(平成30年6月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、無体財産権等の差押処分をしたのに対し、請求人が、これらの無体財産権等はいずれも権利能力なき社団に帰属するもので、自己に帰属する財産ではないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項は、再調査の請求(法定の再調査の請求期間経過後にされたものその他その請求が適法にされていないものを除く。)についての決定があった場合において、当該再調査の請求をした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者は、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定している。
  • ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第72条《特許権等の差押えの手続及び効力発生時期》第1項は、無体財産権等のうち特許権、著作権その他第三債務者等がない財産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行う旨を、同条第3項は、無体財産権等でその権利の移転につき登記を要するものを差し押さえたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならない旨を、また、同条第5項は、特許権、実用新案権その他の権利でその処分の制限につき登記をしなければ効力が生じないものとされているものの差押えの効力は、差押えの登記がされた時に生ずる旨を、それぞれ規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ E税務署長は、別表1の請求人の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)のうち、同表の順号1の滞納国税について、また、F税務署長は、本件滞納国税のうち、同表の順号2の滞納国税について、通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、それぞれ同表の「督促年月日」欄に記載の日付で、請求人に対して督促状によりその納付を督促した。
  • ロ 原処分庁は、本件滞納国税について、平成23年4月27日までに、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長及びF税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ハ 原処分庁は、平成29年6月26日付で、本件滞納国税を徴収するため、徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号の規定に基づき、同法第72条第1項及び第3項に規定する手続により、別表2記載の無体財産権k(以下「k」という。)を差し押さえ(以下「本件差押処分」という。)、kの○○原簿に、同月28日を受付年月日として差押えの登録(登記)がされた。
  • ニ  請求人は、平成29年8月29日、本件差押処分に不服があるとして再調査の請求(以下「本件再調査の請求」という。)をしたところ、再調査審理庁は、平成29年11月13日付で、本件再調査の請求は請求の利益を欠く不適法なものであるとして却下の再調査決定をした。
  • ホ 請求人は、平成29年12月7日、再調査決定を経た後の本件差押処分になお不服があるとして審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 差押財産が自己に帰属するものではないことを理由として本件差押処分の取消しを求めることはできるか否か(争点1)。
  • (2) kは請求人に帰属するものであるか否か(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1について

  • イ 原処分庁
     請求人は、kはG社団(以下「G」という。)に帰属することから、本件差押処分は違法である旨主張するが、仮にそのような事実があったとしても、これによって不利益を受けるのはGであって請求人ではなく、請求人はそのような差押えによって何ら不利益を受けるものではない。
     したがって、差押財産が自己に帰属するものではないことを理由として本件差押処分の取消しを求めることはできない。
  • ロ 請求人
     審査請求においては、訴訟のように弁論主義が採用されておらず、かつ、実質審理の範囲が原処分の違法性全般に及んでいるから、行政事件訴訟法第10条《取消しの理由の制限》第1項に規定するような主張制限の考え方は妥当しないというべきである。そして、本件差押処分の対象財産であるkは、Gに帰属するものであり請求人の財産ではないから、本件差押処分は、差押財産の帰属を誤った違法があるところ、差押財産の帰属は、差押処分の根幹要件に係るものであるから、裁決に当たっての調査・審理の対象とすべきものである。
     したがって、差押財産が自己に帰属するものではないことを理由として本件差押処分の取消しを求めることはできる。

(2) 争点2について

  • イ 原処分庁
     上記(1)のイに記載したとおり、kがGに帰属し、請求人に帰属するものではないという主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法理由を主張するものであるから、これによって本件差押処分の取消しを求めることはできない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ロ 請求人
     kの○○は、Gが権利能力のない社団であってG名義で行うことができなかったことから、請求人がGの代表者として、GのためにGの○○を保護する目的で○○したものであるところ、kは、○○の目的、○○の経緯、費用負担、規約による帰属の明記、使用管理、○○使用料の受領及び税務申告状況から明らかなようにGに帰属するものであり、Gが権利能力のない社団であることからその構成員に総有的に帰属するものであって、請求人個人に帰属するものではない。
     したがって、本件差押処分は、差押財産の帰属を誤った違法があり、取り消されるべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 本審査請求の適法性について

