(平成30年3月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、農地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、当該農地で農業に従事していた弟に対して支払った金員を、当該農地の譲渡に要した費用として分離長期譲渡所得の総収入金額から控除して所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をし、後に、当該金員の一部を当該農地の譲渡に要した費用から減額する修正申告をしたところ、原処分庁が、当該残金について、当該農地の譲渡に要した費用とは認められず、譲渡所得の金額の計算上、控除できないとして、所得税等の更正処分をするとともに、請求人において、当該確定申告の際に譲渡費用に算入した金員全額を当該農地の譲渡に要した費用であるかのように仮装したとして、上記修正申告及び上記更正処分に係る重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定している。
  • ロ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ハ 所得税法第33条《譲渡所得》第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の資産の譲渡による所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
  • ニ 所得税基本通達33−7《譲渡費用の範囲》は、所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用について、資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいう旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、出生以後、別表1の順号5の建物(以下「d建物」という。)に居住し、高校卒業後は会社員として働いていたが、昭和39年12月に、d建物からa市へ転居した。
  • ロ 請求人の弟であるDは、出生以後、d建物に居住しており、中学卒業後は農業に従事していた。
  • ハ 請求人は、請求人及びDの実父であるEの昭和31年12月○日相続開始に係る相続により、別表1の順号1ないし9の不動産を取得した。また、請求人は、昭和32年4月1日、同表の順号10の土地を売買により取得した(以下、同表の順号1ないし4の土地及びd建物を併せて「d不動産」と、同表の順号6及び7の土地を併せて「e各土地」と、同表の順号8及び9の土地を併せて「f各土地」と、同表の順号10の土地を「g土地」と、e各土地、f各土地及びg土地を併せて「本件各農地」と、d不動産及び本件各農地を併せて「本件各不動産」という。)。
  • ニ Dは、請求人がa市へ転居した後も引き続きd建物に居住し、本件各農地において、農業に従事していた。また、Dは、本件各不動産に係る固定資産税及び都市計画税(以下、両税を併せて「固定資産税等」という。)を負担していた。
  • ホ 作成日を平成26年10月28日とする、世帯主がDであるh市農業委員会の農地基本台帳には、本件各農地に係る所有者は請求人、耕作者はDとされており、「権利の内容」、「契約開始日、契約終了日」及び「貸渡人氏名、借受人氏名」の各欄には何も記載されていなかった。
  • ヘ 請求人及びDは、平成26年3月18日付で、請求人とDの相続財産取得の件について、要旨次のとおり決着した旨が記載された「確約書」と題する書面(以下「本件第1確約書」という。)を作成した。
    • (イ) 請求人及びDは、e各土地を売却して、その売却代金を清算する。上記売却代金の配分については、e各土地の売却額を40,000,000円、当該売却に係る租税公課及び諸経費を12,000,000円、e各土地の農業所得清算額を5,935,000円とそれぞれ仮定した上で、差額の22,065,000円のうち10,130,000円を請求人が、残額11,935,000円をDがそれぞれ取得する。
       なお、Dへの配分額は、e各土地に係る諸経費5,935,000円と礼金6,000,000円の合計金額である。
    • (ロ) 請求人は、Dに対し、d不動産を贈与する。
    • (ハ) Dは、請求人に対し、e各土地に係る50年間の年貢一式550,000円を支払う。
  • ト 請求人は、平成26年4月8日付で、F社との間で、同社に対して、e各土地を売買代金○○○○円で譲渡する旨の不動産売買契約を締結して、同社から、手付金○○○○円を受け取り、その後、平成26年10月20日付で、同社との間で、売買代金を○○○○円に変更する旨の「精算確認書」を作成した。
     そして、請求人は、平成26年12月5日、F社にe各土地を引き渡し、同社から、上記売買代金の残金○○○○円を受け取った。
  • チ 請求人及びDは、平成26年12月5日付で、請求人とDの相続財産取得の件について、要旨次のとおり解決した旨が記載された「確約書〔2〕」と題する書面(以下「本件第2確約書」という。)を作成した。
    • (イ) Dは、下記(ロ)の清算を条件に、本件各農地の「全ての権利」を譲渡する。
    • (ロ) 請求人は、Dに対し、本件各農地の「維持管理諸費用精算金(離農補償金)」として、13,385,000円を支払う。
