(平成30年5月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁から納税者Kの滞納国税に係る国税徴収法第35条《同族会社の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該納付告知処分は、同条第2項の規定に基づいて第二次納税義務の限度額を算定していないから違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨、同条第2項は、第二次納税義務者がその国税を同条第1項の納付の期限までに完納しないときは、国税局長は、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨それぞれ規定している。
  • ロ 徴収法第35条第1項は、滞納者がその者を判定の基礎となる株主又は社員として選定した場合に法人税法第2条《定義》第10号に規定する会社に該当する会社(以下「同族会社」という。)の株式又は出資を有する場合において、その株式又は出資を再度換価に付してもなお買受人がないこと(徴収法第35条第1項第1号)又はその株式若しくは出資の譲渡につき法律若しくは定款に制限があり、又は株券の発行がないため、これらを譲渡することにつき支障があること(同項第2号)の理由があり、かつ、その者の財産(当該株式又は出資を除く。)につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときは、その有する当該株式又は出資(当該滞納に係る国税の法定納期限の1年以上前に取得したものを除く。)の価額の限度において、当該同族会社は、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
     また、徴収法第35条第2項は、同条第1項の同族会社の株式又は出資の価額は、同法第32条第1項の納付通知書を発する時における当該同族会社の資産の総額から負債の総額を控除した額をその株式又は出資の数で除した額を基礎として計算した額による旨、同法第35条第3項は、同条第1項の同族会社であるかどうかの判定は、同法第32条第1項の納付通知書を発する時の現況による旨それぞれ規定している。
  • ハ 国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達。ただし、平成30年3月20日付徴徴6−1による改正前のものをいい、以下「徴収法基本通達」という。)第35条関係13《資産及び負債の額の計算》は、徴収法第35条第2項の「資産の総額」及び「負債の総額」の算定に当たっては、同法第32条第1項の規定による納付通知書を発する日における貸借対照表又は財産目録を参考として、その日における会社財産の適正な価額を計算する旨、上記の資産及び負債の総額の計算は、原則として納付通知書を発する日の現況によるが、特に徴収上支障がない限り、その日の直前の決算期(中間決算を含む。)の貸借対照表、財産目録又は法人税の決議書を参考として行っても差し支えない旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、平成25年9月○日に設立された、ナイトクラブ等の風俗営業等を営む法人であり、設立時からK(以下「本件納税者」という。)が代表取締役を務めている。
    • (ロ) 請求人は、法人設立時に株式2株を発行し、いずれも本件納税者に割り当てており、その後、平成29年3月29日までの間、請求人の発行済株式の総数及び所有者に変更はなく、同日において、徴収法第35条第1項に規定する同族会社である(以下、本件納税者の所有する請求人の株式を「本件株式」という。)。
    • (ハ) 請求人は、a市b町に所在する店舗(専有面積307.05平方メートル)を賃借してナイトクラブの営業を行っていたが、当該店舗の賃貸人の都合により店舗立ち退きの要請を受けたことから、平成28年2月に当該店舗を廃止するとともに、新たに別の店舗(専有面積205.28平方メートル)を賃借し、同月、新店舗において営業を再開した。
    • (ニ) 請求人は、M税務署長に対し、平成27年9月1日から平成28年8月31日までの事業年度の法人税等の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
       なお、当該確定申告書に添付された請求人の平成28年8月31日時点の貸借対照表(以下「本件貸借対照表」という。)に記載された資産及び負債の内訳は、それぞれ別表1「本件貸借対照表価額」欄のとおりである。
  • ロ 本件納税者に対する処分等について
    • (イ) 原処分庁は、平成22年1月12日以降、本件納税者の滞納国税について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、順次、M税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
    • (ロ) 原処分庁は、平成27年5月29日、本件納税者の滞納国税を徴収するため、徴収法第73条《電話加入権等の差押えの手続及び効力発生時期》第1項の規定に基づき、本件株式を差し押さえた。
