(平成29年10月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、取得した機械装置について、租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第42条の6《中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》第1項の規定を適用し、普通償却費の額及び特別償却費の額の合計額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該機械装置は販売者において販売のための展示及び実演に使用されており、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」には当たらないから、当該特別償却費の額は損金の額に算入されないなどとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該機械装置は請求人が取得するまで固定資産として使用されたことはなく、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に当たるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

措置法第42条の6第1項は、同法第42条の4《試験研究を行った場合の法人税額の特別控除》第2項に規定する中小企業者又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するもの(以下「中小企業者等」という。)が、平成10年6月1日から平成29年3月31日までの期間(以下「指定期間」という。)内に、政令で定める規模の機械及び装置等(以下「特定機械装置等」という。)でその製作の後事業の用に供されたことのないものを取得し、これを国内にある当該中小企業者等の営む製造業、建設業その他政令で定める事業(以下「指定事業」という。)の用に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度の当該特定機械装置等の償却限度額は、法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項の規定にかかわらず、当該特定機械装置等の普通償却限度額と特別償却限度額との合計額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、精密板金加工並びに空調機器の加工及び組立等を営む法人である。
  • ロ 請求人は中小企業者等に該当し、また、請求人の営む事業は、いずれも製造業として指定事業に該当する。
  • ハ E社(以下「本件販売者」という。)は、主として○○等を行う法人である。
  • ニ 本件販売者は、平成26年10月に作成された○○及び○○(以下「本件機械装置」という。)を、棚卸資産として管理しながら、同種の機械装置の販売促進のため、同月30日から同年11月4日までの間はFで開催されたGにおいて、その後、同月6日から請求人に納品されるまでの間は本件販売者の複数の展示場(以下、Fと併せて「本件各展示場」という。)において、それぞれ本件機械装置を展示し、来場者の要請に応じて、ステンレス及び鉄の切断加工の実演に使用した。
  • ホ 請求人は、平成27年10月27日、本件販売者との間で、本件機械装置を60,000,000円(税抜金額)で購入する旨の売買契約を締結し、同年12月25日、本件機械装置の納品を受けた。本件機械装置は、特定機械装置等に該当するものであった。
  • ヘ 請求人は、指定期間内である平成28年1月31日に、本件機械装置を上記イの事業に係る切断加工作業に使用することにより事業の用に供した。
  • ト 請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、本件機械装置について、本件販売者から購入した代金の額60,000,000円及び本件機械装置を事業の用に供するために要した電源工事の費用の額500,000円(税抜金額)との合計額60,500,000円を取得価額として機械装置勘定に計上した。
  • チ 請求人は、本件機械装置について、措置法第42条の6第1項に規定する各要件を充足するとして、本件機械装置に係る普通償却費の額3,025,000円及び特別償却費の額18,150,000円との合計額21,175,000円を減価償却費として、本件事業年度の損金の額に算入した。
  • リ 請求人は、本件事業年度の法人税及び平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、いずれも青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ヌ 原処分庁は、平成28年12月26日付で、本件機械装置が措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」ではないから同項の規定による特別償却の対象にはならないなどとして、別表1の「更正処分等」欄記載のとおりの、法人税及び地方法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ル 請求人は、上記ヌの各処分を不服として、平成29年1月6日に審査請求をした。

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2 争点

本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当するか否か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁の主張

本件機械装置が措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当するか否かは、その実態に即して判断されるべきである。
 本件機械装置は、平成26年10月に製作された後、平成27年12月に請求人が取得するまでの間、本件販売者により、本件各展示場において、展示及び実演に使用されていた。そして、本件機械装置は、通常の販売価格と比較して相当安価で販売され、納品の際にエアクリーンユニット及びコンプレッサー等の部品の交換も行われた。これらの経緯からすると、本件機械装置は、いわゆる新品には当たらない。
 かかる実態に即して判断すれば、本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」には該当しない。

