(平成29年10月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請け負った公共工事について事業年度末までに未完成であるとして、当該工事に係る請負代金の額を未成工事受入金として経理して法人税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該工事は当該事業年度末までに完成し引渡しているから、当該工事に係る請負代金の額から消費税等の額を控除した額を当該事業年度の益金の額に算入すべきであるなどとして、法人税等の各更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該工事は翌事業年度においても現場管理を継続していたのであるから、未完成であり当該事業年度の益金の額に算入すべきではないとして、原処分の全部の取消しを求めるとともに、併せて延滞税の減額を求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 法人税法等
    • (イ) 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨、同条第3項第1号は、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額を当該事業年度の損金の額に算入すべき金額とする旨、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
    • (ロ) 法人税基本通達(昭和44年5月1日直審(法)25国税庁長官通達)2-1-5《請負による収益の帰属の時期》は、請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定めている。
    • (ハ) 法人税基本通達2-1-6《建設工事等の引渡しの日の判定》は、同通達2-1-5の場合において、請負契約の内容が建設、造船その他これらに類する工事(以下「建設工事等」という。)を行うことを目的とするものであるときは、その建設工事等の引渡しの日がいつであるかについては、例えば作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする旨定めている。
  • ロ 消費税法等
    • (イ) 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第28条《課税標準》第1項本文は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする旨規定している。
    • (ロ) 消費税法基本通達(平成7年12月25日課消2-25ほか国税庁長官通達)9-1-5《請負による資産の譲渡等の時期》は、請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする旨定めている。
    • (ハ) 消費税法基本通達9-1-6《建設工事等の引渡しの日の判定》は、請負契約の内容が建設工事等を行うことを目的とするものであるときは、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等、当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して資産の譲渡等を行ったこととしている日によるものとする旨定めている。
  • ハ 民法
    • (イ) 民法第624条《報酬の支払時期》第1項は、労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない旨規定している。
    • (ロ) 民法第633条《報酬の支払時期》は、報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない旨及び物の引渡しを要しないときは、同法第624条第1項の規定を準用する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、土木工事の設計施工及び請負業等を営む法人である。
  • ロ 請求人は、平成26年10月1日付で、a市(以下「本件発注者」という。)との間で、「○・○国補街路第○号a駅○○」に係る建設工事請負契約(以下「本件当初契約」という。)を締結した。
     なお、本件当初契約における請負代金の額は、本体価額○○○○円及びこれに対する消費税等の額○○○○円の合計○○○○円であり、工期は、平成26年10月2日から平成27年3月31日までであった。
  • ハ 請求人は、平成27年3月25日付で、本件発注者との間で、工事内容の変更及びバリケード設置の追加等に伴い、本件当初契約の一部を変更する変更契約(以下「本件変更契約」といい、本件当初契約と併せて「本件請負契約」という。また、本件請負契約に係る工事を「本件工事」という。)を締結した。
     本件変更契約により、本件請負契約における請負代金の額は、本体価額○○○○円(以下「本件請負代金の額」という。)及びこれに対する消費税等の額○○○○円の合計○○○○円に変更されたが、工期は変更されなかった。
  • ニ 請求人は、平成27年3月27日、本件発注者に対し、本件工事に係る竣工届(以下「本件竣工届」という。)を提出した。
     なお、本件竣工届には、竣工年月日欄に「平成27年3月27日」と記載されていた。
  • ホ 本件発注者は、本件工事の完了検査を行い、平成27年3月31日付で請求人に対して本件工事に係る工事検査通知書(以下「本件工事検査通知書」という。)を送付した。
     なお、本件工事検査通知書には、完了年月日欄に「平成27年3月31日」及び検査員の判定欄に「合格」とそれぞれ記載されていた。
  • ヘ 請求人は、平成26年10月2日付及び平成27年3月31日付で、本件発注者に対し、本件工事に係る各請求書を発行し、平成26年10月15日に○○○○円及び平成27年4月28日に○○○○円をそれぞれ受領した。
  • ト 請求人は、平成26年7月1日から平成27年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、本件請負代金の額及び消費税等の額の合計額○○○○円を未成工事受入金勘定に計上し、本件請負代金の額を売上げとして益金の額に算入しなかった。また、本件工事に係る工事原価の額41,029,466円(税抜金額)を未成工事支出金勘定に計上し、完成工事原価として損金の額に算入しなかった。
  • チ 請求人は、平成26年7月1日から平成27年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)において、本件請負代金の額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入しなかった。
     なお、本件工事に係る未成工事支出金のうち、課税仕入れの対象となる金額については、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に算入していた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件事業年度の法人税及び本件課税期間の消費税等について、各確定申告書に別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分庁は、請求人は、本件事業年度末までに本件工事を完成し、引渡しを完了しているから、本件請負代金の額を本件事業年度の売上げとして益金の額に算入するとともにそれに係る完成工事原価の額を損金の額に算入すべきであり、また、本件請負代金の額を本件課税期間の課税標準額(課税資産の譲渡等の対価の額)に算入すべきであるなどとして、平成28年10月7日付で、別表1及び別表2の各「更正処分等」欄記載のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件法人税賦課決定処分」という。)並びに本件課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、また、本件法人税更正処分及び本件消費税等更正処分が早期に行われていれば当該各処分に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)を減額できたとして、平成28年10月21日に審査請求をした。