       その内訳は、e各土地に係る維持管理諸経費5,935,000円及び離農補償金6,000,000円(以下、e各土地に係る維持管理諸経費及び離農補償金を併せて「e支払金」という。)並びにf各土地及びg土地に係る維持管理諸経費及び離農補償金2,000,000円(以下、f各土地及びg土地に係る維持管理諸経費及び離農補償金を併せて「f等支払金」という。)である。
    • (ハ) 請求人は、平成26年12月5日、Dに対し、上記(ロ)の清算金の一部として7,000,000円を支払った。請求人は、Dに対し、上記清算金の残額を、同月8日に支払う。
    • (ニ) Dは、上記(ハ)の支払を受けることにより、本件各農地に係る請求人の「完全な所有権の行使、利用方法及び処分」について、何ら異議を述べないこととする。
  • リ 請求人及びDは、平成26年12月5日付で、本件各不動産の「税に対する節税対策について双方共に協力することを確約する」旨が記載された「確約書〔3〕」と題する書面(以下「本件第3確約書」といい、本件第1確約書及び本件第2確約書と併せて「本件各確約書」という。)を作成した。
  • ヌ 請求人は、Dに対し、平成26年12月5日に7,000,000円(以下「本件第1金員」という。)を、同月8日に6,935,000円(以下「本件第2金員」といい、本件第1金員と併せて「本件各金員」という。)を支払った。なお、本件第1金員に係る領収証(以下「本件第1領収証」という。)には「但 離農補償費」と、本件第2金員に係る領収証(以下「本件第2領収証」といい、本件第1領収証と併せて「本件各領収証」という。)には「但 離農補償金」とそれぞれ記載されている。
     一方、Dは、平成26年12月8日、請求人に対し、550,000円を支払った。なお、上記支払に係る領収証には「但 年貢代」と記載されている。
  • ル 請求人は、原処分庁に対し、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件各金員を離農補償金として譲渡費用に計上し、総収入金額から控除して、別表2の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限までに平成26年分の所得税等の確定申告(以下「本件当初申告」という。)をした。
  • ヲ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成27年12月9日、請求人の平成26年分の所得税等に係る調査を開始したところ、請求人は、平成28年11月21日に、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、f等支払金を譲渡費用から減額して、別表2の「修正申告」欄のとおり、修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
  • ワ 原処分庁は、平成29年2月28日付で、本件各金員が、譲渡費用に該当しないとして、また、請求人が、本件各金員について、請求人とDの相続財産取得の件の解決金であるにもかかわらず、譲渡費用であるかのように仮装したなどとして、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり本件修正申告に係る重加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で同表の「更正処分等」欄のとおり平成26年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、本件修正申告に係る重加算税の賦課決定処分と併せて、「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • カ 本件更正処分の通知書(以下「本件通知書」という。)には、処分の理由として、要旨、本件各金員が、以下のとおり、所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用とは認められないため、本件各金員を分離長期譲渡所得の総収入金額から控除することができない旨記載されている。
    • (イ) 請求人は、調査担当職員に対し、Dがe各土地において農地法上の耕作権を有しておらず、本件各金員の金額に算定根拠がない旨説明した。
    • (ロ) 請求人とDとの間のe各土地の貸借関係は使用貸借である。
    • (ハ) ただし書に「離農補償費」と記載された本件第1領収証及び「離農補償金」と記載された本件第2領収証の各写しを本件当初申告に添付しているにもかかわらず、本件第2確約書には、請求人とDの「相続財産取得の件」を解決する条件として、維持管理諸費用精算金(離農補償金)の支払が記載されており、その精算金の対象物件は、e各土地を含む5筆である。
    • (ニ) 本件各確約書によると、本件各金員は、請求人とDの「相続財産取得の件」を解決するために、請求人がDに支払ったものである。
  • ヨ 請求人は、原処分を不服として、平成29年5月26日に、審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 本件更正処分に理由付記の不備があるか(争点1)。
  • (2) e支払金は、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか(争点2)。
  • (3) 請求人は、平成26年分の所得税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したか(争点3)。

