(平成30年3月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、競馬の勝馬投票券(以下「馬券」という。)の的中によって得た払戻金に係る所得を一時所得とする所得税等の期限後申告書を提出した後、当該所得は雑所得に該当するとして更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定し、同条第2項及び第3項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額(50万円。当該残額が50万円に満たない場合には当該残額)を控除した金額とする旨規定している。
  • ロ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定し、同条第2項第2号は、公的年金等に係るものを除く雑所得の金額は、その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
  • ハ 所得税基本通達34−1《一時所得の例示》は、一時所得に該当する所得を例示しているところ、その(2)において、「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)」を掲げている(以下、同通達の(2)を「本件通達」という。)。
     また、本件通達の(注)1は、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する旨、本件通達の(注)2は、本件通達の(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は一時所得に該当することに留意する旨それぞれ定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 日本中央競馬会が行う競馬の概要等
    • (イ) 日本中央競馬会(以下「JRA」という。)は、競馬法により競馬を行い、馬券を券面金額で発売している(以下、JRAが行う競馬を「中央競馬」という。)。
    • (ロ) JRAは、競馬法施行規則により、原則として日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日(以下「祝日」という。)、1月5日から同月7日まで又は12月28日のいずれかの日からなる日取りで競馬を開催している。また、中央競馬は、同規則により、原則として1年間の開催日数の合計は288日を超えることができず、1日の競走回数については12回を限度とされている。
       なお、平成24年ないし平成26年の各年(以下「本件各年」という。)における中央競馬の開催レース数は、平成24年及び平成25年がそれぞれ3,454回、平成26年が3,451回であった。
    • (ハ) JRAは、競馬開催日(競馬開催日が2日以上連続する場合にはその連続する競馬開催日を併せたものをいう。)又は競馬開催日と競馬開催日との間の日が土曜日、日曜日若しくは祝日である場合の前後する競馬開催日を併せたものを「節」と称している。
    • (ニ) JRAは、競馬法の規定に基づき、各競走における馬券の的中者に対し、馬券の発売金額から、同法に規定する投票の無効により馬券の所有者に対して返還すべき金額(以下「返還金」という。)を控除した後の金額の約75%を、的中した馬券にあん分して払戻金を交付している。
       また、馬券の的中者がいない場合、JRAは、原則として、当該レースについての払戻対象総額を、勝馬以外の出走した馬に投票した者に対し、馬券ごとにあん分して払戻金を交付する。ただし、指定重勝式勝馬投票法については、的中者がいない場合は一定の金額が次対象レースに持ち越され、その後、最初に的中があったものに係る払戻金の計算に加算される。
       なお、指定重勝式勝馬投票法のうち、五重勝単勝式勝馬投票法(以下「WIN5」という。)に係る馬券は、全ての競馬場のレースの中からJRAが指定する同一日開催の五つのレースについて、そのそれぞれで1着馬を予想し、全てのレースで1着馬を的中させるというものであり、本件各年における開催回数は平成24年及び平成25年がそれぞれ54回、平成26年が53回であった。
    • (ホ) JRAと「日本中央競馬会PAT方式電話投票(A−PAT会員)に関する約定」を結んだ者(以下「A−PAT会員」という。)は、電話やパソコンを利用したPAT方式電話投票(以下「A−PAT」という。)により馬券の購入を申し込むことができる。
       なお、A−PATには、プッシュホン電話のボタン操作で馬券の購入を申し込むARS方式と、パソコンやウェブ機能付携帯電話からインターネットを利用して馬券の購入を申し込むIPAT方式がある。
       そして、A−PAT会員がA−PATにより馬券を購入した場合には、節の直後の銀行営業日に、A−PAT会員のA−PAT専用の銀行口座(以下「A−PAT専用口座」という。)から当該節の馬券の購入代金の総額が口座振替によりJRAに支払われ、また、当該節に馬券の的中による払戻金及び返還金(以下「払戻金等」という。)がある場合には、当該節の直後の銀行営業日に、A−PAT会員のA−PAT専用口座へJRAから払戻金等の総額が振り込まれる仕組みになっている。
  • ロ 請求人による馬券の購入及び払戻金等の状況
    • (イ) 請求人は、平成22年ないし平成26年の各年に開催された中央競馬のレースにおいて、「H」と称する任意に設定した条件に合致する馬券を自動的に購入する競馬予想ソフトウエア(以下「本件ソフト」という。)を使用し、IPAT方式により馬券を購入していた。
       ただし、WIN5に係る馬券については、本件ソフトを使用して自動的に購入することができないため、請求人は、別途「J」と称する競馬のデータベースソフトウエアを使用し、IPAT方式により馬券を購入していた。
    • (ロ) 請求人は、A−PAT専用口座として、K銀行○○支店の請求人名義の二つの普通預金口座(口座番号を○○○○及び○○○○とするもの。以下「本件各口座」という。)を利用していた。
    • (ハ) 請求人は、4台のパソコンを使用して馬券を購入しており、これらのパソコンは、A−PATを介して本件各口座のいずれかに接続されていた。
       なお、請求人が本件ソフトを使用して購入した馬券の平成22年ないし平成26年における購入履歴及び払戻金等の履歴は、上記の4台のパソコンのハードディスク内にデータとして保存されていたが、当該データの一部が削除され又は破損するなどしたため、当該各履歴の全てが保存されているという状態にはなかった。
    • (ニ) 本件各口座の入出金履歴から算定した請求人の平成22年ないし平成26年の各年の馬券の購入金額、払戻金等の金額及びその差額(損益)は、次表のとおりであった。
項目
1購入金額 2払戻金等の金額 3損益(21
平成22年 XX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円 X,XXX,XXX円
平成23年 XX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円
平成24年 XX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円 △X,XXX,XXX円
平成25年 XX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円 X,XXX,XXX円
平成26年 XX,XXX,XXX円 XXX,XXX,XXX円 X,XXX,XXX円
合計 XXX,XXX,XXX円 XXX,XXX,XXX円 XX,XXX,XXX円

