(平成30年7月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、居住の用に供する家屋の取得が租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第5項に規定する特定取得に該当するとし、同条第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」といい、住宅借入金等特別控除の額を「住宅借入金等特別控除額」という。)を適用して平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該家屋の取得は特定取得に該当しないなどとして所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

関係法令は、別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語は、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人及び請求人の妻のBは、平成26年12月18日、E社○○営業部(以下「本件仲介業者」という。)の仲介を受けて、Fから、d市e町○−○所在のG○○号室(以下、同人が区分所有していた家屋(同号室)及びその敷地の持分を「本件住宅」という。)を53,000,000円で購入する旨の不動産売買契約を締結した(以下、当該契約に基づく本件住宅の取得を「本件取得」という。)。なお、本件取得について、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税はなく、上記代金額に消費税等は含まれていない。
  • ロ 請求人及びBは、平成26年12月18日、本件仲介業者に対し、本件取得のための仲介に係る手数料(以下「本件仲介手数料」という。)として、870,000円を支払った。なお、当該金額は、新消費税率(新消費税法第29条に規定する消費税の税率と地方税法第72条の83《地方消費税の税率》に規定する地方消費税の税率とを合算した8%のものをいう。以下同じ。)で計算した消費税額等64,444円を含む額である。
  • ハ 請求人及びBは、本件住宅について、平成27年1月30日、同日売買を原因とし、権利者を請求人及びB、その持分を各2分の1の共有とする旨の所有権移転登記を経由し、同年2月8日に居住の用に供し、その後同年12月31日まで引き続き居住の用に供していた。
  • ニ 請求人が、本件取得に要する資金に充てるため、H信託銀行から借り入れた26,500,000円(以下、当該借入金を「本件借入金」という。)について、当該信託銀行が平成28年1月4日付で発行した「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」には、本件借入金に係る平成27年12月31日現在の残高(以下「本件借入金残高」という。)は25,779,470円である旨及び同日における措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等の金額について証明する旨の記載がある。
  • ホ 請求人は、海外転居に伴い、平成28年10月3日、Bを請求人の所得税及び消費税の納税管理人と定めた「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を原処分庁に提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成28年2月26日、平成27年分の所得税等について、措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等特別控除の適用を受けるため、同条第25項所定の書類を添付し、本件取得は特定取得(同条第5項)に該当し、借入限度額は40,000,000円(同条第3項第2号)であるとして、別表の「確定申告」欄の「住宅借入金等特別控除の額」欄のとおり、本件借入金残高25,779,470円(上記(3)のニ)に控除率1パーセント(同条第4項第2号)を乗じて計算した257,700円(同条第2項)を住宅借入金等特別控除額とする確定申告書を原処分庁に提出し、確定申告をした。
  • ロ 原処分庁は、平成29年2月28日付で、本件取得は特定取得に該当せず、本件取得に係る借入限度額は20,000,000円であり(措置法第41条第3項第5号)、住宅借入金等特別控除額は当該借入限度額20,000,000円に控除率1パーセントを乗じて計算した200,000円であるなどとして、別表の「更正処分等」欄の「住宅借入金等特別控除の額」欄及び「生命保険料控除の額」欄のとおりとする所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
     なお、本件更正処分及び本件賦課決定処分に係る各通知書は、平成29年3月8日、請求人に対し送達された。
  • ハ 請求人は、平成29年6月5日、本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年9月20日付で、棄却の決定をした。
  • ニ 請求人は、平成29年10月19日、再調査決定を経た後の原処分の一部に不服があるとして、審査請求をした。

