(平成30年6月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、型枠大工業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁から所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の決定処分等並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の決定処分等を受けたため、1調査に係る手続に違法がある、2事業所得の金額を推計する必要性がない、3課税仕入れに係る消費税額の控除をすべきであるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項は、税務署の当該職員は、所得税又は消費税に関する調査について必要があるときは、所得税法の規定による所得税の納税義務がある者等又は消費税法の規定による消費税の納税義務がある者等に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる旨規定している。
  • ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
  • ハ 所得税基本通達36−8《事業所得の総収入金額の収入すべき時期》の(4)は、事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、請負による収入金額については、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日によるものとし、ただし、一の契約により多量に請け負った同種の建設工事等についてその引渡量に従い工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合又は1個の建設工事等についてその完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合には、その引き渡した部分に係る収入金額については、その特約又は慣習により相手方に引き渡した日によるものとする旨定めている。
     また、所得税基本通達36−8の(5)は、事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、請負を除く人的役務の提供による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日によるものとし、ただし、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日によるものとする旨定めている。
  • ニ 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。
  • ホ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項(平成26年3月31日までの課税仕入れに係るものは平成24年法律第68号による改正前のもの。)は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する旨規定している。
  • ヘ 消費税法第30条第7項本文は、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等(以下「30条帳簿等」という。)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る税額については、適用しない旨規定し、同条第7項ただし書は、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない旨規定している。
  • ト 消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項は、仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は、30条帳簿等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、遅くとも平成21年以降、請求人の住所地において「H」の屋号で型枠大工業(以下「本件事業」という。)を営んでいる。
  • ロ 請求人は、平成25年分の所得税等の確定申告書を提出していないが、平成26年分及び平成27年分(以下、平成25年分ないし平成27年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税等については、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した各確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
  • ハ 請求人は、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで、平成26年1月1日から平成26年12月31日まで及び平成27年1月1日から平成27年12月31日までの各課税期間(以下、これらの各課税期間を順次「平成23年課税期間」、「平成26年課税期間」及び「平成27年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等の各確定申告書をいずれも提出していない。
  • ニ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成27年10月2日、請求人に対し、原処分に係る調査について、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項各号に規定する事項の事前通知をした(以下、原処分に係る一連の調査を「本件調査」という。)。
  • ホ 本件調査担当職員は、平成29年2月7日、調査のため、請求人の自宅に臨戸した(以下、当該臨戸を「本件臨戸」という。)。
  • ヘ 原処分について
    • (イ) 所得税
       原処分庁は、平成29年3月10日付で、別表1の「決定処分等」欄及び「更正処分等」欄のとおり、平成25年分の所得税等の決定処分、平成26年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分(以下、これらを併せて「本件所得税等各決定処分等」という。)並びに平成25年分の所得税等に係る無申告加算税、平成26年分及び平成27年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ロ) 消費税等
