(平成30年6月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、無店舗型性風俗特殊営業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が帳簿等の保存をしていないため、原処分庁が、法人税の所得金額や消費税の課税標準額の一部について、取引実績額を基礎とする損益計算の方法により算定することができないとして、推計の方法によりこれを算定するなどして法人税等の決定処分等を行ったのに対し、請求人が、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入された運転手に対する業務委託費は過少であるとして、また、消費税等の計算上も当該業務委託費について、課税仕入れに係る消費税額等を控除しないことは不当であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 法人税法
    • (イ) 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の1収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、2販売費、一般管理費その他の費用の額及び3損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。
    • (ロ) 法人税法第131条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、内国法人に係る法人税につき決定をする場合には、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる旨規定している。
  • ロ 消費税法
    • (イ) 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
    • (ロ) 消費税法第30条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れの税額については、同条第1項の規定を適用しない旨規定している。
    • (ハ) 消費税法第30条第8項第1号は、同条第7項に規定する課税仕入れの税額の控除に係る帳簿について、次に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定している。
      • A 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
      • B 課税仕入れを行った年月日
      • C 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
      • D 消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
    • (ニ) 消費税法第30条第9項第1号は、同条第7項に規定する課税仕入れの税額の控除に係る請求書等について、事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で、次に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定している。
      • A 書類の作成者の氏名又は名称
      • B 課税資産の譲渡等を行った年月日
      • C 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
      • D 課税資産の譲渡等の対価の額
      • E 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要等
    • (イ) 請求人は、平成19年5月○日に設立されたa市b町○−○に本店を置く株式会社であり、代表取締役には、平成20年7月28日からP1(以下「本件代表者」という。)が就任している。
    • (ロ) 請求人は、「K」の屋号を使用して、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条《用語の意義》第7項第1号に規定する無店舗型性風俗特殊営業(以下「本件風俗事業」という。)を営むほか、○○事業(以下「本件○○事業」という。)を営む法人である。
       なお、本件風俗事業は、客の依頼に応じて、本件風俗事業に係る役務を提供する女性のコンパニオン(以下「本件コンパニオン」という。)を住居又は宿泊施設に派遣し、接客させる事業である。
  • ロ 本件コンパニオンに対する業務委託費の支払状況
    • (イ) 請求人は、本件コンパニオンとの間で依頼客への役務の提供に係る業務委託契約を締結し、本件コンパニオンに対する業務委託費(以下「本件コンパニオン報酬」という。)は、本件コンパニオンが委託業務を遂行した都度、本件コンパニオンが、依頼客から受領した料金のうちから本件コンパニオン報酬を差し引き、その残金を請求人に支払うことで精算していた。
    • (ロ) 本件コンパニオン報酬には、次のものが含まれる。
      • A 派遣手数料(依頼客から派遣時間を単位として請求人が受領する基本料金のうちから支払われる報酬をいう。)
      • B 追加的な役務提供に対して、依頼客から基本料金以外に受領する追加料金等の全額
      • C 依頼客から指名を受けた場合の指名料の全額
      • D その他、請求人の承諾を受けた上で依頼客から受領した金品
      • E 自ら移動した場合の交通費の全額
      • F 依頼客がクレジットカードを利用して料金を支払う場合には、本件コンパニオンが役務を提供した当日に、請求人が本件コンパニオンへ支払う上記AからCまでの額
  • ハ 運転手に対する業務委託費の支払状況
     請求人は、本件風俗事業において、本件コンパニオンを派遣先の宿泊施設等に送迎する自動車の運転手(以下「本件運転手」という。)との間で当該送迎に係る業務委託契約を締結し、本件運転手に対する業務委託費(以下「本件運転手手当」という。)は、原則として、業務の日ごとに支払うこととしていた。
     この場合、本件コンパニオンが依頼客から受領した料金のうちから本件コンパニオン報酬を差し引いた後、本件運転手が、その残金を預かって、更に本件運転手手当を差し引き、その残金を請求人に日々渡す方法で精算していた。
  • ニ 帳簿の作成及び請求書等の保存状況
     請求人は、平成23年5月1日から平成27年4月30日までの間の帳簿を作成しておらず、請求書等については一部のものしか保存していなかった。
  • ホ 確定申告書等の提出状況
     請求人は、平成23年5月1日から平成24年4月30日まで、同年5月1日から平成25年4月30日まで、同年5月1日から平成26年4月30日まで及び同年5月1日から平成27年4月30日までの各事業年度(以下、順次「平成24年4月期」、「平成25年4月期」、「平成26年4月期」及び「平成27年4月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各確定申告書並びに平成24年5月1日から平成25年4月30日まで及び同年5月1日から平成26年4月30日までの各課税事業年度(以下、順次「平成25年4月課税事業年度」及び「平成26年4月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の復興特別法人税の各申告書をいずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出していなかった。
     また、請求人は、平成23年5月1日から平成24年4月30日まで、同年5月1日から平成25年4月30日まで、同年5月1日から平成26年4月30日まで及び同年5月1日から平成27年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成24年4月課税期間」、「平成25年4月課税期間」、「平成26年4月課税期間」及び「平成27年4月課税期間」といい、これらの各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、これらを併せて「消費税等」という。)の各確定申告書をいずれも法定申告期限までに原処分庁へ提出していなかった。
  • ヘ 原処分に係る調査の状況
    • (イ) 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、平成27年11月10日から請求人に対する本件調査を開始した。
    • (ロ) 本件調査担当者は、平成27年11月10日、d市e町○−○の請求人の事務所において、請求人から、平成25年6月18日から平成27年9月30日までの期間における本件運転手ごとの代金の回収状況等が本件運転手によって記載されている封筒(以下「本件封筒」という。)及び請求人名義のL銀行○○支店の普通預金口座に係る通帳の提示を受けた(以下、請求人が保存していた本件封筒を提示した上記の期間を「本件封筒保存期間」という。)。
       なお、本件封筒は、本件運転手が、本件運転手手当を差し引いた後の残金を請求人に日々渡す際に、当該残金を入れて一緒に渡していたものであり、本件封筒に記載されている主な項目は、次のとおりである。
      • A 本件コンパニオンを派遣した日付及び曜日
      • B 本件運転手の姓
      • C 本件コンパニオンの本件風俗事業に従事する際に用いる呼び名
      • D 本件コンパニオンの派遣時間及び指名の有無
      • E 派遣先の宿泊施設名及び部屋番号
      • F 請求人の受領金額
      • G 本件運転手手当の額
    • (ハ) 本件調査担当者は、平成28年2月9日、d市f町○−○の本件代表者の自宅において、請求人から本件各事業年度の販売費及び一般管理費等の支払に係る請求書、領収証(以下、これらを併せて「本件領収証等」という。)並びに本件代表者名義のクレジットカードの利用明細書の提示を受けた。
    • (ニ) 本件調査担当者は、平成28年4月12日、d市e町○−○の請求人の事務所において、請求人から平成23年5月1日から平成25年6月16日までの期間について、本件風俗事業に係る日々の現金売上げの金額及び依頼客がクレジットカードを利用した場合の売上金額からこれらに対応する本件コンパニオン報酬をそれぞれ差し引いた金額を入力し、集計した電子データファイル(以下「売上集計データ」という。)の提出を受けた。
       なお、売上集計データを作成している上記の期間(以下「本件封筒不存在期間」という。)において、本件封筒に相当する本件運転手手当の算定の基礎となる資料は存在しなかった。
       以下、請求人が本件調査担当者に対して提示した本件封筒、本件領収証等、本件代表者名義のクレジットカードの利用明細書、売上集計データ及び請求人名義のL銀行○○支店の普通預金口座に係る通帳を併せて「本件各書類等」という。
    • (ホ) 本件調査担当者は、本件各書類等のみでは、本件各事業年度の法人税の所得金額を、取引実績額を基礎とする損益計算(以下「実額計算」という。)の方法により算定することはできないとして、平成28年5月20日から平成29年2月14日までの間に、4回にわたり、請求人に対して、書面などにより本件各事業年度に係る帳簿及び請求書等の提示を求めたが、請求人は、本件各書類等以外に何も提示しなかった。