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3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(本件更正処分の理由付記の不備の有無)について

原処分庁 請求人
本件更正処分の理由付記は、関係法令の規定に従って適法に行われている。よって、本件更正処分には、理由付記の不備はない。 本件更正処分の理由には、本件各金員について、請求人とDの「相続財産取得の件」を解決するために支払われたものであることを理由に、譲渡費用と認められない旨記載されているが、上記「相続財産取得の件」とはどのようなことをいうのかが記載されていない。よって、本件更正処分には、理由付記の不備がある。
 また、原処分庁は、本件更正処分において、e支払金が請求人とDとの相続財産取得の件の解決金であるという理由を付していたにもかかわらず、答弁書において、e支払金が、事実上の使用貸借状態を解消するために支払われたものであるという理由を主張しており、更正処分と答弁書において、処分理由を差し替えた。このような処分理由の差替えは、通則法第93条《答弁書の提出等》第2項の規定に明らかに違反しており、違法である。

(2) 争点2(e支払金の譲渡費用該当性)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、e支払金は、e各土地の離農補償金ではなく、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当しない。
  • イ Dは、請求人が所有する本件各不動産を長年使用していたところ、1請求人とDとの間には、e各土地に係る賃貸借契約並びに租税公課及び維持管理等に係る費用の負担に関する取決めがあったとは認められないこと、2e各土地について、Dに対する農地法に規定する使用貸借による権利あるいは賃借権が設定されていたとは認められないこと、3Dは、請求人に対し、e各土地の小作料を支払っていた事実が認められないことからすると、e各土地は、事実上、Dが使用借りしている状態にあったと認められる。
  • ロ 請求人及びDは、本件第1確約書及び本件第2確約書において、請求人がDにe支払金を支払う旨合意しているところ、請求人は、e各土地を含む本件各不動産の貸借関係をはっきりさせたいという動機で、Dは、本件各不動産その他の財産を管理してきた費用の清算を求めたいという動機で、それぞれ本件第1確約書及び本件第2確約書に合意している。
     このような事情からすると、e支払金は、e各土地の事実上の使用貸借を解消するために支払われたものであり、e各土地の離農補償金ではないと認められる。
  • ハ 譲渡費用とは、資産の譲渡のために直接要した費用をいうところ、上記ロのとおり、e支払金は、e各土地の離農補償金ではなく、e各土地の譲渡のために直接要した費用ではないから、e支払金は、譲渡費用に該当しない。
以下のとおり、e支払金は、農地法上の許可を受けずにDに対して賃貸されていたe各土地の離農補償金として支払われたものであり、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当する。
  • イ 請求人は、Dに対し、e各土地を貸し渡し、Dは、その対価として、請求人が所有する本件各不動産の固定資産税等の租税公課を、請求人に代わって支払っていたことから、e各土地の貸借関係は、賃貸借である(ただし、上記賃貸借は、農地法上の許可を受けていないので、いわゆるヤミ小作である。)。
  • ロ 請求人は、Dとの間で、本件各不動産の貸借関係をはっきりさせるために話合いを行ってきた。そして、請求人及びDは、本件第1確約書及び本件第2確約書により、e各土地については、売却した上で、その売買代金の中から、e支払金を離農補償金として支払うことに合意した。
     以上のとおり、e支払金は、e各土地に係る離農補償金である。
     なお、本件第2確約書には、e支払金の一部がe各土地に係る維持管理諸経費と記載されているが、当該記載は、Dが、請求人の承諾なく記載したものである。
  • ハ ヤミ小作に係る離農補償金を受け取った場合は、分離課税譲渡所得として課税されることからすると、ヤミ小作に係る土地の売却に際して離農補償金を支払った場合、当該離農補償金は、当該土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当すると解される。
     そして、上記イ及びロのとおり、e支払金は、ヤミ小作状態にあったe各土地の離農補償金であるから、e支払金は、譲渡費用に該当する。

(3) 争点3(課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装の有無)について

原処分庁 請求人
次のとおり、請求人は、本件各金員がe各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用にならないことを認識していたが、本件各金員が、離農補償金であり、上記譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として控除されるという外形を作出するために、本件各領収証における本件各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」とした。
