(平成30年1月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁に対して納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人において、当該猶予の申請に係る事項の調査のための質問に対して答弁せず、また、預金通帳の提示の求めに応じず上記調査のための帳簿書類その他の物件の検査を拒むなどしたことから、当該猶予の申請を不許可とする処分をし、当該猶予の申請に係る国税について督促処分をしたことに対し、請求人が、上記質問に対して答弁しており、また、上記検査を拒むなどしていないとして、原処分の全部の取消しを求めたものである。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、「D」の屋号で、e市f町○−○において、コーヒーのパック詰め等の加工業並びに茶及びコーヒーの販売業を営んでいた。
  • ロ 原処分庁は、平成29年2月3日付で別表記載の国税(以下「本件国税」という。)について、各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件更正処分等」という。)を行った。
  • ハ 請求人は、原処分庁に対し、別表記載の本件国税に係る納期限に先立つ平成29年2月20日に、納税の猶予申請書(以下「本件猶予申請書」という。)を提出した(以下「本件猶予申請」という。)。本件猶予申請書には、通則法第46条第2項第3号により、本件猶予申請を行う旨記載されていた。
  • ニ 原処分庁は、平成29年6月9日付で、請求人には通則法第46条の2第10項第2号に該当する事実があるとして、同項の規定により本件猶予申請を許可しない旨の処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
  • ホ 原処分庁は、請求人が別表記載の納期限までに本件国税を納付しなかったため、平成29年6月12日付で、請求人に対し、督促状を送付した(以下「本件各督促処分」という。)。
  • ヘ 請求人は、原処分を不服として、平成29年6月20日、審査請求をした。

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2 争点

請求人は、原処分庁所属の徴収担当職員(以下「徴収担当職員」という。)による本件猶予申請に係る質問に対して答弁せず、又は同職員による帳簿書類その他の物件の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したか。

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3 争点に対する当事者の主張

原処分庁 請求人
徴収担当職員は、請求人に対し、「納税の猶予申請に関する質問」と題する書面(以下「本件質問書面」という。)を送付して質問したり、所有する全ての預金通帳の提示を求めたりしたが、請求人は、上記質問に対して具体的に回答せず、また、預金通帳を提示しなかった。
 したがって、請求人は、徴収担当職員による質問に対して答弁せず、又は同職員による帳簿書類その他の物件の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した。
 なお、徴収担当職員が請求人に対して暴言を吐いた事実はない 。
請求人は、徴収担当職員の呼出しに対応していた。また、請求人は、徴収担当職員に対し、預金通帳を提示していないが、これは、以前に税務申告等を委任していた税理士法人(以下「元関与税理士法人」という。)に預金通帳を預けたところ、当該税理士法人が、当該預金通帳を返却しなかったため、当該預金通帳が手もとになかったことによるものである。
 したがって、請求人は、徴収担当職員による質問に対して答弁しており、また、帳簿書類その他の物件の検査を拒んだり、妨げたり、忌避したりしていない。
 なお、徴収担当職員は、請求人に対し、本件猶予申請について、その取下げを頼んだり、「何を書いても不可なんじゃ。」、「書面書いてこい。」と暴言を吐いたりした。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 財産目録の記載内容等について
     本件猶予申請書には、財産目録(以下「本件財産目録」という。)、収支の明細書及び個人事業の開業・廃業等届出書が添付されており、本件財産目録には、預貯金等の状況として、次のとおり記載されていた(以下、本件財産目録に記載された下記(イ)及び(ロ)の各預金口座を併せて「本件各預金口座」という。)。なお、本件財産目録には、預金通帳の写しなどの本件各預金口座の状況を証する書類が添付されていなかった。
    • (イ) 「E銀行/○○  普 240,000円」
    • (ロ) 「F銀行(○○) 普 500,000円」
  • ロ 請求人と徴収担当職員とのやりとりについて
    • (イ) 徴収担当職員は、平成29年4月26日、請求人との電話において、本件猶予申請に係る調査のために面談したい旨伝えたが、請求人は、本件更正処分等に係る調査手続に対する不満や体調不良を申し立てた上で、一方的に電話を切った。
    • (ロ) 徴収担当職員は、平成29年4月28日、請求人との電話において、請求人の所有する預金通帳の提示を求めた。
    • (ハ) 徴収担当職員は、平成29年5月11日、請求人と面談し、本件猶予申請に係る調査のために、請求人の預金口座の平成28年1月以降の状況を確認したい旨を説明し、請求人の所有する預金通帳の提示を求めた。
       これに対し、請求人は、徴収担当職員に対し、「現在の通帳を閲覧したければ、銀行に行きご自由に。理由 国家権力を用いて行使して下さい。」、「検査拒否に対する罰則の規定はない。」などと記載した書面を提出し、本件更正処分等に係る調査手続や元関与税理士法人への不満を述べたが、預金通帳を提示することはなかった。
    • (ニ) 徴収担当職員は、平成29年5月24日付で、請求人に対し、本件質問書面を送付し、本件国税を納付することができなくなった理由及び経緯等について回答を求めるとともに、「根拠となる資料(金銭出納帳、売掛帳、買掛帳、預金台帳及び領収証書等の猶予該当事実等を明らかにするために必要と認められる一切の帳簿書類)」の提示を求めた。本件質問書面は、同月25日、請求人に送付された。
    • (ホ) 徴収担当職員は、平成29年6月5日、請求人と面談し、同年2月20日までの財産状況に関する書面や所有する預金通帳の提示を求めたが、請求人は、預金通帳について、全て元関与税理士法人が所持しているので、元関与税理士法人を調査すればよいと述べたほか、本件更正処分等に係る調査手続や元関与税理士法人への不満を訴えることに終始し、預金通帳や他の帳簿書類を提示しなかった。
    • (ヘ) 原処分庁は、平成29年6月8日、手書きによる書き込みのほか、請求人の署名押印のある本件質問書面の送付を受けた。当該書面には、預貯金等の状況について「11万 国税局が悪い」との書き込みしかなく、当該書面の書き込みの大半は、本件更正処分等に係る調査手続や元関与税理士法人への不満に関するものであった。また、当該書面には、預金通帳や他の帳簿書類の写しが添付されていなかった。