    • (ハ) 原処分庁は、本件株式について、延べ2回(平成29年2月○日及び同年3月○日)公売に付したが、いずれも入札者がおらず、買受人がなかった。
    • (ニ) 平成29年3月29日現在の本件納税者の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)は、別表2記載のとおりであり、本件滞納国税のうち最も新しい法定納期限は平成22年11月30日である。
       また、本件納税者には、平成29年3月29日時点において、本件滞納国税の全額を納付するに足りる財産はなかった。
  • ハ 請求人に対する処分等について
    • (イ) 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、請求人が、徴収法第35条第1項の規定により、本件株式の価額の限度において本件滞納国税の第二次納税義務を負うとして、平成29年3月29日付で、請求人に対し、同法第32条第1項の規定に基づき、第二次納税義務者として納付すべき金額の限度額を○○○○円、納付の期限を同年5月1日とする納付通知書(以下「本件納付通知書」という。)により告知(以下「本件納付告知処分」という。)した。
       なお、原処分庁は、徴収法第35条第2項の規定に基づき本件株式の価額を算定するに当たり、本件貸借対照表に記載された資産合計の額を請求人の資産の総額、同貸借対照表に記載された負債合計の額を請求人の負債の総額とした。
    • (ロ) 請求人は、本件納付告知処分に不服があるとして、平成29年6月6日に審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法があるか否か(争点1)。
  • (2) 本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額はいくらか(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
イ 第二次納税義務者に対し納付告知処分を行うに当たっては、第二次納税義務者の証拠書類等を基に財産調査をした上で行うべきことが徴収法で規定されているところ(同法第35条第2項、同法第141条《質問及び検査》及び同法第142条《捜索の権限及び方法》)、原処分庁は、本件納付告知処分に当たって、請求人に対する財産調査及び意見聴取を一切行わなかった。 イ 請求人は、原処分庁が財産調査等の具体的行動を懈怠していたなどと主張するが、本件株式の価額の算定は、請求人の直前の決算期の貸借対照表等を参考として行うことが妨げられないのであり、何ら根拠なく行われたものではない。
ロ 徴収法基本通達第35条関係13は、徴収法第35条第2項の「資産の総額」及び「負債の総額」の算定について、納付通知書を発する日における貸借対照表又は財産目録を参考として、その日における会社財産の適正な価額を計算することを原則とする旨を定めている。その趣旨は、納付告知処分の直前の決算期の貸借対照表等を基に株式又は出資の価額を算定した場合、納付通知書を発した日において、請求人の事業が大幅に悪化していたり、事業内容及び経営形態が全く異なっていたりすることにより、第二次納税義務者の納付すべき金額が過大となるおそれもあることから、株式又は出資の価額を算定するに当たっては、同族会社の事業実態をよく見極めて慎重に行わなければならない旨を定めたものと解される。
 そうすると、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表を基に株式又は出資の価額を算定する方法が許されるのは、第二次納税義務者への意見聴取や調査等を行ったが会社財産の適正価額を計算することが困難な場合や、調査等を行っていては国税債権の確保が困難となるなどの緊急性がある場合など、例外的な場合に限られるものと解される。
 しかし、原処分庁は、請求人が財産隠匿等の不正行為を行ったなどの緊急の事情が認められないにもかかわらず、国税当局の便宜のみを優先して、安易に本件貸借対照表を用いて本件株式の価額を算定した。
ロ 徴収法基本通達第35条関係13は、徴収法第35条第2項の「資産の総額」及び「負債の総額」の計算に当たり、特に徴収上支障がない限り、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表等を参考として計算して差し支えないとしている。その趣旨は、法人税の申告書に添付された計算書類が、会社法で定められた計算及びその決算手続を経ているものであり、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表等であれば、納付通知書を発する日に近接するおおむね1年以内の会社の実態を示していることから、その貸借対照表等の金額と時価との差が著しく乖離することが明らかな財産がある場合や、直前の決算期以後に財務状況や経営成績に影響を及ぼす重大な事象が発生しているなどの特別な事情がない限り、直前の決算期の貸借対照表等を参考として資産及び負債の総額の計算をすることは、徴収法第35条第2項に規定する同族会社の株式価額の算定方法として合理的であるというものである。