 したがって、請求人は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装した。
  • イ 以下の各事情によれば、請求人は、本件各金員が、本件各農地の事実上の使用貸借状態を解消し、Dとの間の争いを決着するための解決金であり、離農補償金ではないと認識していたと認められる。
    • (イ) 請求人は、調査担当職員の質問調査に対し、1本件各農地の事実上の使用貸借状態を解消する際に、Dに対し、農地法上の耕作権がないものの、何らかの金員を渡すべきであると考えていたこと、2本件第1確約書により、e各土地の売却代金の分配の折り合いがついたので、金員を渡したこと、3本件各不動産の貸借関係についてのDとの間の争いの解決のために、本件第2確約書に署名押印したことを申述した。
    • (ロ) 本件第1確約書は、Dによれば、請求人が持参したものであるところ、本件第1確約書には、本件各金員の一部の名目が土地経費及び礼金であると記載されている。
    • (ハ) 請求人及びDは、本件各金員の名目を「維持管理諸費用精算金(離農補償金)」とする本件第2確約書に合意した。
  • ロ 以下の各事情からすると、請求人は、本件各金員が、離農補償金であり、上記譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として控除されるという外形を作出するために、本件各領収証における本件各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」とした。
    • (イ) Dは、本件第1金員の支払に際して、当該金員の名目を「返済金(内金)」、「農業経費代(内金)」とする各領収証を提示したが、請求人は、上記各領収証の記載に納得せず、Dに対し、当該金員の名目を「離農補償費」とする本件第1領収証を作成させた。
    • (ロ) Dは、請求人との間で、本件各不動産の税について節税対策に協力する旨の本件第3確約書に合意した上で、本件第2金員の支払に際し、その名目を「離農補償金」とする本件第2領収証を作成した。
次のとおり、請求人は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装していない。
  • イ 争点2に係る請求人の主張のとおり、本件各金員は、離農補償金であるから、本件各領収証において本件各金員の名目が「離農補償費」又は「離農補償金」となっていることは、課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の仮装ではない。
  • ロ 原処分庁の主張イの(ロ)については、本件第1確約書は、Dが作成したものである。
  • ハ 原処分庁の主張ロについては、請求人は、上記1の(3)のチの(ロ)の本件第2確約書の記載のとおり、本件各金員が離農補償金であると認識していたのであるからこそ、本件第1金員の受領の際、当該金員の名目について「返済金(内金)」や「農業経費代(内金)」として離農補償の文言が記載されていないDの提示した領収証を受け取らず、離農補償金である旨が記載された領収証の交付を求め、当該金員の名目を「離農補償費」とする本件第1領収証を受け取り、また、本件第2金員の支払の際、当該金員の名目を「離農補償金」とする本件第2領収証を受け取ったのである。
     領収証に事実と異なるただし書が記載されていれば、それを訂正させることは当然である。
     なお、本件第2確約書において、本件各金員の一部が本件各農地に係る維持管理諸経費と記載されているが、当該記載は、争点2に係る請求人の主張のとおり、Dが、請求人の承諾なく記載したものである。
     また、本件第3確約書は、d不動産の贈与に関する合意文書であり、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額を仮装するための合意文書ではない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件更正処分の理由付記の不備の有無)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、当該処分の理由が、不利益処分の根拠について、上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     本件更正処分は、請求人の平成26年分の所得税等について、請求人がDに支払ったe支払金が、譲渡費用に該当しないから、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、e支払金を分離長期譲渡所得の総収入金額から控除することはできないと判断したものである(原処分関係資料)。
     そして、本件通知書には、上記1の(3)のカのとおり、e支払金が所得税法第33条第3項に規定する譲渡費用とは認められないとの判断が、その基礎となる事実関係(同カの(イ)ないし(ニ))と共に記載されていることからすると、本件通知書に記載された理由は、本件更正処分の根拠について、その基礎となる事実関係及び適用法条を具体的に示すことにより、行政庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由の提示の趣旨を充足する程度に具体的に明示したものであると認められる。