       原処分庁は、平成29年3月10日付で、別表2の「決定処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税等各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をした。
  • ト 請求人は、平成29年6月9日、原処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年9月8日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
  • チ 請求人は、平成29年10月6日、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か。
  • (2) 争点2 原処分庁が認定した本件事業に係る事業所得の総収入金額の収入すべき時期に誤りがあるか否か。
  • (3) 争点3 本件各年分の事業所得の金額について、推計の必要性が認められるか否か。
  • (4) 争点4 本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
次のとおり、本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法がある。 次のとおり、本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法はない。
イ 請求人は、本件調査担当職員から、平成27年9月に調査の連絡を受け、同年10月2日の事前通知によって、調査の日程を同月6日とした。しかし、請求人の都合が悪くなったため、断りの連絡をしたところ、それ以降、本件調査担当職員から何の連絡もなかった。平成28年8月になって、ようやく本件調査担当職員から連絡があったが、本件調査担当職員は、仕事が忙しいという請求人の事情に配慮することなく、任意調査でありながら、無理な日程調整を強要した。 イ 本件調査担当職員は、本件調査に係る事前通知の後、請求人からの調査の日程変更の求めに対して適切に対応しており、無理な日程調整を強要していない。
ロ 本件調査担当職員は、請求人に対する調査を一度も行わない段階で、請求人の同意も得ずに、勝手に取引先に対する調査を行った。 ロ 本件調査担当職員は、請求人が、再三にわたって、調査の日程変更を申し出たり、本件調査担当職員からの連絡に応じなかったことから、請求人の取引先に対する調査を行ったものであり、不合理ではない。
 また、請求人の取引先へ質問検査等を行うに当たり、請求人の同意を得なければならないとする法令上の規定はない。
ハ 請求人は、何とか仕事の日程調整をして、調査に応じたのに、本件調査担当職員は、請求人が準備した帳簿書類等を確認することなく、一方的に帰ってしまった。 ハ 本件調査担当職員が、本件臨戸の際、帳簿書類等を確認しなかったのは、請求人に対し、税理士以外の第三者を退席させるよう求めたところ、請求人から、第三者の立会いがないと調査に応じない旨の申述を受けたため、第三者が立会いするまま調査を継続すると守秘義務に違反するおそれがあると判断したからである。
ニ 請求人は、2回目の調査を平成29年3月30日に受けると申し出たのに、本件調査担当職員は、正当な理由の説明もなく、同月9日に調査を打ち切った。 ニ 本件調査担当職員は、請求人から税理士以外の第三者の立会いがないと調査に応じない旨の申述を受けたため、請求人がこのまま調査に協力しないなら、調査結果の内容の説明をする旨伝えた上で、平成29年3月3日までに次回の調査に応じるよう伝えた。しかし、請求人は、次回の調査を同月30日とするよう主張し、更には同日もどうなるかわからない旨申し述べたことから、本件調査担当職員は、請求人の協力が得られないものと判断し、調査結果の内容の説明をすることとしたものであって、不合理ではない。

(2) 争点2(原処分庁が認定した本件事業に係る事業所得の総収入金額の収入すべき時期に誤りがあるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件事業のうち、J社(以下「本件取引先」という。)との間の請負による取引については、所得税基本通達36−8の(4)のとおり、目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日又はその約した役務の提供を完了した日が収入として計上する時期となる。本件取引先との間の取引について、同通達36−8の(4)のただし書に定める特約又は慣習があったとは認められないから、工事期間とは無関係に、出来高払により収入金額を計上することにはならない。
 また、本件取引先との間の請負以外の取引については、所得税基本通達36−8の(5)に定める請負以外の人的役務に該当するから、その人的役務の提供を完了した日に収入金額に計上することになる。
 したがって、本件取引先との間の取引に係る平成26年分及び平成27年分の収入金額について、原処分庁が認定した収入として計上する時期に誤りはない。
 なお、本件取引先以外の取引先との請負及び請負以外の各取引についても、本件取引先と同様である。
本件事業は手間受け仕事のため、本件取引先との間の取引については、工事期間とは関係なく、1月から12月の間の出来高として支払われる金額が収入金額となる。
 したがって、本件取引先との間の取引に係る平成26年分及び平成27年分の収入金額について、原処分庁が認定した収入計上時期には誤りがある。
 なお、平成25年分の総収入金額については争わず、平成26年分及び平成27年分の総収入金額については、本件取引先以外の取引先に係る収入金額については争わない。

(3) 争点3(本件各年分の事業所得の金額について、推計の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件調査担当職員は、再三にわたり、請求人に対し、事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、税理士以外の第三者の立会いを求めて調査に協力せず、帳簿書類等を提示しなかったので、請求人の事業所得の金額を帳簿書類等に基づき計算することができなかった。
 したがって、本件各年分の事業所得の金額について、推計の必要性が認められる。
請求人は、平成29年2月7日の本件臨戸の際、帳簿書類等を机の上に置いていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、帳簿書類等を手にすることもなく、一方的に帰った。
 また、本件調査担当職員が、同日以降、請求人の仕事の都合に配慮し、日程調整をして調査を行えば、帳簿書類等に基づき事業所得の金額を計算することができたはずである。
