(平成30年5月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の取締役が請求人から不正に取得した金員について、当該取締役に対する給与であると認定し、請求人に対し源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税告知処分並びに重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該金員について、当該取締役が請求人の意思に反して横領したものであって、当該取締役に対する給与ではないなどと主張して、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 当事者等
    • (イ) 請求人は、昭和51年4月○日に設立された生鮮魚、海産物の販売及び加工業を営む同族会社である。
    • (ロ) 平成21年5月15日以降、請求人の役員は、代表取締役であるE(以下「本件代表者」という。)とその実弟であり取締役であるG(以下「本件役員」という。)の2名のみである。
       また、平成20年7月8日から平成28年3月31日までの請求人の発行済株式総数は20,000株であり、本件代表者及び本件役員はそれぞれ、平成20年7月8日から平成26年10月30日まで11,000株及び2,000株を、平成26年10月31日から平成27年8月30日まで14,000株及び5,000株を、平成27年8月31日から平成28年3月31日まで15,000株及び5,000株を保有していた。
    • (ハ) 本件役員は、平成17年3月15日に請求人の取締役に就任し、現在までその地位にあり、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度以降においては「取締役専務」の肩書の使用を許されていた。
  • ロ 本件役員の不正行為について
    • (イ) 本件役員は、平成21年10月から平成28年3月までの間、請求人名義のH信用金庫○○支店の当座預金口座(口座番号○○○○)から、小切手を振り出すことにより現金合計○○○○円(以下「本件横領金」という。)を引き出して個人的に費消していた。
    • (ロ) 本件役員は、上記(イ)の現金引出しに際し、借方を現金、貸方を当座預金とする仕訳による経理処理をしていたが、それに伴って帳簿上の現金残高が非常に多額となったため、これを減らす目的で、現金残高の一部を請求人のJ銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)又はK銀行○○支店の当座預金口座(口座番号○○○○)に入金したとする架空の仕訳を行った(以下、本件役員の一連の不正行為を「本件不正行為」という。)。
  • ハ 本件不正行為の発覚について
     原処分庁所属の調査担当者(以下「調査担当者」という。)は、平成28年4月8日、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項に規定する通知(以下「事前通知」という。)をしないで請求人の実地の調査(以下「本件調査」という。)に着手し、本件不正行為を把握した。
  • ニ 本件役員による弁済等について
    • (イ) 請求人と本件役員は、平成28年5月14日付で、請求人が本件役員に対して○○○○円の貸付金(以下「本件貸付金」という。)を有することを確認するとともに、本件役員が同月31日までに本件貸付金のうち○○○○円を弁済すること及び本件役員が同年3月31日時点の退職金相当額を本件貸付金の弁済に充てることなどの合意をした。
       なお、本件役員の同日時点の退職金相当額は、○○○○円であった。
    • (ロ) 請求人と本件役員は、平成28年5月31日、本件役員が有する不動産の共有持分を本件貸付金のうち○○○○円の弁済に充てる代物弁済契約を締結し、その後、上記共有持分について代物弁済を原因とする所有権の移転登記手続を行った。
    • (ハ) 請求人と本件役員は、平成28年5月31日、本件貸付金のうち○○○○円(本件貸付金の額から上記(イ)の弁済予定額○○○○円及び退職金相当額○○○○円並びに上記(ロ)の代物弁済額○○○○円を控除した残額)について、同年6月から毎年○○○○円(最終年の弁済額については○○○○円)を弁済する旨の合意をした。
       請求人は、平成28年6月1日、本件役員に対して役員賞与○○○○円を支給し、本件役員は、同日、本件貸付金のうち○○○○円を弁済した。
    • (ニ) 本件役員は、平成28年7月13日、本件貸付金のうち○○○○円を弁済した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、平成28年11月30日付で、請求人に対し、本件横領金のうち平成21年12月以降に引き出されたもの(以下「本件金員」という。)について、本件役員に対し給与として支払われたと認められることを理由に、別表1及び別表2の各「原処分(平成28年11月30日)」欄のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)又は源泉所得税及び源泉徴収に係る復興特別所得税(以下、源泉所得税と源泉徴収に係る復興特別所得税とを併せて「源泉所得税等」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)をするとともに、請求人が、本件不正行為により、本件金員を本件役員に対し給与として支払った事実を隠ぺい又は仮装したとして、上記源泉所得税又は源泉所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ロ これに対し、請求人は、原処分を不服として、平成29年2月8日に再調査の請求をしたが、再調査審理庁は、同年4月27日付で棄却の再調査決定を行い、再調査決定書謄本は、同年5月2日に請求人に送達された。
  • ハ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成29年5月29日に審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件各納税告知処分の理由の提示に不備があるか。
  • (2) 争点2 本件調査の調査手続に原処分を取り消すべき違法があるか。
  • (3) 争点3 本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与等に該当するか。
  • (4) 争点4 源泉所得税等の不納付は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか。
  • (5) 争点5 「偽りその他不正の行為」(通則法第73条第3項)により税額を免れたものと認められるか。