(2) 検討

  • イ 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予(以下、単に「納税の猶予」という。)の制度は、納税者が事業を廃止したこと等により国税を一時に納付することができないと認められる場合において、その納付することができないと認められる金額を限度として、その国税の一部又は全部の納税を猶予することにより、当該納税者の負担の軽減を図る制度であるが、他方で、納税義務については、早期かつ的確な履行を確保する必要がある。そこで、納税の猶予の制度が適切に実施されるために、同法第46条の2第6項は、納税の猶予の申請に係る事項についての税務署長等の調査義務を規定し、同条第11項は、上記調査のために必要な限度で、当該納税の猶予の申請者本人に対して質問すること及び当該申請者本人の「帳簿書類その他の物件」を検査することができる旨規定する。
     そして、本件通達規定は、通則法第46条の2第11項において規定された検査対象である「その者の帳簿書類その他の物件」について、「納税者の有する金銭出納帳、売掛帳、買掛帳、預金台帳及び領収証書等の猶予該当事実等を明らかにするため必要と認められる一切の帳簿書類」をいう旨定めているところ、この取扱いは、納税の猶予の制度及びその調査のために行われる「帳簿書類その他の物件」の検査の権限に係る上記各趣旨に沿うものであり、当審判所も、これを相当と認める。
  • ロ これを本件についてみると、請求人は、通則法第46条第2項第3号(事業を廃止し、又は休止したこと)を理由に本件猶予申請を行ったこと(上記1の(3)のハ)、本件猶予申請書に添付された本件財産目録には、本件各預金口座が記載されていたこと(上記(1)のイ)からすると、本件猶予申請に係る事項(通則法第46条第2項第3号に該当する事由があること及び本件国税を一時に納付することができないことなど)を明らかにするためには、少なくとも本件各預金口座の状況について調査をする必要があったと認められるから、請求人の所有する預金通帳は、「納税者の有する金銭出納帳、売掛帳、買掛帳、預金台帳及び領収証書等の猶予該当事実等を明らかにするため必要と認められる一切の帳簿書類」(本件通達規定)に該当し、「帳簿書類その他の物件」(通則法第46条の2第11項)に該当すると認められる。そして、本件猶予申請書には、本件各預金口座の状況を証する書類の添付がなかったこと(上記(1)のイ)からすると、徴収担当職員が、請求人に対し、その所有する預金通帳の提示を求めたことは、上記調査をする上で「必要な限度」(通則法第46条の2第11項)にとどまるものであったと認められる。
     しかし、請求人は、上記(1)のロのとおり、徴収担当職員から、平成29年4月28日以降、再三再四、請求人所有の預金通帳の提示を求められたにもかかわらず、徴収担当職員に対し、預金通帳を一切提示しなかったのである。
     したがって、請求人は、徴収担当職員による帳簿書類その他の物件の検査を拒んだものと認められる。
  • ハ これに対し、請求人は、原処分庁から提出を求められた預金通帳について、元関与税理士法人から返却されなかったため提示できなかったものであって、徴収担当職員の検査を拒んだり、妨げたり、忌避したりしてはいない旨主張する。
     しかしながら、仮に、請求人の上記主張のとおり、元関与税理士法人が請求人の所有する預金通帳を返却していないとしても、請求人は、預金通帳を発行した金融機関に対して、預金通帳の再発行の手続や預金口座の異動履歴状況の分かるものの発行の手続をすれば、預金通帳その他預金口座の状況を証する書類を容易に取得できるのであるから、所有する預金通帳の提示を求められた請求人が、上記各手続をせずに、預金通帳その他預金口座の状況を証する書類の提示をしないことは、やはり、徴収担当職員の検査を拒んだものといわざるを得ない。
     したがって、請求人の主張は採用することができない。
  • ニ なお、請求人は、徴収担当職員から本件猶予申請について取下げを頼まれたり、暴言を受けたりしたなどと主張するが、その主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) 原処分の適法性について

  • イ 本件不許可処分
     上記(2)のロのとおり、請求人は、徴収担当職員による帳簿書類その他の物件の検査を拒んだと認められることから、本件不許可処分は、通則法第46条の2第10項第2号の規定の要件を満たす。
     なお、本件不許可処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件不許可処分は適法である。
  • ロ 本件各督促処分
     上記1の(3)のホのとおり、請求人は、本件国税を完納しておらず、本件各督促処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各督促処分はいずれも適法である。

(4) 結論

よって、審査請求には理由がないので、これらを棄却することとする。

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