 したがって、本件各年分の事業所得の金額について、推計の必要性は認められない。

(4) 争点4(本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件調査担当職員は、再三にわたり、請求人に対し、30条帳簿等の提示を求め、それらの提示がなければ仕入税額控除が適用されないことを説明したが、請求人は、税理士以外の第三者の立会いを求めて調査に協力せず、30条帳簿等を提示しなかった。
 したがって、消費税法第30条第7項本文に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するから、本件各課税期間において、仕入税額控除は適用されない。
請求人は、仕事の日程調整をして調査を受け、保存している30条帳簿等を提示する準備をしていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、請求人の準備した30条帳簿等を見ないで一方的に帰ったため、これらを提示することができなかったにすぎない。
 したがって、消費税法第30条第7項本文に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」には該当しないから、本件各課税期間において、仕入税額控除が適用される。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられることからすれば、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解すべきである。
       もっとも、通則法は、第24条《更正》の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるところ、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
    • (ロ) 通則法第74条の2第1項は、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同項各号に規定する者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査等の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査等の必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件調査に係る事前通知の状況
       本件調査担当職員は、平成27年9月24日及び同月30日、請求人に対して事前通知をしようとしたが、請求人が不在であったため、同月30日、文書により本件調査担当職員への折り返しの連絡を依頼した。同年10月2日、請求人から連絡があったため、本件調査担当職員は、折り返し請求人の携帯電話に連絡して、調査の日程を同月6日とするなど、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項各号に規定する事前通知をした。
    • (ロ) 本件臨戸までの請求人との連絡状況等
       平成27年10月5日、請求人から、仕事の都合のため、同月6日の調査には応じられないとして、調査の日程変更の申出があったため、本件調査担当職員は、これに応じ、同月7日に調査を行うこととした。さらに、同月6日、請求人から、仕事の都合のため、同月7日の調査には応じられないとして、再度、調査の日程変更の申出があったため、本件調査担当職員は、これに応じ、同月13日に請求人から連絡をもらうこととした。
       ところが、それ以降、請求人は、本件調査担当職員に対し、調査に応じられる日程を連絡せず、本件調査担当職員が、平成27年10月13日から同月30日までの間、複数回、請求人の携帯電話及び自宅の固定電話に連絡したものの、請求人の応答がなかったため、平成27年中に調査が行われることはなかった。
       本件調査担当職員は、平成28年7月28日以降、請求人の携帯電話又は自宅の固定電話に複数回、調査のための連絡をするとともに、同年8月4日以降、複数回、請求人の自宅に臨戸するなどし、同月29日、請求人の携帯電話に連絡し、改めて本件調査に係る事前通知をするとともに、同年9月26日に調査を行うこととした。
       しかし、平成28年9月23日、請求人から都合が悪くなったとして日程変更の申出があったため、本件調査担当職員は、同月26日以降、請求人の携帯電話に複数回連絡し、調査の日程調整を試み、同年10月17日に調査を行うこととした。
       ところが、平成28年10月14日、請求人から都合が悪くなったとして日程変更の申出があり、同月21日までに請求人から連絡がある予定であったが、連絡がなかったため、本件調査担当職員は、同日以降、請求人の携帯電話に複数回連絡するものの、請求人の応答はなかった。
       そこで、本件調査担当職員は、平成28年10月31日、請求人の自宅に臨戸したが、請求人が不在であったため、1調査への協力を求める旨、2調査の際は所得税法の規定により保存することとされている事業に関する帳簿書類等の提示を求める旨、3同年11月15日までに調査が行えるように日程調整して連絡してもらいたい旨、4連絡がない場合には、独自に調査を実施する旨を記載した文書を、在宅していた請求人の妻に手交した。
       本件調査担当職員は、平成28年11月15日までに、請求人からの連絡がなく、請求人の携帯電話に複数回連絡しても応答がなかったことから、同年12月9日、同月16日、平成29年1月6日、同月12日及び同月18日の5回にわたって、請求人の自宅に臨戸したが、いずれも請求人が不在であったため、その都度、本件調査への協力を求める旨及び要旨次のとおり記載した文書を、在宅していた請求人の妻に手交するか、請求人の自宅の郵便受けに投かんした。
      • A 本件調査を進めている旨
      • B 本件調査担当職員への連絡を求める旨
      • C 本件調査の対象税目及び対象期間について、所得税等は平成23年分ないし平成27年分、消費税等は平成23年課税期間ないし平成27年課税期間とし、必要があれば対象税目及び対象期間以外についても確認する場合がある旨
      • D 所得税法及び消費税法の規定により保存することとされている事業に係る帳簿書類等の提示を求める旨
      • E 30条帳簿等の提示がない場合は、仕入税額控除が適用できない場合がある旨
    • (ハ) 各取引先に対する調査の状況
       本件調査担当職員は、平成28年12月から平成29年1月にかけて、請求人の各取引先に対して臨場又は文書による照会の方法により、取引内容を確認する調査を行った。
