(平成29年10月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の延納に係る国税を担保するために抵当権が設定された後に当該担保不動産上に築造された請求人の建物について差押処分をしたのに対し、請求人が、当該建物の差押処分は、当該担保不動産の処分の代金を請求人の滞納国税及び処分費に充てて「なお不足があると認めるとき」にされたものではないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第52条《担保の処分》第1項は、税務署長等は、担保の提供がされている国税についての延納を取り消したときは、その担保として提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充てる旨、同条第4項は、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行する旨、それぞれ規定している。
  • ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項第1号は、徴収職員は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
  • ハ 民法第389条《抵当地の上の建物の競売》第1項本文は、抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができると規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ D税務署長は、平成8年2月27日付で、請求人が納付すべき平成7年3月○日相続開始に係る相続税について、20回の年賦納付とする延納の許可をし、同月28日受付で、その担保として提供された、請求人の所有する土地及び別表1の順号4記載の建物(以下「本件居宅」という。)について、抵当権設定登記がされた(以下「本件抵当権」という。)。
     なお、上記の土地は、平成9年1月14日に、別表1の順号1から3までに記載の各土地(以下、それぞれ「本件土地1」、「本件土地2」及び「本件土地3」といい、本件居宅と併せて「本件各担保不動産」という。)に、それぞれ分筆された。
  • ロ 請求人は、平成9年頃、本件土地1の上に別表1の順号5記載の建物(以下「本件物置」という。)を築造した。
  • ハ D税務署長は、上記イの延納の許可(平成23年10月26日付で延納条件の変更許可をした後のもの。以下同じ。)に係る第15回分から第17回分までの別表2の順号1から3までに記載の各国税が、同表の「納期限」欄に記載の当該延納に係る納期限までに完納されなかったことから、平成25年1月25日付で、請求人に対し、通則法第37条《督促》の規定に基づき、督促状によりその納付を督促した。
  • ニ D税務署長は、平成25年10月17日付で、上記イの延納の許可を取り消し、当該取消しに係る第18回分から第20回分までの別表2の順号4記載の国税が、その納期限である同日までに完納されなかったことから、平成25年10月31日付で、請求人に対し、通則法第37条の規定に基づき、督促状によりその納付を督促した。
  • ホ D税務署長は、平成25年11月18日付で、別表2記載の請求人の滞納国税を徴収するため、通則法第52条第1項及び徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の各規定に基づき、本件土地1及び本件居宅について担保物処分のための差押えをし、本件土地2及び本件土地3については、a市長によって、平成25年9月19日付の滞納処分による差押えがされていたことから、通則法第52条第1項及び徴収法第86条《参加差押えの手続》の各規定に基づき、担保物処分のための参加差押えをした。
     また、当該差押処分に係る差押書及び当該参加差押処分に係る参加差押通知書は、平成25年11月20日に請求人に送達され、同日受付で差押登記及び参加差押登記がされた。
  • ヘ 原処分庁は、平成27年6月18日付で、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、別表2記載の請求人の滞納国税について、D税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ト 原処分庁は、平成28年7月1日付で、別表2記載の請求人の滞納国税を徴収するため、徴収法第47条第1項第1号及び第68条の各規定に基づき、本件物置を差し押さえた(以下「本件差押処分」という。)。
     また、本件差押処分に係る差押書は、平成28年7月5日に請求人に送達され、同日受付で、本件差押処分に係る差押登記がされた。
     なお、原処分庁は、不動産鑑定士による不動産鑑定評価に基づき、本件各担保不動産を公売に付して処分した場合に見込まれる代金の額(以下「本件処分見込額」という。)を○○○○円と算定した。
  • チ 請求人は、本件差押処分を不服として平成28年9月26日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年12月6日付で棄却の再調査決定をした。
  • リ 請求人は、再調査決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、平成28年12月27日に審査請求をした。

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2 争点

徴収法第47条第1項第1号に基づく本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものでなくとも適法か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁の主張

  • イ 原処分庁が算定した本件処分見込額(○○○○円)は、別表2記載の請求人の滞納国税を本件差押処分の日に完納したと仮定した場合の金額である○○○○円(以下「本件滞納国税額」という。)を上回っていることから、本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものではない。
  • ロ もっとも、本件差押処分は、以下の理由から許容されるべきである。
    • (イ) 本件物置は、本件抵当権が設定された後に本件土地1の上に請求人が築造したものであるから、本件土地1及び本件居宅(以下、併せて「本件各担保処分不動産」という。)を公売に付して売却した場合には、本件物置が敷地利用権のない状態で残存することとなる上、本件物置は登記がされていないことから所有権の帰すうが判然とせず、買受人は、本件物置の処分等について煩雑な手続を強いられることになる。それゆえに、本件各担保処分不動産の公売においては、買受希望者が現れ難く、売却価額が本件処分見込額よりも低額になることが十分に予想される。かかる状況は、本件各担保処分不動産の換価手続において大きな障害となっており、請求人が本件物置を築造した行為は、本件各担保処分不動産に対する滞納処分の執行を妨害するものと評価し得るものである。
       そうすると、別表2記載の請求人の滞納国税の徴収という目的を十分に達成するため、上記のような請求人による滞納処分の執行の妨害を除去する必要がある。
    • (ロ) そして、徴収法上は、抵当権の設定後に抵当地に築造された建物を土地とともに競売することができる旨定めた民法第389条第1項のような規定は存在しないものの、本件物置が正に抵当権の設定後に抵当地に築造された建物であることからすると、同項の規定に照らし、本件物置を本件各担保処分不動産と一括して公売に付すことが認められるべきものと解される。なお、このように解したとしても、請求人に何ら犠牲を強いるものではない。
    • (ハ) したがって、本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものでなくとも、民法第389条第1項の規定に照らし、徴収法第47条第1項第1号の規定に基づいて行われることが許容されるべきである。