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2 争点

本件請負代金の額は、本件事業年度の益金の額に算入されるか否か、また、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入されるか否か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁の主張

  • イ 法人税基本通達2-1-5は、請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定め、同通達2-1-6は、同通達2-1-5の場合において、請負契約の内容が、建設工事等を行うことを目的とするものであるときは、その建設工事等の引渡しの日がいつであるかについては、当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする旨定めている。
     また、消費税法基本通達9-1-5及び同通達9-1-6は、上記法人税基本通達2-1-5及び同通達2-1-6と同旨をそれぞれ定めている。
  • ロ 本件においては、1請求人が、本件発注者に対し、本件竣工届を提出して、本件工事が完了した日を平成27年3月27日と届け出ていたこと、2本件発注者が、本件工事の完了年月日を同月31日と記載した本件工事検査通知書を請求人に送付していたこと、3本件請負代金の額及び消費税等の額から前払金○○○○円を除いた残額○○○○円が、同年4月28日に本件発注者から請求人の預金口座に振り込まれていたこと、4本件発注者の担当者が、同年3月31日に本件工事が完了した旨申述していることからすると、本件工事について、同日までには引渡しが完了し又は約した役務の提供が完了しているものと認められる。
     したがって、本件請負代金の額は、所得金額の計算上本件事業年度の益金の額に算入され、また、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入される。
  • ハ 請求人は、仮に本件請負代金の額が本件事業年度の益金の額に算入されるとしても、平成27年7月及び同年8月に計上されている工事原価は、本件事業年度の損金の額に算入すべきである旨主張する。しかしながら、当該工事原価は、本件工事の引渡し後に生じた補修工事に係る費用であり、本件事業年度の損金の額に算入すべきではない。
     ただし、本件工事に、引渡し後120日間にわたり第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードを設置することが含まれていた場合には、平成27年4月1日から120日間のバリケードに係る賃借料は、本件工事の完成工事原価として本件事業年度の損金の額に算入することとなる。