(4) 審査請求に至る経緯等

  • イ 原処分庁は、本件調査の結果、上記(3)のヘの(ホ)のとおり、本件各事業年度に係る帳簿及び請求書等について、請求人から本件各書類等以外に何も提示がなく、本件封筒不存在期間における本件封筒に相当する本件運転手手当の算定の基礎となる資料が何もなかったことから、平成24年4月期から平成26年4月期までの法人税の所得金額を実額計算の方法により算定することはできなかった。
     そこで、原処分庁は、本件運転手手当について、本件封筒保存期間においては、本件封筒に記載された額に基づいて算定し、本件封筒不存在期間においては、本件封筒不存在期間の本件風俗事業に係る売上金額に、平成27年4月期における本件風俗事業に係る売上金額に占める本件運転手手当の額の割合(以下「本件運転手手当率」という。)を乗ずるという推計の方法を用いて算定するなどして、平成29年3月27日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各決定処分(以下「本件法人税各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分をし、また、別表2の「決定処分等」欄のとおり、本件各課税事業年度の復興特別法人税の各決定処分(以下「本件復興特別法人税各決定処分」という。)及び平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件復興特別法人税賦課決定処分」という。)をした。
  • ロ 原処分庁は、本件調査の結果、請求人には本件各課税期間の消費税等の申告義務があるとした上で、また、上記(3)のニのとおり、請求人が、消費税法第30条第8項第1号に規定する帳簿を保存せず、同条第9項に規定する請求書等を一部しか保存しなかったことから、同条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当し、同条第1項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)を適用できないとして、平成29年3月27日付で、別表3の「決定処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各決定処分(以下「本件消費税等各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、平成29年4月26日、原処分に不服があるとして再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年6月22日付でいずれも棄却する旨の再調査決定をした。
     なお、再調査決定に係る再調査決定書の謄本は、平成29年6月24日に請求人に送達された。
  • ニ 請求人は、平成29年7月24日、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件封筒保存期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を損金の額に算入することができるか。
  • (2) 争点2 本件封筒不存在期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を実額計算の方法により算定し、損金の額に算入することができるか。
  • (3) 争点3 本件各課税期間の消費税の納付すべき税額の計算において、仕入税額控除を適用しないことは不当か。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件封筒保存期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を損金の額に算入することができるか。)

原処分庁 請求人
請求人が、本件封筒保存期間において支払った本件運転手手当の額については、1別表4−1(「平成25年6月30日以降の合計」欄の額)及び別表4−2の金額と、請求人が審判所へ提出した別表5の本件運転手手当に係る領収証(以下「本件業務委託領収証」という。)の内容が一致しないものがあること、2本件業務委託領収証については、複数回にわたる金銭の授受が合計金額で記載され、総数13人の領収証の様式や記載項目が全て同一であり、実際に金銭の授受が行われた時に作成されたものではなく、証拠書類として疑念が持たれること、3本件業務委託領収証を作成する基となった資料が提出されていないこと、4別表4−1(「平成25年6月30日以降の合計」欄の額に対応する各人別の額)及び別表4−2の金額と、請求人が作成、保存し、本件調査担当者へ提示した本件封筒に記載されている本件運転手手当と一致しない部分があることから、本件業務委託領収証が業務委託費の実際の支出を裏付けるものではない。
 また、別表4−1(「平成25年6月30日以降の合計」欄の額に対応する各人別の額)及び別表4−2の本件封筒に記載されていない本件○○事業に係る従事者の本件風俗事業以外の業務委託費については、その業務委託費が本件風俗事業以外の収入金額と対応するものであることを証明していないのであるから、これらの業務委託費を平成26年4月期又は平成27年4月期の法人税の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。
請求人が、本件封筒保存期間において支払った本件運転手手当の額については、本件封筒に記載されている金額の合計額ではなく、本件業務委託領収証の合計額である別表4−1(「平成25年6月30日以降の合計」欄の額)及び別表4−2のとおりであるから、これらの金額を対応する各事業年度の法人税の所得金額の計算上損金の額に算入すべきである。
 なお、別表4−1から別表4−4までの業務委託費の中には、本件○○事業に係る従事者として、定額の業務委託費を支払うことを条件に契約した者が含まれており、本件○○事業に係る従事者として契約した者は、本件運転手として本件風俗事業に従事した場合でも本件封筒に記載しないため、本件封筒に記載の金額と一致しない。
 本件封筒に記載した本件運転手手当の額は、本件風俗事業の売上金額から日々支払う場合に記載するものであって、上記のとおり、定額の業務委託費の場合などは本件封筒に記載しないことから、本件封筒に記載されていない本件運転手手当も法人税の所得金額の計算上損金の額に算入される。
 また、本件業務委託領収証は、本件運転手から支払の都度領収証を受領することができないことから、請求人が支払った金額を基に一括で作成し、本件運転手が押印したものであるが、金額には誤りがない。