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2 争点

本件取得が、措置法第41条第5項に規定する特定取得に該当するか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次の(1)ないし(4)のことから、本件仲介手数料は住宅借入金等特別控除の適用となる「対価の額」又は「費用の額」には含まれず、本件取得が措置法第41条第5項に規定する特定取得に該当しないことは明らかである。
  • (1) 措置法第41条第5項に規定する「住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額」は、飽くまでも住宅借入金等特別控除の対象となる「対価の額」又は「費用の額」のみを対象とするものである。
  • (2) そこで、住宅借入金等特別控除に係る法令の各規定についてみてみると、住宅借入金等特別控除の規定において「対価の額」と規定されているものは、1新築、2居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得又は3既存住宅の取得の対価の額を示すものであり、また、「費用の額」と規定されているものは、増改築等又は耐震改修に係る工事等に要した費用の額を示すものと解される。
  • (3) 家屋の取得に際して支払った仲介手数料は、既存住宅の取得の対価には含まれず、増改築等又は耐震改修に係る工事等に要した費用の額にも含まれない。
  • (4) そして、既存住宅の取得である本件取得は消費税等の課されない個人間の売買であり、本件取得の対価の額には新消費税率による消費税額等に相当する額が含まれていないから、本件取得は、特定取得に該当しない。
次の(1)ないし(5)のことから、本件仲介手数料は措置法第41条第5項に規定する住宅の取得等に係る「費用の額」に含まれるので、本件取得は同項に規定する特定取得に該当する。
  • (1) 措置法上には他にも無数の「費用の額」の記載があり、それらは「…に要した費用の額」と記載されている。これに対して措置法第41条第5項に規定する「住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額」については定義がなく、特定取得における「費用の額」は限定されたものではない。そもそも「費用」とは税法上の定義ではなく、借用概念であり、限定されたものではない。
  • (2) 措置法第41条第13項は、増改築等の定義を規定しているだけで、「費用の額」を規定していない。
  • (3) 平成25年度の「税制改正の解説」及び武田昌輔監修「DHCコンメンタール所得税法」における特定取得の規定についての解説には、措置法第41条第5項に規定する「費用の額」に仲介手数料を含まない旨の記載はない。
  • (4) 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》において、取得費には「別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額」が含まれるものとされているところ、仲介手数料が取得に当たり直接要する費用であることは、宅地建物取引業者が関わる取引の実情からも明らかである。
  • (5) そして、請求人は既存住宅として本件住宅を取得し、本件取得に係る費用である本件仲介手数料には新消費税率による消費税額等が含まれるから、本件取得は、特定取得に該当する。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

住宅借入金等特別控除の制度は、住宅の取得等の対価又は費用に充てるために借入金等の負担をした者について、その税額を控除することによって、住宅の取得等を促進し、もって、良質な住宅ストックの形成を図るべく設けられた政策的減税制度であり、居住用家屋の新築の工事の請負代金又は取得の対価に係る借入金等を負担する者が対象であった従来の住宅取得促進税制の適用範囲が、昭和63年法律第4号による措置法第41条の改正により、増改築等の費用に充てるための借入金等を負担する者にも拡大されたものである。上記改正による措置法第41条の変遷をみるに、同改正前の措置法第41条には「費用」という文言が使われていなかったが、同改正後の措置法第41条には、その第2項において、当該制度の対象となる増改築等とは「当該工事に要した費用の額が2,000,000円を超えるもの」などの要件を満たすものである旨規定し、「費用」という文言が用いられた。
 そして、平成26年4月1日からの消費税率の引上げに際し、取引価額が高額であって、消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きくなる住宅の取得等について、一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討し、その結果に基づき速やかに必要な措置を講じなければならないとされ(税制抜本改革法第7条第1号チ参照)、上記検討結果に基づく具体的な措置として、平成25年法律第5号による改正により、措置法第41条第3項において、特定取得の場合には住宅借入金等特別控除額に係る借入限度額を増額することにより最大控除額を増額し、税負担を軽減する旨、同条第5項において、特定取得を、住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等の合計額に相当する額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額である場合の住宅の取得等とする旨が規定された。特定取得に関する規定が設けられた上記経緯からすると、特定取得として税負担の軽減の対象となる住宅の取得等は、消費税率の引上げに伴う税負担の増加による影響が大きく、その影響を平準化ないし緩和する必要があるものが想定されているというべきである。
 以上のとおり、住宅借入金等特別控除の制度を規定する措置法第41条は、同制度の対象を増改築等の費用に充てるための借入金等を負担する者にも拡大する改正(昭和63年法律第4号による改正)の際に初めて、「費用」という文言を、同制度の対象となる増改築等について規定する同条第2項の中で用いたこと、特定取得として税負担の軽減の対象となる住宅の取得等は、税負担の増加による影響が大きく、その影響を平準化ないし緩和する必要があるものが想定されていることが認められる。そうすると、特定取得とは、1居住用家屋の新築若しくは既存住宅の取得に係る対価の額又は2増改築等に係る費用の額に含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額である場合における住宅の取得等であると解するのが相当である。これを言い換えると、特定取得とは、既存住宅の取得の場合には、当該既存住宅の取得に係る対価の額に含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額である場合における当該既存住宅の取得をいうものであり、当該既存住宅の取得に係る費用の額に含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額であるか否かは、当該既存住宅の取得が特定取得か否かの判断に影響しないものと解すべきである。