(2) 請求人の主張

  • イ 本件工事について、請求人は、平成27年3月27日で本件発注者に対し本件竣工届を提出し、同月31日付で本件発注者から本件工事検査通知書を受領しており、書面上は同日までに工事が全て完了したことになっている。
     しかしながら、全4期のうち第2期工事である本件工事には、本件工事の後に予定されていた第3期工事が開始されるまでの間、本件工事の施工区域及び第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードを設置すること、並びに現場管理、すなわちバリケードを管理し、工事が完了している部分の末端部分などが壊れないように管理及び補修することが工事内容として含まれており、当該工事が、第3期工事が開始される平成27年9月まで継続して行われていたため、本件工事は、実際には同年6月末までに全て完了していなかった。
  • ロ 工事の完了とは、工事に係る工事原価が出尽くした段階をいうと解されるところ、本件工事の工事台帳には、本件工事の瑕疵に係る補修工事の費用、バリケードの設置費用及び現場管理の費用が平成27年8月末まで継続して計上されていた。請求人は、実際に、本件発注者の担当者から、第3期工事の受注業者が決まるまで、引き続きバリケードの設置及び現場管理をするよう指示されていたものであり、また、当該工事に係る工事代金の額は、本件請負代金の額に含まれている旨の説明を受けていた。
     したがって、本件工事が平成27年8月末まで継続していたことから、本件請負代金の額は、本件事業年度の益金の額に算入されず、また、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入されない。
  • ハ 仮に本件請負代金の額が、本件事業年度の益金の額に算入されるとしても、平成27年7月及び同年8月に計上されている工事原価1,726,197円は、本件工事の瑕疵に係る補修工事の費用、バリケードの設置費用及び現場管理の費用であるから、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(本件請負代金の額は、本件事業年度の益金の額に算入されるか否か、また、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(法人税法第22条第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条第4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解される(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5,278頁参照)。
       ところで、請負代金を支払う時期については、民法第633条及び同法第624条によれば、仕事の目的物の引渡しを要する場合は引渡しと同時に、引渡しを要しない場合は仕事の完成時とされている。そうすると、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した仕事の全部を完了した日に請負代金を請求することができ、収入すべき権利が確定したといえるから、請負に係る収益は、原則として、その日の属する事業年度の益金の額に算入すべきものと解するのが相当である。
       そして、法人税基本通達2-1-5及び同通達2-1-6は、建設工事等を行うことを目的とする契約内容の請負による収益の帰属の時期についての取扱いを定めているところ、これらの取扱いは上記に沿うものであり、当審判所においても相当と認める。
    • (ロ) 消費税法第28条第1項は、課税資産の譲渡等に係る課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする旨、同法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定しており、また、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第7号は、消費税の納税義務は、課税資産の譲渡等をした時に成立する旨規定している。
       そして、消費税法基本通達9-1-5及び同通達9-1-6は、建設工事等を行うことを目的とする契約内容の請負による資産の譲渡等の時期についての取扱いを定めているところ、これらの取扱いは、上記(イ)の法人税基本通達2-1-5及び同通達2-1-6による取扱いを踏まえて同様の取扱いを定めたものであり、当審判所においても相当と認める。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件工事は、全4期にわたるa駅○○の街路整備工事の第2期工事であり、具体的には、本件工事に先行した第1期工事の施工区域(バス乗り場及び一般車両の乗降場所並びに駅前ロータリー)を取り囲む歩行者用通路のタイル設置工事を主たる工事内容とし、他に、標識、照明、縁石及び植栽等の設置工事であった。
       その後、本件変更契約により、本件当初契約に係るバス乗り場周辺の歩行者用通路のタイル設置工事の範囲の縮小、縁石の材料のレンガ及び植栽工事の樹種の変更、並びにインターロッキングブロックの撤去が追加されたほか、本件工事の引渡し後120日間にわたり第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードを設置することが追加された。
       なお、上記120日間のバリケードの使用料は本件請負代金の額に含まれるものとされたが、その間の現場管理及びバリケードの撤去は、本件請負契約の内容に追加されなかった。