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成22年分から平成24年分までの所得税並びに平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出していなかった。
  • ロ 請求人は、平成27年9月29日、上記イの各年分における馬券の的中によって得た払戻金に係る所得(以下「本件競馬所得」という。)を一時所得として、それぞれ別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を原処分庁に提出した。なお、当該各確定申告書は、原処分庁所属の調査担当職員による調査の結果に基づいて提出されたものである。
  • ハ 原処分庁は、上記ロの各確定申告書の提出を受け、平成27年10月27日付で別表の「賦課決定処分」欄のとおりの無申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ニ 請求人は、平成28年2月26日、平成24年分、平成25年分及び平成26年分の各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税又は所得税等について、本件競馬所得が一時所得ではなく雑所得に該当することを前提とし、総所得金額及び納付すべき税額を別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
  • ホ 原処分庁は、本件各更正の請求に対し、平成29年4月25日付で、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、本件各通知処分に不服があるとして、平成29年5月17日に審査請求をした。

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2 争点

本件競馬所得は、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件競馬所得は、次の理由から「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たるので、雑所得に該当する。
  • (1) 最高裁判所平成27年3月10日第三小法廷判決(以下「平成27年最高裁判決」という。)は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たるか否かについては、「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。」と判示し、その上で、馬券の購入については、1馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して、2独自の条件設定と計算式に基づいて、3インターネットを介して、4長期間にわたり多数回かつ頻繁に、5個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより、6多額の利益を恒常的に上げ、7一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下では、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、一時所得ではなく雑所得に当たると判示している。
     なお、上記1ないし6は、7に該当するかどうかの判断要素であると解される。
  • (2) そして、上記の各判断要素を本件に当てはめると以下のとおりであるから、請求人の一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有すると評価できる。
    • イ 請求人は、本件ソフトを使用し、その中で独自の条件設定を行い、抽出条件や購入条件に絞り込みをかけ、インターネットを介して馬券を購入していた。
    • ロ 請求人は、本件各年及びその前2年間においても上記イの方法で、少なくとも10,108レース、券種ごとに延べ42,683レースの馬券を購入し続けており、一定の回収率を確保することを主眼として、外れ馬券が大量に生じることを承知の上で、個々の馬券の的中には着目せず網羅的に購入していたものである。そのことは、全てではないが相当程度残存する馬券の購入履歴によって明らかにできる。
    • ハ 本件各年のうち、たまたま平成24年はXXX万円余の損失が生じているが、その前後を無視して判断すべきではなく、平成25年及び平成26年の2年間で請求人はX,XXX万円余の利益を得ており、平成22年にはX,XXX,XXX円、平成23年にもX,XXX,XXX円の利益を得ている。平成24年の損失を差し引いても5年のうち4年間通算でX,XXX万円近い利益を得ていることからすると、請求人が独自のノウハウを用いて多数のレースにおいて期待回収率が100%を超える馬券の選別に成功したことにより、多額の利益を恒常的に得ていたことは明らかである。