(2) 検討

上記(1)を踏まえて検討すると、請求人は、上記1の(3)のイのとおり、個人間の売買により既存住宅である本件住宅を消費税額等の負担なく取得しているから、本件取得は、本件住宅の取得に係る対価の額に含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額である場合に当たらず、特定取得に該当しない。そして、本件仲介手数料は、上記1の(3)のロのとおり、既存住宅の取得に係る費用であると認められるから、それに含まれる消費税額等の合計額が、新消費税率により課されるべき消費税額等の合計額に相当する額であること(同ロ)は、本件取得が特定取得に該当しないという上記認定を左右しない。
 したがって、本件取得は、措置法第41条第5項に規定する特定取得に該当しない。

(3) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、措置法第41条第5項に規定する「住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額」については定義がなく、同条第13項は、増改築等の定義を規定しているだけで「費用の額」を規定しておらず、特定取得における「費用の額」は限定されたものではなく、税制改正の解説書においても同条第5項に規定する「費用の額」に仲介手数料を含まない旨の記載はないから、本件仲介手数料は同項の「費用の額」に含まれ、本件取得は特定取得に該当する旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のとおり、措置法第41条第5項に規定する「住宅の取得等に係る対価の額又は費用の額」とは、1居住用家屋の新築若しくは既存住宅の取得に係る対価の額又は2増改築等に係る費用の額をいうと解するべきであって、請求人の主張は採用できない。
  • ロ また、請求人は、所得税法第38条の規定によれば、仲介手数料が資産の取得に当たり直接要した費用であることは明らかであり、既存住宅の取得の費用の額に新消費税率による消費税額等に相当する額が含まれている場合、当該既存住宅の取得は特定取得に該当するとし、本件住宅の取得の費用である本件仲介手数料には新消費税率による消費税額等が含まれるから、本件取得は特定取得に該当する旨主張する。
     しかしながら、所得税法第38条の規定は、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に係る規定であり、請求人の主張はその前提を欠き採用することができない。

(4) 本件更正処分の適法性について

以上のとおり、本件取得は特定取得に該当しないから、請求人の平成27年分の所得税等に係る住宅借入金等特別控除額の計算上、措置法第41条第2項に規定する借入限度額は20,000,000円となる。そして、これに基づき算出した請求人の平成27年分の所得税等に係る住宅借入金等特別控除額及び納付すべき税額は、別表の「更正処分等」欄の「住宅借入金等特別控除の額」欄及び「所得税等の納付すべき税額」欄のとおりとなり、当審判所においても、平成27年分の請求人の所得税等の納付すべき税額は、本件更正処分における請求人の所得税等の納付すべき税額と同額であると認められる。
 なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、平成27年分の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても平成27年分の過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、いずれも棄却することとする。

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