    • (ロ) 請求人は、平成27年3月27日までに、第1期工事の施工区域を取り囲む歩行者用通路のタイル設置工事並びに標識、照明、縁石、植栽等の設置工事及びインターロッキングブロックの撤去を完了した。
    • (ハ) 請求人は、G社からバリケードを賃借し、平成27年3月27日までに、第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードを設置した。
    • (ニ) 本件発注者は、平成27年3月31日以降、本件工事の施工区域及び第3期工事の予定区域を含むa駅○○(以下、「本件施工区域等」という。)の管理をしており、市民からバリケードが倒れているとの通報があった場合などには対応していた。
    • (ホ) 請求人は、G社から平成27年7月31日付で請求があった同月1日から同月31日までの期間に係る上記(ハ)のバリケードの賃借料(31日間、○台、単価○円)○○○○円(税抜金額)を、本件工事に係る完成工事原価として本件事業年度の損金の額に算入しなかった。
  • ハ 検討
    • (イ) 上記1(3)ロ及びハ並びに上記ロ(イ)によれば、本件請負契約は物の引渡しを要する請負契約であると認められるから、本争点を判断するに当たっては、請求人が、本件工事について、その目的物の全部を完成して本件発注者に引き渡した日はいつかとの観点から、以下、検討する。
    • (ロ) 上記ロ(イ)のとおり、本件工事は、第1期工事の施工区域を取り囲む歩行者用通路のタイル設置工事等を工事内容とし、その後、タイル設置工事範囲等の変更や第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードの設置等が追加されたものであるところ、請求人が、上記ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、平成27年3月27日までに、歩行者用通路のタイル設置工事等を全て完了し、第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードも設置した上で、上記1(3)ニのとおり、本件発注者に対して竣工年月日を「平成27年3月27日」と記載した本件竣工届を提出したこと、上記1(3)ヘのとおり、平成27年3月31日付で、本件発注者に対し、本件請負代金の額及び消費税等の額から前払金を除いた残額を請求したことが認められる。さらに、本件発注者が、上記1(3)ホのとおり、同日付で、本件工事の完了年月日を「平成27年3月31日」と記載した本件工事検査通知書を請求人に対して送付したこと、上記ロ(ニ)のとおり、平成27年3月31日以降、本件発注者が本件施工区域等の管理をしていたことを総合勘案すると、請求人は、本件工事について、同日までに、本件請負契約に係る目的物の全部を完成して、同日、本件発注者に引き渡したものと認められる。
       したがって、本件請負代金の額は、平成27年3月31日の属する本件事業年度の益金の額に算入するのが相当である。
    • (ハ) 上記イ(ロ)のとおり、課税資産の譲渡等の対価の額に算入すべき時期については、法人税法等における取扱いと同様に解するのが相当であるところ、上記(ロ) のとおり、請求人は、本件工事について、平成27年3月31日までに、本件請負契約に係る目的物の全部を完成して、同日、本件発注者に引き渡したものと認められる。
       したがって、本件請負代金の額は、平成27年3月31日の属する本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入するのが相当である。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件工事には、バリケードを設置すること及び現場管理(バリケードを管理し、工事が完了している部分の末端部分などが壊れないように管理及び補修すること)が含まれており、当該工事が平成27年9月まで継続していたため、本件工事は、実際には同年6月末までに全て完了していなかった旨主張する。
       しかしながら、バリケードの設置を含め、本件工事が平成27年3月31日までに完了していたことは上記ハのとおりであり、当審判所の調査によっても、上記ロ(イ)及び(ニ)のとおり、本件発注者が本件施工区域等を管理しており、請求人が主張する現場管理が本件工事に含まれていたこと及び請求人が平成27年9月まで継続して現場管理をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、請求人の主張は採用できない。
    • (ロ) 請求人は、工事の完了とは、工事に係る工事原価が出尽くした段階をいうと解される旨主張するが、このような解釈は、請求人の独自の解釈であり採用できない。
    • (ハ) 請求人は、仮に本件請負代金の額が本件事業年度の益金の額に算入されるとしても、平成27年7月及び8月に計上されている工事原価1,726,197円は、本件工事の瑕疵に係る補修工事の費用、バリケードの設置費用及び現場管理の費用であるから、本件事業年度の損金の額に算入すべきである旨主張し、当該主張を裏付ける証拠として、当該費用の請求書及び現場管理内容の月報等を提出した。
       しかしながら、請求人が提出した証拠資料からは、請求人が主張する上記金額(後記(2)イに記載する本件工事に係るバリケードの賃借料を除く。)が本件工事に係る完成工事原価であると認めることはできず、当審判所の調査によってもこれを認めるに足りる証拠はない。
       したがって、請求人が主張する上記金額(後記(2)イに記載する本件工事に係るバリケードの賃借料を除く。)については、本件工事に係る完成工事原価として本件事業年度の損金の額に算入されず、請求人の主張は採用することができない。