(2) 請求人の主張

措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、いわゆる新品と同義であり、その製作の後、製作者又は製作者から取得した者の下で固定資産として使用されたことのないものをいうものと解すべきである。
 本件機械装置は、販売目的で製作された後請求人が取得するまでの間、本件販売者の固定資産として使用されたことはなく、棚卸資産として管理されており、その間に資産価値が減少したとはいえない。そして、請求人は、本件販売者による1年間の保証の下、本件機械装置を新品として同社から直接取得した。なお、本件機械装置の価格が通常の販売価格と比較して相当安価であったことは、請求人と本件販売者との間の値段交渉の結果にすぎないから、このことをもって本件機械装置が新品でなかったということにはならない。
 したがって、本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当する。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当するか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件機械装置は、平成26年11月及び12月並びに平成27年2月、3月及び4月の各月において、実演によって消耗した部品の交換が行われ、また、請求人と本件販売者が本件機械装置に係る売買契約を締結した平成27年10月にはコンプレッサーの交換が行われ、さらに、本件機械装置が請求人に納品された平成27年12月にはエアクリーンユニットの交換が行われたことが認められる。
  • ロ 検討
    • (イ) 措置法第42条の6第1項は、その適用の要件のうちに、1「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」である特定機械装置等を取得し、2「指定事業の用に供した」ことを掲げている。そして、1の要件に係る「事業」について「指定事業」というような限定がされておらず、事業を営んでいる者も限定されていないことから、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、特定機械装置等の製作者及び特定機械装置等を取得した販売者(以下「販売者等」という。)において使用されたことのない、いわゆる新品であるものをいい、それに該当するかどうかは販売者等における業種、業態、その資産の構成及び使用の状況に係る事実関係を総合的に勘案して判断することになる。
    • (ロ) これを本件機械装置についてみると、本件販売者は主として○○等を行う法人であり、本件機械装置は本件販売者の主たる取扱商品であるところ、本件機械装置は、上記1(3)ニのとおり、平成26年10月に製作された後、請求人に納品されるまでの間1年以上にわたり、本件各展示場において展示され、来場者の要請に応じて、ステンレス及び鉄の切断加工の実演に使用されていたこと、上記イのとおり、平成26年11月から平成27年4月までの半年間は毎月のように部品交換が行われた上、コンプレッサー及びエアクリーンユニットの交換が行われたことが認められ、また、このような展示及び実演に供された期間や部品交換の状況に照らせば、本件各展示場における展示及び実演は、相当程度に本件機械装置の消耗を伴うものであったことが窺われる。
       これらの事情を総合的に勘案すると、本件機械装置は、平成26年10月に製作された後請求人に納品されるまでの間、本件販売者において使用されていたというべきである。
       したがって、本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当しない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(2)のとおり、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、その製作の後、販売者等の下で固定資産として使用されたことのないものをいうのであって、本件機械装置は、販売目的で製作された後請求人が取得するまでの間、固定資産として使用されたことはなく、本件販売者の棚卸資産として管理されており、その間に資産価値の減少はないこと、また、請求人が本件販売者による1年間の保証の下、同社から新品として直接取得したことから、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当する旨主張する。
     しかしながら、上記ロ(イ)のとおり、「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」とは、販売者等において使用されたことのない、いわゆる新品であるものをいうのであって、販売者等が固定資産として取り扱ったか否かが不可欠の要件とは解されない。また、上記イのとおり、本件機械装置は本件販売者において一部部品の交換を行いつつ実演展示され、コンプレッサー等を交換した上で請求人に納品されたことからすれば、本件機械装置が請求人に納品されるまでの間に資産価値の減少がなかったとはいえない。そうすると、本件機械装置の取得の態様が請求人の主張するようなものであったとしても、上記ロの判断を左右するものではないから、請求人の主張は採用することができない。

(2) 本件各更正処分の適法性について

上記(1)ロのとおり、本件機械装置は、措置法第42条の6第1項に規定する「その製作の後事業の用に供されたことのないもの」に該当せず、同項の規定が適用されない。また、原処分関係資料によれば、措置法第42条の12の4《雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除》の規定に基づき本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された明細書に記載された法人税額の特別控除額は13,920円であると認められ、同条第4項によれば、更正処分において法人税額の特別控除額を増額することはできないと解されるから、本件事業年度における法人税額の特別控除額は13,920円となる。
 以上に基づき、請求人の本件事業年度における所得金額及び納付すべき税額並びに本件課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額を計算すると、別表2のとおり、いずれも本件各更正処分の金額と同額又は上回ることが認められる。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第1項所定の要件を充足するところ、これらの処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がこれらの処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件事業年度及び本件課税事業年度の過少申告加算税の額は、いずれも本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であることが認められる。
 なお、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、ほかに取り消すべき事由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

以上によれば、審査請求は理由がないから、いずれも棄却する。

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