  • イ 本審査請求は、上記1の(3)のホのとおり、通則法第75条第3項の規定に基づき、再調査の請求についての決定があった場合において、当該再調査の請求をした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるとしてされたものであるところ、同項の規定に基づく審査請求は、再調査の請求が適法なものであることを要件としている。
     この点、本件再調査の請求は、請求の利益を欠く不適法なものであるとして却下されていることから、まず、本審査請求の適法性について検討する。
  • ロ 差押処分等の国税に関する処分に対し不服申立てができる者は、その処分の取消しを求めることに法律上の利益を有する者、すなわち当該処分によって直接自己の権利を侵害された者でなければならない。
     この点、請求人は、本件差押処分の名宛人であり、本件差押処分により、その法律上の効果を受ける者であるから、本件差押処分の取消しを求めることができることは明らかである。
     そうすると、請求人には、不服申立適格及び請求の利益が認められるところ、他に本件再調査の請求が不適法であるとする事情は認められないから、本件再調査の請求は適法である。
  • ハ なお、請求人は、Gから争訟追行権を授与されているので、これによっても、本審査請求において不服申立適格を有する旨主張する。
     しかしながら、本審査請求は、本件再調査の請求についての再調査決定を経た後の本件差押処分になお不服があるとして審査請求されたものであるところ、本件再調査の請求においては、請求人がGから争訟追行権を授与されている旨の主張がされておらず、本件再調査の請求はGから争訟追行権を授与されて行われたのではなく、請求人個人として行われていたことから、本審査請求は、Gから争訟追行権を授与されて行われたのではなく、請求人個人として行われたとみるほかない。
     したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
  • ニ 以上のとおり、本件再調査の請求は適法なものと認められるところ、本審査請求は、他に不適法とする事情はないから、請求人個人が行ったものとしては適法である。

(2) 争点1について

  • イ 検討
     審査請求は、違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図るものであることから、自己の法律上の利益に関係のない違法を審査請求の理由とすることはできないと解するのが相当である。
     これを本件についてみると、請求人は、kが請求人ではなくGに帰属するものであるから本件差押処分は違法である旨主張するが、仮にそのような事実があったとしても、本件差押処分によって不利益を受けるのはkの真正な帰属者であるとされるGであって、請求人は本件差押処分によって何らの影響も受けないのであるから、結局、請求人がかかる事実を違法であると指摘することは自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものにほかならない。
     したがって、差押財産が自己に帰属するものではないことを理由として本件差押処分の取消しを求めることはできない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、審査請求においてはいわゆる弁論主義が採用されておらず、かつ、審理の範囲が原処分の違法性全般に及んでいることから、行政事件訴訟法第10条第1項に規定するような主張制限の考え方は妥当せず、請求人の主張する違法事由である差押財産の帰属は、本件差押処分の根幹要件に係るものであるから、当然に裁決に当たっての調査・審理の対象となる旨主張する。
     しかしながら、審査請求において、弁論主義が採用されておらず、実質審理の対象が原処分の違法性全般に及んでいるとしても、審査請求が、違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図ることを目的とするものであることからすると、自己の法律上の利益に関係のない違法を審査請求の理由とすることができないと解する理が変わることはない。
     また、請求人は、Gから争訟追行権を授与されているから行政事件訴訟法第10条第1項に規定する主張制限に抵触しない旨も主張するが、上記(1)のハのとおり、本審査請求は、Gから争訟追行権を授与されて行われたものとは認められないから、この点に関する請求人の主張はその前提を欠いている。
     したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(3) 争点2について

上記(2)のイのとおり、差押財産が自己に帰属するものではないことを理由として本件差押処分の取消しを求めることはできないのであるから、争点2については判断するまでもない。

(4) 本件差押処分の適法性について

以上のとおり、争点1及び争点2について請求人の主張は採用できず、上記1の(3)のハのとおり、本件差押処分は、徴収法所定の要件を満たしている。
 また、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件差押処分は適法である。

(5) 結論

よって、本審査請求は理由がないので、これを棄却することとする。

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