(2) 本件法人税更正処分の適法性について

  • イ 本件事業年度の所得金額について
     以上審理したところによれば、本件法人税更正処分は、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
     しかしながら、上記(1)ロ(イ)のとおり、本件工事には、本件工事の引渡し後120日間にわたり第3期工事の予定区域を囲うためにバリケードを設置することが含まれ、また、当該バリケードの設置期間に係る使用料に対応する工事代金の額は、本件請負代金の額に含まれていたことが認められるところ、請求人は、上記(1)ロ(ホ)のとおり、平成27年7月1日から同月31日までの期間に係る当該バリケードの賃借料○○○○円(税抜金額)を、本件工事に係る完成工事原価として本件事業年度の損金の額に算入しなかった。
     ところで、法人税法第22条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項第1号に規定する当該事業年度の収益に係る完成工事原価等の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される旨規定しているところ、原価については、収益との個別対応の原則(費用収益対応の原則)を採るのが公正妥当と認められる会計処理の基準と解される。
     本件においては、請求人が設置したバリケードの使用料を含む本件請負代金の額が、本件工事の引渡しをした平成27年3月31日の属する本件事業年度の益金の額に算入されることからすると、本件請負契約により定められた期間に係るバリケードの賃借料は、請求人の本件事業年度の損金の額に算入すべきである。そして、本件請負契約により定められたバリケードの設置期間は、引渡しの翌日である平成27年4月1日から同年7月29日までの120日間であるから、上記(1)ロ(ホ)の同年7月1日から同月31日までの期間に係る賃借料○○○○円(税抜金額)のうち、同年7月1日から同月29日までの期間に係る賃借料○○○○円(税抜金額)は、請求人の本件事業年度の損金の額に算入すべきものということになる。
     そこで、当審判所において、請求人の本件事業年度の所得金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
  • ロ 法人税の納付すべき税額について
     上記イを前提に、当審判所において、請求人の本件事業年度の法人税の納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、本件法人税更正処分の金額を下回る。
     なお、本件法人税更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は見当たらない。
     したがって、本件法人税更正処分は、その一部が違法であり、その一部を取り消すべきである。

(3) 本件消費税等更正処分の適法性について

本件請負代金の額は、上記(1)ハのとおり、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入される一方、上記(2)イの賃借料○○○○円(税抜金額)は平成27年7月1日から同月29日までの期間に係るものであって、本件課税期間に係るものではないから、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項の規定により本件課税期間において控除することはできない。そして、当審判所においても、請求人の本件課税期間の消費税等の納付すべき税額は、本件消費税等更正処分における納付すべき額と同額であると認められる。
 なお、本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は見当たらない。
 したがって、本件消費税等更正処分は適法である。

(4) 本件法人税賦課決定処分の適法性について

本件法人税更正処分は、上記(2)のとおり、その一部を取り消すべきであるが、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額は、同額となり、それ以外の点は通則法第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項の所定の要件を充足する。
 また、この税額の計算の基礎となった事実が本件法人税更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、当審判所において、本件事業年度の法人税の過少申告加算税の額を計算すると、本件法人税賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件法人税賦課決定処分は適法である。

(5) 本件消費税等賦課決定処分の適法性について

本件消費税等更正処分は、上記(3)のとおり、適法であり、それ以外の点は通則法第65条第1項及び第2項の所定の要件を充足する。
 また、本件消費税等更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、当審判所において、本件課税期間の消費税等の過少申告加算税の額を計算すると、本件消費税等賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件消費税等賦課決定処分は適法である。

(6) 本件延滞税に対する審査請求の適法性について

請求人は、本件延滞税の減額を求めているが、延滞税は通則法第15条第3項第6号及び同法第60条《延滞税》第1項各号の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 したがって、請求人の本件延滞税の減額を求める審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらずなされたものであって、不適法なものである。

(7) 結論

以上によれば、本件法人税更正処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消し、その他の原処分に対する審査請求は、理由がないから、いずれも棄却することとし、本件延滞税の減額を求める審査請求は、不適法であるから、却下する。

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