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3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(本件各納税告知処分の理由の提示の不備の有無)について

原処分庁 請求人
本件各納税告知処分の理由の提示には、本件役員が総勘定元帳に偽りの記載をし、個人的に費消していた事実があること、当該費消した金員が給与に当たることが根拠条文と共に記載されており、行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項の趣旨目的を充足する程度に処分の理由の提示は適法に行われているから、本件各納税告知処分の理由の提示に不備はない。 本件各納税告知処分の理由の提示には、本件不正行為が請求人の行為と評価される点について、本件役員が請求人の経理の総責任者として経理事務を任されていたことが摘示されているが、そのような認定の根拠となる事実が一切記載されておらず、また、上記摘示をもって本件不正行為が請求人の行為と評価される根拠も記載されていない。さらに、上記理由の提示には、本件調査における請求人の主張や提出証拠に対する評価が記載されていない。加えて、代表権を有しない者の横領が、なぜ賞与の支払と認定されるのか明らかにされておらず、本件役員の本件不正行為に基づく本件金員が給与所得に該当する理由も説明されていない。
 以上によれば、本件各納税告知処分の理由の提示は、原処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制することができず、処分の根拠を記載自体から知り得ることはできないから、請求人の不服申立てに支障を生ずるものであり、不備がある。

(2) 争点2(本件調査の調査手続に係る違法性の有無)について

請求人 原処分庁
イ 本件調査は、通則法第74条の9に基づく調査の事前通知を欠く違法な調査である。 イ 調査担当者は、通則法第74条の10《事前通知を要しない場合》に規定する要件に該当するとして、請求人に対する調査の事前通知を行わずに調査を行ったものであり、調査の事前通知を行わなかった点について違法はない。
ロ 調査担当者は、本件調査において、請求人に対し、各期の源泉所得税等について高い税額と低い税額をそれぞれ記載した2種類の「指摘事項」と題する書面を、そのうち高い税額に係る書面の記載内容には理由がないことを知りながらこれを提示し、請求人が低い税額に係る書面の記載内容に従って納税すれば、高い税額に係る書面の記載内容に基づく処分をしないが、そうでなければ、高い税額に係る書面の記載内容に基づいて処分をすると再三にわたって迫るという行政指導を行った。
 このような行政指導は、国家権力を背景にした恐喝ないし強要まがいの行為であって、行政指導の内容が飽くまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであるなどの行政指導の一般原則を規定した行政手続法第32条《行政指導の一般原則》に違反するものであり、原処分を取り消すべき違法がある。
ロ 調査担当者は、本件調査の過程において、指摘事項を示すなどして、請求人の主張や事情をしんしゃくしながら非違事項の説明を行い、請求人の理解を得るよう努めていたのであって、強要などしていない。そして、指摘事項に係る請求人と調査担当者のやり取りは、本件調査の過程において行われた、請求人の理解を得るよう努めるための質問検査の応答であり、行政手続法第3条《適用除外》第1項第14号に規定する処分等であって、同法第32条の適用はない。よって、本件調査に原処分を取り消すべき違法はない。