 本件においては、上記のような特別な事情は見受けられないのであるから、本件貸借対照表を参考として本件株式の価額を算定することは妨げられない。
ハ したがって、本件納付告知処分は、徴収法に規定されている基本的な法的手順を遵守して行われたものとはいえず、本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法がある。 ハ したがって、本件株式の価額は、適正に算定されており、かつ、徴収法第32条第1項に規定する第二次納税義務の徴収手続に従って行われているから、本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法はない。

(2) 争点2(本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額はいくらか。)について

原処分庁 請求人
徴収法基本通達第35条関係13に定める計算方法については、法人税の申告書に添付された計算書類が、会社法で定められた計算及びその決算手続を経ているものであり、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表等であれば、納付通知書を発する日に近接するおおむね1年以内の会社の実態を示していることから、その貸借対照表等の金額と時価との差が著しく乖離することが明らかな財産がある場合や、直前の決算期以後に財務状況や経営成績に影響を及ぼす重大な事象が発生しているなどの特別な事情がない限り、直前の決算期の貸借対照表等を参考として資産及び負債の額の総額の計算をすることは、本件株式の価額の計算方法として合理的である。
 本件納付通知書を発する日の直前の決算期以後において、請求人には、上記のような特別な事情は見受けられない。
 したがって、本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額は、本件貸借対照表を参考として算定するのが相当であり、別表1「本件貸借対照表価額」欄の「資産合計」欄記載の額から「負債合計」欄記載の額を控除した○○○○円を、請求人の発行済株式総数(2株)で除した額に本件株式の数(2株)を乗じて計算した○○○○円となる。
仮に本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法が認められないとしても、本件納付通知書に記載された第二次納税義務の限度額のうち、適正に算出された本件株式の価額を超える部分については取り消されるべきである。
 請求人は、平成28年2月に店舗を移転したが、新店舗の1階は更衣室・待合室として使用しているため、店舗面積が移転前の100坪から30坪に縮小したことになり、これに伴い客席数も3分の1へと減少した。その結果、売上げが大幅に減少するなど、当該店舗移転を機に財務状況が悪化している。
 そして、かかる事業実態を反映した、本件納付通知書を発した日である平成29年3月29日現在における請求人の資産及び負債の額は、企業会計における決算手続の方法に準じて算出すると、請求人が審判所に提出した平成29年3月29日時点の合計残高試算表(以下「本件合計残高試算表」という。)のとおりであり、その内訳は別表1「請求人主張評価額」欄記載のとおりである。
 したがって、本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額は、別表1「請求人主張評価額」欄の「資産合計」欄記載の額から「負債合計」欄記載の額を控除した○○○○円を、請求人の発行済株式総数(2株)で除した額に本件株式の数(2株)を乗じて計算した○○○○円となる。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法があるか否か。)について

請求人は、第二次納税義務者に対し納付告知処分を行うに当たっては、第二次納税義務者の証拠書類等を基に財産調査をした上で行うべきことが徴収法に規定されており(同法第35条第2項、同法第141条及び同法第142条)、原処分庁は、本件納付告知処分に当たって、請求人に対する財産調査及び意見聴取を一切行わなかったのであるから、本件納付告知処分の手続には、取消事由となる違法がある旨主張する。
 しかしながら、徴収法上、第二次納税義務を負うべき者に対し財産調査又は意見聴取をした上で第二次納税義務の納付告知処分を行わなければならない旨の規定は設けられていないから、第二次納税義務を負うべき者に対する財産調査又は意見聴取の有無は、第二次納税義務の納付告知処分の取消事由とはなり得ない。
 なお、請求人が財産調査を行うべき根拠として主張する徴収法第35条第2項は、同条第1項の同族会社の株式又は出資の価額の算定方法を規定しているのであって、そもそも財産調査の規定ではなく、また、徴収法第141条は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、徴収職員は、滞納者等に対して質問し、又は滞納者等の財産に関する帳簿書類を検査することができる旨を、同法第142条は、滞納処分のために必要があるときは、徴収職員は、滞納者の物又は住居その他の場所につき、又は一定の場合には第三者の物又は住居その他の場所につき捜索をすることができる旨を、それぞれ規定しているにすぎず、これらに規定する徴収職員による質問及び検査並びに捜索は、第二次納税義務の納付告知処分において法定の手続要件とされているものではない。
