(平成29年12月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した土地の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、当該譲渡に係る収入金額の100分の5に相当する金額を当該土地の取得費として、平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をした後、地価公示価格を基に推計した金額を当該土地の取得費とすべきであるなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、上記の推計した金額は当該土地の実額の取得費ではないなどとして更正処分をしたのに対し、請求人が、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
  • ロ 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が、同項各号に掲げる事由により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定し、同項第1号は相続(限定承認に係るものを除く。)等を掲げている。
  • ハ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び同法第61条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費等》の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額(以下「概算取得費」という。)とする旨、ただし、当該金額が同項各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする旨規定し、同項第1号は、その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額を掲げている。
  • ニ 「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4-5ほか国税庁長官通達。以下「措置法通達」という。)31の4-1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》は、措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ F社は、宅地建物取引業者であるところ、請求人の父であるH(以下「父H」という。)に対し、e市f町○-○に所在する260.33平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を売却した。
  • ロ F社は、本件土地について、昭和52年2月15日受付で、「原因」を「昭和41年11月24日売買」、「所有者」を「b市d町○-○ H」とする所有権移転登記を経由した。
  • ハ 父Hは、平成12年5月○日に死亡し、請求人の母であるJ(以下「母J」という。)が、父Hから相続により本件土地を取得し、同年12月6日受付で、その旨の所有権移転登記を経由した。
  • ニ 母Jは、平成17年5月○日に死亡し、請求人が、母Jから相続により本件土地を取得し、同年12月5日受付で、その旨の所有権移転登記を経由した。
  • ホ 請求人は、平成24年12月22日付で、K及びL(以下、これらの者を併せて「本件買主ら」という。)との間で、本件土地を代金○○○○円で売買する旨の不動産売買契約を締結し、平成25年3月12日受付で、本件買主らに対し本件土地を売買したこと(以下「本件譲渡」という。)を原因とする所有権移転登記を経由した。
     なお、本件買主らは、請求人に対し、本件譲渡に係る売買代金として、平成24年12月22日に○○○○円、平成25年1月29日に○○○○円及び同年3月12日に○○○○円を支払った。また、本件買主らは、請求人に対し、本件土地の固定資産税・都市計画税の精算金として、平成25年3月12日に○○○○円を支払った(以下、当該精算金の金額を「本件精算金」という。)。
  • ヘ 上記ロないしホの所有権移転登記については、いずれも本件土地に係る登記簿謄本(閉鎖登記簿謄本を含む。以下「本件登記簿謄本」という。)に記載がある。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件土地の取得費を概算取得費(○○○○円×5%=○○○○円)とし、別表1の「確定申告」欄のとおり、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額を計算して、別表2の「確定申告」欄のとおり、平成25年分の所得税等について法定申告期限までに確定申告をした。
     なお、請求人は、本件譲渡所得の金額の計算において、本件精算金を収入金額に含めていなかった。
  • ロ 請求人は、平成28年7月14日、地価公示価格を基に推計した金額20,000,000円等を本件土地の取得費とすべきであるなどとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり、本件譲渡所得の金額を計算し、別表2の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求をした。
  • ハ 原処分庁は、上記ロの更正の請求に対し、平成28年11月8日付で、1請求人が推計した取得費の金額は実額の取得費ではないことから認められないこと、2本件精算金は本件譲渡所得に係る収入金額に含まれるものであること、3本件土地に係る概算取得費は本件精算金を含めた収入金額により計算した金額(○○○○円×5%=○○○○円)によるべきであること及び4本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき譲渡費用について一部計上漏れが認められることなどを理由として、別表1の「更正処分」欄のとおり、本件譲渡所得の金額を計算し、別表2の「更正処分」欄のとおり、減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
  • ニ 請求人は、本件更正処分に不服があるとして、平成28年12月8日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成29年3月3日付で、別表2の「再調査決定」欄のとおり、棄却の再調査決定をした。
  • ホ 請求人は、再調査決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成29年3月6日に審査請求をした。

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2 争点

本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の金額はいくらとなるか。

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件土地は、昭和52年に、父HがF社から売買により取得したものであるところ、その当時の売買契約書等の書類は見当たらないが、そのことを理由として、取得費を措置法第31条の4第1項の規定に準じて概算取得費により算定すべきではない。本件土地に係る取得費の金額は、本件土地周辺の土地価格に関する情報を使って合理的に算定すべきであるから、地価公示価格を基に推計した20,000,000円とすべきである。 本件土地は、昭和41年11月24日に、父Hが取得したものであるところ、本件土地の取得に要した金額の実額は不明であるから、その取得費の金額は、措置法第31条の4第1項の規定に準じて算定した概算取得費である○○○○円とすべきである。
 なお、請求人が取得費であると主張する金額は、飽くまで請求人が推計した昭和52年時点における本件土地の取得費であって、本件土地の実際の取得費ではないことから、取得費と認めることはできない。