(3) 争点3(本件金員の給与等該当性)について

原処分庁 請求人
  • イ 1請求人は、本件代表者と本件役員のみが役員である同族会社であり、本件役員は、本件代表者の実弟という身分関係にあったことからして、本件役員は、本件代表者に次ぐ役員として請求人の業務において影響力を有していたものと認められること、2本件役員は、取締役専務の肩書で経理及び財務の総責任者を務めており、本件代表者は、自ら容易に行える当座預金の残高照合の確認作業や帳簿の不審点についての本件役員への追及などをしていなかったことからして、本件役員は、経理業務の重要な部分を任せられていたと認められることからすると、本件役員は、その地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたといえる。
     したがって、本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与に該当する。
本件金員は、以下のとおり、請求人が本件役員に支給した給与に該当しない。
  • イ 裁判例によれば、いわゆる認定賞与も、明示的又は黙示的な会社のその旨の行為を要するのであり、役員が横領した金員が、当該役員に対する給与と認められるのは、当該役員が会社を実質的に支配していることなどから、当該役員の横領が当該会社の行為と同視できる場合である。
     しかし、本件役員は、請求人の少数株主かつ代表権のない取締役にすぎず、その職務内容や権限は、他の経理担当の従業員と変わらなかった。また、請求人は、本件不正行為の発覚後直ちに、本件役員に対し、本件横領金の返還を請求していることなどから、本件不正行為が請求人の意思に反することは明らかである。以上によれば、本件不正行為は、請求人の行為と同視できない。
ロ 請求人の主張ロに対して
 請求人の源泉徴収義務は、請求人が上記経済的利益を本件役員に支払った時に成立及び確定することから、本件貸付金の弁済の合意及び実際の弁済が行われたとする事実は、本件金員に係る請求人の源泉徴収義務について何ら影響を及ぼすものではない。
ロ 本件役員は、本件不正行為により本件横領金と同額の損害賠償債務を負うこととなるため、本件役員には担税力を増加させる経済的利得はなく、本件役員は、本件不正行為発覚後、請求人に対し、本件横領金の一部を返還し、今後、その残額を返還する予定である。
 したがって、本件役員は、本件横領金による経済的利益を得ておらず、本件横領金に係る所得を得ていない。
ハ 請求人の主張ハに対して
 所得の受給者が源泉徴収義務者から不法に利得した場合であっても、その利得が給与所得と認められる以上、源泉徴収義務者に納税義務を課すべきものであって、源泉徴収が困難であるかどうかは全く関係がない。
ハ 本件役員のように代表権のない取締役が横領した場合、会社は、当該横領の事実を知り得ず、当該横領に係る経済的利益について源泉徴収をする機会が全くないのであるから、このような場合において、会社に源泉徴収義務を課すことは不合理である。

(4) 争点4(源泉所得税等の不納付は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか。)について

原処分庁 請求人
争点3の原処分庁の主張のイのとおり、本件金員を横領し、その発覚を防ぐために総勘定元帳に虚偽の記載をするという本件役員による本件不正行為は、請求人の事業活動において本件代表者に準ずるような権限を有する本件役員が、その権限内において行った行為といえ、請求人の行為と同視することができる。
 そうすると、請求人は、帳簿書類に、本件役員に対して本件金員を供与した事実を記載せず虚偽の記載を行うことにより、上記事実を隠ぺいし、これに基づき、源泉徴収をしなかったと認められるから、源泉所得税等の不納付は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものである。
争点3の請求人の主張のとおり、本件役員による本件不正行為を請求人の行為と同視する余地はない。
 よって、請求人は、何ら隠ぺい又は仮装をしていないから、仮に、本件金員が、請求人が本件役員に支給した給与と認められ、請求人に源泉徴収義務が認められるとしても、源泉所得税等の不納付は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものではない。

