(平成30年3月27日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、太陽光発電設備を取得した事業年度において、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入して法人税の確定申告をした後、同設備を当該事業年度内に事業の用に供していなかったことから当該償却費の額を償却超過額として修正申告するとともに、当該事業年度の翌事業年度に電力の供給を開始して同設備を事業の用に供したことから、当該翌事業年度の法人税について、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入すべきであるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、同設備を事業の用に供した当該翌事業年度において償却費の損金経理額はないとして当該更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分及び欠損金の損金算入額が過大であるなどとして各更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該翌事業年度において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入すべきであるとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)
     通則法第23条《更正の請求》第1項本文及び同項第2号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書に記載した純損失等の金額が過少であるときに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から9年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求(以下「更正の請求」という。)をすることができる旨規定し、また、同条第4項は、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。
  • ロ 法人税法等
    • (イ) 法人税法第2条《定義》第23号は、減価償却資産とは、建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定している。
    • (ロ) 法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理(損金経理とは法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。以下同じ。)をした金額(以下「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額(以下「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする旨、また、同条第4項は、損金経理額には、同条第1項の減価償却資産につき同項の内国法人が償却費として損金経理をした事業年度(以下「償却事業年度」という。)前の各事業年度における当該減価償却資産に係る損金経理額のうち当該償却事業年度前の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額(以下「償却超過額」という。)を含むものとする旨規定している。
    • (ハ) 法人税法施行令第13条《減価償却資産の範囲》は、法人税法第2条第23号に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち一定のもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする旨規定している。
  • ハ 租税特別措置法(平成27年3月法律第9号による改正前のもの。以下「措置法」という。)
     措置法第42条の5《エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》第1項及び第6項は、青色申告書を提出する法人が、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの期間内に、その製作若しくは建設の後事業の用に供されたことのない太陽光の利用に資する機械その他の減価償却資産(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「再生エネルギー措置法」という。)第3条《調達価格及び調達期間》第2項に規定する認定発電設備に該当するものに限る。以下「特定エネルギー環境負荷低減推進設備等」という。)を取得等して、これをその取得等した日から1年以内に国内にある当該法人の事業の用に供した場合には、その事業の用に供した日を含む事業年度の当該特定エネルギー環境負荷低減推進設備等に係る償却費として損金の額に算入する金額の限度額は、法人税法第31条第1項の規定にかかわらず、当該特定エネルギー環境負荷低減推進設備等の普通償却限度額と特別償却限度額(当該特定エネルギー環境負荷低減推進設備等の取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額)との合計額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、○○の販売並びに再生可能エネルギーを利用した発電業務及び電力の販売等を目的とする法人である。