     したがって、本件更正処分の理由の提示に不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件通知書には、「相続財産取得の件」とはどのようなことをいうのかが記載されていないことから、本件更正処分の理由の提示に不備がある旨主張する。
       しかしながら、上記ロのとおり、本件通知書には、e支払金が譲渡費用とは認められないとの判断及びその基礎となる事実関係が記載されていることからすると、請求人が主張する記載がなくても、行政庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由の提示の趣旨を充足していると認められるから、請求人の主張は採用することができない。
    • (ロ) なお、請求人は、原処分庁が、答弁書において、e支払金について、e各土地の事実上の使用貸借を解消するために支払われたものであるという理由を主張し、本件更正処分の理由を差し替えた旨主張する。
       しかしながら、本件通知書には、上記1の(3)のカの(ロ)のとおり、e支払金が譲渡費用とは認められないとの判断の基礎となる事実関係の一つとして、請求人とDとの間のe各土地の貸借関係が使用貸借である旨が記載されていることからすると、請求人の指摘する上記理由は、本件通知書においても記載されていたものと解される。
       よって、本件更正処分には、処分理由の差替えはなく、請求人の主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。

(2) 争点2(e支払金の譲渡費用該当性)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 資産の譲渡に当たって支出された費用が、譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものであると解される(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・集民220号141頁参照)。そして、所得税基本通達33−7は、譲渡費用とは、当該譲渡のために直接要した費用及び当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいう旨定めているところ、当該通達の定めは、譲渡費用の上記解釈に沿うものであり、当審判所も、これを相当と認める。
    • (ロ) 使用貸借契約における借主が、その目的物につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情のない限り、この負担は、使用収益に対する対価ではなく、借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げになるものではないと解される(最高裁昭和41年10月27日第一小法廷判決・民集20巻8号1649頁参照)。
       そして、土地の使用貸借は、たとえ、建物の所有を目的とするものであっても第三者に対抗することができないものであって、利用権としては、賃借権と異なり法律の保護が薄弱であって、借主の死亡によりその効力を失い、相続の対象にもなり得ない権利であるから、課税上、その経済的価値は零とみるのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、平成24年頃、Dに対し、自宅建築のためにe各土地の返還を求めたところ、Dは、これに応じなかった。そこで、請求人及びDは、その後平成26年にかけて、数度にわたり、本件各不動産の処分について話し合い、本件第1確約書及び本件第2確約書を作成した。
    • (ロ) Dは、上記(イ)の話合いが始まるまで、請求人に対し、本件各不動産に係る地代、家賃及び小作料について、これを支払ったことはなかった。他方、請求人も、Dが本件各不動産について使用収益していることを知りながら、Dに対し、上記話合いが始まる以前に、Dによる本件各不動産の使用収益に異議を述べたり、本件各不動産に係る地代、家賃及び小作料の支払を求めたりしたことはなかった。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) はじめに
       Dは、少なくとも、昭和39年に請求人がd建物から転居してから、平成24年頃に請求人がe各土地の返還を求めるまでの期間(以下「本件貸借期間」という。)において、請求人所有のe各土地を耕作していたところ(上記1の(3)のイ及びニ、4の(2)のロの(イ))、請求人は、e支払金がDに賃貸されていたe各土地の離農補償金なので、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当する旨主張する。
       そうすると、e支払金が、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当するか判断するためには、まず本件貸借期間における請求人とDとの間のe各土地の貸借関係を検討し、当該貸借関係を基に、e支払金の譲渡費用該当性を検討するのが相当である。
    • (ロ) e各土地に係る貸借関係について
       Dは、本件貸借期間において、請求人に対し、e各土地を含む本件各不動産に係る地代や小作料を支払っておらず(なお、Dは、e各土地に係る固定資産税等を負担していたところ(上記1の(3)のニ)、当該負担については、下記ニのとおり、e各土地の使用収益に対する対価ではないと認められる。)、他方、請求人も、Dがe各土地について使用収益していることを知りながら、Dによるe各土地の使用収益に異議を述べたり、e各土地に係る地代や小作料の支払を求めたりしたことはなかったこと(上記ロの(ロ))などからすると、請求人とDとの間には、本件貸借期間において、少なくとも黙示の使用貸借契約が成立していたものと認められる。