(2) 争点2(本件封筒不存在期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を実額計算の方法により算定し、損金の額に算入することができるか。)

原処分庁 請求人
請求人は、本件調査担当者に対して、本件各書類等を提示したが、本件各書類等は、本件各事業年度における本件風俗事業及び本件○○事業の収入金額並びに販売費及び一般管理費に関するものの一部に限られ、また、請求人が提示した請求書又は領収証の中には、請求人の事業との関連性が確認できない支払に係るものがあることから、原処分庁は、本件各書類等のみでは、請求人の所得金額を計算することができないと判断し、法人税法第131条の規定に基づく推計の方法により本件各事業年度の本件運転手手当の額を算出するなどして、請求人の所得金額を計算した。
 そして、原処分庁が推計の必要性及び推計の合理性を主張立証していることからも、請求人は、自ら主張する収入金額及び経費の各金額が存在すること、その収入金額が全ての取引先から発生する収入金額の全てであること、その経費がその収入金額に対応するものであることの三点について、合理的な疑いを容れない程度の立証の必要があるところ、そのような立証がされていないのであるから、別表4−1(「平成25年5月31日以前の合計」欄の額)、別表4−3及び別表4−4の業務委託費を平成24年4月期から平成26年4月期までの法人税の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。
上記(1)の「請求人」欄と同様に、本件封筒不存在期間に請求人が支払った本件運転手手当の額は、別表4−1(「平成25年5月31日以前の合計」欄の額)、別表4−3及び別表4−4のとおりであり、これらの金額を平成24年4月期から平成26年4月期までの法人税の所得金額の計算上損金の額に算入すべきである。
 また、本件業務委託領収証は、本件運転手から支払の都度領収証を受領することができないことから、請求人が支払った金額を基に一括で作成し、本件運転手が押印したものであるが、金額には誤りがない。

(3) 争点3(本件各課税期間の消費税の納付すべき税額の計算において、仕入税額控除を適用しないことは不当か。)

