(平成30年1月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地区画整理組合から交付を受けた換地不交付に対する清算金について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、法定申告期限後に所得税及び復興特別所得税の確定申告書を提出したところ、原処分庁から国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項の規定に基づく重加算税の賦課決定処分を受けたため、請求人には隠ぺい又は仮装と評価できる行為はないとして、当該処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

通則法第68条第2項は、通則法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ a市b町土地区画整理組合(以下「本件組合」という。)は、平成21年9月○日に設立された土地区画整理法第3条《土地区画整理事業の施行》第2項に規定する土地区画整理組合であり、a市b町字dなどを施行地区として、a市b町土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)を施行した。
  • ロ 請求人は、本件事業の施行地区に、別表1の順号1ないし6の各土地を所有していた。
  • ハ 請求人は、本件組合が行った土地区画整理法第103条《換地処分》に規定する換地処分(換地処分の公告は平成○年○月○日にされた。)により、別表1の順号5及び6の各土地については、換地処分後の土地を取得し、また、同法第90条《所有者の同意により換地を定めない場合》に規定する換地不交付の同意をした別表1の順号1ないし4の各土地については、平成27年4月30日に、同法第110条《清算金の徴収及び交付》第1項に規定する清算金○○○○円(以下「本件清算金」という。)を、D信用金庫○○支店の請求人の名義の普通預金口座(口座番号は○○○○であり、以下「本件口座」という。)への振込入金により受領した。
  • ニ  請求人は、本件組合の理事長名で送付された平成27年7月31日付の「清算交付金に伴う確定申告について(お知らせ)」と題する書面(以下「本件お知らせ」という。)及び本件清算金に係る「平成27年分不動産等の譲受けの対価の支払調書」(以下「本件支払調書」という。)を受領した。
     本件お知らせには、本件清算金は分離譲渡所得に該当するため、平成27年分の所得税の確定申告の手続が必要である旨などが記載されていた。また、本件支払調書には、「支払いを受ける者」欄に請求人の住所及び氏名、「換地処分を受けた年月日」欄に平成○年○月○日、並びに「交付された清算金額」欄に本件清算金の額がそれぞれ記載されているほか、「摘要」欄に土地区画整理法第90条による換地不交付である旨や譲渡所得等の課税の特例の適用はない旨などが記載されていた。
  • ホ 請求人は、平成27年中に、本件組合の理事の報酬として、本件組合から○○○○円の支払を受け(E農業協同組合○○支店の請求人の名義の普通貯金口座に振込入金されている。)、本件組合からその報酬に係る源泉徴収票(以下「本件源泉徴収票」という。)を受領した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書を、法定申告期限までに提出しなかった。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成28年10月31日に、請求人の自宅において請求人と面接の上、平成27年分の所得税等に係る調査を開始し、その後、同年11月1日等にも請求人と面接した(以下、この一連の調査を「本件調査」という。)。
  • ハ 請求人は、平成28年11月1日に、平成27年分の所得税等の本税及び加算税(重加算税の割合によって計算されたもの。)を併せた金額に相当する○○○○円を予納し、その後、平成29年1月27日に、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した平成27年分の所得税等の確定申告書を原処分庁に提出した。
  • ニ 原処分庁は、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして、平成29年1月31日付で、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、平成29年2月17日に、請求人には隠ぺい又は仮装と評価できる行為はないとして、本件賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて審査請求をした。

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2 争点

請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
請求人は、本件清算金について確定申告が必要である旨記載された本件お知らせや本件支払調書を受領していたことなどからすれば、本件清算金について所得税等の確定申告をしなければならないことを十分認識していたといえる。
 ところが、請求人は、それにもかかわらず、平成28年2月か3月頃、確定申告会場に行った際、本件清算金を受領した事実を秘匿するために、あえて本件お知らせや本件支払調書を持参せず、本件清算金に係る所得税等の確定申告に関する相談さえしなかった。
 また、請求人は、本件調査において、本件調査担当職員に対し、当初は、本件お知らせや本件支払調書を受領していないなど、事実と異なる申述をし、その後、本件調査担当職員に本件お知らせの存在を把握されると、記憶がないなどと申述した。
 以上によれば、請求人は、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったと認められるから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。
請求人は、本件清算金について確定申告をしなければならないとの認識はあったが、法定申告期限までに所得税等の確定申告をすることを失念してしまった。意図的に申告しなかったわけではない。
 また、確かに、請求人は、確定申告会場に行った際、本件清算金に係る所得税等の確定申告に関する相談はしていないが、本件清算金に係る資料が入った封筒及び本件源泉徴収票は持参していた。
 そして、請求人は、確定申告会場にいた職員と思われる者に対して、本件源泉徴収票を示したところ、本件源泉徴収票に記載された金額のみの収入であれば確定申告が不要である旨の説明を受け、その日は体調が悪かったこともあり、自宅に帰った。
 本件調査担当職員は、本件お知らせなどが入った封筒の中身を確認し、写真撮影するなどしたが、請求人がそれを妨げたことはない。
 以上のとおり、請求人には、隠ぺい又は仮装と評価できる行為はないから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たさない。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度の趣旨は、隠ぺい、仮装という不正手段を用いて、これに基づき期限内申告書を提出しなかった場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者による期限内申告書の提出がされなかったこと(無申告行為)そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為を要する。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 検討