    • (ニ) 本件臨戸の際の調査の状況
       本件調査担当職員は、平成29年1月24日に、請求人との電話連絡により調査日程を約した上で、平成29年2月7日に、請求人の自宅に臨戸し(本件臨戸)、請求人及び税理士以外の第三者8名と面会した。その際、本件調査担当職員は、請求人に対し、税理士以外の第三者を退席させた上で、所得税等及び消費税等に係る帳簿書類等を提示するよう求めたところ、請求人は、税理士以外の第三者の立会いを求め、当該第三者を退席させた上での帳簿書類等の提示には応じなかった。
       そのため、本件調査担当職員は、請求人に対し、税務職員に課せられた守秘義務について説明した上で、税理士以外の第三者の退席及び帳簿書類等を提示して調査に応じるよう複数回求めたが、請求人がこれに応じなかったため、請求人の自宅を退去した。
    • (ホ) 本件臨戸後の調査から原処分までの状況
       本件調査担当職員は、本件臨戸の後も、再三にわたり、請求人の自宅に臨戸し、文書により所得税等及び消費税等に係る帳簿書類等の提示を求めるとともに、請求人の携帯電話及び自宅の固定電話へ複数回連絡し、請求人が応答した際には、税理士以外の第三者の立会いのない状態で調査に応じるよう求めたが、請求人はこれに応じなかった。
       また、本件調査担当職員は、平成29年2月24日、請求人の携帯電話に連絡して、同年3月3日までに調査に応じるよう求め、同年2月27日までに連絡するよう依頼したところ、請求人から、同日に連絡があったが、請求人は、仕事が忙しいため同年3月3日の調査には応じられない旨、同月30日であれば調査に応じる旨申し述べるとともに、同日の調査を確実に受けられるかは分からない旨申し述べた。
       本件調査担当職員は、平成29年3月3日、請求人に対し、調査結果の内容の説明を同月6日に行うことを伝えて来署を求めたが、請求人は来署せず、平成29年3月8日、請求人に対し、調査結果の内容の説明を同月9日に行うことを伝えて再度来署を求めたが、請求人がこれにも応じなかったことから、原処分庁は、請求人から本件調査に対する協力が得られないものと判断し、同月10日付で、原処分をした。
  • ハ 当てはめ及び請求人の主張について
     請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のとおり、1本件調査担当職員から、平成27年9月に調査の連絡を受け、同年10月2日の事前通知によって、調査の日程を同月6日としたが、請求人の都合が悪くなったため、断りの連絡をして以降、平成28年8月まで本件調査担当職員から何の連絡もなかった上、平成28年8月になって、ようやく本件調査担当職員から連絡があったが、本件調査担当職員は、請求人の事情に配慮することなく、無理な日程調整を強要したこと、2本件調査担当職員は、請求人に対する調査を行わない段階で、請求人の同意も得ずに、勝手に取引先に対する調査を行ったこと、3請求人は、仕事の日程調整をして、調査に応じたのに、本件調査担当職員は、請求人が準備した帳簿書類等を確認することなく、一方的に帰ってしまったこと、4請求人は、2回目の調査を平成29年3月30日に受けると申し出たのに、本件調査担当職員は、正当な理由の説明もなく、同月9日に調査を打ち切ったことを理由に、本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法がある旨主張する。
     しかしながら、1については、上記ロの(ロ)のとおり、請求人の都合により、決定していた調査の日程が2回変更されたこと、請求人から、平成27年10月13日に、本件調査担当職員へ日程調整の結果を連絡してもらうこととしていたにもかかわらず、請求人は本件調査担当職員に連絡しなかったこと、その後も、本件調査担当職員が、平成27年10月13日から同月30日までの間、複数回、請求人の携帯電話及び自宅の固定電話に連絡したものの、請求人の応答がなかったことなどからすれば、およそ9か月の間、請求人に対する連絡がなかったからといって、本件調査に係る手続が違法となるものではない。また、上記ロの(ロ)及び(ホ)のとおり、本件調査担当職員が、請求人に対し、再三にわたり、調査に係る日程調整を依頼しても、請求人がこれに応じなかったことなどの事情に照らせば、本件調査担当職員が、請求人に無理な日程調整を強要していたとは認めらない。
     2については、各取引先に対する調査(上記ロの(ハ))について、請求人に対する調査が実施された後でなければならないとか、請求人の同意を得なければならないとする法令上の規定はいずれもない。また、上記イの(ロ)のとおり、質問検査等の範囲等の実施の細目については、質問検査等の必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されるところ、上記ロの(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、各取引先に対する調査に先立って、再三にわたり、請求人に対する調査を実施しようと試みていたこと、また、請求人から本件調査担当職員に連絡がない場合には、独自に調査を実施する旨を文書により予告し、本件調査を進めている旨も文書により通知していることなどに照らせば、本件調査担当職員の各取引先に対する調査の実施について、社会通念上相当の限度を超えているとはいえない。
     3については、上記ロの(ニ)のとおり、本件調査担当職員が、本件臨戸の際に、帳簿書類等を確認しなかったのは、その際に税理士以外の第三者の立会いがあったため、請求人に対し、税理士以外の第三者を退席させるよう求めたにもかかわらず、請求人が、第三者の立会いがないと調査に応じない旨申し述べてこれに応じなかったからである。もとより、税務調査に関係のない第三者の税務調査への立会いを認めなければならない旨の法令上の規定はないほか、税理士以外の第三者の立会いがある状態において本件調査を行うことは、国家公務員法第100条《秘密を守る義務》及び通則法第126条に規定する守秘義務に違反するおそれがある点を考慮すれば、本件調査担当職員が、税理士以外の第三者の立会いがある状態において、帳簿書類等を確認しなかったことは、合理的な判断といえるから、本件調査に係る手続が違法となるものではない。