原処分庁 請求人
請求人は、本件調査担当者からの複数回にわたる帳簿書類等の提示要求に対して、本件各課税期間における取引の一部に係る書類を提示したのみであり、他の請求書等は提示せず、また、消費税法第30条第8項に規定する事項が記載された帳簿は提示していない。
 そうすると、消費税法第30条第7項が規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当することから、請求人の納付すべき消費税の額の計算に際しては、同条第1項に規定する仕入税額控除を適用することができない。
請求人は、本件調査の際に、本件調査担当者に対して本件各書類等を提示しており、また、別表4−1から別表4−4までの業務委託費の金額は、本件風俗事業を継続するための必須の費用であり、本件運転手に対して、本件業務委託領収証のとおり、支払っているのであるから、本件各課税期間において、仕入税額控除を適用しないことは不当である。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件封筒保存期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を損金の額に算入することができるか。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の1収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、2販売費、一般管理費その他の費用の額及び3損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。
     上記各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに本件代表者、P2、P3及びP4の当審判所に対する各答述その他当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 原処分における本件封筒保存期間の損金の額の算定について
       原処分庁は、原処分における本件封筒保存期間の損金の額の算定に当たって、本件風俗事業に係る業務委託費である本件運転手手当については、上記1の(3)のヘの(ロ)のとおり本件運転手が本件封筒に記載した金額により計算し、また、その他の販売費及び一般管理費については、上記1の(3)のヘの(ロ)及び(ハ)のとおり請求人が提示した本件領収証等及び本件代表者名義のクレジットカードの利用明細書並びに請求人名義のL銀行○○支店の普通預金口座からの出金額により計算し、これらの合計額を法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入しているが、本件○○事業に係る業務委託費については、損金の額に算入していない。
    • (ロ) 請求人が当審判所に対して提出した本件業務委託領収証及びその集計表等について
       請求人は、平成29年10月26日、当審判所に対して、実際に業務委託費を支払った証拠資料として、別表5に記載の本件業務委託領収証を提出するとともに、同年11月10日、本件業務委託領収証を集計した別表4−1から別表4−4までの各集計表を提出し、さらに、同月28日、これらの集計表を作成する際の資料を提出した。
       そして、上記の資料は、一部の期間の断片的なものにすぎず、さらに、当審判所に対して、本件業務委託領収証に記載の支払内容を裏付ける書類等の提出はなかった。
       また、本件業務委託領収証のうち別表5の形式欄に「私製」と表記しているものは、請求人が、パーソナルコンピュータを使用して、日付や金額等はもちろん、受領者とされる本件運転手の住所及び氏名に至るまでの全てを入力して作成し出力したもので、手書きの部分は一切なく、複数回にわたって請求人から受領したとする金銭の合計金額をまとめて記載され、受領者とされる本件運転手の押印がなされた形とはされているものの、これらの本件業務委託領収証の様式や記載項目は全て同一である。
       一方、本件業務委託領収証のうち別表5の形式欄に「市販」と表記しているものは、市販されている領収証の様式を使用して、請求人の指示に基づいて、受領者とされる本件運転手が手書きで作成したものである。
    • (ハ) P2に関する本件業務委託領収証について
      • A 本件業務委託領収証のうち、別表5の順号9、順号14及び順号19の本件業務委託領収証に受領者として氏名が記載されているP2は、別表5の順号9、順号14及び順号19の本件業務委託領収証について、当審判所に対し、同人が請求人から受領した業務委託費の金額は、本件業務委託領収証に記載された額ではなく、所得税の確定申告の際に請求人から発行された「業務請負報酬明細書」と題する証明書に記載された額が正当である旨、また、上記の本件業務委託領収証は、いずれもP2が作成したものではなく、同人は押印されている「P2」名の印鑑すら押印していない旨答述している。
      • B また、P2は、当審判所からの本件業務委託領収証についての照会に対して、平成30年1月19日に、請求人から「本件コンパニオン送迎の運転業務」に係る報酬として、平成24年4月期に合計5,077,340円、平成25年4月期に合計4,622,724円及び平成26年4月期に合計642,516円を受領した旨記載した回答文書を当審判所へ提出しており、これらの各金額は、それぞれ別表5の順号9、順号14及び順号19の本件業務委託領収証に記載された金額と一致している。
         ところが、これらの各金額は、P2が所得税の確定申告をする際に請求人がP2に対して発行した「業務請負報酬明細書」と題する証明書に記載された金額に比して過大なものとなっている。
         この点に関して、本件代表者からP2宛に平成30年1月16日に送信された電子メール及び同人の当審判所に対する答述によれば、同人が本件代表者に対し、当審判所からの照会文書が来た旨相談したところ、本件代表者は、P2に対して当該電子メールを送信し、その電子メールに記載した金額で回答するように求めたため、同人は、その本件代表者の指示に従い、上記の回答文書に当該電子メールに記載された金額を記載して、当審判所に対して提出するに及んだものと認められる。
    • (ニ) 請求人が作成した本件業務委託領収証について
       本件封筒保存期間に対応する本件業務委託領収証は、別表5の順号18から順号33までのものであるところ、別表5の形式欄に「私製」と表記している順号18から順号21まで、順号24、順号27及び順号30から順号32までの本件業務委託領収証は、上記(ロ)のとおり、請求人がパーソナルコンピュータを使用して作成したものである。
    • (ホ) 手書きで作成されたP3に関する本件業務委託領収証について
       別表5の順号22、順号23、順号26及び順号33の本件業務委託領収証に受領者として氏名が記載されているP3の当審判所に対する答述によれば、同人は、平成25年9月12日から平成27年6月4日までの間、本件運転手として本件風俗事業に従事しており、上記の本件業務委託領収証は全てP3が委託業務の廃業時に一括して作成したものであるが、同人は、記載した金額について、自ら確認できる書類等を作成していなかったため、全て本件代表者に言われるままの金額を記載したものと認められる。
       また、上記のP3に係る本件業務委託領収証については、本件封筒の記載内容から算定された本件運転手手当の額と比較してみると、記載された金額が相違している。
    • (ヘ) 手書きで作成されたP6に関する本件業務委託領収証について
       P6に関する別表5の順号29の本件業務委託領収証は手書きで作成された領収証であるが、本件封筒には同人に対する本件運転手手当の額が記載されていない。
    • (ト) 手書きで作成されたP4に関する本件業務委託領収証について
      • A 別表5の順号25及び順号28の本件業務委託領収証に受領者として氏名が記載されているP4(旧氏名は、P7である。以下同じ。)は、平成26年2月頃に本件代表者から○○関連の仕事を一緒にしないかとの勧誘を受け、当時勤務していた会社を辞めて請求人と業務委託契約を締結し、平成27年3月31日に委託業務を廃業するまでの間、主として、○○の作成をするなど本件○○事業に従事していた。
      • B また、P4は、本件○○事業に係る業務が少なく、本件風俗事業が忙しい時には、本件風俗事業に関する受付業務や本件運転手として本件コンパニオンの送迎に従事することがあったが、P4が当該業務に従事していた期間における本件コンパニオンの送迎回数は、主要な本件運転手である3名の送迎回数の平均と比べると2割程度の回数であった。
      • C 請求人は、P4に対して、本件○○事業に係る業務委託費として毎月20日頃に、現金で月額230,000円を定額で支給していた。
         なお、請求人は、P4が上記Bのように本件風俗事業に従事した場合であっても、上記の定額230,000円とは別に本件運転手としての手当を支給することはなかった。
         したがって、請求人がP4に対して支払った業務委託費は、その全額が、P4が本件○○事業に係る業務に従事した対価であると認められる。
      • D 請求人は、当審判所に対して、別表5の順号25及び順号28のP4に係る本件業務委託領収証を提出しているところ、同人の当審判所に対する答述によれば、同人に係る本件業務委託領収証は、いずれも委託業務の廃業時に一括して作成したものであるが、同人は、記載した金額について、自ら確認できる書類等を作成していなかったため、全て本件代表者に言われるままの金額を記載したものであると認められる。
  • ハ 判断
    • (イ) 検討
      • A 本件封筒に記載された内容について
         本件封筒は、上記1の(3)のハ及びヘの(ロ)のとおり、本件コンパニオンを派遣するための運転業務を行った本件運転手が、当該運転業務に従事した日ごとに、自らが受け取る本件運転手手当の額を含む各項目について記載し、請求人に対して、本件コンパニオンが依頼客から受領した料金のうちから本件コンパニオン報酬や本件運転手手当を差し引いた後の現金とともに手渡しているものである。
         そして、本件封筒は、本件運転手がそれぞれにおいて日々作成していた原始記録として、請求人が、本件運転手が持ち帰った現金と照合し、本件風俗事業に係る売上金額等を管理するための基礎資料としていたものであると認められ、その記載内容の信用性は高いということができる。
      • B 本件業務委託領収証について
        • (A) P2に関する本件業務委託領収証について
           P2に関する別表5の順号9、順号14及び順号19の本件業務委託領収証については、上記ロの(ハ)によれば、全て請求人が作成したもので、虚偽の過大な金額が記載されたものとみるのが相当である。
           したがって、上記のP2に関する本件業務委託領収証は、いずれも請求人が作成した虚偽のものであって、その信用性はない。
        • (B) 請求人が作成した本件業務委託領収証について
           上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、当審判所に対して、本件業務委託領収証及びその集計表等以外に本件業務委託領収証に記載の支払内容を裏付ける帳簿又は請求書等を提出していないところ、請求人から提出された別表4−1から別表4−4までの各集計表は、本件業務委託領収証を基にして作成したとする資料であるから、本件業務委託領収証に記載された金額を裏付けるものとはならないし、当該各集計表の資料として平成29年11月28日に提出した書類は一部の期間の断片的なものにすぎないから、これをもって、本件業務委託領収証の信用性を裏付けるとはいえないものである。
           また、本件業務委託領収証のうち、本件運転手であるP8、P9及びP10に対して支払ったとする本件業務委託領収証の金額は、本件封筒保存期間においては、上記Aのとおり信用性の高い本件封筒に記載された内容から算定された額とも相違しており、さらに、上記(A)のとおり、P2に係る本件業務委託領収証について、同人がこれらの本件業務委託領収証を作成した事実はなく、請求人が、当審判所に対して、実際に支払った金額よりも過大な金額を記載した本件業務委託領収証を作成して提出し、また、当審判所からの照会文書を受けたP2に対して、虚偽の過大な金額を記載して回答し口裏を合わせるよう指示している事実があることも考え併せると、本件業務委託領収証のうち、受領者とされる本件運転手の押印がなされた形とされているものの請求人がパーソナルコンピュータを使用して作成し印刷したもので、手書きの部分が一切ないものについては、同様の作成経緯によって、不確実な金額が記載されていることが強く推認され、当審判所の調査によっても、これらに記載された金額が正確なものであることを証する証拠は見当たらず、信用性はないものであるといわざるを得ない。
        • (C) 手書きで作成されたP3に関する本件業務委託領収証について
           P3に関する別表5の順号22、順号23、順号26及び順号33の本件業務委託領収証については、上記ロの(ホ)のとおり、信用性が高いと認められる本件封筒の記載内容から算定された本件運転手手当の額と比較してみると、記載された金額が相違しており、また、本件代表者の指示を受けて、金額の適否について確認しないまま、誤った金額を記載して作成されたものと認められる。
           したがって、上記のP3に関する本件業務委託領収証については、作成経緯等からみて、その記載内容に信用性はないものであるといわざるを得ない。
        • (D) 手書きで作成されたP6に関する本件業務委託領収証について
           P6に関する別表5の順号29の本件業務委託領収証については、上記ロの(ヘ)のとおり、手書きにより作成されているものの、上記ロの(ホ)及び(ト)のとおり、P6に関する本件業務委託領収証と同様に手書きで作成されているP3及びP4の本件業務委託領収証が、いずれも、P3及びP4が、本件代表者の指示を受けて、金額の適否について確認しないまま、言われるままの金額を委託業務の廃業時に一括して記載して作成されたものであり、その作成経緯等はP6に係る本件業務委託領収証においても同様であるとみるべきであり、さらに、上記ロの(ヘ)のとおり、信用性が高い本件封筒にはP6に係る本件運転手手当の額の記載がなく、当審判所の調査によってもその支払の事実が確認できないことからすれば、その記載内容に信用性はないものであるといわざるを得ない。
        • (E) 手書きで作成されたP4に関する本件業務委託領収証について
           P4に関する別表5の順号25及び順号28の本件業務委託領収証については、上記ロの(ト)のとおり、上記ロの(ホ)のP3に係る本件業務委託領収証と同様に、P4が、本件代表者の指示を受けて、金額の適否について確認しないまま、言われるままの金額を記載して作成されたものと認められる。
           したがって、上記のP4に関する本件業務委託領収証については、作成経緯等からみて、その記載内容に信用性はないものであるといわざるを得ない。