  • ロ 請求人が取得した太陽光発電設備(以下「本件発電設備」という。)について
    • (イ) 請求人は、本件発電設備を取得してE社(以下「本件電力会社」という。)に電力を供給(売電)することを計画し、平成25年11月5日付で、本件電力会社に対して、本件発電設備を本件電力会社の送電網に接続する系統連系工事について、その工事開始希望日を平成26年2月3日とする「○○」を提出した。
    • (ロ) 請求人は、平成25年11月27日付で、本件発電設備について、再生エネルギー措置法第6条《再生可能エネルギー発電設備を用いた発電の認定等》第1項の規定に基づき、「再生可能エネルギー発電設備認定申請書」を経済産業大臣に提出し、平成26年1月○日付で、同条第2項の規定に基づき再生可能エネルギー発電設備の認定の通知を受けた。
    • (ハ) 請求人は、平成26年1月13日、F社との間で、本件発電設備に係る太陽光発電パネルの設置等工事について、請負金額を○○○○円(税込み)、工期を同年1月中旬から同年3月中旬まで及び引渡期日を完成日から14日以内とする請負契約を締結した。
       そして、同年3月25日、当該太陽光発電パネルの設置等工事が完了し、同月27日に引渡しを受けた。
    • (ニ) 本件電力会社は、平成26年3月1日付で、請求人に対して、本件発電設備の接続に係る所要期間は5.5か月であり、電力受給契約申込時にはその旨考慮して受給開始希望日を設定するよう記載された「○○」を送付した。
    • (ホ) 請求人は、平成26年3月26日付で、本件電力会社に対して、系統連系サービス開始希望日及び受給開始希望日をいずれも平成26年8月31日とする旨記載した「○○」を提出した。
       これに対して、本件電力会社は、平成26年8月4日付で、請求人に対して、本件発電設備に係る電力の受給開始予定日を平成26年10月3日とする旨記載した「○○」を交付した。
  • ハ 請求人は、平成26年10月3日以降、本件電力会社に対して電力の供給(発電出力○○キロワットの全てを本件電力会社に供給)を開始した。
  • ニ 請求人は、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度(以下「平成26年3月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)の法人税について、平成26年3月27日に本件発電設備を○○○○円で取得し、同日に事業の用に供したとして、措置法第42条の5第1項及び第6項の規定を適用して、本件発電設備につき普通償却費の額○○○○円及び特別償却費の額○○○○円の合計額○○○○円(以下「平成26年3月期償却費計上額」という。)を損金の額に算入し、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ホ 請求人は、平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税について、青色の確定申告書に別表2−1の「確定申告」欄のとおり記載して、また、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度(以下「平成28年3月課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に別表2−2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ヘ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件発電設備は、平成26年3月期において本件電力会社に対して電力の供給を開始しておらず、事業の用に供されていないとして、平成26年3月期の法人税について、平成26年3月期償却費計上額を償却超過額として所得金額に加算し、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成29年4月12日に提出した。
  • ト 請求人は、平成27年3月期において本件発電設備を事業の用に供したことから、償却不足額として普通償却費の額○○○○円及び特別償却費の額○○○○円の合計額○○○○円(以下「請求人主張償却額」という。)を平成27年3月期の損金の額に算入すべきであり、また、これにより平成28年3月期の損金の額に算入する欠損金の控除額が増加するなどとして、平成29年4月12日に、平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税について、別表2−1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
  • チ 原処分庁は、平成29年5月29日付で、本件各更正の請求に対し、その更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をするとともに、別表2−1及び2−2の各「更正処分等」欄のとおり、平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税並びに平成28年3月課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • リ 請求人は、上記チの各処分に不服があるとして、平成29年6月26日に審査請求をした。