     4については、上記ロの(ロ)、(ニ)及び(ホ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人に対し、再三にわたり、本件調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人は、調査の日程を度々変更してこれに応じなかったことなど、本件調査における一連の経過に照らせば、請求人が平成29年3月30日に調査に応じる旨述べていたことを踏まえても、本件調査担当職員が本件調査に係る調査結果の内容を同月9日に説明する旨を請求人に伝えて来署を求めたが、請求人がこれに応じなかったため、同日、本件調査を終了したことをもって、本件調査に係る手続が違法となるものではない。
     その他、本件調査に係る手続や本件調査担当職員による証拠資料の収集手続が、刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどと評価するに足りる事実もない。
     したがって、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件調査に係る手続に原処分の取消事由となる違法はない。

(2) 争点2(原処分庁が認定した本件事業に係る事業所得の総収入金額の収入すべき時期に誤りがあるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第36条第1項が、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において「収入すべき金額」とする旨規定し、「収入した金額」としていないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、その権利の確定した時期の属する年分の総収入金額に算入して課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義を採用したものと解される。このように、所得税法が権利確定主義を採用したのは、課税に当たって常に現実収入の時期まで課税することができないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いとの観点から、収入の原因となる権利の確定した時期を捉えて課税することとしたものと解される。
    • (ロ) 事業所得の総収入金額の収入すべき時期について、所得税基本通達36−8の(4)は、請負による収入金額については、一の契約により多量に請け負った同種の建設工事等についてその引渡量に従い工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合又は1個の建設工事等についてその完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合を除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日によるものとする旨定めており、また、同通達36−8の(5)は、請負を除く人的役務の提供による収入金額については、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合を除き、その人的役務の提供を完了した日によるものとする旨定めているところ、これらの定めは上記(イ)の所得税法第36条第1項の趣旨と合致することから、当審判所においても相当と認められる。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、本件各年分において、本件取引先から、工事の発注を口頭で受け、指定された工事現場において型枠工事を請け負っており(以下「本件請負工事」という。)、本件請負工事に係る契約金額は、工事現場ごとに取り決められていた。
       本件取引先は、工事現場ごとに工程管理を行い、毎月末日締めで本件請負工事に係る毎月分の出来高を査定した上で、当該査定額を契約金額に対する内金として請求人に支払い、全ての工程が完了すると、契約金額から既に支払った内金を差し引きした残金を請求人に支払っていた。
       また、本件取引先は、毎月末日締めで支払明細書(以下「本件支払明細書」という。)を作成して請求人に交付していたところ、本件支払明細書には、本件請負工事に関して、工事現場ごとに、契約金額、内金の支払回数、当月の支払額及び契約金額に対する残金の額が記載されている。
    • (ロ) 請求人は、本件各年分において、本件請負工事以外に、本件取引先から口頭で指定された工事現場で、作業等の人的役務の提供(いわゆる「常用」、「応援」といわれるもの)を行っていた。
       本件取引先は、日々の作業等の実績に基づき、工事現場ごとに、毎月末日締めで従事した延べ人数を査定した上で、当該査定人数に、請求人と本件取引先が合意した1日当たりの単価を乗じて計算した金額を、当該作業等の人的役務の提供の対価として請求人に支払っていた。
       また、本件支払明細書には、当該人的役務の提供に関しても記載されており、そこには、工事現場ごとに、1日当たりの単価、従事日数及び当月の支払額が記載されている。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件請負工事については、上記ロの(イ)のとおり、受注した工事現場ごとに契約金額が決められており、毎月分の出来高に応じて毎月末日締めで支払がされているものの、当該支払は飽くまで内金としての支払にすぎないから、当該支払方法をもって、上記イの(ロ)の所得税基本通達36−8の(4)の特約又は慣習があったとは認められず、その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、当該特約又は慣習があったとは認められない。
       そうすると、本件請負工事の対価(契約金額の全額)を収入に計上すべき時期は、目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日又はその約した役務の提供を完了した日となるから、本件請負工事については、全ての工程が完了した日とするのが相当である。
    • (ロ) また、本件請負工事以外の人的役務の提供については、上記ロの(ロ)の事実によれば、当該人的役務の提供は、日単位でされるものと認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、上記イの(ロ)の所得税基本通達36−8の(5)の特約又は慣習があったとは認められないから、当該人的役務の提供による報酬を収入に計上すべき時期は、日ごとの人的役務の提供を完了した日とするのが相当である。
    • (ハ) したがって、原処分庁が認定した本件事業に係る事業所得の総収入金額の収入すべき時期に誤りはない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件事業は手間受け仕事のため、本件取引先との取引は、工事期間とは関係なく、1月から12月の間の出来高として支払われる金額が収入金額となる旨主張する。