(2) 請求人の主張

平成28年度固定資産税評価額による本件各担保不動産の価額(○○○○円)は、本件滞納国税額(○○○○円)を明らかに超えている。そうすると、本件各担保不動産を差し押さえ、その処分の代金を充てれば、徴収不足は生じない。
 したがって、本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものではなく、取り消されるべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(徴収法第47条第1項第1号に基づく本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものでなくとも適法か。)について

  • イ 法令解釈
     通常の滞納処分による差押えの要件(督促等)については、徴収法第47条に規定されている。一方で、担保として提供された財産を処分するための要件(延納等の取消し等)とその方法(滞納処分の例により処分)については、通則法第52条第1項に規定されており、さらに、同条第4項には、同条第1項の場合において、担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充てて「なお不足があると認めるとき」を要件として、税務署長等は、担保を提供した者の他の財産に滞納処分を執行する旨が規定されている。
     これらの各規定からすると、担保として提供された財産の処分については、通則法第52条第1項に基づき滞納処分の例により処分をすることとなるため、督促を要件とせず、一方で、担保が提供された国税を徴収するための担保以外の財産の処分については、通則法第52条第4項の「なお不足があると認めるとき」の要件を充足することで滞納処分を執行することが可能となり、徴収法に基づく滞納処分の第一段階である差押えをするためには、徴収法第47条の要件(督促等)を充足することが必要となると解するのが相当である。
  • ロ 検討
     本件差押処分は、担保が提供された国税を徴収するために本件各担保不動産以外の財産である本件物置を徴収法第47条第1項第1号に基づき差し押さえるものであるから、通則法第52条第4項の「なお不足があると認めるとき」の要件を充足しなければならない。
     そこで検討すると、原処分庁は、上記1(3)トのとおり、不動産鑑定士による不動産鑑定評価に基づいて本件処分見込額を算定しているところ、当審判所の調査の結果によっても、当該不動産鑑定評価に不合理な点は認められないことからすると、原処分庁が本件処分見込額を○○○○円と算定したことは、相当と認められる。そうすると、本件差押処分時において、本件処分見込額(○○○○円)が本件滞納国税額(○○○○円)を上回ることは、明らかであり、本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものとは認められない。
     したがって、徴収法第47条第1項第1号に基づいてなされた本件差押処分は、違法である。
  • ハ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3(1)ロのとおり、本件物置は、本件各担保処分不動産の換価手続において大きな障害となり、請求人が本件抵当権の設定後に本件土地1の上に本件物置を築造した行為は、本件各担保処分不動産に対する滞納処分の執行を妨害するものと評価し得るものであるから、これを除去する必要があり、本件物置が抵当権の設定後に抵当地に築造された建物であることからすると、本件差押処分は、通則法第52条第4項に規定する「なお不足があると認めるとき」になされたものでなくとも、民法第389条第1項の規定に照らし、徴収法第47条第1項第1号の規定に基づいて行われることが許容されるべきである旨主張する
    • (ロ) そこで、民法の規定に照らし原処分庁の主張を検討すると、民法第389条第1項本文は、「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。」と規定しているところ、当該規定は、民事執行における競売手続において、土地利用権のない建物の存続を図る形で売却することにより社会経済的損失を回避するとともに、競売手続の円滑な運営を目的として、土地の抵当権に内在する換価権を建物に拡大したものと解される。そして、かかる要請は、滞納処分における公売手続においても当てはまると解され、また、通則法第52条第1項は、担保権を実行するための要件及びその方法を規定しているにすぎず、国税を担保するために設定された抵当権であっても、当該抵当権に内在する換価権の及ぶ範囲については実体法である民法に委ねていると解するのが相当であることからすると、国税の担保の処分においても民法第389条第1項が適用されると解する余地はある。
       しかしながら、その場合であっても、抵当権の設定後に抵当地に築造された建物を抵当地とともに公売するための差押えは、担保権の実行である以上、通則法第52条第1項に基づく担保物処分のための差押えとして行うものであり、徴収法第47条第1項第1号に基づく滞納処分の執行として行うことはできないと解される。
       したがって、原処分庁の主張は採用できない

(2) 結論

以上によれば、審査請求は理由があるから、本件差押処分を取り消すこととする。

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