本件競馬所得は、次の理由から「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」には当たらないので、一時所得に該当する。
  • (1) 所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たるか否かについては、「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。」と解されている。
     また、本件通達の(注)1は、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して、独自の条件設定と計算式に基づいて、インターネットを介して、長期間にわたり多数回かつ頻繁に、個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する旨定め、本件通達の(注)2は、本件通達の(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する旨定めている。
  • (2) そして、これを本件に当てはめると以下のとおりであるから、本件競馬所得は、本件通達の(注)1に該当しない。
    • イ 請求人は、パソコン4台を用い本件ソフトを使用し、インターネットを介してA−PATを利用して馬券を購入していたと認められる。
    • ロ しかしながら、1本件ソフトを使用した馬券の購入及び払戻しに係るデータが、パソコン4台のうち1台分は削除されており、他のパソコンもその一部が破損していることから当該データの保存のないものがあること、2請求人が本件ソフトに設定した馬の得点に関する計算式は、その見直しの際に上書きされ変更履歴が残っていないことから、請求人が独自の条件設定と計算式に基づいて個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をしていたかどうかを含めて請求人の馬券購入の態様を確認することができない。
    • ハ 請求人の購入した馬券の払戻しに係る損益は、平成24年がX,XXX,XXX円の損失、平成25年がX,XXX,XXX円の利益、平成26年がX,XXX,XXX円の利益であり、月別でみると、平成24年が8か月、平成25年が5か月、平成26年が7か月で損失が生じていることから、請求人は期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る何らかのノウハウを有していたとは判断できず、多額の利益を恒常的に上げていたとは認められない。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 所得税法第34条第1項は、一時所得について、上記1の(2)のイのとおり規定しているところ、同項に規定する「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である(平成27年最高裁判決)。
  • ロ そして、馬券の払戻金に係る所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、上記イに照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断すべきところ、馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をするなどして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる場合には、営利を目的とする継続的行為から生じた所得に当たると解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成22年ないし平成26年に開催された中央競馬のレースのうちWIN5以外のものについては、本件ソフトを使用しインターネットを介して馬券を購入していたところ(上記1の(3)のロの(イ))、現存するデータをみる限りにおいても、平成24年に2,448レース、平成25年に2,336レース、平成26年に2,641レースの馬券を購入していた。これは、本件各年の中央競馬全開催レース数のうち、それぞれ平成24年が70.9%、平成25年が67.6%、平成26年が76.5%に相当するレースの馬券を購入するものであった。
  • ロ 他方、WIN5については、請求人は、本件ソフトを参考に任意に抽出した馬の組合せの中からJが算出したオッズを基に購入馬券を決定し、インターネットを介して購入していた。また、Jを使用した請求人の馬券の購入履歴によれば、請求人は、当該馬券を少なくとも本件各年に計80回(平成24年に5回、平成25年に22回、平成26年に53回)にわたりX,XXX,XXX円分(平成24年にXXX,XXX円、平成25年にX,XXX,XXX円、平成26年にX,XXX,XXX円)を購入していた。ただし、このうちの的中は平成24年に1回(払戻金X,XXX,XXX円)、平成25年に1回(同X,XXX,XXX円)の計2回であった。