(5) 争点5(「偽りその他不正の行為」により税額を免れたものと認められるか。)について

原処分庁 請求人
請求人が、帳簿書類に、本件役員に対して本件金員を供与した事実を記載せず虚偽の記載を行い、本件金員について源泉徴収をしなかったことは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当する。
 よって、請求人は、「偽りその他不正の行為」により税額を免れたものと認められる。
争点3の請求人の主張のとおり、本件役員による本件不正行為を請求人の行為と同視する余地はない。
 よって、請求人は、「偽りその他不正の行為」により税額を免れたものとは認められない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点3(本件金員の給与等該当性)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第28条第1項は、給与所得について「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定し、給与所得を包括的に規定しており、この趣旨からすると、給与所得を実質的に解し、雇用契約に限らず、これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務又は役務の対価として、あるいは労務又は役務を提供する地位に基づいて支給されるものを含むものと解される。
     ところで、法人の役員は、その役務提供の内容が極めて包括的かつ広範で法人の業務全般に及ぶものであり、役員に就任していること自体で法人に貢献することも含まれ得るから、その役務提供の対価性の判断に当たって、具体的かつ個々的な業務を観念することは困難であり、相当でもない。
     そうすると、代表者等の役員が法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配しているような法人において、代表者等がその意思に基づき、法人の資産から、経理上、給与の外形によらず、法人の事業活動を利用して利益を得たような場合には、その利益は、当該代表者等の地位及び権限と無関係に取得したとみることは相当ではなく、当該代表者等の地位及び権限に基づいて当該法人から当該代表者等に移転したものと推認することができるというべきである。
     したがって、代表者等が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような代表者等が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められるときには、その支出が当該代表者等の立場と全く無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に、代表者等がその地位及び権限に対して受けた給与等であると解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の組織について
      • A 請求人の組織は、大きく○○と○○に分かれ、○○には○○から○○があり、○○には、○○の課がある。
      • B ○○と○○に○○は配置されておらず、本件代表者が各課を直接統括する立場にあり、また、○○の○○を除く各課には、それぞれ○○が配置されていた。
         本件役員は、請求人の代表権のない取締役専務として○○及び○○の管理職の地位にあった。なお、○○には、上記のとおり、管理職として、本件役員のほか○○が配置されていた。
      • C 請求人は、原処分に係る期間を通じて、役員が本件代表者及び本件役員の2名であり、従業員が○○名、正社員○○名及びパート○○名であった。
    • (ロ) 請求人の法人事業概況説明書について
       平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度ないし平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の各法人事業概況説明書(以下「本件各概況説明書」という。)には、応答者並びに現金及び小切手の管理者として、本件役員の氏名が記載されている。
  • ハ 検討
     上記1の(3)のロないしニによれば、本件不正行為は、本件役員が、本件代表者の関与なく単独で行ったものであり、請求人は、本件不正行為の発覚の前後を通じて、本件役員が本件不正行為に係る本件金員を利得することを容認していないことが認められる。このような事情の下においても、上記イによれば、本件役員が、請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配しているような場合であって、本件役員が、その権限を濫用して、請求人の事業活動を通じて本件金員を得たときには、本件金員は、原則として、本件役員の地位及び権限に基づいて得た給与と解されるところ、原処分庁は、本件役員が、1請求人の業務において影響力を有していたこと及び2経理業務の重要な部分を任せられていたことから、その地位に基づいて本件金員という経済的利益を支給されたと主張する。
     そこで、以下、上記1及び2をもって、本件役員が請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたと認められるか否かについて検討する。
    • (イ) 原処分庁は、請求人の役員が本件代表者と本件役員のみであること、本件役員が本件代表者の実弟であることから、本件役員が、本件代表者に次ぐ役員として請求人の業務において影響力を有していた旨主張する。
       しかしながら、上記1の(3)のイの(ロ)によれば、請求人の役員は、本件代表者と本件役員のみであるとはいえ、原処分に係る期間を通じて、本件役員は、請求人の株式の10%から25%を保有するにすぎず、代表権もない一方で、本件代表者は、請求人の株式の55%から75%を保有し、代表権を有していたと認められることからすると、本件役員は、法律上、単独で請求人の業務執行等を決定する地位にはなかったと認められる。