    • (ハ) e支払金について
       上記イの(ロ)のとおり、土地の使用貸借の場合、その利用権の経済的価値は、課税上、零とみるのが相当であるから、貸主である請求人が、借主であるDに対し、e各土地の返還を受ける目的でe支払金を支払ったとしても、e支払金は、課税上、e各土地の使用貸借に係る利用権の譲渡又は消滅の対価と認めることはできないというべきである。したがって、e支払金は、e各土地の譲渡のために直接要した費用に当たらず、また、e各土地の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用にも当たらないから、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当しない。
       なお、上記のとおり、e支払金は、課税上、e各土地の使用貸借に係る利用権の譲渡又は消滅の対価と認めることはできないから、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費にも該当しない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、e各土地の貸借関係が、Dにおいて、賃料の代わりに固定資産税等を負担する賃貸借であることを前提に、e支払金がe各土地の離農補償金であり、e各土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に該当する旨主張する。
     そこで検討するに、確かに、上記1の(3)のニ、4の(2)のロの(ロ)のとおり、Dは、e各土地に係る地代や小作料を支払わなかったものの、e各土地に係る固定資産税等を負担していたことが認められる。
     しかしながら、当該固定資産税等の負担については、上記イの(ロ)のとおり、それが使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情のない限り、使用収益に対する対価とは認められない。これを本件についてみるに、上記1の(3)のヘの(ハ)のとおり、請求人とDは、Dが、請求人に対し、e各土地に係る50年間の年貢550,000円を支払う旨合意しているところ、請求人は、当審判所の質問調査に対し、上記ロの(イ)のDとの話合いの中で、Dが本件各不動産を無償で使っているのではないかという話になったことから、当該年貢を受領することとなった旨答述している。このような事情からすると、Dによるe各土地に係る固定資産税等の負担は、使用収益に対する対価として不足していたと認められるから、当該負担が使用収益に対する対価の意味を持つものと認めるに足りる特別の事情は認められないというべきである。
     そうすると、Dによるe各土地に係る固定資産税等の負担は、e各土地の使用収益に対する対価ではないと認められることから、Dは、e各土地を無償で使用していたものであり、e各土地の貸借関係は、賃貸借ではなく使用貸借であると認められる。
     よって、請求人の主張は、その前提となる事実を欠くものであり、採用することができない。

(3) 争点3(課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装の有無)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。
  • ロ 当てはめ
    • (イ) 原処分庁は、要するに、請求人が、本件各金員について、離農補償金ではないため、譲渡費用にならないことを認識していたことを前提に、本件各領収証における本件各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」としたことが、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為である旨主張する。
       そして、原処分庁は、本件各金員が離農補償金ではないため、譲渡費用にならないという請求人の認識について、1請求人が、Dには本件各農地の農地法上の耕作権がないことを知りながら、本件各不動産の貸借関係についてのDとの紛争解決のために、本件第2確約書に署名した旨申述したこと、2請求人がDに持参した本件第1確約書には、本件各金員の一部の名目が土地経費及び礼金であると記載されていること、3請求人及びDは、本件各金員の名目を「維持管理諸費用精算金(離農補償金)」とする本件第2確約書に合意したことから認められる旨主張する。
    • (ロ) しかしながら、まず、上記(イ)の1についてみるに、請求人が、Dに農地法上の耕作権がないことを知っていたとしても、そのことをもって直ちに、Dとの間の貸借状態解消のために支払った本件各金員が譲渡費用にならないことまで認識していたとはいい難い。かえって、原処分関係資料によれば、請求人は、調査担当職員に対し、Dには農地法上の耕作権がないことを理解しつつ本件各金員を支払った旨申述した一方で、長年本件各農地を耕作してきたDに対し、地域の慣例同様、離作に伴う金銭を支払うべきと考えていた旨も申述したことからすると、請求人は、Dに農地法上の耕作権がないにしても、慣例に従って金員を支払う必要があるという認識に基づき、本件各金員が離農補償金であり、譲渡費用であると考えていた可能性があるというべきである。