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2 争点

請求人主張償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入できるか否か。

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3 争点についての主張

(1) 請求人の主張

本件発電設備は、平成27年3月期に事業の用に供したことにより、売電収入が発生している。そうすると、請求人主張償却額を損金の額に算入しないのは、費用収益対応の原則を法人税法が否定することになるから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反する。
 また、平成26年3月期償却費計上額は、請求人が国の再生エネルギー導入拡大に資する趣旨をくみ取り、多額の設備投資を行ったことにより生じたものであることからすれば、平成26年3月期に取得した減価償却資産から生じた償却超過額と認められるべきであるから、請求人主張償却額は、平成27年3月期以後において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入することができる。

(2) 原処分庁の主張

本件発電設備は、本件電力会社に対して電力を供給し、事業の用に供した平成27年3月期において、減価償却資産に該当することになるのであり、平成26年3月期における減価償却資産には該当しない。そうすると、平成26年3月期償却費計上額は、減価償却資産に該当しない資産について償却費を計上したことになり、平成26年3月期における償却超過額が存在しないことになるから、平成27年3月期において、請求人主張償却額を損金の額に算入することはできない。
 なお、特別償却費は、本件発電設備を事業の用に供した日の属する事業年度に限って適用されるところ、請求人は、本件発電設備を事業の用に供した平成27年3月期の確定申告時において、特別償却の適用を受けていないから、平成27年3月期の更正の請求において、請求人主張償却額を所得金額から減算することは認められない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(請求人主張償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入できるか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 上記1(2)ロ(ロ)のとおり、法人税法第31条第1項は、各事業年度終了の時において有する減価償却資産について、その償却費としてその事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その事業年度において、その償却費として損金経理をした金額(損金経理額)のうち、法人が選定した償却の方法により計算した償却限度額に達するまでの金額とする旨規定している。そして、同条第4項において、損金経理額には、当該償却事業年度前の各事業年度における当該減価償却資産に係る損金経理額のうち、当該償却事業年度前の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額(償却超過額)を含むとしている。
       これらの規定からすると、償却費として損金経理をした金額がその事業年度の償却限度額を超える場合、その超える部分の金額については、償却超過額として翌事業年度以降において生じた償却不足額の範囲内で償却費として法人の所得の金額の計算上損金の額に算入することとなる。
       一方、減価償却資産については、上記1(2)ロ(ハ)のとおり、法人税法施行令第13条において、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち事業の用に供していないものを除くと規定されていることから、事業年度終了の時において事業の用に供していない資産は、その事業年度における法人税法上の減価償却資産に該当しないこととなる。
    • (ロ) これを本件発電設備についてみると、上記1(3)ハのとおり、平成26年10月3日以降に、本件電力会社に対する電力の供給が開始されたことから、本件発電設備を事業の用に供した日は同日以降であると認められ、平成26年3月期終了の時においては事業の用に供されていないから、本件発電設備は、平成26年3月期終了の時において有する法人税法上の減価償却資産に該当しない。
       このことからすると、平成26年3月期償却費計上額については、平成26年3月期において償却費として損金経理していたとしても、それは法人税法上の減価償却資産に該当しない資産に係るものであるから、法人税法第31条第1項に規定する減価償却資産に係る損金経理額に該当しない。
       また、平成26年3月期償却費計上額は、平成26年3月期において本件発電設備を事業の用に供していなかったことから、資産として計上すべきところを償却費として損金の額に算入していたため損金不算入額として平成26年3月期の所得金額に加算されたにすぎず、平成26年3月期における法人税法上の減価償却資産に係る償却超過額にも当たらない。
    • (ハ) 以上によれば、平成26年3月期償却費計上額は、平成27年3月期において、法人税法第31条第4項に規定する当該償却事業年度前の各事業年度における当該減価償却資産に係る損金経理額のうち当該償却事業年度前の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額(償却超過額)には該当せず、平成27年3月期の損金経理額に含まれないことになる。
       したがって、平成27年3月期において、本件発電設備に係る損金経理額はないことから、請求人主張償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入することはできない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、平成27年3月期に本件発電設備を事業の用に供し、売電収入が発生しているから、請求人主張償却額を損金の額に算入しないのは、費用収益対応の原則及び一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反する旨、また、平成26年3月期償却費計上額は償却超過額であるから、請求人主張償却額は、平成27年3月期において前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入することができる旨主張する。
     しかしながら、平成26年3月期償却費計上額が平成26年3月期における償却超過額に該当せず、請求人主張償却額を平成27年3月期の損金の額に算入することができないことは上記イのとおりであり、請求人の上記主張は採用することができない。

(2) 原処分の適法性について

  • イ 本件各通知処分について
     上記(1)のとおり、請求人主張償却額は平成27年3月期の損金の額に算入することはできず、それに伴い、平成28年3月期において損金の額に算入する欠損金の控除額も増加しない。
     そうすると、本件各更正の請求は、通則法第23条第1項本文及び同項第2号に規定する「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書に記載した純損失等の金額が過少であるとき」にされたものには該当しないから、本件各更正の請求には、平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき理由はない。
     したがって、本件各通知処分はいずれも適法である。
  • ロ 本件各更正処分について
     上記(1)のとおり、請求人主張償却額は平成27年3月期の損金の額に算入することはできないから、これに基づき請求人の平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税並びに平成28年3月課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額を計算すると、本件各更正処分における法人税額及び地方法人税額と同額であると認められる。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを取り消すべき事由は見当たらない。
     したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
  • ハ 本件各賦課決定処分について
     上記ロのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
     そして、平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税並びに平成28年3月課税事業年度の地方法人税の各過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても平成27年3月期及び平成28年3月期の法人税並びに平成28年3月課税事業年度の地方法人税の各過少申告加算税の額は、いずれも本件各賦課決定処分における各過少申告加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(3) 結論

以上によれば、審査請求には理由がないから、いずれも棄却することとする。

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