請求人から本件カード会社に支払われるものであるから、本件カード会社の行う精算業務という役務の提供の対価であると認められる。そして、当該精算業務は、本件カード会社において課税資産の譲渡等に該当するものであるから、本件商品券精算手数料は、請求人において課税仕入れに係る支払対価に該当するものである。
     したがって、本件商品券精算手数料の額を本件各課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて、控除対象仕入税額の再計算を行うべきである。
     なお、再計算において、本件商品券精算手数料の額を、課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る支払対価の額に含める。
  • ハ 本件商品券以外の商品券の精算手数料について
     請求人は、本件カード会社、N社及びP社との間でそれぞれ契約を締結し、本件商品券のほかに、本件カード会社が発行する「L社ギフトカード」、N社が発行する「N社ギフトカード」及びP社が発行する「P社ギフトカード」(以下、これらを併せて「本件共通商品券」という。)と引換えに商品を販売することができる「加盟店」又は「取扱店」となっていた。
     そして、請求人は、当該各契約に基づき、商品と引換えに顧客から受け取った本件共通商品券について、1か月ごと、発行会社ごとに取りまとめた上、それぞれの発行会社に引き渡し、当該各発行会社から精算金を受け取っていた。その際、当該精算金から所定の料率による手数料(以下「本件共通商品券精算手数料」という。)を差し引かれており、その額は本件各課税期間において別表5のとおりであるところ、これを本件各課税期間において課税仕入れに係る支払対価として経理せず、また、控除対象仕入税額の計算に含めていなかった。
     しかしながら、請求人と本件共通商品券の各発行会社との間の上記各契約によれば、本件共通商品券精算手数料は、請求人が本件共通商品券と引換えに行う商品の販売による販売代金を本件共通商品券の各発行会社が精算することに対して、請求人から当該各発行会社に支払われるものであるから、当該各発行会社の行う各精算業務という役務の提供の対価であると認められる。そして、当該各精算業務は、当該各発行会社において課税資産の譲渡等に該当するものであるから、本件共通商品券精算手数料は、請求人において課税仕入れに係る支払対価に該当するものである。
     したがって、本件共通商品券精算手数料の額を本件各課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて、控除対象仕入税額の再計算を行うべきである。
     なお、再計算において、本件共通商品券精算手数料の額を、課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る支払対価の額に含める。
  • ニ 課税売上割合及び控除対象仕入税額について
     上記イからハまでを前提に、当審判所において、請求人の本件各課税期間の課税売上割合及び控除対象仕入税額を計算すると、別表6の「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
  • ホ 消費税等の納付すべき税額について
     上記ニを前提に、当審判所において、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、いずれも、本件各更正処分の金額を下回る。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は見当たらない。
     したがって、本件各更正処分は、それぞれその一部が違法であり、その一部を取り消すべきである。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

本件各更正処分は、上記(2)のとおり、それぞれその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額は、平成26年○月課税期間が○○○○円、平成27年○月課税期間が○○○○円となるが、それ以外の点は国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第65条《過少申告加算税》第1項の所定の要件を充足する。
 また、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、当審判所において、本件各課税期間の過少申告加算税の額を計算すると、それぞれ本件各賦課決定処分の金額に満たない。
 したがって、本件各賦課決定処分は、それぞれその一部が違法であり、その一部を取り消すべきである。

(4) 結論

以上によれば、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、それぞれ取り消すこととする。

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