    • (ロ) 小括
      • A 上記(イ)のBのとおり別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証は、その記載内容において、いずれも信用性がない。
         したがって、別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証によって、請求人が支払ったとする本件封筒保存期間の本件運転手手当の額を算定し、損金の額に算入することはできない。
         ただし、上記(イ)のAのとおり、本件封筒の記載内容について信用性は高いと認められるところ、当審判所において、本件封筒に基づいて、本件封筒保存期間の本件運転手手当について算定したところ、平成26年4月期が、別表6−1の「審判所認定額」欄の「本件運転手手当の損金算入額」欄のとおり、○○○○円、平成27年4月期が、別表6−2の「審判所認定額」欄の「本件運転手手当の損金算入額」欄のとおり、○○○○円となり、いずれも原処分における本件運転手手当の額と同額となる。
      • B 上記ロの(ト)のとおり、P4に対する業務委託費は、請求人が営む本件○○事業に係る業務の対価として支払ったものであり、業務の遂行上必要と認められるから、法人税法第22条第3項の規定に基づき損金の額に算入すべきところ、上記ロの(イ)のとおり、原処分庁は、原処分において、本件○○事業に係る業務委託費を損金の額に算入していないと認められる。
         よって、当審判所において、本件封筒保存期間の本件○○事業に係る業務委託費の額について算定したところ、平成26年4月期が、別表6−1の「審判所認定額」欄の「業務委託費の損金算入額」欄のとおり○○○○円、平成27年4月期が、別表6−2の「審判所認定額」欄の「業務委託費の損金算入額」欄のとおり○○○○円となり、それぞれ法人税の所得金額の計算上損金の額に算入すべきである。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証は、本件運転手から支払の都度領収証を受領することができないことから、請求人が支払った金額を基に一括で作成し、本件運転手が押印したものであるが、金額には誤りがなく、その金額を、本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上損金の額に算入すべきである旨主張する。
     しかしながら、別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証にはいずれも信用性がないことは、上記ハの(イ)のBのとおりである。
     したがって、この点に関する請求人の主張は、その前提を欠き理由がない。
  • ホ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件封筒に記載された本件運転手手当の額と本件業務委託領収証に記載された額が一致しない部分があることから、本件業務委託領収証が業務委託費の実際の支出を裏付けるものではなく、本件封筒に記載されていない本件○○事業に係る業務委託費については、その業務委託費が収入金額と対応するものであることを証明していないのであるから、平成26年4月期又は平成27年4月期の法人税の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない旨主張する。
     確かに、上記ハの(ロ)のAのとおり、別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証は、その記載内容に信用性はなく、これによって本件封筒保存期間の本件運転手手当の額を算定することはできないものである。
     しかしながら、原処分庁は、原処分において請求人の本件○○事業に係る業務委託費を損金の額に算入しておらず、また、請求人が、本件○○事業に従事させるために、P4と契約し、その対価として支払っていた業務委託費を損金の額に算入すべきであることは、上記ハの(ロ)のBのとおりである。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件封筒不存在期間の法人税の所得金額について、請求人が支払ったとする本件運転手手当を実額計算の方法により算定し、損金の額に算入することができるか。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第131条は、法人税につき決定をする場合において、所得金額を推計して課税することを認めている。
     これは、税務署長が所得金額の実額を把握し得ない場合に、蓋然的近似値を一応真実の収入金額又は支出金額として認定して課税する制度であるが、飽くまでも実額課税が原則である以上、納税義務者が帳簿書類を備付け、整備していないとき、帳簿書類の備付けがあってもその内容に信ぴょう性が認められないとき、課税庁の調査に対して資料提供を拒否する等協力的な態度を示さないとき等、収入金額又は支出金額の実額を捕捉することはできず、推計によらざるを得ない必要性のある場合に限って許されるものと解すべきである。
     そして、本人比率による推計方法は、営業が通常継続的に行われることから、業種、業態、事業規模、事業場所等に変更がない場合には、業界に共通の経済事情の特段の変更が認められない限り、比準年の比率と係争年の比率とに変更がないであろうと推認することができ、一般に個別類似性が最も高いものとして合理的な推計方法と解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 原処分庁が採用した推計の方法
       本件封筒不存在期間の本件運転手手当を算定するに当たって、原処分庁が採用した推計の方法は、次のとおりである。
      • A 本件運転手手当率の算出
         原処分庁は、本件封筒の記載内容の信用性が高く、本件封筒保存期間の本件風俗事業の売上金額及び本件運転手手当の額は実額計算の方法で算出することが可能であるから、本件運転手手当率を算出するための基礎数値の正確性を担保できるとして、本件封筒保存期間である平成27年4月期の本件運転手手当の額を平成27年4月期の本件風俗事業に係る売上金額で除して本件運転手手当率を算出している。
      • B 本件封筒不存在期間の売上金額の算定
         原処分庁は、上記1の(3)のヘの(ニ)のとおり、本件封筒不存在期間には本件風俗事業に係る売上金額の算定の基となるべき本件封筒に相当する書類が存在しなかったため、請求人が作成していた売上集計データの金額を基にして、対応する本件コンパニオン報酬の金額を算出した上で、売上集計データの金額に本件コンパニオン報酬の金額を加算して、本件封筒不存在期間の本件風俗事業に係る売上金額を算定している。
         また、原処分庁は、上記の本件風俗事業に係る売上金額と本件調査により把握した本件○○事業に係る収入金額との合計額を、本件封筒不存在期間の請求人の収入金額としている。
      • C 本件封筒不存在期間の本件運転手手当の額の推計
         次に、原処分庁は、本件封筒不存在期間の本件風俗事業に係る売上金額に上記Aで算出した本件運転手手当率を乗じて本件封筒不存在期間の本件運転手手当の額を算定している。
    • (ロ) 本件風俗事業に係る売上金額と本件運転手手当の額との相関関係
      • A 本件封筒不存在期間と本件封筒保存期間における請求人の本件風俗事業の営業形態、規模、営業地域及び経営状況を比較してみると、1いずれの期間も屋号として「K」のみを使用していること、2本件コンパニオンが依頼客に提供する役務は同様の内容であること、3売上金額の規模や本件コンパニオンの派遣回数が同程度であること、4本件コンパニオンの待機所の数が同じであること、5本件コンパニオンを派遣する地域はいずれもh県西部からr県東部までの地域であること、6いずれの期間にも休業期間がないこと等の点において共通であり、これらの期間における請求人の本件風俗事業の業種業態には、大きな変化はなかったといえる。
      • B 本件運転手手当の額は、本件コンパニオンの派遣業務に従事した日数又は時間数を基礎として算定されたものであり、原則として業務の日ごとに支払われており、本件風俗事業に係る売上金額の基本となる本件コンパニオンを派遣先に送迎する日数又は回数と連動するなど本件風俗事業に係る売上金額とのけん連性が高い。
  • ハ 判断
    • (イ) 検討
      • A 請求人が提出した本件業務委託領収証による本件運転手手当の額の算定について
         請求人は、上記(1)のロの(ロ)のとおり、当審判所に対して、実際に本件運転手手当を支出した証拠資料として、本件業務委託領収証、本件業務委託領収証を集計した別表4−1から別表4−4までの各集計表及びこれらの各集計表を作成する際の資料を提出している。
         ただし、上記の各集計表を作成する際の資料は、一部の期間の断片的なものにすぎない。
         本件業務委託領収証のうち本件封筒不存在期間に対応するものは、別表5の順号1から順号17までのものであり、当該各集計表の金額のうち、本件封筒不存在期間に対応するものは、別表4−1の「平成25年5月31日以前の合計」欄の金額、別表4−3及び別表4−4の各金額である。
         そこで、本件封筒不存在期間に係る別表5の順号1から順号17までの本件業務委託領収証について、当審判所が検討したところ、これらの本件業務委託領収証についても、上記(1)のハの(イ)の本件封筒保存期間に係る別表5の順号18から順号33までの本件業務委託領収証と同様に、実際に報酬を受領した日に受領した金額を記載した領収の事実を証する書面としての領収証ではなく、複数回の受領分をまとめて記載した形式で作成されたものであり、同様な作成経緯によって、不確実な金額が記載されていることが強く推認され、当審判所の調査によってもこれらの記載された金額が正確なものであることを証する書類も見当たらないことから、その記載内容に信用性はない。
         また、本件業務委託領収証の記載内容に信用性がないのであるから、これらを集計したとする上記各集計表にも信用性はない。
         なお、請求人は、上記以外に本件運転手手当に係る証拠資料は何も提出していない。
         以上によれば、請求人が当審判所に対して提出した本件業務委託領収証については、信用性がないものであると認められるので、本件業務委託領収証に記載された金額を根拠として、本件封筒不存在期間に対応する各事業年度の本件運転手手当の額を算定することはできない。
      • B 原処分庁が採用した推計の方法による本件運転手手当の額の算定について
        • (A) 推計の必要性について
           所得金額を実額計算の方法により算定するためには、納税者自身が税務調査に応じ、収入及び支出の状況を明らかにすることが必要であるが、上記1の(3)のニのとおり、請求人は、平成23年5月1日から平成27年4月30日までの間の帳簿を作成しておらず、また、上記1の(3)のヘの(ニ)のとおり、本件封筒不存在期間については、本件風俗事業に係る売上金額や本件運転手手当の額の計算の基礎となる本件封筒に相当する書類が存在しなかったため、上記1の(3)のヘの(ホ)のとおり、本件調査担当者は、本件各書類等のみでは、本件封筒不存在期間に対応する各事業年度の請求人の所得金額を実額計算の方法により算定することができないとして、平成28年5月20日以降、4回にわたり、請求人に対して帳簿等の提示を求めたが、請求人は、これに応じることなく、本件各書類等以外何も提示しなかったのである。
           このような状況下においては、原処分庁は、本件封筒不存在期間に対応する各事業年度の請求人の所得金額を実額計算の方法により算定することができなかったと認められるから、原処分庁が本件封筒不存在期間の法人税の所得金額を推計の方法により算定する必要性があったものといえる。
        • (B) 推計の合理性について
           およそ、請求人のような無店舗型性風俗特殊営業を営む事業者においては、各事業年度において、営業形態、規模、営業地域及び経営状況等の業態に大きな変化があるといった特段の事情がなければ、同程度の売上金額を得るには同程度の数の本件コンパニオンの派遣が必要であり、また、同程度の数の本件コンパニオンを派遣するためには、同程度の本件運転手手当の額が必要となるものであり、上記ロの(ロ)のAのとおり、請求人の本件風俗事業において、営業形態、規模、本件コンパニオンを派遣する営業地域及び経営状況等の業態に大きな変化はないから、原処分庁が請求人の本件封筒不存在期間における本件運転手手当の額を算定するに当たって用いた、本件封筒不存在期間の本件風俗事業に係る売上金額に平成27年4月期の本件運転手手当率を乗じるという推計の方法は、その算定の基礎数値の正確性が担保される限り、合理性があるというべきである。
           そして、上記及び上記ロの(イ)のとおり、本件風俗事業に係る売上金額及び正確性が担保された本件封筒に基づいて算出される平成27年4月期の本件運転手手当率は、これらの算出の基礎となる各数値の正確性が担保されているものであるといえるから、原処分庁が算定した本件封筒不存在期間の本件運転手手当の額は、合理的に算定されたものであり、当該金額は当審判所の調査においても相当であると認められる。
    • (ロ) 小括
       以上によれば、本件封筒不存在期間において、本件運転手手当として法人税の所得金額の計算上損金の額に算入することができるのは、上記(イ)のBにおいて推計の方法により算定した金額のみであり、上記(イ)のAのとおり請求人が提出した本件業務委託領収証には信用性がないので、これらに基づいて本件運転手手当の額を実額計算の方法により算定して損金の額に算入することはできない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、本件封筒不存在期間に請求人が支払った本件運転手手当の額は、別表4−1「平成25年5月31日以前の合計」欄の金額、別表4−3及び別表4−4の各金額のとおりであり、これらの金額を平成24年4月期から平成26年4月期までの各事業年度の法人税の所得金額の計算上損金の額に算入すべきであり、また、別表5の順号1から順号17までの本件業務委託領収証は、本件運転手から支払の都度領収証を受領することができないことから、請求人が支払った金額を基に一括で作成し、本件運転手が押印したものであるが、金額には誤りがない旨主張する。
     しかしながら、請求人が、当該主張を裏付ける証拠として当審判所に対して提出した本件業務委託領収証に信用性がなく、本件業務委託領収証に記載された金額を根拠として、本件封筒不存在期間に対応する各事業年度の本件運転手手当の額を算定して損金の額に算入することができないことについては、上記ハの(ロ)のとおりである。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件各課税期間の消費税の納付すべき税額の計算において、仕入税額控除を適用しないことは不当か。)について