     しかしながら、本件取引先が毎月末日締めで支払をしていることをもって、直ちに上記イの(ロ)の特約又は慣習を認めることはできず、上記ハの(イ)及び(ロ)のとおり、当審判所の調査及び審理の結果によっても、当該特約又は慣習があったとは認められないから、本件請負工事については、目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日又はその約した役務の提供を完了した日によって収入計上時期が定まり、本件請負工事以外の人的役務の提供については、日ごとの人的役務の提供を完了した日によって収入計上時期が定まるものというべきである。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件各年分の事業所得の金額について、推計の必要性が認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第156条は、税務署長が所得税につき更正又は決定をする場合において、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているが、飽くまで課税処分における課税標準の認定は直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であることからすれば、推計による課税が認められるのは、やむを得ず推計によらざるを得ない場合、すなわち、1納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、2帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、3納税義務者が資料の提供を拒否するなど税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のロの(ロ)のとおり、本件臨戸までに、本件調査担当職員が、請求人に対し、再三にわたり、本件調査に応じるよう求めるとともに、本件各年分の事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたが、請求人は、調査の日程を度々変更してこれに応じず、また、上記(1)のロの(ニ)のとおり、本件臨戸の際に、本件調査担当職員が、請求人に対し、帳簿書類等の提示を求めても、請求人は、税理士以外の第三者の立会いを求めて帳簿書類等の提示に応じず、その後、上記(1)のロの(ホ)のとおり、本件臨戸の後にも、本件調査担当職員が、請求人に対し、再三にわたり、帳簿書類等の提示を求めたが、請求人はこれに応じなかったというのである。
     これらの各事実によれば、原処分庁としては、帳簿書類等の直接資料に基づき、請求人の本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により計算することが不可能又は著しく困難であったといえるから、推計の方法により請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算する必要性が認められる。
     また、請求人は、当審判所に対しても、帳簿書類等の提示を行うなどして、請求人の本件各年分の事業所得の金額について具体的な説明をしないため、当審判所においても、帳簿書類等の直接資料に基づき、請求人の本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により計算することができないから、推計の方法により請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算する必要性が認められる。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件臨戸の際、請求人が帳簿書類等を机の上に置いていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、帳簿書類等を手にすることもなく一方的に帰ったのであること、また、本件調査担当職員が、同日以降、請求人の仕事の都合に配慮し、日程調整をして調査を行えば、帳簿書類等に基づき事業所得の金額を計算することが可能であったことから、推計の必要性は認められない旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のロの(ニ)及び上記ロのとおり、本件臨戸の際、請求人が帳簿書類等を机の上に置いていたとしても、その場に税理士以外の第三者が立ち会っていた以上、本件調査担当職員が当該帳簿書類等を確認しなかったことは合理的な判断といえること(上記(1)のハ)、本件調査担当職員が、請求人に対し、再三にわたり、本件各年分の事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、税理士以外の第三者の立会いを求めて帳簿書類等の提示に応じなかったことなどからすれば、推計の必要性が認められるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 推計の合理性等について

本件において、請求人は、推計の合理性については主張しないものの、推計の方法による課税を行うに当たっては、その方法が合理的であることが求められることから、以下、原処分庁が採用した推計の方法の合理性について検討する。

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 原処分庁は、それぞれ別表3−1の本件各年分の「原処分庁主張額」欄の「合計」欄のとおり、請求人の各取引先に対する調査により、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額を把握した。
    • (ロ) 原処分庁は、請求人と業種及び業態に類似性があり、事業規模が同規模程度であると判断した同業者(以下「本件類似同業者」という。)の抽出条件として、1型枠大工業を営んでいる個人事業者であること、2型枠大工業以外の事業を兼業していないこと、3本件各年分においてG税務署管内に事業所を有すること、4青色申告書により所得税等の確定申告書を提出していること、5暦年を通じて事業を営んでいること、6本件各年分の事業所得に係る総収入金額が請求人の総収入金額の0.5倍以上2倍以下の範囲にあること、7本件各年分について不服申立て又は訴訟が継続中でないことの全ての条件に該当する者と設定した。