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4 当審判所の判断

(1) 父Hの本件土地の取得費の金額について

  • イ 当審判所の調査によれば、本件土地に関し、その売主であるF社が作成した「土地台帳」と題する書面(以下「本件土地台帳」という。)の存在が認められるところ、本件土地台帳には、要旨、別表3のとおりの記載があることから、その記載内容の信用性について検討する。
    • (イ) 本件土地台帳には、本件土地の所在地番として「e市f町○-○」と記載されているほか、その下部には「H」「b市d町○-○」との記載があり、土地の地積として「264平方メートル」(ただし、地積変更精算金の摘要欄において260.33平方メートルへ変更されている。)との記載がある。これらの記載内容は、本件登記簿謄本に記載のある本件土地の所在「e市f町○-○」地積「弐六〇.参参平方メートル」の記載内容と一致していることから、本件土地台帳に記載の土地が本件土地であることに疑いの余地はない。
    • (ロ) その上で、本件土地台帳におけるその余の記載や本件登記簿謄本に記載のある受付年月日等をみても、本件土地台帳上の昭和41年11月10日に父Hから手付金○○○○円の支払があった旨、及び同月24日に父Hから内金○○○○円の支払があった旨の記載は、本件登記簿謄本上の「昭和41年11月24日売買」の記載と、さらに、本件土地台帳上の「ローン契約 ○○年○○回払」との記載は、本件登記簿謄本上、所有権の移転原因が「昭和41年11月24日売買」でありながら所有権移転登記の受付がその10年経過後の「昭和52年2月15日」である事実とおおむね整合している。
    • (ハ) 加えて、本件土地台帳は、宅地建物取引業法により帳簿の備付け義務があるF社が、通常業務の過程で作成したものであり、書面の性質上、取引内容が正確に記載されている蓋然性が高い。
    • (ニ) 以上のことからすると、本件土地台帳の記載内容の信用性は極めて高い。
       したがって、本件土地台帳は、その記載どおりの事実があったことが推認でき、当該推認を妨げる事情が認められない限り、その記載どおりの事実を認めるのが相当である。
  • ロ 後記(3)及び(4)で述べるとおり、原処分庁及び請求人のいずれの主張も、上記イの(ニ)の推認を妨げるような事情とは認められず、また、当審判所の調査においても当該推認を妨げるような事情は認められないことから、本件土地台帳により、以下の事実を認めるのが相当である。
    • (イ) F社は、昭和41年11月24日、本件土地を父Hに対し代金○○○○円で売却した。
    • (ロ) 父Hは、売買代金として、F社に対し、1昭和41年11月10日に手付金として○○○○円、2同月24日に内金として○○○○円及び3同年12月9日に残金として○○○○円を支払った。
    • (ハ) 本件土地の売買代金は、本件土地の地積が80坪で、坪単価○○円であることを前提としていたが、昭和41年12月21日、本件土地の地積が80坪ではなく78.75坪であることが判明したため、地積変更に伴う売買代金の精算金○○○○円が生じた。そのため、F社は、昭和42年1月16日、父Hに対し、当該精算金を支払った。
  • ハ 所得税法第38条第1項は、資産の取得費について、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定しているところ(上記1の(2)のイ)、父Hが本件土地の取得に要した金額は、上記ロの(ロ)の売買代金の合計額○○○○円から、同(ハ)の地積変更に伴う精算金○○○○円を控除した○○○○円であると認められ、また、父Hがほかに改良費等を支払った事実は認められないことからすると、父Hの本件土地の取得費の金額は○○○○円であると認められる。

(2) 請求人の本件土地の取得費の金額について

  • イ 相続により取得した場合の本件土地の取得費の金額について
     所得税法第60条第1項は、相続により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定しているところ(上記1の(2)のロ)、請求人は、上記1の(3)のニのとおり、本件土地を母Jから相続により取得し、また、母Jは、同ハのとおり、本件土地を父Hから相続により取得したことから、結局、本件譲渡所得の金額の計算上、請求人が本件土地を引き続き所有していたものとみなされることとなる。そして、上記(1)のハのとおり、父Hの本件土地の取得費の金額は○○○○円であると認められるところ、当該金額に加えて本件土地の取得に要した金額は認められないことからすると、請求人の本件土地の取得費の金額は○○○○円であると認められる。
  • ロ 概算取得費について
     措置法通達31の4-1は、昭和28年1月1日以後に取得した土地等の取得費について、措置法第31条の4第1項の規定に準じて計算して差し支えないものとする旨定めており、昭和27年12月31日以前に取得した土地等の取得費と、昭和28年1月1日以後に取得した土地等の取得費とで、納税者の利益に反しない限り、計算方法を異にしなければならない特段の理由は存しないことから、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
     本件についてみると、本件譲渡所得に係る収入金額は、上記1の(3)のホの本件譲渡に係る売買代金○○○○円及び本件精算金○○○○円の合計額○○○○円であることから、本件土地の概算取得費は○○○○円となるところ、この金額は、上記イの本件土地の取得費の金額○○○○円に満たないことから、本件土地に係る概算取得費を本件土地の取得費と認めることは、納税者の利益に反することとなり相当でない。
  • ハ 小括
     したがって、本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の金額は○○○○円となる。

(3) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の主張に加えて、1本件土地台帳に記載された金額○○○○円は、原処分庁が調査により把握した金額ではなく、本件土地台帳の記載のみをもって本件土地の取得費そのものであるとまでは認められない旨及び2請求人が主張する本件土地の取得費は、飽くまで推計額であるところ、上記1の金額○○○○円は、請求人が本件土地に係る取得費として主張立証する金額ではない旨主張する。
 しかしながら、本件土地台帳は、上記(1)のイのとおり、その記載内容の信用性は高く、記載内容どおりの事実を認定できることからすると、この点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。

(4) 請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件土地は父Hが昭和52年に取得したものであり、その取得費の金額は地価公示価格から推計した20,000,000円である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロ及びハのとおり、父Hの本件土地の取得年月日及び取得費の金額が明らかであるところ、請求人が主張する取得年は、登記が受け付けられた年にすぎず(上記1の(3)のロ)、また、取得費の金額は推計したものにすぎないことから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(5) 本件更正処分の適法性について

以上のとおり、本件土地の取得費の金額は○○○○円であり、これに基づき当審判所が認定した請求人の平成25年分の分離長期譲渡所得の金額は、別表4のとおり○○○○円となり、また、所得税等の納付すべき税額は、別表5のとおり○○○○円となる。
 そうすると、これらの金額は、本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
 なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(6) 結論

よって、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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