  • イ 判断
    • (イ) 検討
      • A 処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうと解されるから、処分が不当となる場合には、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていることを要するものと解される。
      • B 消費税法第30条第7項は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れの税額については、同条第1項の仕入税額控除を適用しない旨規定している。
      • C 請求人は、上記1の(3)のニのとおり、本件各課税期間において、帳簿を作成しておらず、請求書等についても一部しか保存していなかったこと及び上記1の(3)のヘの(ロ)から(ニ)までのとおり、本件調査において、本件調査担当者に対し、本件各課税期間における取引の一部に係る本件各書類等を提示したが、それらは消費税法第30条第8項に規定する事項が記載された帳簿ではないことから、本件各課税期間において、同項に規定する帳簿を保存しない場合に当たり、同条第7項の規定により、同条第1項の仕入税額控除を適用することはできない。
         そうすると、消費税法第30条第7項の規定に基づいて、事業者が仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しないことを理由として、同条第1項の仕入税額控除を適用しない場面において、条文上、処分行政庁である税務署長に仕入税額控除を適用するか否かの裁量権は付与されていないから、仕入税額控除の可否判断において裁量権の不合理な行使というものは観念できない。
    • (ロ) 小括
       したがって、原処分庁が、請求人が本件各課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存していなかったことを理由に、仕入税額控除を適用しなかったことは不当ではない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、本件調査の際に、本件調査担当者に対して本件各書類等を提示しており、また、本件運転手手当は、本件風俗事業を継続するための必須の費用であり、本件運転手に対して、本件業務委託領収証のとおり支払っているのであるから、本件各課税期間において仕入税額控除を適用しないことは不当である旨主張する。
     しかしながら、事業者が帳簿及び請求書等を保存しない場合において、原処分庁に仕入税額控除を適用するか否かの裁量権は付与されておらず、本件各課税期間において仕入税額控除を適用しないことが不当ではないことについては、上記イのとおりである。
     したがって、この点に関する請求人の主張は、採用できない。