    • (ハ) 原処分庁は、上記(イ)で把握した総収入金額から、上記(ロ)で抽出した本件類似同業者の総収入金額に対する必要経費(青色申告に対してのみ認められる青色事業専従者給与等の特典による控除を除く。)の割合の平均値(以下「平均必要経費率」という。)を上記(イ)の総収入金額に乗じて算定した必要経費を控除して、請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算した。
  • ロ 検討
    • (イ) 推計の方法の合理性について
       原処分庁は、上記イの(ハ)のとおり、請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算しているが、一般に、業種、業態及び規模等が類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の総収入金額に対し同程度の所得が得られると考えられるところ、このことは本件事業についても同様であり、かつ、請求人に上記の特段の事情があるとは認められない。
       また、同業者間に通常存する程度の営業条件等の差異については、各同業者の比率からその平均値を算出する過程において捨象されるものと認められることからすれば、原処分庁が採用した上記イの(ロ)及び(ハ)の推計の方法は、抽出された同業者に類似性が認められ、かつ、その基礎数値等が正確なものである限り、合理性を有するものと認めるのが相当である。
    • (ロ) 本件各年分の総収入金額の正確性について
       原処分庁は、上記イの(イ)のとおり、請求人の各取引先に対する調査により請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額を把握しているところ、当審判所の調査及び審理の結果においても、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、それぞれ別表3−1の本件各年分の「審判所認定額」欄の「合計」欄のとおりとなり、原処分庁が把握した額といずれも同額となるから、原処分庁が把握した本件各年分の総収入金額は正確に計算されていると認められる。
    • (ハ) 本件類似同業者の抽出方法の合理性について
       原処分庁は、本件類似同業者を抽出するに当たり、業種及び業態の類似性、個人又は法人の別、事業所の所在地の近接性、資料の正確性並びに事業規模の類似性等に係る基準を設けて、上記イの(ロ)のとおり、これらの条件に全て該当する者を抽出したのであるから、原処分庁が採用した抽出基準及び抽出方法には合理性があると認められる。
    • (ニ) 事業所得の金額の計算について
       以上を基に請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算すると、次のとおりとなる。
      • A 本件類似同業者の本件各年分の平均必要経費率
         本件類似同業者の本件各年分の平均必要経費率を計算すると、それぞれ別表3−2の本件各年分の「審判所認定率」欄の「平均必要経費率」欄のとおりとなる。
      • B 請求人の本件各年分の必要経費
         上記(ロ)の請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額に上記Aの平均必要経費率を乗じて、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費を算定すると、それぞれ別表3−3の本件各年分の「審判所認定額」欄の「必要経費」欄のとおりとなる。
      • C 請求人の本件各年分の事業所得の金額
         請求人の本件各年分の事業所得の金額は、上記(ロ)の本件各年分の事業所得に係る総収入金額から上記Bの必要経費を控除した金額であり、それぞれ別表3−3の本件各年分の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額」欄のとおり、平成25年分が○○○○円、平成26年分が○○○○円及び平成27年分が○○○○円となる。

(5) 争点4(本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     事業者が、消費税法施行令第50条第1項に規定するとおり、30条帳簿等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2第1項に基づく税務署の当該職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法第30条第7項に規定する事業者が当該課税期間の30条帳簿等を保存しない場合に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、仕入税額控除については、適用されないものというべきである。
  • ロ 当てはめ
     本件調査担当職員は、上記(1)のロの(ロ)、(ニ)及び(ホ)のとおり、再三にわたり、請求人に対し、口頭又は文書により、30条帳簿等の提示がない場合には、仕入税額控除の適用が受けられない場合がある旨を説明した上で、30条帳簿等の提示を求めていたにもかかわらず、請求人は、30条帳簿等を一切提示しなかったというのであり、これらの各事実によれば、請求人は、通則法第74条の2第1項に基づく税務署の当該職員の検査に当たって適時に30条帳簿等を提示することが可能なように態勢を整えて保存していたとはいえない。また、消費税法第30条第7項ただし書に該当するような事情も認められない。
     したがって、本件各課税期間において、仕入税額控除は適用されない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(4)の「請求人」欄のとおり、保存している30条帳簿等を提示する準備をしていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、請求人の準備した30条帳簿等を見ないで一方的に帰ったため、これらを提示することができなかったにすぎず、このことは、消費税法第30条第7項に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」には該当しないから、仕入税額控除が適用されるべきである旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のロの(ロ)、(ニ)及び(ホ)で認定した本件調査の経過等によれば、本件臨戸の際以外にも、請求人には30条帳簿等を提示する機会があったと認められるところ、上記ロのとおり、請求人は、再三にわたり、30条帳簿等の提示を求められたにもかかわらず、30条帳簿等を提示しなかったというのであるから、通則法第74条の2第1項に基づく税務署の当該職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していたとはいえない。