       また、請求人が、本件各不動産の貸借関係についてのDとの紛争解決のために、本件第2確約書に署名した旨申述した点については、請求人は、調査担当職員に対し、本件各金員の支払理由について、上記紛争解決とともに、Dに対する離農の補償も申述しているから(原処分関係資料)、請求人が、本件各金員について、離農補償金ではないと認識していたことを直ちに推認させるものということはできない。
       以上のとおり、上記(イ)の1は、請求人が、本件各金員について、離農補償金ではなく、譲渡費用にならないと認識していたことを直ちに推認させるものではない。
    • (ハ) 次に、上記(イ)の2及び3についてみるに、確かに、本件第1確約書には、本件各金員の一部の名目が土地経費及び礼金であると記載されており(上記1の(3)のヘの(イ))、また、上記1の(3)のチの(ロ)のとおり、本件第2確約書における本件各金員の一部の名目は、本件各農地の維持管理諸経費である。
       しかしながら、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、Dは、本件各不動産の処分を巡る請求人とDとの上記(2)のロの(イ)の話合いにおいて、本件各不動産に係る諸経費の清算を主張し、請求人は、これに応じなかったこと、請求人は、本件第1金員を支払った際、Dから、「但 返済金(内金)」や「但 農業経費代(内金)」と記載した領収証を受け取らず、「但 離農補償費」と記載された本件第1領収証を受け取ったことが認められるところ、このような経緯によれば、請求人は、本件各金員の全てが離農補償金であると認識していたものの、本件各不動産に係る諸経費の清算を主張するDに譲歩して、本件各金員の一部の名目が土地経費及び礼金であると記載されている本件第1確約書やその名目が維持管理諸経費であると記載されている本件第2確約書に合意した可能性があるというべきである。
       そうすると、上記(イ)の2及び3は、請求人が、本件各金員について、離農補償金ではなく、譲渡費用にならないと認識していたことを直ちに推認させるものということはできない。
    • (ニ) 以上のとおり、原処分庁が主張する上記(イ)の1ないし3は、いずれも、請求人が、本件各金員について、離農補償金ではなく、譲渡費用にならないと認識していたことを直ちに推認させるものではなく(なお、上記1ないし3を併せ考慮しても、その結論に変わりはない。)、その他、請求人の上記認識を認めるに足りる証拠はない。
       そうすると、本件各領収証における本件各金員の名目を「離農補償費」又は「離農補償金」としたことは、請求人による仮装と評価すべき行為に該当するとは認められない。そして、その他、仮装と評価すべき行為を認めるに足りる証拠はない。
       したがって、請求人は、平成26年分の所得税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したとは認められない(なお、以上によれば、請求人が上記事実を隠ぺいしたとも認められない。)。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件更正処分の適法性について
     上記(2)のとおり、e支払金は、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用及び取得費に該当しないことから、請求人の平成26年分の所得税等の総所得金額、分離長期譲渡所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ別表2の「更正処分等」欄に記載の金額と同額となる。
     なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件更正処分は適法である。
  • ロ 本件各賦課決定処分の適法性について
     上記(3)のとおり、請求人は、平成26年分の所得税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装又は隠ぺいしたとは認められないので、通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件を満たさない。
     もっとも、本件修正申告及び本件更正処分につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、本件修正申告及び本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件修正申告及び本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定は免れず、本件各賦課決定処分は、別紙1及び別紙2のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についてそれぞれ違法であり、当該各部分を取り消すべきである。

(5) 結論

以上によれば、本審査請求のうち、本件各賦課決定処分に対する審査請求は、別紙1及び別紙2「取消額等計算書」のとおり取消しを求める限度でそれぞれ理由があるから、その限度でこれらを取り消し、本件更正処分に対する審査請求は理由がないからこれを棄却することとする。

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