(4) 本件法人税各決定処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件封筒保存期間については本件封筒に基づいて算定した本件運転手手当の額を、本件封筒不存在期間については推計の方法により算定した本件運転手手当の額を、それぞれ損金の額に算入することができるところ、上記(1)のハの(ロ)のBのとおり、P4に対する本件○○事業に係る業務委託費の額についても、平成26年4月期及び平成27年4月期の損金の額にそれぞれ算入すべきであると認められる。
 また、平成27年4月期の事業税及び地方法人特別税については、平成26年4月期の決定処分によって所得金額が増加することに伴って増加する額を追加して損金の額に算入されていたが、上記のとおり、P4に対する本件○○事業に係る業務委託費の額が損金の額に算入されることで、平成26年4月期の所得金額が減少するから、それに伴って、平成27年4月期の損金の額に算入する事業税及び地方法人特別税の額も減少することとなる。
 そして、本件法人税各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
 以上に基づき、本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、平成24年4月期及び平成25年4月期については、いずれも各決定処分の額と同額となるが、平成26年4月期及び平成27年4月期については、別表6−1及び別表6−2の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも各決定処分の額を下回る。
 したがって、平成24年4月期及び平成25年4月期の法人税の各決定処分については、いずれも適法であるが、平成26年4月期及び平成27年4月期の法人税の各決定処分については、いずれも上記の下回る部分について違法であるから、その一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件法人税各決定処分に係る無申告加算税の各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、平成24年4月期及び平成25年4月期の法人税の各決定処分については、いずれも適法であるが、平成26年4月期及び平成27年4月期の法人税の各決定処分については、その一部を取り消すこととなる。
 なお、本件各事業年度の法人税の期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のものをいう。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上に基づき、本件各事業年度の法人税の無申告加算税の額を計算すると、平成24年4月期及び平成25年4月期の法人税に係る無申告加算税の額は、いずれも各賦課決定処分の額と同額となるが、平成26年4月期及び平成27年4月期の法人税に係る無申告加算税の額は、別表6−3及び別表6−4の各「審判所認定額」欄のとおり、いずれも各賦課決定処分の額を下回る。
 したがって、平成24年4月期及び平成25年4月期の法人税に係る無申告加算税の各賦課決定処分については、いずれも適法であるが、平成26年4月期及び平成27年4月期の法人税に係る無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも上記の下回る部分について違法であるから、その一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件復興特別法人税各決定処分の適法性について