 したがって、本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法はない。

(2) 争点2(本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額はいくらか。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 徴収法第35条第2項に規定する「当該会社の資産の総額から負債の総額を控除した額」とは、同族会社に対し納付通知書を発する時の客観的な時価を標準として計算された額と解するのが相当である。
       そして、徴収法第35条に規定する第二次納税義務は、同族会社の株式等に市場性がないため、当該株式等を有する滞納者の国税について、当該株式等の価額を限度として同族会社に補充的に履行責任を負わせる制度であることからすると、同条第2項に規定する同族会社の「資産」とは、納付通知書を発する時において現実に同族会社に帰属していると認められる金銭に見積もることができる具体的な経済的価値を認識できる全てのものをいい、同族会社の資産として計上されているが、具体的な経済的価値を有しているとはいい難いものを含まないと解され、また、同族会社の「負債」とは、納付通知書を発する時までに債務が成立し、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しているものをいい、その債務の発生が確実といえないようなものを含まないと解される。
    • (ロ) なお、徴収法第35条第2項に規定する「資産の総額」及び「負債の総額」の算定について、徴収法基本通達第35条関係13は、原則としては、納付通知書を発する日における貸借対照表又は財産目録を参考として、その日における会社財産の適正な価額を計算するとした上で、特に徴収上支障がない限り、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表、財産目録等を参考として行っても差し支えない旨定めている。この定めは、1貸借対照表や財産目録等が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、その財政状態と経営成績を適正に表した計算書類に基づいて作成される最も基本的かつ重要な証拠であって、通常は信用性を有するものであること、2一般に、第二次納税義務者である同族会社が、納付通知書を発する日に合わせて貸借対照表等を作成していることは考え難く、課税庁が、第二次納税義務を負う同族会社に対して納付通知書を発する都度、その時の当該同族会社の株式の時価評価を一から行うことは困難であることから、徴収事務の迅速な処理の要請をも踏まえ、納付通知書を発する日における同族会社の資産及び負債の金額が明確でない場合で、納付通知書を発する日とその日の直前の決算期末との間において、会社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす事象の生起がなく、当該決算期末から納付通知書を発する日までの間の資産及び負債について著しい増減がないため株式の評価額の計算に影響が少ないと認められる場合には、「特に徴収上支障がない」として、当該決算期末の貸借対照表や財産目録等を利用することを認める趣旨と解され、当審判所においても相当であると認められる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)における請求人の資産及び負債の金額は明らかでなかった。
    • (ロ) 請求人の平成26年9月1日から平成27年8月31日までの事業年度(以下「平成27年8月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)、平成28年8月期及び平成29年8月期における収益及び費用等の状況は、別表3記載のとおりであった。
    • (ハ) 本件合計残高試算表によれば、請求人の平成29年3月29日現在の資産及び負債の帳簿価額の内訳は、別表1「請求人主張評価額」欄記載のとおりである。
       なお、本件合計残高試算表は、審査請求に当たって、請求人の平成28年8月期の法人税等の確定申告書を作成した税務代理人である税理士が、請求人の平成28年9月1日から平成29年3月29日までの期間について、期末整理事項を含む仮決算の方法により作成したものである。
    • (ニ) 本件貸借対照表の各勘定科目のうち、「資産」については、本件納付通知書を発する時において現実に請求人に帰属していると認められる金銭に見積もることができる具体的な経済的価値を認識できるものか否か、また、「負債」については、本件納付通知書を発する時までに債務が成立し、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しているものか否かに基づき、本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)における客観的な時価を算定すると、評価額の見直しが必要な各科目は以下のとおりであり、その評価額は、別表1「審判所認定評価額」欄記載のとおりとなる。