(3) 当てはめ

  • イ 上記1の(3)及び上記(2)の各事実によれば、請求人は、平成22年ないし平成26年の各年において、本件ソフト又はJを使用し、インターネットを介して馬券を購入しており、本件各年においてはWIN5を含む中央競馬の大半のレースの馬券を多数回かつ頻繁に購入していたものと認められる。また、本件各口座の入出金履歴からすると、平成22年ないし平成26年の各年における請求人による馬券の購入金額は、平成22年が約X,XXX万円、平成23年が約X,XXX万円、平成24年が約X,XXX万円、平成25年が約X,XXX万円、平成26年が約X億円で当該各年を通算するとその購入金額は約X億円に上り、その損益の額は、平成22年が約XXX万円、平成23年が約X,XXX万円、平成24年が約XXX万円の損失、平成25年が約XXX万円、平成26年が約XXX万円で当該各年を通算すると約X,XXX万円の利益が生じていた(請求人が当該各年において購入した個々の馬券の種類や金額は、その全てが明らかにされていないものの、本件各年における損益の額に上記(2)のロのWIN5に係る馬券の購入金額ないしは払戻金が反映されていることは明らかである。)。
  • ロ 以上の事情を総合的に考慮すると、請求人による一連の馬券の購入行為は、その損益の状況をみると、平成22年ないし平成26年の各年で大きく変動しているのみならず、平成24年についてはXXX万円を超える損失が発生しており、また、請求人は、他の投票法と比べ組合せの選択肢が多く的中確率が低い反面、一口で高額の払戻金が得られる可能性のあるWIN5に係る馬券を本件各年にわたり少なくとも80回購入し、そのうち2回の的中による利益が平成24年及び平成25年の各損益の額に一定割合を占めるなどしていることからすると、その期間、頻度、購入規模の大きさなどの点を考慮してもなお、客観的にみて多額の利益が恒常的に上がると期待し得るものであったとは認められない。
     加えて、個々の購入馬券の種類やその金額の全てが明らかにされていない以上、請求人が、その主張する独自の条件設定と計算式に基づき個々の馬券の的中に着目しない網羅的な馬券の購入をしていたものと認めることはできず、少なくともWIN5に係る馬券については、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいて個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をしていたということはできない。
     そうすると、請求人による一連の馬券の購入行為をもって一体の経済活動の実態を有するとまではいえないから、本件競馬所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるとは認められない。
  • ハ 馬券の払戻金に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得であるところ、本件競馬所得は、上記ロのとおり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であると認められ、また、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものと認められる。
     以上によれば、本件競馬所得は、所得税法第34条第1項に規定する一時所得に該当すると認めるのが相当である。

(4) 請求人の主張について

請求人は、平成27年最高裁判決に基づき、本件競馬所得は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に当たる旨主張する。
 しかしながら、本件競馬所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるとは認められず一時所得に該当することは、上記(3)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各通知処分の適法性について

上記(3)及び(4)のとおり、本件競馬所得が雑所得に該当する旨の請求人の主張は認められないところ、その他の部分について請求人は争わず、また、当審判所に提出された証拠資料等によっても、請求人の本件各年分の所得税又は所得税等の申告に係る課税標準ないし納付すべき税額がそれぞれ過大であるとは認められない。
 したがって、本件各更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件各通知処分はいずれも適法である。

(6) 結論

よって、本件審査請求はいずれも理由がないから、棄却することとする。

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