本件復興特別法人税各決定処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないところ、上記(4)に基づき、本件各課税事業年度の復興特別法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の納付すべき税額は、平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分の額と同額となるが、平成26年4月課税事業年度の復興特別法人税の納付すべき税額は、別表7の「審判所認定額」欄のとおり、平成26年4月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分の額を下回る。
 したがって、平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分については、適法であるが、平成26年4月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分は、上記の下回る部分について違法であるから、その一部を別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) 本件復興特別法人税賦課決定処分の適法性について

上記(6)のとおり、平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分は適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上に基づき、平成25年4月課税事業年度の復興特別法人税の無申告加算税の額を計算すると、本件復興特別法人税賦課決定処分の額と同額となる。
 したがって、本件復興特別法人税賦課決定処分は適法である。

(8) 本件消費税等各決定処分の適法性について

本件風俗事業及び本件○○事業に係る収入金額は、全て消費税法第28条《課税標準》第1項に規定する「課税資産の譲渡等の対価」の額に該当し、請求人は、本件各課税期間に係る基準期間の課税売上高がいずれも10,000,000円を超えるから、本件各課税期間において、同法第5条《納税義務者》第1項に規定する消費税の納税義務者であり、同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定は適用されない。
 また、上記(3)のイの(イ)のCのとおり、請求人の本件各課税期間の仕入税額控除は認めらない。
 以上に基づき、本件各課税期間の消費税の課税標準額及び消費税等の納付すべき税額を計算すると、本件消費税等各決定処分のそれらの額と同額となる。
 なお、本件消費税等各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件消費税等各決定処分は適法である。

(9) 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について

上記(8)のとおり、本件消費税等各決定処分は適法であり、本件各課税期間の消費税等の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上に基づき、本件各課税期間の消費税等の無申告加算税の額を計算すると、本件消費税等各賦課決定処分の額と同額となる。
 したがって、本件消費税等各賦課決定処分は適法である。

(10) 結論

よって、審査請求には、一部理由があるので、原処分の一部を取り消すこととする。

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