  • イ まず、請求人が、本件清算金について、所得税等の課税の対象となり、所得税等の確定申告を要し、これにより算出された税額を納付しなければならないと認識していたことについては、原処分庁及び請求人との間に争いはない。
  • ロ  次に、原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の第二段落のとおり、請求人が、平成28年2月か3月頃、確定申告会場に行った際、本件清算金を受領した事実を秘匿するために、あえて本件お知らせや本件支払調書を持参せず、本件清算金に係る所得税等の確定申告に関する相談さえしなかったとの事実が認められるとし、当該事実は、同旨の請求人の申述に基づき認められる旨主張する。
     確かに、本件調査担当職員が作成した平成28年11月1日付の質問応答記録書には、請求人が原処分庁の主張する事実と同じ内容を申述した旨の記載があり、請求人が読み聞かせを受けた上で当該質問応答記録書に署名押印したことが認められ、また、請求人が重加算税の賦課を前提とした所得税等の予納をした(前記1の(4)のハ)のは、請求人が上記の申述内容を認めていたからこその行動とも考えられる。
     しかしながら、請求人は、当審判所に対して、確定申告会場に本件清算金に係る資料が入った封筒を持参した旨答述し、上記申述の内容を否定しているところ、上記質問応答記録書における請求人の申述内容をみると、そもそも何のために確定申告会場に行ったのかという点が明らかではないし、本件お知らせや本件支払調書を持参しなかった理由も「国民健康保険料が上がっていたので」としかされていないなど、合理性、具体性に乏しく、本件清算金を受領した事実を秘匿するために、あえて本件お知らせや本件支払調書を持参しなかった旨の申述が直ちに信用できるとはいえない。そして、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が訪れたとする確定申告会場や対応者等を特定することさえできず、請求人の当該申述を裏付ける客観的な証拠も認められない。
     そうすると、上記質問応答記録書に記載された請求人の申述が信用できると判断する根拠がないから、請求人が、本件清算金を受領した事実を秘匿するために、確定申告会場に行った際、あえて本件お知らせや本件支払調書を持参しなかったとの事実を認めることはできない。
     なお、原処分庁が主張するように、仮に、請求人が確定申告会場へ本件お知らせや本件支払調書を持参しなかった事実が認められるとしても、本件清算金についての確定申告をすることは可能であったといえる。また、請求人は、自身が理事を務める本件組合から本件支払調書を受領していたのであるから、本件組合がこれを原処分庁へ提出することは容易に察し得る状況にあったといえる(本件組合は、所得税法第225条《支払調書及び支払通知書》第1項第9号の規定に基づき、原処分庁に対する本件支払調書の提出が義務付けられる。)。そのような状況の下、請求人がこれらの書類を確定申告会場へ持参しなかったとして、本件清算金の受領の事実を秘匿するための行動と評価するのは困難といわざるを得ない。
     したがって、この点についての原処分庁の主張には理由がない。
  • ハ また、原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の第三段落のとおり、請求人が、本件調査において、本件調査担当職員に対し、当初は、本件お知らせや本件支払調書を受領していないなど、事実と異なる申述をした旨も主張する。
     しかしながら、原処分庁の主張する事実関係を前提にしても、請求人は、平成28年10月31日の本件調査の当初から、平成27年中に本件清算金を本件口座への振込入金により受領したことを認めた上で、本件清算金を含む本件事業に係る書類をまとめて入れている封筒の中から取り出した「清算金通知書」などの本件清算金の額が分かる書類や、別途保管していた本件口座に係る預金通帳を提示し、また、一旦は、上記の提示した書類等で本件清算金の額等の確認はできるなどとして、当該封筒を提示することを拒んだものの、結局、その日のうちに当該封筒ごと提示したというのである。
     そうすると、平成28年10月31日の本件調査の全体をみたときに、請求人が、本件清算金を受領した事実やそれに関する本件お知らせ等の資料について隠ぺいしようとする態度を一貫してとっていたとか、調査に非協力的な態度をとったとまではいえない。
     したがって、この点についての原処分庁の主張はその前提を欠くから理由がない。
  • ニ そして、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人は、本件お知らせ及び本件支払調書を含む本件清算金に係る書類を廃棄するなどの行為をしていないこと、本件口座に本件清算金が振り込まれた平成27年4月30日以降本件調査が開始された平成28年10月31日までの間において、本件口座から特段多額の出金はなく、本件清算金を受領した後、これを隠匿しようとするような行為をしていないことがそれぞれ認められる。その他、当審判所の調査によっても、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、当該意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことをうかがわせるような事実は認められない(なお、仮に、請求人が主張するように、確定申告会場に行った際、本件清算金に係る資料を持参したものの、本件清算金についての相談をしなかったとしても、当該意図を外部からもうかがい得る特段の行動と評価することはできない。)。
  • ホ 以上検討したところによれば、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められない。
  • ヘ したがって、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たさない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件は満たさない。そして、当審判所において、請求人の平成27年分の所得税等に係る無申告加算税の額を計算すると、別紙「取消額等計算書」のとおりであると認められる。
 なお、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分は違法である。

(4) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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