      • A 現金・預金
         預金について、請求人から提示を受けた各預金通帳によれば、本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)の残高は合計5,617,698円であり、当該金額が預金の評価額となる。
         また、現金について、請求人から提出された総勘定元帳(以下「本件総勘定元帳」という。)によれば、現金の増減の主な内容は、現金売上げ、仕入代金やホステス報酬の支払などであるところ、これらの増減が日々記帳されており、その記載内容に不自然な点はないことから、現金の評価額は、本件総勘定元帳に記帳された本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)の残高である9,764,055円となる。
         以上によれば、請求人の現金・預金の評価額は、15,381,753円となる。
      • B 未収入金
         未収入金については、クレジットカード利用による売上げに係るものであるところ、本件総勘定元帳の記載内容に不自然な点はなく、クレジットカード会社からの回収が不可能又は著しく困難であるとは認められないことから、請求人の未収入金の評価額は、本件総勘定元帳に記帳された本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)の残高である1,871,258円となる。
      • C 有形固定資産
         有形固定資産については、売買実例価額等が明らかでないことから、その時価評価に当たっては、取得価額から償却費の額の合計額を控除した金額によって評価するのが相当である。
         工具器具備品については、本件総勘定元帳によれば、平成29年3月3日にパソコン(308,170円)を購入しているところ、本件総勘定元帳の記載内容に不自然な点はないことから、本件貸借対照表の金額(3,416,128円)に当該パソコンの金額を加算した金額(3,724,298円)が帳簿価額と認められる。
         また、減価償却累計額については、平成29年3月29日現在における減価償却に係る計算を行うと、5,292,348円となる。
         以上によれば、請求人の有形固定資産の評価額は15,074,716円となる。
      • D 敷金
         敷金については、本件総勘定元帳によれば、平成28年12月28日に賃貸借契約を締結した駐車場の敷金(70,000円)が計上されているところ、本件総勘定元帳の記載内容に不自然な点はないことから、本件貸借対照表の金額(2,285,500円)に当該駐車場の敷金の金額を加算した金額2,355,500円が請求人の敷金の評価額となる。
      • E 長期前払費用
         長期前払費用については、平成27年9月10日に取得した車両の分割払購入に係るクレジット手数料の契約上の支払期限未到来分であり、本件貸借対照表の金額(549,072円)から、平成29年3月までの7か月分の支払額(11,439円×7か月)を控除した金額468,999円が請求人の長期前払費用の評価額となる。
      • F 礼金
         礼金については、平成27年11月5日に締結された新店舗の賃貸借契約に基づいて支払った礼金(1,360,000円)の未償却残高であるところ、当該契約に係る契約書において「契約締結後は貸主に対し返還を求めることはできない」とされていることから、その評価額は零円となる。
      • G 未払金
         未払金については、本件総勘定元帳によれば、仕入れ、保険料、消耗品及びホステス・スタッフ報酬等の未払金であるところ、本件総勘定元帳の記載内容に不自然な点はない。しかしながら、本件総勘定元帳の金額9,380,590円には、平成29年3月30日及び同月31日分のホステス・スタッフ報酬の金額521,000円が含まれており、当該2日分の報酬額は平成29年3月29日現在において債務が成立していないと認められることから、これを控除した金額8,859,590円が請求人の未払金の評価額となる。
      • H 預り金
         預り金については、本件総勘定元帳によれば、ホステス・スタッフ、役員、税理士等の報酬に係る所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額並びに役員及び従業員の社会保険料の預り金であるところ、本件総勘定元帳の記載内容に不自然な点はないことから、請求人の預り金の評価額は、本件総勘定元帳に記帳された本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)の残高である○○○○円となる。
      • I 長期未払金