       また、本件役員は、本件代表者の実弟であるとはいえ(上記1の(3)のイの(ロ))、本件役員が請求人の業務執行等を決定していたことを認めるに足りる証拠はない(請求人が当審判所に提出した本件代表者の陳述書には、本件代表者が請求人の全ての業務の責任を持っており、本件役員が請求人の従業員と変わりない職務しか担当していない旨記載されており、また、請求人が当審判所に提出した本件役員の陳述書にも、その職務内容が経理担当の従業員と変わらない旨記載されているところ、請求人が小規模な法人で、本件代表者が本件役員の所属する○○及び○○の各課を直接統括する立場にあったこと(上記ロの(イ))からすると、上記各陳述書の記載は、あながち不合理とはいえず、これらの記載にも照らすと、本件代表者が、実弟である本件役員に対し、請求人の業務執行等を決定することを明示又は黙示に許容していたものとは直ちに認め難い。)。
       以上によれば、本件役員は、法律上請求人の業務執行等を決定する地位にあったとは認められず、事実上もそのような地位にあったことを認めるに足りる証拠はないのであって、本件役員が請求人の業務において影響力を有していたとは認められない。
    • (ロ) 原処分庁は、1本件役員が、取締役専務の肩書で経理及び財務の総責任者を務めていたこと、2本件代表者が、自ら容易に行える当座預金の残高照合の確認作業等や帳簿の不審点についての本件役員への追及をしていなかったことから、本件役員が、経理業務の重要な部分を任せられていた旨主張する。
      • A まず、上記(ロ)の1の点についてみるに、原処分関係資料によれば、本件役員は、調査担当者の質問調査に対し、「経理・財務の総責任者は私です」と申述したことが認められる(以下、当該申述を「本件役員申述」という。)。
         しかしながら、本件役員は、本件役員申述をした際、調査担当者に対し、その担当業務について、現金及び通帳等の管理や元帳への入力等を他の経理担当者と分担し、また、入力内容を単独でチェックしていた旨の申述もしているところ、当該申述からは、本件役員が、請求人の行った取引に係る仕訳の入力やチェックを行い、当該取引に係る支払等の一部を行っていたという程度のことはいえるにしても、経理・財務に係る重要な業務を行っていたとまではいえず、本件役員は、上記の申述以上に本件役員申述を裏付ける具体的な業務内容の説明はしていない。よって、本件役員申述は、「経理・財務の総責任者」の意味について具体性を欠いているといわざるを得ない。
         また、上記(イ)のとおり、本件役員の職務内容が請求人の従業員と変わりない旨の本件代表者及び本件役員の各陳述書の記載は、あながち不合理なものではないところ、本件役員申述は、これらの記載とも食い違っている。
         他方で、本件役員は、「取締役専務」の肩書の使用を許されていたが(上記1の(3)のイの(ハ))、「取締役専務」の具体的な職務内容を認めるに足りる客観的証拠はない。また、本件各概況説明書には、応答者並びに現金及び小切手の管理者として、本件役員の氏名が記載されているところ(上記ロの(ロ))、法人事業概況説明書の応答者欄には、○○課長のように、法人の経理状況をよく知っているものの、経理・財務に係る重要な業務の権限を有していない者の氏名が記載されることも多く(当審判所の調査及び審理の結果)、本件役員が、本件各概況説明書の現金及び小切手の管理者欄の記載のとおり、現金や小切手を管理していたことがあったとしても、本件代表者の決裁した支払等のために管理していたにすぎない可能性もある。
         以上によれば、本件役員申述のとおり「経理・財務の総責任者」であると申述されたとしても、せいぜい、従業員の経理事務や財務事務について、本件代表者に次ぐ役員として最終的な監督責任を有するという程度の意味しかなかった可能性も否定できない。そうすると、上記(ロ)の1をもって、本件役員が、経理業務の重要な部分を任されていたとは認められない。
      • B 次に、上記(ロ)の2についてみるに、本件代表者が、当座預金の残高照合について、本件役員に任せており、自らは確認作業を行っていないとの事情や、帳簿の不審点について本件役員を強く追及することがなかったとの事情は、請求人の本件役員に対する管理監督が不十分であったことを示すものとはいえても、請求人が、本件役員に対し、経理業務の重要な部分を任せていたことを示すものとまではいえない。
      • C 以上によれば、上記(ロ)の1及び2をもって、本件役員が、経理業務の重要な部分を任せられていたとは認められず、その他、これを認めるに足りる証拠はない。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、本件役員は、請求人の業務において影響力を有していたとは認められず、経理業務の重要な部分を任せられていたとも認められないから、本件役員が、請求人の経営の実権を掌握し、請求人を実質的に支配していたとは認められない。
       そうすると、本件役員が、その地位及び権限に基づいて請求人から本件金員を得たものとは認められず、本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与等に該当するとは認められない。

(2) 原処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件金員は、請求人が本件役員に支給した給与等に該当するとは認められないから、上記(1)で判断した争点3以外の争点について判断するまでもなく、本件金員が、請求人が本件役員に支給した給与等であることを前提とする本件各納税告知処分及び本件各賦課決定処分は、いずれもその全部が違法である。

(3) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分はいずれもその全部を取り消すこととする。

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