     また、本件臨戸の際の対応をみても、上記(1)のハのとおり、本件調査担当職員が、税理士以外の第三者を退席させるよう求めたが、請求人がこれに応じなかったため、机の上にあった帳簿書類等を確認することなく退去したことは合理的な判断といえるから、請求人が主張するような一方的に帰ったといった評価は当たらず、上記ロの判断を左右するものともいえない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(6) 原処分の適法性について

  • イ 本件所得税等各決定処分等の適法性について
    • (イ) 請求人の本件各年分の事業所得の金額は、上記(4)のロの(ニ)のCのとおりであり、ほかに所得はないことから、請求人の本件各年分の総所得金額は、それぞれ別表3−3の本件各年分の「審判所認定額」欄の「総所得金額」欄のとおり、平成25年分が○○○○円、平成26年分が○○○○円及び平成27年分が○○○○円となる。
    • (ロ) 上記(イ)の本件各年分の総所得金額に基づき、請求人の本件各年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表3−3の本件各年分の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおりとなり、本件所得税等各決定処分等の額といずれも同額であると認められる。
       なお、本件所得税等各決定処分等のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、本件所得税等各決定処分等はいずれも適法である。
  • ロ 本件所得税等各賦課決定処分の適法性について
     上記イのとおり、本件所得税等各決定処分等はいずれも適法であり、また、平成25年分の所得税等の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由」及び、平成26年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分により所得税等の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」は、いずれも認められない。
     そして、当審判所においても、本件各年分における無申告加算税の額及び各過少申告加算税の額は、本件所得税等各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
     したがって、本件所得税等各賦課決定処分はいずれも適法である。
  • ハ 本件消費税等各決定処分の適法性について
    • (イ) 本件各課税期間における基準期間の課税売上高
       請求人の平成23年課税期間における基準期間の課税売上高は○○○○円、平成26年課税期間における基準期間の課税売上高は○○○○円及び平成27年課税期間における基準期間の課税売上高は○○○○円であり、いずれも1,000万円を超えていることから、請求人は、本件各課税期間において、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定の適用を受けない。
    • (ロ) 課税売上高及び課税標準額
       本件各課税期間の課税売上高及び課税標準額は、それぞれ別表4−1ないし4−3の「審判所認定額」欄の「課税売上高」欄及び「課税標準額」欄のとおりとなり、平成23年課税期間の課税売上高及び課税標準額については、当審判所が、別表4−1の「審判所認定額」欄の「取引先名等」欄の6及び7の取引先に係る課税売上高を認定したことにより、審判所認定額が原処分庁主張額を上回る。
    • (ハ) 消費税額
       本件各課税期間の課税標準額に消費税率(ただし、平成26年課税期間については、平成26年3月31日以前の課税資産の譲渡等については4%、同年4月1日以降の課税資産の譲渡等については6.3%が適用される。)を乗じて消費税額を計算すると、それぞれ別表4−4の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「消費税額」欄のとおりとなる。
    • (ニ) 仕入税額控除の額
       上記(5)のロのとおり、本件各課税期間において、仕入税額控除は適用されないから、本件各課税期間における仕入税額控除の額は、それぞれ別表4−4の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「仕入税額控除の額」欄のとおり、いずれも零円となる。
    • (ホ) 納付すべき消費税額及び地方消費税額
       以上を基に、本件各課税期間の納付すべき消費税額及び地方消費税額を計算すると、それぞれ別表4−4の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄のとおりとなる。
    • (ヘ) 小括
       当審判所が上記(ホ)で認定した請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税額及び地方消費税額は、平成23年課税期間については、消費税等の決定処分の額を上回り、平成26年課税期間及び平成27年課税期間については、消費税等の各決定処分の額といずれも同額であると認められる。
       なお、本件消費税等各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、本件消費税等各決定処分はいずれも適法である。
  • ニ 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について
     上記ハのとおり、本件消費税等各決定処分はいずれも適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」に該当する事情は認められない。
     そして、当審判所においても、本件各課税期間における各無申告加算税の額は、本件消費税等各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
     したがって、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、いずれも棄却することとする。

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