         長期未払金については、平成27年9月10日に取得した車両の分割払購入代金の未払金額であり、本件貸借対照表の金額(4,779,600円)から、平成29年3月までの7か月分の支払額(99,700円×7か月)を控除した金額である4,081,700円が請求人の長期未払金の評価額となる。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 上記ロ(イ)のとおり、本件納付通知書を発した日における請求人の資産及び負債の金額は明らかでなく、また、別表3のとおり、請求人には、平成29年8月期において、売上げの減少が生じている事実が認められるものの、その減少の程度は通常の経済活動を行う上で起こり得る範囲内のものであり、著しい減少があったとまではいえないことからすれば、請求人に、本件納付通知書を発した日の直前の決算期末から本件納付通知書を発した日(平成29年3月29日)までの間に後発的に財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす事象が発生した事実は認められず、当該決算期末から本件納付通知書を発した日までの間の請求人の資産及び負債について著しい増減があったとは認められないから、本件は、徴収法基本通達第35条関係13に定める「特に徴収上支障がない」場合に当たるといえる。
       したがって、本件納付通知書を発した日における請求人の株式の客観的な時価を算定するに当たっては、本件貸借対照表を参考として行うことができる。
    • (ロ) しかしながら、徴収法基本通達第35条関係13が、特に徴収上支障がない場合には、納付通知書を発する日の直前の決算期の貸借対照表等を参考にすることを認めることで、納付通知書を発した日の時価評価を簡便に行えるようにすることを企図する一方、飽くまで「参考」とすることができるにとどめているのは、徴収法第35条第2項の「当該会社の資産の総額から負債の総額を控除した額」は、同族会社に対し納付通知書を発する時の客観的な時価を標準として計算されるべきものであることを踏まえたものと解される。
       そうであるとすると、直前の決算期の貸借対照表等の各勘定科目の中に、納付通知書を発した日における金額が明らかとなっている資産又は負債が含まれている場合や、具体的な経済的価値を有しているとはいい難い資産や、その債務の発生が確実といえないような負債が含まれている場合には、貸借対照表等の金額に一定の修正を加えて、納付通知書を発した日における客観的な時価を算定する必要があり、本件においては、上記ロ(ニ)のとおり、本件納付通知書を発した日の現金・預金などの金額が明らかとなっている以上、一定の修正を加えて本件株式の客観的な時価を算定するのが相当である。
    • (ハ) そして、本件貸借対照表に記載された資産及び負債の金額に修正を加えて請求人の株式の価額を算定すると、別表1「審判所認定評価額」欄記載のとおり、本件納付通知書が発せられた平成29年3月29日時点における請求人の資産の総額は35,166,266円、負債の総額は○○○○円であり、資産の総額から負債の総額を控除した額は○○○○円となる。
       したがって、本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額は、○○○○円を請求人の発行済株式総数(2株)で除した額に本件株式の数(2株)を乗じて計算した○○○○円となる。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、請求人が本件貸借対照表の金額と時価との差が著しく乖離することが明らかな財産を有しておらず、また、本件納付通知書を発した日の直前の決算期である平成28年8月期以後において、請求人に財務状況や経営成績に影響を及ぼす重大な事象が発生しているなどの特別な事情は見受けられないのであるから、本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額は、本件貸借対照表を参考として算出した○○○○円である旨主張する。
     しかしながら、上記ハ(ロ)のとおり、本件貸借対照表の各勘定科目の中に本件納付通知書を発した日における金額が明らかとなっている資産及び負債並びに具体的な経済的価値を有しているとはいい難い資産があると認められる以上、本件貸借対照表の金額をそのまま本件株式の価額として用いるのは相当ではないと解されるから、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。

(3) 本件納付告知処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件納付告知処分の手続に取消事由となる違法はないと認められ、また、上記(2)ハのとおり、本件納付通知書を発した時点における本件株式の価額は○○○○円と認められるところ、本件納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを取り消すべき事由は見当たらない。
 したがって、本件納付告知処分は、納付すべき限度の額につき○○○○円を超える部分は違法となる。

(4) 結論

よって、原処分のうち納付すべき限度の額につき○○○○円を超える部分を取り消す。

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